勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    習近平氏は、今秋の共産党大会で国家主席3選を目指している。そのためには、強い国民の支持が必要である。台湾問題は、中国共産党にとって是が非でも解決しなければならない喫緊の課題だ。降って湧いたように、米下院議長ペロシ氏が台湾を訪問した。習氏は、この機会を利用して台湾封鎖演習を行い、「強い習近平」を見せつけている。

     

    現在、中国が行なっている「台湾封鎖演習」には、こういうニュアンスが臭う。壊れそうな中国経済の実態を知る者には、習氏の行動が何とも不可解に映るのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月9日付)は、「不動産という虎に乗る習氏、落ちれば影響甚大」と題する寄稿を掲載した。筆者のデービッド・アッシャー、トーマス・J・デュスターバーグ両氏は、米ハドソン研究所の上級研究員である。

     

    新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)や住宅購入者の反乱で、中国の不動産市場が混乱する中、習近平国家主席は「虎に乗る」――権力を維持しながら、今の地位に自身を押し上げた無謀な政策にしがみつく――ことを試みている。だが中国人民銀行(中央銀行)の関係者が同国の不動産バブルについて語ったように、虎に乗ることの問題点は、もし落ちれば虎に食われることだ。習氏がその餌食となる可能性はどれくらいあるのか。

     

    (1)「中国経済の逆風は、すでに低迷していた不動産セクターから影響を受けている。中国の不動産開発会社は負債依存の経営手法をとり、借入金の相当の部分がドル建てだ。ドル高と金利高騰により、中国の開発会社は記録的なペースで債務不履行(デフォルト)に陥っている。上位100社のうち、28社が過去1年間に債務の一部が不履行となった。過剰な借入れと投機的な事業運営で知られる中国恒大集団から始まった危機は、良好な経営状態で知られる同業大手にも波及している。中国は新興国市場で最大のドル建て債務を抱えており、不動産開発会社は債務の借り換えができない。同国の不動産業界が内側から崩壊すれば、より大きな危機を引き起こす可能性がある。すでに新興国市場インデックスファンドは、中国の社債や株式の保有を減らしている」

     


    不動産開発上位100社のうち、28社が過去1年間に債務の一部が不履行に陥る危機的状況だ。ドル建て債務が多く、ドル高と金利高騰に直撃されている。中国当局が、かつてドル債発行を奨励したことが裏目に出た形だ。下線部のような時限爆弾を抱えている。

     

    (2)「ロックダウンは、多くの都市の不動産価格を低迷させ、不動産転売を手がける巨大な産業に痛手を与えた。中国都市部の不動産価格は過去25年間上昇基調にあったが、ロックダウンや過剰な建設、新型コロナウイルスによる景気減速で、それが反転した。ロックダウンが耐え難くなり、多くの中国人が都心から逃げ出すようになると、売り手が買い手を大幅に上回る。その影響が及んだ人々(国内外の不動産投資家や中国の抵当権者)の多くは中国政府の救済を期待したが、政府は今のところ実質的な救済策を講じていない。人民銀も急激な価格下落を埋め合わせるほどの住宅ローン金利引き下げには応じていない」

     

    不動産開発は、中国GDPの25~30%も寄与する。習氏の執心するゼロコロナ政策が、住宅市場を不振に追込んでいる。今、政府が打つべき手は住宅市場へのテコ入れだが、空振りに終わっている。

     


    (3)「不動産開発会社の財務悪化は建設の遅れにつながり、住宅ローン返済を拒否する人が続出している。
    中国の集合住宅の約85%は「事前販売」の形で購入され、入居前に住宅ローン返済が始まるのが一般的だ。事前販売で資金を得る開発プロジェクトでは、不動産会社が支払い不能に陥り、工事の中断や中止に追い込まれている。購入者が支払いを拒否している大規模プロジェクトは300余りに上り、事前販売による約3500億ドル(約47兆2700億円)の債務が危うい状況にある」

     

    住宅販売の85%が、「青田売り」という危険な手法だ。日本もこれで不動産開発を膨張させ、最後は致命傷になった。中国も同じ道を歩んでいる。それだけに、事前販売の約3500億ドルが不良債権になると、中国経済は危機へ直面する。

     

    (4)「中国の5つの省が、短期的な住宅ローンの停止や不動産開発会社の救済策を検討している。だが危機の影響で、その支援能力が抑えられている。地方政府は歴史的に収入の約5割を土地使用権の売却に頼ってきたが、そうした収入源は今年に入って31%減少。大半の省が財政赤字に陥っている。さらに地方政府は、中央政府が承認した2022年の債券発行枠の92%以上を使い果たし、救済に乗り出す能力には限りがある。中央政府がこれ以上支援する可能性は低い。政府は各省で何とかすべき問題だと述べている」

     

    地方政府は、「青田売り」による住宅危機を救済する力を失っている。土地販売収入が、すでに前年比4割も減少しているからだ。私の指摘する「土地本位性」が崩壊したのである。

     


    (5)「習氏の頭の中では、汚職撲滅と資本主義の封じ込めを同一視しているようだ。習氏のイデオロギーは、中国経済の奇跡のモデルそのものを危険にさらしている。習氏は恐らく、テクノ資本主義の封じ込めや、金融業界の行き過ぎと投機への対策、不動産バブルの沈静化を、労働者階級と共産党支持者に向けた「共同富裕」政策を確実に推進する手段と見なしているのだろう」

     

    習氏は、市場経済システムに大きな偏見を持っている。汚職撲滅=資本主義封じ込めと同一視している。中国のガンは汚職多発だ。汚職撲滅には、市場経済の完全履行によって最大効果を上げるのだが、習氏はそれを誤解している。習氏の限界がここにある。

     

    (6)「習氏の政策は、中国の経済成長にとってあまりに破滅的なため、多くの中国人は、習氏の目標は経済よりむしろ地政学的にあるのではないかと考えている。台湾奪取の試みに先立ち、制裁を見越して国を強化しているのではないかと。だが、経済の「虎」に振り落とされずにまたがっていなければ、習氏はその目標を達成できない」

     

    このパラグラフは重要である。習氏は、台湾奪取を急いでいるので住宅救済の重要性を見落としている。習氏が、経済の「虎」(不動産バブル)に振り落とされる危険性が迫っているのだ。

     


    (7)「もし状況が一段と悲惨になれば、習氏が最高指導部内で政敵らと対峙する事態も起こりうる。だが、この危険は同氏ひとりのものではない。中国経済の混乱は世界的な債務危機を引き起こす可能性があり、そうなれば、習氏は政治的リスクがあることを承知で、台湾に対して行動に出るかもしれない。世界の金融市場や中央銀行、そして民主主義の指導者たちは波乱に身構えるべきだ」

     

    中国の経済破綻が濃厚になれば、党内の対立も頂点に達する。習氏は、台湾奪取へ手を打つリスクが高まる。それは、世界経済の危機を招くであろう、としている。

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    中国が今秋の党大会前に、台湾侵攻するとの情報がロシア機密文書から漏れ、SNSで拡散されて話題になった。習氏が、党大会前に台湾侵攻を実現し、それをテコに国家主席3選を確実にするというもの。

     

    中国が台湾侵攻しても、短期間に勝利できる保証はどこにもないのだ。敗北リスクの高い現状で、そのような危険な賭に出るのか、はなはだ疑問の多い情報である。ただ、チェックの必要性はあるので俎上に上げてみる。

     


    『中央日報』(3月18日付)は、「習近平主席、今年秋に台湾武力侵攻 ロシア機密報告書がSNSに」と題する記事を掲載した。

     

    台湾を武力で掌握することを考慮したと、台湾メディアがロシア情報機関の連邦保安局(FSB)報告書を引用して16日(現地時間)報じた。台湾自由時報、CNEWSなどによると、ロシアの人権運動家オセチキン氏は最近、フェイスブックに公開したFSBの機密報告書を引用し、このように明らかにした。

     

    (1)「FSBの機密報告書は、中国の習近平国家主席が今年秋に第20回党大会を開催する前、台湾を武力で侵攻するという内容だ。また、習主席が第20回党大会前に台湾を収復し、党大会で自身の主席3期目を順調に確定するという内容もあった。ただ、こうした計画はロシアのウクライナ侵攻で支障が生じ、中国が台湾を武力掌握する可能性は低いという。文書の真偽に関連し、ロシアの安保専門家クリスト・グロゼフ氏がFSB元・現職員2人に見せた結果、「文書は疑う余地なくFSBの同僚が作成した」という返答を受けた」

     


    中国が、台湾だけと戦う前提であれば、「短期戦」という仮定をするかも知れない、だが、「クアッド」や「AUKUS」という台湾防衛組織が出来上がっている現在、中国の思惑通りに短期戦で済むはずがない。中国敗北の場合、習氏は責任をとって国家主席辞任もありうる。これほどリスキーな戦争を手軽に始める筈がない。

     

    (2)「台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、「該当文書の真偽は確認できない」と明らかにした。しかし中国の台湾攻撃の有無とは関係なく、台湾は常にどこでも防御を準備する必要があると強調した。FSBの報告書が伝えられると、中国国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は「国家の主権と領土を守るという決意に変わりはない」とし、「『台湾独立』分裂勢力が挑発と圧力、さらにレッドラインを越えれば、やむを得ず措置を取らなければならない」と述べた」

     


    台湾は常時、中国警戒姿勢を続けなければならない。今回の、ウクライナ戦争で台湾の愛国心は一段と燃え上がっている。ウクライナが、あれだけの抵抗戦を続けている以上、台湾も不屈の戦いをしなければ世界中の笑い者になるのだ。

     

    (3)「台湾の邱国正国防長官(国防相)は昨年10月上旬、台湾立法院(国会)に出席し、自身が軍人になって以降40年間で今が最も重大な時期だと評価した。邱長官は「中国はすでに台湾を侵攻する力量を持っているが、相当な費用を支払うことになるはず」とし「2025年になれば中国が支払う費用が減り、全面的に台湾を侵攻する力を備えることになる」という見方を示した」

     

    中国による2025年台湾侵攻説が、よく唱えられている。次期台湾総統選が行なわれるのは2024年。現政権の後継も民進党であれば、中国が戦争を仕掛けるという仮定である。中国が勝利できるかどうかで、習氏の運命が決まる際どい戦争である。

     

    中国軍が、戦略上からみて台湾侵攻に賭けるだろうか。日本の軍事専門家は、次のように見ている。

     

    『毎日新聞』(3月17日付)は、「ウクライナ侵攻は台湾有事に連動しない」と題する記事を掲載した。筆者は、軍事アナリストの小川和久氏である。

     

    中国軍が台湾に侵攻し、占領するためには、台湾軍の兵力の3倍、およそ100万人規模の陸軍部隊を投入する必要がある。これは第二次世界大戦末期の連合国軍によるノルマンディー上陸作戦に匹敵する規模である。

     


    (4)「しかし、中国本土と台湾の間には幅130キロの台湾海峡がある。ここで100万人規模の陸軍部隊が渡洋上陸作戦を行うには、3000万トンから5000万トンの船腹量が必要となる。船積みの計算の基本は世界共通で、人間1人は4容積トン、重さ40トンの戦車を90容積トンほどで計算するからだ。船舶保有量6200万トンの中国は、経済活動をすべて停止しなければ海上輸送能力を捻出することはできない。さらに、上陸作戦が可能な海岸線の問題がある。3000人規模の機械化部隊の上陸には、岩礁などがない幅2キロの海岸線が必要とされる。その上陸適地は台湾本島の海岸線約1200キロのうち10%しかない」

     

    中国軍は、台湾軍の3倍である100万の大軍を台湾へ輸送しなければならない。これに必要な船舶は、6200万トンにも上がる。民間船まで動員しなければ不可能である。だが、台湾海峡で潜水艦攻撃を受けるから、まともに台湾へ上陸可能な兵員は半分以下となろう。台湾上陸地点は台湾の海岸線の1割程度。そこへ台湾軍が待ち伏せ攻撃すれば、ほぼ殲滅の危険性が高まる。つまり、中国軍の台湾侵攻は、「言うは易く行なうは難し」なのだ。

     


    (5)「ここに、対艦戦闘能力を突出させた台湾の海空軍と、台湾を自国の国益に位置づける米国の来援という条件が加わる。中国側は、戦闘機を中心とする作戦用航空機の数こそ台湾側を圧倒しているが、可動率や航空作戦に不可欠な早期警戒管制機、空中給油機と電子戦など、能力の点で難がある。特に米軍の支援があった場合、中国側は航空優勢(制空権)を握ることはできない。日本の専門家が口にすることはないが、ハイテク化されるほどに重要性を増していくデータ中継衛星をはじめとする軍事インフラでも、中国は米国に20年の差をつけられている」

     

    メディアでは、中台保有の航空機数の比較を行なっている。だが、航空作戦に不可欠な早期警戒管制機、空中給油機と電子戦など、総合能力の点で中国に難がある。中国が、台湾の制空権を握れる可能性は低くい。中国軍が、制空権を握れないで台湾へ上陸すれば、「蜂の巣」にされるだけである。負け戦になるのだ。

     


    (6)「このような条件を前に、台湾侵攻の作戦を立案する中国軍の軍人はいない。筆者との突っ込んだ議論でも、中国軍側は「台湾が独立を宣言すれば、侵攻作戦が失敗することがわかっていても武力を行使する。そのときは日本も無事ではいられない。だから、日本としても台湾独立を煽(あお)らないようにしてほしい」と、台湾侵攻能力がないことを率直に認めている」

     

    中国には、率直に言って台湾侵攻能力がない。習氏は、口では勇ましいことを発言するが、その実力は備わっていないのが現実である。

     

     

     

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