習近平氏は、国内経済の大混乱の上に、目前の台湾総統選を抱えている。台湾有権者をいかに中国へ引き寄せ、野党の国民党候補に勝利させるかだ。だが、台湾世論の8割は「現状維持」である。中台統一を望んでいないのだ。習氏の意図を実現させるには、伝統の「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を駆使する以外に道がない。どう出るか。
『日本経済新聞 メール版』(12月4日付)は、「習氏は対台湾『三戦』をどう戦うか、その脅威と限界」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中国総局長桃井裕理記者である。
中国共産党は、香港の選挙を成功としていますが、本当の勝負は来年1月13日に迫った台湾総統選です。民進党政権の継続は悪夢であり、国民党候補が勝つようあらゆる工作を展開するのは間違いありません。
(1)「中国にとって悩ましいのは、もし国民党候補が勝ったとしても本質的な問題解決への展望が見えない点です。台湾の世論調査によると、8割超が当面を含む「現状維持」を望んでいます。国民党も民衆党も対中融和姿勢はとっていますが「中台統一」は打ち出していません。一方、習氏の目標は「統一」であり、2049年の「新中国建国100年」の節目は台湾同胞とともに「中華民族の偉大な復興」を祝うとも明言しています。逆算すれば、習氏の治政期間中、台湾世論が「現状維持」から一歩も動かぬ状況は習氏の敗北を意味します」
台湾は、民主主義政治のメリットを満喫している。それを捨てて、共産主義を受入れるとは考えられないこと。ましてや、台湾の一人当たり名目GDPは、中国の2倍である。国民意識ははるかに高いはず。習氏が、大いなる錯覚をしているのだ。
(2)「習氏は、どんな闘争を展開するのでしょうか。基本的には中国共産党のお家芸「三戦(世論戦、心理戦、法律戦)」が戦略の基礎となります。世論戦と心理戦はいわゆる「アメとムチ」、主にアメは経済、ムチは軍事的圧力です。中国共産党は9月、福建省を「両岸融合モデル地区」として台湾の経済やインフラとの融合を図る計画を発表しました。「アメ」政策の一環ではありますが「福建に住む台湾の人々が福建の『法治建設』にかかわるのを認める」などの点からみれば、外形的な統一の既成事実化を進める法律戦でもあります。
中国共産党の「三戦」で台湾を懐柔しても無駄であろう。中国の手口は、香港奪取で証明済みである。同じ手を、二度は使えないのだ。
(3)「この「三戦」が、いかに大規模に展開されようとも、具体的成果を出すのは難しいと感じています。習政権の「アメとムチ」が、直面する課題を3つに分類してみました。まず中国と台湾の経済構造の変化があります。台湾の統計によると、台湾から中国本土への毎年の投資は大幅に減少しています。かつて中国本土は台湾の対外投資先のトップでしたが、2023年は米国向けが圧倒的に多く、中国本土は他のアジア国向けも下回っています。背景にあるのは、地政学的リスクだけではありません。中国のコスト上昇により台湾企業は生産拠点を他国へ移し始めているのです。中国の巨大市場の魅力は変わりませんが、中国本土の経済価値は以前より減じています」
台湾は、中国の経済制裁を通して本心を見抜いている。輸出や対外投資では、「脱中国」へ踏み切り広く世界へ目を向け成果を上げている。中国の認識は甘いのだ。
(4)「中国自身が、自分の「アメ」をたたき割っている面もあります。中国はパインやマンゴーの禁輸や観光客の絞り込みなど数々の経済制裁を民進党政権に課してきました。何度も制裁を受けているうちに人々が、「最初からそのアメにはむやみに食いつかないようにしよう」と考えるのは当然の流れです。人が大きな変化へと足を踏み出す際、行く先には一抹でも希望があることが必要です。中国が、これまで台湾に示してきた未来図は「一国二制度」でした。「祖国に戻れる」「不安定な立場から抜け出せる」「当面は慣れ親しんだ民主主義社会で生きていける」など、少なくとも一抹の希望はあるビジョンでした。しかし、中国は香港で「一国二制度」の幻想を打ち砕いてしまいました」
中国は、香港への一国二制度を自ら破棄した。この制度を、台湾へ持ち込んでも信用されるはずがない。賞味期限切れである。
(5)「新たなコンセプトである「融合」に、希望はあるでしょうか。香港は長らく「世界の金融センター」として重要な機能を果たしてきただけに、本土化が進んでもその存在感はすぐにはなくなりません。一方、台湾の価値は「自由な空気が生み出す企業や人々のバイタリティー」という無形資産にあったと考えます。中国と「融合」すれば、あっという間に「台湾省」というただの中国の一地方になりかねません。そもそも「三戦」は、孫氏の兵法を地で行く中国共産党のしたたかさの代表例と認識されていました。「戦わずして勝つ」が、その真髄です」
中国と台湾の「融合」など、台湾が無原則に飲み込まれるだけだ。台湾が、自らの自由と民主主義を捨てるメリットはゼロである。
(6)「最近は、「中国は本当にその能力があるのか」との疑問を抱かざるを得ません。味方も敵に変えてしまう「戦狼外交」や、人々の警戒しか招かない強引な拡大戦略――。西側陣営はすっかり中国脅威論と封じ込め戦略に傾いてしまいました。完全に中国のオウンゴールです。アフリカや中東など「グローバルサウス」の中には今でも中国を支持する国も多いようですが、経済支援が主要な理由であり、財政難で中国のカネの流れが止まれば「縁の切れ目」となる恐れは十分にあります」
中国の経済力低下は、中国の相対的な地位を引下げている。中国経済のピークは過ぎており、神通力は消えつつある。



