米国は、ロシアやサウジアラビアなどが11月から1日200万バレルの大規模な原油減産に合意したことを受け、「サウジがロシアと手を握った」と強く批判する声が上がっている。米国が自国の原油輸出の制限だけでなく、サウジなどに訴訟を起こすことができる「原油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案」のカードまで出す可能性があると報じられている。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月7日付)は、「OPEC減産『米国で勢い増す報復論』解体も視野に」と題する記事を掲載した。
石油輸出国機構(OPEC)内外の主要産油国で構成する「OPECプラス」が大幅減産を決定したことに対し、米国が反撃に出る構えをみせている。米議会では、OPEC主導の石油カルテル解体や世界貿易機関(WTO)への提訴に加え、加盟国の米国資産凍結も視野に入れた法律制定を目指す機運が高まっている。
(1)「エネ価格高騰を懸念するバイデン米大統領は今夏、OPEC最大の産油国であるサウジアラビアを訪れた。2018年の反政府派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害事件などを受けて悪化した両国関係を改善する狙いがあった。ところが、バイデン氏はサウジ側から増産の確約を得られなかった。サウジ当局者は市場のバランス取るために必要なことを行うという姿勢を貫いており、今回の大幅減産についても石油需要が減退するとの予測に基づいたものだと説明している」
今夏、バイデン氏はサウジを訪問して、原油増産を申入れたが増産の確約を得られなかった。その挙げ句が、今回の大幅減産の決定だ。米国の怒りが伝わってくる。
(2)「(原油価格引き下げのために)バイデン政権関係者は戦略石油備蓄の追加放出を含め、大幅減産に対応していくと指摘。さらに「エネルギー価格に対するOPECの支配力を引き下げるための追加手段や権限を巡り、議会と協議していく」と言明した。エドワード・J・マーキー上院議員(民主、マサチューセッツ州)は、「OPEC説明責任法」と呼ばれる法案を再提出すると明らかにした。法案では、米大統領に対して、OPEC加盟国やパートナーに働きかけ、石油生産や価格に関する協力を廃止するよう交渉することを義務づける内容だ。交渉しても減産を緩和できなければ、米通商代表部(USTR)はWTOでの紛争解決手続きに着手するよう求められる」
米国では、OPECの市場支配力を打ち破るために、「OPEC説明責任法」の再提案が始まっている。OPECが、交渉しても減産を緩和できなければ、USTRはWTO(世界貿易機関)での紛争解決手続きに着手するよう求めるものだ。
(3)「トム・マリノフスキ氏(ニュージャージー州)を中心とする民主党下院議員3人は、サウジとアラブ首長国連邦(UAE)から米軍兵士と防衛システムの撤収を義務づける法案を提案している。マリノフスキ氏らは、「バイデン氏による(増産の)申し入れにもかかわらず、サウジ・UAE両国が大幅減産に踏み切ったことは、米国に対する敵対的な行為で、ウクライナでの戦争でロシアの側につくことを選んだ明確なシグナルだ」と指摘。「今回の決定は、米国と湾岸諸国のパートナーとの関係において転換点となる」と主張した」
サウジとUAEの両国は、米軍兵士と防衛システムによって守られている。それにも関わらず、米国の要請を断わりロシアの要求に従ったのは、利敵行為という受取り方をしている。
(4)「アナリストやロビイストの間でさらに影響が大きいと指摘されているのが、「石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案」だ。米司法省が反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反でOPEC加盟国を提訴することを認める内容で、20年余り議論されているが、可決に至ったことはない。米国の法律では現在、主権国家について、相手側の政府の同意がない限り、提訴することはできない。だが、NOPECでは、独占行為の禁止を定めるシャーマン法に基づき、司法省が米国の裁判所でOPEC加盟国を価格操作で提訴することが可能になる。さらにその結果生じた損害の賠償原資に充てる目的で、米国内に所有する資産を凍結することが認められている」。
NOPEC法案は、米司法省が反トラスト法(独占禁止法)違反でOPEC加盟国を提訴することを認める強烈な内容だ。調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのアナリストは顧客向けノートで、米国がこうした権限を行使すれば原油市場へ劇的な介入となると指摘する。介入に踏み切る兆候をみせれば、「OPECプラスは戦略を見直し、『市場の均衡化』という役割を放棄する恐れがある。そうなれば、原油暴落を招き、世界の余剰生産能力が枯渇しかねない」というのだ。
(5)「(OPECでは、NOPEC法案に反対している)とはいえ、国内の政治事情がバイデン氏の背中を押すかもしれない。バイデン氏は目下、インフレを抑制するよう圧力を受けている。ガソリン価格は夏場にほぼ一貫して下がってきたが、足元では上昇基調に転じており、バイデン氏にとっては中間選挙を控え、厄介な状況に陥っている。米当局者は、ディーゼルやガソリンの輸出禁止措置もあり得るが、近く導入されることはないとの見方を示している。バイデン政権はここまで極端な措置に踏み切る前に、価格が再び跳ね上がるか、見極める考えのようだ」
NOPEC法案が、実際に米議会で審議されるようになれば、世界の原油市場は大混乱に陥る。ロシアが裏でOPECを操作できる余地は消えて、ロシア経済自体が破綻する。ロシアにとっても正念場になろう。OPECを存続させたければ、米国の意向も参酌すべしという妥協論が出るだろう。原油カルテルのOPECは、存続を賭けた方向にある。