OPECプラスの加盟国が4月2日、日量約116万バレルの自主的な追加減産を5月から年末まで実施すると発表した。減産幅は世界需要の1%に当たる量で、価格を引き上げ、産油国の財政を下支えする狙いだ。米国の消費者物価もようやく頭打ちの状況になってきたが、今回の原油減産は物価上昇をもたらす恐れが強い。夏には、1バレル100ドル説も聞こえる。現在は81ドル強だ。
『ロイター』(4月3日付)は、「サウジ追加減産、予想外とは言えない『力業』の理由」と題する記事を掲載した。
サウジアラビアがまた波紋を広げる行動に出た。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟有力産油国でつくる「OPECプラス」の事実上のリーダーであるサウジなどが追加減産を発表したため、原油価格が3日に高騰したのだ。もっともOPECが置かれた今の立場の強さを踏まえれば、こうした「力業」は予想外というよりは、理にかなっていると言える。
(1)「サウジのムハンマド皇太子が打ち出したこの追加減産が、注目を集めたのは間違いない。世界の供給量の4割を握るOPECプラスが昨年10月、日量200万バレルの協調減産を決めたのは正式な手続きを経た動きだったが、今回の措置はあくまで一部加盟国による「自主的な」減産だからだ。国際エネルギー機関(IEA)など多くの国際予測機関は、中国の需要回復を想定して年内に石油市場の需給が引き締まると見込んでいる。つまりどちらにしても、こうした要因が原油価格を押し上げる可能性はある」
OPECが、減産で原油価格引き上げを目指している。サウジは、金融不安で減った自国の原油収入回復を目指している模様だ。
(2)「一方、サウジは中東地域の安全保障の主な担い手として米国をずっと頼りにしてきた関係で、通常は米国のガソリン値上がりにつながるような軽率な動きは決してしない。ところがムハンマド皇太子には、バイデン政権に「反旗を翻す」だけの経済的な理由が存在する。シリコンバレー銀行の破綻やクレディ・スイスの経営危機を受け、原油価格は3月に一時15%下がって1バレル=73ドルに沈んだ。これはサウジ産原油の採算ラインに近い水準だけに、同国にとって好ましくない。さらに重要なのは、「ゼロコロナ」政策を解除した中国の需要回復が原油価格を上昇させるはずだとしても、どの程度値上がりするのかは不透明という事実だ。「欧米と異なり、中国の原油消費は旅行ではなく工業が主導する面が強く、工業の業況はまだ十分に上向いていない」
サウジには、サウジの言い分がある。米国の金融不安で原油価格が値下がりしたことだ。一時は、1バレル=73ドル近辺まで下落して、サウジの採算点ギリギリの線に接近したという。この「損失分」を自主減産で取り戻そうという狙いである。
(3)「もしも、サウジが市場シェア喪失、ないし政治的な騒動を生み出すリスクを恐れていたとすれば、追加減産を自重したかもしれない。だがロシアの西側向け原油輸出減少や、米国の新規シェール開発投資が比較的乏しい点から、OPECの価格決定力は高まった。だからムハンマド皇太子は、サウジの市場シェアに大きな打撃を与えずに減産に踏み切れるという喜ばしい状況に身を置いている」
今回の自主減産分116万バレルのうち、50万バレルはサウジの減産である。これだけ減産しても、サウジは市場シェアを失う恐れがないとされる。協調が効いているという自信なのだろう。
(4)「中国の需要が急増し始め、金融システム不安も後退すれば、原油価格は本格的な上昇局面に入ってもおかしくない。ライスタッド・エナジーは、夏までに価格が1バレル=100ドルを突破する可能性があるとみている。そうなれば物価全般を押し上げ、中央銀行当局者が原油価格は現在の85ドル前後を維持すると見込んでいる西側では政策金利が一段と高くなりかねない。しかし、ムハンマド皇太子は既に昨年夏、原油価格の問題でバイデン大統領を悩ますことができると証明し、接近しつつある。今こそ彼が影響力を存分に行使できる時だ」
中国の需要が急増し始め、金融システム不安も後退すれば、原油価格は本格的な上昇局面に入ってもおかしくない、としている。これは、かなり甘い見通しであろう。世界的なインフレが収まっていない段階で、原油価格を引き上げれば、金融引き締めを継続させる要因になるのだ。それは、世界不況を長期化させて、中国の原油需要を増やさせないであろう。となると、1バレル=100ドル説は怪しくなる。