勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: フィリピン経済ニュース時評

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    フィリピンは、南シナ海の自国所有の島嶼を中国軍に占領されており、防衛面で米国と積極的に協力する姿勢を見せている。ドゥテルテ前大統領時代は、米国と摩擦を起していたが、マルコス新大統領になって対米姿勢が一変した。

     

    『ニューズウィーク』(11月22日付)は、「南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意」と題する記事を掲載した。

     

    中国は南シナ海で、いわゆる「九段線」内の全ての島や礁、砂堆の領有権を主張している。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は2016年、この九段線には法的根拠がなく無効だと認定した。フィリピンと中国が争ったこの裁判の判決を受けて、アメリカをはじめとする複数の国がフィリピンへの支持を表明したが、中国は判決を全面的に拒否した。

     

    (1)「フィリピンと中国の間では、2012年に中国海軍がフィリピンからスカボロー礁の実効支配を強引に奪って以降、何度も小競り合いが起きている。スカボロー礁における中国の不当行為は、これを受けてフィリピンが国際仲裁裁判所に中国を提訴し、大きな注目を集めた(この結果「九段線」は法的根拠なしとの認定が下された)。昨年11月には、フィリピンが実効支配しているセカンド・トーマス礁に向かう補給線を中国海警局の船舶が妨害する問題も発生した。中国は、フィリピンでサモラと呼ばれるスービ(中国名:渚碧)礁を含むスプラトリー(南沙)諸島の3つの礁を完全に軍事化している」

     

    フィリピンは、日本とも防衛面で積極的な交流を始めている。日本・フィリピン外交・防衛「2プラス2」会合も始めた。フィリピン軍と自衛隊の合同演習が可能になるよう、ACSA(物品役務相互提供協定)と円滑化協定(地位協定)も検討段階に入っている。これが実現すると、日本とフィリピンは「準同盟国」並みの親密さを保つことになる。

     

    (2)「こうしたなか、ハリス米副大統領が20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた」

     

    フィリピンは、「アメリカを含まないフィリピンの未来はない」とまで、米国への関係強化に前向きである。日頃、中国の横暴な行動に耐えてきているだけに、中国へ一矢報いたい気持ちが強いのであろう。

     

    (3)「この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意」と指摘する」

     

    中国軍は、米軍がフィリピンから撤退した後に、南シナ海を占拠した経緯がある。フィリピンはこれによって、島嶼を中国軍に奪われる結果となった。米比相互防衛条約(1951年)がありながら中国の侵略を許したのは、米国との関係が円滑でなかった結果である。フィリピンは、大きな痛手を被ったのだ。

     


    (4)「
    ある米高官は20日、ハリスは演説で「主権や領土の一体性、航行の自由」をはじめとする原則に言及するだろうと述べた。ハリスはまた、気候変動や違法・無報告・無規制漁業の影響についても述べる見通しだ。ハリスの今回の訪問では、貿易やサイバーセキュリティをはじめとする数多くの分野で二国間協力の強化が期待されている。フィリピンにおける米軍の活動拠点拡大についても前向きだ」

     

    米国もフィリピンとの関係強化はメリットがある。中国の台湾侵攻の際に、フィリピン基地を利用できるからだ。中国にとっては嫌な事態だ。

     

    (6)「アメリカ軍は現在、フィリピン国内の5つの拠点が使用可能だ。フィリピン軍のバルトロメ・バカロ参謀総長は先週、アメリカがパラワン島を含めてさらに5カ所を増やすことを提案してきたと述べていた。米ホワイトハウスの概要報告書によれば、ハリスは既存の5つの拠点について、軍事インフラや備蓄施設などの新設・改修プロジェクト(計21件)に8200万ドルを投じる予定。同報告書は、これにより「アメリカとフィリピンが恒久的な安全保障インフラを築いて長期的な近代化を推し進め、信頼できる相互防衛態勢を構築し、人道支援および災害救助能力を維持し、同盟を強化する」ことができるとしている」 

     

    米軍が、フィリピンで最大10カ所の基地利用が可能になれば、南シナ海一帯での中国軍の動きを監視できる。また、台湾有事の際はフィリピン基地を利用した作戦も可能になる。

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    中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「反対」意向を示さず、半ば支持する形を取っている。これは、中国がアジアで同様の「侵略戦争」を始める意志があることを言外に示しているのだ。こういう警戒感が、フィリピンでも顕著になっている。

     

    フィリピンは、自国領有の島嶼を中国に奪われている。このため、常設仲裁裁判所へ提訴し、勝訴した経緯がある。中国は、この判決に従わず不法占拠を続けている。フィリピンが将来、中国の軍事行動を警戒するのは当然である。日米と安保関係強化に動いている理由だ。

     

    中国の習国家主席はこれをけん制すべく、4月8日にフィリピンのドゥテルテ大統領とオンライン会談を行なった。その際に習氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘した。これは、フィリピンによる日米への接近を批判したものだ。

     


    一方で、習氏はフィリピンへ「アメ」も見せている。「フィリピンからより多くの優良製品を輸入しよう」と提案した。フィリピンにとって中国(香港含む)は、世界最大の輸出先だ。フィリピンでは電子部品や農産品などの輸入拡大への期待が高い。

     

    中国は、これまでフィリピンに対して「戦略的協力関係」を謳いながら、すべて空手形であった。こうして、フィリピンは中国への信頼度が極めて低い。その点、日本と強い信頼関係で結ばれている。4月9日、初めての日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)を開催した。日本外務省は、次のように会合結果を発表した。要約のみを掲載する。

     

    (1)「ウクライナ情勢について、日本側から、ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反かつ国際秩序の根幹を揺るがす行為であることを指摘しました。その上で、四大臣は、両国間で、今般の侵略が明白な国際法違反であり、国際秩序の根幹を揺るがす行為であること、武力行使の即時停止及びウクライナからの即時撤退を求めること、法の支配やウクライナの主権・領土の一体性の尊重、力による一方的な現状変更への反対といった点で、両国で連携して対応していくことを確認しました」

     

    ウクライナ侵攻について、日本とフィリピン両国が明確な国際法違反と認識した点は重要である。これは、両国が米同盟国として同じ歩調で歩むことを認め合ったことでもある。

     

    (2)「東シナ海・南シナ海情勢については、四大臣の間で深刻な懸念を共有し、比中仲裁判断や国連海洋法条約を始めとする国際法の遵守を確保していくことで一致しました」

     

    南シナ海における中国の不法占拠問題に付いて、中国が常設仲裁裁判所の決定に従うことを要求することで両国が一致した。尖閣諸島問題でも日本の領有権にフィリピンが賛成したのであろう。

     


    (3)「四大臣は、自衛隊とフィリピン国軍の間の訓練等の強化・円滑化のため、相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にするための枠組みの検討を開始することで一致しました。今後、円滑化協定や物品役務相互提供協定の締結の可能性も含め、検討を進めていきます」

     

    この項目は、非常に重要である。自衛隊は、すでに米軍や豪州軍と相互訪問や物品・役務の相互提供を円滑にする協定を結んだ。フィリピン軍とも同様の協定を結ぶべく協議をするというもの。これらの協定を結ぶと、相互に相手国を特別の手続きをすることなく訪問したり、弾薬やサービスの相互利用が可能になる。軍隊は別々であるが、相互に融通が可能になるという意味では、軍隊の「兄弟化」である。極めて密接な関係が成立する。

     


    (4)「四大臣は、国連安保理改革や核軍縮・不拡散体制の維持・強化に向けた連携で一致しました。フィリピン側から、日本の安保理常任理事国入りへの支持が改めて表明されました」

     

    フィリピンは、日本の安保常任理事国入りを支持するとしている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、先の日本の国会での演説で国連改革と日本の安保常任理事国入りを支持すると発言している。ロシアのような安保常任理事国が、他国を侵略するという乱れた時代だけに、国連改革は必要である。

     

    今回の日比「外務・防衛閣僚会合」(2+2会合)は、アジアの安全保障体制がゆっくりと民主主義国の団結に向かって動いていることを示唆している。日本は、米国・豪州と密接な関係を築いているが、ここにフィリピンを加えることで、四ヶ国は、「同じ釜の飯」を食う関係になった。

     

    『日本経済新聞』(4月9日付)は、「米『中国が同盟ネットワークを懸念』、習氏発言を念頭に」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省のカービー報道官は、8日の記者会見で「中国が我々の同盟やパートナーシップのネットワークを懸念していることは明白だ」と強調した。中国の習近平国家主席がフィリピンのドゥテルテ大統領に米国との軍事同盟を強化しないよう促したことを念頭に置いた発言だ。

     

    (5)「カービー氏は、「米国はインド太平洋地域に戦略的利点を持っており、それは同盟やパートナーシップだ。中国にはそのようなものは何もない」と言明した。中国国営中央テレビ(CCTV)によると習氏は8日、ドゥテルテ氏と電話協議し、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「地域の安全が軍事同盟の強化によって実現できないことを改めて証明している」と指摘していた。バイデン米政権は、南シナ海の実効支配を強める中国に対抗するため日本の役割拡大に期待している」

     


    中国と敢えて対決する必要はない。ただ、習近平氏が2035年をメドに、世界覇権を握ると豪語することは、プーチン氏の「ロシア帝国復活」目標と同様に、極めて軍事的に危険な目標である。フィリピンは、これまで「反米・親中」ポーズを見せてきた。だが、ウクライナ侵攻の現実を見るに及んで、ついに親米へ決断した。中国へ接近していたのでは、「第二のウクライナ」にされてしまう危機感が揺り動かしたのであろう。
     

     

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