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ロシアのプーチン氏には、まことに皮肉な話が持ち上がっている。ロシアは、ウクライナをNATOに加盟させないために始めた侵略戦争が、中立国フィンランドをNATO加盟へ勢いづかせているのだ。フィンランドがNATO加盟を希望すれば、隣国スウェーデンも加盟したいと同じ動きを始めた。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(4月15日付)は、「フィンランドのNATO加盟はプーチンに大打撃ーウクライナ侵略も無駄骨に」と題する記事を掲載した。

 

ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部へ大攻勢を準備するなか、停戦交渉の落としどころはウクライナの「フィンランド化」、言い換えれば「強いられた中立化」になる可能性がある。西側の戦略家はこう見てきたのだ。

 

(1)「そのフィンランドが中立国の立場を捨てて、西側の軍事同盟に加わる動きを見せ、プーチン大統領に手痛い失点をくらわそうとしている。フィンランドのサンナ・マリン首相は4月13日、スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相との共同記者会見で、冷戦終結後一貫して維持してきた中立政策を転換し、NATOに加盟申請をするかどうかを「数カ月ではなく数週間」で決めると明言した。同じ日にNATO加盟の見通しを詳述した新たな防衛白書がフィンランド議会に提出され、同国のアンティ・カイッコネン国防相は首都ヘルシンキで行なった記者会見で、フィンランド軍は既に「NATO軍との相互運用の基準を完全に満たしている」と述べた。スウェーデン政府もフィンランドと共同歩調を取り、NATO加盟を早急に検討すると発表した」

 

フィンランドは、過去のロシア(ソ連時代を含め)との苦い経験から逃れたい。そういう強い意志を見せている。「中立」というフィンランドの立場を、今のロシアは一顧だにしないだろうと恐れているのだ。兄弟国ウクライナを侵略するロシアを見て、身震いした結果である。

 


(2)「NATO加盟には現在の加盟国30カ国の全会一致の承認が必要なため、申請が受理されるには最長で1年程度かかる。それでも伝統的に防衛協力を2国間に限定してきたフィンランドとスウェーデンがそろってNATOの集団安全保障体制に入れば、地域全体のパワーバランスが一気に激変するのは確実だ。ロシアのウクライナ侵攻から2カ月近く、プーチンの暴挙は止められないとの見方が広がりつつある。プーチンは今週、ウクライナを力ずくで屈服させる決意を見せた」

 

プーチン氏の野望は、もはや止めようがなくなっている。ウクライナへの野望を、最後まで貫徹すると力んでいるからだ。

 


(3)「ウクライナ侵攻を正当化するためにプーチンが力説する「NATOの脅威」が、軍事力と地政学上で急拡大しようとしている。トルコがNATOの勢力圏の南を、バルト諸国がロシアとNATOの東の境界線の中央を守り、さらにフィンランドとスウェーデンが北を固めるとなると、プーチンとその取り巻きが警戒し続けてきた「西側のロシア包囲網」が完成することになる。「フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟すれば、北欧の安全保障環境が根本的に変わるのは確実だ」と、米シンクタンク・戦略国際問題研究所のショーン・モナハンは断言する」

 

ユーラシア大陸は、ぐるりとNATO軍に取り囲まれる形になってきた。ロシアが、周辺国を威嚇すればするほど、「敵=NATO加盟国」を増やすという悪循環である。プーチン氏は、このことに気づくべきである。

 


プーチン氏は子ども時代、「不良少年」であった。喧嘩三昧の日々を送っていたが、柔道と出会いその荒れた生活が止まった。この伝で言えば、今のプーチン氏は不良そのものの振る舞いである。周辺と争い喧嘩をするのでなく、話合いの中に安全保障環境をつくるべきだ。「ロシア帝国復活」という夢を見ても、実現は不可能である。

 

(4)「過去1世紀フィンランドに中立を保つよう圧力をかけ続けてきたロシアにとって、これ以上に壊滅的なダメージはまず考えられないと、専門家は言う。あるとしたら、目下プーチンが必死で避けようとしているウクライナにおける全面的な敗北だけだろう。フィンランドがNATOに加盟すれば、「ウクライナのNATO加盟とNATOの拡大政策を止めることを口実に」ウクライナ侵攻に踏み切ったプーチンに「正義の鉄槌」が下った格好になると、モナハンは言う」

 

「不良」のロシアが、ウクライナに「NATO」に入るなと暴力を振るっているうちに、フィンランド(そしてスウェーデンも)がNATOへ逃げ込もうという構図である。ロシアに鉄槌が下った形だ。

 

(5)「かつて米政府の北朝鮮担当特使を務め、現在はシンクタンク・ランド研究所に所属するジェームズ・ドビンズは、「プーチンはさらに追い詰められる」と見る。「たとえウクライナの中立化に成功しても、フィンランドを失えば、大した成果を挙げられなかったことになる。ウクライナ、フィンランドの両方を失ったら、下手な侵攻作戦で事態をこじらせ、国境の向こうにNATOの圧倒的な兵力が展開するという悪夢のシナリオを招いた責任を問われかねない」

 

プーチン氏は、ウクライナを中立化できたとしても、北欧二国がNATOへ加盟すれば、結果的に「負け」である。プーチン氏を取り巻く政治環境は、悪化の一方である。こういう「イタチごっこ」を止めて冷静になることだ。

 


(6)「フィンランドがNATOに加盟した場合、「ノルウェー方式」を選ぶ可能性もある。ノルウェーはNATOの創設メンバーだが、外国の軍の駐留を認めず、NATOの軍事演習にも制限を課すことで、ロシアを刺激しないようにしてきた。それでも近年では、NATOの防衛措置に、これまでよりもずっと積極的に参加するようになっている。フィンランドのある当局者(匿名)は、フォーリン・ポリシー誌に対して、「ノルウェー方式」が検討されていると語った。第2次世界大戦中にソ連の侵略を受けながらも独立を守り抜くなど、ロシア撃退の長い歴史を持つフィンランドは、徴兵制を採用するなど、防衛力の強化に力を入れてきた」

 

フィンランドがNATOへ加盟すれば、「ノルウェー方式」が参考になる。外国の軍隊の駐留を認めないという方式の採用である。ロシアとの間に、何らかの妥協策が探られることになろう。プーチン氏は、「ロシア帝国復活」に酔っている。その可能性は、今回の経済制裁で100%削がれた。自ら、「自滅」という大穴に飛び込んだ形だ。