a0960_004876_m
   

トルコが、ロシアに対してウクライナとの和平交渉へ真剣に立ち向かうように圧力をかけている。具体的には、ロシ軍用機によるトルコの空域通過を禁止したもの。ロシア軍機は、シリアに向かう際、どうしてもトルコ空域を通過しなければならない。トルコは、その弱点を突いて、ロシアに対してウクライナとの和平交渉に真剣に取り組むように促す目的である。

 

英『フィナンシャル・タイムズ』(4月24日付)によれば、プーチン大統領は黒海艦隊旗艦『モスクワ』が撃沈されたことから、ウクライナとの和平交渉を放棄したと、されている。トルコは、こういう情報に危機感を持って和平交渉を促していると見られる。

 

トルコ政府は24日、エルドアン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が電話会談したと発表した。エルドアン氏はウクライナ情勢を憂慮するとともに、停戦交渉を支援するとの意向をゼレンスキー氏に伝えた。ロシアのウクライナ侵攻では、両国と良好な関係にあるトルコが交渉を仲介。3月末にはトルコ・イスタンブールで停戦交渉が行われたが、その後、ウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多数の民間人虐殺が見つかるなどし、交渉への機運がしぼんでいる。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(4月24日付)は、「ロシア軍機の通過拒むトルコ、ウクライナと和平迫る」と題する記事を掲載した。

 

トルコがシリアへ向かうロシア軍によるトルコ空域の使用を禁止した。トルコ政府がロシアとウクライナの和平交渉を復活させようとするなか、プーチン大統領への圧力を強めるのが狙いだ。

 


(1)「トルコのチャブシオール外相は、ロシアの軍用機は今後、シリアへ向かう途中でトルコを経由できないと述べた。ロシア政府はシリアでアサド政権を支える重要な役割を担ってきた。トルコ国営放送によると、チャブシオール氏は訪問先のウルグアイで記者団に「ロシアの軍用機だけでなく軍人をシリアへ運ぶ民間機に対してもトルコ領空を閉鎖した」と語った。トルコはウクライナでの戦争が始まった直後に黒海から地中海へ向かう外国軍艦の通航を制限しており、今回の空路封鎖はロシアにとってシリア国内での後方支援をさらに複雑にするとアナリストらは語る」

 

トルコが、ロシア軍機の空域通過を拒否したので、シリア支援に支障を来たす。ロシアにとっては困った事態だ。ロシアが、「利用可能な空路補給ルート」は、今やイラン、イラク経由だけになったと指摘されている。

 


(2)「トルコは、ロシア発着の商用機について今後も領空通過を認め、自国経済にとってのロシア人観光客の重要性を踏まえてロシア機に対する領空閉鎖で欧州連合(EU)に追随することを拒んだ。チャブシオール氏は、トルコのエルドアン大統領がプーチン氏に閉鎖の決定を伝え、両首脳は対話を継続していると語った。この問題に詳しい人物3人によると、ウクライナでロシアの新たな攻撃が始まって以来、トルコ政府はシリア入りするロシア軍による空域使用の許可を徐々に縮小してきた。だが、完全に領空を閉鎖し、それを公表する決定は重大な対応強化となる」

 

トルコのエルドアン大統領は、なかなかの「曲者」である。大国を手玉にとって外交を行なうという大胆さを見せている。プーチン氏を「手なずける」戦術であるが、どうなるか。プーチン氏は、何らかの回答を迫られている。

 


(3)「
米フィラデルフィアにある外交政策研究所で中東部門を率いるアーロン・スタイン氏は、米国やその他の国が、トルコに対しシリアを支援するロシア政府への影響力を行使し、プーチン氏に対する圧力を強めるよう要請してきたと話す。「トルコ政府が話に乗るまで多少時間がかかったが、ほぼ2カ月でトルコ政府はウクライナ問題を巡ってロシア政府にシリアに絡めて圧力をかける新たな措置を講じた」と同氏は語った」

 

このトルコによるロシアへの圧力は、米国などの諸国が依頼していたものという。

 

(4)「プーチン氏が、第2次世界大戦以来最大の軍事攻撃に乗り出して以来、トルコは微妙な綱渡りを演じようとしてきた。大半の欧州諸国は戦争が始まった後すぐにロシア機に対して自国領空を閉鎖したが、トルコはむしろ仲介役になろうとした。また、トルコは欧米諸国の制裁に加わることには抵抗したものの、ウクライナ軍に武装ドローン(小型無人機)を供給している」

 

トルコは、何かにつけてウクライナ側に立っている。ウクライナでの戦争が始まった直後に、黒海から地中海へ向かう外国軍艦の通航を制限した。ロシア軍艦もこの通航制限によって制約を受けている。ウクライナ軍に武装ドローンも供給している。この武装ドローン製造企業(民間)は、エルドアン大統領の女婿とされている。ロシアは、トルコに武装ドローンの供給停止を求めたが、「民間企業の活動に関与しない」との理由で拒否している。

 


(5)「トルコが、いくつかの広い地域を実質的に支配し、大規模な軍事プレゼンスを持つシリアに関してロシアに圧力をかける政府の決定は、エルドアン氏とプーチン氏の複雑な関係を浮き彫りにする。両首脳は近年、親密な個人的関係を築いたが、シリアやリビア、カフカス地域の係争地ナゴルノカラバフの戦場では繰り返し、互いに対立する側に立ってきた。トルコ政府はウクライナとロシアの和平交渉を仲介しようとした。両国の交渉担当者は3月、4月とトルコでハイレベル会合を2度開いたが、ロシア部隊がウクライナの民間人に残虐行為を働いたとされたことで交渉は進まなかった」

 

トルコが、ロシアへシリア関連で圧力をかけたのは「和平交渉にもっと真剣に臨むよう」ロシアに強いる狙いだと指摘しされている。これが、ロシアへの圧力となって和平交渉は始まるであろうか。