歴史は繰り返すとされるが、日英同盟(1902~23年)解消から100年、再び日英は「準同盟」の関係を結ぶ。日英同盟は、旧ロシアの軍事的進出に対抗するものであった。今回の「準同盟」は、中ロの膨張政策を抑止すべく日英伊の三カ国が次世代戦闘機の共同開発で合意したことだ。戦闘機では約40年間、日英が共同歩調を取ることになるので、「準同盟」とされる理由だ。
『日本経済新聞 電子版』(7月25日付)は、「日英安保で接近、40年先へ準同盟 次期戦闘機で『結婚』」と題する記事を掲載した。
「短い恋愛ではなく結婚する。40年のプログラムで後戻りはできない」。ウォレス英国防相は3月の来日時にこう語った。
(1)「2022年12月にイタリアを含む3カ国で次期戦闘機を共同開発すると合意した。日本は同盟国の米国以外と初めて戦闘機をつくる。英国とは次期戦闘機の共同開発で、40年先まで続く結束を打ち出す。日英首相は23年1月に自衛隊と英軍が共同訓練しやすくする円滑化協定にも署名した。日本と欧州の安全保障での協調が目立つ。岸田文雄首相は7月、日本の首相として初参加だった22年に引き続いて北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。「日NATO協力を新時代の挑戦に対応し、新たな高みに引き上げる」。首相は12日にNATO首脳会議やストルテンベルグNATO事務総長との会談を終え、こう強調した」
従来、アジアと欧州は遠い関係にあった。それが、ロシアのウクライナ侵攻と中国のロシア支持が、アジアと欧州の距離を縮めている。英国はEUを離脱して、TPP(環太平洋経済連携協定)へ正式加盟するという環境変化もあり、日英が「準同盟」へ進む条件が熟した。英国は、中国から香港に関する「一国二制度」の協定を破棄されたこともあり、中国へは格別の警戒心を向けている。その点でも、日英が共同歩調とる理由になった。
(2)「日欧接近の象徴が日英伊による次期戦闘機となる。24年までに基本設計を固めて35年の配備を目指す。そこから30年ほどは主力戦闘機として使う。あわせて40年先を見据える。各国の投資額も今後10年で計250億ポンド(およそ4兆5000億円)規模に達する見込みだ。途中で物別れするわけにはいかない。地理的に離れた日欧が安保で連携するのは武力による一方的な現状変更をウクライナ侵攻で眼前にしたためだ。首相は「欧州とインド太平洋の安保は不可分だ」と唱え、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化へ日欧協力を急いだ」
次世代戦闘機の共同開発は、戦闘機の補修や部品の供給もあるので長期の協力関係が前提になる。100年前の日英同盟は、米国が執拗に英国へ終了を迫った背景がある。米国が、日本の軍事的プレゼンスを警戒した結果だ。そのときすでに米国は、日本との開戦を前提に準備をしていた。
(3)「防衛省幹部は、「日英には一時代をともにする覚悟が双方にある」と語る。第1次世界大戦の開戦から第2次世界大戦の終結までが30年程度、第2次世界大戦終結から冷戦終結までが40年超だった。最重要装備を通じた40年先を見据えた協力は切っても切れない「準同盟」を意味する。岸田首相は21年10月の就任後、最初の外国訪問先に英国を選んだ。戦後最長の連続在任期間だった外相時代に最も気が合ったというジョンソン氏が当時英首相だった。個人的な信頼関係をテコに日英を経済だけでなく安保でも欠かせない関係に育てた」
日英は、ともに皇室(王室)制度を擁していることや、日本の政治制度は英国を模範としたこともあり親近感が強い。
(4)「英国にとっても欧州連合(EU)離脱後に「グローバル・ブリテン」を掲げてインド太平洋地域への関与を強める流れに沿っていた。5月に広島市で会談した岸田首相とスナク英首相は広島アコードを出し「我々は傑出して緊密なパートナーだ」とうたった。ロシアと対峙する米欧の軍事同盟のNATOとの間ではサイバー分野などでの新たな協力計画を策定した。この後にEUとの定期首脳協議も開き、安保に関する外相級戦略対話の創設を決めた。軍事力を増強する中国の抑止のために日本は欧州各国とも距離を詰める」
日本は、中国への抑止力を強めるためにも英国を初めNATOとの関係強化が必要になっている。共同防衛構想は、防衛が経済的に「安上がり」で済む手段である。NATOは結成以来、一度も戦闘行為に巻き込まれていないことが、それを証明している。