英国で4日に投開票された総選挙は、労働党が6割を超える議席(412)を獲得して圧勝した。保守党から14年ぶりに政権を奪還した。労働党のスターマー党首が5日に新首相に就き、閣僚を任命して
新内閣が発足した。保守党は190年の歴史で最少の議席数(121)に終わった。欧州連合(EU)離脱が助長した生活費高騰などで国民から見放された形だ。
保守党の不人気から、早くから労働党優勢が取り沙汰されてきた。労働党政権になれば、財政立直しの一環で富裕層増税が必至とみられてきた。このため、富裕層は早くから移民する準備をしてきた。こうした予想が的中した形である。
『ロイター』(7月5日付)は、「英労働党、大勝がもたらす力と落とし穴 問われる経済立て直し」と題するコラムを掲載した。
圧倒的勝利には大きな責任が伴う。英国で4日に投開票された総選挙(下院、定数650)は、出口調査でスターマー党首率いる野党労働党が410議席を獲得する勢いで、政権交代が実現する見通しとなった。
(1)「労働党の議席は他党の合計を170議席上回る見込みで、新首相に就くスターマー氏は英経済立て直しへ速やかに動ける。だが、英国が自ら課す財政ルールや党の選挙公約を踏まえると、対応には時間がかかる見通しで、富裕層増税が必要になる可能性もある。投資家は混乱に満ちた14年間の保守党政権後の新たな政局安定を歓迎するだろう。しかし、ここからが正念場だ。新政権は英経済の成長を取り戻す必要がある」
労働党は,下院議席の6割を占めるという圧倒的多数を握った。政権の安定度は抜群となるが、英国経済の立直しが求められている。
(2)「国際通貨基金(IMF)によると、今年の英国内総生産(GDP)成長率見通しはわずか0.5%と、2020年の新型コロナ流行前10年間の年平均(2%)を大きく下回る。スターマー氏は最近のインタビューで年2.5%の成長について語っている。問題は、同氏と財務相に就く見通しのレイチェル・リーブス氏には経済活性化に十分な資金がないことだ。労働党は有権者や市場の不安を回避するため、公的債務がGDPに占める割合を5年間で低下させるという財政ルールの順守を誓った。英予算責任局によると、これは2028~29年までに追加公共支出を90億ポンド以下に抑えることを意味する。労働党は所得や企業に対する主要な税を増やさないことなども公約している」
スターマー氏は、年2.5%成長を目標にするが、肝心の財源が不足している。財政ルールの順守を公約している以上、残るは富裕層増税である。
(3)「他党に対する議席数での優位を踏まえれば、スターマー、リーブス両氏は理論上、これらの公約を破棄することもできるが、実際には当面そうした可能性は低い。英投資家は22年9─10月のトラス政権による財源の裏付けのない財政拡張で金融市場が混乱した経験に今も取りつかれている。次期政権の最初の優先課題はおそらく、スナク政権が残した公共支出の不足を埋めることだろう。財政問題研究所(IFS)によると、その額は年間200億ポンドに達する可能性がある」
スナク前政権が残した公共投資不足は、年間200億ポンドに達する。この資金調達が課題である。
(4)「新首相は速やかに歳入を確保する必要がある。富への課税は選択肢になる。キャピタルゲイン税や相続税など富裕税が現在もたらす税収は年間400億ポンドにとどまり、5800億ポンドを超える所得税収を大きく下回る。IFSの計算ツールによると、キャピタルゲイン税の上限税率を現行の20%から25%に引き上げ、死亡時まで資産を保持した人に対する現行の免税措置を廃止するとともに、事業売却に対する減税措置を打ち切れば、年60億ポンドの税収増が見込める」
財源確保策として、富裕税の確保が取り上げられる。相続税やキャピタルゲイン税の免税措置を廃止案が有力である。
(5)「英国の年間公共投資は、現在の対GDP比2.4%から28~29年には1.8%に低下すると予想されている。これを防ぐには年260億ポンド以上の歳出が必要になる。この穴を埋めるために財政ルールからの解放が必要になるのはほぼ確実だ。スターマー氏にその気がなければ、総選挙での大勝で約束された安定も結局は停滞に終わるかもしれない」
公共投資の維持が,景気対策の柱になる。年260億ポンド以上の歳出が必要である。この財源を財政赤字に頼らずに確保するには富裕層増税に依存するしかない。これを実行できるか。新政権の前途は、これにかかっている。