勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    インドは、2020年代に米アップルの一大製造拠点(ハブ)に成長する可能性が十分に出てきた。昨年11月、アップルのサプライヤー台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)の中国・鄭州工場は、従業員の抗議行動が起こって生産中断に追い込まれた。改めて、サプライチェーン集中のリスクが浮き彫りになった。ここに、中国代替地として、インドが急浮上している理由がある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月4日付)は、「鴻海、インドで生産増強計画 iPhone大幅増産か」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の電子機器受託製造大手、鴻海精密工業(フォックスコン)はインドで大規模な生産増強を検討している。米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の生産を数百万台規模で増やす可能性もある。

     

    (1)「鴻海は、中国本土からの生産移管を進めており、インドで新たな生産拠点の設立も視野に入れている。鴻海はインド南部タミル・ナドゥ州のチェンナイ近郊にある既存工場でiPhoneの生産拡大を計画している。インド政府高官を含む複数の関係者が明らかにした。2024年までにiPhoneの生産台数を年間約20000000台に引き上げ、従業員数を約3倍の10万人に増やすことを目指しているという」

     

    鴻海は2024年までに、インド南部タミル・ナドゥ州の既存工場でiPhoneの生産台数を年間約20000000台に引き上げるとしている。当初は、インドでの生産が軌道に乗るか危ぶむ声もあったが、順調に進んでいる。

     

    (2)「南部カルナタカ州では新たな生産施設を建設し、iPhoneなどを生産する予定だと関係者は語った。さらに、半導体事業ではインド南部の都市ハイデラバードで新工場を建設するほか、炭化ケイ素の加工などを手掛ける施設なども検討しているという。今回の増強計画は検討段階にあり、変更される可能性がある。鴻海で会長を務める劉揚偉氏は今週インドを訪問し、ハイデラバードとカルナタカ州のベンガルールを訪れた。ニューデリーではインドのナレンドラ・モディ首相と会談した。モディ政権は世界の主要メーカーをインドに誘致する取り組みを強化している」

     

    インドでの生産が軌道に乗ったので、新たにインド南部カルナタカ州では生産施設を建設し、iPhoneなどを生産する計画だ。これは、中国にとって脅威である。iPhone生産で約100万人が雇用されているだけに今後、インドが製造拠点になると中国で雇用問題が起こるであろう。

     

    (3)「中国ではアップルのサプライヤーの多くが新型コロナウイルス流行に伴うロックダウン(都市封鎖)の影響で生産の混乱に直面した。このためアップルは中国以外での生産拠点づくりを促してきた」

     

    アップルは、これまで中国での生産が軌道に乗っているだけに、他国への生産シフトに極めて慎重であった。だが、コロナ・パンデミックによる中国での生産中断で、中国集中生産による大きなリスクを認識した。同時に、米中対立で引き起される地政学リスクを計算に入れれば、生産拠点をインドやベトナムへ分散するメリットを考慮しなければならない。インドは、今年から世界最大の人口国になる。アップル製品の有力市場に発展する。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月16日付)は、「APPLEがインドで直営店展開へ 採用着手、巨大市場浸透」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルがインドで直営店の展開に動き出した。早ければ3月までに商都ムンバイに旗艦店を出店する見通し。インドのスマートフォン市場は価格の安い中国勢のシェアが高いが、アップルの存在感も高まっている。販売網を整備し、巨大市場インドでの浸透を急ぐ。すでにアップルはインドでオンライン販売を手がけているが、直営の実店舗は初めてとみられる。

     

    (4)「香港の調査会社カウンターポイントによると、インドの2022年7~9月のスマホ出荷台数は約4500万台だった。メーカー別のシェアでは首位の中国の小米(シャオミ)が21%、次いで韓国のサムスン電子が19%を占めた。アップルは中韓勢を追う立場にあるが、7~9月は「iPhone13」の販売が好調で過去最高の5%のシェアを記録したという。3万ルピー(約4万7000円)以上の「プレミアムセグメント」では、アップルが40%を占めた」

     

    インドのスマホ市場では、中韓の製品が先行している。だが、「iPhone13」の販売が好調で過去最高の5%(昨年7~9月期)のシェアを獲得した。中価格帯では、40%のシェアになっており、中・高所得層には浸透している。

     

    (5)「アップルはiPhoneの展開を巡って、足元でインドでの生産拡大に乗り出している。22年9月には新型「iPhone14」のインド生産を発表しており、最新機種について中国とインドでの生産時期の差は縮小傾向にある。米中の経済対立などを背景に、中国への生産依存を減らす狙いがあるもようだ」

     

    インドでも、新型「iPhone14」の生産が始まっている。中国とインドの生産技術格差が縮まっていることを示すものだ。冒頭に取り上げたように、24年には2000万台の生産が可能になったと見られる。

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    インドは今年、人口で中国を抜き、世界最大となる。IMF(国際通貨基金)によれば、22年のGDPは英国を上回り、世界5位に浮上した。ADB(アジア開発銀行)は、今年の成長率が7.%となり、域内46カ国・地域で最も高いと予測している。この余勢を駆って、27年のGDPは日本を抜いて世界3位という予測まで出てきた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月17日付)は、「インドは中国のライバルになれるか?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「アジアの歴史は、インドと中国の経済を比較することで読むことができる。世界銀行の連鎖ドルベースの統計によれば、1980年のインドの国内総生産(GDP)は中国の64%だった。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年時点では、インドのGDPは中国の28%にすぎず、21世紀に入り数年にわたる高成長を遂げたものの、インド経済はさらに中国に後れを取り、2021年の比率は17%にとどまった。インドは人口では中国に追い付き、世界水準のサイバー産業を構築したものの、アジアやもっと広範な地域において、経済力で中国に匹敵するような製造業大国にはなっていない」

     

    中印両国は人口で世界1,2位を競う関係である。だが、GDPの面でインドは中国に大きく立遅れた。インドに製造業が育たなかったことだ。製造業は、雇用の受け皿になるので、製造業の盛衰がインドの立ち後れを決定づけた。

     

    (2)「インド経済が過去40年間にわたって中国と同等のペースで成長していたら、現在のインドの国内総生産(GDP)は2兆7300億ドル(約352兆円)ではなく、10兆ドルになっていただろう。それほどの規模の経済がサポートできる軍事支出と、それがインドのビジネスマンや外交官に与える経済的・政治的影響力があれば、インド太平洋地域に「中国の脅威」はなくなるだろう。インドと中国の差が縮まり始めるときが来るなら、そのときはアジアのパワーバランスもシフトし始め、中国は地域・世界政治へのアプローチの再考を迫られるだろう」

     

    インドが過去40年間、中国並みの成長を遂げていれば、現在のGDPは10兆ドルを超えているはず。現在のGDPよりざっと4倍の規模であり、世界3位になっていたであろう。むろん、日本は抜かれている。インドは、中国への軍事的な対抗力も十分あったはずで、中国をけん制する力を持っていたであろう。

     

    (3)「アジアにおける米国の問題は、中国が豊か過ぎることではない。インドが貧し過ぎることだ。短期から中期的には、このアジアの2大国家に不均衡な状況が見込まれるため、米国は同盟国と協力して、中国の野心やパワーを抑制する必要がある。しかし、われわれはそこにある明確な危機に注目しながらも、大局的な見方を忘れないようにしなければならない。米国とインドの意見は多くの点で異なってきたし、これからもそうだろうが、米国の国益はインドの成功と強く結びついている」

     

    インドの経済的発展が、インド太平洋戦略において大きな力を発揮して、中国をけん制する上で歓迎すべきことだ。

     

    (4)「これまでにインドが実現した経済面での大きな成果は、世界的レベルに情報経済を発展させたことだった。同国南部のベンガルールやハイデラバードなどの都市は情報技術(IT)分野の重要拠点となっており、この技術分野の発展は同国に新たな中間層を生み出すことに貢献した。ただし、サイバー分野だけでは、インドが必要とする変革につながる成長を達成する上で十分ではない。インドが国内の貧困をなくし、国際的に中国と同等の存在になるのを望むのであれば、製造分野の大国になる必要がある」

     

    インドのITは、サイバー分野だけである。これを製造業全体へ広げなければならない。そうしなければ、雇用が増えず国民は豊になれないのだ。

     

    (5)「世界市場向けの製造業は、インドが得意とするものではない。壊れかけのインフラ、高コストで信頼できない電力、労働と土地に関わる複雑な法制、いら立たしい官僚主義などが、アジアの工業化の波にインドが加わるのを妨げてきた。しかし現在、国際要因と国内要因の両方が、他のアジア諸国に追い付くチャンスをインドに提供している。国際的には、製造分野の企業が対中依存度の引き下げを目指している。国内的には、ナレンドラ・モディ首相率いるポピュリスト的な政府が、サイバー分野主導の経済だけで支えられている現状よりも広範な繁栄を求めている。外国の投資家を長年インドから遠ざけてきたさまざまな障害は完全に消えてはいないものの、高速道路・鉄道・港湾などへの何年にもわたる投資と規制改革の複合効果によって軽減されてきた」

     

    インドは現在、フォローの風が吹いている。世界的なサプライチェーン再編の波に乗って、インドが脚光を浴びているのだ。このチャンスを生かさなければならない。

     

     

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    中国はこれまで、アップルiPhoneの生産基地として揺るぎない地位を確立していると思い込んできたが、その自信は足元から揺さぶられている。一国に生産を集中させる危険性が、パンデミックで立証されているからだ。さらに、中国の台湾侵攻という地政学的リスクも重なって、中国はもはや世界にサプライチェーンの核であり続ける環境でなくなっているのだ。

     

    この現実に目覚めさせられたことで突然、今回のゼロコロナ緩和へと舵を切ることになった。しかし、余りにも急激な「緩和」によって、中国では感染拡大という新たな問題を引き起こしている。一連の中国の動きを見ると、統制経済の杜撰さが浮き彫りだ。民主主義国では絶対にあり得ない混乱である。

     

    『ブルームバーグ』(12月16日付)は、「中国iPhone工場の混乱はインドの好機か 生産の一国集中に懸念高まる」と題する記事を掲載した。

     

    インド・カルナタカ州にある米アップルのスマートフォン「iPhone」工場で2020年12月、賃金が未払いだと主張した労働者が暴動を起こし、6000万ドル(現在の為替レートで約82億円)相当の損害をもたらした際、中国の国営メディアは直ちに多国籍企業を巡る教訓だと伝えた。暴動の2日後、中国紙・環球時報は「中国の工場は最も安全な投資先だ」としたほか、「中国での暴動の可能性は極めて低い」とした。

     

    (1)「今年11月下旬に発生した新たな暴動は、世界最大のiPhone生産拠点がある中国河南省・鄭州市が舞台となった。新型コロナウイルス感染防止策として、食料が不十分な状態で不衛生な社員寮に閉じ込められた上、約束された賃金が支払われない見通しに怒った従業員が警備員と激しく衝突。翌週には抗議活動が全国に広がった。米中間の緊張の高まりが続く中、今回の騒動で中国における製造業体制の現状維持は、これまで以上に可能性が低くなっている。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)も世界生産の大部分を一国に集中させる危険性を浮き彫りにした」

     

    中国が、「世界の工場」と言われる時期は終わろうとしている。これは、中国の「運命」をも左右する重大事態である。西側諸国にとって、中国の存在が不可欠という意味でなくなることだ。習氏は、今ようやくそのリスクに気づいたようである。しかし、歯車はすでに回り始めている。インドが、次の受け皿候補になってきたのである。

     

    (2)「鄭州工場の混乱が響き、アップルは今年、約600万台の「iPhoneプロ」の生産不足に陥る可能性が高いとブルームバーグ・ニュースは報じた。モルガン・スタンレーは2~3年以内にiPhone生産の10%をインドに移すのが目標だとしている。アップルの主要サプライヤーである台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループ、和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)の3社は、インドのスマホ生産・輸出拡大に向けたインセンティブを申請・取得した。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人が非公開情報だとして匿名を条件に語ったところでは、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占める見込みだという」

     

    モルガン・スタンレーは、2~3年以内にiPhone生産の10%がインドに移ると見ている。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人は、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占めるという。いずれにしても、賽は投げられたのである。

     

    (3)「そうした予測が裏付けられたとしても、世界の工場としての中国の地位は揺るがないだろう。中国に対する懸念が必ずしもインド人気につながるわけでもない。インドは十数年にわたり製造業企業の誘致に努めてきた。同国は低コストの労働力と巨大な国内市場へのアクセスを提供できるが、老朽化したインフラと硬直化した官僚制でも知られている。過度な中国依存に対する多国籍企業の懸念を利用しようとしている国は他にもあり、コスト面だけを考えれば、現状ではインドはスマホ生産に最適な場所ではない」

     

    インドは、電子製品の生産ではベトナムやマレーシアの後塵を拝している。ただ、インド財閥が半導体生産に乗り出す計画を固めるなど、客観情勢は変わってきた。「眠る像」が、一度起き上がれば、世界一の人口国になる手前もあり、シャッキとせざるを得まい。

     

    (4)「それでもインド支持派は、地政学的状況に照準を合わせることが同国の最大の強みとなり得ると主張。地政学面の配慮から最大効率を犠牲にしても構わないと企業は考えているかもしれないと指摘する。アジアの大国で米国の同盟国であるインドには固有の利点が幾つかあり、事業を行う上で政治的な複雑さはそれほどないとアピールすることで十分な生産量を確保できれば、効率面で追い付き始めることもあり得るとみている」

     

    インドは、米国の友好国として優位な地位にある。米中デカップリングの進む中で、インドが中国から移転するサプライチェーンの受け皿の一つになる可能性を秘めている。

    (5)「アップル最大のサプライヤーであるフォックスコンは、地理的範囲を拡大する必要性を見越して、5年余り前にインドに生産施設の建設を開始した。20年の暴動の舞台となった工場を運営するウィストロンのほか、ペガトロンも既にインドで事業を展開している」

     

    フォックスコンは、台湾の鴻海(ホンハイ)の系列企業である。鴻海は、半導体のTSMCと並んで台湾を代表する企業になった。日本のシャープを買収したことでも知られている。

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    これまでインドの主産業は、医薬品とされてきた。これからは、工業製品への取り組みを強化する。その手始めが、アップルのiPhone組立てである。すでに「メード・イン・インディア」の最新型iPhone14が世に出ている。これに自信を付けて、製造業大国を目指したいというのだ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月14日付)は、「インド、製造大国への野心 iPhone14生産を好機に」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルが9月下旬、最新型スマートフォン「iPhone14」をインドで製造すると発表したことは、産業のバリューチェーンでのし上がろうとするインドの野心を象徴するものだ。関係者の話では、すでにアップル製品をインドで受託製造している鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)など台湾3社が組み立てを手がけるという。

     


    (1)「アップルは詳細を明らかにしていないが、米銀JPモルガン・チェースのアナリストは2025年までにiPhoneなどの端末の4台に1台がインドで製造される可能性があるとみる。インドのバイシュナウ電子・IT(情報技術)相は、政府もアップルの取り組みを「積極的に支援している」と語る。「あらゆる産業は製品の組み立てから始まる。24年後には部品やモジュールを生産する次の段階に深化し、現地の本格的なエコシステム(生態系)が出来上がっていく」と指摘」

     

    インドの人口は来年、中国を抜いて世界一になる。それだけに製造工業を根付かせて、雇用の受け皿にしなければならない。iPhoneの組立ては、まさにうってつけの分野である。

     

    (2)「実際にそうなれば、モディ政権の長年の政策目標が実現する。モディ首相は国内総生産(GDP)の25%を製造業が占める姿を想定している。現在は15%ほどでしかない。政府は電子機器などへの投資に奨励金を出し、新規雇用の創出や輸出の拡大を目指している。インドの経常赤字拡大の一因である中国からのIT関連製品の輸入の削減も狙う

     

    インドは、安全保障上のライバルである。長い中印国境線で潜在的な紛争の火だねを抱えている。インドは、その中国からIT関連製品を輸入して貿易赤字を拡大している。この悩みもiPhone14の組立てが軌道に乗れば解消される。

     


    (3)「
    バイシュナウ氏ら政府高官は、製造業が中国への依存度を下げようとしている今こそ、インドにとって最高のタイミングだと確信している。ベトナムも調達先を中国以外に分散する「チャイナプラスワン」戦略を進める企業を呼び込んでいるが、その点、巨大な国内市場を持つインドは魅力的だ。もっともバイシュナウ氏が言うように、政策目標の達成には部品会社の定着が欠かせない。政府の奨励金制度が終了した後も、フォックスコンのようにすでに進出している企業にとどまってもらえるようにすることも重要だ」

     

    インドの巨大国内市場は、他国企業には魅力十分である。これをテコにして他国の部品会社を呼込み、定着させなければならない。これに見合った技術が育つかがポイントになろう。

     


    (4)「それには、政策決定者の保護主義的な考え方がネックになるかもしれない。エコノミストのミヒル・シャルマ氏は、「政府は供給網全体を国内につくり、インド企業が担うのが理想的だと考えている。一方、ベトナムは得意分野だけを手がけようとしている」と話す。iPhoneの供給網の構築に向けたインド政府の動きも頓挫するのではないかとシャルマ氏は懸念する。多くの部品を生産する中国と緊張関係にあるためだ。ヒマラヤ山中の国境係争地での中国との対立や、中国政府に対する根深い不信感を背景に、インド政府は多数の中国製アプリの使用を禁じた。中国のスマホメーカーに対しても「不正な関税回避」を摘発するなど、厳しい対応をとっている」

     

    インドで部品企業を成長させるには、中国企業を呼込まなければならない。だが、中印関係は、国境問題で緊張気味である。この点が、障害にならないか、としている。ただ、「水は高きから低きへ流れる」と同様に、コスト(特に人件費)差がはっきりすれば、中国企業の進出はあり得るものだ。

     


    (5)「問題は、部品会社が次の段階に進んでインドに根を下ろすかだ。自動車産業にはスズキの子会社マルチ・スズキの好例がある。同社は輸入部品を使った自動車の組み立てから始め、苦労の末に現地で供給網を整備し、大規模で成長力のある製造業をつくり上げた。「この時はバリューチェーン全体がインドにやって来て、そこから競争力をつけた。だが、それには時間がかかる」とある経済人は述べた」

     

    アップルにとって、「脱中国」は重大な課題である。問題があるからと言って、インドでの生産を止めるわけにはいかないのだ。インドで、スズキも大変な苦労を重ねた。アップルもこれまでそのような苦悩の連続であったはず。「ノウハウ」は蓄積されているであろう。

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    北京で6月23日、オンライン形式で開催された第14回BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会議では、世界を驚かすようなことも起こらなかった。元々、BRICSには特別の意味もなく2001年、新興国の経済発展が目覚ましいというだけの視点で注目されたものだ。

     

    当初、米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストであった、ジム・オニール氏が「BRICs」と命名したものである。ブラジル・ロシア・インド・中国の急成長に関心が集まった結果だ。その後、中国などが南アフリカを加えて「BRICS」になったという経緯である。

     

    世界の主要メディアはなぜ、今回のBRICS首脳会議を無視したのか。それは、BRICS自体が、一枚岩でないことだろう。中国とインドは反目し合う関係である。インドとロシは、武器供給関係で結ばれているが、インドが武器輸入で「脱ロシア」の動きを見せているのだ。インドはすでに、米・英・欧・イスラエルと武器共同開発へ取り組んでいる。こうなると、BRICSの有力メンバーのインドは、BRICSそのものへの関心が薄れても致し方ない。

     

    中国が、BRICS首脳会議終了後に発表した共同文書は格別、目新しいことは書かれていないが、最後に次のような件(くだり)がある。

     

    「BRICS拡大のプロセスを推進し、志を同じくするパートナーが早期にBRICSというファミリーに加わることができるようにし、BRICS協力に新たな活力をもたらし、BRICSの代表性と影響力を高めるべきだ」(『人民網』6月24日付)

     

    これは、BRICSを「ファミリー」と称していることと、「参加メンバーを増やしたい」と呼びかけていることだ。当初の狙いでは、「BRICSを米欧への対抗軸にする」とされていたが、共同文書ではすっかりトーンダウンしている。これは、インドの強い意向を反映したと見られる。インドは、BRICSをそのような「戦闘的グループ」と位置づけていないのだ。BRICSで中国の腹の内を見抜く機会と捉えているのだろう。

     


    ここで、BRICs命名者のオニール氏の見解を紹介したい。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2021年11月10日付)は、「BRICs20年 広がる分断 ジム・オニール氏」と題する記事を掲載した。

     

    2001年11月、私が米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストとして「BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)」という言葉をリポートで初めて使ってから、20年が経過した。リポート発表の意図は、有望な新興4カ国の単なる経済予測ではなかった。米欧や日本の先進国と新興国の勢力が拮抗する結果、世界は中国などを取り込んだ新しい経済・政治の枠組みをつくる必要に迫られるだろうというメッセージを打ち出したかった。

     

    BRICsの成長を個別に振り返ると、過去20年の中国は私の予測をはるかに上回り、インドはおおむね予想通りだった。対照的にロシアとブラジルの経済の前半10年は良かったが、後半10年は失望的な結果に終わった。しかし、過去20年の世界経済をみれば、新興国の台頭と地位の向上は揺るぎない事実だ。

     


    (1)「中国・インドとロシア・ブラジルの違いは何か。一言で説明するなら、ロシアとブラジルはエネルギーや鉱物資源に恵まれているため、他の産業を育てる策が後手に回った。「資源の呪い」といわれる現象だ。中国とインドにも問題はある。両国とも産業構造はそれなりに多様だが、過去の成長は人口の増加によるところが大きい。人口の急増はいつまでも続かない。特に中国は人口動態の点で厳しい局面に入った。いままでのように高成長で人びとの不満を抑えるやり方は通用しない。特に21年の中国経済は、かなりの急ブレーキがかかると予想している。いずれ中国が米国の経済規模を抜き、世界最大の経済大国になるという予想がある。いまも可能性はあると思うが、もはや確信は抱けない」

     

    BRICs4ヶ国は、2つのグループに分けられる。

    1)ロシアとブラジルは、エネルギーや鉱物資源に依存したモノカルチャー経済の弊害に陥った。

    2)中国とインドは、人口増に支えられた経済成長である。これも限界点に達する。

     

    要するに、BRICs4ヶ国は、互いに「脛に傷を持った」身である。「中所得国のワナ」という共通の落し穴が待っている経済であることだ。ロシアは、今回のウクライナ侵攻で、永遠の発展途上国を運命づけられる。中国は、今年から人口減社会である。世界で「中ロ枢軸」に区分けされた結果、欧米から「技術遮断」されるリスクが高まっている。インドは、「クアッド」(日米豪印)のグループ入りして、技術面での支援を受けられるので発展の可能性は残された。

     


    (2)「BRICsや他の新興国が今後の20年、30年を展望した場合、構造改革を進めることが欠かせない。資源や人口に頼った成長は、持続可能ではない。貿易の拡大や産業の育成が必要だ。新興国の存在が世界に投げかけているものは、経済成長の問題ばかりではない。資本主義や民主主義のあり方についても、新興国の視点が欠かせない。BRICsリポートが初めて世に出た01年は、中国が世界貿易機関(WTO)への加盟を果たした年でもある。当時の先進国の自由主義者は、中国も経済成長とともに米欧流の民主主義に接近してくると楽観していた。私たちはいま、中国への考えがいかに根拠に乏しいものだったか痛感している」

     

    西側諸国は、中国がWTOへ加盟する際に抱いた期待(民主主義国への発展)が打ち砕かれた。それどころか、ロシアと一体化して米国覇権への挑戦という、思いも寄らなかった方向へ突っ走っている。BRICsの中では唯一、インドがこれからどう発展して行くか見守る段階である。インドは唯一、漁夫の利を得るであろう。

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