勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    北京で6月23日、オンライン形式で開催された第14回BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会議では、世界を驚かすようなことも起こらなかった。元々、BRICSには特別の意味もなく2001年、新興国の経済発展が目覚ましいというだけの視点で注目されたものだ。

     

    当初、米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストであった、ジム・オニール氏が「BRICs」と命名したものである。ブラジル・ロシア・インド・中国の急成長に関心が集まった結果だ。その後、中国などが南アフリカを加えて「BRICS」になったという経緯である。

     

    世界の主要メディアはなぜ、今回のBRICS首脳会議を無視したのか。それは、BRICS自体が、一枚岩でないことだろう。中国とインドは反目し合う関係である。インドとロシは、武器供給関係で結ばれているが、インドが武器輸入で「脱ロシア」の動きを見せているのだ。インドはすでに、米・英・欧・イスラエルと武器共同開発へ取り組んでいる。こうなると、BRICSの有力メンバーのインドは、BRICSそのものへの関心が薄れても致し方ない。

     

    中国が、BRICS首脳会議終了後に発表した共同文書は格別、目新しいことは書かれていないが、最後に次のような件(くだり)がある。

     

    「BRICS拡大のプロセスを推進し、志を同じくするパートナーが早期にBRICSというファミリーに加わることができるようにし、BRICS協力に新たな活力をもたらし、BRICSの代表性と影響力を高めるべきだ」(『人民網』6月24日付)

     

    これは、BRICSを「ファミリー」と称していることと、「参加メンバーを増やしたい」と呼びかけていることだ。当初の狙いでは、「BRICSを米欧への対抗軸にする」とされていたが、共同文書ではすっかりトーンダウンしている。これは、インドの強い意向を反映したと見られる。インドは、BRICSをそのような「戦闘的グループ」と位置づけていないのだ。BRICSで中国の腹の内を見抜く機会と捉えているのだろう。

     


    ここで、BRICs命名者のオニール氏の見解を紹介したい。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2021年11月10日付)は、「BRICs20年 広がる分断 ジム・オニール氏」と題する記事を掲載した。

     

    2001年11月、私が米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストとして「BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)」という言葉をリポートで初めて使ってから、20年が経過した。リポート発表の意図は、有望な新興4カ国の単なる経済予測ではなかった。米欧や日本の先進国と新興国の勢力が拮抗する結果、世界は中国などを取り込んだ新しい経済・政治の枠組みをつくる必要に迫られるだろうというメッセージを打ち出したかった。

     

    BRICsの成長を個別に振り返ると、過去20年の中国は私の予測をはるかに上回り、インドはおおむね予想通りだった。対照的にロシアとブラジルの経済の前半10年は良かったが、後半10年は失望的な結果に終わった。しかし、過去20年の世界経済をみれば、新興国の台頭と地位の向上は揺るぎない事実だ。

     


    (1)「中国・インドとロシア・ブラジルの違いは何か。一言で説明するなら、ロシアとブラジルはエネルギーや鉱物資源に恵まれているため、他の産業を育てる策が後手に回った。「資源の呪い」といわれる現象だ。中国とインドにも問題はある。両国とも産業構造はそれなりに多様だが、過去の成長は人口の増加によるところが大きい。人口の急増はいつまでも続かない。特に中国は人口動態の点で厳しい局面に入った。いままでのように高成長で人びとの不満を抑えるやり方は通用しない。特に21年の中国経済は、かなりの急ブレーキがかかると予想している。いずれ中国が米国の経済規模を抜き、世界最大の経済大国になるという予想がある。いまも可能性はあると思うが、もはや確信は抱けない」

     

    BRICs4ヶ国は、2つのグループに分けられる。

    1)ロシアとブラジルは、エネルギーや鉱物資源に依存したモノカルチャー経済の弊害に陥った。

    2)中国とインドは、人口増に支えられた経済成長である。これも限界点に達する。

     

    要するに、BRICs4ヶ国は、互いに「脛に傷を持った」身である。「中所得国のワナ」という共通の落し穴が待っている経済であることだ。ロシアは、今回のウクライナ侵攻で、永遠の発展途上国を運命づけられる。中国は、今年から人口減社会である。世界で「中ロ枢軸」に区分けされた結果、欧米から「技術遮断」されるリスクが高まっている。インドは、「クアッド」(日米豪印)のグループ入りして、技術面での支援を受けられるので発展の可能性は残された。

     


    (2)「BRICsや他の新興国が今後の20年、30年を展望した場合、構造改革を進めることが欠かせない。資源や人口に頼った成長は、持続可能ではない。貿易の拡大や産業の育成が必要だ。新興国の存在が世界に投げかけているものは、経済成長の問題ばかりではない。資本主義や民主主義のあり方についても、新興国の視点が欠かせない。BRICsリポートが初めて世に出た01年は、中国が世界貿易機関(WTO)への加盟を果たした年でもある。当時の先進国の自由主義者は、中国も経済成長とともに米欧流の民主主義に接近してくると楽観していた。私たちはいま、中国への考えがいかに根拠に乏しいものだったか痛感している」

     

    西側諸国は、中国がWTOへ加盟する際に抱いた期待(民主主義国への発展)が打ち砕かれた。それどころか、ロシアと一体化して米国覇権への挑戦という、思いも寄らなかった方向へ突っ走っている。BRICsの中では唯一、インドがこれからどう発展して行くか見守る段階である。インドは唯一、漁夫の利を得るであろう。

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    インドは、インド太平洋戦略「クアッド」で日米豪と共にその一角を形成している。中国の対外膨張主義へのストッパー役である。このインドが、ウクライナ危機では「クアッド」メンバー国と共同歩調を取らず、ロシアへ親近感を見せている。この奇異な光景に、誰でも疑問を持つが、この背景には「対ロ信頼、対米不信」の歴史があるのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「ウクライナ危機中立のインド、対露信頼と対米不信」と題する記事を掲載した。

     

    次々とニューデリーを訪れた米当局者らは、ロシア政府を孤立させる取り組みにインドも加わるよう説得した。だが、傍観者の立場を変えるべきだと納得させるのは難しかった。インドは今回のウクライナ戦争で中立姿勢を維持しており、ロシアの行為に対する国連非難決議の投票で棄権に回り、対ロ制裁への参加も拒否している。インドのこうした姿勢はある意味、必要に迫られたものでもある。ロシアが、インドに対する最大の武器供給国だからだ。

     


    (1)「
    2020年に領土問題でもめる国境地帯で中国との衝突が起き、インド人20人、中国兵士4人が死亡した際には、インドの国防相が3カ月間で2回モスクワを訪問した。当時の状況を直接知る当局者によれば、この訪問の目的の一つは、武器弾薬を追加で確保し、国境地帯の防備を強化することだったという。これを受けてロシアは、ミサイル、戦車部品、その他の兵器をインドに追加供与した。イデラバードのカウティリヤ・公共政策大学の学部長で、元インド国連常駐代表のサイード・アクバルディン氏は「多くの人々は、インドが危機に瀕した際にロシアとの友好関係がインドの利益に貢献したと信じている」と語った」

     

    インドは、国境問題で中国と長年にわたり対立し衝突を重ねている。国境を守るには武器が不可欠であり、ロシアがその武器供給で重要な役割を果たしてきた。ロシアへの「恩義」があるのだ。

     


    (2)「インドは何十億ドルもの資金を費やしてロシアから武器を購入しており、ロシアは何十年にもわたってインドにとって最大の武器の供給元となっている。インドは供給元を多様化する取り組みを行っているものの、2016年~2020年に輸入された武器の50%近くは、依然としてロシアから来たものだ」

     

    インドは、ロシアの武器輸出国構成比(2010~21年)で33.8%と1位である。2位の中国(13.5%)を大きく引離している。ロシアにとっても、インドは最大の顧客になっている。インドとロシアは、持ちつ持たれつの関係だ。

     


    (3)「米当局者は、(ウクライナ)開戦以降続いているインドとの協議で前進していると指摘し、モディ氏が最近、ウクライナのブチャでの市民の殺害を非難する発言をしたことを例に挙げた。それでもなお、一部の米当局者は時々、インドがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する一段と強い非難を渋っていることに対して不満を示している。インド当局者は、米国がウクライナについてインドに説教をするようなことになれば、インドの米国に対する懐疑的な見方は一段と強まると述べている」

     

    米国は、インドもロシアを非難してくれるものと期待していたが、武器の購入関係を見ると、深いつながりがある。武器=安全保障である以上、性急に「反ロシア」になるのは無理であろう。実は、ロシアの武器輸出国は45ヶ国に上がっている。これら国々は、表だってロシア批判できない事情にある。その代表がインドだ。中国もこの範疇に入る。

     

    (4)「カーネギー国際平和基金に所属するアジア地政学の専門家、アシュリー・J・テリス氏は、「インドの人々は常に、ロシアの人々から尊敬され、支えられてきたように感じてきた。その一方で、われわれ(米国人)は威圧的な態度を取りがちだ」と述べる。現旧のインド当局者の多くは今も、米国がインドを不当に扱ったと感じられた歴史上の瞬間を容易に列挙できる。1960年代には、ガンジー首相によるベトナム戦争への米国批判に対して食糧支援で報復したこと。1971年には、インド・パキスタン戦争で、米国がパキスタンを支援したこと。1998年には、米国が核実験の実施を理由にインドに制裁を科したことだ」

     

    下線部分は重要である。国際関係は、尊敬されているという実感が友好の裏付けになる。ロシアは、インドが武器輸出で最大の顧客である。丁重に扱って当然であろう。

     


    (5)「バイデン政権当局者はインドの当局者に対し、インドと中国の国境周辺での紛争に関し、米国の方が兵器供給国として信頼性が高いことを納得させようと努めてきている。ウクライナでの戦争は、ロシアの軍事装備が信頼できないことを示しているほか、ウクライナの戦場で装備を消耗し、自国の軍事備蓄を補充しなければならないためロシアは間もなく供給不足に陥る可能性がある、と米当局者らは指摘する。同当局者らはまた、西側の制裁によりロシアは先端兵器システム向けの部品を確保できなくなるだろうと述べた」

     

    ロシアは、遅くも来年には経済制裁で軍需品の生産がストップする筈だ。武器弾薬は、演習による消耗で部品など補給しなければならない。ロシアは、その部品供給が不可能になる時期が近い。ロシアから武器を購入している国は、大変な事態が発生するであろう。

     


    (6)「ボリス・ジョンソン英首相は4月22日にインドを訪問した際、インドへの武器輸出の促進、インドが自国の防衛装備品を製造するのを支援するための専門技術の共有化を図ることを約束した。あるインド当局者によると、同国政府はハードウエアおよび武器の供給拡大に関する米国の提案を検討しているものの、高額なコスト、技術移転に米企業が消極的なことから協議は進んでいない。米国務省当局者によれば、協議にはインドが購入できるようにする目的で米国の余剰防衛装備品を活用することや、各種融資案などが含まれている」

     

    米英は、インドに対して軍需品問題で具体的な提案をしている。インドも、ウクライナ戦争におけるロシア軍の作戦ぶりを見て、ロシア製武器への疑念が湧くであろう。

     


    (7)「ブリンケン米国務長官は、「インドはロシアの関係を何十年にもわたって発展させてきた。この間、米国はインドにとってのパートナーとなることができなかった」と述べた。その上で同氏は、「時代は変わった。われわれは現在、インドの選択するパートナーとなり得るし、またそうなりたいと思っている」と語った」

     

    米国は、インドから選択されるようなパートナーになる、としている。インドは、クアッド・メンバー国である以上、誠実に対応する必要がある。

     

     

     

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