勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    中華再興とヒンズー教

    中国を自由に操る習氏

    印度はカースト制残滓

     

    世界経済は、あと数年もすればGDP3位にインドが座ると予測されている。米国、中国、インドが「3大GDP国」という構図だ。中国とインドは「経済強国」の印象だが、実態は内部に大きな難題を抱えた国家である。人口増が生み出した経済成長であり、生産性の伸びによる成長でないからだ。 

    これら二国は、人口が14億人台で世界トップである。この巨大人口の「人海戦術」が、築きあげた経済でもある。インドは、すでに人口規模で中国を抜いて世界1位にある。だが、インドは中国と同様に、歴史的な脆弱性を抱えている。古代からの価値観が、現代を著しく支配しているのだ。こうした性格の経済が、インドと中国であることに注目すべきであろう。 

    中華再興とヒンズー教

    中国は、強引な「一人っ子政策」で人口急増を食止めたが、逆に今はその反動に悩まされている。出生率の急減である。すでに起こっている労働人口の減少が、これからGDPを直撃する。こういう急激な出生率の変動は、中国の政策が将来を洞察することのない、場当たり的ものであることを裏付けている。事前に予測するという合理性に欠けているのだ。 

    インドのモディ政権は、先の総選挙によって与党・人民党が議席の過半数を割込んだ。地方政党を呼び込んで連合与党をつくり、辛うじて政権を維持する結果になった。理由は、これまでの強権的な政治手法が批判されたのだ。こうして、モディ政権は路線変更を求められているが、インド経済の将来性にいくつかの疑問を抱かせている。それは、インドの経済成長に一筋縄でいかない厳しい要因が存在しているからだ。

     

    具体的には、歴史的に形成されてきた制度要因が大きな影を落としている点にある。この「歴史の影」を取り除かないかぎり、インドの経済成長路線は不安的なものとなろう。モディ氏は、選挙運動期間中に「ヒンズー教の価値観を守る」としたが、インド国民の約2割はイスラム教である。ヒンズー教は8割である。インドは多民族国家だ。そのインドで、一つの宗教の価値観で国家を律することは極めて困難である。それにも関わらず、モディ氏は、ヒンズー教を高く掲げている。 

    実は、中国もこれに似た目標を掲げている。習近平国家主席が、「中華再興」を叫んでいることだ。具体的には、清国時代に占めた世界の経済的地位を復活させようというものである。当時の清国は当然、農業国家である。世界のGDPの4分の1程度のシェアを占めていたとされるが、現代は工業化・情報化の時代だ。科学知識の蓄積が、経済成長を左右する時代である。 

    こういう状況変化を忘れて、単純に過去の自国地位へ回帰しようとするのは時代錯誤と言うほかない。習近平氏の行動パターンには、清国皇帝のビヘイビアがみられる。領土拡張と鎖国主義だ。これは、秦の始皇帝以来の価値観を受け継いだものでもある。古代からの価値継承と言える現象だ。 

    ここで、インドと中国の共通項を要約すると、次のようになろう。

    1)発展途上国特有の人口大国である。

    2)古代からの価値観に深くとらわれている。

    3)制度改革を進める文化的要因が見当たらない。

     

    ここで若干の補足をしておきたい。人口は、絶対数が国運を決めるものでないことだ。総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率が、上昇する段階では経済成長にプラス(人口ボーナス)となる。逆にこの比率が、下降する段階では経済成長にマイナス(人口オーナス)となるのだ。 

    経済成長にマイナスになる局面で重要なのは、積極的に制度改革を行う文化的な要因の有無である。それには、古代からの価値観にとらわれない柔軟さが前提になる。残念ながら、中国は清国皇帝と同じで、国民に選挙権も与えずに専制主義を貫いている。 

    インドは現在、人口増加が経済成長にプラスになる局面にある。この貴重な時期が、「ヒンズー教の価値観重視」という姿勢で揺れている。ヒンズー教は、カースト制を生み出した宗教である。このカースト制は、インド憲法で「差別」することを禁止したが、制度そのものは禁止されなかった。これによって、職業選択への影響が出ている。インドもまた、過去の価値観から抜け出せないでいるのだ。

     

    中国を自由に操る習氏

    次に、中国とインドの個別問題を取り上げたい。中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、政策転換が行われた。市場経済から計画経済へ、改革開放から「反スパイ法」による国内締付けへと180度の大転換である。これは、習氏が終身国家主席を狙っていることが動機になっている。 

    個人的な事情を言えば、実父の習仲勲がトウ小平の反対で首相職に就けなかったという思いが、トウ小平の改革開放路線に反対する理由の一つになっている。トウ小平を否定することが、実父の「怨念」を晴らす道であったのだ。習氏は、精華大学卒業後の就職先が人民解放軍である。この就職では、実母が奔走したなど家族ぐるみで官途を目指していたのである。最初から、政治を志していた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    インドGDPは、表面的には8%台成長であるが、民間の投資と消費が脆弱であることからGDP統計自体に懐疑論が出ている。モディ政権にとっては、なんとも不名誉な話だ。統計も正確に出せないのかと冷笑を買う事態である。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月4日付)は、次のように分析している。

     

    インドのGDP算出方法では、成長の強さが実際より大きくなる可能性がある。公式統計に含まれない巨大な非公式経済の弱さを十分に反映してないことが一因だ。また、民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じていないようだ。米ピーターソン国際経済研究所の上級研究員で元モディ政権首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏は、「もし、人々が経済に対して楽観的なら、もっと投資して消費するだろう。実際にはどちらも起きていない」と指摘した。統計改ざんとは言わないまでも、正確な統計が発表されていないと言うのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インド株の『期待と実態』投資戦略修正の時」と題する記事を掲載した。

     

    インド総選挙を受け、モディ首相の3期目入りが決まった。もっとも与党連合(NDA)は議席数を大幅に落とし、これまでのようなトップダウンの経済改革が進むかどうかへの警戒が浮上している。人口増などによる長期的な成長期待は揺るがないものの、市場関係者にとっては投資戦略を修正させる必要があるかもしれない。

     

    (1)「モディ政権は過去10年、物品サービス税(GST)の整備を進めるなど、経済改革を推進めてきた。経済の効率性が高まるとの期待感は、海外マネーをひき付けるファクターとして働いてきた。3期目では、閣内外で関係者の声が強くなり、調整が必要になる。独断専行は通じなくなっている。さらに、解決すべき課題はまだ山のようにある。インフラ投資やデジタル化などは手掛けやすい改革だ。だが、農産物流通の規制緩和など農業改革は反発が根強く遅々として進まない。関連法案が成立しながら廃案にするなどの混乱も生じている。銀行など政府系企業の民営化もゆっくりだ。様々な企業で政府による出資比率の低下がみられるが、一気に株式を放出するようなケースはみられない」

     

    下線部分は、インド経済の弱点である。いわゆる、農産物流通の規制緩和など「構造改革」が進まないのだ。

     

    (2)「市場が、インドを評価するうえで注目してきたのは国内総生産(GDP)成長率だ。中国経済が落ち込む一方で高い成長率を維持してきた。だがこちらも気がかりな点がある。まずは統計の問題だ。インドの2024年1〜3月期の実質GDPは前年同期比で7.%増だった。一方、総付加価値(GVA)は6.%増だった。いわゆるGDP「三面等価」の原則に立てば、支出を示すGDPと生産を示すGVAは同じになるはず。だが乖離(かいり)が生じている。農薬などへの補助金が減った影響とされている。ただ、市場の一角では政府のGDP統計は成長率が実態よりも高めに出されているのではないかという「懐疑論」すらくすぶっている。23年10〜12月期もGDPが8.%成長、GVAが6.%増だった」

     

    インドのGDP統計は、支出を示すGDPと生産を示すGVAが一致しないという「恥」をさらけ出している。これは、インド統計当局の「技量」を疑われる事態だ。この事実に気づかずに、GDP統計を発表していたとすれば「天下の恥」になる。23年10〜12月期もGDPが8.%成長、GVAが6.%増だった。どちらの数字が正しいのか。

     

    (3)「もちろん、まだ疑惑の域を出ていない。一方で、高いGDP成長率を志向するようなこれまでの政策にきしみがあるのは事実だ。失業率の高さが指摘されている。特に大卒など若年層の失業率の高さが目立ち、社会問題となっている。インフレとあわせて今回の総選挙の争点となっており、この点が与党連合のアキレス腱(けん)だった。まさに足をすくわれることとなった」

     

    GDP統計の不一致は、偶然なのか故意なのか、真相は不明である。「真理は中間にある」という訳にいかないのだ。

     

    (4)「バンク・オブ・シンガポールは、今回の総選挙の結果はインド経済にとってむしろポジティブとの立場を取る。「政策当局者がよりインクルーシブ(包括的)な成長モデルを取るようになり、消費の回復につながるだろう。このまま『投資けん引型』の成長を続けていたら、今後数十年で中国のようなアンバランスな格好になってしまう」とする。HSBCのインド株式戦略担当者は、5日付のリポートで「政府系企業や産業セクターは調整が起こるかもしれない」と指摘した。特に政府系企業はインフラ投資の加速への期待感から昨年来大幅に上昇してきた。調整の兆しはすでにあり、4日のインド株大幅安でもっとも下げが大きかったのはこれらの銘柄群だ」

     

    GDP統計に過誤があるように、経済政策にも齟齬が多い。モディ政権は、今回の議席減少をどのように今後の政策に生かすのか。世界が注目している。

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    米国は、対中貿易赤字縮小を政策目標に掲げている。だが、中国から米国へのダレクトナ出荷が減った分は、ベトナムやメキシコといった第三国を経由することで増えている。トランプ政権が、2018年に約3000億ドル(約45兆円)相当の輸入品に関税を課して以来、中国企業は課税を回避するためにメキシコやベトナムなどにある新工場への投資を増やしてきたのだ。この流れは、太陽光発電でもみられる。

     

    インドの太陽光発電産業を後押しする米国の取り組みは、中国での強制労働によって製造された部品の輸入を阻止する「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を骨抜きにしている可能性がある。米国は、この事実に気づいていない。

     

    『ブルームバーグ』(2月7日付)は、「中国の太陽電池、インド経由で米国に流入ー強制労働防止法の抜け穴か」と題する記事を掲載した。

     

    インド最大のソーラーメーカー、ワーリー・エナジーズが、強制労働を巡る懸念から米市場への流入を何度も拒否された中国企業の部品を使った数百万枚のパネルを米国に送っていることが、ブルームバーグ・ニュースが調べたインドと米国の輸入記録で分かった。

     

    (1)「これらの部品は、中国の西安に本社を置く世界最大のソーラーメーカー、隆基緑能科技がマレーシアとベトナムの工場で生産した太陽電池で、テキサスなど米国の州で太陽光発電所を覆い尽くすワーリー製のソーラーパネルに使用されている。米国は中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族を強制的に働かせているとし、関連製品の輸入を禁止。ワーリーのパネル出荷は、米税関・国境警備局(CBP)がこうした措置をどのように執行しているのかという疑問を提起している。CBPは禁止措置の執行を2022年6月に開始後、中国系企業が製造したソーラーパネルの一部出荷を止めている」

     

    インド最大のソーラーメーカーであるワーリー・エナジーズが、中国に本社を置く世界最大のソーラーメーカー隆基緑能科技のマレーシアとベトナム工場で生産した太陽電池パネルを米国へ輸出するソーラーパネルに使用されているという。中国の隆基は、マレーシアとベトナムの工場で生産したパネルをインドのワーリーへ輸出するという「ロンダリング」を行っているという指摘がされている。

     

    (2)「中国企業を規制する米国の政策は、インドのソーラーメーカーにチャンスをもたらした。ブルームバーグNEF(BNEF)がまとめたデータによると、インド勢による対米パネル輸出額は昨年1-11月に約20億ドル(約3000億円)に膨らみ、22年通年の5倍となった。太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書を共同執筆したローラ・マーフィー氏は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と同年10月時点で指摘。同氏はその後、国土安全保障省の税関執行顧問に起用された」

     

    太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と指摘している。これは、ありそうな話である。中国企業が、そこまで法的に遵守しているとは考えられないからだ。

     

    (3)「同氏の報告書によれば、中国にある複数の供給元からのポリシリコンはしばしば混合されるため、隆基の東南アジア工場で製造されたパネルには、少なくとも一部で新疆ウイグル自治区からの材料が用いられている「非常に高い」リスクがあるという。同社はマーフィー氏の報告書に対し、米市場向けに中国産以外の材料のみを使用する別のサプライチェーンを構築したと説明している。中国当局が少数民族であるウイグルの人々を拘束したり、工場で強制的に働かせたりしているという世界的な懸念から、米国は21年12月にUFLPAを制定。中国政府は新疆ウイグル自治区における人権侵害を否定し、同自治区の政策は教育や過激派の一掃、貧困の緩和が目的だと主張している」

     

    中国の特技は、「抜け穴探し」である。WTO(世界貿易機関)に加盟後、抜け穴探しで生産補助金を使ったダンピング輸出に成功してきた国である。必ず、「裏技」を使ってくると警戒しなければならない。



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    多くの専門家は、21世紀が「アジアの世紀」と評している。中国とインドの経済発展が、500年にわたる欧米優位に終止符を打つと指摘しているのだ。こうした論評は、中印両国が世界の国外移住者の大部分を出しているここと大いに矛盾する。両国の繁栄と安定が確実であれば、なぜ高学歴の人や富裕層が両国から移住しようとしているのか、だ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月1日付)は、「中国・インドから逃げ出す国民」と題する記事を掲載した。 

    米国に不法入国するために、生命の危険を冒すことをいとわないインド人と中国人が毎年何万人もいる。米国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)の職員は2023年度に、インド人9万7000人、中国人5万3000人の「許可されない外国人」、すなわち米国への入国許可を得ていない人々に出くわした。この数は21年度と比べると、インド人が3倍強、中国人は2倍強に当たる。

     

    (1)「中国人とインド人は、米国への無許可入国者に占める割合がいまだに小さく、昨年は320万人のうち15万人にすぎなかった。これは、両国からの合法的な移民が大きな流れになっていることと合わせると注目に値する。中国とインドは長い間、米国の学生ビザ取得数で圧倒的多数を占めてきた。もっとも、中国人はインド人に比べて留学後に帰国する可能性が高い。昨年は、約5万5000人の中国人と6万9000人のインド人が選択制の実習を受けた。これは卒業後の1年間か2年間、実際に働くというプログラムで、米国内での就職につながるケースが多い」 

    中国とインドの留学生が、留学後に米国で1~2年働くプログラムで就職するケースは、両国で12万4000人になっている。 

    (2)「インド人と中国人は、他のどの国の国民よりも熟練労働者の米国での一時就労に必要なH1-Bビザを多く取得している。インド人に限っても、H1-Bビザの取得件数は毎年発給される8万5000件の半分以上を占めている。移民政策研究所によると、インド人は現在、米国内でメキシコ人に次いで2番目に大きな移民グループとなっている。中国人は3位だ。国連の推計によれば、2019年の世界人口の約3.5%(2億7200万人)は「出生国または市民権のある国以外で暮らす人々」と定義される移民だった。同年の移民の最大グループはインド人(1750万人)で、中国人はメキシコ人(1180万人)に次ぐ3位(1070万人)だった」 

    米国での移民グループは、1位メキシコ、2位インド、3位中国である。

     

    (3)「米移民研究センターのエグゼクティブ・ディレクター、マーク・クリコリアン氏の見方によれば、これはそれほど驚くことではないと指摘する。「彼らは世界で1、2位の人口の多い国だ。むしろ今後さらに多くの人々が国外へ出るだろう」。インドと中国は世界人口の36%を占めている。これに対し、世界の移民人口に占める両国の割合は10%をやや上回る程度だ」 

    インドと中国の人口が、世界に占めるウエイトからいえば今後、さらに増えるであろう。 

    (4)「こうした移民のパターンからは「アジアの世紀」を信じる人々が見落としがちな弱点が明らかになる。顕著な兆候の一つは、個人富裕層の国外流出だ。繁栄している国々は普通、資本と人材を引き付ける。それらを国外に追いやることはない。しかし、富裕層の外国居住権取得を支援する企業ヘンリー・アンド・パートナーズによれば、2022年に国外に移住した億万長者が世界で最も多かったのが中国で、その数は1万0800人だった。インドは7500人で、ロシアの8500人を若干下回って3位だった。香港を中国に含めると、22年に国外移住した世界の個人富裕層8万4000人の25%近くを中国人とインド人が占めた」 

    従来の観念で言えば、移民は経済的に貧しい国が「人減らし」という意味で行ってきた。現在は、億万長者が移民する事態だ。22年に、富裕層の移民で最も多かったのは中国であった。次いで、インドとロシアが占めた。

    (5)「中国の場合、社会の支配強化を目指す習近平国家主席による民間企業への締め付けが、こうした状況を招いている。中国の富裕層はかなり以前から米国・カナダ・英国・オーストラリア・シンガポールの金融資産や不動産に保有資金を移してきた。習氏の強硬な政策も富裕層を一層おびえさせているようだ。投資を通じて米国の永住権を得るEB-5ビザ取得者の国籍別の内訳では、中国人が最も多い状況が長く続いている。西側諸国のパスポートは、中国が再び政治的混乱に陥る場合に備える保険になっている」 

    投資を通じて米国の永住権を得るEB-5ビザ取得者は、中国人が最も多かった。 

    (6)「インド人が抱く懸念は中国人と異なる。インドの富裕層や最も教育水準が高い人々はしばしば、同国政府の統治面の不備が多いことを理由に国を離れている。彼らは、都市部の環境汚染、税務当局による嫌がらせ、標準以下の公衆衛生政策、劣悪な都市インフラから逃れたがっている。インドは昨年、EB-5投資家ビザの国籍別取得者数で2位となった。億万長者の流出に技術者や医師の流出を加えると、インドは毎年、最も生産性の高い人材のうちかなりの部分を失っていることになる」 

    インドの富裕層や最も教育水準が高い人々の移民理由は、貧しいインフラ投資への不満である。インドは、億万長者・技術者・医師などが米国へ移民している。最も生産性の高い人たちだ。

     

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    21世紀の20年間は、中国が世界経済発展に大きく寄与した。その中国も、「エンスト」を起こしている。過剰な債務を抱えて動きが鈍くなっているからだ。そこで、次なるスターとしてインドの役割に期待が掛っている。だが、「第二の中国」にはなりにくい制約条件も見え始めている。インドのモディ首相は、「5年以内にGDP世界3位」という目標を掲げている。それには、女性の労働参加率を高めて、貯蓄を増やすことが不可欠になっている。相当な難題である。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月26日付)は、「インドが『新たな中国』ではない理由」と題する記事を掲載した。 

    インドの今後を楽観視できる理由はいくつもある。人口では23年、中国超えを果たした。人口の半数以上は25歳未満だ。経済規模では近年、旧宗主国の英国を追い抜き世界5位に浮上、現在の成長ペースが続けば10年以内に世界第3位になるかもしれない。株式市場は8年連続で上昇している。西側と中国間の通商関係の悪化はインドの立場を利する一方だ。しかし、インドの前途は中国のそれとはかなり違って、より困難なものになる可能性がある。
     

    (1)「インドの労働資源は豊富だが、多くの障壁があり今も労働者と雇用主を結び付けるのは容易ではない。そのせいで家計も企業も、台湾や韓国といった「東アジアの虎」を一変させ貧困から脱却させたような投資ブームに欠かせない貯蓄を作れない。依然として高い貿易障壁も問題だ。インドが中国のような電子機器の組み立て拠点を目指しているならなおさらだ」 

    インドの弱点を一口で言えば、人口は世界一になったが、その豊富な労働力が「フル稼働」していないことだ。特に、女性が家庭に止まり賃金を稼ぐ「労働力化」していない点が大きな欠陥である。 

    (2)「国連によると、インドは2030年に世界の生産年齢人口(15歳から64歳の人口)の5分の1近くをインド人が占める見込みだ。世界銀行によると、同国の従属人口比率(家計への子どもや高齢者の扶養負担の大きさを測る指標)は、1967年には82だったが、2022年には47まで低下した。従属人口比率の低さは多くの場合、貯蓄や投資にプラスに働く。豊富な労働力のおかげで企業は労働コストを抑えることができる。家計は余った収入を子どもや親の扶養ではなく、投資に回すようになる」 

    インドの生産年齢人口比率が高まっており、従属人口比率が低下する「人口ボーナス期」に入っている。だが、この好機を生かしていないという大きな矛盾にぶつかっている。換言すれば、「働き手」が急増していても外へ出て賃金を稼ぐ人があまり増えない状態だ。

     

    (3)「残念ながら、インドは特に女性の労働参加の促進に苦労している。労働雇用省が昨年発表したデータによると、2022年度の時点で女性の生産年齢人口のうち、労働参加していた割合は30%ほどに過ぎなかった。この数字は2018年と比較すると約10ポイント高いが、依然として低中所得国の平均の約50%を大幅に下回っており、中国の71%とはさらに大きな開きがある。その上、2018年以降に女性の労働参加が改善したのは都市部より主に地方で、人手が不足している都市部の工場の助けにはほとんどなっていない。手厚い農業補助金や地方の食糧支援がその理由の一つかもしれない。多くの女性労働者が寮に住む中国と比べて、自宅を離れて住み込みで働くことへの許容度が低いことも原因の一つだろう。政府が、昨年調査した女性の45%は育児と家事があるために労働参加できないと回答した」 

    インドの女性は家庭に籠もっている。女性の生産年齢人口のうち、労働参加していた割合は30%ほどだ。中国の71%と比べて半分以下である。低中所得国の平均の約50%すら、大きく下回っているのだ。

     

    (4)「インドにとって貿易が一筋縄ではいかないことも問題だ。中国とは異なり、インドは人々が意見を主張する民主主義国家だ。国民の歓心を買うための保護主義的な措置は民主主義につきものだ。世界貿易機関(WTO)によると、2022年時点でインドの輸入関税は世界最高水準にあり、最恵国税率は平均で18.1%に上る。これに対して中国は7.5%、欧州連合(EU)は5.1%、米国は3.3%だった。こうした制約は、主に輸入部品を使用して製品を組み立てて輸出する製造業者にとっては煩わしいだろう」 

    インドは、関税率を引上げて保護貿易に徹している。インドの輸入関税は、世界最高水準で最恵国税率が平均18.1%にもなっている。中国の7.5%の2.4倍である。高関税率は、国内産業が過保護になって競争力が高まらないのだ。 

    (5)「インドの公的債務は、国内総生産(GDP)比約85%で、新興国の中ではブラジルに次ぐ2番目の高さだ。中央政府の資本支出は、今年度末までにGDP比3.3%というほぼ20年ぶりの高さに達する。こうしたペースでインフラ整備を続けるには、税収増や補助金の引き下げ、民間部門の関与の大幅な拡大が必要になるだろう。こうした状況を考えると、インドにとって、特に製造業への国外からの直接投資(FDI)を促すために、あらゆる手を打つことが極めて重要だ」 

    インドは、女性の労働参加率が低く民間貯蓄が少ない。こうして、政府債務によりインフラ投資を行い、需要不足をカバーしなければならない羽目に陥っている。この結果、公的債務が対GDP比で約85%と高い比率である。いずれ、この面で限界へぶつかる。今のところ、インドが主に消費とサービスが主導する経済であることに変わりない。

     

     

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