勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    米国は、対中貿易赤字縮小を政策目標に掲げている。だが、中国から米国へのダレクトナ出荷が減った分は、ベトナムやメキシコといった第三国を経由することで増えている。トランプ政権が、2018年に約3000億ドル(約45兆円)相当の輸入品に関税を課して以来、中国企業は課税を回避するためにメキシコやベトナムなどにある新工場への投資を増やしてきたのだ。この流れは、太陽光発電でもみられる。

     

    インドの太陽光発電産業を後押しする米国の取り組みは、中国での強制労働によって製造された部品の輸入を阻止する「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を骨抜きにしている可能性がある。米国は、この事実に気づいていない。

     

    『ブルームバーグ』(2月7日付)は、「中国の太陽電池、インド経由で米国に流入ー強制労働防止法の抜け穴か」と題する記事を掲載した。

     

    インド最大のソーラーメーカー、ワーリー・エナジーズが、強制労働を巡る懸念から米市場への流入を何度も拒否された中国企業の部品を使った数百万枚のパネルを米国に送っていることが、ブルームバーグ・ニュースが調べたインドと米国の輸入記録で分かった。

     

    (1)「これらの部品は、中国の西安に本社を置く世界最大のソーラーメーカー、隆基緑能科技がマレーシアとベトナムの工場で生産した太陽電池で、テキサスなど米国の州で太陽光発電所を覆い尽くすワーリー製のソーラーパネルに使用されている。米国は中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族を強制的に働かせているとし、関連製品の輸入を禁止。ワーリーのパネル出荷は、米税関・国境警備局(CBP)がこうした措置をどのように執行しているのかという疑問を提起している。CBPは禁止措置の執行を2022年6月に開始後、中国系企業が製造したソーラーパネルの一部出荷を止めている」

     

    インド最大のソーラーメーカーであるワーリー・エナジーズが、中国に本社を置く世界最大のソーラーメーカー隆基緑能科技のマレーシアとベトナム工場で生産した太陽電池パネルを米国へ輸出するソーラーパネルに使用されているという。中国の隆基は、マレーシアとベトナムの工場で生産したパネルをインドのワーリーへ輸出するという「ロンダリング」を行っているという指摘がされている。

     

    (2)「中国企業を規制する米国の政策は、インドのソーラーメーカーにチャンスをもたらした。ブルームバーグNEF(BNEF)がまとめたデータによると、インド勢による対米パネル輸出額は昨年1-11月に約20億ドル(約3000億円)に膨らみ、22年通年の5倍となった。太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書を共同執筆したローラ・マーフィー氏は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と同年10月時点で指摘。同氏はその後、国土安全保障省の税関執行顧問に起用された」

     

    太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と指摘している。これは、ありそうな話である。中国企業が、そこまで法的に遵守しているとは考えられないからだ。

     

    (3)「同氏の報告書によれば、中国にある複数の供給元からのポリシリコンはしばしば混合されるため、隆基の東南アジア工場で製造されたパネルには、少なくとも一部で新疆ウイグル自治区からの材料が用いられている「非常に高い」リスクがあるという。同社はマーフィー氏の報告書に対し、米市場向けに中国産以外の材料のみを使用する別のサプライチェーンを構築したと説明している。中国当局が少数民族であるウイグルの人々を拘束したり、工場で強制的に働かせたりしているという世界的な懸念から、米国は21年12月にUFLPAを制定。中国政府は新疆ウイグル自治区における人権侵害を否定し、同自治区の政策は教育や過激派の一掃、貧困の緩和が目的だと主張している」

     

    中国の特技は、「抜け穴探し」である。WTO(世界貿易機関)に加盟後、抜け穴探しで生産補助金を使ったダンピング輸出に成功してきた国である。必ず、「裏技」を使ってくると警戒しなければならない。



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    多くの専門家は、21世紀が「アジアの世紀」と評している。中国とインドの経済発展が、500年にわたる欧米優位に終止符を打つと指摘しているのだ。こうした論評は、中印両国が世界の国外移住者の大部分を出しているここと大いに矛盾する。両国の繁栄と安定が確実であれば、なぜ高学歴の人や富裕層が両国から移住しようとしているのか、だ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月1日付)は、「中国・インドから逃げ出す国民」と題する記事を掲載した。 

    米国に不法入国するために、生命の危険を冒すことをいとわないインド人と中国人が毎年何万人もいる。米国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)の職員は2023年度に、インド人9万7000人、中国人5万3000人の「許可されない外国人」、すなわち米国への入国許可を得ていない人々に出くわした。この数は21年度と比べると、インド人が3倍強、中国人は2倍強に当たる。

     

    (1)「中国人とインド人は、米国への無許可入国者に占める割合がいまだに小さく、昨年は320万人のうち15万人にすぎなかった。これは、両国からの合法的な移民が大きな流れになっていることと合わせると注目に値する。中国とインドは長い間、米国の学生ビザ取得数で圧倒的多数を占めてきた。もっとも、中国人はインド人に比べて留学後に帰国する可能性が高い。昨年は、約5万5000人の中国人と6万9000人のインド人が選択制の実習を受けた。これは卒業後の1年間か2年間、実際に働くというプログラムで、米国内での就職につながるケースが多い」 

    中国とインドの留学生が、留学後に米国で1~2年働くプログラムで就職するケースは、両国で12万4000人になっている。 

    (2)「インド人と中国人は、他のどの国の国民よりも熟練労働者の米国での一時就労に必要なH1-Bビザを多く取得している。インド人に限っても、H1-Bビザの取得件数は毎年発給される8万5000件の半分以上を占めている。移民政策研究所によると、インド人は現在、米国内でメキシコ人に次いで2番目に大きな移民グループとなっている。中国人は3位だ。国連の推計によれば、2019年の世界人口の約3.5%(2億7200万人)は「出生国または市民権のある国以外で暮らす人々」と定義される移民だった。同年の移民の最大グループはインド人(1750万人)で、中国人はメキシコ人(1180万人)に次ぐ3位(1070万人)だった」 

    米国での移民グループは、1位メキシコ、2位インド、3位中国である。

     

    (3)「米移民研究センターのエグゼクティブ・ディレクター、マーク・クリコリアン氏の見方によれば、これはそれほど驚くことではないと指摘する。「彼らは世界で1、2位の人口の多い国だ。むしろ今後さらに多くの人々が国外へ出るだろう」。インドと中国は世界人口の36%を占めている。これに対し、世界の移民人口に占める両国の割合は10%をやや上回る程度だ」 

    インドと中国の人口が、世界に占めるウエイトからいえば今後、さらに増えるであろう。 

    (4)「こうした移民のパターンからは「アジアの世紀」を信じる人々が見落としがちな弱点が明らかになる。顕著な兆候の一つは、個人富裕層の国外流出だ。繁栄している国々は普通、資本と人材を引き付ける。それらを国外に追いやることはない。しかし、富裕層の外国居住権取得を支援する企業ヘンリー・アンド・パートナーズによれば、2022年に国外に移住した億万長者が世界で最も多かったのが中国で、その数は1万0800人だった。インドは7500人で、ロシアの8500人を若干下回って3位だった。香港を中国に含めると、22年に国外移住した世界の個人富裕層8万4000人の25%近くを中国人とインド人が占めた」 

    従来の観念で言えば、移民は経済的に貧しい国が「人減らし」という意味で行ってきた。現在は、億万長者が移民する事態だ。22年に、富裕層の移民で最も多かったのは中国であった。次いで、インドとロシアが占めた。

    (5)「中国の場合、社会の支配強化を目指す習近平国家主席による民間企業への締め付けが、こうした状況を招いている。中国の富裕層はかなり以前から米国・カナダ・英国・オーストラリア・シンガポールの金融資産や不動産に保有資金を移してきた。習氏の強硬な政策も富裕層を一層おびえさせているようだ。投資を通じて米国の永住権を得るEB-5ビザ取得者の国籍別の内訳では、中国人が最も多い状況が長く続いている。西側諸国のパスポートは、中国が再び政治的混乱に陥る場合に備える保険になっている」 

    投資を通じて米国の永住権を得るEB-5ビザ取得者は、中国人が最も多かった。 

    (6)「インド人が抱く懸念は中国人と異なる。インドの富裕層や最も教育水準が高い人々はしばしば、同国政府の統治面の不備が多いことを理由に国を離れている。彼らは、都市部の環境汚染、税務当局による嫌がらせ、標準以下の公衆衛生政策、劣悪な都市インフラから逃れたがっている。インドは昨年、EB-5投資家ビザの国籍別取得者数で2位となった。億万長者の流出に技術者や医師の流出を加えると、インドは毎年、最も生産性の高い人材のうちかなりの部分を失っていることになる」 

    インドの富裕層や最も教育水準が高い人々の移民理由は、貧しいインフラ投資への不満である。インドは、億万長者・技術者・医師などが米国へ移民している。最も生産性の高い人たちだ。

     

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    21世紀の20年間は、中国が世界経済発展に大きく寄与した。その中国も、「エンスト」を起こしている。過剰な債務を抱えて動きが鈍くなっているからだ。そこで、次なるスターとしてインドの役割に期待が掛っている。だが、「第二の中国」にはなりにくい制約条件も見え始めている。インドのモディ首相は、「5年以内にGDP世界3位」という目標を掲げている。それには、女性の労働参加率を高めて、貯蓄を増やすことが不可欠になっている。相当な難題である。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月26日付)は、「インドが『新たな中国』ではない理由」と題する記事を掲載した。 

    インドの今後を楽観視できる理由はいくつもある。人口では23年、中国超えを果たした。人口の半数以上は25歳未満だ。経済規模では近年、旧宗主国の英国を追い抜き世界5位に浮上、現在の成長ペースが続けば10年以内に世界第3位になるかもしれない。株式市場は8年連続で上昇している。西側と中国間の通商関係の悪化はインドの立場を利する一方だ。しかし、インドの前途は中国のそれとはかなり違って、より困難なものになる可能性がある。
     

    (1)「インドの労働資源は豊富だが、多くの障壁があり今も労働者と雇用主を結び付けるのは容易ではない。そのせいで家計も企業も、台湾や韓国といった「東アジアの虎」を一変させ貧困から脱却させたような投資ブームに欠かせない貯蓄を作れない。依然として高い貿易障壁も問題だ。インドが中国のような電子機器の組み立て拠点を目指しているならなおさらだ」 

    インドの弱点を一口で言えば、人口は世界一になったが、その豊富な労働力が「フル稼働」していないことだ。特に、女性が家庭に止まり賃金を稼ぐ「労働力化」していない点が大きな欠陥である。 

    (2)「国連によると、インドは2030年に世界の生産年齢人口(15歳から64歳の人口)の5分の1近くをインド人が占める見込みだ。世界銀行によると、同国の従属人口比率(家計への子どもや高齢者の扶養負担の大きさを測る指標)は、1967年には82だったが、2022年には47まで低下した。従属人口比率の低さは多くの場合、貯蓄や投資にプラスに働く。豊富な労働力のおかげで企業は労働コストを抑えることができる。家計は余った収入を子どもや親の扶養ではなく、投資に回すようになる」 

    インドの生産年齢人口比率が高まっており、従属人口比率が低下する「人口ボーナス期」に入っている。だが、この好機を生かしていないという大きな矛盾にぶつかっている。換言すれば、「働き手」が急増していても外へ出て賃金を稼ぐ人があまり増えない状態だ。

     

    (3)「残念ながら、インドは特に女性の労働参加の促進に苦労している。労働雇用省が昨年発表したデータによると、2022年度の時点で女性の生産年齢人口のうち、労働参加していた割合は30%ほどに過ぎなかった。この数字は2018年と比較すると約10ポイント高いが、依然として低中所得国の平均の約50%を大幅に下回っており、中国の71%とはさらに大きな開きがある。その上、2018年以降に女性の労働参加が改善したのは都市部より主に地方で、人手が不足している都市部の工場の助けにはほとんどなっていない。手厚い農業補助金や地方の食糧支援がその理由の一つかもしれない。多くの女性労働者が寮に住む中国と比べて、自宅を離れて住み込みで働くことへの許容度が低いことも原因の一つだろう。政府が、昨年調査した女性の45%は育児と家事があるために労働参加できないと回答した」 

    インドの女性は家庭に籠もっている。女性の生産年齢人口のうち、労働参加していた割合は30%ほどだ。中国の71%と比べて半分以下である。低中所得国の平均の約50%すら、大きく下回っているのだ。

     

    (4)「インドにとって貿易が一筋縄ではいかないことも問題だ。中国とは異なり、インドは人々が意見を主張する民主主義国家だ。国民の歓心を買うための保護主義的な措置は民主主義につきものだ。世界貿易機関(WTO)によると、2022年時点でインドの輸入関税は世界最高水準にあり、最恵国税率は平均で18.1%に上る。これに対して中国は7.5%、欧州連合(EU)は5.1%、米国は3.3%だった。こうした制約は、主に輸入部品を使用して製品を組み立てて輸出する製造業者にとっては煩わしいだろう」 

    インドは、関税率を引上げて保護貿易に徹している。インドの輸入関税は、世界最高水準で最恵国税率が平均18.1%にもなっている。中国の7.5%の2.4倍である。高関税率は、国内産業が過保護になって競争力が高まらないのだ。 

    (5)「インドの公的債務は、国内総生産(GDP)比約85%で、新興国の中ではブラジルに次ぐ2番目の高さだ。中央政府の資本支出は、今年度末までにGDP比3.3%というほぼ20年ぶりの高さに達する。こうしたペースでインフラ整備を続けるには、税収増や補助金の引き下げ、民間部門の関与の大幅な拡大が必要になるだろう。こうした状況を考えると、インドにとって、特に製造業への国外からの直接投資(FDI)を促すために、あらゆる手を打つことが極めて重要だ」 

    インドは、女性の労働参加率が低く民間貯蓄が少ない。こうして、政府債務によりインフラ投資を行い、需要不足をカバーしなければならない羽目に陥っている。この結果、公的債務が対GDP比で約85%と高い比率である。いずれ、この面で限界へぶつかる。今のところ、インドが主に消費とサービスが主導する経済であることに変わりない。

     

     

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    製造業大国を目指すインドは、労働者が工業に集まらず農業を選択する現実に苦悩している。農業の方が「実入り」がいいからだ。この結果、工業が空洞化しかねないと政府を慌てさせている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月13日付)は、「インドが目指す製造業大国 支える労働者は農業へ」と題する記事を掲載した。

     

    大勢の労働者が工場に押し寄せ、中国人の生活水準を向上させたのとは対照的に、インドでは早くも産業の空洞化が起きているようにみえる。政府の雇用統計を分析したところ、農業従事者が2019年以降増え続けていることが分かった。「インド経済で構造変化の逆戻りが起きている」。

     

    (1)「14億の人口を擁するインド(昨年、中国を抜いて世界一になったと推定される)の1人当たり平均所得は約2400ドル(約34万円)とバングラデシュよりも低水準だ。経済学者や工場経営者も、政府が世界最大規模の福祉プログラムと豪語する食糧プログラムが、一部の労働者にとっては農場にとどまる方が有利になる結果を招いていると指摘する。製造業があまりに精彩を欠くため、インド経済のけん引役はITや金融サービスなど多くの人手を必要としない産業が担っている。インド中央銀行によると、今年3月までの会計年度の経済成長率は7%程度の見込みだという」

     

    かねてから、インドは製造業が「鬼門」とされていた。普通の国では、農業から製造業へと発展するものだが、インフラ不足もあって製造業の発展に大きな制約があるという理由であった。だが、この記事では全く別の要因が挙げられている。農業発展が不十分で、労働力が製造業へ移らないという驚くべき事実である。こうなると、インド経済の発展論は相当に割り引く必要があろう。

     

    (2)「政府はコロナ下でロックダウンの影響を受けた人々を支援するため、毎月5キロの米または小麦の提供を開始した。対象者は8億人に上る。2024年春に総選挙が迫るなか、政府は昨年11月に同プログラムをさらに5年間延長すると発表。費用は1450億ドルだという」

     

    政府が、食糧不足をカバーするために農業を優遇している結果、労働力が製造業へシフトしないのだ。これでは、GDPの成長率に影響する。

     

    (3)「インド中部の都市インドールにある約1000の工場が集まる工業中心地で、鋳物や機械を製造するポルワル・オート・コンポーネンツの経営者デベンドラ・ジェイン氏は、コロナ前は約1000人の溶接工やスプレー塗装工、その他の熟練工が働いていたと語った。同氏によると、現在は約700人で操業しているが、輸送トラックや鉄道向けの部品受注をこなすのに苦労しており、サプライヤーも同様の問題に直面している。「労働者がなかなか見つからない」と同氏は言い、彼らが故郷の村で受けられる支援制度に人手不足の原因があると話す。「フル操業するのは今後も難しいだろう」と言う

     

    労働力が、農業に流れている現実が下線部で明らかにされている。

     

    (4)「インドの農業従事者の数は2005年頃から減り始め、2019年初めには過去最低の2億人弱まで落ち込んだ。以後その数は急増して2億6000万人を超え、農業雇用の最盛期だった20年前の数字と大差ない水準になった。彼らの多くは給料のためではなく家族の農場で働いている。都市部の雇用は、ほぼ同じ期間に900万人近く減少している。世界銀行によると、インドのGDPに占める製造業の割合は、20年前の約17%から2022年には13%まで低下。モディ首相が初当選する直前に比べて製造業の雇用はわずか500万人の増加にとどまり、現在は計6500万人となっている」

     

    インドのGDPに占める製造業のウエイトは、2002年の約17%が、22年には13%まで低下している。経済の教科書では、時間の経過とともに製造業のウエイトが増加するとしている。インドの事態は真逆である。

     

    (5)「大都市では、出稼ぎ労働者の間で長年にわたり不満が蓄積していたと、工場経営者や労働者は指摘する。雇用の伸び悩みが賃金上昇を抑える一方で、住居費や食費は上昇していたためだ。所得水準の低い州では小規模工場の労働者の手取り収入が月額1万~1万2000ルピー(約1万7000~2万円)だという。農村部では農業や副業のアルバイト、国民会議派の前政権下で始まった雇用プログラムの所得を合わせ、同程度の収入を得ている者もいる」

     

    製造業の生産性は、低いので賃金が上がらず労働者の不満が蓄積している。これでは、雇用が増えるはずもない。こうして、低い生産性によってインフレが起こり、労働者の生活苦を生んでいるのだろう。労働者は、農業へ移って行くほかない。悪循環が、起こっているのだ。この事態を改善するには、製造業へテコ入れして生産性を引上げることだ。

     

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    日本のバブル破綻を笑っていたドイツ経済が、大異変に見舞われている。人口高齢化からインフラの老朽化まで構造的問題を抱えているのだ。さらに、ウクライナ戦争、金利の上昇、国際貿易の停滞が追い打ちを掛け、かつてない不況へ追込んだ。 

    23年のドイツ経済は、先進国の中で経済成長が最も低迷するとの見方で一致している。同国で発行部数が最多のタブロイド紙ビルトは「助けてくれ。ドイツ経済が崩壊しつつある」と訴え、ショルツ首相に対策を取るよう呼び掛けた。世界第4位の経済規模を誇るドイツは、2四半期連続でGDPがマイナス成長となった後、23年4〜6月はかろうじて横ばいにとどまった。先進国中で、最も成長率が低迷している。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月3日付)は、「ドイツ不動産業、資金難で破綻相次ぐ 政府に支援求める」と題する記事を掲載した。 

    ドイツで支払い不能に陥る不動産開発大手が相次ぐなか、関連団体やエコノミストらは政府に対し、危機に見舞われた業界への支援を求めている。

     

    (1)「不動産各社は金利上昇、建設資材の値上がり、深刻な熟練労働者不足、新規需要の減退という災厄が重なる「パーフェクトストーム」の状況に直面し、業界全体が資金繰り難に陥っている。独キール世界経済研究所のモリッツ・シュラリック所長は「10〜15年続いた不動産ブームが終わりを迎えている」と話す。「今や毎日のようにデベロッパーが破綻する経済サイクルに入っている。もはや古い資金調達モデルは立ち行かない」と指摘する」 

    ドイツの対GDP輸出依存度は、38.25%(2021年)である。先進国で最高の依存状態だ。日本は、15.13%(同)とドイツの4割弱にとどまる。ドイツは、世界貿易停滞の影響を最も受ける状況にある。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の影響を大きく受けているほか、高金利も響いている。 

    (2)「Ifo経済研究所(ミュンヘン)のクレメンス・フュースト所長は「金利が急上昇し、建設案件の多くは採算割れしている」と指摘する。「住宅需要は総崩れになった」。状況の一段の悪化を予想する専門家もいる。独立系不動産会社と住宅メーカーを会員とする業界団体BFWのトップ、ディルク・ザレフスキ氏は「デベロッパー各社は物件の値上がりを見込んでいたため、今後も破産申請が増える」とみる。「巨額の債務を負っている企業ほど脆弱だ」と指摘する」 

    不動産危機では、西のドイツと東の中国が世界の双璧である。この両国は、経済面で密接な関係にあるが、同時に苦境という事態になった。輸出不振という面では共通している。

     

    (3)「ショルツ首相は年間40万戸のアパート建設を公約に掲げて就任しただけに、不動産業界の危機は問題だ。2022年の建設件数は29万5300戸にとどまったうえ、業界幹部は23年と24年はこの水準をさらに下回ると予測する。閣僚らは対策を講じている。ショルツ政権は8月下旬、ベルリン郊外のメーゼベルク城で2日間にわたって閣僚会議を開き、年間70億ユーロ(約1兆1000億円)規模の法人税減税を決定した」 

    ショルツ政権は、不動産業界への法人税減税を行っている。特定業界の救済で法人税減税が使われるほど、苦境が深刻ということであろう。 

    (4)「その中には、デベロッパーを対象とする減価償却方法の見直しも盛り込まれている。ゲイウィッツ住宅・都市開発・建設相は住宅建設の「本格的なテコ入れ」につながるはずだと強調した。だが、BFWのザレフスキ氏はルールを変更しても「焼け石に水だ」と吐き捨てた。建設業中央連合会(HDP)のティムオリバー・ミュラー会長も「これでは流動性不足という最大の問題が解消されない」と話す」 

    流動性不足、つまり資金繰りが苦しくなっている。カンフル剤を打たないと、続発する倒産を防げない事態になっている。

     

    (5)「ミュラー氏は住宅購入者向けの低利融資の拡大、新規物件に義務付けられている厳格なエネルギー効率基準の緩和、建設が止まっている案件の完工に向けた公的住宅機関への投資税額控除を求めている。同氏は、このうちいくつかをショルツ氏が月内に不動産トップを集めて官邸で開く会議で採用することに期待していると語った」 

    シュルツ首相が、不動産トップを官邸に集めて救済策を練るほどの窮迫ぶりである。 

    (6)「建設業はドイツのGDPの12%を占め、100万人近くを雇用している。経済の柱の一つと目されているが、深刻な不況から脱せずにいる。今年1〜6月の住宅着工許可件数は13万5200件と、前年同期から5万600件、率にして27%減った。Ifoによると、7月に受注不足を訴えたデベロッパーは40.%に上る。建設案件が中止になった企業は約18.%、資金繰りが苦しい企業は10.%だった」 

    ドイツ建設業はGDPの12%を占め、100万人近くを雇用している。こういう一大産業であれば、救済やむなしであろう。

     

    (7)「キール世界経済研究所のシュラリック氏は政府による介入を要請する。経済に刺激を与えるメリットも見込めるため、政府は大型の住宅建設刺激策を導入すべきだと話す。同氏は、「(このままでは)民間デベロッパーは今後2〜3年は住宅を建てられないので国、地方、公的部門が介入し、建設資金を出すべきだ」とし、国内に多数ある公的住宅機関を支援策の推進に活用したらいいと提案する。「早急に新たなアパートを建てなければならない。短期的な財政刺激策としてだけではなく、中長期的な成長促進策としても必要だ」。シュラリック氏はこう述べた」 

    民間デベロッパーは今後2〜3年、住宅を建てられないほど疲弊しているという。あの勤勉なドイツ人が、ここまで追込まれたのは経済環境の激変を意味する。早期の回復を祈りたいものだ。

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