日本のバブル破綻を笑っていたドイツ経済が、大異変に見舞われている。人口高齢化からインフラの老朽化まで構造的問題を抱えているのだ。さらに、ウクライナ戦争、金利の上昇、国際貿易の停滞が追い打ちを掛け、かつてない不況へ追込んだ。
23年のドイツ経済は、先進国の中で経済成長が最も低迷するとの見方で一致している。同国で発行部数が最多のタブロイド紙ビルトは「助けてくれ。ドイツ経済が崩壊しつつある」と訴え、ショルツ首相に対策を取るよう呼び掛けた。世界第4位の経済規模を誇るドイツは、2四半期連続でGDPがマイナス成長となった後、23年4〜6月はかろうじて横ばいにとどまった。先進国中で、最も成長率が低迷している。
『フィナンシャル・タイムズ』(9月3日付)は、「ドイツ不動産業、資金難で破綻相次ぐ 政府に支援求める」と題する記事を掲載した。
ドイツで支払い不能に陥る不動産開発大手が相次ぐなか、関連団体やエコノミストらは政府に対し、危機に見舞われた業界への支援を求めている。
(1)「不動産各社は金利上昇、建設資材の値上がり、深刻な熟練労働者不足、新規需要の減退という災厄が重なる「パーフェクトストーム」の状況に直面し、業界全体が資金繰り難に陥っている。独キール世界経済研究所のモリッツ・シュラリック所長は「10〜15年続いた不動産ブームが終わりを迎えている」と話す。「今や毎日のようにデベロッパーが破綻する経済サイクルに入っている。もはや古い資金調達モデルは立ち行かない」と指摘する」
ドイツの対GDP輸出依存度は、38.25%(2021年)である。先進国で最高の依存状態だ。日本は、15.13%(同)とドイツの4割弱にとどまる。ドイツは、世界貿易停滞の影響を最も受ける状況にある。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の影響を大きく受けているほか、高金利も響いている。
(2)「Ifo経済研究所(ミュンヘン)のクレメンス・フュースト所長は「金利が急上昇し、建設案件の多くは採算割れしている」と指摘する。「住宅需要は総崩れになった」。状況の一段の悪化を予想する専門家もいる。独立系不動産会社と住宅メーカーを会員とする業界団体BFWのトップ、ディルク・ザレフスキ氏は「デベロッパー各社は物件の値上がりを見込んでいたため、今後も破産申請が増える」とみる。「巨額の債務を負っている企業ほど脆弱だ」と指摘する」
不動産危機では、西のドイツと東の中国が世界の双璧である。この両国は、経済面で密接な関係にあるが、同時に苦境という事態になった。輸出不振という面では共通している。
(3)「ショルツ首相は年間40万戸のアパート建設を公約に掲げて就任しただけに、不動産業界の危機は問題だ。2022年の建設件数は29万5300戸にとどまったうえ、業界幹部は23年と24年はこの水準をさらに下回ると予測する。閣僚らは対策を講じている。ショルツ政権は8月下旬、ベルリン郊外のメーゼベルク城で2日間にわたって閣僚会議を開き、年間70億ユーロ(約1兆1000億円)規模の法人税減税を決定した」
ショルツ政権は、不動産業界への法人税減税を行っている。特定業界の救済で法人税減税が使われるほど、苦境が深刻ということであろう。
(4)「その中には、デベロッパーを対象とする減価償却方法の見直しも盛り込まれている。ゲイウィッツ住宅・都市開発・建設相は住宅建設の「本格的なテコ入れ」につながるはずだと強調した。だが、BFWのザレフスキ氏はルールを変更しても「焼け石に水だ」と吐き捨てた。建設業中央連合会(HDP)のティムオリバー・ミュラー会長も「これでは流動性不足という最大の問題が解消されない」と話す」
流動性不足、つまり資金繰りが苦しくなっている。カンフル剤を打たないと、続発する倒産を防げない事態になっている。
(5)「ミュラー氏は住宅購入者向けの低利融資の拡大、新規物件に義務付けられている厳格なエネルギー効率基準の緩和、建設が止まっている案件の完工に向けた公的住宅機関への投資税額控除を求めている。同氏は、このうちいくつかをショルツ氏が月内に不動産トップを集めて官邸で開く会議で採用することに期待していると語った」
シュルツ首相が、不動産トップを官邸に集めて救済策を練るほどの窮迫ぶりである。
(6)「建設業はドイツのGDPの12%を占め、100万人近くを雇用している。経済の柱の一つと目されているが、深刻な不況から脱せずにいる。今年1〜6月の住宅着工許可件数は13万5200件と、前年同期から5万600件、率にして27%減った。Ifoによると、7月に受注不足を訴えたデベロッパーは40.3%に上る。建設案件が中止になった企業は約18.9%、資金繰りが苦しい企業は10.5%だった」
ドイツ建設業はGDPの12%を占め、100万人近くを雇用している。こういう一大産業であれば、救済やむなしであろう。
(7)「キール世界経済研究所のシュラリック氏は政府による介入を要請する。経済に刺激を与えるメリットも見込めるため、政府は大型の住宅建設刺激策を導入すべきだと話す。同氏は、「(このままでは)民間デベロッパーは今後2〜3年は住宅を建てられないので国、地方、公的部門が介入し、建設資金を出すべきだ」とし、国内に多数ある公的住宅機関を支援策の推進に活用したらいいと提案する。「早急に新たなアパートを建てなければならない。短期的な財政刺激策としてだけではなく、中長期的な成長促進策としても必要だ」。シュラリック氏はこう述べた」
民間デベロッパーは今後2〜3年、住宅を建てられないほど疲弊しているという。あの勤勉なドイツ人が、ここまで追込まれたのは経済環境の激変を意味する。早期の回復を祈りたいものだ。