勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    インドは、これまで平然とロシアの割安原油を購入し続けていたが、トランプ政権登場で米国から原油や液化天然ガスの輸入へ切替えるなど、掌返しの動きを始めている。バイデン政権は「怖くなかった」が、トランプ政権になって反作用を恐れ方向転換した形だ。

    『日本経済新聞 電子版』(2月14日付)は、「トランプ氏、対印赤字減へ石油輸出拡大で合意 首脳会談」と題する記事を掲載した。

    インドのモディ首相とトランプ米大統領は13日、米ワシントンで会談した。トランプ氏は対インドの貿易赤字を縮小することで合意したと表明した。具体策として、米国から石油・天然ガスや防衛装備品の輸出を拡大すると確認した。


    (1)「トランプ氏は会談後、モディ氏との共同記者会見に臨み「防衛面での協力を深めると同時に、経済も強化して貿易関係の公平さと相互性を高める」と語った。インドの高関税を「大きな問題だ」と批判し、インドに輸出する米国製自動車には70%もの関税が課せられているため「販売は不可能だ」と決めつけた」

    米国、これまでインドに対して腫れ物に触るような慎重さがあった。余り踏みこんで、インドをロシア側へ追いやることを警戒していた。トランプ政権になって、すっかり強気の姿勢で貿易赤字解消を迫っている。まさに、「トランプ流」だ。

    (2)「米国の対印貿易赤字を是正する方針で一致した。米政府高官は、年内の貿易協定の締結をめざすと明言した。トランプ氏は、エネルギー輸出を増やし「米国がインドにとって石油とガスの主要供給国として復活し、ナンバーワンの供給国となると期待している」と話した。トランプ氏は、インドからイスラエルやイタリアを経由して米国を結ぶ貿易ルートの構築も申し合わせた。「港湾、鉄道、海底ケーブルでパートナー関係を築く。莫大な資金が投入される」と説明した」

    インドからイスラエルやイタリアを経由した貿易ルートは、IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)構想である。IMECは23年9月、ニューデリーで開催した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、モディ首相とバイデン米大統領が明らかにした巨大インフラプロジェクトである。中国の「一帯一路」へ対抗するもので、インド経済が欧州・中東と結びつく上で欠かせないルートになる。


    今年1月にIMECは、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し覚書に署名した。インド洋からアラビア半島に向かい、UAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを通過して地中海や欧州に至る経済回廊を築く。総距離は、陸上と海上を含めて7000~8000キロメートルとされる。一帯一路は、8000~1万キロメートルとみられるのでIMECが有利な立場とされる。このルートを米国までつなげる構想だ。

    (3)「今秋には、インドでクアッド首脳会合を予定する。会談に先立ちトランプ氏は、「インドは伝統的に最も高い関税を課している国だ」と言及した。米政府高官は、年内にインドとの貿易協定の締結をめざしていると明かした。拡大する対印貿易赤字の削減を念頭に「公平な2国間の貿易体制」の構築を探る」

    インドの対米貿易黒字は、457億ドル(24年)である。ただ、インドの平均関税率は17%と群れを抜いて高く、インドは米国の要請に答えざるを得ない事情にある。


    (4)「トランプ氏は、これまでインドを「Tariff King(関税王)」と、その保護主義的な姿勢を非難してきた。インド側は今月1日に発表した2025年度予算案で、米国からの主要輸入品である高級バイクや自動車、スマートフォンの部品などの関税引き下げを盛り込み首脳会談に備えていた。インド商工省によると、同国にとって米国は最大の輸出相手国である」

    インドは、トランプ政権の強腰政策を見込んで、高級バイクや自動車、スマートフォンの部品の関税引下げを実施ずみだ。

    (5)「トランプ政権は対中国抑止へ「米国のインド太平洋戦略にとってインドは重要な国のひとつ」(米政府高官)と位置づけ、サプライチェーン(供給網)構築などで足並みをそろえたバイデン前政権の方針を踏襲する。インドのプーリー石油・天然ガス相は12日、日本経済新聞との会見で「インドはより多くのエネルギーが必要で、米国はより多くの輸出を望んでいる。それならば、我々のような『潜在的輸入国』は当然、米国と話し合う」と原油や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大の意思を明確にしていた」

    インドは、米国から原油や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大方針を明らかにしている。


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    ドイツのショルツ首相は25日、訪問先のインドでモディ首相と会談し、安全保障政策で協力を深めることで合意した。ドイツ製潜水艦のインド輸出も視野に入れている。ドイツ海軍の艦隊が9月に、台湾海峡を通過した。ドイツは、アジアの安保体制にかかわり、中国をけん制する姿勢が一段と鮮明にしている。

     

    インドのモディ首相は10月24日、中国の習近平国家主席と会談した。両首脳の正式会談は5年ぶり。2020年にインド北部ラダック周辺で衝突して以来、冷え込んでいた両国の関係が改善し始めたことを示唆した。

     

    インドは、中国との緊張緩和を進める一方で、ドイツの軍事協力も強化する「二刀流」外交を行っている。インドは、非同盟が外交原則であるものの本質的な「中国警戒」が外交基本にある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「ドイツがインドと安保協力、首脳会談 潜水艦輸出も」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「独印両国は25日、ニューデリーで「政府間協議」を開いた。両国首相のほか、経済・気候相など主要閣僚のほぼ全員が参加する実質的な合同閣議となった。安保・通商・気候変動・人材交流など広範な分野での協力を確認し、双方が合意文書に署名した。具体的には、外交・安保での連携強化に加え、欧州連合(EU)とインドの自由貿易協定(FTA)の交渉加速や、高度人材のEUでの受け入れなどが盛り込まれた」

     

    ドイツは、インドとの幅広い交流を進める基本方針を立てている。日独協力の輪をさらにインドへ広げる戦略である。ドイツ海軍艦艇が、台湾海峡を通過するなどインド太平洋戦略へ肩入れしている。

     

    (2)「ショルツ氏は協議前、中国の南シナ海などへの海洋進出を批判し「対立が沈静化することを願う」と語った。モディ氏も「インド太平洋は世界の安定にとって極めて重要だ」と応じた。ドイツは協議に先立って、対インド政策の基本指針となる「インド集中」と題する文書を閣議決定した。インドを「地域安定に影響力のある国」と位置付け、「緊密に協力」すると公約した。さらにドイツは「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した」

     

    ドイツは、インドを「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した。ドイツの並々ならぬインド接近政策の表れである。ドイツにとって、インド太平洋地域は経済発展の重要地域である。それだけに、独印関係の強化は重要である。

     

    (3)「ドイツ海軍は現在、インド太平洋に展開中で、26日はインド南部ゴアに寄港する。こうした軍事交流を拡充するほか、潜水艦のインド輸出を視野に入れる。ドイツはスペインとともに通常型潜水艦6隻の受注を目指しており、交渉は最終局面とされる。ドイツは冷戦中にインドに潜水艦を納入した実績がある。再度の輸出なら軍事面での協力が一気に深まるとドイツ側は期待する」

     

    ドイツ海軍は26日、インド南部ゴアに寄港する予定だ。こうした、セレモニーを通して関係強化を図る。ドイツは、潜水艦のインド輸出を視野に入れている。

     

    (4)「ドイツのインド接近には3つの狙いがある。まず、アジア安保に積極的にかかわり、中国をけん制する。2つ目は中国に依存する経済のデリスキング(リスク低減)だ。今回は独企業の経営陣が一堂に会する「アジア・パシフィック会議」をインドで同時開催した。ハベック副首相兼経済・気候相は日本経済新聞などに対し「独企業は進出先を多様化させる必要がある」と語った」

     

    ドイツのインド接近目的は、これまでのドイツの中国依存度を減らして、インドとの関係構築にある。インドは自由主義圏であり、政治リスクがないのだ。

     

    (5)「3つ目は、インドとロシアの軍事交流にくさびを打ち込むことだ。ドイツが、フランスやスペインなどと協力しながら、インドへの武器輸出を拡大すれば、インドがロシア依存を減らすのではないかとの思惑がある。もっともグローバルサウスの中核であるインドには、EUになびくつもりはない。モディ氏はショルツ氏に会う直前までロシアに滞在し、主要新興国で構成するBRICS首脳会議に出席していた。印シンクタンクORFのスワティ・プラブ研究員は「典型的なインドのバランス外交」と説明する」

     

    ドイツは、インドへ武器輸出を増やす狙いもある。印ロの固い関係の裏には、インドのロシアへの武器依存がある。ドイツには、時間をかけてインドへ武器輸出を強化する狙いが込められている。

     

    (6)「インドは、国連での対ロシア非難決議案で棄権に回るなど「中立」の立場を貫く。また割安なロシア産石油を買い増し、西側の対ロ制裁の効果を薄めている。今回の独印会談でウクライナ支援を続ける欧州勢との関係を重んじていることを示し、外交上の均衡を保つ狙いがある」

     

    インドは、外交巧者である。非同盟を旗印にしており、外交的利益を得る目的だ。

     

     

     

     

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    中華再興とヒンズー教

    中国を自由に操る習氏

    印度はカースト制残滓

     

    世界経済は、あと数年もすればGDP3位にインドが座ると予測されている。米国、中国、インドが「3大GDP国」という構図だ。中国とインドは「経済強国」の印象だが、実態は内部に大きな難題を抱えた国家である。人口増が生み出した経済成長であり、生産性の伸びによる成長でないからだ。 

    これら二国は、人口が14億人台で世界トップである。この巨大人口の「人海戦術」が、築きあげた経済でもある。インドは、すでに人口規模で中国を抜いて世界1位にある。だが、インドは中国と同様に、歴史的な脆弱性を抱えている。古代からの価値観が、現代を著しく支配しているのだ。こうした性格の経済が、インドと中国であることに注目すべきであろう。 

    中華再興とヒンズー教

    中国は、強引な「一人っ子政策」で人口急増を食止めたが、逆に今はその反動に悩まされている。出生率の急減である。すでに起こっている労働人口の減少が、これからGDPを直撃する。こういう急激な出生率の変動は、中国の政策が将来を洞察することのない、場当たり的ものであることを裏付けている。事前に予測するという合理性に欠けているのだ。 

    インドのモディ政権は、先の総選挙によって与党・人民党が議席の過半数を割込んだ。地方政党を呼び込んで連合与党をつくり、辛うじて政権を維持する結果になった。理由は、これまでの強権的な政治手法が批判されたのだ。こうして、モディ政権は路線変更を求められているが、インド経済の将来性にいくつかの疑問を抱かせている。それは、インドの経済成長に一筋縄でいかない厳しい要因が存在しているからだ。

     

    具体的には、歴史的に形成されてきた制度要因が大きな影を落としている点にある。この「歴史の影」を取り除かないかぎり、インドの経済成長路線は不安的なものとなろう。モディ氏は、選挙運動期間中に「ヒンズー教の価値観を守る」としたが、インド国民の約2割はイスラム教である。ヒンズー教は8割である。インドは多民族国家だ。そのインドで、一つの宗教の価値観で国家を律することは極めて困難である。それにも関わらず、モディ氏は、ヒンズー教を高く掲げている。 

    実は、中国もこれに似た目標を掲げている。習近平国家主席が、「中華再興」を叫んでいることだ。具体的には、清国時代に占めた世界の経済的地位を復活させようというものである。当時の清国は当然、農業国家である。世界のGDPの4分の1程度のシェアを占めていたとされるが、現代は工業化・情報化の時代だ。科学知識の蓄積が、経済成長を左右する時代である。 

    こういう状況変化を忘れて、単純に過去の自国地位へ回帰しようとするのは時代錯誤と言うほかない。習近平氏の行動パターンには、清国皇帝のビヘイビアがみられる。領土拡張と鎖国主義だ。これは、秦の始皇帝以来の価値観を受け継いだものでもある。古代からの価値継承と言える現象だ。 

    ここで、インドと中国の共通項を要約すると、次のようになろう。

    1)発展途上国特有の人口大国である。

    2)古代からの価値観に深くとらわれている。

    3)制度改革を進める文化的要因が見当たらない。

     

    ここで若干の補足をしておきたい。人口は、絶対数が国運を決めるものでないことだ。総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率が、上昇する段階では経済成長にプラス(人口ボーナス)となる。逆にこの比率が、下降する段階では経済成長にマイナス(人口オーナス)となるのだ。 

    経済成長にマイナスになる局面で重要なのは、積極的に制度改革を行う文化的な要因の有無である。それには、古代からの価値観にとらわれない柔軟さが前提になる。残念ながら、中国は清国皇帝と同じで、国民に選挙権も与えずに専制主義を貫いている。 

    インドは現在、人口増加が経済成長にプラスになる局面にある。この貴重な時期が、「ヒンズー教の価値観重視」という姿勢で揺れている。ヒンズー教は、カースト制を生み出した宗教である。このカースト制は、インド憲法で「差別」することを禁止したが、制度そのものは禁止されなかった。これによって、職業選択への影響が出ている。インドもまた、過去の価値観から抜け出せないでいるのだ。

     

    中国を自由に操る習氏

    次に、中国とインドの個別問題を取り上げたい。中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、政策転換が行われた。市場経済から計画経済へ、改革開放から「反スパイ法」による国内締付けへと180度の大転換である。これは、習氏が終身国家主席を狙っていることが動機になっている。 

    個人的な事情を言えば、実父の習仲勲がトウ小平の反対で首相職に就けなかったという思いが、トウ小平の改革開放路線に反対する理由の一つになっている。トウ小平を否定することが、実父の「怨念」を晴らす道であったのだ。習氏は、精華大学卒業後の就職先が人民解放軍である。この就職では、実母が奔走したなど家族ぐるみで官途を目指していたのである。最初から、政治を志していた。(つづく)

     

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    インドGDPは、表面的には8%台成長であるが、民間の投資と消費が脆弱であることからGDP統計自体に懐疑論が出ている。モディ政権にとっては、なんとも不名誉な話だ。統計も正確に出せないのかと冷笑を買う事態である。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月4日付)は、次のように分析している。

     

    インドのGDP算出方法では、成長の強さが実際より大きくなる可能性がある。公式統計に含まれない巨大な非公式経済の弱さを十分に反映してないことが一因だ。また、民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じていないようだ。米ピーターソン国際経済研究所の上級研究員で元モディ政権首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏は、「もし、人々が経済に対して楽観的なら、もっと投資して消費するだろう。実際にはどちらも起きていない」と指摘した。統計改ざんとは言わないまでも、正確な統計が発表されていないと言うのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インド株の『期待と実態』投資戦略修正の時」と題する記事を掲載した。

     

    インド総選挙を受け、モディ首相の3期目入りが決まった。もっとも与党連合(NDA)は議席数を大幅に落とし、これまでのようなトップダウンの経済改革が進むかどうかへの警戒が浮上している。人口増などによる長期的な成長期待は揺るがないものの、市場関係者にとっては投資戦略を修正させる必要があるかもしれない。

     

    (1)「モディ政権は過去10年、物品サービス税(GST)の整備を進めるなど、経済改革を推進めてきた。経済の効率性が高まるとの期待感は、海外マネーをひき付けるファクターとして働いてきた。3期目では、閣内外で関係者の声が強くなり、調整が必要になる。独断専行は通じなくなっている。さらに、解決すべき課題はまだ山のようにある。インフラ投資やデジタル化などは手掛けやすい改革だ。だが、農産物流通の規制緩和など農業改革は反発が根強く遅々として進まない。関連法案が成立しながら廃案にするなどの混乱も生じている。銀行など政府系企業の民営化もゆっくりだ。様々な企業で政府による出資比率の低下がみられるが、一気に株式を放出するようなケースはみられない」

     

    下線部分は、インド経済の弱点である。いわゆる、農産物流通の規制緩和など「構造改革」が進まないのだ。

     

    (2)「市場が、インドを評価するうえで注目してきたのは国内総生産(GDP)成長率だ。中国経済が落ち込む一方で高い成長率を維持してきた。だがこちらも気がかりな点がある。まずは統計の問題だ。インドの2024年1〜3月期の実質GDPは前年同期比で7.%増だった。一方、総付加価値(GVA)は6.%増だった。いわゆるGDP「三面等価」の原則に立てば、支出を示すGDPと生産を示すGVAは同じになるはず。だが乖離(かいり)が生じている。農薬などへの補助金が減った影響とされている。ただ、市場の一角では政府のGDP統計は成長率が実態よりも高めに出されているのではないかという「懐疑論」すらくすぶっている。23年10〜12月期もGDPが8.%成長、GVAが6.%増だった」

     

    インドのGDP統計は、支出を示すGDPと生産を示すGVAが一致しないという「恥」をさらけ出している。これは、インド統計当局の「技量」を疑われる事態だ。この事実に気づかずに、GDP統計を発表していたとすれば「天下の恥」になる。23年10〜12月期もGDPが8.%成長、GVAが6.%増だった。どちらの数字が正しいのか。

     

    (3)「もちろん、まだ疑惑の域を出ていない。一方で、高いGDP成長率を志向するようなこれまでの政策にきしみがあるのは事実だ。失業率の高さが指摘されている。特に大卒など若年層の失業率の高さが目立ち、社会問題となっている。インフレとあわせて今回の総選挙の争点となっており、この点が与党連合のアキレス腱(けん)だった。まさに足をすくわれることとなった」

     

    GDP統計の不一致は、偶然なのか故意なのか、真相は不明である。「真理は中間にある」という訳にいかないのだ。

     

    (4)「バンク・オブ・シンガポールは、今回の総選挙の結果はインド経済にとってむしろポジティブとの立場を取る。「政策当局者がよりインクルーシブ(包括的)な成長モデルを取るようになり、消費の回復につながるだろう。このまま『投資けん引型』の成長を続けていたら、今後数十年で中国のようなアンバランスな格好になってしまう」とする。HSBCのインド株式戦略担当者は、5日付のリポートで「政府系企業や産業セクターは調整が起こるかもしれない」と指摘した。特に政府系企業はインフラ投資の加速への期待感から昨年来大幅に上昇してきた。調整の兆しはすでにあり、4日のインド株大幅安でもっとも下げが大きかったのはこれらの銘柄群だ」

     

    GDP統計に過誤があるように、経済政策にも齟齬が多い。モディ政権は、今回の議席減少をどのように今後の政策に生かすのか。世界が注目している。

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    米国は、対中貿易赤字縮小を政策目標に掲げている。だが、中国から米国へのダレクトナ出荷が減った分は、ベトナムやメキシコといった第三国を経由することで増えている。トランプ政権が、2018年に約3000億ドル(約45兆円)相当の輸入品に関税を課して以来、中国企業は課税を回避するためにメキシコやベトナムなどにある新工場への投資を増やしてきたのだ。この流れは、太陽光発電でもみられる。

     

    インドの太陽光発電産業を後押しする米国の取り組みは、中国での強制労働によって製造された部品の輸入を阻止する「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を骨抜きにしている可能性がある。米国は、この事実に気づいていない。

     

    『ブルームバーグ』(2月7日付)は、「中国の太陽電池、インド経由で米国に流入ー強制労働防止法の抜け穴か」と題する記事を掲載した。

     

    インド最大のソーラーメーカー、ワーリー・エナジーズが、強制労働を巡る懸念から米市場への流入を何度も拒否された中国企業の部品を使った数百万枚のパネルを米国に送っていることが、ブルームバーグ・ニュースが調べたインドと米国の輸入記録で分かった。

     

    (1)「これらの部品は、中国の西安に本社を置く世界最大のソーラーメーカー、隆基緑能科技がマレーシアとベトナムの工場で生産した太陽電池で、テキサスなど米国の州で太陽光発電所を覆い尽くすワーリー製のソーラーパネルに使用されている。米国は中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族を強制的に働かせているとし、関連製品の輸入を禁止。ワーリーのパネル出荷は、米税関・国境警備局(CBP)がこうした措置をどのように執行しているのかという疑問を提起している。CBPは禁止措置の執行を2022年6月に開始後、中国系企業が製造したソーラーパネルの一部出荷を止めている」

     

    インド最大のソーラーメーカーであるワーリー・エナジーズが、中国に本社を置く世界最大のソーラーメーカー隆基緑能科技のマレーシアとベトナム工場で生産した太陽電池パネルを米国へ輸出するソーラーパネルに使用されているという。中国の隆基は、マレーシアとベトナムの工場で生産したパネルをインドのワーリーへ輸出するという「ロンダリング」を行っているという指摘がされている。

     

    (2)「中国企業を規制する米国の政策は、インドのソーラーメーカーにチャンスをもたらした。ブルームバーグNEF(BNEF)がまとめたデータによると、インド勢による対米パネル輸出額は昨年1-11月に約20億ドル(約3000億円)に膨らみ、22年通年の5倍となった。太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書を共同執筆したローラ・マーフィー氏は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と同年10月時点で指摘。同氏はその後、国土安全保障省の税関執行顧問に起用された」

     

    太陽光発電のサプライチェーンに関する23年8月の報告書は、「『インド製』と書かれたパネルでさえ、ウイグルの強制労働に絡んでいる可能性がある」と指摘している。これは、ありそうな話である。中国企業が、そこまで法的に遵守しているとは考えられないからだ。

     

    (3)「同氏の報告書によれば、中国にある複数の供給元からのポリシリコンはしばしば混合されるため、隆基の東南アジア工場で製造されたパネルには、少なくとも一部で新疆ウイグル自治区からの材料が用いられている「非常に高い」リスクがあるという。同社はマーフィー氏の報告書に対し、米市場向けに中国産以外の材料のみを使用する別のサプライチェーンを構築したと説明している。中国当局が少数民族であるウイグルの人々を拘束したり、工場で強制的に働かせたりしているという世界的な懸念から、米国は21年12月にUFLPAを制定。中国政府は新疆ウイグル自治区における人権侵害を否定し、同自治区の政策は教育や過激派の一掃、貧困の緩和が目的だと主張している」

     

    中国の特技は、「抜け穴探し」である。WTO(世界貿易機関)に加盟後、抜け穴探しで生産補助金を使ったダンピング輸出に成功してきた国である。必ず、「裏技」を使ってくると警戒しなければならない。



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