勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    EU(欧州連合)とインドは1月27日、自由貿易協定(FTA)交渉で妥結した。人口や経済規模で世界の2割を超す巨大な自由貿易圏が誕生する。これで、EUは念願の脱中国を一歩進める。同時に、米国の関税政策に振り回される影響度も下がる。

     

    約20年に及ぶ交渉の末、2026年1月27日に妥結した。 双方の輸出品の大半で関税が撤廃・削減され、20億人規模の自由貿易圏が誕生する。世界GDPの約25%、世界貿易の3分の1をカバーする。 モディ首相は「世界の人々があらゆる協定の母と呼ぶだろう」と述べた。双方とも90%台後半の関税を撤廃することになった。

     

    中国にとっての痛手は、EUが「一帯一路」構想の周縁国が接近したことだ。 インドは、中国と国境問題を抱えつつ、経済面ではEU・米国との連携を強化する。これは、中国の地政学的包囲網を強める動きとなる。EUが、インドを中国の代替供給地と見なすことで、中国の輸出主導モデルに打撃を与える。中国は、「世界の工場」としての地位が揺らぐことになるだろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月27日付)は、「EUとインドがFTA妥結 人口規模20億人、広がる『米抜き貿易圏』」と題する記事を掲載した。

     

    EUのフォンデアライエン欧州委員長とコスタ大統領が27日、インドのモディ首相とニューデリーで会談した。2007年に開始したFTA交渉の妥結で合意に達した。EUは発効に必要な正式署名に向け、加盟国による承認手続きに入る。

     

    (1)「欧州委員会によると、インドはEU製の自動車に課す関税に関して、年25万台の割当枠を設けたうえで現在の110%から10%まで段階的に引き下げる。自動車部品の関税は5〜10年後になくす。22%かかっている化学品や11%の医薬品に対する関税もほぼ撤廃する。EU産の農産品の関税も下げる。フランスなどが強みを持つワインの関税率を150%から段階的に20%まで削減する。最大50%だったパスタやチョコレートなど加工食品への関税は撤廃する。インド商工省の声明によると、EUは取引商品の99.5%の関税を引き下げる。インドの水産物や皮革・繊維製品、宝石・宝飾品などは関税をゼロにする。双方は欧州で農家の反発が予想される牛肉など一部農産品を関税引き下げの対象から除外するなどし、折り合った」

     

    インドは、これまで関税引下げに頑な姿勢を貫き、保護貿易に徹してきた。それが一転して、EUの対インド輸出の96.%が関税撤廃・削減する。 自動車、産業製品、ワイン、チョコレートなどが対象だ。インドとしては、大英断である。それだけ、EU市場が魅力的に映るのだろう。

     

    (2)「フォンデアライエン氏は、27日発表した声明で、FTAについて「世界最大の民主主義国間のパートナーシップを深化させる」と意義を説明した。「ルールに基づく協力が依然として大きな成果をもたらすことを世界に示した。これは始まりにすぎない」と成果を誇った。EU加盟国とインドの人口は合計で約20億人に上り、日本や英国が参加する包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)の5億9000万人を大きく上回る。世界の名目GDP(国内総生産)に占める割合も21%と、14%のCPTPPより高い。交渉は20年近い時間を要した。妥結へEUとインドを駆り立てた一因として、トランプ米大統領の存在がある。なりふり構わず高関税政策を振りかざすトランプ氏への不満が両者を近づけた」

     

    FTA交渉は、20年近い時間を要した。インド側が関税撤廃に決断が付かなかったのであろう。だが、トランプ関税という「爆弾」がEUへ接近させた。

     

    (3)「EUは、サプライチェーン(供給網)の中国依存を和らげようと動いてきた。最近では「脱米国依存」の必要性を巡る議論も広がり始めた。有力な貿易パートナーを増やそうとするのはその一環と言える。インドとの妥結に先立ち、17日には南米5カ国でつくる関税同盟メルコスル(南米南部共同市場)とのFTAにも署名した。CPTPPとの連携も提起する。EUのモノに限った貿易をみると、インドの割合は2.%程度という。EU高官は、15%近くを占める中国と比べ「大きな伸びしろがあり、未開拓の潜在力をFTAで解き放てる」と見込む」

     

    EUは、サプライチェーンの中国依存を引下げる一歩となる。最近では「脱米国依存」の必要性も出てきた。世界の名目GDPに占める割合は、21%と膨らむ。EUとインド双方にとって好結果が期待される。

     

    (4)「EUは、インドの高度人材も欧州に取り込む。今後加盟国と調整し、テック人材などがEU域内に移動しやすくする措置も検討する。トランプ政権が外国人材の就労環境を厳しくするなか、欧州の技術革新に向けてインドの有能人材を獲得する好機とする。EUとインドは新たに「安全保障・防衛パートナーシップ」を結ぶことでも合意した。EUがこうした関係をアジア地域で締結するのは、日本と韓国に次いで3カ国目となる。偽情報やサイバー攻撃など地理的な制約をこえた脅威に共同で対処できる能力を高める。防衛産業協力を進めるための枠組みも設け、双方の防衛関連企業による連携案件を増やす方向で協議する」

     

    EUは、インドの高度人材を取り込めるメリットがある。米国が、業務ビザ取得に法外な料金を課しただけに、これからはEUへ向うだろう。

     

     

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    トランプ米大統領は6日、インドからの輸入品に合計で50%の高関税を課すと発表した。米印関係が広く改善してきた時期に急ブレーキがかかった形で、モディ氏は難しい立場に立たされている。米印は、「クアッド」(日・米・豪・印)4ヶ国の同士国である。インド太平洋戦略において、対中戦略で共同歩調を取る間柄にも関わらず、インドがロシアの原油を輸入していることから、米国が既存関税と合せて50%関税を課すことになった。この問題は、どのように解決するのか。中国は、これをみてほくそ笑んでいるであろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(8月8日付)は、「『絶対妥協しない』か『降伏』か モディ・インド首相の対米貿易戦略」」と題する記事を掲載した。

     

    米調査会社ユーラシア・グループのインドアナリスト、ラフル・バティア氏は「モディ氏は米印関係に多くを投じており、貿易協定が早期に締結されることを望んでいるが、特に国内では米国の圧力に屈したと見られるわけにはいかない」と解説した。

     

    (1)「インド野党は、すでにトランプ氏に立ち向かっていないとして首相を批判しており、モディ氏自身の支持基盤も「もはや米大統領に好意的な意見を持たなくなった」と言う。トランプ政権は、インドによるロシア産原油の購入が、ウクライナでのロシアの戦争の資金になっていると主張している。そうした原油購入への対抗措置として、米政権はインドに対し世界でも最高水準に入る関税率を示した」

     

    米国は、ロシアのウクライナ侵攻を停戦させる手段として、ロシア産原油を輸入しているインドへ制裁関税を課した。

     

    (2)「モディ氏は、トランプ氏の圧力に抵抗しているように見られながら、インド最大の貿易相手国である米国との関係を修復する方法を見つける必要があり、そのバランスを取らなければならないとアナリストは指摘する。首相として現在3期目に入ったモディ氏に対して、めったに真剣な攻勢をかけることのない野党の政治家は、突破口を見いだしている。ホワイトハウスが6日、インド製品に対する関税率を50%に引き上げると発表した後、インド議会で野党を率い、インディラ・ガンジー氏の孫でもあるラフル・ガンジー氏は「モディ首相は自分の弱さがインド国民の利益を害するのを許してはならない」と書いた」

     

    インド最大の輸出先は米国である。それだけに、50%関税は手痛い打撃になる。感情論で対立しているわけにはいかないのだ。

     

    (3)「関税の脅しを受け、インドではトランプ氏への敵対心が強まっている。トランプ氏が最近になってロシア政府に対する態度を硬化させるまで、米政府はインドによるロシア産原油の購入を容認してきた経緯があり、トランプ氏が原油購入を巡ってインドをやり玉に挙げたことに多くの人が憤慨している。インドのシャム・サラン元外務次官は「ロシア産原油の購入がそれほどの大問題ならば、彼(トランプ氏)はなぜ中国による原油購入について何も言わないのか」と問いかける。「なぜインドに対してだけ行動に出たのか」と指摘」

     

    米国は、これまでインドのロシア産原油輸入について黙認していた。しかも、同じロシア産原油輸入国の中国は「お咎めなし」である。この不公平な姿勢にも怒りを募らせている。

     

    (4)「外交上、世界でも特に重大な2国間関係であり、最近まで台頭する中国に対する防波堤と見なされていた米印間の騒動は、トランプ氏がホワイトハウスでモディ氏を温かく歓迎し、同氏のことを「素晴らしい友人」と称してから6カ月もたたないうちに勃発した。両国は2月、2国間貿易協定の第1弾を秋までに交渉するとともに、2国間貿易の規模を2倍以上に拡大し、2030年までに5000億ドル(約73兆6000億円)に引き上げると表明した。モディ氏は6月、ニューデリーで年内に予定される日米豪印の安全保障枠組み「Quad(クアッド)」首脳会合にトランプ氏を招待しており、貿易協定の第1弾がその場で調印されるとの臆測が飛び交った」

     

    年内には、ニューデリーで日米豪印の首脳会談が予定されている。早急に、米印の対立を収束させねばならない。

     

    (5)「だが、両国の関係はすでに悪化し始めていた。きっかけはトランプ氏が5月、カシミール地方のインド支配地域でのテロ攻撃を受けて始まったインドとパキスタンの戦闘を停止させたのは自分だと主張したことだった。米国とインドの貿易交渉について説明を受けた複数の関係者によると、トランプ氏は停戦を仲介するために貿易を交渉材料として使い、隣り合うアジアの核保有国間で起きた数十年ぶりの規模の衝突を終わらせたと主張していたが、自身の主張をモディ氏が公然と否定したことにいら立っていたという」

     

    米印対立の導火線は、米国がインドとパキスタンの国境紛争を収束させたことに対する、インドの「謝意」がなかったことだ。

     

    (6)「7月初旬には草案段階の貿易協定が、インドと米国の交渉担当者の間で合意された。だが、署名されないままトランプ氏の机に放置された。米関係者は、「彼(トランプ氏)の関与がなければ核戦争に発展しかねなかった今回の激しい紛争で停戦を確保するために、彼はインド、パキスタン両国との関係を使った」とコメントした。カーネギー国際平和財団の傘下組織カーネギー・インディアのルドラ・チャウドリ所長は、「米大統領は今でも、紛争の仲裁の解釈についてインドが公の場で同氏のエゴを満たしてやらなかったことに腹を立てていると思う」と話す。「現在の私の見立てでは、誰もが自分の立場を頑として貫くことになるだろう。(事態を打開する)道筋を見つける必要がある」と指摘」

     

    トランプ氏は、ノーベル平和賞を狙っている。インド、パキスタンの停戦は、重要な受賞ポイントになるだけに、インド側の態度に立腹している。

     

     

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    インドは、これまで平然とロシアの割安原油を購入し続けていたが、トランプ政権登場で米国から原油や液化天然ガスの輸入へ切替えるなど、掌返しの動きを始めている。バイデン政権は「怖くなかった」が、トランプ政権になって反作用を恐れ方向転換した形だ。

    『日本経済新聞 電子版』(2月14日付)は、「トランプ氏、対印赤字減へ石油輸出拡大で合意 首脳会談」と題する記事を掲載した。

    インドのモディ首相とトランプ米大統領は13日、米ワシントンで会談した。トランプ氏は対インドの貿易赤字を縮小することで合意したと表明した。具体策として、米国から石油・天然ガスや防衛装備品の輸出を拡大すると確認した。


    (1)「トランプ氏は会談後、モディ氏との共同記者会見に臨み「防衛面での協力を深めると同時に、経済も強化して貿易関係の公平さと相互性を高める」と語った。インドの高関税を「大きな問題だ」と批判し、インドに輸出する米国製自動車には70%もの関税が課せられているため「販売は不可能だ」と決めつけた」

    米国、これまでインドに対して腫れ物に触るような慎重さがあった。余り踏みこんで、インドをロシア側へ追いやることを警戒していた。トランプ政権になって、すっかり強気の姿勢で貿易赤字解消を迫っている。まさに、「トランプ流」だ。

    (2)「米国の対印貿易赤字を是正する方針で一致した。米政府高官は、年内の貿易協定の締結をめざすと明言した。トランプ氏は、エネルギー輸出を増やし「米国がインドにとって石油とガスの主要供給国として復活し、ナンバーワンの供給国となると期待している」と話した。トランプ氏は、インドからイスラエルやイタリアを経由して米国を結ぶ貿易ルートの構築も申し合わせた。「港湾、鉄道、海底ケーブルでパートナー関係を築く。莫大な資金が投入される」と説明した」

    インドからイスラエルやイタリアを経由した貿易ルートは、IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)構想である。IMECは23年9月、ニューデリーで開催した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、モディ首相とバイデン米大統領が明らかにした巨大インフラプロジェクトである。中国の「一帯一路」へ対抗するもので、インド経済が欧州・中東と結びつく上で欠かせないルートになる。


    今年1月にIMECは、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し覚書に署名した。インド洋からアラビア半島に向かい、UAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを通過して地中海や欧州に至る経済回廊を築く。総距離は、陸上と海上を含めて7000~8000キロメートルとされる。一帯一路は、8000~1万キロメートルとみられるのでIMECが有利な立場とされる。このルートを米国までつなげる構想だ。

    (3)「今秋には、インドでクアッド首脳会合を予定する。会談に先立ちトランプ氏は、「インドは伝統的に最も高い関税を課している国だ」と言及した。米政府高官は、年内にインドとの貿易協定の締結をめざしていると明かした。拡大する対印貿易赤字の削減を念頭に「公平な2国間の貿易体制」の構築を探る」

    インドの対米貿易黒字は、457億ドル(24年)である。ただ、インドの平均関税率は17%と群れを抜いて高く、インドは米国の要請に答えざるを得ない事情にある。


    (4)「トランプ氏は、これまでインドを「Tariff King(関税王)」と、その保護主義的な姿勢を非難してきた。インド側は今月1日に発表した2025年度予算案で、米国からの主要輸入品である高級バイクや自動車、スマートフォンの部品などの関税引き下げを盛り込み首脳会談に備えていた。インド商工省によると、同国にとって米国は最大の輸出相手国である」

    インドは、トランプ政権の強腰政策を見込んで、高級バイクや自動車、スマートフォンの部品の関税引下げを実施ずみだ。

    (5)「トランプ政権は対中国抑止へ「米国のインド太平洋戦略にとってインドは重要な国のひとつ」(米政府高官)と位置づけ、サプライチェーン(供給網)構築などで足並みをそろえたバイデン前政権の方針を踏襲する。インドのプーリー石油・天然ガス相は12日、日本経済新聞との会見で「インドはより多くのエネルギーが必要で、米国はより多くの輸出を望んでいる。それならば、我々のような『潜在的輸入国』は当然、米国と話し合う」と原油や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大の意思を明確にしていた」

    インドは、米国から原油や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大方針を明らかにしている。


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    ドイツのショルツ首相は25日、訪問先のインドでモディ首相と会談し、安全保障政策で協力を深めることで合意した。ドイツ製潜水艦のインド輸出も視野に入れている。ドイツ海軍の艦隊が9月に、台湾海峡を通過した。ドイツは、アジアの安保体制にかかわり、中国をけん制する姿勢が一段と鮮明にしている。

     

    インドのモディ首相は10月24日、中国の習近平国家主席と会談した。両首脳の正式会談は5年ぶり。2020年にインド北部ラダック周辺で衝突して以来、冷え込んでいた両国の関係が改善し始めたことを示唆した。

     

    インドは、中国との緊張緩和を進める一方で、ドイツの軍事協力も強化する「二刀流」外交を行っている。インドは、非同盟が外交原則であるものの本質的な「中国警戒」が外交基本にある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「ドイツがインドと安保協力、首脳会談 潜水艦輸出も」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「独印両国は25日、ニューデリーで「政府間協議」を開いた。両国首相のほか、経済・気候相など主要閣僚のほぼ全員が参加する実質的な合同閣議となった。安保・通商・気候変動・人材交流など広範な分野での協力を確認し、双方が合意文書に署名した。具体的には、外交・安保での連携強化に加え、欧州連合(EU)とインドの自由貿易協定(FTA)の交渉加速や、高度人材のEUでの受け入れなどが盛り込まれた」

     

    ドイツは、インドとの幅広い交流を進める基本方針を立てている。日独協力の輪をさらにインドへ広げる戦略である。ドイツ海軍艦艇が、台湾海峡を通過するなどインド太平洋戦略へ肩入れしている。

     

    (2)「ショルツ氏は協議前、中国の南シナ海などへの海洋進出を批判し「対立が沈静化することを願う」と語った。モディ氏も「インド太平洋は世界の安定にとって極めて重要だ」と応じた。ドイツは協議に先立って、対インド政策の基本指針となる「インド集中」と題する文書を閣議決定した。インドを「地域安定に影響力のある国」と位置付け、「緊密に協力」すると公約した。さらにドイツは「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した」

     

    ドイツは、インドを「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した。ドイツの並々ならぬインド接近政策の表れである。ドイツにとって、インド太平洋地域は経済発展の重要地域である。それだけに、独印関係の強化は重要である。

     

    (3)「ドイツ海軍は現在、インド太平洋に展開中で、26日はインド南部ゴアに寄港する。こうした軍事交流を拡充するほか、潜水艦のインド輸出を視野に入れる。ドイツはスペインとともに通常型潜水艦6隻の受注を目指しており、交渉は最終局面とされる。ドイツは冷戦中にインドに潜水艦を納入した実績がある。再度の輸出なら軍事面での協力が一気に深まるとドイツ側は期待する」

     

    ドイツ海軍は26日、インド南部ゴアに寄港する予定だ。こうした、セレモニーを通して関係強化を図る。ドイツは、潜水艦のインド輸出を視野に入れている。

     

    (4)「ドイツのインド接近には3つの狙いがある。まず、アジア安保に積極的にかかわり、中国をけん制する。2つ目は中国に依存する経済のデリスキング(リスク低減)だ。今回は独企業の経営陣が一堂に会する「アジア・パシフィック会議」をインドで同時開催した。ハベック副首相兼経済・気候相は日本経済新聞などに対し「独企業は進出先を多様化させる必要がある」と語った」

     

    ドイツのインド接近目的は、これまでのドイツの中国依存度を減らして、インドとの関係構築にある。インドは自由主義圏であり、政治リスクがないのだ。

     

    (5)「3つ目は、インドとロシアの軍事交流にくさびを打ち込むことだ。ドイツが、フランスやスペインなどと協力しながら、インドへの武器輸出を拡大すれば、インドがロシア依存を減らすのではないかとの思惑がある。もっともグローバルサウスの中核であるインドには、EUになびくつもりはない。モディ氏はショルツ氏に会う直前までロシアに滞在し、主要新興国で構成するBRICS首脳会議に出席していた。印シンクタンクORFのスワティ・プラブ研究員は「典型的なインドのバランス外交」と説明する」

     

    ドイツは、インドへ武器輸出を増やす狙いもある。印ロの固い関係の裏には、インドのロシアへの武器依存がある。ドイツには、時間をかけてインドへ武器輸出を強化する狙いが込められている。

     

    (6)「インドは、国連での対ロシア非難決議案で棄権に回るなど「中立」の立場を貫く。また割安なロシア産石油を買い増し、西側の対ロ制裁の効果を薄めている。今回の独印会談でウクライナ支援を続ける欧州勢との関係を重んじていることを示し、外交上の均衡を保つ狙いがある」

     

    インドは、外交巧者である。非同盟を旗印にしており、外交的利益を得る目的だ。

     

     

     

     

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    中華再興とヒンズー教

    中国を自由に操る習氏

    印度はカースト制残滓

     

    世界経済は、あと数年もすればGDP3位にインドが座ると予測されている。米国、中国、インドが「3大GDP国」という構図だ。中国とインドは「経済強国」の印象だが、実態は内部に大きな難題を抱えた国家である。人口増が生み出した経済成長であり、生産性の伸びによる成長でないからだ。 

    これら二国は、人口が14億人台で世界トップである。この巨大人口の「人海戦術」が、築きあげた経済でもある。インドは、すでに人口規模で中国を抜いて世界1位にある。だが、インドは中国と同様に、歴史的な脆弱性を抱えている。古代からの価値観が、現代を著しく支配しているのだ。こうした性格の経済が、インドと中国であることに注目すべきであろう。 

    中華再興とヒンズー教

    中国は、強引な「一人っ子政策」で人口急増を食止めたが、逆に今はその反動に悩まされている。出生率の急減である。すでに起こっている労働人口の減少が、これからGDPを直撃する。こういう急激な出生率の変動は、中国の政策が将来を洞察することのない、場当たり的ものであることを裏付けている。事前に予測するという合理性に欠けているのだ。 

    インドのモディ政権は、先の総選挙によって与党・人民党が議席の過半数を割込んだ。地方政党を呼び込んで連合与党をつくり、辛うじて政権を維持する結果になった。理由は、これまでの強権的な政治手法が批判されたのだ。こうして、モディ政権は路線変更を求められているが、インド経済の将来性にいくつかの疑問を抱かせている。それは、インドの経済成長に一筋縄でいかない厳しい要因が存在しているからだ。

     

    具体的には、歴史的に形成されてきた制度要因が大きな影を落としている点にある。この「歴史の影」を取り除かないかぎり、インドの経済成長路線は不安的なものとなろう。モディ氏は、選挙運動期間中に「ヒンズー教の価値観を守る」としたが、インド国民の約2割はイスラム教である。ヒンズー教は8割である。インドは多民族国家だ。そのインドで、一つの宗教の価値観で国家を律することは極めて困難である。それにも関わらず、モディ氏は、ヒンズー教を高く掲げている。 

    実は、中国もこれに似た目標を掲げている。習近平国家主席が、「中華再興」を叫んでいることだ。具体的には、清国時代に占めた世界の経済的地位を復活させようというものである。当時の清国は当然、農業国家である。世界のGDPの4分の1程度のシェアを占めていたとされるが、現代は工業化・情報化の時代だ。科学知識の蓄積が、経済成長を左右する時代である。 

    こういう状況変化を忘れて、単純に過去の自国地位へ回帰しようとするのは時代錯誤と言うほかない。習近平氏の行動パターンには、清国皇帝のビヘイビアがみられる。領土拡張と鎖国主義だ。これは、秦の始皇帝以来の価値観を受け継いだものでもある。古代からの価値継承と言える現象だ。 

    ここで、インドと中国の共通項を要約すると、次のようになろう。

    1)発展途上国特有の人口大国である。

    2)古代からの価値観に深くとらわれている。

    3)制度改革を進める文化的要因が見当たらない。

     

    ここで若干の補足をしておきたい。人口は、絶対数が国運を決めるものでないことだ。総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率が、上昇する段階では経済成長にプラス(人口ボーナス)となる。逆にこの比率が、下降する段階では経済成長にマイナス(人口オーナス)となるのだ。 

    経済成長にマイナスになる局面で重要なのは、積極的に制度改革を行う文化的な要因の有無である。それには、古代からの価値観にとらわれない柔軟さが前提になる。残念ながら、中国は清国皇帝と同じで、国民に選挙権も与えずに専制主義を貫いている。 

    インドは現在、人口増加が経済成長にプラスになる局面にある。この貴重な時期が、「ヒンズー教の価値観重視」という姿勢で揺れている。ヒンズー教は、カースト制を生み出した宗教である。このカースト制は、インド憲法で「差別」することを禁止したが、制度そのものは禁止されなかった。これによって、職業選択への影響が出ている。インドもまた、過去の価値観から抜け出せないでいるのだ。

     

    中国を自由に操る習氏

    次に、中国とインドの個別問題を取り上げたい。中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、政策転換が行われた。市場経済から計画経済へ、改革開放から「反スパイ法」による国内締付けへと180度の大転換である。これは、習氏が終身国家主席を狙っていることが動機になっている。 

    個人的な事情を言えば、実父の習仲勲がトウ小平の反対で首相職に就けなかったという思いが、トウ小平の改革開放路線に反対する理由の一つになっている。トウ小平を否定することが、実父の「怨念」を晴らす道であったのだ。習氏は、精華大学卒業後の就職先が人民解放軍である。この就職では、実母が奔走したなど家族ぐるみで官途を目指していたのである。最初から、政治を志していた。(つづく)

     

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