勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    中国とインドは、国境紛争で対立している。インドは、「クアッド」(日米豪印)で米国との距離を縮めてきたが、さらに関係が深まる。インドのモディ首相は現在、米国で国賓待遇として滞在している。米印が戦闘機エンジンの生産で合意したことは最大の成果だ。中国にとっては、米印の協調が気になる動きであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月23日付)は、「米国とインド、打算の接近 首脳会談で防衛協力合意へ」と題する記事を掲載した。

     

    インドのモディ首相は22日、米ホワイトハウスでバイデン大統領と会談した。戦闘機エンジンを共同生産し、米軍艦の補修拠点をインドで増やす。両国は中国と対立関係にある。インドを自陣に引き込みたい米国と、ロシアのウクライナ侵攻を機に武器調達先の多様化を狙うインドの思惑が一致した。モディ氏は国賓として米国を訪れている。22日は首脳会談後に共同記者会見に臨む。

     

    (1)「バイデン氏はモディ氏の歓迎式典で米印関係について「21世紀の行方を決定づける関係の一つだ」と強調した。「今世紀に世界が直面する課題やチャンスは米印の協力や指導力を必要としており、我々はそれを実行している」と言及した。ロシアによるウクライナ侵攻を非難したうえで、米印が食料やエネルギー問題の解決に向けて取り組むとも言明した。モディ氏は「インドと米国の社会は民主主義の価値観に基づいている」と述べた。新型コロナウイルス禍後の時代において「世界秩序は新たな形を築きつつあり、米印は平和と安定に向けて尽力することを約束する」と強調した」

     

    インドは、民主主義国で世界最大の人口を抱える国である。だが、製造業が脆弱であることから、正規雇用者は6000万人を数えるだけというバランスを欠いた産業構造である。それだけに、今回のエンジン生産がインド工業の底上げに寄与することは確実である。

     

    (2)「会談では防衛協力を中心に討議する。米政府高官によるとゼネラル・エレクトリックGE)は印国営ヒンドゥスタン・エアロノーティクス社とインド国産戦闘機「テージャス」のエンジン製造に向けた覚書や、技術移転に向けた輸出ライセンス契約を結んだ。エンジンはインドで生産する。日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」での連携強化も確認する。このほか、半導体のサプライチェーン(供給網)構築などの経済分野や、インド太平洋地域で台頭する中国についても話し合う見通しだ」

     

    インドは、「非同盟」を旗印にしている国だ。今回のエンジン生産で、インドの外交戦略が変わることないが、グローバル・サウスの代表国としての影響力が期待される。インドは、日本とも密接な関係を構築している。

     

    (3)「米政府高官は、両国の防衛協力で「かつてない規模のジェットエンジン技術の移転が可能になる」と話した。過去に米国内では安全保障条約に基づく同盟国ではないインドへの先端軍事技術の移転に慎重論が根強かった。米国は武器調達を巡り、インドにロシア依存度を一段と下げるよう促す。インド洋での協力も議論する。同高官によると米海軍の艦船が補修・補給作業をできるインドの造船所を1カ所から4カ所に増やす見通しだ。米国ではなくアジアで補給し、インド太平洋地域で運用の頻度を上げるとともにインド洋での活動拡大へ布石を打つ。中国の影響力の増大に対抗し、米国はインドへの投資の機会拡大をうかがう」

     

    軍事用エンジンは、精密工業の頂点に立つ。インドが、その華の部分で米国から技術移転を受ける意味は極めて大きい。米印関係が、それだけ深まった証拠であろう。中国にとっては、インドが軍事的に手強い存在になる。

     

    (4)「インドにとって、喫緊の課題は武器の近代化と軍需産業の育成だ。1962年の中印国境紛争で大敗した反省から、国家存亡に関わるとみているためだ。足元でも中国のインド太平洋での台頭を警戒する。国境紛争だけではない。スリランカやパキスタンなどの周辺国では、中国が過剰な債務を負わせて返済の肩代わりにインフラの使用権を得るようになった」

     

    インドは、度重なる中国との国境紛争で弱い立場に立たされてきた。それだけに、対抗心は並々ならぬものがある。中国も慎重に対応せざるを得まい。

     

    (5)「武器調達ではこれまで、旧ソ連時代からの友好国であるロシアに頼ってきた。ストックホルム国際平和研究所の調べではインドは兵器輸入先(2018〜22年)の45%をロシアが占める。ただ、ロシアのウクライナ侵攻で、インドへの兵器供給は遅れが生じるようになった。侵攻から1年が過ぎても終結の見通しは立たず、ロシア兵器の信頼性に疑念がつくようにもなった。そこで、米国に接近し、武器調達でのロシア依存を低下させるとともに、米国との共同生産を通じて、自国の防衛産業を育成できると判断したようだ」

     

    ロシアにも、今回の米印の共同エンジン生産取り決めはショックであろう。インドは、ロシアにとって最大の武器輸出国である。改めて、ウクライナ侵攻に伴う代償の大きさをかみしめているであろう。

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    中国は、自国の勢力圏拡大に懸命である。BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)のメンバー拡大によって、発言権を強めようと狙っている。だが、中国と対立するインドは、これに反対姿勢である。 

    BRICSは、勢力拡大して結束力を高められるか。その試金石は、2015年に設立されたBRICS銀行である。現在の加盟国は、BRICS5カ国に加えて、バングラデシュ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)が新たに加わった。2022年12月時点の融資承認総額は328億ドルで、うちブラジル向けが50億ドルを超える。承認されたプロジェクト数は96件だ。 

    一方、中国はAIIB(アジア・インフラ投資銀行)を2016年に設立している。既に200件以上、400億ドル以上のプロジェクト実施している。BRICS銀行と競合関係だ。AIIBは、BRICS銀行がインドの発案で成立したことへの対抗で設立された経緯がある。このように中印はつばぜりあいしている関係だ。結束は難しいであろう。

     

    『毎日新聞』(6月3日付)「BRICS拡大 加盟国に温度差 前のめりな中国 インドは警戒感」と題する記事を掲載した。 

    中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカによる新興5カ国(BRICS)の外相会合は2日、一連の日程を終えた。新たな加盟国の基準や手続きなどについて合意に至るとの観測もあったが、8月の首脳会議に向け、継続して議論するとの結果にとどまった。多くの加盟国がBRICS拡大に前向きな姿勢を示す一方で、インドが中国に主導権を握られることを警戒するなど、温度差もある。 

    (1)「BRICSにはイラン、アルゼンチン、サウジアラビアなどが加盟を目指す。外相会合は南アフリカ西部ケープタウンで開かれ、2日は非加盟の国々が加わる拡大外相会合も開催された。「新しい血を入れることは新たな活力をもたらす」(習近平国家主席)と拡大に前のめりなのは中国だ。米主導の国際秩序に対抗する思惑から、米欧と距離を置く国々を自陣営に取り込むことを重視しており、今後も議論をリードするとみられる」 

    中国は、BRICSを拡大して勢力圏を広げたい野望を持っている。G7(主要7カ国)への対抗である。

     

    (2)「習指導部が目指す通貨・人民元の「国際化」にもBRICSの枠組みは有用だ。金融制裁を受けるロシアでは米ドル確保が難しくなったため人民元の利用が急拡大し、ブラジルやアルゼンチンなどでも中国からの輸入時などに、新たに人民元決済を認める動きが広がっている。加盟国拡大は、こうした動きを後押しする可能性を秘める」 

    中国は、BRICSで人民元の使用を高めたいという野心もある。それには、加盟国が増えることが条件である。だが、国際貿易に占める人民元の比率は2.2%程度である。米ドルに比べたら、足元にも及ばない。

    (3)「南アフリカは、今年の議長国として拡大に向けた議論をリードしている。2日の拡大会合にはアフリカの55カ国・地域が加盟するアフリカ連合の議長国コモロなども招いた。パンドール国際関係・協力相(外相)は2日の記者会見で、欧米が主導権を握る国際通貨基金(IMF)など国際金融機関のあり方に疑問を投げかけた。南アは、アフリカ諸国を巻き込みながら既存の国際秩序に挑む姿勢を鮮明にしている」 

    南アは、既存の国際秩序に不満を持っている。BRICS拡大派である。

     

    (4)「ブラジルのルラ大統領も、自らが掲げる「多極化外交」の一環でBRICSを重視し、加盟国拡大にも前向きだ。4月に北京で習氏と会談後に発表した共同声明では、拡大プロセスについて「加盟国間で積極的な議論を促進することを支持する」と明記した。ただ政府内には、加盟国が増えることで、BRICSにおけるブラジルの影響力が低下することを懸念する声もある」 

    ブラジルは、大統領と政府部内で意見の食い違いがある。加盟国の増加が、ブラジルの影響力低下を招くことで慎重だ。 

    (5)「インドの姿勢は異なる。インドは、米欧が主導する既存の国際秩序への不信感を抱くものの、米中のいずれかの陣営に組み込まれる事態も避けたい思いがある。また、国境紛争を抱える中国への警戒感も強い。アルゼンチンなど中国と関係の深い国々が新たに加盟し、BRICS内で中国の立場が強まることを懸念している。インドのジャイシャンカル外相は1日の外相会合で「我々が直面する問題の核心は、あまりにも多くの国々が、経済的に、あまりにも少数の国のなすがままになっていることだ」と指摘した。特定の国を名指しすることはなかったが、米中など大国の動向によって、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国が翻弄(ほんろう)される状況に懸念を示した形だ」 

    インドは、「グローバルサウス」が米中対立に巻き込まれることを警戒している。同時に、中国の勢力圏拡大にも拒否感を持つ。

    (6)「ロシアは、ウクライナ侵攻後に米欧から厳しい制裁を科される中で、中国やインドへの経済的な依存度を高めている。7月にはアフリカ諸国との首脳会議を予定しており、主要国の一つである南アフリカとの関係拡大にも意欲的だ。BRICSの枠組みに欧米諸国と一定の距離を置く国々が新たに加わることは、ロシアにとって追い風となる。ロシアは8月の首脳会議に向け、加盟国の拡大に向けた取り組みを進めるとみられる」 

    ロシアは、BRICS拡大に賛成である。G7から追放された身であるだけに、拡大BRICSで一矢報いたいところだ。

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    インドは、2020年代に米アップルの一大製造拠点(ハブ)に成長する可能性が十分に出てきた。昨年11月、アップルのサプライヤー台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)の中国・鄭州工場は、従業員の抗議行動が起こって生産中断に追い込まれた。改めて、サプライチェーン集中のリスクが浮き彫りになった。ここに、中国代替地として、インドが急浮上している理由がある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月4日付)は、「鴻海、インドで生産増強計画 iPhone大幅増産か」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の電子機器受託製造大手、鴻海精密工業(フォックスコン)はインドで大規模な生産増強を検討している。米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の生産を数百万台規模で増やす可能性もある。

     

    (1)「鴻海は、中国本土からの生産移管を進めており、インドで新たな生産拠点の設立も視野に入れている。鴻海はインド南部タミル・ナドゥ州のチェンナイ近郊にある既存工場でiPhoneの生産拡大を計画している。インド政府高官を含む複数の関係者が明らかにした。2024年までにiPhoneの生産台数を年間約20000000台に引き上げ、従業員数を約3倍の10万人に増やすことを目指しているという」

     

    鴻海は2024年までに、インド南部タミル・ナドゥ州の既存工場でiPhoneの生産台数を年間約20000000台に引き上げるとしている。当初は、インドでの生産が軌道に乗るか危ぶむ声もあったが、順調に進んでいる。

     

    (2)「南部カルナタカ州では新たな生産施設を建設し、iPhoneなどを生産する予定だと関係者は語った。さらに、半導体事業ではインド南部の都市ハイデラバードで新工場を建設するほか、炭化ケイ素の加工などを手掛ける施設なども検討しているという。今回の増強計画は検討段階にあり、変更される可能性がある。鴻海で会長を務める劉揚偉氏は今週インドを訪問し、ハイデラバードとカルナタカ州のベンガルールを訪れた。ニューデリーではインドのナレンドラ・モディ首相と会談した。モディ政権は世界の主要メーカーをインドに誘致する取り組みを強化している」

     

    インドでの生産が軌道に乗ったので、新たにインド南部カルナタカ州では生産施設を建設し、iPhoneなどを生産する計画だ。これは、中国にとって脅威である。iPhone生産で約100万人が雇用されているだけに今後、インドが製造拠点になると中国で雇用問題が起こるであろう。

     

    (3)「中国ではアップルのサプライヤーの多くが新型コロナウイルス流行に伴うロックダウン(都市封鎖)の影響で生産の混乱に直面した。このためアップルは中国以外での生産拠点づくりを促してきた」

     

    アップルは、これまで中国での生産が軌道に乗っているだけに、他国への生産シフトに極めて慎重であった。だが、コロナ・パンデミックによる中国での生産中断で、中国集中生産による大きなリスクを認識した。同時に、米中対立で引き起される地政学リスクを計算に入れれば、生産拠点をインドやベトナムへ分散するメリットを考慮しなければならない。インドは、今年から世界最大の人口国になる。アップル製品の有力市場に発展する。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月16日付)は、「APPLEがインドで直営店展開へ 採用着手、巨大市場浸透」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルがインドで直営店の展開に動き出した。早ければ3月までに商都ムンバイに旗艦店を出店する見通し。インドのスマートフォン市場は価格の安い中国勢のシェアが高いが、アップルの存在感も高まっている。販売網を整備し、巨大市場インドでの浸透を急ぐ。すでにアップルはインドでオンライン販売を手がけているが、直営の実店舗は初めてとみられる。

     

    (4)「香港の調査会社カウンターポイントによると、インドの2022年7~9月のスマホ出荷台数は約4500万台だった。メーカー別のシェアでは首位の中国の小米(シャオミ)が21%、次いで韓国のサムスン電子が19%を占めた。アップルは中韓勢を追う立場にあるが、7~9月は「iPhone13」の販売が好調で過去最高の5%のシェアを記録したという。3万ルピー(約4万7000円)以上の「プレミアムセグメント」では、アップルが40%を占めた」

     

    インドのスマホ市場では、中韓の製品が先行している。だが、「iPhone13」の販売が好調で過去最高の5%(昨年7~9月期)のシェアを獲得した。中価格帯では、40%のシェアになっており、中・高所得層には浸透している。

     

    (5)「アップルはiPhoneの展開を巡って、足元でインドでの生産拡大に乗り出している。22年9月には新型「iPhone14」のインド生産を発表しており、最新機種について中国とインドでの生産時期の差は縮小傾向にある。米中の経済対立などを背景に、中国への生産依存を減らす狙いがあるもようだ」

     

    インドでも、新型「iPhone14」の生産が始まっている。中国とインドの生産技術格差が縮まっていることを示すものだ。冒頭に取り上げたように、24年には2000万台の生産が可能になったと見られる。

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    インドは今年、人口で中国を抜き、世界最大となる。IMF(国際通貨基金)によれば、22年のGDPは英国を上回り、世界5位に浮上した。ADB(アジア開発銀行)は、今年の成長率が7.%となり、域内46カ国・地域で最も高いと予測している。この余勢を駆って、27年のGDPは日本を抜いて世界3位という予測まで出てきた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月17日付)は、「インドは中国のライバルになれるか?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「アジアの歴史は、インドと中国の経済を比較することで読むことができる。世界銀行の連鎖ドルベースの統計によれば、1980年のインドの国内総生産(GDP)は中国の64%だった。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年時点では、インドのGDPは中国の28%にすぎず、21世紀に入り数年にわたる高成長を遂げたものの、インド経済はさらに中国に後れを取り、2021年の比率は17%にとどまった。インドは人口では中国に追い付き、世界水準のサイバー産業を構築したものの、アジアやもっと広範な地域において、経済力で中国に匹敵するような製造業大国にはなっていない」

     

    中印両国は人口で世界1,2位を競う関係である。だが、GDPの面でインドは中国に大きく立遅れた。インドに製造業が育たなかったことだ。製造業は、雇用の受け皿になるので、製造業の盛衰がインドの立ち後れを決定づけた。

     

    (2)「インド経済が過去40年間にわたって中国と同等のペースで成長していたら、現在のインドの国内総生産(GDP)は2兆7300億ドル(約352兆円)ではなく、10兆ドルになっていただろう。それほどの規模の経済がサポートできる軍事支出と、それがインドのビジネスマンや外交官に与える経済的・政治的影響力があれば、インド太平洋地域に「中国の脅威」はなくなるだろう。インドと中国の差が縮まり始めるときが来るなら、そのときはアジアのパワーバランスもシフトし始め、中国は地域・世界政治へのアプローチの再考を迫られるだろう」

     

    インドが過去40年間、中国並みの成長を遂げていれば、現在のGDPは10兆ドルを超えているはず。現在のGDPよりざっと4倍の規模であり、世界3位になっていたであろう。むろん、日本は抜かれている。インドは、中国への軍事的な対抗力も十分あったはずで、中国をけん制する力を持っていたであろう。

     

    (3)「アジアにおける米国の問題は、中国が豊か過ぎることではない。インドが貧し過ぎることだ。短期から中期的には、このアジアの2大国家に不均衡な状況が見込まれるため、米国は同盟国と協力して、中国の野心やパワーを抑制する必要がある。しかし、われわれはそこにある明確な危機に注目しながらも、大局的な見方を忘れないようにしなければならない。米国とインドの意見は多くの点で異なってきたし、これからもそうだろうが、米国の国益はインドの成功と強く結びついている」

     

    インドの経済的発展が、インド太平洋戦略において大きな力を発揮して、中国をけん制する上で歓迎すべきことだ。

     

    (4)「これまでにインドが実現した経済面での大きな成果は、世界的レベルに情報経済を発展させたことだった。同国南部のベンガルールやハイデラバードなどの都市は情報技術(IT)分野の重要拠点となっており、この技術分野の発展は同国に新たな中間層を生み出すことに貢献した。ただし、サイバー分野だけでは、インドが必要とする変革につながる成長を達成する上で十分ではない。インドが国内の貧困をなくし、国際的に中国と同等の存在になるのを望むのであれば、製造分野の大国になる必要がある」

     

    インドのITは、サイバー分野だけである。これを製造業全体へ広げなければならない。そうしなければ、雇用が増えず国民は豊になれないのだ。

     

    (5)「世界市場向けの製造業は、インドが得意とするものではない。壊れかけのインフラ、高コストで信頼できない電力、労働と土地に関わる複雑な法制、いら立たしい官僚主義などが、アジアの工業化の波にインドが加わるのを妨げてきた。しかし現在、国際要因と国内要因の両方が、他のアジア諸国に追い付くチャンスをインドに提供している。国際的には、製造分野の企業が対中依存度の引き下げを目指している。国内的には、ナレンドラ・モディ首相率いるポピュリスト的な政府が、サイバー分野主導の経済だけで支えられている現状よりも広範な繁栄を求めている。外国の投資家を長年インドから遠ざけてきたさまざまな障害は完全に消えてはいないものの、高速道路・鉄道・港湾などへの何年にもわたる投資と規制改革の複合効果によって軽減されてきた」

     

    インドは現在、フォローの風が吹いている。世界的なサプライチェーン再編の波に乗って、インドが脚光を浴びているのだ。このチャンスを生かさなければならない。

     

     

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    中国はこれまで、アップルiPhoneの生産基地として揺るぎない地位を確立していると思い込んできたが、その自信は足元から揺さぶられている。一国に生産を集中させる危険性が、パンデミックで立証されているからだ。さらに、中国の台湾侵攻という地政学的リスクも重なって、中国はもはや世界にサプライチェーンの核であり続ける環境でなくなっているのだ。

     

    この現実に目覚めさせられたことで突然、今回のゼロコロナ緩和へと舵を切ることになった。しかし、余りにも急激な「緩和」によって、中国では感染拡大という新たな問題を引き起こしている。一連の中国の動きを見ると、統制経済の杜撰さが浮き彫りだ。民主主義国では絶対にあり得ない混乱である。

     

    『ブルームバーグ』(12月16日付)は、「中国iPhone工場の混乱はインドの好機か 生産の一国集中に懸念高まる」と題する記事を掲載した。

     

    インド・カルナタカ州にある米アップルのスマートフォン「iPhone」工場で2020年12月、賃金が未払いだと主張した労働者が暴動を起こし、6000万ドル(現在の為替レートで約82億円)相当の損害をもたらした際、中国の国営メディアは直ちに多国籍企業を巡る教訓だと伝えた。暴動の2日後、中国紙・環球時報は「中国の工場は最も安全な投資先だ」としたほか、「中国での暴動の可能性は極めて低い」とした。

     

    (1)「今年11月下旬に発生した新たな暴動は、世界最大のiPhone生産拠点がある中国河南省・鄭州市が舞台となった。新型コロナウイルス感染防止策として、食料が不十分な状態で不衛生な社員寮に閉じ込められた上、約束された賃金が支払われない見通しに怒った従業員が警備員と激しく衝突。翌週には抗議活動が全国に広がった。米中間の緊張の高まりが続く中、今回の騒動で中国における製造業体制の現状維持は、これまで以上に可能性が低くなっている。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)も世界生産の大部分を一国に集中させる危険性を浮き彫りにした」

     

    中国が、「世界の工場」と言われる時期は終わろうとしている。これは、中国の「運命」をも左右する重大事態である。西側諸国にとって、中国の存在が不可欠という意味でなくなることだ。習氏は、今ようやくそのリスクに気づいたようである。しかし、歯車はすでに回り始めている。インドが、次の受け皿候補になってきたのである。

     

    (2)「鄭州工場の混乱が響き、アップルは今年、約600万台の「iPhoneプロ」の生産不足に陥る可能性が高いとブルームバーグ・ニュースは報じた。モルガン・スタンレーは2~3年以内にiPhone生産の10%をインドに移すのが目標だとしている。アップルの主要サプライヤーである台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループ、和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)の3社は、インドのスマホ生産・輸出拡大に向けたインセンティブを申請・取得した。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人が非公開情報だとして匿名を条件に語ったところでは、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占める見込みだという」

     

    モルガン・スタンレーは、2~3年以内にiPhone生産の10%がインドに移ると見ている。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人は、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占めるという。いずれにしても、賽は投げられたのである。

     

    (3)「そうした予測が裏付けられたとしても、世界の工場としての中国の地位は揺るがないだろう。中国に対する懸念が必ずしもインド人気につながるわけでもない。インドは十数年にわたり製造業企業の誘致に努めてきた。同国は低コストの労働力と巨大な国内市場へのアクセスを提供できるが、老朽化したインフラと硬直化した官僚制でも知られている。過度な中国依存に対する多国籍企業の懸念を利用しようとしている国は他にもあり、コスト面だけを考えれば、現状ではインドはスマホ生産に最適な場所ではない」

     

    インドは、電子製品の生産ではベトナムやマレーシアの後塵を拝している。ただ、インド財閥が半導体生産に乗り出す計画を固めるなど、客観情勢は変わってきた。「眠る像」が、一度起き上がれば、世界一の人口国になる手前もあり、シャッキとせざるを得まい。

     

    (4)「それでもインド支持派は、地政学的状況に照準を合わせることが同国の最大の強みとなり得ると主張。地政学面の配慮から最大効率を犠牲にしても構わないと企業は考えているかもしれないと指摘する。アジアの大国で米国の同盟国であるインドには固有の利点が幾つかあり、事業を行う上で政治的な複雑さはそれほどないとアピールすることで十分な生産量を確保できれば、効率面で追い付き始めることもあり得るとみている」

     

    インドは、米国の友好国として優位な地位にある。米中デカップリングの進む中で、インドが中国から移転するサプライチェーンの受け皿の一つになる可能性を秘めている。

    (5)「アップル最大のサプライヤーであるフォックスコンは、地理的範囲を拡大する必要性を見越して、5年余り前にインドに生産施設の建設を開始した。20年の暴動の舞台となった工場を運営するウィストロンのほか、ペガトロンも既にインドで事業を展開している」

     

    フォックスコンは、台湾の鴻海(ホンハイ)の系列企業である。鴻海は、半導体のTSMCと並んで台湾を代表する企業になった。日本のシャープを買収したことでも知られている。

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