インドGDPは、表面的には8%台成長であるが、民間の投資と消費が脆弱であることからGDP統計自体に懐疑論が出ている。モディ政権にとっては、なんとも不名誉な話だ。統計も正確に出せないのかと冷笑を買う事態である。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月4日付)は、次のように分析している。
インドのGDP算出方法では、成長の強さが実際より大きくなる可能性がある。公式統計に含まれない巨大な非公式経済の弱さを十分に反映してないことが一因だ。また、民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じていないようだ。米ピーターソン国際経済研究所の上級研究員で元モディ政権首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏は、「もし、人々が経済に対して楽観的なら、もっと投資して消費するだろう。実際にはどちらも起きていない」と指摘した。統計改ざんとは言わないまでも、正確な統計が発表されていないと言うのだ。
『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インド株の『期待と実態』投資戦略修正の時」と題する記事を掲載した。
インド総選挙を受け、モディ首相の3期目入りが決まった。もっとも与党連合(NDA)は議席数を大幅に落とし、これまでのようなトップダウンの経済改革が進むかどうかへの警戒が浮上している。人口増などによる長期的な成長期待は揺るがないものの、市場関係者にとっては投資戦略を修正させる必要があるかもしれない。
(1)「モディ政権は過去10年、物品サービス税(GST)の整備を進めるなど、経済改革を推進めてきた。経済の効率性が高まるとの期待感は、海外マネーをひき付けるファクターとして働いてきた。3期目では、閣内外で関係者の声が強くなり、調整が必要になる。独断専行は通じなくなっている。さらに、解決すべき課題はまだ山のようにある。インフラ投資やデジタル化などは手掛けやすい改革だ。だが、農産物流通の規制緩和など農業改革は反発が根強く遅々として進まない。関連法案が成立しながら廃案にするなどの混乱も生じている。銀行など政府系企業の民営化もゆっくりだ。様々な企業で政府による出資比率の低下がみられるが、一気に株式を放出するようなケースはみられない」
下線部分は、インド経済の弱点である。いわゆる、農産物流通の規制緩和など「構造改革」が進まないのだ。
(2)「市場が、インドを評価するうえで注目してきたのは国内総生産(GDP)成長率だ。中国経済が落ち込む一方で高い成長率を維持してきた。だがこちらも気がかりな点がある。まずは統計の問題だ。インドの2024年1〜3月期の実質GDPは前年同期比で7.8%増だった。一方、総付加価値(GVA)は6.3%増だった。いわゆるGDP「三面等価」の原則に立てば、支出を示すGDPと生産を示すGVAは同じになるはず。だが乖離(かいり)が生じている。農薬などへの補助金が減った影響とされている。ただ、市場の一角では政府のGDP統計は成長率が実態よりも高めに出されているのではないかという「懐疑論」すらくすぶっている。23年10〜12月期もGDPが8.6%成長、GVAが6.8%増だった」
インドのGDP統計は、支出を示すGDPと生産を示すGVAが一致しないという「恥」をさらけ出している。これは、インド統計当局の「技量」を疑われる事態だ。この事実に気づかずに、GDP統計を発表していたとすれば「天下の恥」になる。23年10〜12月期もGDPが8.6%成長、GVAが6.8%増だった。どちらの数字が正しいのか。
(3)「もちろん、まだ疑惑の域を出ていない。一方で、高いGDP成長率を志向するようなこれまでの政策にきしみがあるのは事実だ。失業率の高さが指摘されている。特に大卒など若年層の失業率の高さが目立ち、社会問題となっている。インフレとあわせて今回の総選挙の争点となっており、この点が与党連合のアキレス腱(けん)だった。まさに足をすくわれることとなった」
GDP統計の不一致は、偶然なのか故意なのか、真相は不明である。「真理は中間にある」という訳にいかないのだ。
(4)「バンク・オブ・シンガポールは、今回の総選挙の結果はインド経済にとってむしろポジティブとの立場を取る。「政策当局者がよりインクルーシブ(包括的)な成長モデルを取るようになり、消費の回復につながるだろう。このまま『投資けん引型』の成長を続けていたら、今後数十年で中国のようなアンバランスな格好になってしまう」とする。HSBCのインド株式戦略担当者は、5日付のリポートで「政府系企業や産業セクターは調整が起こるかもしれない」と指摘した。特に政府系企業はインフラ投資の加速への期待感から昨年来大幅に上昇してきた。調整の兆しはすでにあり、4日のインド株大幅安でもっとも下げが大きかったのはこれらの銘柄群だ」
GDP統計に過誤があるように、経済政策にも齟齬が多い。モディ政権は、今回の議席減少をどのように今後の政策に生かすのか。世界が注目している。





