中国はこれまで、アップルiPhoneの生産基地として揺るぎない地位を確立していると思い込んできたが、その自信は足元から揺さぶられている。一国に生産を集中させる危険性が、パンデミックで立証されているからだ。さらに、中国の台湾侵攻という地政学的リスクも重なって、中国はもはや世界にサプライチェーンの核であり続ける環境でなくなっているのだ。
この現実に目覚めさせられたことで突然、今回のゼロコロナ緩和へと舵を切ることになった。しかし、余りにも急激な「緩和」によって、中国では感染拡大という新たな問題を引き起こしている。一連の中国の動きを見ると、統制経済の杜撰さが浮き彫りだ。民主主義国では絶対にあり得ない混乱である。
『ブルームバーグ』(12月16日付)は、「中国iPhone工場の混乱はインドの好機か 生産の一国集中に懸念高まる」と題する記事を掲載した。
インド・カルナタカ州にある米アップルのスマートフォン「iPhone」工場で2020年12月、賃金が未払いだと主張した労働者が暴動を起こし、6000万ドル(現在の為替レートで約82億円)相当の損害をもたらした際、中国の国営メディアは直ちに多国籍企業を巡る教訓だと伝えた。暴動の2日後、中国紙・環球時報は「中国の工場は最も安全な投資先だ」としたほか、「中国での暴動の可能性は極めて低い」とした。
(1)「今年11月下旬に発生した新たな暴動は、世界最大のiPhone生産拠点がある中国河南省・鄭州市が舞台となった。新型コロナウイルス感染防止策として、食料が不十分な状態で不衛生な社員寮に閉じ込められた上、約束された賃金が支払われない見通しに怒った従業員が警備員と激しく衝突。翌週には抗議活動が全国に広がった。米中間の緊張の高まりが続く中、今回の騒動で中国における製造業体制の現状維持は、これまで以上に可能性が低くなっている。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)も世界生産の大部分を一国に集中させる危険性を浮き彫りにした」
中国が、「世界の工場」と言われる時期は終わろうとしている。これは、中国の「運命」をも左右する重大事態である。西側諸国にとって、中国の存在が不可欠という意味でなくなることだ。習氏は、今ようやくそのリスクに気づいたようである。しかし、歯車はすでに回り始めている。インドが、次の受け皿候補になってきたのである。
(2)「鄭州工場の混乱が響き、アップルは今年、約600万台の「iPhoneプロ」の生産不足に陥る可能性が高いとブルームバーグ・ニュースは報じた。モルガン・スタンレーは2~3年以内にiPhone生産の10%をインドに移すのが目標だとしている。アップルの主要サプライヤーである台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループ、和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)の3社は、インドのスマホ生産・輸出拡大に向けたインセンティブを申請・取得した。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人が非公開情報だとして匿名を条件に語ったところでは、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占める見込みだという」
モルガン・スタンレーは、2~3年以内にiPhone生産の10%がインドに移ると見ている。アップルのサプライチェーン運営に詳しい関係者1人は、23年春までにiPhone生産の5%をインドが占めるという。いずれにしても、賽は投げられたのである。
(3)「そうした予測が裏付けられたとしても、世界の工場としての中国の地位は揺るがないだろう。中国に対する懸念が必ずしもインド人気につながるわけでもない。インドは十数年にわたり製造業企業の誘致に努めてきた。同国は低コストの労働力と巨大な国内市場へのアクセスを提供できるが、老朽化したインフラと硬直化した官僚制でも知られている。過度な中国依存に対する多国籍企業の懸念を利用しようとしている国は他にもあり、コスト面だけを考えれば、現状ではインドはスマホ生産に最適な場所ではない」
インドは、電子製品の生産ではベトナムやマレーシアの後塵を拝している。ただ、インド財閥が半導体生産に乗り出す計画を固めるなど、客観情勢は変わってきた。「眠る像」が、一度起き上がれば、世界一の人口国になる手前もあり、シャッキとせざるを得まい。
(4)「それでもインド支持派は、地政学的状況に照準を合わせることが同国の最大の強みとなり得ると主張。地政学面の配慮から最大効率を犠牲にしても構わないと企業は考えているかもしれないと指摘する。アジアの大国で米国の同盟国であるインドには固有の利点が幾つかあり、事業を行う上で政治的な複雑さはそれほどないとアピールすることで十分な生産量を確保できれば、効率面で追い付き始めることもあり得るとみている」
インドは、米国の友好国として優位な地位にある。米中デカップリングの進む中で、インドが中国から移転するサプライチェーンの受け皿の一つになる可能性を秘めている。
(5)「アップル最大のサプライヤーであるフォックスコンは、地理的範囲を拡大する必要性を見越して、5年余り前にインドに生産施設の建設を開始した。20年の暴動の舞台となった工場を運営するウィストロンのほか、ペガトロンも既にインドで事業を展開している」
フォックスコンは、台湾の鴻海(ホンハイ)の系列企業である。鴻海は、半導体のTSMCと並んで台湾を代表する企業になった。日本のシャープを買収したことでも知られている。




