勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       


    中国は、EV(電気自動車)の輸出へ本腰を入れている。国内需要が曲がりカーブに達したので、余剰生産力を輸出でカバーしようという狙いだ。EV稼働率は、わずか33%である。これでは、死に物狂いで輸出するほかない。これを受けて立つ日欧米は、「ダンピング輸出」を阻止すべく対策を練っている。

     

    『朝鮮日報』(10月30日付)は、「EV輸出、中国が圧倒的首位 世界各国で障壁構築相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    中国は今年、史上初めて自動車輸出世界首位に浮上すると予想される。韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)の集計によると、18月の中国自動車輸出は約321万台で、前年13位だった日本(277万台)、ドイツ(207万台)を圧倒的に上回っている。2021年に韓国を抜き初めて3位となり、昨年ドイツを抜いて2位に浮上した中国は、今年不動の首位日本まで追い抜くことになる。

     

    (1)「(中国輸出の)うち108万台は、中国で「新エネルギー車(NEV)」と呼ばれる電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車だ。中国が輸出するEVの約25%は米テスラの中国工場などの出荷分だが、残りは上海汽車や比亜迪(BYD)など中国企業が占める。主要国のEV市場では今年、内燃機関車より割高な価格、補助金削減、不便な充電インフラなどが障害となり、EV販売の伸びが鈍化している。一方、中国は国内でNEVの割合が約30%まで増え、急成長を示している。EVの中核部品である電池も今年の世界シェア12位が寧徳時代新能源科技(CATL)、BYDという中国企業だ」

     

    中国EV輸出の25%は、米テスラの出荷である。残りがBYDや上海汽車などの民族資本企業である。テスラが、中国以外の工場進出に慎重なのは中国での生産コスト安がある。補助金支給だ。

     

    (2)「このように、中国のEVが内需市場だけでなく、破竹の勢いで世界市場に食い込むと、各国は対応に追われた。昨年8月の米インフレ抑制法(IRA)を皮切りに、自国のEV産業を保護するために補助金・関税などの貿易障壁を高める動きが見られる。EV市場に出現した自国優先主義傾向の核心には「反中」がある。欧米による中国製EVけん制は価格競争力を低下させることが中心だ。EVは通常、同じクラスの内燃機関車より20~40%割高だが、中国のEVは自国企業から安価で電池を調達し、内燃機関車並みの水準にまで価格を下げ、それを武器に世界市場を攻略している」

     

    中国は、あらゆる産業で補助金をばら撒いている。日本企業も恩典に預かっているほどだ。これは、輸出価格と国内価格を一致させなければ、WTO(国際貿易機関)によって、ダンピングと認定されるからである。これをクリアするには、国内生産段階で補助金をつけなければならない。

     

    (3)「このため、昨年8月に米国が導入したIRAのようなEV保護主義が世界に広がっている。IRAは政府補助金を受けるためにはEVを北米で生産しなければならず、電池など主要部品の現地生産比率も一定水準をクリアしなければならないことが骨子だ。フランスがそれに倣い、来年1月からEVの生産・流通時に発生する炭素排出量に応じて補助金に差を付けることにした。中国はもちろん、韓日など欧州以外の地域から輸入されるEVは、車体を輸送する際に炭素を多く排出するため、ほとんど補助金を受けられない見通しだ。イタリアもEVの生産・流通過程の炭素排出量に沿ったインセンティブを検討している。業界は中国のEVを狙い撃ちにした政策だと分析している」

     

    米国は、インフレ抑制法(IRA)によって、国内でのEVや電池の生産で企業へ補助金を出す一方、中国EVへ23%の高関税を掛けて中国へ対抗している。この結果、中国EVは締め出されている。

     

    (4)「日本は、国内での電池生産量に比例して、税額控除を受けられるようにする「戦略物資生産基盤税制」の導入を検討中だ。これは米国のIRAと類似した制度で、中国への依存度が過度に高い電池のサプライチェーンを再編する狙いがあるとされる。欧州連合(EU)は今年9月、中国から輸入するEVについて、中国政府が支給した補助金に違法性がないかどうか調査に着手した。調査結果に基づき、高い関税を課すことを検討している。ブラジルも関税カードを切る。現在EVの輸入関税を免除しているが、今後3年間で税率を最高35%まで引き上げる方針だ」

     

    日本も電池の国内生産には、税額控除を認める方向だ。EUは、EVダンピング調査に乗りだしている。来年には結論を出して中国EVの締めだしを始める。かつて、EUは太陽光発電で苦杯をなめさせられた。EUに育った太陽光発電が、中国の補助金つき太陽光発電に一掃されたからだ。この思いもあって、「太陽光発電の二の舞はご免」という強い態度をみせている。

     

    (5)「自動車生産インフラはないが、EVの重要部品である電池に使用される鉱物を産出する国では、EV産業に便乗した「資源民族主義」が強まっている。リチウム埋蔵量世界10位のメキシコは9月末、中国企業に与えた採掘権を回収した。メキシコは昨年、リチウムの採掘や商業化を政府が独占できるようにする法律も制定した。リチウム埋蔵量世界1位のチリも4月にリチウム産業の国有化を発表。インドネシアは2019年からニッケルの輸出を全面中断している。マレーシアも9月、首相がレアアースの原料輸出を制限する政策を導入すると発表した」

     

    メキシコは昨年、リチウムの採掘や商業化を政府が独占できるようにする法律も制定した。中国資本の締め出しである。欧米の鉱山会社は、中国抜きでEV用電池のサプライチェーン(供給網)を構築しなければならないプレッシャーに直面している。そのため、長い間避けてきたアフリカでの金属加工を模索している。中国から権益を守る動きである。

     

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    欧州の極右勢力が、ロシアへ親近感を持っている裏には「反米・反EU」という強い感情的な反発がある。中国は、こういう極右勢力を利用すべく資金をばらまいているとの指摘が出てきた。中国は、EUが米国と一体化して中ロへ対抗することを極度に恐れている。それだけに、ドイツの極右勢力へ接近して反米勢力をつくろうという動きを強めているというのだ。

     

    『ニューズウイーク 日本語版』(10月19日付)は、「ドイツ極右に『中国との癒着』が発覚、中国の『脅しと賄賂』に、欧州の政党が屈してしまう理由」と題する記事を掲載した。筆者は、『フォーリン・ポリシー』副編集長のジェームズ・パーマー氏である。

     

    ドイツで急伸する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に醜聞である。今月、独メディア「ティー・オンライン」はAfD所属の欧州議会議員マクシミリアン・クラーと中国当局との癒着を報じた。

     

    (1)「EU懐疑主義、反移民を掲げる同党は来年の欧州議会選で親中派として知られるクラーを筆頭候補に据えている。報道によると、クラーに「非常に近しい人々」が、中国から資金提供を受けていた。また、彼の側近はドイツ国内の中国反体制派グループと中国当局の双方とつながりがあり、前者の動きを後者に注進している疑いがあるという。クラーはこの報道を「事実無根だ」と否定しており、この一件が彼の強固な支持基盤に影響を与えることはなさそうだ」

     

    ドイツでは、AfDが支持を集めている。地方選挙では、与党を上回る力をみせている。それだけに、中国から資金提供を受けていたとなれば、ゆゆしきことだ。


    (2)「ただ、中国とつながるAfDの指導層はクラーだけではない。過去1年の間に、同党の政治家が数人、当局の招待で中国を訪れたことが分かっている。同党は中国・新疆ウイグル自治区での国家主導の残虐行為や、ウクライナ戦争での中国のロシア支援を受けて中国と距離を取るドイツ政府の姿勢に反対の立場だ。専制国家への接近は、AfDだけでなくドイツの極左運動にも共通して見られる。しかし同党の親中化はそれよりも、中欧・東欧の極右全体に見られる明確なパターンをなぞっている」

     

     

    AfDは、親ロ・親中の路線を明らかにしている。専制国家への接近は、AfDだけでなくドイツの極左運動に共通して見られることだ。ヒトラーを生んだドイツは、それなりの反省をしていると思いきや、底辺ではこういう動きがあるのだ。日本の政治情勢の方が、はるかに健全である。

     

    (3)「このパターンは欧州の各勢力に「ばらまき」をいとわない中国の姿勢と、中国の事実上の同盟国であるロシアと極右勢力が概して友好的であることの両方の帰結だ。アメリカやEUが中国と対決姿勢を強めているため、欧州諸国の反米・反EUの右派が中国に傾いていることも背景にある。例えばハンガリーのオルバン首相や、セルビアのブチッチ大統領は親中傾向を隠さない。チェコではゼマン大統領(当時)が2015年、中国の政商、葉簡明(イエ・チエンミン)を経済顧問に任命したほどだった」

     

    EUは、決して一枚板ではない。政治的な思惑が渦巻いている。極右が、移民反対論を唱えて支持を集めているのだ。発展途上国の政情安定化が、移民問題を沈静化させる要因であるから、EUにとって途上国支援は不可欠になっている。


    (4)「対照的に、西ヨーロッパの極右政党は中国に対して複雑な態度を取っている。フランスでは国民連合のマリーヌ・ルペン党首がインド太平洋における対中戦略を訴える。イタリアではメローニ首相が中国の「一帯一路」構想から離脱する方針を決めた。極右化が進むイギリスの保守党にも強力な反中派閥がある。中国側からすると、中欧・東欧の極右勢力との協力はイデオロギーの親和性ではなく、便宜上の理由に基づいている。味方になりそうな各国の周縁的な勢力を見つけてはせっせと資金を注ぐことを繰り返しているだけだ」

     

    西ヨーロッパの極右政党は、中国へ警戒姿勢をとっている。東ヨーロッパの極右とは、違った行動パターンである。

     

    (5)「とはいえ、ブレア元英首相からシュレーダー元独首相に至るまで、主流派政治家に対してさえも中国が「求愛」するのは以前から見られる光景ではあった。大筋では、中国は他の大国との間で影響力拡大のゲームを競っているにすぎない。脅しや賄賂が中国の常套手段であることは確かだが、その他の手管はアメリカなどと同じ──政治家の自尊心をくすぐり、外国との取引の機会や、時には資金を提供する──だ。その違いは手段ではなく、中国の人権侵害に対する批判を封じるという目標にこそある。AfDの台頭は、ハンガリーやセルビアのような小国よりもドイツを重視する中国にとって、大きなチャンスではあるだろう。ただ本当に危険なのは、欧州のこうした周縁的な親中勢力ではなく、中道政党が権力を得るためそうした勢力と手を結ぶ意欲を強めていることかもしれない

     

    中国は、極右だけでなく主流派政治家へも手を伸している。中国の人権侵害批判を封じる目的である。中国のEUへの触手は、十分に警戒すべきであろう。

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    中国とEU(欧州連合)の両外相は9月16日、マルタで会談した。その席で王氏は、双方は「開かれた態度」を維持し、自由貿易を断固として支持し保護主義を拒否し、中EU協力のプラス効果を達成すべきだと述べた。EU委員会が13日、EV(電気自動車)の対中輸入に関して補助金調査を行うと発表したことを受けての発言で、EUを牽制していることは明らかだ。 

    EUは、リチウムイオン電池や燃料電池でも2030年までに中国に依存する恐れがある。このため、強力な対応が必要と認識していることがわかった。ロイターが入手したEU首脳向けの文書で明らかになったものだ。 

    『ロイター』(9月18日付)は、「EU、電池で中国依存の恐れ『ロシア頼み並みに深刻』と警告」と題する記事を掲載した。 

    EU首脳向けの文書は、10月5日にスペインのグラナダで開かれるEU首脳会議で欧州の経済安全保障に関する議論のたたき台となる。会議では、中国の世界的な存在感の高まりと経済的な影響力を懸念し、欧州が中国に過度に依存するリスクを減らし、アフリカや中南米に調達先を多様化する必要性について議論する。

     

    (1)「文書は、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源は供給が時々止まるという性質があるため、欧州が50年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロとする目標を達成するためには、エネルギーを貯蔵する手段(注:大型蓄電池)が求められると指摘した。その上で、「これによりリチウムイオン電池や燃料電池、電気分解装置の需要が急増し、今後数年間で10~30倍になることが見込まれる」との見通しを示した」 

    自然エネルギー依存によるリスクは、原発と違って安定的な供給ができないことだ。気象条件によって変化するので、大型蓄電池を備えてバッファーにしなければならない。 

    (2)「さらに、「強力な対策を講じない限り、欧州のエネルギーエコシステムは30年までに、ウクライナ侵攻前のロシアとは異なる形で、深刻な中国依存に陥る可能性がある」と警告した。EUは電気分解装置の中間・組み立て段階で、世界シェアの50%超を握っているが、電気自動車(EV)に不可欠な燃料電池やリチウムイオン電池は中国に大きく依存している。文書はまた、EUの脆弱性は電池分野に限らないとした上で「同様のシナリオがデジタル技術分野でも起こる可能性がある」と警鐘を鳴らした」 

    EUは、すでに中国EV(電気自動車)の輸入シェアが高まっていることから、ダンピング調査へ着手する。同様に、リチウム電池などの対中依存度が高まる危険性は、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったので引下る必要性に迫られている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月22日付)は、「中国抜きEV供給網の構築 目指すはアフリカ」と題する記事を掲載した。 

    欧米の鉱山会社は、中国抜きで電気自動車(EV)用電池のサプライチェーン(供給網)を構築しなければならないというプレッシャーに直面している。そのため、長い間避けてきたアフリカでの金属加工を余儀なくされている。 

    (3)「中国は、エネルギーシフトの鍵となるコバルトやリチウムといった重要鉱物の生産と加工の両方を支配している。そのため、米国など西側諸国の間では、中国に依存することへの懸念が高まっている。一部の欧米企業や投資家は現在、アフリカ大陸で採掘した原料を現地で精製し、欧州と米国に直接輸出できるよう、アフリカに加工施設を建設し始めている。このような投資は、欧米の経営者がアフリカの多くの国々に伴うリスクをいかに受け入れるようになったかを示している。インフラが脆弱(ぜいじゃく)であったり、熟練労働者が限られていたり、中には政府の汚職で悪評が立つ国もある。また、アフリカで加工施設を建設すれば、自国の土壌から採掘した金属や鉱物の現地加工を増やすことを長年求めてきたアフリカ各国政府の要求に応えることにもなる」 

    欧米が、コバルトやリチウム精錬から手を引いていたのは環境破壊という「汚れ仕事」であったことだ。中国は、それをうまく利用してきた。欧米企業も、アフリカで精錬事業を始めざるを得なくなっている。

     

    (4)「英豪系鉱業大手BHPグループは、米国を拠点とするライフゾーン・メタルズとともに、タンザニアのニッケル鉱山に2022年から1億ドル(約145億円)を投資し、現地で精製工場を建設する計画だ。BHPによれば、この種の施設はアフリカで初めて。26年には米国と世界市場に向けて電池グレードのニッケルを供給する見通しだという。「われわれにとって絶好のタイミングだ」とライフゾーンのクリス・ショウォルター最高経営責任者(CEO)は言う。「相当な需要があるだろう」と指摘する」 

    BHPは、アフリカでの精錬によって26年からニッケル供給を始める。トヨタの全固体電池は26年から本格化する。これに合わせるような形だ。 

    (5)「電池用金属の需要急増が予想されることや、中国が現在この業界を支配していることから、アフリカの加工施設への投資は今後増加する可能性が高い。オックスフォード・エコノミクス・アフリカのアフリカ・マクロ経済担当責任者、ジャック・ネル氏はそう指摘する。こうした動きは、トレンドの始まりのようだと述べている」 

    中国は、リチウム鉱石を輸入して国内で精錬している。BHPは、鉱石を生産するアフリカで精錬するので、中国よりもコストが安くなるはずだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-09-18

    メルマガ499号 中国、EUとEV「紛争予兆」 23%の高関税掛けられれば「経済は混

     

     

    テイカカズラ
       

    中国製EV(電気自動車)が、世界中に安価を武器に輸出されている。その影響を最も受けているのがEU(欧州連合)だ。ついにEUは9月13日、中国製EVの補助金調査を始めることになった。

     

    フォンデアライエン欧州委員長は、欧州議会で演説し「世界の市場は現在、安価なEVであふれている。巨額の国家補助金によって価格が人為的に低く抑えられている」と指摘した。EUが環境目標を達成する上でEVの重要性を強調し、欧州委が中国製EVに対する反補助金調査を開始すると述べた。欧州委は、EUの標準税率10%を上回る関税を課すかどうか、最長13カ月かけて検証する。『ロイター』(9月13日付)が報じた。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月12日付)は、「中国、自動車輸出世界首位へ 背景に過剰生産能力」と題する記事を掲載した。

     

    中国が2023年、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国になる見通しだ。数十年続いてきた欧米、日本、韓国勢優位の時代が終わり、自動車業界は重大な転換点を迎える。ただ、中国の輸出急増の背景には、国内自動車産業の深刻な構造問題があり、世界中の自動車市場に影響が及ぶ恐れもある。

     

    (1)「中国の自動車業界では製造能力と需要の著しいミスマッチが起きているのだ。業界首脳が3つの重要な市場動向――ガソリン車の販売急減、電気自動車(EV)の爆発的人気、都市部でのカーシェアリングブームに伴うマイカー需要の低下――を予測できなかったことが一因だ。米クライスラーの中国事業の元責任者で調査会社オートモビリティーを創業したビル・ルッソ氏は、結果的に国内の自動車生産能力は「大幅な過剰」に陥っており、「2500万台分が使われずにいる」と指摘する」

     

    中国の自動車産業は、稼働率54%という異常な低位にある。過剰生産能力を抱えているからだ。地方政府の補助金を得ているので、採算的には経営不可能でも整理統合もせずに乱立状態だ。この尻が、輸出に向けられている。

     

    (2)「中国の23年1〜7月の自動車輸出台数は280万台と前年同期比74%増加し、このうちガソリン車が180万台を占めた。国内消費者がEVや中古車を好むためだ。ある欧米自動車メーカーの幹部によれば、生産能力が過剰で国内販売が鈍化しているにもかかわらず、予想されるような業界再編の機運は一向に盛り上がらない。それは地方政府や銀行が資金支援によって不採算企業を存続させているからだという。「約100のメーカーが毎年80〜100車種を市場に投入している。企業統合が進んでもおかしくないのに、そうならない」とこの幹部は首をかしげた」

     

    中国では、自動車生産に補助金をつけている。輸出の際にダンピング疑惑を受けないように、国内価格と輸出価格を同じレベルに揃えている。こういう「小細工」によって、輸出が急増している。外貨獲得手段である。

     

    (3)「中国は今後数年にわたって自動車輸出国首位の座を維持するとアナリストらは予想する。米コンサルティング大手アリックスパートナーズの予測によると、中国企業が生産する自動車の海外販売台数は30年までに900万台に達し、世界市場シェアは22年の16%から30%に拡大する見通しだ。オートモビリティーのデータによると、中国の自動車輸出は主に欧州やアジアの新興国向けで、23年は経済制裁を受けたロシアが最大の輸出先となっている。中国製EVは圧倒的な安さを武器に特に欧州で足場を固めており、輸出はますます増えるだろうと英金融大手HSBCの北京在勤アナリスト、エチェン・ディング氏は予測する。テスラはすでに上海工場から欧州向けにEVを輸出しており、欧州で販売するEVの約20%を中国で製造する」

     

    中国EVは、生産補助金を受けて世界市場を席巻する勢いだが、そう簡単に進む状況ではない。EUが、補助金によるダンピング調査を始めるのだ。

     

    (4)「BYDは、中国の先進国向けEV輸出で先頭を走っている。米銀大手シティグループのアナリストはBYD創業者の王伝福・董事長による最近の決算説明会を踏まえ、同社が24年の輸出目標として前年の2倍にあたる40万台を掲げたことに「自信を深めている」との見方を示した。BYDは決算説明会の場で、中国のEV業界は技術力や規模の点で外国メーカーの3〜5年先、コストの優位性では10年先を行っていると説明した

     

    下線部分は、政府の補助金が支えになっている。中国政府の財政状態を考えれば、補助金がいつまでもつくはずがない。

     

    (5)「とはいえ、中国企業がEVを輸出する際には、地政学的緊張の高まりやブランド認知度の低さに加え、台頭する保護主義や国産品優先主義を乗り越える必要があると専門家は警告する。「各国は中国からの大量輸入をいつまで容認するのだろうか。中国企業は生産の海外移転を迫られるのだろうか」。香港の証券会社CLSAの自動車アナリスト、クリストファー・リヒター氏はこう問いかける」

     

    下線部が、中国EVにとって泣き所である。何と言ってもブランド力がない。自動車は、長年培ってきたブランド力がものを言う世界である。「軽自動車」とわけがちがうのだ。

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    EV(電気自動車)は、排気ガスを出さない「環境に優しい」自動車とされている。だが、バッテリー製造過程では、ガソリン車製造過程よりはるかに多い二酸化炭素を排出している。それだけに、EVは無故障で長距離走行しない限り「環境に優しい」とは言えない難しい車である。一般に、余りにもEVを美化されすぎている。マイナス点の認識も必要だ。 

    問題は、EV車の整備士が世界的に不足していることである。しかも、いったん故障が起ると、EVだけに関連部分を「総取り替え」しなければならないリスクもある。1年間のEV保証コストは、ガソリン車の3倍にもつくという。大変な「金食い虫」である。 

    『ロイター』(9月10日付)は、「EV整備士の不足、世界中で深刻化か 高コストも足かせ」と題する記事を掲載した。 

    電気自動車(EV)業界は、整備士不足という深刻な問題を抱えている。資格を持つ整備士や独立系整備工場が世界的に足りず、このままでは修理代や故障保証コストが上昇し、自動車の温室効果ガス排出削減の期限内の達成をも脅かしかねない。

     

    (1)「業界関係者によると、独立系整備工場はフランチャイズディーラーよりも料金がはるかに安く、EVを手頃に利用できるようにするために欠かせない見通しだ。400ボルト、800ボルトといった高電圧EVを修理するための訓練や設備のコスト負担に難色を示す整備工場のオーナーは多い。EVの走行台数がまだ比較的少ないだけに、なおさらだ。不注意だったり訓練を受けていなかったりする整備士が高電圧EVを扱えば、感電で即死する恐れもある。EVの火災は消火が難しく、発火にも慎重な対処が欠かせない」 

    EVは、ひとたび事故が起ったら難儀をすることを知っておくことだ。EV火災は消火が難しいという。高電圧だけに修理で事故も起るという。 

    (2)「自動車整備業界は、新型コロナウイルスのパンデミック後に人手不足に陥っている。英国に拠点を置く自動車産業協会(IMI)は整備士訓練コースを設け、現在は中国全土にEVコースを設置しようといている。今後、インドと欧州全域への展開も目指す。IMIは、2030年に化石燃料車の販売が禁止される英国では、32年までにEV整備士が2万5000人不足すると予測している。米国は、EV販売台数の伸びで欧州に遅れをとっている。それでも労働統計局はEVの修理やEV充電器の設置を行う技術者を含め、2031年までに年間約8万人の技術者が必要になると見込んでいる」 

    EV修理の技術者が、絶対的に不足しているという。

     

    (3)「専門家は、整備士がEVの扱いを避けて整備代金が上昇し、修理に掛かる時間も伸びることを懸念している。英中古車保証会社ワランティワイズがロイターに提供したデータによると、すでに修理保証コストは高騰しており、テスラのモデル3の期間1年の保証コストは同価格帯の化石燃料モデル平均の3倍以上となっている。ワランティワイズの幹部によると、同社はEVの修理を高コストのフランチャイズディーラーに任さざるを得ない。独立系整備会社よりも有資格整備士の人数が多いためだ。幹部は「人々は高い修理コストを払えるのだろうか」と懸念を口にした」 

    EVの修理保証コストは、期間1年でガソリン車の3倍以上になるという。EVのランニングコストは安いとされるが、保証コストまで含めたトータルコストはどうなるかだ。 

    (4)「ロンドンの北西部ハイウィカムにあるヒルクライム・ガレージのマネジングディレクター、マーク・ダーヴィルさんは、EVとハイブリッド車の整備を受け入れており、これらの扱いが全体の約15%を占める。同社が計画している訓練と設備への投資2万5000ポンド(約3万1400ドル)は、EVとハイブリッド車が整備全体の35%を占めると見込まれる2024年後半には回収できる見通しだ。EVの修理は選択肢が乏しく、既に遠くから顧客が来ている。「独立系整備工場の足かせになっているのは、未知への恐れだ」と言う。IMIによると、英国の自動車技術者の推計20%が何らかのEVの訓練を受けている。しかし、定期整備以上の作業が可能な有資格者はわずか1%だ」 

    EVとHV(ハイブリッド)の修理設備は、約3万1400ドル(約455万円)だ。この程度の設備費ですむものならば、それほどの高額投資とは言えまい。問題は、修理技術の習得であろう。

     

    (5)「自動車メーカーは整備士育成に躍起だ。米テスラは整備士候補養成のコースを米国のコミュニティカレッジで開講。国内の独立系修理工場向けに訓練も提供している。EV訓練コースの機器を製造している独ルーカス・ヌエル社のダニエル・ブラウン氏は、無資格の技術者が高電圧のEVを修理するよう圧力を受けることを心配している。「誰かが怪我をするのは時間の問題だ」と言う」 

    無資格の人間が、EVを修理して事故を起こすリスクだ。これが、最も大きい。 

    (6)「豪ニューサウスウェールズ州自動車ディーラー協会のコリン・ジェニングス氏は、小規模な修理工場にEV訓練のために補助金を出すことが必要で、そうでなければ多くの修理工場は化石燃料車の扱いを続けると訴えている。オーストラリアは多くの場合、小さな町と町の間が遠く離れており、EVの整備は避けて通れない課題だ。ジェニングス氏は「そんな場所でテスラが故障したら、誰が修理してくれるのか」と、EV修理体制の重要性を指摘した」 

    EV普及には、それに見合った修理体制の整備が不可欠である。EVでドライブを楽しむという夢には、思わぬ落し穴がありそうだ。

     

     

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