勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時評

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    中国輸出は、急ブレーキがかかっている。2022年10~12月のドル建て輸出額は、前年同期比7%減。2年半ぶりのマイナスとなった。ゼロコロナで傷ついた中国経済のテコ入れには輸出しかない。その頼みの綱がマイナスでは、ショックも大きい。国・地域別にみると、米国向けは19%減で2四半期連続のマイナス。欧州連合(EU)向けも12%の減少に転じているのだ。

     

    米国は、安全保障を巡る対立激化で輸出減になったが、EUは何としても地盤を失いたくないという切羽詰まった局面にある。EUは、中国にとって最大の貿易相手国だ。中国はEUに対して巨額の貿易黒字を計上している。これが、中国の対EU外交へ力を入れている背景にある。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月11日付)は、中国、「『経済リセット』より重視、ゼロコロナ後」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「欧州勢力との関係修復を求める中国政府は、欧州側に対して「ノー・デカップリング(非分断)」というスローガンを唱えることに同意するよう強く主張している。(編集注、デカップリングは中国経済が先進国経済とは非連動という意味で使われてきた)とりわけ機密的な技術などの特定分野で中国との経済的な関係を制限しようとしている米国政府とは明らかに異なる対応を求めている」

     

    中国は、欧米が一本化して「脱中国」にならぬよう、離間作戦を始めている。だが、EUもこの手は先刻承知済。EUは、ロシア依存のエネルギー政策で苦しんだだけに中国依存に対して慎重である。

     

    (2)「香港バプティスト大学の中国専門家、ジャンピエール・キャペスタン氏は「中国は同時にあまりにも多くの国々、特に現在も主要な貿易・経済上のパートナーである西側諸国と敵対していることに気づいた」と分析する。「そのため、EUや欧州主要国のドイツ、フランス、イタリア、スペインだけではなく、日本や韓国などアジアの米同盟国、米国と(安全保障面で密接な関係にある)ベトナムなどに(関係修正を)懸命に働きかけている」と指摘」

     

    中国は、「喉元過ぎれば」である。日韓に対しては、コロナの水際対策を巡る行き違いから、ビザ発給を中止して圧力を掛けている。相変わらずの「自国中心主義」に陥っている。これでますます、日韓は中国との距離は開くだけだ。

     

    (3)「欧州の当局者やアナリストらによると、欧州各国首脳の大きな動機付けとなっているのが、ロシアによる核兵器使用の抑制を中国が手助けすることができるという期待だ。米カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授で21世紀中国センターの会長を務めるスーザン・シャーク氏は「中国は常に核兵器の使用に反対してきたはずだ」と指摘したうえで、「しかし習近平国家首席が欧州首脳らにこのようなことを語る際には、(中国と)ロシアの間には一定の距離があることを強調しようとするだろう」と話す」

     

    中国のEU接近の「常套句」は、ロシアの核使用反対論である。これによって、EUを引きつけようという戦略である。

     

    (4)「中国政府がより重要視しているのが国内の経済成長を押し上げる経済リセットだ。具体化されつつある成長志向戦略の背景には、向こう数カ月に中国経済はコロナがもたらした景気低迷から脱却するという不透明な前提がある。中国共産党中央財経委員会の主要幹部である韓文秀氏は昨年12月、23年1〜3月期は大きな混乱による悪影響は避けられないとしながらも、4~6月期には「加速したペース」で景気が回復する見通しだと言明した」

     

    中国共産党中央財経委員会の主要幹部は、4~6月期の景気急回復を予測している。コロナ感染急拡大の後遺症が、どうなるか未知数である。中国疾病予防コントロールセンターの首席疫学者だった曽光氏は、新型コロナウイルス感染のピークが2~3カ月続く見込みで、医療資源が比較的乏しい農村部に間もなく感染の波が広がるとの見方を示した。『ロイター』(13日付)が伝えた。楽観論は要注意だ。

     

    (5)「アナリストらは、韓氏の発言について中国政府が不動産市場を23年中に安定させる計画であると解釈している。韓氏の口頭での支援に加え、中国政府は不動産市場向けに16項目に及ぶ包括支援策を発表しており、国有銀行は特定の不動産開発企業向けに推定2560億ドル(約33兆8000億円)の融資枠を設定している」

     

    中国政府は、不動産企業への資金調達制限などを緩め、支援政策に転換する。大手不動産に対して定めた財務指針「3つのレッドライン」を緩和する。だが、問題は需要側(家計)の住宅ローン支払能力である。雇用もままならぬ中で、多額の住宅ローンを抱える余裕があるのか疑問だ。

     

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    習近平氏は、自らの国家主席3期目を実現すべくあらゆる努力を傾けている間に、中国の外交や政治は軌道を外れた感じである。難題が、次々と中国へ降りかかっているからだ。この事態を改善すべく取り組みが始まっている。『ウォールストリートジャーナル』(1月12日付)は、「中国、次期駐米大使にパイプ役任命か」と題して次のように報じている。

     

    中国はここ数年にわたる攻撃的な「戦狼外交」の軌道修正を図っており、米国の事情に精通する謝鋒外務次官を次期駐米大使に任命する見通しだ。事情に詳しい関係者が明らかにした。背景には、冷え込んだ米国との関係を安定させ、新型コロナウイルスへの対応などで低下した国際社会での中国の地位を回復する狙いがある。外務省の事情に詳しい関係筋が明らかにした」

     

    新型コロナウイルスでは、中国が感染者数、重症患者数、死者数を含む感染状況の日次データを公表したのは1月9日まで。それ以降は、未発表状態に陥っている。感染状況が、さらに悪化したのではという憶測も流れている。これでは、国際社会への義務すら放棄していることになる。米国との信頼回復も難しい局面だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月10付)は、「中国が経済・外交リセット模索、外交関係修復も視野」と題する記事を掲載した。

     

    中国が「ゼロコロナ」政策を事実上終了したことで起きた大混乱に伴う代償が急拡大している。こうした状況は、毛沢東以来最も強力な中国の指導者である習近平国家主席のイメージに傷をつけるだけではない。2年間、西側諸国の膨大な死者数を中国の統治の秀逸さの証拠として伝えてきた中国のプロパガンダ(宣伝活動)機関も、政府政策の擁護に四苦八苦している。

     

    (1)「実は、この大混乱の裏で、習氏の外交・経済政策の抜本的なリセットが進んでいる。中国の当局者と政府顧問によると、中国政府は著しく悪化した外交関係を修復し、疲弊した経済を立て直すための政策を組み立てつつある。中国政府が抜本的なリセット(成功する保証はない)を目指す背景には、経済、社会、外交政策上の様々なストレスが重なり、危機的レベルに達したことがあると当局者や顧問は語る」

     

    なぜ、ここまで中国の外交と経済は悪化したのか。習氏が、全ての決定権を握ったことによる弊害であろう。従来の集団合議制であれば、途中で路線修正も行なわれてはずだ。改めて、権力集中政治のリスクを浮き彫りにしている。

     

    (2)「複数の当局者と政府顧問の話によると、その目的は、経済面では、減速する経済に力強い成長を取り戻すこと、中国農村部の数億人の労働者の暮らし向きを改善すること、不況に陥った不動産市場を安定させること、苦境に立つ地方自治体の財政を下支えすることにあるという。中国政府が成長志向の政策をとると予測する有力エコノミストの1人である香港大学の陳志武教授(金融論)は、政府は2023年の成長目標は「6%かそれ以上」になると予想している。国際通貨基金(IMF)が予測する4.%成長より大幅に高い数字だ」

     

    経済面では、6%以上の成長を目指すという。だが、世界銀行は23年の世界経済成長率を1.7%と予測するほど深刻だ。中国輸出もこの影響を受ける。高成長を目指すには、さらなる債務依存経済へ落込む。禍根を残すだけだ。

     

    (3)「外交面では、中国は、国際的な孤立感を経験した後、一部の西側諸国との関係を改善することに主眼を置いている。焦点は欧州との関係にある。ウクライナに対してロシアが仕掛けた戦争に関し、中国がパートナー国であるロシアを支持したことで中欧関係は著しく悪化した。「中国政府は自国が西側諸国と外交面で敵対することは望んでいない。また多国間のフォーラムで孤立しているとみられるのも本望ではない」。英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中国専門家、ユー・ジエ氏はこう話す。「ロシアがウクライナへの軍事侵攻でつまずき、中国にとっては、中ロ関係に関して、投資に対する見返りが著しく悪化した」

     

    中国のロシア支持は、中国外交を孤立させる大きな要因だ。今、その誤りに気づき路線修正に必死になっている。

     

    (4)「複数の中国の当局者によると、中国は今、ロシアがウクライナに対して勝つことができず、紛争後に国際舞台において経済的にも外交的にも著しく衰えた「弱小国」となる可能性を認識している。侵攻当時に筆頭外務次官を務め、中国外務省トップのロシア専門家だった楽玉成氏が昨年6月に更迭されたことが、中国側の誤認を裏付けているという。欧州における中国の地位回復を図る中国外交官は、「ロシアの全面侵攻の意図を中国側は認識していなかった」と主張しているという」

     

    習氏こそ、プーチン氏と密着していたのだから、ウクライナ侵攻の意図を見抜くべきであった。その責任を、筆頭外務次官(当時)に押し付けてしまった。解せないことである。

     

    (5)「こうした発言は、中国の孤立感を和らげ、欧州が米国に一段と接近するのを防ぐための大きな戦略の一部といえる。中国、欧州双方の外交当局者によると、プーチン氏に核兵器使用を思いとどまらせるために、中国には、ロシアとの緊密な関係を利用する用意があると言うことで、欧州諸国の政府を安心させるのが中国側の戦略だという」

     

    中国は、西側諸国の離反に驚いて、ロシアに核兵器使用を思い止まらせると吹聴している。だが、ウクライナの被害は甚大でも、なお公的には沈黙したまま。真意はどこにあるのか。

     

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    ロシアはこれまで、原油や天然ガスの市況高騰に支えられて、財政は豊かと喧伝されていた。だが、それは意図的に流された「謀略」であった。実際の財政は、9月から赤字転落の情況になっていた。

     

    ロシア財務省が今週発表したデータによると、ロシアの財政黒字は夏の間にほぼ消えた。6月末の黒字は1兆3700億ルーブル(約3兆3000億円)だったが、8月末にはわずか1370億ルーブルにまで落ち込んでいた。歳入が落込んでいた結果だ。ロシアの予算では天然ガスよりも石油の収入が大きな割合を占めている。指標となるブレント原油価格は、6月上旬のピーク時から約25%も下落した。一方、ウクライナ侵攻で戦費が嵩んでいる。こうして、財政は9月から赤字情況に落込んでいる。

     


    米『CNN』(9月16日付)は、「
    ロシアの財政黒字が急減、原油安とウクライナでの戦争で打撃」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの財政状態が、急速に悪化している。欧州連合(EU)によるロシアからの海上石油輸入の禁止や、主要7カ国(G7)のロシア産石油の価格上限規制が12月に実施される前にもかかわらず、早くも財政悪化だ。欧州の天然ガス価格は異常高のままだが、EUおよび英国へのガス供給は年初から49%も減少した。ロシアの天然ガス会社ガスプロムが先週に発表して明らかになった。

     

    (1)「ドイツ国際安全保障研究所の上級研究員、ジャニス・クルゲ氏によると、軍事費と、西側諸国の厳しい制裁の影響から経済を守るための対策費が大幅に増えている。ロシア政府のリアルタイムのデータは、予算が現在赤字であることを示しているとクルゲ氏は指摘し、軍事費の上昇に伴いロシアの赤字はさらに膨らむ可能性があると付け加えた。「軍事費はもともと今年3兆5000億ルーブルを予定していたが、今月すでに超えた可能性が高い」とCNNにコメントした。ロシアの経済紙「ベドモスチ」は15日、政府に近い情報筋の話として、財務省が政府機関に対し来年10%の支出削減が必要だと伝えたと報じた。しかし、国防費は増加する見込みという」

     

    軍事費は、当初予算の3兆5000億ルーブルを9月で使い果たしている。戦況不利に伴い、緊急に兵士や武器弾薬を補充しなければならない。現実には、予算もない補充兵もいないという「ないないづくし」状態へ追込まれた。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(9月13日付)は、「
    ロシア財政が悪化、石油価格下落で 軍事費に影響」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの財政収支は8月、3600億ルーブル(約8600億円)の赤字となった。エネルギー輸出価格の急落が原因で、年初来の黒字の大半が吹き飛ばされた。

     

    (2)「17月の財政収支は5000億ルーブル近い黒字だった。だが、黒字額は8月の時点で1370億ルーブルに落ち込んだ。9月に大幅な財政赤字を計上したことを示唆する。複数のエコノミストは、石油・ガス収入の減少が理由だとみている。16月の財政黒字は1兆3700億ルーブルだった。エネルギー価格の高騰で、ロシアは軍事費を積み増すことができた。ロシア産ガスの欧州向けの輸出量は、ロシアがウクライナに侵攻する前のおよそ5分の1に縮小した。ロシアは9月上旬、バルト海経由でドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム1」を通じた供給を、西側が対ロシア制裁を解除するまで再開しない考えを示した」

     

    ロシア財政は、8月以降に急速な悪化に見舞われている。石油・ガス収入の減少が理由である。天然ガスの欧州向け輸出量は、ウクライナ侵攻前の2割まで落込んでいる。西側諸国も価格高騰で犠牲を負っているが、ロシアもガス輸出量の落込みで財政赤字に落込んでいる。

     


    (3)「財政的には、ガスよりも寄与が大きな石油が6月以降、かなり値下がりしたこともロシア財政の足かせになっている。原油価格は一時、1バレル120ドル前後に上昇したが、最近では同80ドル台を付けている。欧州へ輸出するはずだった石油をインドなど新たな需要国に引き取ってもらうため、ロシアは販売価格の引き下げを迫られた。2月の侵攻直後に売り込まれたルーブル相場の反転も、通常はドル建てやユーロ建てで取引する石油・ガスの販売によってロシア政府が得る金額を実質、押し下げた18月のロシア政府収入の半分近くを占める石油・ガス収入は前年同期を18%も下回る

     

    原油価格の国際価格の低下も、ロシア財政悪化に拍車を掛けている。1~8月の歳入に占める石油・ガス収入は、前年同期比で18%減になった。今後は、さらに落込みが激しくなる見通しである。ウクライナ侵攻の戦費は、すでに予算を使い果たしている。財政赤字が、雪だるま式に増える状況になった。

     


    (4)「ロシア経済発展省は、7月の実質国内総生産(GDP)が前年同月比で4.%減ったと発表した。ロシアの大手投資会社アトンのアナリストは、同国経済はエネルギー生産の落ち込みで縮小が続き、22年の実質成長率はマイナス5%に落ち込むと予想する。ロシア中央銀行は9月上旬の報告書で、輸出の減少傾向が続く可能性が高いと指摘した。そのうえで同国経済の先行きに慎重な見方を示した」

     

    今年のGDP成長率は、ウクライナ侵攻直後、二桁のマイナス予想であったが、一桁に収まりそうである。マイナス5%成長と予想されている。ただ、今年後半からの財政悪化が、来年はさらに拡大されるので、GDP成長率のマイナス幅が拡大されるだろう。

     

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    ロシア大統領プーチン氏は7月8日、ロシアに対する制裁を継続すれば、世界中の消費者に壊滅的なエネルギー価格の上昇を招くリスクがあると西側諸国に警告した。これは、ロシア経済が西側の制裁によって苦しくなっていることの裏返しだ。ロシアは、戦時経済特有の緊縮財政へ追い込まれている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(7月7日付)は、「ロシア、戦時経済体制に移行へ 長期戦見据え」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは経済を一段と強固な戦時体制に移行させるため、民間企業や労働者に対する政府の管理を強化する方針だ。ウクライナの支配を巡る戦争で長期戦に備えていることがうかがえる。ロシア議会下院で審議している法案の添付文書によると、提出された法案は特に軍を支援し、「武器や軍装備品を修理する必要性の短期的な高まり」に対応する狙いがあるという。

     


    (1)「この措置は、ウクライナ侵攻後に迅速な勝利を収めるというロシアの計画が失敗し、紛争が東部ドンバス地方を中心とした消耗戦に発展したことを受けたものだ。また、制裁がロシア経済に大きな打撃を与えると予想されることにも対応している。ボリソフ副首相は「ロシアは強大な制裁圧力の下、これまで4カ月にわたって特別軍事作戦を展開している」と述べた。5日に行われた下院での法案審議中、ボリソフ氏は「ロシアの軍産複合体にかかる負担は著しく増大している」と指摘した。「武器や弾薬の供給を確実にするためには、軍産複合体と防衛産業の協力企業での業務を最適化する必要がある」という」

     

    4ヶ月のウクライナ侵攻が、武器弾薬の強い消耗をもたらしており、緊急対応しなければならない事態へ直面している。

     


    (2)「すでに下院で第2読会(3段階審議の2番目)を通過した1つ目の法案は、政府が企業に国防契約の履行を義務付けることを可能にし、国防省などに契約条件を変更する権限を与えるものだ。例えば、当局は工場に対して生産を軍需品向けに切り替えるよう強制したり、企業が特定の製品やサービスをどの程度供給するかを管理したりできるようになる。ただ、この措置はすでに防衛部門のサプライヤーリストに掲載されている企業が主な対象だとボリソフ氏は説明した。「この法案は、軍のニーズのために民間の中小企業を強制的に事業転換させることは規定していない」という」

     

    ロシア政府は、防衛産業に対して特定の分野の製品やサービスの供給管理をする、としている。

     

    (3)「2つ目の法案は連邦労働法を改正し、政府に労働力の管理を強化する権限を与えるものだ。当局は「所定の労働時間を超えて夜間や週末、休日に勤務する条件や年次有給休暇の規定」を含め、「個々の組織において労使関係の法的条件を定める」ことが認められるという。これには、国と契約する防衛企業で専門職の人材が不足していることに対応する狙いがあるとボリソフ氏は述べた。時間外労働を強いられた従業員には残業代が支払われる。これらの法案は上院も通過しなければならず、その後プーチン大統領の署名を経て成立する。法案の添付文書によると、この新しい措置は制裁下で「ことのほか」重要になるという」

     

    政府は、防衛産業の企業に対し労働時間や休日の管理を行なうという。要するに、政府が防衛産業を管理下に置く法律を準備していることだ。

     


    (4)「ロシア経済に対する制裁の影響は、これまでのところ石油とガスの輸出価格の上昇によって軽減されており、ロシア政府には経済や軍の支援に振り向けられる多額の収入がもたらされている。しかし、ウクライナの同盟国がロシア産エネルギーからの脱却を急ぐ一方、プーチン氏が国民に対する経済的支援策を発表していることから、制裁の影響は拡大することが予想される。国際金融協会(IIF)の副首席エコノミスト、エリナ・リバコワ氏は、ロシアは「最悪の事態に備えている」とみる。「まもなくそうした収入はすべてなくなる可能性もある」と指摘」

     

    ロシアは、制裁効果が浸透することで「最悪事態」を想定し始めている。欧州向けのロシア産の原油や天然ガスは、輸出ゼロの時期が迫っている。財政の逼迫は明らかだ。プーチン氏の強気発言の裏には「悲壮感」が漂っている。

     


    (5)「ロシア紙『ベドモスチ』によると、財務省は輸送インフラや科学技術開発プロジェクトの予算など一部の分野において、今後3年間で1兆6000億ルーブル(約3兆3000億円)の支出削減を提案した。また、社会福祉の支出を大幅に拡大し、来年だけで9360億ルーブル増の3兆4000億ルーブルに引き上げることも計画しているという。同紙は匿名の財務省報道官の発言を引用し、この変更は全般的に、最も重要な分野に支出を集中させるための連邦予算の「バランス調整」だと報じている」

     

    ロシア財務省は、歳入減を見込んでおり、予算削減に着手している。輸送インフラや科学技術開発プロジェクト予算の一部で、今後3年間で1兆6000億ルーブル(約3兆3000億円)の支出削減を提案した。一方で、社会福祉支出を大幅に拡大する。来年だけで9360億ルーブル増の3兆4000億ルーブルに引き上げる。低所得者の手当と年金引上げである。これによって、制裁による不満を緩和させる目的である。国民の目をウクライナ侵攻から逸らすのだ。


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    ロシア陣営で「新G8」

    今来年でGDP大幅減

    これから10年雌伏期

    同盟の価値を再認識へ

     

    ロシアのプーチン大統領は6月17日、「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」で欧米諸国を痛烈に批判する演説を行い、「一極世界の時代」の終わりを宣言した。西側諸国による経済制裁にも関わらず、原油価格の高騰によって貿易黒字はむしろ増加。プーチン氏が意気軒昂である裏には、こういう事情がある。

     

    一方、西側諸国は自ら科した経済制裁によって原油価格が高騰して、消費者物価が危険ラインを突破している。ロシア外務省広報官が、「西側は自分で自分の足を撃っている」と嘲笑しているほど。プーチン氏が、「一極世界の時代」の終わりと言いたい理由はここにある。

     


    プーチン氏は、すでに戦勝気分である。
    自身について、公然と皇帝ピョートル1世になぞらえているのだ。ピョートル1世は17世紀末~18世紀のロシア皇帝で、ロシア近代化のほかに大国化を推進した。大北方戦争でスウェーデンと長年にわたり領土戦争を繰り広げた皇帝である。プーチン氏は、皇帝ピョートル1世の「再来」として振る舞うつもりだ。

     

    こういう歴史錯誤は、なぜ起こっているのか。

     

    ロシアは、ビザンティン帝国から正教を受容したので、ローマ・カトリック世界とは異なる道を歩むことになった。欧州のような、近代ヨーロッパ文化を誕生させたルネサンスも宗教改革も経験しなかったのだ。この歴史が、ピョートル1世を生み領土拡大が「善」とする国家観を生み出し、プーチン氏にまで引継がれている背景であろう。

     


    ロシア陣営で
    「新G8」

    ロシア下院のヴォロディン議長は6月11日、ロシアに対し友好的な国による「新G8」を提唱した。「アメリカが対ロ制裁などによって新G8結成のための条件を自ら作り出した」とした。その新G8候補国は、「中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン」などだ。そして、「新G8」のGDPは、購買力平価によれば現在の「G7」を凌ぐとしている。購買力平価という、雲を掴むようなデータを持出して、ロシア側陣営の勝利を宣言しているのだ。

     

    ロシアが、ここまで西側諸国へ対抗心をむき出しにしている裏には、ロシア国内を鼓舞する狙いもあろう。客観的に見て、「新G8」がロシアの要請によってまとまるメリットはない。逆に、西側諸国から不利益を被るリスクの方が高まるだけである。そんな不利な取引になることに加わる国はあるまい。

     


    ロシアが、「新G8」などを言い出している裏には、原油や天然エネルギーの価格が高騰して、「売り手市場」になっていることもあろう。確かに、今年の貿易黒字は昨年を大幅に上回る見込みである。以下は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)から引用した。

     

    ロシアの貿易黒字は、今年1月~5月に昨年同期に対して、約3倍増の1100億ドル(約14兆5600円)に達した。このまま行けば、今年は過去最高の経常黒字となる見通しだ。ロシアは、この潤沢な資金を緊急時に備えるためではなく、落込む国内経済の下支えに使っている。国際金融協会(IIF)は今月取りまとめた報告書の中で、「ロシアの構造的な経常黒字はバッファーの迅速な構築につながり、制裁の効果が時間と共に低下するのは必至だ」と指摘した。


    IIFの試算によると、資源価格が高止まりし、ロシアがこれまで通り石油・ガス輸出を続けるならば、ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性がある。これは西側の制裁で凍結されたロシアの外貨準備の額にほぼ匹敵する。

     

    以上の報道から得られる示唆は、厖大な貿易黒字を落込むロシア経済の下支えに使えることだ。これが、経済制裁の効果を目立たなくさせている理由である。問題は、この資源高状況がいつまで続くかである。

     

    ロシア産原油や天然ガスの最大需要先であるEUが、今年年末までに原油の9割を輸入削減する。天然ガスも、EUはアフリカからの輸入を増やす交渉が軌道に乗っている。こう見ると、ロシアが現在享受している「価格高騰」メリットに永続性がないことは明らか。これからは、経済制裁効果を軽減してきたバッファーが消える。ロシア経済へ、ストレートで悪影響が出る局面を迎えるであろう。

     


    今来年でGDP大幅減

    IIFの予測によれば、ロシア経済が今年はマイナス15%、2023年も3%のマイナス成長になるとしている。これによって約15年分の経済成長が消し飛ぶと見ているのだ。このような悲観的なシナリオが出てくる背景を探ってみたい。

     

    ロシアが今後、経験させられるのは「産業化の逆行」である。すなわち、より前の段階の古い技術を生かした経済成長になることだ。新しい技術は、西側諸国からの提供がストップする。技術脆弱国のロシアにとって、致命的な痛手になる。プーチン氏を初め、ロシアの政治家にはその深刻さが全く分かっていないのだろう。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

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    メルマガ365号 習近平10年の「悪行」、欧米から突付けられた「縁切り状」

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    メルマガ366号 韓国、山積みになった「請求書」 長期低迷期に入る覚悟あるか

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    メルマガ370号 韓国新政権「負の遺産」に苦悩 忍びよる債務破綻、家計・国家が抱える

     

     

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