勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時評

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    ドイツ社会といえば、融通が効かぬほどの「堅物」とされている。一度決めたルールは、どんなことがあっても変えない。この頑固さが、財政赤字を少額にする一方で、インフラ投資不足を招くという、予想もつかない事態を招いている。 

    最近は再び、「欧州の病人」とまで呼ばれているほど。国内貯蓄は、「腐るほど」持っていながら、国債を発行しないで宝の持ち腐れになっている。これは、第一次世界大戦で天文学的インフレに陥った反省から来ている。あの苦しみが、骨の髄まで染みこんでいるのだ。ドイツのGDPは昨年、日本を抜いた。日本が、再び抜き返すチャンスはありそうだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月17日付け)は、「ドイツは再び『欧州の病人』か」と題する記事を掲載した。 

    国際通貨基金(IMF)の欧州部門が、3月27日に公表したブログの冒頭部分で「ドイツは苦しんでいる。昨年は主要7カ国(G7)で唯一、マイナス成長となり、今年の成長率も7カ国中最低となるだろう」と指摘した。

     

    (1)「IMFによると、ドイツの1人当たり国内総生産(GDP)は2019〜23年の4年で1%低下した。これは41カ国の高所得国中34位に位置付けられる。G7でドイツより悪かったのはカナダだけで、マイナス0.%の英国や0.%のプラスとなったフランスより悪い。6%の伸びを示した米国は別格だ。ドイツ経済が病んでいるとすれば、それは一過性の現象か、それとも慢性疾患なのか。以下の点からみると、前者であると論じることは可能だ」 

    ドイツ経済は、ここ数年低調である。日本は、このドイツに名目GDPで抜かれた。ひとえに円安が原因である。ドイツは、「ユーロ」という共通通貨によって守られている。幸運だ。 

    (2)「IMFブログで指摘するように、ドイツの交易条件はロシアによるウクライナ侵略で天然ガス価格が高騰したことで大幅に悪化したが、天然ガス価格が再び下落すると18年の水準に戻った。同時に起きた急速なインフレ高進も落ち着き、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和に転じた。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後に製品からサービスへと世界的な需要のバランス再調整が起きたこともドイツ経済に不利に働いたが、これも反転しそうだ」 

    ドイツのエネルギー・コスト高は、ようやく収拾段階を迎えている。

     

    (3)「今のドイツ経済は5つの逆風にさらされている。第1に、ドイツの労働力人口(15〜64歳の人口)の比率は19〜23年には上昇していたが25〜29年には0.66ポイント低下すると予想されている。これはG7では過去最大の下げ幅だ。第2に、18〜22年の総公共投資のGDP比率は2.%で、主要な高所得国の中でスペインを除いて最も低い。英国も3%と低いが、それをも下回る」 

    ドイツ経済は,5つの逆風に遭遇している。第1が、生産年齢人口の減少だ。日本を上回る落込みである。第2は、インフラ投資不足である。ドイツの道路を見ると、舗装道路の至る所が必要箇所だけしか「布を当てたような」修繕しかしない「ケチケチ」ぶりだ。 

    (4)「第3に、ドイツの1人当たりGDP(購買力平価ベース)は17年には米国の89%だったのが23年には80%に低下し、同期間でG7中最大の低下率を記録した。第4に、ドイツはデジタル経済で重要な役割を果たせない状況が今後も続く。ドイツは欧州最大の経済であるため、その影響は欧州連合(EU)全体にも及ぶ。第5に、世界は分断の時代に入りつつある。これは貿易への依存度が高いドイツ経済にとって大きな痛手となる」

     

    第4は、ドイツがデジタル経済と最も遠いところに位置している。古風なのだ。第5は、貿易依存度が高いことである。EU他国への貿易量が多いことの必然的結果である。 

    (5)「ドイツの債務嫌いは誤りか、それ以上に偽善的だ。ドイツの貯蓄過剰は他国の貯蓄不足と債務でバランスが保たれなければならない。さらに、ユーロ圏諸国に財政赤字の削減を呼びかけても、ユーロ圏の経常黒字がさらに拡大するか、他のユーロ加盟国(例えばフランス)の民間部門が赤字に転じることを余儀なくされない限り、うまくいかない。こうした調整はドイツによる「近隣窮乏化策」と捉えられ、景気後退を引き起こす危険がある」 

    ドイツ人は、独特の金銭感覚で無駄な失費と無縁な生活だ。1517年、世界で最初に宗教改革を始めた国である。無駄な失費をとことん嫌う感覚が、プロテスタンティズムを生んだと思える。この精神が、連綿として受け継がれている。かつて、ドイツ南部の時計職人は自分でつくった柱時計を背負ってスイスまで行商に出かけていた。この堅実さが、今もドイツ人の血の中に流れている。

     

    (5)「ドイツの純公共投資額は今世紀初め以来ほぼゼロだと記されている。従って公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。民間部門にこれだけの余剰貯蓄を抱える国であれば、ドイツとユーロ圏が必要とするより強力な供給サイドと需要の両方を生み出すため余剰貯蓄を国内投資に振り向けない手はない。ドイツが直面する短期的な問題はいずれ過ぎ去る。それよりも長期的な問題の方が深刻だ。中でも最も不必要な阻害要因は必要とされる公共投資の財源を国内で賄うことへの抵抗感だ。憲法に相当する基本法で財政赤字に上限を設ける不条理な「債務ブレーキ」を解除すべき時が来たようだ」 

    ドイツの純公共投資額は、今世紀初め以来ほぼゼロだという。いかにもドイツ人社会の堅物さを示している。インフラも、ボロボロになっても補修を続けて使っている。およそ、「使いずて」とは無関係な生活である。インフラ投資へもっと資金を使えという要求だ。

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    欧州の若者は、これまで地球環境への関心から「緑の党」やリベラル政党を主に支持してきた。それが一転して、極右政党への支持に回っている。極右政党が、欧州議会選挙やフランスの国民議会(下院)選挙で躍進した一因である。極右政党は、政策のカジを現実路線へ切ったことで、物価高や住宅難といった若者の不満を吸い上げている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月3日付)は、「欧州の若者、経済苦を背景に右傾化 極右躍進の一因に」と題する記事を掲載した。

     

    緑の党から極右へ――。こうした政治潮流の変化を象徴するのは欧州連合(EU)加盟国中で経済規模や人口が最大のドイツだ。欧州議会選のドイツ国内の結果をみると、獲得議席はキリスト教民主同盟(CDU)など中道右派が29と首位。極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が前回から議席数を4増やして15と2位に躍り出た。3位はショルツ首相のドイツ社会民主党(SPD)。緑の党は前回から議席数を9減らして12と、4位に沈んだ。

     

    (1)「その象徴が若者の民意の変化だ。ドイツでは今回の欧州議会選から投票権を16歳に引き下げた。25歳未満の有権者の投票行動をみると、AfDは5年前の前回と比べて11ポイント高い16%を獲得した。これに対し、緑の党は23ポイント低い11%にとどまった。欧州の若者は気候変動問題に敏感で、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの名前にちなんで「グレタ世代」ともいわれてきた。なぜドイツの若者の間で緑の党への支持が減り、逆に極右への支持が広がったのか」

     

    ドイツ政府は環境対策に力を入れたが、これによって生活コストの跳ね上がりを招いた。理想論を急ぎすぎたのだ。経済悪化は、また移民が増えたという理由付にされた。極右は、こうした国民の不満をうまく吸い上げている。ただ、ヒトラーも経済悪化状況を巧妙に利用したので、「悪夢」再びという面もある。ドイツは、歴史的に意外と極右に弱いのだ。

     

    (2)「多くの若者は、自分たちの心配事がドイツの政府に真剣に受け止められていないと考えている。インフレ、高い住宅費用、そして移民。AfDは(動画共有アプリの)TikTokを早くから使い、若い聴衆に目に見える形で訴えるのに成功した。ドイツの若者研究者であるサイモン・シュネッツァー氏は筆者の取材にこう答えた。緑の党の支持が減った理由については「一部の若者は(経済問題を理由に)緑の党に投票する余裕はなかった。また緑の党のやり方に失望した若者もいる」という。

     

    インフレ・高い住宅費用・移民の諸問題が、若者を極右支持させた背景である。

     

    (3)「緑の党はショルツ政権与党の一角を占める。政権入りしたことでかえって存在感を出せずにいるジレンマを抱えている。ドイツの若年層の失業率は低下傾向にある。それでもインフレによる実質所得の伸び悩みに苦しむ若者は多い。ドイツの私立大ハーティー・スクールのクラウス・ハレルマン教授らの調査によると、14〜29歳の65%がインフレに、54%が高い住居費に、それぞれ懸念を示した。中道の主流派政党を批判してきたAfDはこうした民意の一定の受け皿となった」

     

    ドイツでは、緑の党が議席を失い、極右のAfDが躍進した。緑の党は、不人気で選挙ポスターに党首の写真も掲載できないほどだったという。候補者の応援演説もできなかった。環境政策を前面に挙げる「緑の党」は、地に墜ちた感じだ。

     

    (4)「フランスでも若者が極右「国民連合(RN)」の支持を押し上げた。欧州議会選でフランス国内ではRNが第1党になった。仏テレビ局BFMTVによると、18〜34歳の32%がRNに投票した。急進左派の「不服従のフランス(LFI)」(20%)、フランス社会党(10%)を大きく上回った。フランスの若者は国民議会選挙で左派連合(左から3番目)と極右「国民連合(RN)」(左から1番目)への投票意向が強い」

     

    フランスもドイツと同様の傾向を見せている。若者の32%が、極右を支持している。

     

    (5)「ナイレ・ウッズ英オックスフォード大学教授は言論サイト「プロジェクト・シンジケート」への寄稿で、「若者による外国人嫌い、反EU、超保守政党への支持の高まりは、反移民感情というより支配的な政治家に裏切られたという政治的感覚がもたらしている」と分析した。若者の右傾化の兆しは2023年11月投開票のオランダ下院選にあった。反移民・反EUを掲げるポピュリスト(大衆迎合主義者)ウィルダース氏が率いる極右の自由党が第1党になった」

     

    極右は、議席を増やすためにポピュリズムに転向して、「口当たり」のいい政策を並べている。これは,いずれ有権者から見透かされよう。次回選挙では、異なる結果も予想される。

     

    (6)「ウィルダース氏は移民のほか、住宅や医療問題などを生活に身近な問題に焦点をあてて選挙を戦った。仏RNもEUやユーロ圏からの離脱といったかつての過激な主張を引っ込めた。その一方で、現政権が進めた受給開始年齢を引き上げる年金改革や、電気自動車(EV)推進策に反対するといった比較的穏健で現実的な路線へと軌道修正したのが成功した。「脱悪魔化」といわれる極右による政策の変更は、経済の現状への若者の不満と共鳴したようだ。インフレを背景に若者によるバイデン米大統領への支持が低下した米国の姿とも重なる」

     

    極右は、EV普及に反対した。多額の補助金支給が、経済難の時代に合わないという理由であろう。

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    日本が、「高温ガス炉」の実証試験に成功しグリーン水素製造に道を開いたことから、欧州が日本へ接近している。高温ガス炉試験では、OECD(経済協力開発機構)も立ち会っており、技術が「本物」であることを確認した欧州連合(EU)のシムソン欧州委員(エネルギー担当)は6月2日までに、日本経済新聞の書面インタビューに応じた。次世代燃料として期待される水素の市場をつくるために「日本との連携は不可欠だ」と述べた。シムソン氏は6月上旬に日本を訪れ、斎藤健経済産業相と水素分野での連携で合意する。 

    『日本経済新聞 電子版』(6月2日付)は、「日EU、水素活用へ国際ルール 安全性など主導し市場開拓」と題する記事を掲載した。 

    日本と欧州連合(EU)は次世代燃料として有力視される水素の普及に向け、製造装置や輸送技術などの国際規格の策定に着手する。水素の純度や安全性を担保する基準を設ける。水素活用のルールづくりを主導することで中国などの過剰生産を防ぎ、日欧の国際競争力を高める。

     

    (1)「日本の斎藤健経済産業相とEUのシムソン欧州委員(エネルギー政策担当)が近く会談し、水素の活用に向けた2040年ごろまでの共同工程表をつくる方針で合意する。日本とEUの研究開発支援、安全管理、既存燃料との価格差支援を担う政府系機関がそれぞれ覚書を結ぶ」 

    2040年というと、ずいぶん先の話に聞こえるがそうではない。水素経済への離陸が2040年であって、その前に準備を全て終えていなければならない。その意味では、それほど時間はない。 

    (2)「水素は製鉄、化学など温暖化ガスを多く出す産業で化石燃料に代わる燃料として期待されている。燃料電池自動車や航空機用の合成燃料にも使える。特に太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる電力を使って水電解装置でつくる「グリーン水素」は今後の利用拡大が見込まれる。工程表は国際規格の策定のほか日欧の企業間協力、水素市場の育成などを含む幅広い分野での官民連携を盛り込む想定で、夏にも具体的な議論を始める」 

    水素は、高温ガス炉などの製造では二酸化炭素を排出しない。天然ガスや石炭からの製造では、二酸化炭素を排出する。前者は、グリーン水素。後者は、グレー水素と呼んで区別している。当初は、グレー水素でスタートする。次は、グリーン水素が主役を務める。

     

    (3)「水素に関係する明確な国際規格はまだ確立しておらず、日欧で先行してルール整備することで市場開拓を有利に進める。具体的には水素を製造する水電解装置水素トラックなど車両への充填技術液化水素などの輸送技術水素エンジンなどの燃焼技術――といった分野で規格作りに必要なデータを収集して共有する。燃料電池車に欠かせない水素の純度といった品質規格についても議論する方向だ。水電解装置に関しては有毒ガスが発生する事故を防ぐ安全性要件や水素の生産効率に関する基準をつくることが選択肢となる」 

    水素を製造する水電解装置は、高温ガス炉の利用の他に、再生エネルギーを利用して淡水からも製造可能だ。問題は、どちらのコストが安いかである。③は、トヨタ自動車が実用化済み。2030年には燃料電池システム(FC)を普及させる目的で、年間10万台ベースで世界販売する。この計画は、昨年発表された。水素自動車は、水素を内燃機(エンジン)でガソリンと同様に使うもので、トヨタが開発している。 

    (4)「EUのシムソン氏は、日本経済新聞との書面インタビューで「低炭素な水素市場をグローバルに拡大するためには日本との緊密な連携が不可欠だ」と述べた。その上で「EUは高水準の規格を策定し、公平な競争条件を確保するために日本と協力したい」と強調した。日本とEUで「水素や太陽光、風力発電などクリーンエネルギー政策で協調するための作業部会をつくりたい」とも語った」 

    日本とEUは、クリーンエネルギー政策で合同作業部会をつくるという。EUが、日本に遅れまいと必死になっている姿が浮かび上がっている。EUは、日本と共同して水素経済を世界へ広める旗振り役を目指す。これで、日本の水素製造技術は世界標準技術になる可能性が高まる。製造装置や部品が、世界へ輸出される。

     

    (5)「40年ごろを見据えた共同工程表をつくるのは、日欧それぞれの中長期のエネルギー政策に反映させるためだ。日本は24年度中に策定する次期エネルギー基本計画に2040年度の電源構成目標を盛り込む。EUの執行機関である欧州委員会は40年に1990年比で温暖化ガス排出量を90%削減する目標案を公表しており、実現するための計画をたてる必要がある」 

    エネルギー確保は、日本経済の宿願である。この問題が、水素開発で解決可能な見通しがついてきた以上、日本は「満願成就」と言っても過言でない。それだけ、凄いことが実現に向っているのだ。 

    (6)「中国が将来、水素を過剰生産するとの懸念に対処する思惑も日欧は一致する。脱炭素のカギを握る水素について国際規格を設けることは、価格の安さを競争力とする国への対抗手段となる。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーで中国製品に市場をとられた反省をいかす」 

    中国が将来、再び水素製造で世界市場を「荒らさないか」と、今から取り越し苦労している。EUは、中国にソーラーパネルで酷い目に遭っているだけに警戒心が強い。日本・EU・米国が大同団結して、水素技術で市場を守らなければならないという決意を固めているようだ。

    次の記事もご参考に。

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     



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    中国の習近平政権が、欧州への外交攻勢を強めている。14日からドイツのショルツ首相を中国に招き、経済面での関係強化を図っている。また、習氏はフランス訪問計画も取り沙汰されている。米国が、アジア太平洋で中国包囲網を狭める中、西側諸国の連携にくさびを打つ狙いだ。だが、「血は水よりも濃し」の喩え通り、有事の際は「価値観」が決め手になる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月16日付)は、「習氏『中独で世界に安定を』、首脳会談欧州を引き込み」と題する記事を掲載した。

     

    ショルツ氏の訪中は2022年11月以来で、首相就任後は2度目となる。習氏は16日の会談で「中独は第2位、3位の経済大国だ。世界にさらなる安定をもたらすため協力すべきだ」と述べた。ショルツ氏は「ドイツは保護主義に反対し、自由貿易を支持する。EUと中国の良好な関係促進へ役割を果たしたい」と語った。両首脳はロシアによるウクライナ侵略や中東情勢についても話し合った。

     

    (1)「中国は欧州外交を重視する。習氏は5月上旬にフランスやハンガリーを訪問する方向だ。フランスではマクロン大統領と会談し、経済問題などを話し合う。マクロン氏が23年4月に訪中した際は、習氏が2日連続で一緒に会食するなどして厚遇した。背景には、米国が主導する先端半導体の対中輸出・投資規制への警戒心がある。日本やオランダも同調し、中国の技術開発や産業政策に影響を及ぼしたとされる」

     

    中国が、外交的に「息抜き」できる相手国は、独仏二国である。先進国のほとんどは米国の同盟国である。それだけに、習近平氏はこれら二国の引き留めに必死である。

     

    (2)「習氏が、3月に訪中したオランダのルッテ首相と北京で会談し、この規制をやめるよう促した。「人為的に技術障壁をつくり、サプライチェーン(供給網)を寸断させるのは対立を招くだけだ」と強調した。独仏との関係強化を通じ、EUによる中国企業への規制強化を回避する思惑もある。EUは中国政府から多額の補助金を受けた中国製の電気自動車(EV)や太陽光パネルが域内の競争を阻害しているとみて調査を始めた。結果を踏まえてEUが制裁関税を課せば、中国の輸出戦略に響く可能性がある。習氏はショルツ氏との会談で、中国製のEVと太陽光パネル、リチウムイオン電池を挙げ「世界の供給体制を豊かにしただけでなくインフレ圧力を緩和した」と力説した」

     

    EU加盟国は、全部で27ヶ国である。一国一票の原則であるから、中国が独仏二ヶ国へ肩入れしても、他国の「反中意識」が強いので賢明な策ではない。「ボス取引」ができないのだ。EUは、中国に対する強硬姿勢を強め、域内のグリーン産業や半導体分野に資本を動員する産業政策を推進している。

     

    ドイツは、中国から「デカップリング(経済分断)」しないよう求める働きかけが続いている。他国が資本を引き揚げる中で、ドイツの対中直接投資は2023年に過去最高を記録した。ドイツの中国へのこだわりは強い。

     

    (3)「米欧が、問題視するEVなどの過剰生産能力を巡っては「客観的にみるべきだ」と反論した。中国企業に対して「公平で透明性があり差別のないビジネス環境」を提供するよう求めた。中国の欧州接近は11月の米大統領選も絡む。北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州各国の国防費負担が少ないと問題視してきたトランプ前大統領が勝利すれば、米欧関係がきしむ恐れがある。中国にとっては米欧にくさびを打ち込む好機となる

     

    中国は、対欧州外交で一番の弱点が人権問題である。この点を突かれたらアウトである。中国は、こういうアキレス腱を抱えているだけに、下線のように米欧へ外交的なクサビなど打てるはずがない。欧州が、それほど盲目でないからだ。中国外交の限界を示している。

     

    (4)「ショルツ政権は、メルケル前政権の対中融和路線からの軌道修正を図ってきた。23年7月に中国に関する初の外交戦略をまとめ、過度な経済依存を避ける「デリスキング(リスク軽減)」を打ち出した。それでも対中関係を重視せざるを得ない事情がある。

    ドイツの主要な経済研究所が3月下旬に公表した共同予測で、24年の実質成長率は0.1%とほぼ横ばいだ。ドイツ商工会議所はマイナス0.%と厳しい見方を示す。景気浮揚に向け、8年連続で最大の貿易相手国だった中国とのビジネス拡大は欠かせない」

     

    ドイツが、経済的に中国市場へ深くコミットしていることが最大の弱点である。市場転換ができないのだ。これは、ドイツ経済が中国と盛衰を共にするということでもあろう。危険きわまりない事態である。

     

    (5)「中国市場での売り上げ減を危惧する産業界からは、対中規制強化への慎重論があがる。ドイツ自動車工業会はEUが検討する中国製EVへの追加関税に反対の立場だ。ヒルデガルト・ミュラー会長は14日、独紙『ウェルト』とのインタビューで「中国とのビジネスによりドイツで多くの雇用が確保されている」と表明し、貿易摩擦による雇用への悪影響に懸念を示した」

     

    ドイツ産業界は、中国経済の潜在力をどのように評価しているのか。ロシアのウクライナ侵攻前は、ロシアへのエネルギー依存で大失敗した。この教訓が、中国経済への対応で全く生きていないのは不思議と言うべきだ。

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    中国は、EV(電気自動車)の輸出へ本腰を入れている。国内需要が曲がりカーブに達したので、余剰生産力を輸出でカバーしようという狙いだ。EV稼働率は、わずか33%である。これでは、死に物狂いで輸出するほかない。これを受けて立つ日欧米は、「ダンピング輸出」を阻止すべく対策を練っている。

     

    『朝鮮日報』(10月30日付)は、「EV輸出、中国が圧倒的首位 世界各国で障壁構築相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    中国は今年、史上初めて自動車輸出世界首位に浮上すると予想される。韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)の集計によると、18月の中国自動車輸出は約321万台で、前年13位だった日本(277万台)、ドイツ(207万台)を圧倒的に上回っている。2021年に韓国を抜き初めて3位となり、昨年ドイツを抜いて2位に浮上した中国は、今年不動の首位日本まで追い抜くことになる。

     

    (1)「(中国輸出の)うち108万台は、中国で「新エネルギー車(NEV)」と呼ばれる電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車だ。中国が輸出するEVの約25%は米テスラの中国工場などの出荷分だが、残りは上海汽車や比亜迪(BYD)など中国企業が占める。主要国のEV市場では今年、内燃機関車より割高な価格、補助金削減、不便な充電インフラなどが障害となり、EV販売の伸びが鈍化している。一方、中国は国内でNEVの割合が約30%まで増え、急成長を示している。EVの中核部品である電池も今年の世界シェア12位が寧徳時代新能源科技(CATL)、BYDという中国企業だ」

     

    中国EV輸出の25%は、米テスラの出荷である。残りがBYDや上海汽車などの民族資本企業である。テスラが、中国以外の工場進出に慎重なのは中国での生産コスト安がある。補助金支給だ。

     

    (2)「このように、中国のEVが内需市場だけでなく、破竹の勢いで世界市場に食い込むと、各国は対応に追われた。昨年8月の米インフレ抑制法(IRA)を皮切りに、自国のEV産業を保護するために補助金・関税などの貿易障壁を高める動きが見られる。EV市場に出現した自国優先主義傾向の核心には「反中」がある。欧米による中国製EVけん制は価格競争力を低下させることが中心だ。EVは通常、同じクラスの内燃機関車より20~40%割高だが、中国のEVは自国企業から安価で電池を調達し、内燃機関車並みの水準にまで価格を下げ、それを武器に世界市場を攻略している」

     

    中国は、あらゆる産業で補助金をばら撒いている。日本企業も恩典に預かっているほどだ。これは、輸出価格と国内価格を一致させなければ、WTO(国際貿易機関)によって、ダンピングと認定されるからである。これをクリアするには、国内生産段階で補助金をつけなければならない。

     

    (3)「このため、昨年8月に米国が導入したIRAのようなEV保護主義が世界に広がっている。IRAは政府補助金を受けるためにはEVを北米で生産しなければならず、電池など主要部品の現地生産比率も一定水準をクリアしなければならないことが骨子だ。フランスがそれに倣い、来年1月からEVの生産・流通時に発生する炭素排出量に応じて補助金に差を付けることにした。中国はもちろん、韓日など欧州以外の地域から輸入されるEVは、車体を輸送する際に炭素を多く排出するため、ほとんど補助金を受けられない見通しだ。イタリアもEVの生産・流通過程の炭素排出量に沿ったインセンティブを検討している。業界は中国のEVを狙い撃ちにした政策だと分析している」

     

    米国は、インフレ抑制法(IRA)によって、国内でのEVや電池の生産で企業へ補助金を出す一方、中国EVへ23%の高関税を掛けて中国へ対抗している。この結果、中国EVは締め出されている。

     

    (4)「日本は、国内での電池生産量に比例して、税額控除を受けられるようにする「戦略物資生産基盤税制」の導入を検討中だ。これは米国のIRAと類似した制度で、中国への依存度が過度に高い電池のサプライチェーンを再編する狙いがあるとされる。欧州連合(EU)は今年9月、中国から輸入するEVについて、中国政府が支給した補助金に違法性がないかどうか調査に着手した。調査結果に基づき、高い関税を課すことを検討している。ブラジルも関税カードを切る。現在EVの輸入関税を免除しているが、今後3年間で税率を最高35%まで引き上げる方針だ」

     

    日本も電池の国内生産には、税額控除を認める方向だ。EUは、EVダンピング調査に乗りだしている。来年には結論を出して中国EVの締めだしを始める。かつて、EUは太陽光発電で苦杯をなめさせられた。EUに育った太陽光発電が、中国の補助金つき太陽光発電に一掃されたからだ。この思いもあって、「太陽光発電の二の舞はご免」という強い態度をみせている。

     

    (5)「自動車生産インフラはないが、EVの重要部品である電池に使用される鉱物を産出する国では、EV産業に便乗した「資源民族主義」が強まっている。リチウム埋蔵量世界10位のメキシコは9月末、中国企業に与えた採掘権を回収した。メキシコは昨年、リチウムの採掘や商業化を政府が独占できるようにする法律も制定した。リチウム埋蔵量世界1位のチリも4月にリチウム産業の国有化を発表。インドネシアは2019年からニッケルの輸出を全面中断している。マレーシアも9月、首相がレアアースの原料輸出を制限する政策を導入すると発表した」

     

    メキシコは昨年、リチウムの採掘や商業化を政府が独占できるようにする法律も制定した。中国資本の締め出しである。欧米の鉱山会社は、中国抜きでEV用電池のサプライチェーン(供給網)を構築しなければならないプレッシャーに直面している。そのため、長い間避けてきたアフリカでの金属加工を模索している。中国から権益を守る動きである。

     

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