勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時評

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    米EV(電気自動車)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、持ち株が急落して慌てている様子だ。保有資産額が、昨年11月以来で初めて3000億ドル(約44兆3000億円)を割り込んだからだ。原因は、言わずと知れた米国トランプ成句による相互関税である。

    大富豪になればなるほど、資産の目減りには敏感になる。こうしてマスク氏は、トランプ氏へ関税引上げ中止を進言したが、聞き入れられなかったという。トランプ氏の性格を熟知しているはずのマスク氏が、「ダメ元」であえて進言したのは、よほどの事情によるのであろう。

    『ブルームバーグ』(4月8日付)は、「マスク氏もトランプ関税で打撃、資産3000億ドル割れ-テスラ株安響く」と題する記事を掲載した。

    (1)「ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、マスク氏の純資産額は2978億ドル。7日のテスラ株下落で44億ドル目減りした。米株が歴史的な急落に見舞われた3、4日は合わせて310億ドル相当の資産価値が失われた。資産額は年初来で計1347億ドル減少した」

    4月7日現在、マスク氏の純資産額は2978億ドルで、年初来で計1347億ドル(約19兆5300億円)減少したという。実に31%も消えた計算だ。これだけの巨額資産が減価することは、痛手であろう。マスク氏は、忠勤を励んできたトランプ氏に対して、相互関税による株価下落を食止めるべく、あえて「関税中止」を進言せざるを得なかったのであろう。このマスク氏が、関税中止に代って新たな提案をしている。


    『ロイター』(4月8日付)は、「マスク氏、関税撤回をトランプ氏に進言 聞き入れられず=米紙」と題する記事を掲載した。

    トランプ米政権で「政府効率化省(DOGE)」を率いる実業家イーロン・マスク氏が先週末、トランプ大統領に新たな関税措置を撤回するよう進言したが聞き入れられなかったと、米紙ワシントン・ポストが7日、関係者2人の話として報じた。

    (2)「トランプ氏は2日、貿易相手国に相互関税を課すと発表。全ての輸入品に一律10%の基本関税を課した上で、各国の関税や非関税障壁を考慮し、国・地域別に税率を上乗せするとした。マスク氏は5日、イタリア連立与党の右派「同盟」の会合にオンラインで参加し、「欧州と米国がともに関税ゼロの状況に移行し、欧州・北米間に事実上、自由貿易圏を形成するのが理想的だと思う」と述べた。

    マスク氏は、欧州と米国がともに関税ゼロの状況に移行し、自由貿易圏を形成するのが理想的と述べた。これは、正論である。米国とEUが関税をゼロにすれば、ほぼ同じ経済環境だけに、まさに経済学の教科書通りの「最適資源配分」が可能になる。米国も製造業復活で企業がイノベーションに取組む必要がある。


    だが、こういう正論はなかなか実現しないであろう。米国は、欧州よりもアジアへ関心を深めているからだ。だが、米国は世界中へ関税をかけるという「荒技」に出ている。本来、重視しなければならないアジアも巻き込んでの高い関税だ。ここで、興味深い提言が出されている。

    英国経済誌『エコノミスト』(4月5日号)は、「相互関税、貿易拡大で対抗を」と題する記事を掲載した。

    米ホワイトハウスで演説したトランプ氏は、ほぼすべての貿易相手国に「相互関税」を課すと発表した。関税率は中国が34%、インドが26%、日本が24%、欧州連合(EU)は20%となる。


    (3)「既存の関税と合わせると、中国への税率は計65%にのぼる。(すでに25%の追加関税を発動している)カナダとメキシコは今回の関税の対象からは外れた。この新たな関税は、25%の自動車関税や別途検討されている半導体への追加関税といった分野別関税には上乗せされない。だが、米国の全体的な関税率は大恐慌時代の水準をはるかに上回り、19世紀にまでさかのぼることになる」

    米国は、大変な高関税を世界中にかけているが、19世紀まで遡るほどの「蛮行」である。この影響が小さく済むはずがないのだ。

    (4)「欧州の調査機関グローバル・トレード・アラートの試算では、米国が(関税で)輸入を完全に停止したとしても、現在の傾向が続けば貿易相手の100カ国は失った輸出をたった5年以内に完全に取り戻せるという。EUや包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)加盟12カ国、韓国、経済が小規模で開かれたノルウェーのような国を合わせると、世界の輸入需要の34%を占める」

    ここでは、極めて興味深い提案がされている。EUとTPPのほか、韓国やノルウェーを加えた自由貿易圏をつくれば、米国市場を失っても5年で取り戻せるという。これは、日米関係から言って米国を排除する形になるので実現は難しいが、米国を翻意させるには良い「薬」になろう。いずれトランプ関税は、行き詰まるであろう。日本は、米国を支えながらも翻意させる働きかけが必要である。TPPへ米国が加われば、鬼に金棒となろう。


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    IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)構想が、関係国の覚え書き署名によって動き出す態勢ができあがった。IMECは23年9月、ニューデリーで開催した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、モディ首相とバイデン米大統領が明らかにした巨大インフラプロジェクトである。中国の「一帯一路」へ対抗するもので、インド経済が欧州・中東と結びつく上で欠かせないルートになる。

    このほどIMECは、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し覚書に署名した。インド洋からアラビア半島に向かい、UAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを通過して地中海や欧州に至る経済回廊を築く。総距離は、陸上と海上を含めて7000~8000キロメートルとされる。一帯一路は、8000~1万キロメートルとみられるのでIMECが有利な立場とされる。

    IMEC構想が実現すれば、インドとヨーロッパの間の貿易が大幅に改善される。中国にとって脅威なのは、欧州がインドと直結して将来、欧州市場喪失リスクが高まることだ。

    『日本経済新聞 電子版』(1月13日付)は、「インド・欧州、経済回廊が始動 中国の『一帯一路』に対抗」と題する記事を掲載した。

    中東を経由してインドと欧州を結ぶ「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」の計画が動き始めた。構想自体は2023年に持ち上がったが、その後の中東情勢の混乱で協議は棚上げになっていた。インドのシン外務担当相は24年12月20日、「東回廊はインドと湾岸地域を結び、北回廊は湾岸地域と欧州を結ぶ。アジア、欧州、そして中東の画期的な統合を呼び込むだろう」。国会でIMECの役割を問われこう自信を示した。

    (1)「IMECは、湾岸地域とアラビア海の港湾からイスラエルのハイファ港までを結ぶ鉄道路線など、物流網の他に送電網、通信網、水素輸出に用いるパイプラインなども構築する。インドは、サプライチェーン(供給網)を強化し、持続的な経済成長につなげたい考えだ。この構想は米印の発表からわずか1カ月後に失速の憂き目に遭う。イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が激しくなり、中東各国の協議が遅れてきた。一連の計画はここにきて具体化し始めた。24年12月にはUAEのアブドラ・ナハヤン副首相兼外相が訪印し、モディ氏との間で「歴史的な取り組み」とうたいIMEC計画の推進で合意した」

    IMECは、中国とロシアには不気味な存在になる。中国は、欧州市場を失いかねないこと。ロシアは、自国天然ガスが湾岸諸国産に代替されるリスクである。

    (2)「IMECに、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがあるのは明らかだ。中国は、イランとサウジの国交回復で仲介役を演じるなど、中東に触手を伸ばしてきた。米国はその影響力を封じ込めたいと考えている。インドは、近海で拡張主義をみせる中国海軍の存在に脅威を感じており、IMECが海洋安全保障にも機能すると期待する面がある。ロシアのウクライナ侵略が長引いたことで、欧州によるIMECへの関心は高まった。ロシア産天然ガスのEUへの供給が減少し、その代替として湾岸諸国産の液化天然ガス(LNG)に注目するためだ」

    IMECが完成すれば、中ロは欧州や湾岸諸国との経済的な結びつきが弱体化する。外交面でも弱点を抱えることになる。

    (3)「中東との距離感は複雑だ。インド側には「UAEやサウジアラビアなどが進める経済開発にインドも一枚かみたい」(印シンクタンクORFのカビール・タネジャ氏)という考えがある。一方、トルコ政府の視線は冷たい。トルコは、欧州とアジア間の物資輸送で中心的な役割を果たしてきたとの自負があり、IMECを脅威とみなす。エルドアン大統領は「トルコ抜きの回廊はありえない」と述べた。スエズ運河の通航料で外貨を稼ぐエジプトも心穏やかではない。欧州とインドが運河への依存度を減らせば、エジプトの財政状況には大きな打撃になるからだ。思惑の不一致や主導権争いはプロジェクトの遅延などを誘発する要素になる」

    IMEC構想では、トルコとエジプトの利益が損なわれる問題が出てくる。この二国への経済的配慮が必要になろう。

    (4)「IMECの最大の問題は資金調達だ。当初の試算では輸送回廊の各ルートの費用は30億ドル(約4700億円)〜80億ドルになるとされているが、さらに膨らむとの指摘がある。中国が単独で資金調達と監督を行う一帯一路とは異なり、国境を越えた多様な国家や企業の協力が必要で、それゆえに大きなリスクを伴う。インド経済に詳しい国際貿易投資研究所の野口直良専務理事は、「民間投資の誘致を呼び込むためにも、開発銀行など国際的な金融機関の参加が欠かせない。日本も経済安全保障上のインフラとして活用の機会を探るべきだ」と指摘する」

    IMECの資金は、30億ドル(約4700億円)〜80億ドル(約1兆2500億円)程度だ。その気になれば、簡単に捻出可能な規模である。それだけ、工事も簡単という意味だ。





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    ドイツ社会といえば、融通が効かぬほどの「堅物」とされている。一度決めたルールは、どんなことがあっても変えない。この頑固さが、財政赤字を少額にする一方で、インフラ投資不足を招くという、予想もつかない事態を招いている。 

    最近は再び、「欧州の病人」とまで呼ばれているほど。国内貯蓄は、「腐るほど」持っていながら、国債を発行しないで宝の持ち腐れになっている。これは、第一次世界大戦で天文学的インフレに陥った反省から来ている。あの苦しみが、骨の髄まで染みこんでいるのだ。ドイツのGDPは昨年、日本を抜いた。日本が、再び抜き返すチャンスはありそうだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月17日付け)は、「ドイツは再び『欧州の病人』か」と題する記事を掲載した。 

    国際通貨基金(IMF)の欧州部門が、3月27日に公表したブログの冒頭部分で「ドイツは苦しんでいる。昨年は主要7カ国(G7)で唯一、マイナス成長となり、今年の成長率も7カ国中最低となるだろう」と指摘した。

     

    (1)「IMFによると、ドイツの1人当たり国内総生産(GDP)は2019〜23年の4年で1%低下した。これは41カ国の高所得国中34位に位置付けられる。G7でドイツより悪かったのはカナダだけで、マイナス0.%の英国や0.%のプラスとなったフランスより悪い。6%の伸びを示した米国は別格だ。ドイツ経済が病んでいるとすれば、それは一過性の現象か、それとも慢性疾患なのか。以下の点からみると、前者であると論じることは可能だ」 

    ドイツ経済は、ここ数年低調である。日本は、このドイツに名目GDPで抜かれた。ひとえに円安が原因である。ドイツは、「ユーロ」という共通通貨によって守られている。幸運だ。 

    (2)「IMFブログで指摘するように、ドイツの交易条件はロシアによるウクライナ侵略で天然ガス価格が高騰したことで大幅に悪化したが、天然ガス価格が再び下落すると18年の水準に戻った。同時に起きた急速なインフレ高進も落ち着き、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和に転じた。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後に製品からサービスへと世界的な需要のバランス再調整が起きたこともドイツ経済に不利に働いたが、これも反転しそうだ」 

    ドイツのエネルギー・コスト高は、ようやく収拾段階を迎えている。

     

    (3)「今のドイツ経済は5つの逆風にさらされている。第1に、ドイツの労働力人口(15〜64歳の人口)の比率は19〜23年には上昇していたが25〜29年には0.66ポイント低下すると予想されている。これはG7では過去最大の下げ幅だ。第2に、18〜22年の総公共投資のGDP比率は2.%で、主要な高所得国の中でスペインを除いて最も低い。英国も3%と低いが、それをも下回る」 

    ドイツ経済は,5つの逆風に遭遇している。第1が、生産年齢人口の減少だ。日本を上回る落込みである。第2は、インフラ投資不足である。ドイツの道路を見ると、舗装道路の至る所が必要箇所だけしか「布を当てたような」修繕しかしない「ケチケチ」ぶりだ。 

    (4)「第3に、ドイツの1人当たりGDP(購買力平価ベース)は17年には米国の89%だったのが23年には80%に低下し、同期間でG7中最大の低下率を記録した。第4に、ドイツはデジタル経済で重要な役割を果たせない状況が今後も続く。ドイツは欧州最大の経済であるため、その影響は欧州連合(EU)全体にも及ぶ。第5に、世界は分断の時代に入りつつある。これは貿易への依存度が高いドイツ経済にとって大きな痛手となる」

     

    第4は、ドイツがデジタル経済と最も遠いところに位置している。古風なのだ。第5は、貿易依存度が高いことである。EU他国への貿易量が多いことの必然的結果である。 

    (5)「ドイツの債務嫌いは誤りか、それ以上に偽善的だ。ドイツの貯蓄過剰は他国の貯蓄不足と債務でバランスが保たれなければならない。さらに、ユーロ圏諸国に財政赤字の削減を呼びかけても、ユーロ圏の経常黒字がさらに拡大するか、他のユーロ加盟国(例えばフランス)の民間部門が赤字に転じることを余儀なくされない限り、うまくいかない。こうした調整はドイツによる「近隣窮乏化策」と捉えられ、景気後退を引き起こす危険がある」 

    ドイツ人は、独特の金銭感覚で無駄な失費と無縁な生活だ。1517年、世界で最初に宗教改革を始めた国である。無駄な失費をとことん嫌う感覚が、プロテスタンティズムを生んだと思える。この精神が、連綿として受け継がれている。かつて、ドイツ南部の時計職人は自分でつくった柱時計を背負ってスイスまで行商に出かけていた。この堅実さが、今もドイツ人の血の中に流れている。

     

    (5)「ドイツの純公共投資額は今世紀初め以来ほぼゼロだと記されている。従って公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。民間部門にこれだけの余剰貯蓄を抱える国であれば、ドイツとユーロ圏が必要とするより強力な供給サイドと需要の両方を生み出すため余剰貯蓄を国内投資に振り向けない手はない。ドイツが直面する短期的な問題はいずれ過ぎ去る。それよりも長期的な問題の方が深刻だ。中でも最も不必要な阻害要因は必要とされる公共投資の財源を国内で賄うことへの抵抗感だ。憲法に相当する基本法で財政赤字に上限を設ける不条理な「債務ブレーキ」を解除すべき時が来たようだ」 

    ドイツの純公共投資額は、今世紀初め以来ほぼゼロだという。いかにもドイツ人社会の堅物さを示している。インフラも、ボロボロになっても補修を続けて使っている。およそ、「使いずて」とは無関係な生活である。インフラ投資へもっと資金を使えという要求だ。

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    欧州の若者は、これまで地球環境への関心から「緑の党」やリベラル政党を主に支持してきた。それが一転して、極右政党への支持に回っている。極右政党が、欧州議会選挙やフランスの国民議会(下院)選挙で躍進した一因である。極右政党は、政策のカジを現実路線へ切ったことで、物価高や住宅難といった若者の不満を吸い上げている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月3日付)は、「欧州の若者、経済苦を背景に右傾化 極右躍進の一因に」と題する記事を掲載した。

     

    緑の党から極右へ――。こうした政治潮流の変化を象徴するのは欧州連合(EU)加盟国中で経済規模や人口が最大のドイツだ。欧州議会選のドイツ国内の結果をみると、獲得議席はキリスト教民主同盟(CDU)など中道右派が29と首位。極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が前回から議席数を4増やして15と2位に躍り出た。3位はショルツ首相のドイツ社会民主党(SPD)。緑の党は前回から議席数を9減らして12と、4位に沈んだ。

     

    (1)「その象徴が若者の民意の変化だ。ドイツでは今回の欧州議会選から投票権を16歳に引き下げた。25歳未満の有権者の投票行動をみると、AfDは5年前の前回と比べて11ポイント高い16%を獲得した。これに対し、緑の党は23ポイント低い11%にとどまった。欧州の若者は気候変動問題に敏感で、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの名前にちなんで「グレタ世代」ともいわれてきた。なぜドイツの若者の間で緑の党への支持が減り、逆に極右への支持が広がったのか」

     

    ドイツ政府は環境対策に力を入れたが、これによって生活コストの跳ね上がりを招いた。理想論を急ぎすぎたのだ。経済悪化は、また移民が増えたという理由付にされた。極右は、こうした国民の不満をうまく吸い上げている。ただ、ヒトラーも経済悪化状況を巧妙に利用したので、「悪夢」再びという面もある。ドイツは、歴史的に意外と極右に弱いのだ。

     

    (2)「多くの若者は、自分たちの心配事がドイツの政府に真剣に受け止められていないと考えている。インフレ、高い住宅費用、そして移民。AfDは(動画共有アプリの)TikTokを早くから使い、若い聴衆に目に見える形で訴えるのに成功した。ドイツの若者研究者であるサイモン・シュネッツァー氏は筆者の取材にこう答えた。緑の党の支持が減った理由については「一部の若者は(経済問題を理由に)緑の党に投票する余裕はなかった。また緑の党のやり方に失望した若者もいる」という。

     

    インフレ・高い住宅費用・移民の諸問題が、若者を極右支持させた背景である。

     

    (3)「緑の党はショルツ政権与党の一角を占める。政権入りしたことでかえって存在感を出せずにいるジレンマを抱えている。ドイツの若年層の失業率は低下傾向にある。それでもインフレによる実質所得の伸び悩みに苦しむ若者は多い。ドイツの私立大ハーティー・スクールのクラウス・ハレルマン教授らの調査によると、14〜29歳の65%がインフレに、54%が高い住居費に、それぞれ懸念を示した。中道の主流派政党を批判してきたAfDはこうした民意の一定の受け皿となった」

     

    ドイツでは、緑の党が議席を失い、極右のAfDが躍進した。緑の党は、不人気で選挙ポスターに党首の写真も掲載できないほどだったという。候補者の応援演説もできなかった。環境政策を前面に挙げる「緑の党」は、地に墜ちた感じだ。

     

    (4)「フランスでも若者が極右「国民連合(RN)」の支持を押し上げた。欧州議会選でフランス国内ではRNが第1党になった。仏テレビ局BFMTVによると、18〜34歳の32%がRNに投票した。急進左派の「不服従のフランス(LFI)」(20%)、フランス社会党(10%)を大きく上回った。フランスの若者は国民議会選挙で左派連合(左から3番目)と極右「国民連合(RN)」(左から1番目)への投票意向が強い」

     

    フランスもドイツと同様の傾向を見せている。若者の32%が、極右を支持している。

     

    (5)「ナイレ・ウッズ英オックスフォード大学教授は言論サイト「プロジェクト・シンジケート」への寄稿で、「若者による外国人嫌い、反EU、超保守政党への支持の高まりは、反移民感情というより支配的な政治家に裏切られたという政治的感覚がもたらしている」と分析した。若者の右傾化の兆しは2023年11月投開票のオランダ下院選にあった。反移民・反EUを掲げるポピュリスト(大衆迎合主義者)ウィルダース氏が率いる極右の自由党が第1党になった」

     

    極右は、議席を増やすためにポピュリズムに転向して、「口当たり」のいい政策を並べている。これは,いずれ有権者から見透かされよう。次回選挙では、異なる結果も予想される。

     

    (6)「ウィルダース氏は移民のほか、住宅や医療問題などを生活に身近な問題に焦点をあてて選挙を戦った。仏RNもEUやユーロ圏からの離脱といったかつての過激な主張を引っ込めた。その一方で、現政権が進めた受給開始年齢を引き上げる年金改革や、電気自動車(EV)推進策に反対するといった比較的穏健で現実的な路線へと軌道修正したのが成功した。「脱悪魔化」といわれる極右による政策の変更は、経済の現状への若者の不満と共鳴したようだ。インフレを背景に若者によるバイデン米大統領への支持が低下した米国の姿とも重なる」

     

    極右は、EV普及に反対した。多額の補助金支給が、経済難の時代に合わないという理由であろう。

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    日本が、「高温ガス炉」の実証試験に成功しグリーン水素製造に道を開いたことから、欧州が日本へ接近している。高温ガス炉試験では、OECD(経済協力開発機構)も立ち会っており、技術が「本物」であることを確認した欧州連合(EU)のシムソン欧州委員(エネルギー担当)は6月2日までに、日本経済新聞の書面インタビューに応じた。次世代燃料として期待される水素の市場をつくるために「日本との連携は不可欠だ」と述べた。シムソン氏は6月上旬に日本を訪れ、斎藤健経済産業相と水素分野での連携で合意する。 

    『日本経済新聞 電子版』(6月2日付)は、「日EU、水素活用へ国際ルール 安全性など主導し市場開拓」と題する記事を掲載した。 

    日本と欧州連合(EU)は次世代燃料として有力視される水素の普及に向け、製造装置や輸送技術などの国際規格の策定に着手する。水素の純度や安全性を担保する基準を設ける。水素活用のルールづくりを主導することで中国などの過剰生産を防ぎ、日欧の国際競争力を高める。

     

    (1)「日本の斎藤健経済産業相とEUのシムソン欧州委員(エネルギー政策担当)が近く会談し、水素の活用に向けた2040年ごろまでの共同工程表をつくる方針で合意する。日本とEUの研究開発支援、安全管理、既存燃料との価格差支援を担う政府系機関がそれぞれ覚書を結ぶ」 

    2040年というと、ずいぶん先の話に聞こえるがそうではない。水素経済への離陸が2040年であって、その前に準備を全て終えていなければならない。その意味では、それほど時間はない。 

    (2)「水素は製鉄、化学など温暖化ガスを多く出す産業で化石燃料に代わる燃料として期待されている。燃料電池自動車や航空機用の合成燃料にも使える。特に太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる電力を使って水電解装置でつくる「グリーン水素」は今後の利用拡大が見込まれる。工程表は国際規格の策定のほか日欧の企業間協力、水素市場の育成などを含む幅広い分野での官民連携を盛り込む想定で、夏にも具体的な議論を始める」 

    水素は、高温ガス炉などの製造では二酸化炭素を排出しない。天然ガスや石炭からの製造では、二酸化炭素を排出する。前者は、グリーン水素。後者は、グレー水素と呼んで区別している。当初は、グレー水素でスタートする。次は、グリーン水素が主役を務める。

     

    (3)「水素に関係する明確な国際規格はまだ確立しておらず、日欧で先行してルール整備することで市場開拓を有利に進める。具体的には水素を製造する水電解装置水素トラックなど車両への充填技術液化水素などの輸送技術水素エンジンなどの燃焼技術――といった分野で規格作りに必要なデータを収集して共有する。燃料電池車に欠かせない水素の純度といった品質規格についても議論する方向だ。水電解装置に関しては有毒ガスが発生する事故を防ぐ安全性要件や水素の生産効率に関する基準をつくることが選択肢となる」 

    水素を製造する水電解装置は、高温ガス炉の利用の他に、再生エネルギーを利用して淡水からも製造可能だ。問題は、どちらのコストが安いかである。③は、トヨタ自動車が実用化済み。2030年には燃料電池システム(FC)を普及させる目的で、年間10万台ベースで世界販売する。この計画は、昨年発表された。水素自動車は、水素を内燃機(エンジン)でガソリンと同様に使うもので、トヨタが開発している。 

    (4)「EUのシムソン氏は、日本経済新聞との書面インタビューで「低炭素な水素市場をグローバルに拡大するためには日本との緊密な連携が不可欠だ」と述べた。その上で「EUは高水準の規格を策定し、公平な競争条件を確保するために日本と協力したい」と強調した。日本とEUで「水素や太陽光、風力発電などクリーンエネルギー政策で協調するための作業部会をつくりたい」とも語った」 

    日本とEUは、クリーンエネルギー政策で合同作業部会をつくるという。EUが、日本に遅れまいと必死になっている姿が浮かび上がっている。EUは、日本と共同して水素経済を世界へ広める旗振り役を目指す。これで、日本の水素製造技術は世界標準技術になる可能性が高まる。製造装置や部品が、世界へ輸出される。

     

    (5)「40年ごろを見据えた共同工程表をつくるのは、日欧それぞれの中長期のエネルギー政策に反映させるためだ。日本は24年度中に策定する次期エネルギー基本計画に2040年度の電源構成目標を盛り込む。EUの執行機関である欧州委員会は40年に1990年比で温暖化ガス排出量を90%削減する目標案を公表しており、実現するための計画をたてる必要がある」 

    エネルギー確保は、日本経済の宿願である。この問題が、水素開発で解決可能な見通しがついてきた以上、日本は「満願成就」と言っても過言でない。それだけ、凄いことが実現に向っているのだ。 

    (6)「中国が将来、水素を過剰生産するとの懸念に対処する思惑も日欧は一致する。脱炭素のカギを握る水素について国際規格を設けることは、価格の安さを競争力とする国への対抗手段となる。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーで中国製品に市場をとられた反省をいかす」 

    中国が将来、再び水素製造で世界市場を「荒らさないか」と、今から取り越し苦労している。EUは、中国にソーラーパネルで酷い目に遭っているだけに警戒心が強い。日本・EU・米国が大同団結して、水素技術で市場を守らなければならないという決意を固めているようだ。

    次の記事もご参考に。

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