ドイツ社会といえば、融通が効かぬほどの「堅物」とされている。一度決めたルールは、どんなことがあっても変えない。この頑固さが、財政赤字を少額にする一方で、インフラ投資不足を招くという、予想もつかない事態を招いている。
最近は再び、「欧州の病人」とまで呼ばれているほど。国内貯蓄は、「腐るほど」持っていながら、国債を発行しないで宝の持ち腐れになっている。これは、第一次世界大戦で天文学的インフレに陥った反省から来ている。あの苦しみが、骨の髄まで染みこんでいるのだ。ドイツのGDPは昨年、日本を抜いた。日本が、再び抜き返すチャンスはありそうだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(7月17日付け)は、「ドイツは再び『欧州の病人』か」と題する記事を掲載した。
国際通貨基金(IMF)の欧州部門が、3月27日に公表したブログの冒頭部分で「ドイツは苦しんでいる。昨年は主要7カ国(G7)で唯一、マイナス成長となり、今年の成長率も7カ国中最低となるだろう」と指摘した。
(1)「IMFによると、ドイツの1人当たり国内総生産(GDP)は2019〜23年の4年で1%低下した。これは41カ国の高所得国中34位に位置付けられる。G7でドイツより悪かったのはカナダだけで、マイナス0.2%の英国や0.4%のプラスとなったフランスより悪い。6%の伸びを示した米国は別格だ。ドイツ経済が病んでいるとすれば、それは一過性の現象か、それとも慢性疾患なのか。以下の点からみると、前者であると論じることは可能だ」
ドイツ経済は、ここ数年低調である。日本は、このドイツに名目GDPで抜かれた。ひとえに円安が原因である。ドイツは、「ユーロ」という共通通貨によって守られている。幸運だ。
(2)「IMFブログで指摘するように、ドイツの交易条件はロシアによるウクライナ侵略で天然ガス価格が高騰したことで大幅に悪化したが、天然ガス価格が再び下落すると18年の水準に戻った。同時に起きた急速なインフレ高進も落ち着き、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和に転じた。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後に製品からサービスへと世界的な需要のバランス再調整が起きたこともドイツ経済に不利に働いたが、これも反転しそうだ」
ドイツのエネルギー・コスト高は、ようやく収拾段階を迎えている。
(3)「今のドイツ経済は5つの逆風にさらされている。第1に、ドイツの労働力人口(15〜64歳の人口)の比率は19〜23年には上昇していたが25〜29年には0.66ポイント低下すると予想されている。これはG7では過去最大の下げ幅だ。第2に、18〜22年の総公共投資のGDP比率は2.5%で、主要な高所得国の中でスペインを除いて最も低い。英国も3%と低いが、それをも下回る」
ドイツ経済は,5つの逆風に遭遇している。第1が、生産年齢人口の減少だ。日本を上回る落込みである。第2は、インフラ投資不足である。ドイツの道路を見ると、舗装道路の至る所が必要箇所だけしか「布を当てたような」修繕しかしない「ケチケチ」ぶりだ。
(4)「第3に、ドイツの1人当たりGDP(購買力平価ベース)は17年には米国の89%だったのが23年には80%に低下し、同期間でG7中最大の低下率を記録した。第4に、ドイツはデジタル経済で重要な役割を果たせない状況が今後も続く。ドイツは欧州最大の経済であるため、その影響は欧州連合(EU)全体にも及ぶ。第5に、世界は分断の時代に入りつつある。これは貿易への依存度が高いドイツ経済にとって大きな痛手となる」
第4は、ドイツがデジタル経済と最も遠いところに位置している。古風なのだ。第5は、貿易依存度が高いことである。EU他国への貿易量が多いことの必然的結果である。
(5)「ドイツの債務嫌いは誤りか、それ以上に偽善的だ。ドイツの貯蓄過剰は他国の貯蓄不足と債務でバランスが保たれなければならない。さらに、ユーロ圏諸国に財政赤字の削減を呼びかけても、ユーロ圏の経常黒字がさらに拡大するか、他のユーロ加盟国(例えばフランス)の民間部門が赤字に転じることを余儀なくされない限り、うまくいかない。こうした調整はドイツによる「近隣窮乏化策」と捉えられ、景気後退を引き起こす危険がある」
ドイツ人は、独特の金銭感覚で無駄な失費と無縁な生活だ。1517年、世界で最初に宗教改革を始めた国である。無駄な失費をとことん嫌う感覚が、プロテスタンティズムを生んだと思える。この精神が、連綿として受け継がれている。かつて、ドイツ南部の時計職人は自分でつくった柱時計を背負ってスイスまで行商に出かけていた。この堅実さが、今もドイツ人の血の中に流れている。
(5)「ドイツの純公共投資額は今世紀初め以来ほぼゼロだと記されている。従って公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。民間部門にこれだけの余剰貯蓄を抱える国であれば、ドイツとユーロ圏が必要とするより強力な供給サイドと需要の両方を生み出すため余剰貯蓄を国内投資に振り向けない手はない。ドイツが直面する短期的な問題はいずれ過ぎ去る。それよりも長期的な問題の方が深刻だ。中でも最も不必要な阻害要因は必要とされる公共投資の財源を国内で賄うことへの抵抗感だ。憲法に相当する基本法で財政赤字に上限を設ける不条理な「債務ブレーキ」を解除すべき時が来たようだ」
ドイツの純公共投資額は、今世紀初め以来ほぼゼロだという。いかにもドイツ人社会の堅物さを示している。インフラも、ボロボロになっても補修を続けて使っている。およそ、「使いずて」とは無関係な生活である。インフラ投資へもっと資金を使えという要求だ。