勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時評

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    中国とEU(欧州連合)の両外相は9月16日、マルタで会談した。その席で王氏は、双方は「開かれた態度」を維持し、自由貿易を断固として支持し保護主義を拒否し、中EU協力のプラス効果を達成すべきだと述べた。EU委員会が13日、EV(電気自動車)の対中輸入に関して補助金調査を行うと発表したことを受けての発言で、EUを牽制していることは明らかだ。 

    EUは、リチウムイオン電池や燃料電池でも2030年までに中国に依存する恐れがある。このため、強力な対応が必要と認識していることがわかった。ロイターが入手したEU首脳向けの文書で明らかになったものだ。 

    『ロイター』(9月18日付)は、「EU、電池で中国依存の恐れ『ロシア頼み並みに深刻』と警告」と題する記事を掲載した。 

    EU首脳向けの文書は、10月5日にスペインのグラナダで開かれるEU首脳会議で欧州の経済安全保障に関する議論のたたき台となる。会議では、中国の世界的な存在感の高まりと経済的な影響力を懸念し、欧州が中国に過度に依存するリスクを減らし、アフリカや中南米に調達先を多様化する必要性について議論する。

     

    (1)「文書は、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源は供給が時々止まるという性質があるため、欧州が50年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロとする目標を達成するためには、エネルギーを貯蔵する手段(注:大型蓄電池)が求められると指摘した。その上で、「これによりリチウムイオン電池や燃料電池、電気分解装置の需要が急増し、今後数年間で10~30倍になることが見込まれる」との見通しを示した」 

    自然エネルギー依存によるリスクは、原発と違って安定的な供給ができないことだ。気象条件によって変化するので、大型蓄電池を備えてバッファーにしなければならない。 

    (2)「さらに、「強力な対策を講じない限り、欧州のエネルギーエコシステムは30年までに、ウクライナ侵攻前のロシアとは異なる形で、深刻な中国依存に陥る可能性がある」と警告した。EUは電気分解装置の中間・組み立て段階で、世界シェアの50%超を握っているが、電気自動車(EV)に不可欠な燃料電池やリチウムイオン電池は中国に大きく依存している。文書はまた、EUの脆弱性は電池分野に限らないとした上で「同様のシナリオがデジタル技術分野でも起こる可能性がある」と警鐘を鳴らした」 

    EUは、すでに中国EV(電気自動車)の輸入シェアが高まっていることから、ダンピング調査へ着手する。同様に、リチウム電池などの対中依存度が高まる危険性は、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったので引下る必要性に迫られている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月22日付)は、「中国抜きEV供給網の構築 目指すはアフリカ」と題する記事を掲載した。 

    欧米の鉱山会社は、中国抜きで電気自動車(EV)用電池のサプライチェーン(供給網)を構築しなければならないというプレッシャーに直面している。そのため、長い間避けてきたアフリカでの金属加工を余儀なくされている。 

    (3)「中国は、エネルギーシフトの鍵となるコバルトやリチウムといった重要鉱物の生産と加工の両方を支配している。そのため、米国など西側諸国の間では、中国に依存することへの懸念が高まっている。一部の欧米企業や投資家は現在、アフリカ大陸で採掘した原料を現地で精製し、欧州と米国に直接輸出できるよう、アフリカに加工施設を建設し始めている。このような投資は、欧米の経営者がアフリカの多くの国々に伴うリスクをいかに受け入れるようになったかを示している。インフラが脆弱(ぜいじゃく)であったり、熟練労働者が限られていたり、中には政府の汚職で悪評が立つ国もある。また、アフリカで加工施設を建設すれば、自国の土壌から採掘した金属や鉱物の現地加工を増やすことを長年求めてきたアフリカ各国政府の要求に応えることにもなる」 

    欧米が、コバルトやリチウム精錬から手を引いていたのは環境破壊という「汚れ仕事」であったことだ。中国は、それをうまく利用してきた。欧米企業も、アフリカで精錬事業を始めざるを得なくなっている。

     

    (4)「英豪系鉱業大手BHPグループは、米国を拠点とするライフゾーン・メタルズとともに、タンザニアのニッケル鉱山に2022年から1億ドル(約145億円)を投資し、現地で精製工場を建設する計画だ。BHPによれば、この種の施設はアフリカで初めて。26年には米国と世界市場に向けて電池グレードのニッケルを供給する見通しだという。「われわれにとって絶好のタイミングだ」とライフゾーンのクリス・ショウォルター最高経営責任者(CEO)は言う。「相当な需要があるだろう」と指摘する」 

    BHPは、アフリカでの精錬によって26年からニッケル供給を始める。トヨタの全固体電池は26年から本格化する。これに合わせるような形だ。 

    (5)「電池用金属の需要急増が予想されることや、中国が現在この業界を支配していることから、アフリカの加工施設への投資は今後増加する可能性が高い。オックスフォード・エコノミクス・アフリカのアフリカ・マクロ経済担当責任者、ジャック・ネル氏はそう指摘する。こうした動きは、トレンドの始まりのようだと述べている」 

    中国は、リチウム鉱石を輸入して国内で精錬している。BHPは、鉱石を生産するアフリカで精錬するので、中国よりもコストが安くなるはずだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-09-18

    メルマガ499号 中国、EUとEV「紛争予兆」 23%の高関税掛けられれば「経済は混

     

     

    テイカカズラ
       

    中国製EV(電気自動車)が、世界中に安価を武器に輸出されている。その影響を最も受けているのがEU(欧州連合)だ。ついにEUは9月13日、中国製EVの補助金調査を始めることになった。

     

    フォンデアライエン欧州委員長は、欧州議会で演説し「世界の市場は現在、安価なEVであふれている。巨額の国家補助金によって価格が人為的に低く抑えられている」と指摘した。EUが環境目標を達成する上でEVの重要性を強調し、欧州委が中国製EVに対する反補助金調査を開始すると述べた。欧州委は、EUの標準税率10%を上回る関税を課すかどうか、最長13カ月かけて検証する。『ロイター』(9月13日付)が報じた。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月12日付)は、「中国、自動車輸出世界首位へ 背景に過剰生産能力」と題する記事を掲載した。

     

    中国が2023年、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国になる見通しだ。数十年続いてきた欧米、日本、韓国勢優位の時代が終わり、自動車業界は重大な転換点を迎える。ただ、中国の輸出急増の背景には、国内自動車産業の深刻な構造問題があり、世界中の自動車市場に影響が及ぶ恐れもある。

     

    (1)「中国の自動車業界では製造能力と需要の著しいミスマッチが起きているのだ。業界首脳が3つの重要な市場動向――ガソリン車の販売急減、電気自動車(EV)の爆発的人気、都市部でのカーシェアリングブームに伴うマイカー需要の低下――を予測できなかったことが一因だ。米クライスラーの中国事業の元責任者で調査会社オートモビリティーを創業したビル・ルッソ氏は、結果的に国内の自動車生産能力は「大幅な過剰」に陥っており、「2500万台分が使われずにいる」と指摘する」

     

    中国の自動車産業は、稼働率54%という異常な低位にある。過剰生産能力を抱えているからだ。地方政府の補助金を得ているので、採算的には経営不可能でも整理統合もせずに乱立状態だ。この尻が、輸出に向けられている。

     

    (2)「中国の23年1〜7月の自動車輸出台数は280万台と前年同期比74%増加し、このうちガソリン車が180万台を占めた。国内消費者がEVや中古車を好むためだ。ある欧米自動車メーカーの幹部によれば、生産能力が過剰で国内販売が鈍化しているにもかかわらず、予想されるような業界再編の機運は一向に盛り上がらない。それは地方政府や銀行が資金支援によって不採算企業を存続させているからだという。「約100のメーカーが毎年80〜100車種を市場に投入している。企業統合が進んでもおかしくないのに、そうならない」とこの幹部は首をかしげた」

     

    中国では、自動車生産に補助金をつけている。輸出の際にダンピング疑惑を受けないように、国内価格と輸出価格を同じレベルに揃えている。こういう「小細工」によって、輸出が急増している。外貨獲得手段である。

     

    (3)「中国は今後数年にわたって自動車輸出国首位の座を維持するとアナリストらは予想する。米コンサルティング大手アリックスパートナーズの予測によると、中国企業が生産する自動車の海外販売台数は30年までに900万台に達し、世界市場シェアは22年の16%から30%に拡大する見通しだ。オートモビリティーのデータによると、中国の自動車輸出は主に欧州やアジアの新興国向けで、23年は経済制裁を受けたロシアが最大の輸出先となっている。中国製EVは圧倒的な安さを武器に特に欧州で足場を固めており、輸出はますます増えるだろうと英金融大手HSBCの北京在勤アナリスト、エチェン・ディング氏は予測する。テスラはすでに上海工場から欧州向けにEVを輸出しており、欧州で販売するEVの約20%を中国で製造する」

     

    中国EVは、生産補助金を受けて世界市場を席巻する勢いだが、そう簡単に進む状況ではない。EUが、補助金によるダンピング調査を始めるのだ。

     

    (4)「BYDは、中国の先進国向けEV輸出で先頭を走っている。米銀大手シティグループのアナリストはBYD創業者の王伝福・董事長による最近の決算説明会を踏まえ、同社が24年の輸出目標として前年の2倍にあたる40万台を掲げたことに「自信を深めている」との見方を示した。BYDは決算説明会の場で、中国のEV業界は技術力や規模の点で外国メーカーの3〜5年先、コストの優位性では10年先を行っていると説明した

     

    下線部分は、政府の補助金が支えになっている。中国政府の財政状態を考えれば、補助金がいつまでもつくはずがない。

     

    (5)「とはいえ、中国企業がEVを輸出する際には、地政学的緊張の高まりやブランド認知度の低さに加え、台頭する保護主義や国産品優先主義を乗り越える必要があると専門家は警告する。「各国は中国からの大量輸入をいつまで容認するのだろうか。中国企業は生産の海外移転を迫られるのだろうか」。香港の証券会社CLSAの自動車アナリスト、クリストファー・リヒター氏はこう問いかける」

     

    下線部が、中国EVにとって泣き所である。何と言ってもブランド力がない。自動車は、長年培ってきたブランド力がものを言う世界である。「軽自動車」とわけがちがうのだ。

    テイカカズラ
       

    EV(電気自動車)は、排気ガスを出さない「環境に優しい」自動車とされている。だが、バッテリー製造過程では、ガソリン車製造過程よりはるかに多い二酸化炭素を排出している。それだけに、EVは無故障で長距離走行しない限り「環境に優しい」とは言えない難しい車である。一般に、余りにもEVを美化されすぎている。マイナス点の認識も必要だ。 

    問題は、EV車の整備士が世界的に不足していることである。しかも、いったん故障が起ると、EVだけに関連部分を「総取り替え」しなければならないリスクもある。1年間のEV保証コストは、ガソリン車の3倍にもつくという。大変な「金食い虫」である。 

    『ロイター』(9月10日付)は、「EV整備士の不足、世界中で深刻化か 高コストも足かせ」と題する記事を掲載した。 

    電気自動車(EV)業界は、整備士不足という深刻な問題を抱えている。資格を持つ整備士や独立系整備工場が世界的に足りず、このままでは修理代や故障保証コストが上昇し、自動車の温室効果ガス排出削減の期限内の達成をも脅かしかねない。

     

    (1)「業界関係者によると、独立系整備工場はフランチャイズディーラーよりも料金がはるかに安く、EVを手頃に利用できるようにするために欠かせない見通しだ。400ボルト、800ボルトといった高電圧EVを修理するための訓練や設備のコスト負担に難色を示す整備工場のオーナーは多い。EVの走行台数がまだ比較的少ないだけに、なおさらだ。不注意だったり訓練を受けていなかったりする整備士が高電圧EVを扱えば、感電で即死する恐れもある。EVの火災は消火が難しく、発火にも慎重な対処が欠かせない」 

    EVは、ひとたび事故が起ったら難儀をすることを知っておくことだ。EV火災は消火が難しいという。高電圧だけに修理で事故も起るという。 

    (2)「自動車整備業界は、新型コロナウイルスのパンデミック後に人手不足に陥っている。英国に拠点を置く自動車産業協会(IMI)は整備士訓練コースを設け、現在は中国全土にEVコースを設置しようといている。今後、インドと欧州全域への展開も目指す。IMIは、2030年に化石燃料車の販売が禁止される英国では、32年までにEV整備士が2万5000人不足すると予測している。米国は、EV販売台数の伸びで欧州に遅れをとっている。それでも労働統計局はEVの修理やEV充電器の設置を行う技術者を含め、2031年までに年間約8万人の技術者が必要になると見込んでいる」 

    EV修理の技術者が、絶対的に不足しているという。

     

    (3)「専門家は、整備士がEVの扱いを避けて整備代金が上昇し、修理に掛かる時間も伸びることを懸念している。英中古車保証会社ワランティワイズがロイターに提供したデータによると、すでに修理保証コストは高騰しており、テスラのモデル3の期間1年の保証コストは同価格帯の化石燃料モデル平均の3倍以上となっている。ワランティワイズの幹部によると、同社はEVの修理を高コストのフランチャイズディーラーに任さざるを得ない。独立系整備会社よりも有資格整備士の人数が多いためだ。幹部は「人々は高い修理コストを払えるのだろうか」と懸念を口にした」 

    EVの修理保証コストは、期間1年でガソリン車の3倍以上になるという。EVのランニングコストは安いとされるが、保証コストまで含めたトータルコストはどうなるかだ。 

    (4)「ロンドンの北西部ハイウィカムにあるヒルクライム・ガレージのマネジングディレクター、マーク・ダーヴィルさんは、EVとハイブリッド車の整備を受け入れており、これらの扱いが全体の約15%を占める。同社が計画している訓練と設備への投資2万5000ポンド(約3万1400ドル)は、EVとハイブリッド車が整備全体の35%を占めると見込まれる2024年後半には回収できる見通しだ。EVの修理は選択肢が乏しく、既に遠くから顧客が来ている。「独立系整備工場の足かせになっているのは、未知への恐れだ」と言う。IMIによると、英国の自動車技術者の推計20%が何らかのEVの訓練を受けている。しかし、定期整備以上の作業が可能な有資格者はわずか1%だ」 

    EVとHV(ハイブリッド)の修理設備は、約3万1400ドル(約455万円)だ。この程度の設備費ですむものならば、それほどの高額投資とは言えまい。問題は、修理技術の習得であろう。

     

    (5)「自動車メーカーは整備士育成に躍起だ。米テスラは整備士候補養成のコースを米国のコミュニティカレッジで開講。国内の独立系修理工場向けに訓練も提供している。EV訓練コースの機器を製造している独ルーカス・ヌエル社のダニエル・ブラウン氏は、無資格の技術者が高電圧のEVを修理するよう圧力を受けることを心配している。「誰かが怪我をするのは時間の問題だ」と言う」 

    無資格の人間が、EVを修理して事故を起こすリスクだ。これが、最も大きい。 

    (6)「豪ニューサウスウェールズ州自動車ディーラー協会のコリン・ジェニングス氏は、小規模な修理工場にEV訓練のために補助金を出すことが必要で、そうでなければ多くの修理工場は化石燃料車の扱いを続けると訴えている。オーストラリアは多くの場合、小さな町と町の間が遠く離れており、EVの整備は避けて通れない課題だ。ジェニングス氏は「そんな場所でテスラが故障したら、誰が修理してくれるのか」と、EV修理体制の重要性を指摘した」 

    EV普及には、それに見合った修理体制の整備が不可欠である。EVでドライブを楽しむという夢には、思わぬ落し穴がありそうだ。

     

     

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    EU(欧州連合)の欧州委員会は6月20日、新たな経済安全保障戦略を発表した。中国を念頭に、域内企業の先端技術の流出を規制する方策を盛り込んだもの。EUは、対中戦略において米国と温度差があると言われているが、ロシアのウクライナ侵攻で中国観を一変させた。中国が、ロシアの仲間である以上、「同じ穴の狢(むじな」という認識に変わったのだ。ただ、これまでも対中貿易関係は活発であったので輸出は継続するものの、先端技術は教えないという厳しい姿勢だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「中国念頭に投資規制 EUが経済安保戦略」と題する記事を掲載した。

     

    EUの経済安保戦略は、中国との貿易を重視するが、企業の技術の軍事転用やサプライチェーン(供給網)を依存するリスクを減らす。

     

    (1)「フォンデアライエン欧州委員長は、3月の講演でEUと中国との関係を「デカップリング(分断)ではなくデリスキング(リスク低減)」と規定した。デリスキングは主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳宣言にも採用された。一般的なビジネスや気候変動、金融の安定化、感染症対策などでは組む。ただ経済安保の観点からは対抗する――。EUはバランスに気をつかいながらも、中国に対してより厳しい姿勢で臨む方針に徐々にシフトしている」

     

    フォンデアライエン欧州委員長(首相格)は、相当の政治力を発揮してEUを引っ張っている。「デリスキング」は、フォンデアライエン氏のアイデアであり、米国もこれで納得させた。こういう氏の政治力から言えば、EUの対中戦略も実効を上げるだろう。

     

    (2)「20日に公表した新戦略は中国を名指ししないが、明らかに同国への対応が中心となる。強く警戒するのは欧州企業の先端技術の軍事転用だ。今回の戦略の目玉はEU域内企業に対する「対外投資規制」の導入だ。人工知能(AI)、量子といった新興技術で中国に投資した結果、同国の軍事技術のイノベーション(技術革新)に活用されるリスクを重くみる。米国は、有志国に対外投資規制の検討を求めてきた。EUも米国と協議しながら制度設計を進める」

     

    人工知能(AI)や量子といった新興技術は、中国が軍事に利用することは目に見えている。それだけに、経済安全保障政策の核としても西側が守らなければならない。その制度設計が必要で、日本も出番である。

     

    (3)「既存の輸出管理制度もより厳しくする。同時に海外の企業がEU域内で新興技術に強みを持つ企業を買収したり、重要インフラを手がける企業に出資したりするのを難しくする。供給網の中国依存からの脱却も掲げる。EUは気候変動対策を推進するなかで電気自動車(EV)の大量導入を掲げている。ただEUは輸入するリチウムの「97%を中国に依存している」(フォンデアライエン氏)。こうした依存はEUと中国の緊張が高まったときに、同国による「経済的威圧」の道具にされかねない。実際に中国は、過去にレアアース(希土類)の対日輸出を止める報復に出た。EUは6月に入り、アルゼンチンと鉱物資源の確保に向けた協定を結んだ。供給源の多様化を急ぐ」

     

    EUの電気バッテリーにはリチウムを使うが、他の電源に変われば必ずしも必要でなくなる。技術革新に待つほかない。

     

    (4)「EUは、通信網の安全性の確保にも取り組む。欧州委は15日、高速通信規格「5G」のインフラから中国の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)を排除するよう加盟国に要請した。情報漏洩や有事に通信網をコントロールされるリスクがあり、安保と密接に関わるためだ。すでに2社の機器を設置済みの場合でも、他社製に置き換える」

     

    5Gに落とし穴があることは、米豪が最初に主張したものだ。EUは当初、中国へどっぷりと浸かっていたので信じようとしなかったが、ここまで変わってきたもの。中国にとっては、発覚して一大痛恨事である。通信網へ忍ばせて情報を抜き取る。あるいは、秘密指令で爆破する。そういう「バックドア」が仕組まれているのだ。まさに、スパイ映画そのものを狙っていた。

     

    (5)「経済安保を重視し、中国などからEU経済の「自律」をめざす方針は「加盟国内でも急速に理解が進んでいる」(欧州委関係者)。一方で具体的にどこまで強い措置を講じられるかは、今後の課題になる。EUが本格的に検討する対外投資規制は、制度づくりが難しいとされる。まずは規制対象の分野を絞り込む必要がある。工場新設や法人設立など投資にも様々な種類があり、何をどう制限するのかはこれからの調整となる。例えば自動車メーカーが開発する自動運転技術にもAIは不可欠だ。仮にAI全般の投資を規制した場合、欧州の自動車産業の中国戦略に影響を与えかねない」

     

    中国が、世界覇権を狙っていることは紛う方なき事実である。それだけに隙を与えてはならない。「ゼロコロナ」(デカップリング)は、経済的に犠牲が大きいので「ウイズコロナ」(デリスキング)で対処する。国際関係も、この線で行くほかない。

     

     

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    中国輸出は、急ブレーキがかかっている。2022年10~12月のドル建て輸出額は、前年同期比7%減。2年半ぶりのマイナスとなった。ゼロコロナで傷ついた中国経済のテコ入れには輸出しかない。その頼みの綱がマイナスでは、ショックも大きい。国・地域別にみると、米国向けは19%減で2四半期連続のマイナス。欧州連合(EU)向けも12%の減少に転じているのだ。

     

    米国は、安全保障を巡る対立激化で輸出減になったが、EUは何としても地盤を失いたくないという切羽詰まった局面にある。EUは、中国にとって最大の貿易相手国だ。中国はEUに対して巨額の貿易黒字を計上している。これが、中国の対EU外交へ力を入れている背景にある。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月11日付)は、中国、「『経済リセット』より重視、ゼロコロナ後」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「欧州勢力との関係修復を求める中国政府は、欧州側に対して「ノー・デカップリング(非分断)」というスローガンを唱えることに同意するよう強く主張している。(編集注、デカップリングは中国経済が先進国経済とは非連動という意味で使われてきた)とりわけ機密的な技術などの特定分野で中国との経済的な関係を制限しようとしている米国政府とは明らかに異なる対応を求めている」

     

    中国は、欧米が一本化して「脱中国」にならぬよう、離間作戦を始めている。だが、EUもこの手は先刻承知済。EUは、ロシア依存のエネルギー政策で苦しんだだけに中国依存に対して慎重である。

     

    (2)「香港バプティスト大学の中国専門家、ジャンピエール・キャペスタン氏は「中国は同時にあまりにも多くの国々、特に現在も主要な貿易・経済上のパートナーである西側諸国と敵対していることに気づいた」と分析する。「そのため、EUや欧州主要国のドイツ、フランス、イタリア、スペインだけではなく、日本や韓国などアジアの米同盟国、米国と(安全保障面で密接な関係にある)ベトナムなどに(関係修正を)懸命に働きかけている」と指摘」

     

    中国は、「喉元過ぎれば」である。日韓に対しては、コロナの水際対策を巡る行き違いから、ビザ発給を中止して圧力を掛けている。相変わらずの「自国中心主義」に陥っている。これでますます、日韓は中国との距離は開くだけだ。

     

    (3)「欧州の当局者やアナリストらによると、欧州各国首脳の大きな動機付けとなっているのが、ロシアによる核兵器使用の抑制を中国が手助けすることができるという期待だ。米カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授で21世紀中国センターの会長を務めるスーザン・シャーク氏は「中国は常に核兵器の使用に反対してきたはずだ」と指摘したうえで、「しかし習近平国家首席が欧州首脳らにこのようなことを語る際には、(中国と)ロシアの間には一定の距離があることを強調しようとするだろう」と話す」

     

    中国のEU接近の「常套句」は、ロシアの核使用反対論である。これによって、EUを引きつけようという戦略である。

     

    (4)「中国政府がより重要視しているのが国内の経済成長を押し上げる経済リセットだ。具体化されつつある成長志向戦略の背景には、向こう数カ月に中国経済はコロナがもたらした景気低迷から脱却するという不透明な前提がある。中国共産党中央財経委員会の主要幹部である韓文秀氏は昨年12月、23年1〜3月期は大きな混乱による悪影響は避けられないとしながらも、4~6月期には「加速したペース」で景気が回復する見通しだと言明した」

     

    中国共産党中央財経委員会の主要幹部は、4~6月期の景気急回復を予測している。コロナ感染急拡大の後遺症が、どうなるか未知数である。中国疾病予防コントロールセンターの首席疫学者だった曽光氏は、新型コロナウイルス感染のピークが2~3カ月続く見込みで、医療資源が比較的乏しい農村部に間もなく感染の波が広がるとの見方を示した。『ロイター』(13日付)が伝えた。楽観論は要注意だ。

     

    (5)「アナリストらは、韓氏の発言について中国政府が不動産市場を23年中に安定させる計画であると解釈している。韓氏の口頭での支援に加え、中国政府は不動産市場向けに16項目に及ぶ包括支援策を発表しており、国有銀行は特定の不動産開発企業向けに推定2560億ドル(約33兆8000億円)の融資枠を設定している」

     

    中国政府は、不動産企業への資金調達制限などを緩め、支援政策に転換する。大手不動産に対して定めた財務指針「3つのレッドライン」を緩和する。だが、問題は需要側(家計)の住宅ローン支払能力である。雇用もままならぬ中で、多額の住宅ローンを抱える余裕があるのか疑問だ。

     

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