トヨタ自動車に次いで世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)が、EV(電気自車)不振で旗艦車種「ID.3」の生産計画を取り止める事態になった。ドイツは昨年12月、EV補助金が前面的に打ち切られており、EVの販売環境は悪化している。
『日本経済新聞』(3月14日付)は、「独VW、EV失速鮮明 価格競争・需要減で利益率低下 欧州はエンジン車回帰」と題する記事を掲載した。
自動車大手ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が電気自動車(EV)失速のあおりを受けて採算が低下している。13日発表の2023年12月期通期決算は売上高が15%増だったが営業利益率は低下した。欧州ではEVの生産体制を縮小し、コスト削減を進める。一時的な「エンジン車回帰」が利益率改善に寄与する皮肉な状況にある。
(1)「VWのオリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は「持続可能で前向きな発展のためにグループで準備を進めていく」と13日の決算記者会見でEVシフトの堅持を強調した。ただ足元では関連投資の先延ばしが目立つ。VWは今夏から独北部ウォルフスブルクにある本社工場で量産型EV「ID.3」の生産を始める計画を取り下げると決めた。元々は23年末から生産開始する予定だったが延期していた。ID.3は年14万台を販売するEVの旗艦モデルだ。同モデルを製造する独東部ツウィッカウの主力工場では昨秋から3交代勤務を見直し、生産ラインを削減した。東欧で検討していたEV用電池セル生産工場の投資決定延期も表明済みだ」
トヨタに比べて、VWはEVを巡ってドタバタ劇を繰り返している。EV需要の見通しを誤った結果だ。EVへ前のめりになってきたので、需要減による反動も大きくなっている。VWは、リチウムイオン電池の限界に気づかなかったことが致命傷になった。
(2)「主因は、EV需要の失速にある。欧州最大市場のドイツでは23年9月にEV補助金の給付対象から企業が外れ、12月中旬には全面的に打ち切られた。独国際自動車製造協会によると、独国内のEV販売は24年2月、前年同月比15%減の2万7479台に落ち込んだ。フランスや英国など欧州全域でEV補助金の削減・停止の動きが広がる」
ドイツ政府は、財政難からEV補助金を打ち切っている。補助金なしに高額なEV販売は、不可能である。
(3)「23年12月期はサプライチェーン(供給網)の回復から新車全体の販売台数が伸び、売上高は15%増の3222億8400万ユーロ(約52兆円)だった。ただ製造コストの上昇やEVの値下げ競争の影響などから、営業利益は2%増の225億7600万ユーロ、営業利益率は8.1%から7%に下がった。利益改善のため24年12月期に乗用車部門で数十億ユーロのコストを削減する。24年に販売を予定する新型EVは高級車が多く、手ごろな価格帯がない。EV生産体制の縮小に加え、新型量産車の少なさもコスト削減にプラスに働くとみる」
VWは、営業利益率が7%に下がった。5%を割ると開発費に差し支えると言われるので、EV転換はやむを得なかったのであろう。
(4)「エンジン車は、モデルチェンジした人気車を24年に相次ぎ投入する。ウォルフスブルクの本社工場では、量産EV「ID.3」の生産を取りやめた代わりにエンジン車の生産ラインの増強も検討する。独メッツラー銀行のアレクサンダー・アデック氏は、EVより利益率が高いエンジン車の生産拡大で「EVの稼働率低下などの減益要因を埋める効果がある」と指摘する。VWも24年12月期の営業利益率は「7~7.5%」と前期よりやや改善すると予測する」
エンジン車増産でカバーし、24年12月期営業利益率は7%台前半への回復を目指す。トヨタの営業利益率は、23年3月期で7.33%である。半導体供給不足が影響した。22年3月期は9.55%であった。24年3月期は、9%台を超えるのか注目点だ。
(5)「エンジン車に回帰する欧州とは対照的に、需要が堅調な中国ではEVシフトを加速させる。ブルーメCEOが「再建請負人」と呼ぶ、乗用車ブランド取締役のトーマス・ウルブリッヒ氏を4月から中国に駐在させる人事を決めた。中国のEV販売では中国新興や米テスラに後れを取る。EVとプラグインハイブリッド車(PHV)を合わせた中国の23年販売台数は中国EV大手、比亜迪(BYD)の12分の1にすぎない。エンジン車を含めた新車販売全体でも「中国国内シェア首位」の座をBYDに奪われる月もあった。ウルブリッヒ氏は出資する中国EV、小鵬汽車(シャオペン)との共同技術開発を指揮し、中国市場向けEVの開発期間を50カ月から36カ月に短縮。30年までにEV30車種の投入を狙う」
VWは、中国でEVシフトを加速させる。中国EVの小鵬汽車と組んで、中国流EVを発売する。
(6)「VWは、「将来はEVになると確信している」(アルノ・アントリッツ最高財務責任者=CFO)と、30年までに世界のEV新車販売比率を50%に高める自社目標を撤回しなかった。販売台数の多いVWが欧州連合(EU)の厳しい二酸化炭素(CO2)排出規制をクリアするのに目標達成が欠かせないという事情もある。ただ、23年のEV比率は8.3%にとどまりゴールは遠い」
EUのEV比率は、23年で8.3%である。EUも、EVオンリー主義を緩和して「合成ガソリン」車を二酸化炭素無害車として承認した。なんと、二酸化炭素を原料にするという「逆転の発想」である。