日本とドイツは18日、両国の首相と外務、財務、防衛など双方の6閣僚による政府間協議を初めて開いた。経済安全保障を軸に意見を交わした。重要物資の脱中国依存といったサプライチェーン(供給網)の強化やサイバー攻撃からの防御などを巡り、協力を深める狙いがある。ショルツ首相は協議後の共同記者会見で、日独関係が「新たなステージに引き上げられた」と評価した。
今回の日独の政府間協議は、ドイツ与党の提案によるものという。GDP世界3位の日本と4位のドイツが、定期協議する会合を持たないのは不自然というのが発端であった。ドイツの強い意志が働いていた結果だ。
『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「日本とドイツ、中国けん制で接近 初の首脳・閣僚協議」と題する記事を掲載した。
日独政府が18日、新しい定期協議の枠組み「日独政府間協議」を立ち上げたのは台頭する中国への危機感からだ。ドイツは中国偏重だったメルケル政権時代のアジア政策を転換し、日本重視にシフトする。欧州の盟主ドイツと日本の連携は、主要7カ国(G7)の結束を示すことにつながる。
(1)「ショルツ独首相は訪日前、日本経済新聞のインタビューで、「あらゆる分野における連携を深めるチャンス」と語った。18日午後、会場となった日本の首相官邸に集まったのは岸田文雄、ショルツ両首相のほか、外務や財務など両国の主要閣僚。さながら「合同閣議」のようだった。きっかけはドイツ与党の発案だ。2021年に発足したショルツ政権の公約に盛り込まれた。ドイツの外務官僚がお膳立てしたのではなく、日本が根回ししたのでもないという。ドイツ与党の外交担当議員らが2つの理由から強く希望した。まず中国偏重というイメージの払拭。これまでドイツは政府間協議をさまざまな国としてきた。アジアでは11年から中国およびインドと定期開催している。「日本がないのは不自然」との声が独与党内であがった」
メルケル首相時代のドイツは、中ロと深く関わっていた。反面、日米とは溝ができていた。それが、一挙に逆転してドイツの外交姿勢は180度もの変化である。ロシアのウクライナ侵攻で虚を突かれて、「眼が醒めた」と言えよう。日本の米中への姿勢を学ぼうということであろう。
(2)「ロシアのウクライナ侵略で、実現に向けた動きが一気に加速し、わずか1年あまりで公約は実現した。ロシアにエネルギーを深く依存して失敗したドイツは、中国依存で同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。中国への経済依存を深めてきたドイツでは、「日本から学びたい」との声が漏れる。安全保障上の脅威といえる中国と対峙しながら経済では深くつながる――。そんな日本と「意見交換したい」とショルツ首相は訪日前の取材で語ったが、本音だろう。日本の外務省幹部も、「産業構造や中国依存で日独は似る。ドイツと認識を擦り合わせることは非常に意義がある」と話す」
米国は、ドイツに最も手を焼いていた。中ロへ深くのめり込んでいたからだ。ファーウェイの「5G」に隠された「バックドア」についても最近、ようやく気づいたほどだ。どっぷりと中国に浸かっていたのである。米国は、ファーウェイと手を切らなければ、ドイツに関わる極秘情報を伝えないとまで激怒していた。
(3)「日本のメリットは大きい。サプライチェーン(供給網)や次世代エネルギーで本格的な協力に踏み込めるかもしれない。何より「日米」あるいは「欧米」という伝統的な太いパイプに「日欧」という新しい軸が加わることでG7の結束が強まる。これはG7議長国として民主主義への大きな貢献である。中国は危機感を持っているようだ」
EUの盟主ドイツが、中国へ警戒姿勢を取るようになったのは、「ツーレイト」と言うほかない。ドイツ自動車にとって、中国市場が最大のマーケットという事情があるにせよ、ビジネスで眼が眩んでいたことは事実だ。ドイツでは環境政党「緑の党」が、中国批判の急先鋒である。ドイツ政策が、反中国へ傾斜するのは緑の党の影響である。
(4)「それでも、「中国から日本を含めたアジアの民主主義国家にシフト」という欧州のアジア外交の潮流は逆回転しないだろう。もはや欧中蜜月は終わった。「一帯一路」で欧州を切り崩すなど覇権主義がちらつく中国への不信感は強い。仮に中国がロシアに武器供給すれば経済制裁も辞さない覚悟だ。ショルツ首相も武器を供給しないよう、繰り返し中国をけん制している」
「一帯一路」で、先進国で参加しなかったのは日米だけだ。EU(欧州連合)は雪崩を打って参加した。中国の実情が分からなかったのだ。こういう経緯から見て、ドイツが今になって日本へ接近した最大の理由は、本当の中国情報が欲しいからだろう。ドイツの抱える中国の地政学的リスクを少しでも回避したい。それには、「日本接近」が正解と判断したのだ。
(5)「もっとも、デカップリング(分断)を視野に中国と対峙する米国とは温度差もある。独経済研究所の調査では22年1〜6月の独企業による対中投資は100億ユーロ(約1兆4000億円)を超え、上半期で過去最高だった。独貿易・投資振興機関(GTAI)は「中小企業は地政学リスクから投資を控えたが、大企業の大型投資が全体を押し上げた」と分析する。BMWが22年6月に自動車組み立て工場を完成させたほか、化学大手BASFも100億ユーロを投じて総合生産拠点の建設を進める。自国企業の対外投資が中国に集中しないよう、独政府は昨年11月末までに計14件・40億ユーロの対中投資への政府保証を許可しなかった」
ドイツでは、従来すべての中国投資案件に政府保証をつけていた。「緑の党」がこれに反対しており、全廃方針を提案したほど。次第に、その方向へ向かうだろう。