勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    日本とドイツは18日、両国の首相と外務、財務、防衛など双方の6閣僚による政府間協議を初めて開いた。経済安全保障を軸に意見を交わした。重要物資の脱中国依存といったサプライチェーン(供給網)の強化やサイバー攻撃からの防御などを巡り、協力を深める狙いがある。ショルツ首相は協議後の共同記者会見で、日独関係が「新たなステージに引き上げられた」と評価した。 

    今回の日独の政府間協議は、ドイツ与党の提案によるものという。GDP世界3位の日本と4位のドイツが、定期協議する会合を持たないのは不自然というのが発端であった。ドイツの強い意志が働いていた結果だ。
     

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「日本とドイツ、中国けん制で接近 初の首脳・閣僚協議」と題する記事を掲載した。 

    日独政府が18日、新しい定期協議の枠組み「日独政府間協議」を立ち上げたのは台頭する中国への危機感からだ。ドイツは中国偏重だったメルケル政権時代のアジア政策を転換し、日本重視にシフトする。欧州の盟主ドイツと日本の連携は、主要7カ国(G7)の結束を示すことにつながる。 

    (1)「ショルツ独首相は訪日前、日本経済新聞のインタビューで、「あらゆる分野における連携を深めるチャンス」と語った。18日午後、会場となった日本の首相官邸に集まったのは岸田文雄、ショルツ両首相のほか、外務や財務など両国の主要閣僚。さながら「合同閣議」のようだった。きっかけはドイツ与党の発案だ。2021年に発足したショルツ政権の公約に盛り込まれた。ドイツの外務官僚がお膳立てしたのではなく、日本が根回ししたのでもないという。ドイツ与党の外交担当議員らが2つの理由から強く希望した。まず中国偏重というイメージの払拭。これまでドイツは政府間協議をさまざまな国としてきた。アジアでは11年から中国およびインドと定期開催している。「日本がないのは不自然」との声が独与党内であがった」

     

    メルケル首相時代のドイツは、中ロと深く関わっていた。反面、日米とは溝ができていた。それが、一挙に逆転してドイツの外交姿勢は180度もの変化である。ロシアのウクライナ侵攻で虚を突かれて、「眼が醒めた」と言えよう。日本の米中への姿勢を学ぼうということであろう。 

    (2)「ロシアのウクライナ侵略で、実現に向けた動きが一気に加速し、わずか1年あまりで公約は実現した。ロシアにエネルギーを深く依存して失敗したドイツは、中国依存で同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。中国への経済依存を深めてきたドイツでは、「日本から学びたい」との声が漏れる。安全保障上の脅威といえる中国と対峙しながら経済では深くつながる――。そんな日本と「意見交換したい」とショルツ首相は訪日前の取材で語ったが、本音だろう。日本の外務省幹部も、「産業構造や中国依存で日独は似る。ドイツと認識を擦り合わせることは非常に意義がある」と話す」 

    米国は、ドイツに最も手を焼いていた。中ロへ深くのめり込んでいたからだ。ファーウェイの「5G」に隠された「バックドア」についても最近、ようやく気づいたほどだ。どっぷりと中国に浸かっていたのである。米国は、ファーウェイと手を切らなければ、ドイツに関わる極秘情報を伝えないとまで激怒していた。

     

    (3)「日本のメリットは大きい。サプライチェーン(供給網)や次世代エネルギーで本格的な協力に踏み込めるかもしれない。何より「日米」あるいは「欧米」という伝統的な太いパイプに「日欧」という新しい軸が加わることでG7の結束が強まる。これはG7議長国として民主主義への大きな貢献である。中国は危機感を持っているようだ」 

    EUの盟主ドイツが、中国へ警戒姿勢を取るようになったのは、「ツーレイト」と言うほかない。ドイツ自動車にとって、中国市場が最大のマーケットという事情があるにせよ、ビジネスで眼が眩んでいたことは事実だ。ドイツでは環境政党「緑の党」が、中国批判の急先鋒である。ドイツ政策が、反中国へ傾斜するのは緑の党の影響である。

     

    (4)「それでも、「中国から日本を含めたアジアの民主主義国家にシフト」という欧州のアジア外交の潮流は逆回転しないだろう。もはや欧中蜜月は終わった。「一帯一路」で欧州を切り崩すなど覇権主義がちらつく中国への不信感は強い。仮に中国がロシアに武器供給すれば経済制裁も辞さない覚悟だ。ショルツ首相も武器を供給しないよう、繰り返し中国をけん制している」 

    「一帯一路」で、先進国で参加しなかったのは日米だけだ。EU(欧州連合)は雪崩を打って参加した。中国の実情が分からなかったのだ。こういう経緯から見て、ドイツが今になって日本へ接近した最大の理由は、本当の中国情報が欲しいからだろう。ドイツの抱える中国の地政学的リスクを少しでも回避したい。それには、「日本接近」が正解と判断したのだ。

     

    (5)「もっとも、デカップリング(分断)を視野に中国と対峙する米国とは温度差もある。独経済研究所の調査では22年1〜6月の独企業による対中投資は100億ユーロ(約1兆4000億円)を超え、上半期で過去最高だった。独貿易・投資振興機関(GTAI)は「中小企業は地政学リスクから投資を控えたが、大企業の大型投資が全体を押し上げた」と分析する。BMWが22年6月に自動車組み立て工場を完成させたほか、化学大手BASFも100億ユーロを投じて総合生産拠点の建設を進める。自国企業の対外投資が中国に集中しないよう、独政府は昨年11月末までに計14件・40億ユーロの対中投資への政府保証を許可しなかった」 

    ドイツでは、従来すべての中国投資案件に政府保証をつけていた。「緑の党」がこれに反対しており、全廃方針を提案したほど。次第に、その方向へ向かうだろう。

     

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    EUの盟主であるドイツは、メルケル政権当時と異なって「脱中国路線」を歩みつつある。欧州は、ロシアのウクライナ侵攻を契機にして権威主義国家へ警戒を強めている。特に、中国がロシアを非難しないことから、台湾侵攻を企図しているものとみている。ショルツ首相は、「中国の台湾侵攻を認めない」と強い警戒観を見せた。この裏には、台湾半導体メーカーTSMCが、ドイツで工場建設することで交渉中という事情もあり、台湾擁護の姿勢を見せている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月16日付)は、「『台湾への武力行使認めず』ショルツ独首相インタビュー」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツのショルツ首相が日本経済新聞の単独インタビューに応じた。「特定の国への一方的な依存を避け、新しい販売市場を開拓する」と述べ、ドイツ経済の中国依存度を引き下げる考えを示した。台湾有事については「現状変更のために武力を用いてはならない」と中国をけん制した。ドイツはメルケル政権時代の中国偏重のアジア政策から大きく転換する。日独政府は18日、両国の首相らが出席する新しい定期協議の枠組み「政府間協議」の初会合を都内で開く。ショルツ氏は訪日前にベルリンの首相官邸で取材に応じた。

     

    (1)「ドイツはアジア政策で中国を最重視し、外交・通商とも中国一辺倒といえる状況が長く続いてきた。しかし、習近平(シー・ジンピン)体制の強権化で警戒感が高まり、距離を置きつつある。ロシアのウクライナ侵略で、ドイツはエネルギーの脱ロシアを強いられた。この教訓も特定の国に経済を依存することへの危うさを浮き彫りにした。ショルツ氏は、中国以外のアジア諸国に目配りすることで、中国偏重を是正していく考えだ。日本や韓国、インドなどを列挙し「ほかの国との関係を深め、供給網や販売市場で特定の国に依存しないようにする」と述べた」

     

    ドイツが、中国偏重政策の見直しに入る。エネルギー政策では、ロシアへ偏重したのでウクライナ侵攻に伴う「脱ロシア」で大きな痛手を被った。この教訓から、中国偏重の見直しを始める。日本、韓国、インドなどとの関係強化を図る意向を見せている。

     

    (2)「米国のように中国との分断を志向しているわけではない。インタビューでは、過度な中国批判を避け「デカップリング(分断)はしないし、(経済面での)協力も続ける」と語った。それでも以前との温度差は明らかだ。「全ての卵を1つのカゴに入れてはいけない」。ドイツのことわざをショルツ氏は口にし、ドイツ企業は「多様化を進め、リスクを削減」するのが望ましいと明言した。こうした政府指針を盛り込んだ「新しい中国政策」を近く取りまとめ、閣議決定する見通し。今後は中国に代わってインドや東南アジアで官民一体となって通商拡大を図るとみられる」

     

    ドイツは近々、「新しい中国政策」をまとめる。中国に代わって、インドや東南アジアで官民一体となって通商拡大を図る模様だ。ここでは、敢えて台湾の名前を挙げていないが、台湾TSMCによるドイツ進出に合わせて、アジア戦略を披露することになろう。

     

    (3)「現時点で、ドイツ経済と中国の結びつきは強い。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は世界で販売した乗用車のうち約4割を中国が占める。簡単には代替市場はみつからない。それでもアジア政策が大きく軌道修正されるのは間違いない。特に日本には追い風だ。ショルツ氏は昨年、アジアにおける初の外遊先に中国でなく、あえて日本を選んだ。対日関係を「新しいステージ」に引き上げるためだったという」

     

    日独政府は18日、両国の首相らが出席して、新しい定期協議の枠組み「政府間協議」の初会合を開く。ここで、新たな日独協力体制が明らかになろう。

     

    (4)「盟主ドイツの方針転換で、欧州全体のアジア政策が「中国離れ」にじわじわとシフトしそうだ。経済的な利益は引き続き追求するものの、先端技術の流出などは厳しい制限をかける。「中国における新しい大型投資はしにくい空気になってきた」との声が欧州の経済界からも漏れる。一方、ショルツ氏はウクライナ侵攻を続けるロシアについて「帝国主義的な道を選んだ」と強い調子で非難した。ウクライナを徹底的に支援する考えを明らかにした。焦点となっている脱原発政策については完遂する考えを表明した」

     

    ドイツが、「中国離れ」を始めれば、EU全体がその方向へ動き出していくであろう。中国は、ロシア支援の姿勢を見せていることが、どれだけ経済的にもマイナスになるかを深く考える段階に来ている。


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    ドイツはメルケル首相時代、親中ロ路線をひた走ってきた。メルケル氏は、訪日よりもはるかに多く訪中に勢を出してビジネスの後押しをしてきた。だが、このメルケル外交における親中ロ路線は、今になって見れば極めてリスクの高い外交路線であったことが判明している。中ロは枢軸を組んで西側の価値観に対抗する動きを見せている。ドイツは、こともあろうにこの中ロへどっぷりと浸って来たことに気づいたのである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月7日付)は、「対中政策、欧州の理念と現実」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツが対中政策の大幅な見直しを「政府方針」として宣言する見通しとなった。「親中」といわれたメルケル前政権の路線を放棄し「対中強硬」とも受け止められる新しい外交指針をつくる。「かなり強めの言葉を文書にちりばめる」。アジア政策にかかわる独政府高官は話す。独外務省が中心となって原案を策定中で、2023年夏にも閣議決定するという。

     

    (1)「経済の中国依存度を下げるため、「対中投資に上限」「対中依存の独企業は政府の監視対象」と劇薬ともいえる強烈な策が浮かぶ。民間技術の軍事転用を避ける狙いで、学術交流すら制限するかもしれない。連立与党内では、強硬派の緑の党とやや穏健なドイツ社会民主党の間で綱引きがあるため、着地点はもっと現実的になる可能性はある。それでも中国と距離を置くシグナルになるのは明らかだ」

     

    緑の党が連立政権に参加した時点で、対中強硬策に転じることは分っていた。しかも外務大臣ポストを握っている以上、中国けん制はますます強くなるはずだ。

     

    (2)「米中対立のなかで旗幟(きし)を鮮明にすれば、外交の幅が狭まる――。少し前までは、そんな考えがドイツ政界の主流だった。半面、全方位外交は強権国家につけ込まれる隙を生む。経済を特定国に頼るのも危うい。エネルギーを依存して対話偏重だった対ロシア政策の失敗でドイツは痛いほど思い知った」

     

    メルケル氏は、東ドイツ育ちである。共産主義への違和感がなく、「お友達意識」で中ロと関係を深めたと見られる。だが、ロシアのウクライナ侵攻で全てが泡と消えた。ご破算になったのだ。それにしても、メルケル氏は絶妙なタイミングで首相交代になった。集中砲火を浴びることはなかった。

     

    (3)「海洋国家のフランスは、安全保障上の観点から中国への警戒心を強める。「仏領を一寸たりとも中国に渡すわけにはいかない」と語るのはアジア政策通の与党議員のジャネテ氏だ。ニューカレドニアなどインド太平洋の仏領の多くは南半球にある。同海域の北半球の民主主義国家との連携を深めたいという。日本や米国が視線の先にある。取材で具体策を尋ねると、日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」との協力に強い意欲を示した」

     

    フランスが、親日姿勢を取って来た裏に、アジアに仏領があるからだ。自衛隊をパリ祭に招待して、シャンゼリゼを行進させるなど親日ぶりをアピールしている。その点では、ドイツの親中ぶりとは一線を画してきた。

     

    (4)「フランスは対米感情が複雑な国だ。18世紀のアメリカ独立を助け、歴史的には米国と深い関係を持ちながら、弱肉強食の資本主義は嫌う。英米などアングロサクソン諸国をライバル視し、米国への追従をよしとしない。21年に米英豪がフランスを除いて安保の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設すると仏米関係は冷え込んだ。それがロシアのウクライナ侵略で一変した。民主主義陣営と強権国家の対立が深まり、米国に寄り添わざるを得なくなった」

     

    第二次世界大戦後、米仏は何かと対立関係にあった。ドルの基軸通貨にも反対姿勢を取るなど、対立の火種に事欠かない。だが、ロシア問題で米国の力に依存せざるを得ない現実から、米国と歩調を合わせている。皮肉な見方をすれば、ロシアが西側諸国を結束させたのである。

     

    (5)「ロシアはこれまで以上に中国を頼るだろう。ロシアの天然資源と軍事力を手にする中国は世界秩序を大きく揺さぶる、との読みが欧州で広がる。仮に欧州と中国の貿易が制限されれば、ドイツの成長率は1ポイント近く下がり、他の欧州諸国も大きな影響を受けると独Ifo経済研究所は試算する。にもかかわらず台湾有事が起きれば、独仏が率いる欧州連合(EU)は対中経済制裁を発動する公算が大きい」

     

    ウクライナ問題で、西側は結束している。中国の台湾侵攻が起これば、そのお返しで欧州も結束して中国へ対抗する。これはもはや、既定路線と見るべきであろう。将来、NATO(北大西洋条約機構)の拡大も起こり得る情勢になっている。日本・豪州などは加入候補である。 

     

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    ドイツ首相を4期16年務めたメルケル氏は、2021年12月に退任した。この間、プーチン・ロシア大統領との会談は、60回を上回ったという。しかも、プーチン氏とは1対1の会談であった。膝つき合わせた議論を交わした関係である。だが、メルケル氏が首相としてモスクワを最後に訪れたのは2021年8月、プーチン氏の対応は変わっていた。これまでの1対1の会談でなくラヴロフ外相を同席させたというのだ。

     

    メルケル氏は、この最後の会談でプーチン氏の真意を知ったという。もはや権力の座を離れるメルケル氏に深入りしないという信号であったのだ。メルケル氏は、それ以前にプーチン氏が欧州の分断を策していることを知っていたが、「ソフトパワー」でそれを防げると信じていたという。つまり、経済関係が平和を維持すると見ていたのである。ドイツは、ロシアから原油や天然ガスを輸入することで密接な関係を築いてきた。だから、ロシアはドイツを裏切ることはないと信じていたのだ。

     

    プーチン氏は、これを逆手に取って、ウクライナ侵攻によって欧州を分断できると見た。ドイツはロシア側について、ウクライナ侵攻を容認すると踏んでいたのである。ここに、プーチン氏は大きな誤算をしたが、ドイツもまた誤算をしたのだ。経済関係が蜜であれば、平和を維持できるという甘い期待である。侵略者には、こういう「合理的期待」が成立しないことを立証した。

     

    英『BBC』(12月3日付)は、「欧州はアメリカなしでは大変なことに、単独ではロシアに対抗できずーフィンランド首相」と題する記事を掲載した。

     

    オーストラリア訪問中のマリン首相は、「容赦なく正直に申し上げる必要がある。今の欧州は力が足りない」、「アメリカなしでは大変なことになっていた」と発言した。

     

    (1)「シンクタンクのロウイー研究所で講演したマリン首相は、「アメリカはウクライナにたくさんの武器と資金支援と人道支援を提供してきた。欧州にはまだ力が足りない」と述べた。さらに、欧州の防衛力について、確実に能力を増強し「欧州の防衛産業を強化し、さまざまな状況に対応できるようにしなくてはならない」と強調した」

     

    これまでの欧州は、何かにつけて米国と対立してきた。だが、今回のロシアのウクライナ侵攻で、両者は対立から協力へと大きく変わっている。プーチン氏が、最も見誤った点であろう。米国は覇権国家として、世界の秩序維持に責任を負う立場だ。ロシアを信じ切ってきた欧州には、ウクライナ侵攻が晴天の霹靂であった。

     

    (2)「マリン首相は加えて、一部の欧州諸国が近年、ロシアとの関係を強化しようとしてきたと批判。「欧州は長いこと対ロ戦略を築いていた(中略)ロシアからエネルギーを買って、経済関係を緊密にすれば、戦争が防げると思っていた」ものの、この考えは「まったく間違っていたと証明されてしまった」と述べた」

     

    このパラグラフは、ドイツのメルケル前首相を指している。メルケル氏は、筋金入りの「反米主義者」であった。米国が嫌いだったのだ。一方、帝政時代から独ロは密接な関係にあった。米国は、ドイツがエネルギー政策でロシアに大きく依存することの危険性を早くから警告していたが、馬耳東風で聞き流してきた。それが、今回の「エネルギー危機」に繋がった背景だ。ドイツが現在、米国へ最敬礼している理由である。

     

    (3)「マリン首相はこれについて、欧州諸国はポーランドやバルト諸国の警告に耳を傾けるべきだったと指摘。ロシアに近い各国は、ロシアがウクライナ侵攻となると「経済関係など気にしていない、制裁など気にしていない、そういう諸々は一切気にしていない」のだと、かねて警告していたと、マリン氏は強調した。さらに、欧州諸国の軍備がウクライナ支援によって縮小する中、マリン首相は欧州各国が手元の軍備を強化する必要があると強調した」

     

    ポーランドとバルト三国は、ロシアの残忍性を最も知っているだけに、ロシアへの警戒感はもっとも強かった。ポーランドは、ロシアのウクライナ侵攻を最も早くから警告してきた国である。今回のロシア産原油価格の上限制決定で、事実上の主導権を握っていたのはポーランドである。EUが、ポーランドに敬意を表したとも言えるだろう。

     

    (4)「最近では、ロシアと国境を接するエストニアなどから、それをGDP比3%に増やすよう求める声も出ている。ロシアと1300キロ以上にわたって国境を接するフィンランドは今年、スウェーデンと共に正式にNATO加盟を申請した。NATO加盟30カ国は7月にフィンランドとスウェーデンの加盟議定書に署名。全部30カ国が国内の批准手続きを終えれば、両国はNATO加盟国になる」。

     

    ロシアはこれまで、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を絶対許さないという姿勢であった。現在のロシアには、前記二ヶ国へ攻め込む軍事力すらないほど消耗している。ウクライナ侵攻で、ロシアの国力は大きく落込んでおり、回復のメドは立たないほどだ。

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    西側諸国にとって、ロシアのウクライナ侵攻が中国の台湾侵攻リスクを高めている。こうして、中国警戒論が強まると共に、ドイツでも中国との関係見直しが強まってきた。ドイツ・ショルツ政権では、連立を組む「緑の党」などが中国との関係見直しを主張している。時代は、大きく転換した。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月27日付)は、「ドイツ産業界と中国企業の蜜月関係に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    長年にわたって中国向けの売り上げを急増させてきたドイツの中小企業の多くが、中国でのビジネスの見直しを迫られている。「ミッテルシュタント」と呼ばれるドイツの中小企業が、かつてのように中国事業による利益に頼れなくなってきている、と在中国欧州連合(EU)商工会議所のイェルク・ヴットケ会頭は指摘する。「(中国との)蜜月関係は終わった」

     

    (1)「ドイツと中国は、世界で最も互恵的な貿易関係の一つを築いたが、今やそれが崩れ去ろうとしている。ドイツ企業は中国の輸出企業に機械を供給することで利益を上げ、中国メーカーはドイツ製の機械を使ってグローバル・サプライチェーンのなかで重要な地位を占めるようになった。21世紀初め以来の20年余りで、中国はドイツにとって主要な海外市場になった。この間、ドイツの輸出全体に占める中国のシェアは、1%強から7.%まで増えた。ドイツの対中国輸出は、2021年に1000億ユーロ(約14.7兆円)を超え、米国に次ぐ第2の輸出市場になった」

     

    ドイツの前首相メルケル氏は、中国と蜜月関係を結び、ドイツ企業の中国進出をバックアップした。中国企業は、ドイツ製機械を輸入して製品輸出を促進した。ドイツ・中国は、ウイン・ウインの関係であったのだ。

     

    (2)「ベルリンにあるグローバル公共政策研究所のトルステン・ベナー所長は、中国との互恵的な経済関係は、16年続いたメルケル前政権の後期にみられた「ドイツ経済モデルの黄金時代」を形成した重要な要素だったと分析する。ブリュッセルに本拠を置くシンクタンク、ブリューゲルのシニアエコノミスト、アリシア・ガルシア=ヘレロ氏は、ともに輸出大国であるドイツと中国の関係にあった高揚感は、ドイツの対中輸出が減少し始めたことで、落胆ムードに変わりつつある、という。「中国の製造業が、付加価値の高い事業へと急速にシフトしたことで、ドイツでは貿易黒字が縮小し、産業競争力の一部が失われつつある」のだ」

     

    中国は、輸入代替を進めて国内で機械の生産を始めている。これは、経済成長過程では通常、起こる現象である。日本も「一号機」を輸入して、後は国産化することで輸入を減らすことに成功してきた。ドイツにとっては、中国での輸入代替はデメリットになる。こうして、蜜月関係も終焉へ向かうのだ。

     

    (3)「現在、両国関係全般には、微妙な影が差し始めている。ロシアによるウクライナ侵攻は、ドイツ国内の対中批判派をさらに勢いづけている。彼らは、ドイツの対中経済関係が外交目標を圧倒しており、将来、地政学面で敵対すると予想される国を手助けするかたちになっている、と主張している」

     

    ドイツにとって、ウイン・ウインの関係終了と同時に、中国の地政学的なリスクが持ち上がってきた。中国の台湾侵攻は、既定事実化されており、ドイツの中国離れは決定的になってきた。

     

    (4)「ウクライナでの戦争は、中国が台湾に侵攻した場合に中国に科せられる国際的な経済制裁のリスクを浮き彫りにした。米中のデカップリング(分断)によって、多くの企業は中国企業に代わるサプライヤーを探し始めている。ドイツ機械工業連盟(VDMA)が21年に実施した調査では、3分の1強の加盟企業が、デカップリングが原因で取引関係を見直していると答えた。ヘッセンに本拠を置く電子部品メーカー、マグネテック社は中国で13年間工場を操業してきたが、制裁リスクを考慮して2つ目の工場を建設する計画を中止した」

     

    ドイツ機械工業連盟では、3分の1が中国との取引見直しに入っている。手早い対応である。この裏には、中国との取引で利益が出ないという事実もあろう。

     

    (5)「米調査会社ロジウム・グループのノア・バーキン編集長バーキン氏は、中国がドイツ企業にとって「確実な勝ち勝負」だった時代は終わったと語る。「まだ完全撤退しているわけではないが、企業は、地政学的な逆風から事業を守る方法を模索している」と同氏はいう。「なかには中国から去らなければならなくなる時に備えている企業もある」と指摘する」

     

    中国は、台湾侵攻の御旗を高く上げたがゆえに、これを嫌うドイツ企業が脱出の動きを始めている。習氏は、経済的デメリットを自ら生む「オウンゴール」をもたらしている。習氏の近眼が、招いた損失である。

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