ドイツは、政府と民間で中国に対する姿勢が異なってきた。政府は警戒姿勢であり、民間はビジネス第一姿勢で臨んでいる。ドイツ政府の対中姿勢が変わったのは、メルケル首相時代にロシアへ無警戒で接したが、その信頼はウクライナ侵攻で破られて痛手を負ったことだ。中国が台湾侵攻に踏み切れば、また同じ傷跡を舐めさせられるので、「半身」姿勢で臨むことになった。
ドイツのショルツ首相は22日、中国に対し台湾などに武力を行使しないよう警告したと述べた。中国の李強首相は今週、ドイツを訪問した。ショルツ首相は議会で「われわれは、東シナ海と南シナ海の現状を武力や強制力によって変えようとする一方的な試みを断固として拒否する。これは特に台湾について言えることだ」と発言。「われわれは中国での人権や法の支配の状況についても懸念している」と述べた。『ロイター』が報じた。
企業は、中国へ大きく傾斜している。特に自動車は、中国がメイン市場になっている。それだけに対中投資に積極的である。ただ、対中投資では政府保証を受けているという「臆病さ」も見せている。ドイツ政府は、自らのリスクで対中投資を行えと冷たい姿勢だ。
『ロイター』(6月23日付)は、「独政府、中国向け投資保証55億ドル削減ー独誌」と題する記事を掲載した。
ドイツのハーベック副首相兼経済・気候保護相は就任以降、独企業の中国投資に対する政府保証を約50億ユーロ(54億8000万ドル)削減した。独誌シュピーゲルが22日報じた。
(1)「独政府は中国への投資に関連し、計1億0100万ユーロ分の新たな投資保証申請4件を却下。5億5400万ユーロに相当する延長申請4件を認めず、40億ユーロに上る新規申請を受理しなかった。加えて、申請企業が新疆ウイグル自治区での事業に関わる可能性があるとして、2億8200万ユーロ相当の延長申請を留保した。この結果、2022年の新規承認件数は9件と、13年の37件から減少した。今年の承認件数は5件にとどまっている」
ドイツ政府は、メルケル政権と異なり中国へは厳しい姿勢を見せている。連立を組む緑の党は、中国へ厳しい姿勢で有名で、これを反映している。緑の党は、中国での投資保証はゼロにすべきが持論である。中国での投資禁止まで主張したことがあるほどだ。これに対して、民間は「中国市場との断絶は考えられない」としている。
『フィナンシャル・タイムズ』(5月1日付)は、「中国との関係断絶は『考えられない』 メルセデス社長」と題する記事を掲載した。
中国との関係を断ち切ることは「ドイツのほぼすべての産業にとって考えられない」――。独高級車大手メルセデス・ベンツグループのオラ・ケレニウス社長は見解を明らかにした。
(2)「欧州最大の経済国ドイツは、対中依存度の高まりに懸念を抱いている。しかし、ケレニウス氏は、中国との関係を断ち切ることは不可能であり「望ましくない」と語った。独紙ビルト日曜版の取材に応じた同氏は「世界経済の主要プレーヤーである欧州、米国、中国は非常に密接に関連し合っているため、中国から手を引くことは理にかなわない」と述べた。「対立するのではなく、成長や気候保護の面でウィンウィンの関係を築くことが大事だ」と指摘」
EU(欧州連合)が、デカップリング(分断)から、デリスキング(リスク削減)へ舵を切った裏には、こういう事情があった。
(3)「ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻の経済的な影響が広がるなか、欧州では対中依存度がさらに高まることへの不安が巻き起こっている。ドイツの政財界でも、中国との深い経済的つながりに対する最善のアプローチを巡って議論が熱を帯びる。中国は2022年まで7年連続でドイツの最も重要な貿易相手国となっている。ショルツ首相率いる3党連立政権は21年、連立合意書で中国に批判的な論調を打ち出した。だがその後、独中関係の抜本的な変革を求めることに慎重なショルツ氏と、かねて対中強硬路線を敷く連立パートナーの緑の党との間に深い溝が生じている」
ドイツ経済にとって、中国市場は不可欠の関係にある。対中輸出が、第1位であるだけにデカップリングの影響は計り知れないのだろう。
(4)「一方、ドイツ大手企業の多くを見ると、世界最大かつ最も重要な消費財の輸出先である中国市場に注力する姿勢は揺るいでいない。メルセデスにとって、22年は中国が世界で最も重要な市場となり、総販売台数に占める割合は37%に達した。これに対し、ドイツと他の欧州市場は31%、米国は15%だった。ケレニウス氏は、米中間の緊張の高まりや台湾侵攻リスクが事業にもたらす脅威について、自社の認識は「甘くない」と強調した。「中国との『デカップリング(分断)』などというのは幻想であり、望ましいことではない」と強調する」
ドイツ企業が対中投資を行う場合、ドイツ政府へ投資保証を求めることは甘えている。自己リスクで行うべきだ。そうであれば、誰も反対すべき理由はない。