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メルケル首相時代のドイツは、中国と蜜月関係にあった。貿易を通じて中国改革に寄与するという目的で、ドイツは中国市場で大きな利益を得てきた。そのドイツが、ロシアのウクライナ侵攻で態度を一変させている。中国が、ロシア声援姿勢を強めているからだ。

 

中国が、ロシアの侵攻に声援を送っていることは、欧州の価値観と全く異なる行動である。中国は、ウクライナ侵攻を将来の台湾侵攻と同一視している。将来、台湾へ軍事行動を起す含みでロシアへ声援を送っているのでないか。ドイツは、中国のロシア声援をこのように解釈している。

 

ドイツのショルツ首相の日本訪問には、中国への警戒観が隠されているという評論が登場している。習近平氏によるプーチン氏への友情は、ドイツの信頼、ひいては欧州全体の不信感へと繋がっている。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月7日付)は、「プーチン氏との友情で欧州を失う習氏」という評論を掲載した。

 

ドイツのオラフ・ショルツ首相が、先週の訪日で成し遂げたことは何だったのか。彼の訪日は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻の影響に警戒感を抱く中国政府に対し、警鐘を鳴らすものだった。

 

(1)「経済および戦略面での協力について協議するためのショルツ新首相の訪日は、ドイツ政府内で進行している大きな変化の一つの兆候だった。ショルツ氏が今回訪問しなかった場所が、そのことを示している。北京だ。ショルツ氏の前任者のアンゲラ・メルケル氏は、早期かつ頻繁に北京を訪問した。メルケル氏の最初の北京訪問は首相就任の6カ月後だった。16年間の首相任期中に同氏が中国を訪問した回数は訪日回数の2倍。ショルツ氏が、この傾向に逆らう兆候を示したことは重要だ」

 

メルケル前首相は、意図的に日本を訪問しなかった。対中ビジネスで,日本をライバル視していたからだ。メルケル氏が、共産圏に関心を深めていたのは、自身が東ドイツ(生まれは西ドイツ)育ちという面もあろう。それゆえ、近代化へ向けて手伝いたいという気持ちが強かったに違いない。

 

(2)「これもまた、ウクライナ侵略戦争の余波だ。プーチン氏のウクライナ侵攻がドイツにもたらした衝撃は心の底から痛みを伴うものだった。その経済面の影響には二つの要素がある。古くからの格言である「貿易を通じた変革」は、メルケル氏の首相就任当初からのほとんど唯一の外交戦略だったが、その戦略は突然酷評されるようになった。プーチン氏との間での緊密な経済協力関係の構築は、独裁者である彼の帝国主義的行動の抑制につながらなかった」

 

メルケル氏の目指した「貿易を通じた変革」は、結果的には徒労であった。ロシアや中国は、ひたすら専制主義を肥大化させた。ドイツは、それを手助けしたにすぎなかったのである。ロシアのウクライナ侵攻は、こういうドイツ外交政策に根本的な見直しを求めている。

 

(3)「こうした状況下では、すぐさまドイツと中国の関係が連想される。中国は、ドイツが貿易を通じて変革をもたらそうとしてきたもう一つの国だ。中国政府の対応は、負の印象を強める一因となってきた。習近平国家主席が2月上旬に、プーチン氏との友情に「限界はない」と断言したことの影響が特に大きい。欧州の人々は、習氏がウクライナ危機で仲介役を務めたがらないこと、務められないことに不満を募らせている」

 

ドイツ新政権は元々、中国に対して警戒姿勢を強めていた。連立政権を組む「緑の党」は、中国批判で選挙運動を戦った。その党首が、外相に就任している経緯から見て、中国批判の伏線は十分。今回のウクライナ戦争によって、反中国路線がブラッシュアップされたとも言える。

 


(4)「ウクライナへの横暴な侵攻はまた、台湾への横暴な侵攻に対する懸念をも生じさせた。欧州はこれまで、こうした見方を軽視していた。加えて、経済を破滅させる習氏のゼロコロナ政策は、海外投資家がビジネスに投資する魅力を低減させている。政府のばかげた政策ミスで、今年の中国の経済成長率は、目標を大幅に下回るとみられる。その結果、ドイツでは新たに中国に対する懐疑的な見方が生まれており、それはいま3方向に広がりつつある」

 

習氏のゼロコロナ政策は、「科学の国」ドイツから見ればとんでもないことを行なっているという違和感を生んで当然だ。中国は、未だにドイツ生まれの「mRNAワクチン」(米国ではモデルナ)を承認しない国である。

 


(5)「産業界は懸念を強めている。これは正確に言うと、今に始まったことではなく、歴代の最高指導者らが目指した「改革開放」の道を歩み続けない方針を習氏が示したことで、近年明確になってきた。しかし、最近のドイツ企業では中国事業の見直しを求める声がより強くなっている。ミュンヘンのシンクタンク、IFO経済研究所が2月に実施した調査によると、ドイツの製造業者の45%、小売業者の55%は中国からの輸入を減らす計画だと答えた。在中国の欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は最近のインタビューで、ウクライナと台湾の潜在的な類似点について産業界が懸念していることに触れ、「外国企業は停止ボタンを押している」と話した。この発言はとりわけ、同氏の母国であるドイツで波紋を呼んだ」

 

ドイツ産業界は、中国事業の見直しを求める声が強くなっている。ウクライナと台湾の潜在的な類似性に懸念を深めているのだ。台湾には世界一の半導体企業がある。ドイツで合弁による事業を始めるだけに、台湾の持つ重要性を再認識していることは疑いない。

 


(6)「政治家や政策立案者の間でも、中国との関係の見直しは進んでいる。ドイツ連邦議会は先週、ショルツ氏にウクライナへの重火器の引き渡しを急ぐよう求める決議案を通過させた。驚いたことに、同決議には中国に関する段落が一つ設けられた。議員らはその中で、中国が西側の対ロ制裁を妨害したり、ロシアに武器を供給したりした場合は、中国に制裁を科すことを辞さない姿勢を示すようショルツ氏に求めた。この決議に法的拘束力はないが、ショルツ氏はこれを負託と解釈すると述べている」

 

ドイツは、100%のウクライナ支援に舵を切った。当初は、他人事のような姿勢で中立姿勢を取り、大きな批判を浴びたからだ。ロシアとの縁に縛られたが、今や吹っ切れている。

 

(7)「ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は3月、外交政策レビューを発表した。同外相は演説の中で、名指しこそしなかったものの目立つ形で中国に言及した。同外相は、「欧州の高速道路、一般道、送電網、港湾に何十億ユーロもの投資を行っている権威主義的諸国もまた存在し得るという、21世紀の脆弱(ぜいじゃく)性に欧州は気付かなければならない」とし、遠回しとはほとんど言い難い表現で中国を狙い撃ちした。

 

ベアボック外相は、「反中」である緑の党代表である。言外で、厳しい中国批判を展開しているのは当然であろう。