カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評
ドイツ、「迷える国」経済活力奪う“債務ブレーキ”、時代遅れと批判されるも「決断つかず」
(2)「財政保守派の野党キリスト教民主同盟(CDU)の党首で、2月の連邦選挙後には次期首相に就任する確率が最も高いとされるメルツ氏は、債務ブレーキを「維持する」ことを約束してきた。CDUは公約で「今日の負債は明日の増税だ」と主張している。この財政ルールが制定されたのは2009年。世界金融危機で経営が悪化した国内金融サービス業界をドイツ政府が救済した後、財政赤字が膨らんだことが背景にある。以来、アナリストや政治家はこのルールを硬直的すぎると批判してきた」
(4)「メルツ氏率いる次期政権が、抜本的な方向転換をするかどうかについては意見が分かれる。米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)の欧州担当エコノミスト、イブリン・ヘルマン氏は、「私も市場関係者と同じくドイツの財政政策の転換を望んでいるが、それを経済の基本シナリオと想定することはやはりためらう」と本紙(フィナンシャル・タイムズ)に語った。大半の関係者が予想しているのは、債務上限の撤廃ではなく部分的な緩和だ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)や経済諮問委員会のように保守的な財政政策を重視する機関は、長い間、財政赤字の増加を抑制できる債務上限の段階的な引き上げを主張してきた」
(6)「メルツ氏率いる次期連立政権が、財政赤字措置を提案しても、連邦議会で十分な支持を取りつけることはやはり困難かもしれない。どの選択肢を取るにせよ、改革には議員の3分の2という圧倒的多数の賛成が必要であり、この要件を回避する合法的な抜け道は極めて狭い。ショルツ政権が23年に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で設立した緊急基金を気候変動対策に転用しようとした際、ドイツ憲法裁判所は違憲判決を下した。この判決が最終的に24年秋の連立政権の崩壊につながった」
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ドイツのショルツ連立政権が分裂した。2025年度予算案を巡り、経済対策か財政規律かで議論が折り合わず、連立与党を構成する自由民主党(FDP)が離脱する事態に発展した。FDPは、財政規律を主張している。
ドイツは、昨年に引き続き今年もマイナス成長が確実になった。この危機を脱するには、25年の景気刺激策として、積極的な財政政策が焦点になっている。だが、リントナー財務相が率いるFDPは、25年度も財政規律優先の立場で「長期的な成長は債務によって手に入るものではない」と力説する。景気刺激のための財政出動が正当化される半面、安易な支出は将来の増税につながりかねない、という正論を主張して止まない。こうした意見の対立が、連立離脱となった。
『日本経済新聞 電子版』(11月7日付)は、「ドイツ連立政権が瓦解、景気不安が導火線 早期総選挙へ」と題する記事を掲載した。
ドイツのショルツ連立政権が分裂した。2025年度予算案を巡り経済対策か財政規律かで議論が折り合わず、連立与党の一部が離脱する事態に発展した。景気不安が政局に飛び火した形で、25年9月に予定する総選挙は3月に前倒しされる可能性が出てきた。
(1)「ショルツ政権は、ショルツ氏自身が属する中道左派のドイツ社会民主党(SPD)、リントナー氏が率いてきた自由民主党(FDP)、環境政党「緑の党」で連立を組む。リントナー氏の電撃解任を受け、FDPは政権から離脱する。独メディアによると、法相など財務相以外でFDPが握る閣僚ポストも一斉に退く。このうちウィッシング運輸相はFDPを離党して政権にとどまる見込み。リントナー氏の後任にはショルツ氏の側近で、米ゴールドマン・サックス出身のクーキース顧問が就く方向だ」
ショルツ氏は、閣内不統一でリントナー氏を解任した。これで、25年9月に予定する総選挙は3月に前倒しされる。G7は、どこでも政治不安を抱えることになった。ドイツは、ロシアのウクライナ侵攻がもたらした経済不安が原因である。
(2)「連立政権の枠組み崩壊を受け、総選挙が早まる可能性が出てきた。ショルツ氏は25年1月に独連邦議会(下院)で信任投票を実施する考えを示した。不信任となれば、大統領による解散を経て選挙となる。この場合、総選挙は25年9月ではなく「3月末まで」(ショルツ氏)に実施される見込みだ。シュタインマイヤー大統領は7日の声明で「決定を下す用意がある」と態度を明らかにした。国政最大野党で中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)は1月の信任投票に否定的だ。メルツ党首は「行動力のあるドイツ政府が必要だ」として、ただちに信任投票を実施するよう呼びかけた」
これまでもショルツ政権の足並みはそろわないことがあった。例えば、23年4月に完遂した「脱原発」では産業界に近いFDPから一時的な稼働延長を求める声が上がった。暖房システムなどの環境規制でも、脱炭素に積極的な緑の党と現実路線のFDPで意見は対立した。今回の分裂が深刻なのは、総選挙をにらんだ動きとなるためだ。25年9月に予定する独連邦議会(下院)選挙まで1年を切っても、政権支持率の低迷に歯止めが利かないことだ。
(3)「連立政権内の亀裂を決定的にしたのは、25年度予算案を巡る議論の紛糾だった。財政規律を重視するリントナー氏に対し、ショルツ氏は一時的な財政拡張を求めた。ドイツ経済は24年も2年連続のマイナス成長に陥る可能性が高い。2年連続は長引く景気低迷から「欧州の病人」と呼ばれた02〜03年以来だ。財政出動で景気浮揚を図りたいショルツ氏に、リントナー氏は「成長の根本的な弱点を克服していない」と最後まで応じなかった」
総選挙になれば、ショルツ与党は敗北が濃厚だ。公共放送ARDの世論調査によると、政党別の支持率では野党のCDUが34%と首位を走る。第2党は極右ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で17%と、与党のSPD(16%)や緑の党(11%)を上回る。特に、AfDの支持者は選挙の実施に前向きで、勢いづく可能性が高い。同党のワイデル党首は「ただちに信任投票を実施すべきだ」と早くも選挙モードだ。景気不安からショルツ政権の支持率は低迷しており、今回の混乱で批判票が極右政党に一段と流れる恐れもある。ドイツ政治は、不安定さを増すリスクを抱えている。
(4)「ドイツの財政健全度は高い。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会によると、国内総生産(GDP)に対する政府債務残高の比率は25年に62%と、ユーロ圏平均の90%を大幅に下回る見込みだ。欧州主要国ではフランスが114%、イタリアが142%で推移する。今回の予算騒動は新型コロナウイルス禍も遠因だ。当時のコロナ対策で余った予算の環境対策などへの転用が違憲となり、23年に財政支出の全面凍結を迫られた。違憲判決で穴が空いた金額は600億ユーロ(約9.9兆円)。財政規律を堅持したまま、25年度予算案でも財源確保が難航する」
ドイツは、財政規律度が極めて高い国だ。「お堅いドイツ」というイメージそのもので、GDPに占める政府債務残高の比率は25年で62%である。この「財政健全主義」が、思わぬデメリットをもたらし、生活苦が極右勢力を増殖させている。AfDがそれだ。