勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    a1320_000159_m
       

    世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)は、中国の南京工場閉鎖を検討している。23年の販売台数はピーク時の6割まで低下している。中国は、EV(電気自動車)が主流であり、ガソリン車はすでに傍流へ転落した。VWにとっては、EVが不振であるだけに、南京工場が閉鎖になれば中国での足場の一つを失う。

     

    『東洋経済オンライン』(10月11日付)は、「中国市場で苦戦の独VW、『南京工場』の閉鎖を検討」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』記事を転載したものである。

     

    ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)と中国の国有自動車大手、上海汽車集団(上汽集団)の合弁会社である上汽VWが、江蘇省南京市の工場の閉鎖を検討していることがわかった。上汽VWは、財新記者の取材に対してその事実を認めた。

     

    (1)「南京工場は、VWブランドの上級セダン「パサート」の主力生産拠点だ。上汽VWはニューモデル「パサート・プロ」を9月10日に発売したばかりで、現時点の南京工場はフル操業に近い。その一方、上汽VWの工場は建設から年数を経たものが多く、クルマの電動化やスマート化に対応するために生産体制の見直しを迫られている」

     

    中国は、EVが主流になってきたので、ここから外れる車種は生産の見直しにはいる。

     

    (2)「17年前の2007年末、上汽集団は国有自動車メーカーの南京汽車集団を吸収合併するとともに、現在の南京工場の運営を引き継いだ。上汽VWの説明によれば、南京工場は建設時期が古く、都市開発による南京市の市街地拡大とともに、自動車工場の立地としては最適でなくなりつつあった。また、同社は江蘇省儀征市にも工場を持ち、南京工場とは約80キロメートルしか離れていない。そのため経済合理性の観点から、江蘇省内の製造拠点の再配置を検討しているという。南京工場の閉鎖はまだ確定しておらず、(地元政府や取引先などの)関係者とのさらなる調整が必要だ。仮に閉鎖が決まった場合、上汽VWはパサートの生産を別の工場に移管しなければならない」

     

    南京工場は建設時期が古く、都市開発による南京市の市街地拡大とともに、自動車工場の立地としては最適でなくなりつつあるという。生産再編の一環という意味もある。

     

    (3)「上汽VWは、江蘇省の2工場のほか、上海市に3つ、浙江省寧波市、湖南省長沙市、新疆ウイグル自治区ウルムチ市にそれぞれ1つの合計8工場を運営している。このうち上海市の工場では、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)の生産に対応した建て替えや設備改修を進めている」

     

    上汽VWは、中国に8工場を運営している。南京工場が閉鎖になっても生産体制に響くことはない。ただ、イメージダウンは避けられない。

     

    (4)「中国市場における乗用車のメーカー別の販売台数ランキングで、上汽VWは長年にわたってトップスリーの一角に君臨。2016年から2019年にかけての全盛期には、年間販売台数が4年連続で200万台を超えていた。ところが、2020年代に入って中国市場のEVシフトが本格化すると、上汽VWの販売は苦戦を強いられるようになった。2023年の販売台数は121万5000台とピークの約6割にとどまり、2024年に入ってからも販売減少に歯止めがかかっていない。さらに電動化とスマート化への対応も急がれる中、業界関係者の間では上汽VWが(エンジン車の工場閉鎖による)生産能力削減に踏み切るのは時間の問題と見られていた

     

    上汽VWの販売は、すでにピークを過ぎている。エンジン車の工場閉鎖によって生産能力削減に好都合という面もありそうだ。

     

    世界最大級の自動車市場である中国で、VWが過剰生産能力の制御に苦戦している状況がうかがえる。

     

    VWは、上海汽車集団(SAIC)とともに南京工場での「パサット」の生産を江蘇省内の別の工場に徐々に移行する方針とされる。生産を移行する具体的な時期は決まっておらず、工場を完全に閉鎖するのか、それとも売却するのかといったことも未定だと付け加えた。南京工場の一部労働者は、VWとSAICの儀徴市の工場への異動を提示された。同工場では現在、セダン「ラヴィダ」が生産されている。VWとSAICはまた、「シュコダ」の販売を再開する計画も検討している。シュコダは2018年には合弁事業全体の販売で17%を占めていたが、現在のシェアは1%にとどまっている。『ロイター』(9月19日付)が報じた。

     

    a0960_005041_m
       

    ドイツ経済が、再び「欧州の病人」呼ばわりされる事態を迎えている。主因は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰と、中国経済の不振の影響をフルに受けている。個人消費が不振でもあり、「構造不況」のリスクを抱えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「ドイツ『2年連続でマイナス成長へ』欧州の病人、再び」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ政府は9日公表した秋の経済見通しで、2024年の実質成長率をマイナス0.2%と4月時点のプラス0.%から下方修正した。マイナス成長は2年連続になる。個人消費の戻りが鈍く、設備投資や生産も冷え込む。ロシアの安価なエネルギーと中国市場の拡大に頼った成長が限界を迎え、構造的な経済不振の様相が強まってきた。

     

    (1)「2年連続のマイナス成長に陥れば、02〜03年以来である。1990年に東西ドイツが統一してからは2度目になる。当時は2000年代にかけて景気低迷が長引き「欧州の病人」と呼ばれた時期にあたる。構造改革の遅れから統一に伴う好景気が一過性に終わり、次第に失業率が高まっていった。今回の景気下振れの主な要因は個人消費の不発だ。ウクライナ危機後の急激なインフレが落ち着き、賃上げに伴って景気持ち直しをけん引するとみられていた。24年はほぼ横ばいで伸び悩む見通しだ。新型コロナウイルス禍前の購買力を取り戻すのは25年となる恐れがある」

     

    ドイツの対GDP比の名目個人消費は、51.05%(2022年)で日本の55.46%(同)を下回っている。ドイツ社会は節約ムードが強く、日本人がみても驚くほどの節約ぶりである。不況下では一層、「節約魂」が発揮されているに違いない。

     

    (2)「ドイツ経済の屋台骨である製造業の不振も長引く。企業の景況感を示す製造業の購買担当者景気指数(PMI)は9月に40.6と1年ぶりの低水準となった。生産や新規受注がそろって落ち込み、人員削減の動きも出ている。設備投資を控える企業も多く、24年の成長率見通しを押し下げた。問題は、景気回復が遅れ続ける構造不況に陥るリスクだ。ウクライナ侵略によりロシアからの安価なガスの調達が途絶えた。主な貿易相手国である中国も内需が振るわず、11月の米大統領選では共和党のトランプ前大統領が輸入関税の強化に言及する。ドイツの輸出先である米中で火種を抱える」

     

    ドイツは、これまでロシアへ依存しすぎた。ドイツは、帝政ロシア時代から深い繋がりがあり「親類付き合い」をしてきた仲である。こういう深い縁は、簡単に薄められないのであろう。ドイツは、中国へも経済的にシフトしすぎている。かつての「東独」を抱えているから、共産主義への親近感が強いのだ。これが今、ドイツ経済に大きなブレーキとなっている。

     

    (3)「独Ifo経済研究所など主要シンクタンクは、「中国からの高品質な工業製品に押されて、競争力が低下している」と警鐘を鳴らす。独産業界は海外投資を優先させるなど産業空洞化への懸念も高まっており、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は製造コストが割高なドイツ国内工場の閉鎖を検討中だ。先行きを巡って、ドイツ政府は強気な見方を堅持した。25年の成長率は1.%、26年は1.%と1%台まで回復する想定を置いた。賃上げの継続による個人消費の持ち直しや欧州中央銀行(ECB)の利下げを追い風に、景気が底入れに向かうと期待する

     

    来年は、プラス成長が期待されている。ECBの利下げ効果の波及によって一応、住宅建設復活もありプラス成長が期待されている。

     

    (4)「ただ、景気回復が軌道に乗るかは不透明だ。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会も個人消費の回復を見込んできたが、景気不安が強まるなか実際にお金が回るかは見通せない。レジャー需要の持ち直しで恩恵を受けるのは旅行先として人気が高い南欧などに偏りがちだ。長引く景気不安はショルツ政権への批判に直結する。9月に旧東ドイツ地域であった州議会選挙では、移民流入と並んで景気低迷への不満から極右政党に票が流れた。景気対策を打とうにも連立政権の内部で足並みがそろわず、景気浮揚の道筋を描けないでいる」

     

    25年景気の問題点は、個人消費の回復がどこまで進むかである。財政赤字は、対GDP比で3%枠がはめられているので、財政出動にも限界がある。

    (5)「ドイツは、欧州最大の経済大国でユーロ圏20カ国の域内総生産(GDP)のおよそ3割を占める。ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッツシャー所長は、「独政府が示した25年の成長率は経済調査機関の見通しと比べて0.3ポイント高い」と指摘。「不確実性はなお大きく、投資と消費の回復が遅れる可能性が高い」として下方修正が入るリスクに言及した」

     

    ドイツ経済研究所は、25年もマイナス成長の危険性を指摘している。投資と消費の回復遅れが原因である。

     

     

     

    a0001_000268_m
       


    VW(フォルクスワーゲン)は9月2日、ドイツでの工場閉鎖を検討していると公表した。乗用車のほか商用車、車部品など独国内の工場約10カ所を対象に、1カ所以上を閉鎖する可能性があるとしている。VWが本拠地で工場閉鎖に踏み切れば、1937年の同社設立以来で初めてとなる。

     

    自動車は、ドイツの基幹産業である。そのドイツ自動車業界を代表するVWが、複数の工場閉鎖を検討していると発表した。VWは、トヨタ自動車に次いで世界2位の座にあるが、EV(電気自動車)需要の見通しを誤り、先行投資負担が大きく工場閉鎖の危機に追込まれた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月20日付)は、「ドイツ工場閉鎖検討のVW、独経済相『支援考えている』」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ国内工場の閉鎖を検討している自動車大手フォルクスワーゲン(VW)を巡り、ハベック独経済・気候相は19日、記者団に対して「連邦政府と州はどのようにしてVWを支援できるか考えている」と語った。

     

    (1)「独政府は2023年12月に電気自動車(EV)の購入補助金を打ち切り、販売不振に拍車をかけたとみられていた。ハベック氏は購入補助については明言を避けながらも「EVを強化するための手段が確かに政治的課題だ」と述べた。VWが検討している独国内工場の閉鎖については、「その会社とそこでの雇用がドイツにとって非常に重要だ」と強調した。需要の落ち込みを背景に同工場はすでに減産しており、夜勤の停止など従業員の労働時間を短縮している」

     

    ハベック独経済・気候相は、EV補助金打ち切りがVWの経営に打撃を与えたことから、EV補助金復活を示唆する発言を行った、

     

    (2)「独最大の産業別労働組合IGメタルは予定を1カ月前倒し、9月25日からVWとの労使交渉を始める。工場閉鎖と人員削減、従業員への補償などについて議論する予定だ。独経済紙マネジャーマガジンによると、VWは中期的に最大3万人を削減する可能性があるという。VWとIGメタルは否定している」

     

    IGメタルは、「経営陣は、従業員に対する責任を果たしていない」とし、労使交渉で工場閉鎖と人員削減について反対の立場をとる考えを改めて示した。リストラ計画の撤回に加え、7%の賃上げも要求すると強い姿勢をみせている。

     

    工場閉鎖には、2の壁が指摘されている。強力な労組のIGメタルの壁とドイツ政界の壁 とされている。2025年秋にドイツ連邦議会(下院)選挙が行われるのだ。その選挙直前に生産拠点の大幅削減と大量解雇ができるのかという問題である。与党・ドイツ社民党の支持基盤は、IGメタルを含む労組である。会社側の要求だけを貫くというのは難しいという理由の背景である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月11日付)は、「VW、最大労組との協約破棄 工場閉鎖・大量解雇に道筋」と題する記事を掲載した。

     

    独フォルクスワーゲン(VW)は9月10日、本国で検討する工場閉鎖に関し、雇用保障を含めた労働組合との労働協約を破棄すると明らかにした。同国最大の産業別労組IGメタルに通知した。工場閉鎖に伴う大規模な人員削減の現実味が増してきた。IGメタルや同社労組は解雇に伴う補償など条件闘争を本格化させる。

     

    (3)「VWは、2029年までの雇用保障を含めた複数の協約を労組と結んでいる。現行の協約を打ち切ることで、工場閉鎖時に人員削減が可能になる。会社側は、数千人規模の削減を検討しているとされる。雇用保障の協約は今年末まで有効で、期限を迎えると会社は2025年7月から強制的な人員削減が可能になる。労組側は、新たな協約締結に向けた交渉を9月中に始めることを求めている」

     

    VWは、すでに2029年までの労組と結んだ雇用保障を含めた複数の協約を破棄した。工場閉鎖に備えた準備である。会社側が、不退転の決意で臨んでいることわかる。

     

    (4)「ドイツでは、会社が決めた工場閉鎖方針に対し、閉鎖撤回を求めるストライキはできないが、閉鎖時の従業員への補償などに関するストは合法とされている。ストもちらつかせる労組陣営と、会社側の条件交渉は今後本格化する。すでに同労組は、VWの工場閉鎖の代替策として、週4日勤務の導入を要請することを示唆する。さらにVWでは従業員代表が監査役会に、メンバーとして参加するなど労組の経営への影響力が強い。交渉は一筋縄ではいかない見通しだ」

     

    労組は、工場閉鎖撤回求めるストはできないが、従業員補償を求めるストは合法化されている。労組は、解雇を巡る条件闘争が可能だ。労組は工場閉鎖の代替策として、週4日勤務の導入を要請することを示唆している。解雇者を出さない提案である。政府は、この提案を支援すべくEV補助金の復活をするのだろうか。ドイツにおける自動車産業は、基幹産業だけに、難しい対応が求められている。

     

    ドイツ自動車業界に比べれば、日本の自動車産業は微動だにしない堅塁を誇っている。業界の協調がうまく進んでいるからだ。日本の自動車7社は、EVを核にトヨタグループと日産・ホンダ・三菱自の2グループに分かれた感じだ。

    a0960_005041_m
       

    ドイツのVW(フォルクスワーゲン)が、初めての人員整理を検討している。トヨタ自動車に次いで世界2位のVWが、苦境に立たされているのだ。中国での販売も低下しており内憂外患に直面している。トヨタは、EV(電気自動車)の先行投資負担がないほか、EV代替のHV(ハイブリッド車)の売行き好調である。トヨタとVWの差は、さらに広がる。 

    『フィナンシャルタイムズ』(9月3日付)は、「VW、ドイツでの工場閉鎖と人員削減を検討」と題する記事を掲載した。 

    ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は、創業87年の歴史で初となるドイツでの工場閉鎖を検討している。オリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は欧州の自動車産業は「非常に深刻な状況にある」と指摘した。同社は2023年にコスト削減に着手したが、これまでの削減額は数十億ユーロにとどまる。従業員を代表する労働評議会との合意により、従業員の早期退職や自主退職プログラムでしか人員を削減できないことが足かせとなっている。

     

    (1)「ブルーメ氏は、「経済環境はさらに厳しさを増しており、新たなライバルが欧州市場に参入している。こうした環境で、企業として断固とした行動をとらなくてはならない」と語った。同社は29年まではドイツで人員削減に踏み切らないとの約束を撤回する方針を示した。労働評議会から反発が出る可能性がある。欧州での電気自動車(EV)の需要が予想を下回り、VWなど欧州の自動車メーカーは打撃を受けている。VWはドル箱市場だった中国でのシェア低下にも苦しんでいる」 

    VWは、国内でのEV販売不振と中国市場不振が重なって苦境に立たされている。世界2位の誇りを捨てて、抜本的対策を打つほかなくなった。トヨタとは大きな違いである。 

    (2)「同社の主力ブランドであるVWは23年6月、26年までに100億ユーロ(約1兆6200億円)のコストを削減し、営業利益率6.%を達成する目標を打ち出した。24年6月末時点の営業利益率は2.%にとどまる。同社は2日、「(退職者を補充しないという)人口動態の変化だけに基づくリストラでは、短期的な競争力向上のために急務である構造調整を達成するには不十分だった」と語った」 

    24年6月末時点の営業利益率は2.%に落込んでいる。自動車メーカーのレッドラインは5%である。これを割込むと研究開発も滞る事態になる。トヨタは、7%台を維持している。

     

    (3)「同社のドイツ国内での雇用者数は約30万人と、世界全体の半数弱に上る。同社の株式20%を保有するニーダーザクセン州にとって雇用の維持は最優先事項であり、同州はVWの監査役会で半数の議席を持つ労働評議会の側につくことが多い。ニーダーザクセン州のシュテファン・バイル首相は2日、「VWが行動を起こす必要があるのは明らかだ」と述べた一方、工場閉鎖は選択肢の一つに過ぎないとも語った。同氏は「(工場閉鎖が)起こらないことを期待している」と強調し、同州は「この点に特に注目している」と述べた」 

    地元のニーダーザクセン州は、雇用確保から工場閉鎖が起こるか注目している。 

    (4)「VW労働評議会のダニエラ・カバロ議長は2日、従業員宛ての文書で、VWの主力ブランドは赤字に転落する恐れがあり、経営陣はドイツの工場閉鎖を検討していると注意を促した。ドイツの規定では、労働評議会は監査役会で労働者の利益を代表する。カバロ氏は「このため、経営陣はドイツの工場、社内の賃金協定、29年末までの雇用保障協定を問題視している」と述べた。カバロ氏はVWのヘルベルト・ディース前CEOと対立し、22年に同氏を退任に追い込んでいる。VWは「極めて緊迫した」財務状況により「自動車生産工場や部品工場の閉鎖ももはや排除できない」と認めた。従業員代表と交渉に入ることも明らかにした」 

    VWの主力ブランドが、赤字に転落する恐れが出てきた。これは、一大事である。財務状況が緊迫しているという。

     

    (5)カバロ氏は、経営陣の計画は激しい抵抗に遭うだろうと示唆した。「私がついている限り、VWの工場閉鎖はない」と従業員に断言した。欧州最大の自動車メーカーでリストラを巡って対立がくすぶっているのは、国内市場と中国の双方で需要低迷に直面し、新たなライバルが欧州市場に参入しているためだ。比亜迪(BYD)など中国のEVメーカーは欧州に参入する計画を相次いで打ち出しており、VWなどの既存ブランドは低価格EVの開発にしのぎを削っている」 

    中国のBYDが、欧州へ工場進出する。VWは、EVで全面対決の局面になる。これを迎え撃つためにも経営をスリムにするほかなくなった。 

    (6)「アナリストはかねてVWに対し、EVシフトに多額の投資が必要ななかでコスト削減を果たすために、人員削減に踏み切るよう求めてきた。独立系自動車アナリストのマティアス・シュミット氏は、「VWの文化に大きな変化が起きている」と指摘する。「労組は現実を突きつけられており、今回はリストラに協力的になるだろう」との見方を示した。カバロ氏は工場閉鎖に反対する姿勢をみせたが、米スタイフェル・ファイナンシャルの自動車アナリスト、ダニエル・シュワルツ氏はカバロ氏の語調の変化を指摘した。カバロ氏はVWブランドが直面している問題の大きさを認識しており、ブルーメ氏への直接の批判を避けたという。シュワルツ氏は「労組のこうした反応は非常に心強い」とも述べた」 

    労組は、事態の深刻さを理解している模様である。最終的には、工場閉鎖を受入れるのであろう。トヨタの世界独走態勢がさらに強化される。

    a0005_000022_m
       

    中国鉄鋼業界は、不安定な時代に突入しつつある。危機に陥っている国内不動産業界からの需要は期待できず、建設に軸足を置いた政府主導の成長モデルも、財政的にますます維持できなくなっているからだ。河北敬業集団の創業者で会長の李赶坡氏は、6月の民間企業会合で、5年間にわたり続く低迷によって中国製鉄所の3分の1近くが破綻すると警告している。 

    中国鉄鋼業は、過剰在庫処分で海外市場へ殺到している。これによって各国の鉄鋼価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込んでいる。失業者が増加しているのだ。中国に端を発する鉄鋼不況が、世界鉄鋼市場を破綻させる危険性を高めている。 

    『ブルームバーグ』(8月19日付)は、「中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす 業界全体が窮地に陥る恐れ」と題する記事を掲載した。 

    中国は年10億トン余り、つまり、世界の生産量の半分以上を生産している。今、その中国が揺らいでいる。中国が鉄鋼のスーパーパワーになる過程で世界の鉄鋼業界に衝撃を与えたように、そのピークからの退潮もまた、それに劣らない激動を招く可能性を秘めている。中国国内の建設不況が意味しているのは、鉄鋼が多過ぎ、需要が少な過ぎるということだ。各国は中国で余った鉄鋼が自国市場に流れ込み、価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込み、労働者を失業させるのではと懸念。そうなれば、世界が今直面している経済的課題が一段と悪化することになる。

     

    (1)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、不動産頼みの経済成長から脱却しようとしているが、これは鉄鋼業界にとって重大な意味を持つ。習氏は今後数十年かけハイテク製造業とグリーンテクノロジーを中国経済の原動力にしたいと考えている。そうした中で、不動産危機によって、鉄鋼需要が急拡大していた長い時代は終わりを告げた。だが、経済と雇用を支えようとする習指導部が、需要縮小をどのように管理できるかを巡っては大きな疑問が残る。ユィ氏は「価格急落に伴い利益率も小さくなっている。中国の鉄鋼需要は先細り」と述べた」 

    習氏は「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の輸出に力を入れているが、鉄鋼の過剰生産問題では、これまで手を打たずにきた。 

    (2)「中国宝武鋼鉄集団の胡望明会長は最近、この課題の深刻さを明確に示した。胡氏は毎年1億3000万トンの鉄鋼を生産する高炉帝国を統括している。この生産量は米国とドイツ、フランスを合わせても及ばない。警告を発したのは胡氏が初めてではないにせよ、中国の鉄鋼セクターが「厳しい冬」に直面していると述べた同氏の言葉には、中国国内だけでなく世界全体が重みを感じた。山西建邦集団も最近、危機感を強調。ソーシャルメディアの微信(ウィーチャット)への投稿によると、鉄鋼業界が現在の苦境から抜け出すためには企業の3割余りが淘汰(とうた)される必要があるとの見方を張鋭ゼネラルマネージャーが15日に示した」 

    中国鉄鋼業界の3割は、淘汰される運命になってきた。

     

    (3)「コンサルティング会社、上海スチールホームEコマースを創業し、業界に40年携わってきたウー・ウェンチャン氏は「中国の鉄鋼需要はすでに天井を打ち、次は着実に減少していくはずだ」と分析。「製鉄会社間の合併や再編を政府が強力に後押ししない限り、鉄鋼が今後2、3年でこのサイクルから抜け出すのは非常に難しいだろう」と予想した。不動産不況に加え、インフラ財政支出にも陰りが見え始め、製鉄所は右肩下がりの価格下落に苦しんでいる」 

    中国鉄鋼業界は、3年間で再編整理しなければ苦境脱出が困難になるとの見方が出ている。 

    (4)「チリ政府は今年、中国からの輸入品に科す新たな関税を急ぎ導入し、製鉄会社CAPの高炉閉鎖をいったんは阻止した。閉鎖の決定を撤回した同社だったが、さらに大きな四半期損失を出すと閉鎖計画を復活させた。その結果、労組リーダーの一人としてメディナ氏(72)は従業員2500人の退職金交渉に追われることになった。また、2万人以上が何らかの関連事業に依存している地元経済にとっても大きな打撃だ」 

    チリは、鉄鋼所閉鎖によって2500人が退職せざるを得なくなっている。中国の安値輸出の影響だ。

     

    (5)「鉄鋼需要がすでに低迷している欧州では、ドイツのザルツギッターが1-6月(上期)の赤字を報告した際、過剰生産能力と中国の輸出をその理由に挙げた。独経済省はブルームバーグに対し、状況を注視しているとし、「厳しい国際競争」に触れた。欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルも同じような批判を展開している。ドイツ鉄鋼協会のマネジングディレクター、マーティン・テューリンガー氏は、「われわれの懸念が現実になりつつあることを中国からの警告が示している。過剰生産能力は、この業界の収益性と持続可能性を危うくしている」と述べた」 

    ドイツ鉄鋼業へも波及している。独経済省や欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルは、中国批判に転じている。 

    (6)「欧米と中国の間にある現在の貿易摩擦の多くは、21世紀のテクノロジーに集中している。だが、特に米国のラストベルト(さびた工業地帯)や英国の北部イングランドなど歴史ある企業やその周辺に築かれた地域社会に関して言えば、鉄鋼は感情に訴える力を保持している。加えて、国防部門が鉄鋼を必要としていることを踏まえると、鉄鋼は国家安全保障上の問題でもある」 

    鉄鋼業は歴史的産業であり、国家安全保障上の要である。中国の安値輸出が、この「聖域」を冒せば反発を受けるのは当然である。

     

    このページのトップヘ