勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    中国は、レアアースなどの重要資源を「戦略物資」として管理している。中国は世界最大のレアアース生産国だ。輸出規制や価格統制を通じて、他国の産業構造に影響を与える力を外交・経済の交渉カードとして活用している。ドイツは、これまで中国との経済関係を強めることで大きな利益を得てきたが、今やこの危険性に目覚めたようだ。

     

    『レコードチャイナ』(10月25日付)は、「対中依存がわれわれの繁栄をむしばんでいる―独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ中国語版サイト』(10月23日付け)は、中国への依存が自国の繁栄を脅かしているとするドイツメディアの評論を紹介した。

     

    (1)「記事は、『ディ・ヴェルト』と『ケルン・シュタットアンツァイガー』のドイツ紙2紙による、対中依存リスクに関する評論記事を紹介している。『ディ・ヴェルト』は、ドイツ経済が中国の原材料やサプライチェーンに高度に依存している状況を「極めて危険」と論じ、中国がこの依存関係を地政学的な圧力の武器として無遠慮に利用していると強く警告した」

     

    ドイツはメルケル首相時代の16年間、中国との関係をどっぷりと深めた。中国政府の補助金に釣られて、ドイツ企業は大挙して中国へ進出した。地政学的リスクは、全く考慮していなかった。この関係は、ロシア経済についても全く同様であった。

     

    (2)「中国が、医薬品や半導体レアアースといった多くの重要分野で独占的な地位を確立しており、いつでも「致命的な攻撃」を仕掛ける準備ができていると指摘。最近の例として、中国企業傘下でオランダに本社がある安世半導体(Nexperia)製の特種半導体チップについて、中国政府が輸出規制を発動したことで、フォルクスワーゲンが短時間労働の計画を立てるなどドイツの自動車生産ラインが生産停止の危機にある現状を挙げた。チップの生産はほぼオランダで行われているものの、最終工程のパッケージング(封止)を中国国内で行う必要があるため、中国政府の規制によって輸出が滞ってしまうのだという」

     

    Nexperia半導体は、自動車など特殊分野で使われている。日本でもトヨタ自動車が被害を受けている。

     

    (3)「『ディ・ヴェルト』はその上で、現在ドイツの自動車メーカーが直面する窮状について、長年にわたり対中依存の危険性に関する警告を無視し続けた企業幹部たちによる「自業自得」の結果であると厳しく批判。中国への一方的な依存を大幅に減らすことが喫緊の課題であり、重要製品の大規模な備蓄と、代替的な貿易関係の確立が急務だとし、そのためには困難があろうとも米国とのパートナーシップを継続することが不可欠な選択肢だと評している」

     

    ドイツは、嫌いな米国企業とのパートナーシップ強化を迫られている。西側諸国は、幅広い協調関係維持が求められている。

     

    (4)「『ケルン・シュタットアンツァイガー』は、Nexperia事件について「米中という二大経済圏のはざまで生き残りを図る欧州の困難な状況を露呈した」と指摘。依存関係の低減はリスク管理に役立つものの完全な依存脱却は不可能であること、中国が西側の技術に、西側が中国の原材料に依存するという相互依存関係自体が現在の国際政治の安定要因となっており、一方的に中国への依存から脱却すれば国際政治リスクが高まる恐れがあることから、対中依存脱却について過剰に反応すべきでなく、リスク管理としての低減にとどめるべきとの見解を示した」

     

    中国が西側の技術に、西側が中国の原材料に依存する、相互依存関係自体が現在の国際政治の安定要因となっていることは事実だ。だが、中国がこの相互依存関係を利用して、中国の権益拡大に利用している。おいおい、対中デカップリング(断絶)ケースが出てくるであろう。

     

    (5)「一方で、欧州は環境保護、人権、高い社会基準など、道徳的・倫理的に正しくても到底実現不可能である「崇高な目標」を追い求めるばかりで、経済的な競争力や技術革新を強化して国際的な影響力や発言力を得るための「切り札」の育成を怠ってきたとも指摘。この怠惰がたたり、現状で米中に頼らざるを得ない弱い立場に陥ったとして、欧州の政治姿勢を批判した」

     

    欧州は、「崇高な目標」を追い求め過ぎている。その点で、米国トランプ政権のやり方には大きな違和感があろう。だが、米国の行なっている対外政策のうち、欧州が参考になるケースもあろう。日本との協調が必要である。

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    欧州最大のドイツ経済が正念場を迎えている。政府によると2025年の実質成長率は0.2%にとどまり、3年連続で景気低迷を避けられない見通しだ。23〜24年のマイナス成長からは脱却するものの、26年に見込む1%台への急成長は再軍備を急ぐメルツ政権の財政頼みが鮮明で、景気の実力が見えにくくなる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月12日付)は、「ドイツ経済、3年連続で低迷へ 財政頼み鮮明で強まる『戦時経済色』」と題する記事を掲載した。

     

    「ドイツ経済は19年以降、足踏み状態だ」「国民もうまくいっていないと気づいている」――。メルツ政権で経済製作のかじ取りを担うライヒェ経済相は8日、記者会見の冒頭から厳しい言葉で危機感を訴えた。ドイツ政府は秋の経済見通しで、25年の実質成長率を0.%とした。4月時点のゼロ%から小幅に上方修正したものの24年まで2年連続でマイナス成長に転落しており、景気浮揚は25年も不発に終わりそうだ。「2年連続」は東西統一後で0203年の1度しかなかった。

     

    1)「自動車や化学が屋台骨のドイツ経済は欧州で最も大きく、ユーロ圏の域内総生産(GDP)の3割を占める。ロシアからの安価なガス調達が止まった上、貿易相手国である中国の景気減速で構造不況に直面した。足元はトランプ米政権の高関税も逆風だ。最大の焦点は26年にどこまで景気が持ち直すかだ。政府見通しでは26年に1.%、27年に1.%と一転して急成長に向かうシナリオを描いた。GDPの水準としては、高インフレを招いたウクライナ危機後の景気の落ち込みをようやく取り返す」

     

    ドイツ経済不振の理由はいくつかある。なかでも、主力産業の自動車がEV(電気自動車)の「一本足打法」で躓いた影響は大きい。完全な戦略ミスである。2025年8月の鉱工業生産は前月比で4.3%も低下し、特に自動車生産は18.5%もの落ち込みだ。BMWは業績見通しを下方修正し、ボッシュは1万3000人の追加削減を発表した。2030年までに自動車関連で約10万人の雇用が失われる可能性があるとの分析もある。これは、部品サプライヤーまで含めた広範な雇用減となる。

     

    (2)「メルツ首相は政権発足前に先手を打ち、基本法(憲法)改正で厳格な債務抑制策を緩めた。ロシアの脅威を念頭に国防費の増額に道を開き、インフラ投資とあわせた追加の財政支出は今後10年あまりで1兆ユーロ(約175兆円)規模に達する見通しだ。金融市場では楽観論が先行する。米ゴールドマン・サックスはドイツ政府より強気で、27年の実質成長率が2%近くまで高まるとの予測だ。9月に25年度予算やインフラ投資の基金が成立したことで「財政拡張策が迅速に実行されると期待する」(ニクラス・ガルナート氏)」

     

    ドイツ産業界は塗炭の苦しみにあえぐが、金融市場は楽観論に立っている。インフラ投資とあわせた追加の財政支出は、今後10年あまりで1兆ユーロ(約175兆円)規模に達する見通しであることが材料になっている。

     

    (3)「数字上の景気浮揚とは裏腹に、不安は残したままだ。1%台への急成長は個人消費など需要の持ち直しを前提とするものの、足元では電気自動車(EV)移行に苦しむ自動車大手や部品会社による大規模なリストラが相次いでいる。「(成長の)大部分は防衛投資といった巨額の政府支出がもたらす」(ライヒェ氏)ことで、景気の実力が見えにくくなる危うさがある。独有力シンクタンクのIfO経済研究所なども共同声明で「拡張的な財政政策が成長の弱さを覆い隠す」と指摘する。「景気の底を打ったように見えても、根本的な経済構造の弱さが残るため幅広い回復は期待できない」とクギを刺す」

     

    財政支出の拡大が、ドイツ産業の抱える弱点をカバーするようにみえるが、本質部分は変っていない。自動車関連で約10万人の雇用が、2030年までに失われる可能性があるとの指摘は、ドイツ経済へ重くのしかかっている。

     

    (4)「実際、ドイツ経済は低成長社会に移行している。「景気の巡航速度」を映す潜在成長率は30年まで0.%程度にとどまる見通しだ。メルケル政権の15年には1.%程度あったのが一転、日本と肩を並べるゼロ%台半ばで推移する。成長力を押し下げる一因は労働量の不足だ。移民流入が続いても日本と同様に少子高齢化が進む。高止まりするエネルギー価格の抑制や設備投資の後押し、スタートアップ企業の育成といった成長戦略が求められている」

     

    ドイツ経済も、これから本格的な労働力不足に直面する。潜在成長率は、日本並みの0.5%程度へ低下するとみられる。

     

    (5)「巨額の財政出動を起爆剤にした経済再生は、ドイツにとって大きな賭けだ。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の持ち株会社ポルシェSEが防衛産業への参入検討を明らかにするなど、マネーの転換を期待した動きも増えてきている。地方政府からはインフラ投資を期待する声も上がる。東部ザクセン・アンハルト州で経済担当のシュテファニー・ペッチュ次官は日本経済新聞の取材に「ビジネス拠点への投資がまさに必要で、道路や橋への資金も重要だ」とインフラ需要を話す」

     

    ドイツは、健全財政に固執した余りにインフラ投資も不足する事態を招いた。こういう弱点はこれから修正されるが、「財政堅実ドイツ」という看板は簡単に下ろせないであろう。

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    ドイツ連邦議会(下院)は18日、防衛およびインフラ支出に向け何千億ユーロもの借り入れを可能にする法案を採決した。これにより、財政拡大政策への大転換が始まる。ドイツが欧州防衛の要になることを確実にするともに、インフラ投資によって国内経済立直しへ向けてテコ入れする。

    ドイツは、過剰貯蓄国であるにもかかわらず、憲法で財政赤字比率をGDPの0.35%に規制してきた。これが、ドイツ経済の活力を奪うという矛盾に陥っていた。それが、ようやく改善されることになった。ドイツが、その国力に応じた経済運営と欧州防衛の核として立ち上がることは、ロシアへの牽制として重要な一歩になる。もはや、欧州は眠れる集団でなくなる。


    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「ドイツは欧州防衛強化の基盤築いているー次期首相有力のメルツ氏演説」と題する記事を掲載した。

    ドイツの次期首相就任が確実視されるメルツ氏は18日、ドイツが軍事支出を増やすために借り入れ制限を解除する動きは、英国やノルウェーなどの欧州連合(EU)非加盟国を含む広範な欧州防衛共同体創設に向けた「第一歩」と捉えるべきだと述べた。

    (1)「中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)陣営を率いるメルツ氏は、18日に予定されている採決を前に、拡張的な財政政策への転換を意味する画期的な法案を支持するよう議員らに訴えた。メルツ氏のCDU・CSU陣営と社会民主党(SPD)が提出し緑の党が支持するこの法案は、21日に連邦参議院(上院)で最終承認を得る前に、連邦議会(下院)の3分の2の賛成多数で可決される必要がある」

    次期首相が有力視されるメルツ氏が率いる保守系会派(CDU)と社会民主党(SPD)は先週、緑の党との間で合意。財政拡大法案を連邦議会で可決させるのに必要な3分の2の賛成票確保のめどが立った。ドイツの16の州が代表を出す連邦参議院(上院)が、21日採決し承認すれば、シュタインマイヤー大統領が署名して法律が成立する。


    メルツ氏が、率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)陣営と、SPDは次期政権樹立に向けた協議を行っている。それに先立ち、大幅な歳出拡大を可能にしようと取り組んできた。国防費の増大によってよって、トランプ氏の米大統領復帰に端を発する地政学的な激変への対応を急ぐ。

    防衛および安全保障関連の支出として、GDPの1%、つまり約450億ユーロ(約7兆4000億円)を超える額が、ドイツ憲法に盛り込まれた借り入れ制限、いわゆる「債務ブレーキ」から除外される。実質的に、GDPの1%を超える支出に上限がなくなることを意味する。同時に、予算外の特別なインフラ基金が憲法に組み込まれ、今後12年間に5000億ユーロを上限として借り入れを行うことが可能になる。さらに、16の州にはGDPの0.35%、160億ユーロ相当までの借り入れの余地が与えられる。これで、地方はインフラ投資が可能になる。

    超右翼政党出現の裏には、厳しい財政規律で地方行政に足かせがはめられたことも一因である。これが、財政的に緩和されればドイツの「右翼化」は是正されるであろう。


    (2)「メルツ氏は、ドイツに自由、平和、繁栄をもたらした政治体制が脅威にさらされており、平和の配当は「とっくに底をついている」ため、抜本的な対策が緊急に必要だと論じた。「今日のわれわれの決定は、今後数年、数十年にわたるわれわれの防衛能力を決定する」と語った。CDU・CSU、SPD、緑の党の議員を合わせると520議席となり、3分の2の賛成に必要な489議席を31議席上回るため法案は可決される見込み。投票結果は現地時間午後3時頃には判明する見通し」

    CDU・CSU陣営とSPDは連立協議を急ピッチで進め、遅くとも復活祭(4月20日)までには合意に達する見通しがついた。CDU・CSUが2月の選挙で勝利して以来、暫定内閣として政権運営を行っているSPDのショルツ氏から、メルツ氏が首相の座を引き継ぐために、連邦議会の承認を確保する道筋が整う。ドイツは、新たな時代を迎える。




    あじさいのたまご
       

    ドイツは、基本法(憲法)によって民間が過剰貯蓄を保有しながら財政赤字を対GDP比0.35%に制限している。いわゆる「債務ブレーキ」である。これによって、ドイツ経済が疲弊するというとんでもない事態を招いている。旧東ドイツでは右翼勢力が台頭しており、政治状況が混沌としているのだ。「持てる経済力」を使わないで、右翼の台頭を許すというなんとも不可思議な事態に陥っている。

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月28日付)は、「ドイツ、『債務ブレーキ』に苦悩、時代遅れとの指摘も」と題する記事を掲載した。

    ドイツは財政赤字を一定の規模に抑える「債務ブレーキ」と呼ばれる仕組みを設けている。この厳格な枠組みはショルツ首相率いる3党連立政権の分裂の原因となっただけでなく、次期政権も悩ませることになりそうだ。

    (1)「ドイツ経済は低迷し、歳出は増加すると予想されており、防衛・インフラ投資は拡大の必要性に迫られている。だがドイツ憲法は構造的な赤字を国内総生産(GDP)の0.35%以下に抑えることを定めている。エコノミストらは、ドイツ政府がこのルールをどこまで順守するつもりなのか試されることになると予測する。「緊縮財政を維持したまま、必要な政策すべてを実現するための財政余力をみいだすことは不可能に思える」と、オランダ金融大手INGマクロ部門グローバル責任者、カルステン・ブルゼスキ氏は言う。次期政権は「財政政策を緩和することで合意せざるを得ないだろう」と指摘する」

    日本財政からみれば、ドイツ財政は天国である。債務残高の対GDP比は、63%程度である。緊縮財政を貫く理由がないのだ。


    (2)「財政保守派の野党キリスト教民主同盟(CDU)の党首で、2月の連邦選挙後には次期首相に就任する確率が最も高いとされるメルツ氏は、債務ブレーキを「維持する」ことを約束してきた。CDUは公約で「今日の負債は明日の増税だ」と主張している。この財政ルールが制定されたのは2009年。世界金融危機で経営が悪化した国内金融サービス業界をドイツ政府が救済した後、財政赤字が膨らんだことが背景にある。以来、アナリストや政治家はこのルールを硬直的すぎると批判してきた」

    次期首相に就任する確率が最も高いとされるメルツ氏は、債務ブレーキを「維持する」としている。総選挙が有利になるとみているからだ。政権ほしさの妥協であろう。

    (3)「メルツ氏も、何度かこの規則を改正に前向きであるとほのめかしたことがある。独ベレンベルク銀行のチーフエコノミスト、ホルガー・シュミディンク氏はこのルールを、ドイツの「財政政策を縛る時代遅れの足かせ」と呼ぶ。財政規制改革を支持する世論も急増している。独調査機関フォルサがシンクタンクのドイツ外交問題評議会の依頼を受けて1月に実施した世論調査によると、今や厳格な債務上限の見直しを支持するドイツ国民の割合は55%にのぼり、24年7月のわずか32%から上昇した」

    ドイツの世論調査でも、厳格な債務上限の見直しを支持する意見が55%と過半になった。世論も「債務ブレーキ」の矛盾を理解するようになっている。


    (4)「メルツ氏率いる次期政権が、抜本的な方向転換をするかどうかについては意見が分かれる。米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)の欧州担当エコノミスト、イブリン・ヘルマン氏は、「私も市場関係者と同じくドイツの財政政策の転換を望んでいるが、それを経済の基本シナリオと想定することはやはりためらう」と本紙(フィナンシャル・タイムズ)に語った。大半の関係者が予想しているのは、債務上限の撤廃ではなく部分的な緩和だ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)や経済諮問委員会のように保守的な財政政策を重視する機関は、長い間、財政赤字の増加を抑制できる債務上限の段階的な引き上げを主張してきた」

    大半の関係者が予想しているのは、債務上限の撤廃ではなく部分的な緩和である。

    (5)「経済諮問委員会は24年に、対GDP債務残高比率が60%未満に低下した場合は構造的赤字の上限をGDPの1%に引き上げ、60%以上90%未満の場合は0.5%に引き上げることを提案した。対GDP債務残高比率が60%強であれば、拡大可能な年間の赤字額はGDPのわずか0.15%となり、財政余力はさほど増えない。もっと効果的な選択肢は、インフラや軍備など政府支出の拡大が必要な分野のための、さらなる特別基金を設定することだろう」

    経済諮問委員会は24年に、対GDP債務残高比率60%を基準にして、拡大可能な年間の赤字額をスライドさせようとしている。これは、妙案と思うが実現は難しい情勢だ。


    (6)「メルツ氏率いる次期連立政権が、財政赤字措置を提案しても、連邦議会で十分な支持を取りつけることはやはり困難かもしれない。どの選択肢を取るにせよ、改革には議員の3分の2という圧倒的多数の賛成が必要であり、この要件を回避する合法的な抜け道は極めて狭い。ショルツ政権が23年に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で設立した緊急基金を気候変動対策に転用しようとした際、ドイツ憲法裁判所は違憲判決を下した。この判決が最終的に24年秋の連立政権の崩壊につながった」

    「債務ブレーキ」は、憲法条項である。改正には、連邦議会で3分の2という圧倒的多数の賛成を必要とする。その見通しがつかないのだろう。

    テイカカズラ
       

    ドイツのメルケル前首相が、回顧録『自由・記憶1954~2021』を昨年11月、世界32カ国で同時出版した。1954年に西ドイツのハンブルクで生まれ、東ドイツで成長し、2021年に16年間務めた首相職を退任するまでの経験を綴っている。この中で、中国の習近平国家主席に関する記述が注目を集めている。習氏の「多国間主義」は口だけと厳しい評価だ。「中華主義」(中国が世界の中心)を臆面もなく出しているというのである。

    『朝鮮日報』(12月17日付)は、「メルケルが見た習近平『多国間協力は口だけ』」と題する記事を掲載した。

    メルケル前首相は欧州では代表的な親中派の人物として挙げられます。しかし、習近平主席と中国に対する評価は冷ややかでした。メルケル前首相は「集団の利益のために個人の自由を制限できると考える点で、習主席と根本的な見方の違いを感じた」と記しました。

    (1)「東ドイツで育ったメルケル前首相は習氏と会談し、中国の政治体制や共産党の役割についてさまざまな質問を投げかけたということです。当時を振り返ったメルケル前首相は、「社会のある集団が全ての人のための最適の道を把握して決定することはできず、それは自由の欠乏につながる。その点で習主席と価値観の違いを感じた」と書いています」。

    メルケル氏は、共産主義社会で育っている。それだけに、中国共産党へは厳しい視線を向けていたことが分る。だが、外交と経済ではそれを押し殺していたのだろう。

    (2)「そうした認識の違いにもかかわらず、メルケル前首相は経済や気候変動といった分野を中心に中国と現実主義的な外交を行いました。16年間の在任期間に12回も訪中し、胡錦濤、習近平両主席と会談しました。テレビ会談も10回行いました。訪中の際は北京以外に上海、南京、西安、成都、瀋陽などの地方都市も訪れました。退任を控えた2021年10月13日のテレビ会議で習主席は「メルケル首相は中国国民の長年の友人だ。情と義理を大切にする中国人は長年の友人を絶対に忘れない」と述べました」

    習氏は、メルケル氏へ「中国国民の長年の友人」として離別の言葉を贈っている。だが、この「長年の友人」であるはずのメルケル氏は、中国へ批判の目を忘れなかった。価値観が異なるとは、「肝胆相照らす」仲になれない証明でもあろう。

    (3)「回顧録には習主席が掲げる「中国夢」に関する内容が出てきます。メルケル元首相は2013年の習主席就任以来、あらゆる問題について討論する機会を持ったといいます。当時習主席は2000年間の人類の歴史について語り、「20世紀のうち18世紀は中国が世界経済と文化の中心だった」という点を強調したということです。19世紀の初めから遅れたが、それまでは世界の中心だったというのです」

    このパラグラフは、極めて興味深い。「中華主義」の原点が、ここに現れている。習氏と始皇帝の頭脳構造は、寸分も異なっていないのだ。欧米社会の存在が、習氏の頭からはすっぽりと抜け落ちている。

    (4)「習主席は、「歴史的に正常な状態に中国を戻すべきだ」とし、それを「中国夢」と呼びました。2017年に習主席がトランプ大統領に会った席上、「韓国はかつて中国の一部だった」と発言したことが思い出されます。中国夢を掲げる中国の攻撃的な動きについては批判的な見方を示しました。習主席は就任初期から東アジアと欧州、アフリカをつなぐ「一帯一路プロジェクト」を推進しました。習主席は多国間主義を実現するためのプロジェクトだと説明しましたが、メルケル前首相の考えは違いました。開発途上国に対する中国の投資が開発途上国の対中依存度だけを高め、開発途上国の主導権を大きく縮小させたからです」

    習氏は、「西側没落・中国繁栄」を心底、思い込んでいるようだ。これは、悲劇的なまでの「錯誤」である。中国は、自らが繁栄して周辺国を「属国化」するという歴代中国王朝の描いてきた外交路線を踏襲している。

    (5)「南シナ海全域に領有権を主張する「九段線」を引き、その内側にある島と海はいずれも中国の管轄だと主張したことも批判しました。2016年7月に国際常設仲裁裁判所が「中国の九段線主張は根拠がない」という判決を下したにもかかわらず、国際法を無視して南シナ海で勢力を拡大し続け、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど周辺国の反発を招いたとの指摘です。メルケル前首相はさまざまな事例に言及し、中国の政治家は多国間主義を口にしているが、「口だけだ」と切り捨てました。口では多国間協力と相互利益を掲げるが、実際には力で全ての問題を解決しようとしているというのです。現実主義の政治家らしい冷静な評価でした」

    中国は、多国間協力と相互利益を掲げている。実際は、力で全ての問題を解決しようとしている。メルケル氏が、16年間の首相職において中国と接触したことで得た結論でもある。中国の「ニーハオ」の裏に、「剣」が隠されていることに警告を発しているのだ。

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