ドイツ政府と欧州連合(EU)の政治家は、ドイツの大手企業に対中投資を削減するよう圧力をかけている。各社は、むしろ拡大しようとしている。現地生産を強化してドイツからの輸入依存度を抑えたり、中国企業と提携関係を構築したりしている。一方のドイツ中小企業は、大企業と異なる戦術を取っている。脱中国戦略によって、米国とベトナムを代替市場に仕立てようとしているのだ。このように、ドイツ企業の対中戦略は二分化されている。
『ロイター』(10月22日付)は、「対中デリスクで先行するドイツ中小企業 生産シフト進む」と題する記事を掲載した。
多くのドイツ中小企業が今、中国依存を減らすための対応に着手しつつある。ニュルンベルガー氏が経営するEbm-papst社は昨年、「デカップリング・チャイナ」と称するプログラムを立ち上げた。約1900人の従業員を抱える中国部門が、たとえ会社の他部門と切り離されたとしても事業を継続できるようにする準備を始めた。現在、インドに新工場の設置を計画しているのは、中国に依存せず、中国以外のアジア諸国の顧客に製品を供給するためだ。「1つのかごに全部のたまごを入れてはならない、という教訓を常に胸に刻んでいる」と同氏は言う。
(1)「ロイターが、ドイツ中小企業の幹部ら十数人に取材したところ、中国依存を減らすさまざまな取り組みが始まっていることが分かった。「ミッテルシュタント」と呼ばれるこうした中小企業は、ドイツの企業売上高全体の約3分の1を占める。Ebm-papstのように比較的大きな企業の一部は、個々の事業地域が現地で資材調達と生産を賄えるようにするローカリゼーション戦略を採っている。実際のところ、同社は中国をまだ主要市場と見なしており、近く追加投資を決める可能性もあるという。ドイツ商工会議所の幹部、フォルカー・トレアー氏は、中小企業は、地政学的ショックが起こっても即時に対応できるだけの資源を持たないため、前もって慎重に準備する必要があると説明した」
ドイツ人口は、8400万人である。1億人に満たない人口のドイツ大企業にとって、中国市場の魅力は大きいに違いない。ただ、中小企業は地政学リスクに弱いことから、脱中国を進めている。
(2)「ドイツ経済省は、中国以外への市場分散を進める企業を支える意向を表明。「インド、ベトナム、韓国、インドネシアといった国々とドイツの二国間関係を強化するのが狙いだ」とする声明を出した。このような取り組みの狙いは、各社の市場シェアや利益を守り、米国をはじめとする西側諸国と中国との間の政治的緊張が悪化している状況を乗り切ることにある。そうした緊張の高まりを示すかのように、EUの執行機関である欧州委員会は先週、中国の自動車産業に対して不当な補助金が支給されていないか調査すると発表した。中国は世界最大の自動車輸出国となり、特に電気自動車(EV)分野ではドイツの自動車メーカーの競争相手になる可能性が現実味を帯びている。それでもドイツの自動車メーカーはEUの調査を批判しており、この調査によって各社が中国政府の報復対象になることを警戒している」
ドイツ大企業は、完全に「中国化」している。中国経済と一体化しているのだ。ただ、ドイツ企業が、対中投資をする際にドイツ政府の「投資保証」を得ていることも事実である。地政学的リスクをドイツ政府に転嫁しているという「狡さ」を見落としてはいけない。甘えているのだ。100%の自己責任になったら「中国化」などと太平楽なことを言っていられるだろうか。
(3)「中国は2016年にドイツにとって最大の貿易相手国となり、二国間貿易は3000億ユーロ近くに達している。自動車のフォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、化学のBASなど、ドイツ屈指の大企業にとって中国は主要な市場だ。ショルツ首相は2021年の就任以来、前任のメルケル氏と一線を画す対中強硬路線を採ってきた。他の西側諸国でも、中国の台湾に対する姿勢、南シナ海での動向が攻撃性を増したことや、国内での経済統制色の強まりに警戒感が高まっている」
ドイツ企業が、中国に対して「ノホホン」としている理由は、ドイツ政府の投資保証にあると思う。ショルツ政権は、この対中投資保証を減らす方針を明示しているが、未だ現実感が湧かないに違いない。もうひとつ、ドイツと中国が地理的に離れていることで、台湾問題の緊急性を理解できないのであろう。ウクライナと台湾を同じ視点で見ていないのだ。
(4)「ドイツ企業にとって、中国に代わる成長機会を与えてくれそうな国の一つが、グリーン産業への補助が導入された米国だ。同国の「ニアショアリング(事業拠点の近隣移転)」の流れによって恩恵を受けるメキシコも有望だと、ドイツ産業連盟(BDI)のウォルフガング・ニーダーマーク氏は言う。中国以外のアジア諸国も、同じ恩恵を受けそうだ。既にベトナムには、市場分散化の最初の波が押し寄せている、と財界関係者は語った」
ドイツ企業は、米国と肌が合わない一面がある。メルケル首相とトランプ大統領は、互いに反目し合っていた。メルケル氏は、その延長で日本にも好感を持たなかったのだ。ドイツ企業は、メルケル的見方なのだろう。ドイツは、第一次・第二次の世界大戦で米国と戦って敗北している。これが、米国へのコンプレックスになっているのだろうか。同じ相手国に続けて二度もの敗北では、毛嫌いする存在になるのかも知れない。事態の本質は、こういう感情論にあるのではない。