勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    ロシアのウクライナ侵攻が契機となって、日独は中国の台湾侵攻阻止目的で協調態勢を組むことになった。ドイツはEUの中核国である。日本が、ドイツとの関係強化を進めるのは、インド太平洋の安全保障でNATO(北大西洋条約機構)との関係強化を進める上で重要なパートナーという認識に基づく。 

    岸田文雄首相は7月12日(日本時間13日未明)、ベルリンでドイツのショルツ首相と会談した。防衛分野でインド太平洋地域へのドイツの関与を強化すると確認した。共同訓練などを通じ部隊間の協力を深めていく。岸田首相は共同記者会見で「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だ」と強調した。 

    『日本経済新聞 電子版』(7月13日付)は、「日本とドイツ、打算絡む中国リスク管理 防衛と経済安保」と題する記事を掲載した。 

    岸田文雄首相とドイツのショルツ首相は12日にベルリンで会談し、経済安全保障と防衛分野の協力を前面に押し出した。経済で温度差のある日独双方とも意識するのは中国の動きだ。軍事的な脅威に備えつつ、両国の打算が絡んで対中リスクの管理を優先する。

     

    (1)「ショルツ氏は、会談後の共同記者会見で「私たちはクリアなストラテジーを持っている。インド太平洋戦略だ」と強調した。岸田首相は「ドイツがインド太平洋地域への関与を強化している。中国の動きへの対応、経済安保で更なる連携を期待している」と語った。ドイツが2020年に策定したインド太平洋地域への認識を示した文書を念頭に置く。ショルツ政権は23年に対中国の外交戦略もまとめており「付き合い方を変える必要がある」と明記した」 

    戦前の「日独伊」三国同盟では、日本がドイツに引き込まれた形だ。現在の日独関係は、日本がドイツを引き込んでいる。ドイツが、日本の「誘い」に乗っているのは、メルケル時代が全くの無防備で中ロへ接近していた反動である。日本は、中国に関して歴史的にも十分な情報を持っている。それだけに、ドイツは日本へ接近することで「中国情報」を利用できるメリットがある。ドイツ企業は、政府の投資保険で中国へ進出している。それだけに、ドイツ政府のリスクが高くなっている。日本経由の「中国情報」は不可欠であるのだ。

     

    (2)「今回の首脳会談で設置を決めた日独の経済安保協議は、半導体や鉱物資源などのサプライチェーン(供給網)づくりを話す場となる。ショルツ氏が「我々は経済的構造が似ている」と指摘したように、日独は産業国として自由貿易を重視する共通項がある。日本はドイツの「中国傾斜」に頭を悩ませてきた。ドイツ経済研究所によると、ドイツから中国(香港を含む)への直接投資額は23年に119億ユーロ(約2兆円)と過去最高になった。メルケル政権の終焉(しゅうえん)やロシアによるウクライナ侵略を経てドイツでも中国脅威論への認識が進んでいる。それでも大企業を中心に独企業の対中投資への意欲は根強い。 

    ドイツ企業が、中国へ23年に約2兆円もの過去最高の投資を行った理由は、中国政府の補助金とドイツ政府の投資保険でカバー可能と見ている結果だ。日本から見れば、企業の「甘え」である。 

    (3)「欧州連合(EU)による中国製電気自動車(EV)への追加関税の採決を巡り、ドイツが棄権すると取り沙汰されている。ショルツ氏は共同記者会見で理由を問われ「(中国による過剰生産に)問題があるのは確かで国際的にフェアな形で競争力を持っていないといけない」と述べるにとどめた。ショルツ氏は21年12月の首相就任以降、日本を3度訪問する一方で中国を2度訪れた。主要7カ国(G7)メンバーの米国、英国、フランスが国政選挙で政治が不安定化する状況で、岸田首相はリスク管理の重要性を直接伝えるため初めてベルリンに赴いた」 

    ショルツ氏は、明らかに日本重視の姿勢をみせている。メルケル時代は,全くの逆で中国べったりであった。岸田首相の外交手腕は、もっと評価されるべきだろう。

     

    (4)「日本は、ドイツに中国への脅威意識を高めてもらうため、安全保障面の働きかけも進める。両首脳は今回の会談でドイツのインド太平洋地域への関与拡大を確認し、自衛隊とドイツ軍の防衛協力を強化していくと申し合わせた。首脳会談の当日に日独の部隊間で燃料などを融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」を発効させた。日本周辺での共同訓練を通じて協調していく姿勢を打ち出す狙いがある」 

    自衛隊は、ドイツ軍との間で「物品役務相互提供協定(ACSA)」を発効させた。ドイツは、日本がACSAを結ぶ7カ国目になる。米国、英国、フランス、カナダ、オーストラリア、インド、ドイツだ。これは事実上、「準同盟国」という位置づけになる。 

    (5)「欧州でも、中国による東・南シナ海での一方的な現状変更の取り組みはウクライナの状況も絡んでより脅威とみなされるようになった。中国がエネルギー調達や経済活動を通じて間接的にロシアを支えているとも問題視する。岸田首相はショルツ氏に繰り返し「欧州・大西洋とインド太平洋の安保は不可分だ」と訴えた。両首脳は23年に立ち上げた安保の協議を軸とする日独政府間協議を定例化し、25年にドイツで開催することも決定した」 

    岸田首相が、ドイツに対してインド太平洋の安保の必要性を説いている様子がわかる。日本の安全保障は、NATOとの連携が不可欠になっている。

    テイカカズラ
       

    トヨタ自動車に次いで世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)が、EV(電気自車)不振で旗艦車種「ID.3」の生産計画を取り止める事態になった。ドイツは昨年12月、EV補助金が前面的に打ち切られており、EVの販売環境は悪化している。 

    『日本経済新聞』(3月14日付)は、「独VW、EV失速鮮明 価格競争・需要減で利益率低下 欧州はエンジン車回帰」と題する記事を掲載した。 

    自動車大手ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が電気自動車(EV)失速のあおりを受けて採算が低下している。13日発表の2023年12月期通期決算は売上高が15%増だったが営業利益率は低下した。欧州ではEVの生産体制を縮小し、コスト削減を進める。一時的な「エンジン車回帰」が利益率改善に寄与する皮肉な状況にある。

    (1)「VWのオリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は「持続可能で前向きな発展のためにグループで準備を進めていく」と13日の決算記者会見でEVシフトの堅持を強調した。ただ足元では関連投資の先延ばしが目立つ。VWは今夏から独北部ウォルフスブルクにある本社工場で量産型EV「ID.3」の生産を始める計画を取り下げると決めた。元々は23年末から生産開始する予定だったが延期していた。ID.3は年14万台を販売するEVの旗艦モデルだ。同モデルを製造する独東部ツウィッカウの主力工場では昨秋から3交代勤務を見直し、生産ラインを削減した。東欧で検討していたEV用電池セル生産工場の投資決定延期も表明済みだ」 

    トヨタに比べて、VWはEVを巡ってドタバタ劇を繰り返している。EV需要の見通しを誤った結果だ。EVへ前のめりになってきたので、需要減による反動も大きくなっている。VWは、リチウムイオン電池の限界に気づかなかったことが致命傷になった。

     

    (2)「主因は、EV需要の失速にある。欧州最大市場のドイツでは23年9月にEV補助金の給付対象から企業が外れ、12月中旬には全面的に打ち切られた。独国際自動車製造協会によると、独国内のEV販売は24年2月、前年同月比15%減の2万7479台に落ち込んだ。フランスや英国など欧州全域でEV補助金の削減・停止の動きが広がる」 

    ドイツ政府は、財政難からEV補助金を打ち切っている。補助金なしに高額なEV販売は、不可能である。 

    (3)「23年12月期はサプライチェーン(供給網)の回復から新車全体の販売台数が伸び、売上高は15%増の3222億8400万ユーロ(約52兆円)だった。ただ製造コストの上昇やEVの値下げ競争の影響などから、営業利益は2%増の225億7600万ユーロ、営業利益率は8.%から7%に下がった。利益改善のため24年12月期に乗用車部門で数十億ユーロのコストを削減する。24年に販売を予定する新型EVは高級車が多く、手ごろな価格帯がない。EV生産体制の縮小に加え、新型量産車の少なさもコスト削減にプラスに働くとみる」 

    VWは、営業利益率が7%に下がった。5%を割ると開発費に差し支えると言われるので、EV転換はやむを得なかったのであろう。

     

    (4)「エンジン車は、モデルチェンジした人気車を24年に相次ぎ投入する。ウォルフスブルクの本社工場では、量産EV「ID.3」の生産を取りやめた代わりにエンジン車の生産ラインの増強も検討する。独メッツラー銀行のアレクサンダー・アデック氏は、EVより利益率が高いエンジン車の生産拡大で「EVの稼働率低下などの減益要因を埋める効果がある」と指摘する。VWも24年12月期の営業利益率は「7~7.%」と前期よりやや改善すると予測する」 

    エンジン車増産でカバーし、24年12月期営業利益率は7%台前半への回復を目指す。トヨタの営業利益率は、23年3月期で7.33%である。半導体供給不足が影響した。22年3月期は9.55%であった。24年3月期は、9%台を超えるのか注目点だ。 

    (5)「エンジン車に回帰する欧州とは対照的に、需要が堅調な中国ではEVシフトを加速させる。ブルーメCEOが「再建請負人」と呼ぶ、乗用車ブランド取締役のトーマス・ウルブリッヒ氏を4月から中国に駐在させる人事を決めた。中国のEV販売では中国新興や米テスラに後れを取る。EVとプラグインハイブリッド車(PHV)を合わせた中国の23年販売台数は中国EV大手、比亜迪(BYD)の12分の1にすぎない。エンジン車を含めた新車販売全体でも「中国国内シェア首位」の座をBYDに奪われる月もあった。ウルブリッヒ氏は出資する中国EV、小鵬汽車(シャオペン)との共同技術開発を指揮し、中国市場向けEVの開発期間を50カ月から36カ月に短縮。30年までにEV30車種の投入を狙う」 

    VWは、中国でEVシフトを加速させる。中国EVの小鵬汽車と組んで、中国流EVを発売する。

     

    (6)「VWは、「将来はEVになると確信している」(アルノ・アントリッツ最高財務責任者=CFO)と、30年までに世界のEV新車販売比率を50%に高める自社目標を撤回しなかった。販売台数の多いVWが欧州連合(EU)の厳しい二酸化炭素(CO2)排出規制をクリアするのに目標達成が欠かせないという事情もある。ただ、23年のEV比率は8.%にとどまりゴールは遠い」 

    EUのEV比率は、23年で8.3%である。EUも、EVオンリー主義を緩和して「合成ガソリン」車を二酸化炭素無害車として承認した。なんと、二酸化炭素を原料にするという「逆転の発想」である。

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    ドイツの極右政党AfD(ドイツのための選択肢)は、世論調査で20%台を維持するほどの支持を受けている。この背景には、ドイツ経済の深刻な不況問題がある。第一次大戦後のドイツが味わった大不況下で、ヒトラーが政権を握ったと同じ状況が起こっているのだ。AfDは、移民排撃をしたことやエネルギー危機克服で原発再開を主張するなど、世論を引きつける発言をしている。 

    ドイツでは、ヒトラー再来という危機感から数十万人がデモに繰り出し、AfD反対への意思を示した。それにしても、ドイツの民主主義はどうなっているのか。景気が悪化すれば、ポピュリズム政党の発言になびくとは哀しい話だ。日本が、太平洋戦争を決断した東条英機を礼賛するようなものである。

    『フィナンシャル・タイム』(1月22日付)は、「ドイツ極右指導者、英国のEU離脱は『自国のモデル』」と題する記事を掲載した。 

    ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のアリス・ワイデル共同党首は、同党が政権に就いた場合、欧州連合(EU)加盟について、ブレグジット(英国のEU離脱)のような国民投票の実施を目指すと明言した。その上で英国の離脱は「大正解」だったと称賛した。同氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、「これはドイツにとってのモデルであり、国はあのような主権的判断を下せるということだ」と強調した。 

    (1)「主流政党が熱烈な親EU派のドイツでは、この考え(注:EU離脱)は大きなタブーを破ることになる。また、ドイツ憲法は国民投票に厳しい制限を設けており、仮に投票が実施されたとしても、世論調査ではドイツ国民の大多数がEU残留に投票することを示している。しかし、AfDに投票する有権者の間では、EUへの支持が最も弱い。ワイデル氏の発言は、AfDへの支持が急伸していることを背景にしている。世論調査での同党の支持率は22%で、ショルツ首相の不安定な連立政権に参加しているドイツ社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党すべてをリードしている」 

    ドイツでも、EU離脱論が出ている。この背景には、ドイツの主権が制限されていることへの不満があろう。かつての「ドイツ帝国」再来を夢見ている。だが、EUのお陰で通貨「ユーロ」の恩恵を最も受けてきたにはドイツだ。マルク時代より割安に設定されているユーロで、ドイツは輸出を伸してきたことを忘れている。もう一つ、第一次・第二次の世界大戦を始めた責任だ。ドイツは、EUの中で協調することにより過去の罪を許される。日本まで戦争に巻き込んだ歴史は消えないのだ。

     

    (2)「AfDは9月にザクセン、ブランデンブルク、チューリンゲンの旧東独地域3州での重要な州議選で勝利すると見られている。もっとも、その他すべての主要政党がAfDと連立協定を組むのを拒んでいるため、権力の座への道筋ははっきりしない。ドイツの国内情報機関はAfDの大部分をなす派閥を過激派に指定し、幹部数人を監視下に置いている。それでも、同党はショルツ氏および悪化する経済の運営方法への国民の怒りから恩恵を受けている」 

    AfDは、ポピュリズム政党である。不況下で失業者が増えていることを理由に、移民反対を叫んで人気を集めている。ただ、単独で州レベルでの政府を組織できない限界がある。他党が、連立を拒否しているからだ。 

    (3)「複数のAfD議員とオーストリアの極右活動派マルティン・ゼルナー氏が昨年11月に会合を開き、物議を醸したことが報じられると、AfDはここ数日、大騒動の渦中に置かれることになった。会合では、ドイツのパスポートを所有する市民を含め、外国から移住してきた過去がある数百万人の人をドイツから強制的に「再移住」させる計画が話し合われた。ドイツの多くの都市でAfDに反対する大規模デモが開かれ、政治家は同党がドイツの民主主義制度に及ぼす危険について警鐘を鳴らした」 

    複数のAfD議員は、オーストリアの極右活動派と会合を開いたことが大騒動になっている。移民禁止を話し合ったからだ。ヒトラーが、ユダヤ人追放で悲劇を生んだ歴史と直結する。

     

    (4)「他党は、AfDとの連立や協力を一切排除する「ファイアウオール」を築くことによってAfDの脅威に対応してきた。その結果、世論調査での高い支持率にもかかわらず、同党はドイツ連邦16州で州政府を一つたりとも支配していない。ドイツ国会議事堂を見渡せ、反政府デモの喧噪が遠くに聞こえるオフィスで、ワイデル氏自身が「2029年より前」にAfDがベルリンで政権の座に就くことはないと認めた。だが、AfDが将来、政府内で一定の役割を果たすことは「避けられない」と主張し、同党のボイコットを真っ先に放棄するのは中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)だと予想した」 

    AfDは、当面の政権担当の可能性を否定している。だが、CDUはいずれAfDと連立政権を組むだろうと予測している。CDUがその間、政権につく可能性がないと前提しているようだ。CDUも甘くみられている。 

    (5)「AfDが政権を握った場合の最優先課題は何かと問われると、ワイデル氏は「効果的な国境管理を導入し、外国人の犯罪者を直ちに強制送還することだ」と答えた。さらに、税制を改革し、国家をスリム化し、化石燃料から再生可能エネルギーへのドイツの転換を打ち切るという。「フランスは15カ所もの新規原子力発電所を計画しているのに、我々は自分たちで作ることさえできない風力タービンと太陽光パネルに命運を託している」と指摘した」 

    AfDが政権を取れば、原発再開を約束している。脱原発が、エネルギー危機を生んでいることを利用したものだ。現政権は、こういうAfDの動きを警戒して、原発問題で柔軟姿勢が求められる。「ヒトラー再現」阻止には、原則論だけで対応することが困難になろう。

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    日本の2023年名目GDPが、ドイツに抜かれ世界4位に転落する公算が大きくなった。ドイツ連邦統計庁が15日、23年通年の名目GDPの暫定値を公表した。両国のGDPをドル換算で比べると日本は円安で目減りし、ドイツは物価高が押し上げた形だ。 

    日本は、異常な円安によってドイツに名目GDPで抜かれたが一時的とみられる。日銀のマイナス金利撤廃が近づいているからだ。1ドル=130円近辺まで円高が進めば、GDP世界3位に復帰できる可能性を持つ。ドイツの24年の経済成長率は、ゼロ成長予想である。 

    『フィナンシャル・タイム』(1月16日付)は、「低迷続くドイツ経済、23年は0.3%減 主要国中最悪に」と題する記事を掲載した。 

    ドイツ連邦統計庁は15日、2023年のGDPが暫定値で前年比0.%減だったと発表した。高インフレ、利上げ、エネルギーコストの上昇により、欧州最大の経済大国は世界で最も低迷している国の一つになった。

     

    (1)「23年の経済縮小は、勤務時間を巡る国内全域での鉄道ストライキ、燃料補助金の削減に反対する農家の激しいデモに見舞われたドイツの暗い年明けに追い打ちをかけている。ドイツ連邦統計庁のブラント長官は「23年のドイツ経済は複数の危機が続く環境で低迷した」と語った。連邦統計庁によると、GDPはなお新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準を上回っている。23年は縮小したものの21、22年は回復し、19年比では0.%増だった」 

    ドイツの23年経済は、不調の一語に尽きる。それでも、名目GDPで日本を抜くのは、異常円安によるもの。日銀のマイナス金利がもたらした「ハプニング」である。 

    (2)「国際通貨基金(IMF)によると、23年のドイツ経済は世界の主要国の中で最も低迷した。これは、輸出大国ドイツの主要産業である製造業が、安価なロシア産エネルギーの途絶と中国からの需要減速により大きな打撃を受けていることを示している。連邦統計庁によると、23年10〜12月期のGDPはマイナス成長だった前四半期から0.%減少した。ドイツの23年の小売売上高、輸出、鉱工業生産はいずれも前年比マイナスにとどまった」 

    ドイツ経済は、総崩れ状況にある。小売売上高、輸出、鉱工業生産はいずれも前年比マイナスに苦吟している。日本とは状況が異なる。

     

    (3)「家計は、数十年ぶりの生活費高騰に見舞われ、主力の製造部門はエネルギーコストの高騰、世界需要の低迷、借り入れコストの上昇に苦しんだ。連邦統計庁によると、23年の家計消費は前年比0.%減少し、コロナ前の水準を1.%下回った」 

    ドイツ家計は、ロシアのウクライナ侵攻によって割安なロシアエネルギー輸入を止めた影響が大きく襲っている。23年の家計消費は、前年比0.%もの減少になった。 

    (4)「経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツの24年の成長率は0.%に回復する見通しだが、それでもなお主要国で最も低迷する国の一つになる。ドイツの憲法裁判所が予算の転用に違憲判決を下したのを受け、政府は600億ユーロ(約9兆5400億円)の予算不足に対処するために財政支出計画の縮小を迫られた。このため、24年の成長率見通しを下方修正するアナリストが相次いだ」 

    ドイツは、予算の転用が違憲であるとの判決によって財政支出の削減を迫られた。不況下での財政削減は、「泣き面に蜂」という二重の衝撃になっている。これでは、経済停滞から脱せられるはずがない。ドイツは、第一次世界大戦後のハイパーインフレを教訓として、こういう財政規律を守っている。これは、これで立派なことだ。

     

    (5)「英調査会社キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、アンドリュー・カニンガム氏は「22年末から続いている景気低迷は今年も続くだろう」と述べ、24年のドイツのGDP伸び率をゼロと予測した。エコノミストは24年にはドイツの個人消費は持ち直すとみている。賃金の堅調な伸びとインフレ率の鈍化が続き、家計の購買力が回復するためだ」 

    24年のGDPは、ゼロ成長という見方が英国の有力調査機関から出ている。 

    (6)「ドイツのインフレ率は、22年末には11%を超えていたが、23年11月には2.%まで下がった。もっとも、消費者物価指数(CPI)はなおコロナ前よりも20%以上高く、政府によるエネルギー補助金の段階的廃止で12月のインフレ率は3.%に上昇した。連邦統計庁のブラント氏は「物価はこのところ下がっているとはいえ、経済プロセスのあらゆる段階でなお高止まりしており、経済成長の足を引っ張った」と説明した」 

    ドイツの消費者物価は、23年11月に2.%まで下がった。だが、コロナ前よりも20%以上高い状態である。これでは、賃金の大幅引上げがない限り消費は萎縮する。ドイツ経済の前途には未だ多くの難関が控えている。ドイツの名目GDPが、日本を抜くのは高インフレの結果である。ドイツ国民には、迷惑なGDP3位になった。

     

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    世界2位の自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、EV(電気自動車)開発で高コスト体質の是正を迫られている。世界1位のトヨタ自動車は、EV開発で全固体電池開発に全力を挙げている。現在のリチウムイオン電池EVは、商品寿命が短命と読んでいるので、泥沼競争へ首を突っ込まぬ経営判断で、余裕ある経営を進めている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「フォルクスワーゲン、EV『大衆車』への道険しく」と題する記事を掲載した。

     

    独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は10年近く前、コストのかかる探求の旅に乗り出した。ソフトウエア主導の自動車という新たな世界で支配的地位を占め、電動化された「大衆車」を作ることを目指したが、今なおその途上にある。

     

    (1)「『大衆の車』を意味する社名に持つ同社にとって、万人向けのEV(電気自動車)の製造・販売が中核的使命であることは変わらない。大衆への訴求力を再び活性化するため、VWは収益性が高く、魅力的なEVを生産できるような大規模な事業再編を進めている。「非常に若い層にもVWというブランドにワクワクしてもらえるようにしたい」。VWグループの最高経営責任者(CEO)で、傘下のポルシェのCEOも兼務するオリバー・ブルーメ氏はメールでそう述べた。同グループはVW、ポルシェのほか、アウディ、ベントレー、ランボルギーニなどのブランドを擁する」

     

    VWは、EVの大衆車を目指して苦闘している。性能も価格も大衆にとって魅力的でなければならないからだ。

     

    (2)「同氏は、100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出したほか、本社があるウォルフスブルクに超近代的なEV新工場を建てる計画を取りやめ、欧州の電池工場を増設する計画を延期した。これらの目的は自動車製造コストを下げることにある。そうすれば利益が拡大し、EV初心者向けモデルを値下げする余裕がVWに生まれる。VWは今年、小型ハッチバックEV「ID.2all」を公開した。同社によると販売価格は2万5000ユーロ(約398万円)未満に抑えるという。VWが2026年までに発売を予定する10車種の新型EVの一つだ。ブルーメ氏によると、VWはもっと手頃なEVの開発に取り組んでおり、2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度で発売することを目指す。欧州市場に参入する中国企業などの安価なEVに対抗するためだという」

     

    EVの価格を引下げるには、コスト引下げが前提になる。100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出した。このほか、EV新工場や電池工場の増設を見送るという荒療治も行う。こうして、EV価格を2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度まで下げる方針だ。

     

    (3)「同社経営陣は厳しい1年が待っていると従業員に警告している。「状況は非常に危機的だ」。VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは昨年11月末にウォルフスブルクで開かれた会議で、労組代表にこう語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその記録を確認した。「現在の構造やプロセス、高コストなど多くの点で、当社はもはや競争力がない」。VWは12月19日、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意したと発表。早期退職制度の活用や退職割増金の拡大、引退した従業員の補充を行わないことがその手段となる」

     

    コスト削減では、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意した。早期退職制度や退職した従業員の補充を行わないという厳しい内容だ。

     

    (4)「人員削減に加え、同社は新規ビル建設計画も中止した。さらに車両の機能オプションのメニューを減らし、新モデル開発期間を現在の50カ月から36カ月に短縮することで、製品を市場投入するまでの時間をスピード化する予定だ。VWは今もエンジン車の巨人であることに変わりはない。同社の発表によると、2023年1~11月の世界販売台数は830万台で、前年同期比約12%増加した」

     

    新規ビルの建設計画も中止した。新モデル開発期間は、現在の50カ月から36カ月に短縮する。こういう改革を実施するが、エンジン車で稼いでいることが合理化推進の裏付けになっている。

     

    (5)「新世代の国産低価格EVにシェアを奪われた中国市場では、巻き返しを図るため、VWは新興EVメーカー、小鵬汽車(シャオペン)に出資した。新型EVに向けた技術を獲得し、今後数年で市場に投入する予定だ。また中国人ソフトウエア技術者を採用し、中国国内に巨大な研究開発(R&D)拠点を設立している。「自動車メーカーは、1年で立て直せるものではない。だが中長期的な方策で当社は正しい方向に進んでいる」。ブルーメ氏はこう語った」

     

    中国市場での失地回復策では、現地企業の小鵬汽車と提携した。中国ユーザー向けのEV開発を推進する。

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