ロシアのウクライナ侵攻が契機となって、日独は中国の台湾侵攻阻止目的で協調態勢を組むことになった。ドイツはEUの中核国である。日本が、ドイツとの関係強化を進めるのは、インド太平洋の安全保障でNATO(北大西洋条約機構)との関係強化を進める上で重要なパートナーという認識に基づく。
岸田文雄首相は7月12日(日本時間13日未明)、ベルリンでドイツのショルツ首相と会談した。防衛分野でインド太平洋地域へのドイツの関与を強化すると確認した。共同訓練などを通じ部隊間の協力を深めていく。岸田首相は共同記者会見で「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だ」と強調した。
『日本経済新聞 電子版』(7月13日付)は、「日本とドイツ、打算絡む中国リスク管理 防衛と経済安保」と題する記事を掲載した。
岸田文雄首相とドイツのショルツ首相は12日にベルリンで会談し、経済安全保障と防衛分野の協力を前面に押し出した。経済で温度差のある日独双方とも意識するのは中国の動きだ。軍事的な脅威に備えつつ、両国の打算が絡んで対中リスクの管理を優先する。
(1)「ショルツ氏は、会談後の共同記者会見で「私たちはクリアなストラテジーを持っている。インド太平洋戦略だ」と強調した。岸田首相は「ドイツがインド太平洋地域への関与を強化している。中国の動きへの対応、経済安保で更なる連携を期待している」と語った。ドイツが2020年に策定したインド太平洋地域への認識を示した文書を念頭に置く。ショルツ政権は23年に対中国の外交戦略もまとめており「付き合い方を変える必要がある」と明記した」
戦前の「日独伊」三国同盟では、日本がドイツに引き込まれた形だ。現在の日独関係は、日本がドイツを引き込んでいる。ドイツが、日本の「誘い」に乗っているのは、メルケル時代が全くの無防備で中ロへ接近していた反動である。日本は、中国に関して歴史的にも十分な情報を持っている。それだけに、ドイツは日本へ接近することで「中国情報」を利用できるメリットがある。ドイツ企業は、政府の投資保険で中国へ進出している。それだけに、ドイツ政府のリスクが高くなっている。日本経由の「中国情報」は不可欠であるのだ。
(2)「今回の首脳会談で設置を決めた日独の経済安保協議は、半導体や鉱物資源などのサプライチェーン(供給網)づくりを話す場となる。ショルツ氏が「我々は経済的構造が似ている」と指摘したように、日独は産業国として自由貿易を重視する共通項がある。日本はドイツの「中国傾斜」に頭を悩ませてきた。ドイツ経済研究所によると、ドイツから中国(香港を含む)への直接投資額は23年に119億ユーロ(約2兆円)と過去最高になった。メルケル政権の終焉(しゅうえん)やロシアによるウクライナ侵略を経てドイツでも中国脅威論への認識が進んでいる。それでも大企業を中心に独企業の対中投資への意欲は根強い。
ドイツ企業が、中国へ23年に約2兆円もの過去最高の投資を行った理由は、中国政府の補助金とドイツ政府の投資保険でカバー可能と見ている結果だ。日本から見れば、企業の「甘え」である。
(3)「欧州連合(EU)による中国製電気自動車(EV)への追加関税の採決を巡り、ドイツが棄権すると取り沙汰されている。ショルツ氏は共同記者会見で理由を問われ「(中国による過剰生産に)問題があるのは確かで国際的にフェアな形で競争力を持っていないといけない」と述べるにとどめた。ショルツ氏は21年12月の首相就任以降、日本を3度訪問する一方で中国を2度訪れた。主要7カ国(G7)メンバーの米国、英国、フランスが国政選挙で政治が不安定化する状況で、岸田首相はリスク管理の重要性を直接伝えるため初めてベルリンに赴いた」
ショルツ氏は、明らかに日本重視の姿勢をみせている。メルケル時代は,全くの逆で中国べったりであった。岸田首相の外交手腕は、もっと評価されるべきだろう。
(4)「日本は、ドイツに中国への脅威意識を高めてもらうため、安全保障面の働きかけも進める。両首脳は今回の会談でドイツのインド太平洋地域への関与拡大を確認し、自衛隊とドイツ軍の防衛協力を強化していくと申し合わせた。首脳会談の当日に日独の部隊間で燃料などを融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」を発効させた。日本周辺での共同訓練を通じて協調していく姿勢を打ち出す狙いがある」
自衛隊は、ドイツ軍との間で「物品役務相互提供協定(ACSA)」を発効させた。ドイツは、日本がACSAを結ぶ7カ国目になる。米国、英国、フランス、カナダ、オーストラリア、インド、ドイツだ。これは事実上、「準同盟国」という位置づけになる。
(5)「欧州でも、中国による東・南シナ海での一方的な現状変更の取り組みはウクライナの状況も絡んでより脅威とみなされるようになった。中国がエネルギー調達や経済活動を通じて間接的にロシアを支えているとも問題視する。岸田首相はショルツ氏に繰り返し「欧州・大西洋とインド太平洋の安保は不可分だ」と訴えた。両首脳は23年に立ち上げた安保の協議を軸とする日独政府間協議を定例化し、25年にドイツで開催することも決定した」
岸田首相が、ドイツに対してインド太平洋の安保の必要性を説いている様子がわかる。日本の安全保障は、NATOとの連携が不可欠になっている。