勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    世界2位の自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、EV(電気自動車)開発で高コスト体質の是正を迫られている。世界1位のトヨタ自動車は、EV開発で全固体電池開発に全力を挙げている。現在のリチウムイオン電池EVは、商品寿命が短命と読んでいるので、泥沼競争へ首を突っ込まぬ経営判断で、余裕ある経営を進めている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「フォルクスワーゲン、EV『大衆車』への道険しく」と題する記事を掲載した。

     

    独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は10年近く前、コストのかかる探求の旅に乗り出した。ソフトウエア主導の自動車という新たな世界で支配的地位を占め、電動化された「大衆車」を作ることを目指したが、今なおその途上にある。

     

    (1)「『大衆の車』を意味する社名に持つ同社にとって、万人向けのEV(電気自動車)の製造・販売が中核的使命であることは変わらない。大衆への訴求力を再び活性化するため、VWは収益性が高く、魅力的なEVを生産できるような大規模な事業再編を進めている。「非常に若い層にもVWというブランドにワクワクしてもらえるようにしたい」。VWグループの最高経営責任者(CEO)で、傘下のポルシェのCEOも兼務するオリバー・ブルーメ氏はメールでそう述べた。同グループはVW、ポルシェのほか、アウディ、ベントレー、ランボルギーニなどのブランドを擁する」

     

    VWは、EVの大衆車を目指して苦闘している。性能も価格も大衆にとって魅力的でなければならないからだ。

     

    (2)「同氏は、100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出したほか、本社があるウォルフスブルクに超近代的なEV新工場を建てる計画を取りやめ、欧州の電池工場を増設する計画を延期した。これらの目的は自動車製造コストを下げることにある。そうすれば利益が拡大し、EV初心者向けモデルを値下げする余裕がVWに生まれる。VWは今年、小型ハッチバックEV「ID.2all」を公開した。同社によると販売価格は2万5000ユーロ(約398万円)未満に抑えるという。VWが2026年までに発売を予定する10車種の新型EVの一つだ。ブルーメ氏によると、VWはもっと手頃なEVの開発に取り組んでおり、2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度で発売することを目指す。欧州市場に参入する中国企業などの安価なEVに対抗するためだという」

     

    EVの価格を引下げるには、コスト引下げが前提になる。100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出した。このほか、EV新工場や電池工場の増設を見送るという荒療治も行う。こうして、EV価格を2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度まで下げる方針だ。

     

    (3)「同社経営陣は厳しい1年が待っていると従業員に警告している。「状況は非常に危機的だ」。VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは昨年11月末にウォルフスブルクで開かれた会議で、労組代表にこう語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその記録を確認した。「現在の構造やプロセス、高コストなど多くの点で、当社はもはや競争力がない」。VWは12月19日、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意したと発表。早期退職制度の活用や退職割増金の拡大、引退した従業員の補充を行わないことがその手段となる」

     

    コスト削減では、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意した。早期退職制度や退職した従業員の補充を行わないという厳しい内容だ。

     

    (4)「人員削減に加え、同社は新規ビル建設計画も中止した。さらに車両の機能オプションのメニューを減らし、新モデル開発期間を現在の50カ月から36カ月に短縮することで、製品を市場投入するまでの時間をスピード化する予定だ。VWは今もエンジン車の巨人であることに変わりはない。同社の発表によると、2023年1~11月の世界販売台数は830万台で、前年同期比約12%増加した」

     

    新規ビルの建設計画も中止した。新モデル開発期間は、現在の50カ月から36カ月に短縮する。こういう改革を実施するが、エンジン車で稼いでいることが合理化推進の裏付けになっている。

     

    (5)「新世代の国産低価格EVにシェアを奪われた中国市場では、巻き返しを図るため、VWは新興EVメーカー、小鵬汽車(シャオペン)に出資した。新型EVに向けた技術を獲得し、今後数年で市場に投入する予定だ。また中国人ソフトウエア技術者を採用し、中国国内に巨大な研究開発(R&D)拠点を設立している。「自動車メーカーは、1年で立て直せるものではない。だが中長期的な方策で当社は正しい方向に進んでいる」。ブルーメ氏はこう語った」

     

    中国市場での失地回復策では、現地企業の小鵬汽車と提携した。中国ユーザー向けのEV開発を推進する。

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    ドイツ経済は、EU(欧州連合)も盟主を持って任じているが、ロシアと中国への過大な経済依存が災いとなって、ことしの経済成長率はマイナス0.5%に落ち込む。ドイツ人は、正直で思い込みが強いという特性を持つが、ロシアと中国への経済的な依存度は半端でない。二度にわたる世界大戦以来の民族特性は「健在」のようだ。

     

    『毎日新聞』(10月27日付)は、「欧州の経済大国ドイツの憂鬱、マイナス成長の背後にある二つの理由」と題する記事を掲載した。

     

    今年、主要国の中で唯一、マイナス成長が見込まれている国がある。長期低迷にあえぐ日本でも、不動産不況に見舞われている中国でもない。それは、欧州の大国ドイツだ。ドイツといえば、世界4位の経済規模を誇り欧州経済のけん引役だったはず。そんなドイツの経済はなぜ、苦境に陥っているのか。

     

    (1)「ドイツの2023年4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前期比0.0%。23年1~3月期までの2期連続のマイナスからは持ち直したものの、低迷が続いている。エネルギー価格高騰による物価高で個人消費が低迷したことなどが、直接の要因だ。エネルギー価格の上昇は他の主要国も同じだが、ドイツは際立っている。今年3月のドイツの産業用の電気料金はフランスや日本の約2倍、カナダの4倍以上となった。高い電気料金は商品やサービスのコストに跳ね返り、家計を圧迫している」

     

    ドイツの産業用電気料金が、日仏の約2倍、カナダの4倍以上では、製造業の国際競争力は大きく低下して当然であろう。

     

    (2)「なぜ、ドイツのエネルギー価格は他国に比べて高いのか。背景には、ドイツ政府のエネルギー政策がある。ドイツは脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めており、再エネ移行の過渡期のエネルギーとして天然ガスを柱に据えてきた。その調達先はロシアで、天然ガス輸入の55%を安価なロシアからのパイプラインに頼っていた。だが、ウクライナ戦争で状況が一変。ロシアからの輸入を停止し米や中東などからの液化天然ガス(LNG)に切り替えたが、世界的な争奪戦でLNGの価格は高騰し電気料金が跳ね上がった」

     

    ドイツは、脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めている。「脱炭素」という理想に向けた行動だ。16世紀の宗教改革は、ドイツで始まったのはその「生真面目さ」が原動力である。現代の「脱炭素」一筋と繋がっているであろう。

     

    (3)「高い電気料金に企業は音を上げ始めている。独商工会議所連合会が今年9月に発表したエネルギー転換に関する年次報告書によると、独企業の52%がエネルギー転換は競争力に逆風になると回答。生産拠点の海外移転などを検討していると回答した企業も32%と前年から倍増した。実際、独化学メーカーBASFは今年2月、コスト削減のため国内の複数の工場閉鎖を決定。その一方で、100億ユーロ(約1.6兆円)を投じて中国南部に生産拠点の建設を進めている。自動車大手フォルクスワーゲン(VW)も、電力コストの高さを理由に国内でのバッテリー工場建設計画を中止した。代わりにカナダにバッテリー工場を建設すると発表しており、工場の海外移転は現実のものとなっている」

     

    独化学メーカーBASFは、中国南部に生産拠点の建設を進めている。「脱中国」をしないのは、中国市場で生きていくという意思表示である。普通であれば、地政学リスクを考量して「脱中国」を考えるであろうが、BASFは「中国企業」として生きていく覚悟をみせたものだ。

     

    (4)「経済低迷を招いている構造的な要因は、他にもある。その一つが、中国メーカーの電気自動車(EV)攻勢だ。中国では政府のEV振興策を受けて市場のEVシフトが急速に進んでおり、地元メーカーが台頭。中国国内の今年13月の自動車販売台数では、新興EVメーカーの比亜迪(BYD)がVWを抜いて初めて首位に立った。中国でのEVシフトに出遅れているのは他の外国メーカーも同じだが、自動車王国・ドイツのメーカーは中国市場に注力してきただけに打撃が大きい。なかでも、販売台数の約4割を中国が占めるVWのダメージは大きく、今年1~6月の中国での販売台数は1.3%減少。その影響もあり、7月には今年の世界販売の見通しを950万台から900万台に引き下げた」

     

    中国の自動車メーカーは、中国依存度が高い。VWは、販売台数の約4割を中国が占める。こうなると、中国市場から抜け出すことはできなくなる。ここまで、ドイツ企業が中国市場へのめり込んだのは、中国投資で政府の投資保証を得ていた結果だ。メルケル政権が、企業の中国進出を後押ししたのだ。

     

    (5)「VWだけでなくドイツの自動車産業全体の対中輸出も減少しており、ドイツ経済研究所(IW)が9月に発表した報告書によると、1~6月の自動車・自動車部品の対中輸出は前年同期比で21%減少した。自動車産業はドイツ経済の屋台骨となっているだけに、その苦境は経済全体に波及しか
    ねない。ウクライナ危機や中国発の急速なEVシフトという構造的な変化がもたらしたドイツ経済の苦境。いわば、これまでのロシア、中国への傾倒が裏目に出たともいえる。他にも、ベビーブーム世代の引退に伴う熟練労働者の不足や、IT産業への投資がGDPに占める割合が米国やフランスの半分にも満たず、産業の構造転換が進んでいないといった課題もある」

     

    ドイツの対中輸出品目トップは、自動車と同部品である。中国の自動車不況が、ドイツの対中輸出を直撃している。日本の対中輸出品は特許で守られた製品ばかりだ。それほどの影響を受けない理由である。

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    ドイツ政府と欧州連合(EU)の政治家は、ドイツの大手企業に対中投資を削減するよう圧力をかけている。各社は、むしろ拡大しようとしている。現地生産を強化してドイツからの輸入依存度を抑えたり、中国企業と提携関係を構築したりしている。一方のドイツ中小企業は、大企業と異なる戦術を取っている。脱中国戦略によって、米国とベトナムを代替市場に仕立てようとしているのだ。このように、ドイツ企業の対中戦略は二分化されている。

     

    『ロイター』(10月22日付)は、「対中デリスクで先行するドイツ中小企業 生産シフト進む」と題する記事を掲載した。

     

    多くのドイツ中小企業が今、中国依存を減らすための対応に着手しつつある。ニュルンベルガー氏が経営するEbm-papst社は昨年、「デカップリング・チャイナ」と称するプログラムを立ち上げた。約1900人の従業員を抱える中国部門が、たとえ会社の他部門と切り離されたとしても事業を継続できるようにする準備を始めた。現在、インドに新工場の設置を計画しているのは、中国に依存せず、中国以外のアジア諸国の顧客に製品を供給するためだ。「1つのかごに全部のたまごを入れてはならない、という教訓を常に胸に刻んでいる」と同氏は言う。

     

    (1)「ロイターが、ドイツ中小企業の幹部ら十数人に取材したところ、中国依存を減らすさまざまな取り組みが始まっていることが分かった。「ミッテルシュタント」と呼ばれるこうした中小企業は、ドイツの企業売上高全体の約3分の1を占める。Ebm-papstのように比較的大きな企業の一部は、個々の事業地域が現地で資材調達と生産を賄えるようにするローカリゼーション戦略を採っている。実際のところ、同社は中国をまだ主要市場と見なしており、近く追加投資を決める可能性もあるという。ドイツ商工会議所の幹部、フォルカー・トレアー氏は、中小企業は、地政学的ショックが起こっても即時に対応できるだけの資源を持たないため、前もって慎重に準備する必要があると説明した」

     

    ドイツ人口は、8400万人である。1億人に満たない人口のドイツ大企業にとって、中国市場の魅力は大きいに違いない。ただ、中小企業は地政学リスクに弱いことから、脱中国を進めている。

     

    (2)「ドイツ経済省は、中国以外への市場分散を進める企業を支える意向を表明。「インド、ベトナム、韓国、インドネシアといった国々とドイツの二国間関係を強化するのが狙いだ」とする声明を出した。このような取り組みの狙いは、各社の市場シェアや利益を守り、米国をはじめとする西側諸国と中国との間の政治的緊張が悪化している状況を乗り切ることにある。そうした緊張の高まりを示すかのように、EUの執行機関である欧州委員会は先週、中国の自動車産業に対して不当な補助金が支給されていないか調査すると発表した。中国は世界最大の自動車輸出国となり、特に電気自動車(EV)分野ではドイツの自動車メーカーの競争相手になる可能性が現実味を帯びている。それでもドイツの自動車メーカーはEUの調査を批判しており、この調査によって各社が中国政府の報復対象になることを警戒している」

     

    ドイツ大企業は、完全に「中国化」している。中国経済と一体化しているのだ。ただ、ドイツ企業が、対中投資をする際にドイツ政府の「投資保証」を得ていることも事実である。地政学的リスクをドイツ政府に転嫁しているという「狡さ」を見落としてはいけない。甘えているのだ。100%の自己責任になったら「中国化」などと太平楽なことを言っていられるだろうか。

     

    (3)「中国は2016年にドイツにとって最大の貿易相手国となり、二国間貿易は3000億ユーロ近くに達している。自動車のフォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、化学のBASなど、ドイツ屈指の大企業にとって中国は主要な市場だ。ショルツ首相は2021年の就任以来、前任のメルケル氏と一線を画す対中強硬路線を採ってきた。他の西側諸国でも、中国の台湾に対する姿勢、南シナ海での動向が攻撃性を増したことや、国内での経済統制色の強まりに警戒感が高まっている」

     

    ドイツ企業が、中国に対して「ノホホン」としている理由は、ドイツ政府の投資保証にあると思う。ショルツ政権は、この対中投資保証を減らす方針を明示しているが、未だ現実感が湧かないに違いない。もうひとつ、ドイツと中国が地理的に離れていることで、台湾問題の緊急性を理解できないのであろう。ウクライナと台湾を同じ視点で見ていないのだ。

     

    (4)「ドイツ企業にとって、中国に代わる成長機会を与えてくれそうな国の一つが、グリーン産業への補助が導入された米国だ。同国の「ニアショアリング(事業拠点の近隣移転)」の流れによって恩恵を受けるメキシコも有望だと、ドイツ産業連盟(BDI)のウォルフガング・ニーダーマーク氏は言う。中国以外のアジア諸国も、同じ恩恵を受けそうだ。既にベトナムには、市場分散化の最初の波が押し寄せている、と財界関係者は語った」

     

    ドイツ企業は、米国と肌が合わない一面がある。メルケル首相とトランプ大統領は、互いに反目し合っていた。メルケル氏は、その延長で日本にも好感を持たなかったのだ。ドイツ企業は、メルケル的見方なのだろう。ドイツは、第一次・第二次の世界大戦で米国と戦って敗北している。これが、米国へのコンプレックスになっているのだろうか。同じ相手国に続けて二度もの敗北では、毛嫌いする存在になるのかも知れない。事態の本質は、こういう感情論にあるのではない。

     

     

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    日本からみた戦後ドイツは、冷静沈着な国というイメージだ。過去の戦争にまつわる失敗を深く反省してきた。それが、ロシアや中国に対して極度の開放政策になった理由だ。現在、これらがすべて裏目になっている。

     

    長期政権になったメルケル前首相は、東ドイツ出身である。それだけに共産主義国家への親和性が強かった。こうして、経済的な依存度を高めすぎ、今やのっぴきならない局面へと遭遇させた。異次元な政治体制である国家に対しては、それなりの「抑制」が必要であることを改めて教えている。

     

    『ブルームバーグ』(10月7日付)は、「ドイツ不動産市場がメルトダウン、開発業者に不況の波-大手も破綻」と題する記事を掲載した。

     

    戦後ドイツ復興の象徴だったニュルンベルクの「クエレ・ビル」再開発事業では今年7月、市長が出席して最後の梁(はり)を配置する式典が行われた。生まれ変わったクエレ・ビルはオフィスや店舗、住宅からなる巨大な複合施設となり、2024年に開所する予定だった。ところが、開発を請け負っていたゲルヒ・グループは、プロジェクト関連会社の1社とともに過去数週間で破産手続きの開始を申請した。これにより施設開所の時期はいまや不透明だ。

     

    (1)「ゲルヒはまた、総額40億ユーロ(約6300億円)の建設中プロジェクトを抱えている。不動産市場は、低金利で資金調達できた時代の終わりに新たな打撃が加わった格好だ。不動産市場の変化の影響を最も受けやすいのは、誰かを浮き彫りにしてもいる。現在の不動産危機を巡る投資家の不安は不動産保有者に集中していたが、ゲルヒなどの苦境は建設プロジェクトを抱える開発業者が差し迫った危機にさらされていることを示す」

     

    ニュルンベルクの「クエレ・ビル」再開発事業を担っているゲルヒ・グループが、破産申請した。ニュルンベルクは、人口50万人を超えるバイエルン州第2の都市だ。第二次世界大戦でのドイツの残虐行為を裁いた場所として、国際的に知れ渡っている都市である。その復興事業の最後のプロジェクト工事を行ってきた建設会社が破産したのだ。

     

    (2)「ドイツの法律事務所ノールの再建・破綻担当共同責任者を務めるマーリース・ラシュケ氏は、「プロジェクト開発業者は膨らむ建設コスト、上昇する金利、価格の下落に苦しんでいる」と説明。「過去数週間に開発業者数社の破産申請があった。さらに出てくると予想している」と述べた。ゲルヒのほか、デービッド・チッパーフィールド氏ら著名建築家との協力関係を武器に売り込んでいたミュンヘンのユーロボーデンも破綻の仮処分手続きの過程にある。8月には、プロジェクト・イモビリエン・グループも傘下のプロジェクト会社の多くとともに破産を申請。暫定管財人の広報担当者によると、プロジェクトの一部は新たな請負業者選定で入札にかけられるという」

     

    建設会社にとって、人件費上昇と金利急騰は大きな負担になった。破産はゲルヒだけでない。多くの建設企業がお手上げになっている。

     

    (3)「開発業者は、世界的に見ても憂き目に遭っている。オーストラリアでは今年に入り、コスト高騰と需要減を受けて、ポーター・デービスなど複数の住宅建設会社が清算に追い込まれた。スウェーデンでは、建設不況で倒産件数が増加。その隣国フィンランドの建設業界団体によると、同国の住宅着工件数は1940年台以来の水準に落ち込む恐れがある。超低金利が長期にわたって続き、利回りを求める投資家の資金が不動産に流入していた時期から状況は急速に変わった。安く資金を調達してプロジェクトを買い込み、価格が上昇を続ける市場で売りさばくことは、ゲルヒなどの開発業者にとって難しくはなかった」

     

    ドイツだけで建設企業が破産しているのではない。オーストラリア、スウェーデン、フィンランドでも同様の事態に陥っている。高金利と人件費高騰が破綻要因になっている。

     

    (4)「いまや様子は全く異なる。不動産仲介を手掛けるサビルズによると、12ヶ月連続ベースのドイツのオフィス用不動産取引は少なくとも2014年以来の低水準に落ち込んだ。同国の大手不動産保有会社ボノビアは、新規の建設開発が「ほぼ不可能」だと警告した。ドイツ最大級の不動産投資会社コメルツ・リアルのヘニング・コッホ最高経営責任者(CEO)は、「調整のスピードが著しい」と指摘。「ドイツ不動産市場のリセッションは1年半前に始まり、ここ2~3カ月は開発業者の破綻がいっそう増えている」と述べた」

     

    商業用ビルは、米国でも需要不振によって空室率が拡大し、不動産相場は低落の一途だ。パンデミックによる在宅勤務が定着して、オフィスの空室が広がっている結果だ。日本は、交通事情が良くて「通勤苦」が減っている事情も手伝い、在宅勤務比率は21カ国中で下から2番目である。日本の不動産事情とは状況が異なっている。

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    ドイツは、ヒトラーという破壊者を生んだ暗い過去を持つ。23年の経済成長率はマイナス予測で、極右勢力が支持率を高めている。ウクライナ戦争では、ロシアへ接近するという危険な要素を持っているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月24日付)は、「独ショルツ政権、支持率低迷 ウクライナ支援に影響も」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツでショルツ政権の支持率が低迷している。10月のバイエルン州議会選挙を前に政権浮揚を描けず、極右政党に台頭を許す。景気の悪化で国民の内向き志向が強まり、ウクライナ支援の先行きに影を落としている。

     

    (1)「欧州ではフランスやフィンランドでも極右政党が支持を伸ばしてきた。7月に総選挙を実施したスペインでは一定の議席を獲得。ドイツではロシアとの関係改善を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。独公共放送ARDの世論調査によると、政党別の支持率は国政最大野党で中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)などが首位の28%で、次いでAfDが22%と差を縮める。ショルツ首相が率いてきた中道左派のドイツ社会民主党(SPD)は16%どまりである」

     

    ドイツ国民の間に、「ウクライナ支援疲れ」が出ている。肝心の経済成長率は今年、EUで唯一のマイナス成長という苦境にある。こうした中で、極右勢力が国民の不満を吸収して支持率を高めてきた。ヒトラーの出現も、第一次世界大戦敗北と膨大な賠償金を課された不満が背景にあった。油断は禁物である。世論調査で、ショルツ首相のSPDは極右勢力AfDの支持率を下回っている。

     

    (2)「有権者の支持離れは鮮明だ。ショルツ政権に「満足」との回答は19%で、2021年の政権発足以降で最低を更新した。「不満足」は79%だった。ウクライナ侵攻直後は50%を超える高い支持を得ていた。新型コロナウイルス禍などに対処した第4次メルケル政権と比べても低迷する。支持率低迷の一因が「暖房法案」を巡る混乱だ。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付ける内容で、導入が拙速として議論が紛糾。設備投資の負担増を強いられるとして国民の反発を招いた」

     

    ショルツ政権の経済政策の不手際が、国民の不満を買っている。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付けることが、不評を買っている。割高になっているのであろう。ショルツ政権は、クリーンエネルギーに拘っている。

     

    (3)「さらに景気不安が国民の動揺を招く。欧州委員会が9月に公表した夏の経済見通しで、ドイツの23年の実質成長率はマイナス0.%と景気後退に転じる想定になった。従来の成長率はプラス0.%で、欧州主要国のフランス(1.%)やイタリア(0.%)を大幅に下回る。問題は世論の内向き志向が強まりつつある点だ。ARDの世論調査では、政治の優先課題として経済状況を挙げた回答が28%と最も多く、移民問題の26%を上回った。ウクライナ侵攻の9%を大幅に上回る水準だ」

     

    ドイツは、経済問題で混乱している。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は19日、ドイツ産業界の中国依存による経済的リスクに警鐘を鳴らした。重要な材料の調達先として中国に依存しているドイツ企業の40%余りは、自国での生産に不可欠な材料・部品への依存度低減策を何も講じていないため、供給が途絶えれば生産は停止するとしたのだ。これは、驚く事態だ。ドイツ企業は、すっかり敏捷性を失っている。中国リスクを真面目に考えないのは、企業として失格である。

     

    (4)「目先の焦点は、10月8日のバイエルン州議会選挙に向かう。ショルツ政権は21年に発足し、SPDと環境政党「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党連立だ。次の国政選挙は25年で、人口1300万人を抱える南部バイエルン州での大型地方選が事実上の中間選挙と位置付けられる。調査会社シベイが実施した政党別の支持率は、CDUと姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が38%と、第1党を維持する見込みだ。緑の党が14%で続き、AfDは13%とほぼ並ぶ。SPDは9%にとどまっている。SPDとCSUの両党は前回18年の州議会選から支持を伸ばせず、AfDに票が流れる可能性がある。AfDはロシアとの関係改善を訴えるだけでなく、支持者の間ではウクライナへの軍事支援に反対する声も上がる」

     

    バイエルン州議会選挙では、極右のAfDが連立政権を組む緑の党に次ぐ第3位の支持率を得ている。ショルツ首相のSPD(社会民主党)は第4位である。不人気が明らかである。

     

    (5)「かねてショルツ政権は主力戦車の供与などで他国より先行する事態を避けてきた。欧州の盟主であるドイツの決断が遅れると再び国際的な批判が高まる恐れもある。世論の支援機運が下がったままでは二の足を踏み、追加支援に動く米国や欧州各国との間で隙間風も吹きかねない」

     

    ドイツ政治の動向には、目が離せなくなってきた。ウクライナ支援疲れが背後にあるだけに、極右の進出が世界政治へ微妙な影響を与えかねない事態も予測される。

     

     

     

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