ドイツ経済は、EU(欧州連合)も盟主を持って任じているが、ロシアと中国への過大な経済依存が災いとなって、ことしの経済成長率はマイナス0.5%に落ち込む。ドイツ人は、正直で思い込みが強いという特性を持つが、ロシアと中国への経済的な依存度は半端でない。二度にわたる世界大戦以来の民族特性は「健在」のようだ。
『毎日新聞』(10月27日付)は、「欧州の経済大国ドイツの憂鬱、マイナス成長の背後にある二つの理由」と題する記事を掲載した。
今年、主要国の中で唯一、マイナス成長が見込まれている国がある。長期低迷にあえぐ日本でも、不動産不況に見舞われている中国でもない。それは、欧州の大国ドイツだ。ドイツといえば、世界4位の経済規模を誇り欧州経済のけん引役だったはず。そんなドイツの経済はなぜ、苦境に陥っているのか。
(1)「ドイツの2023年4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前期比0.0%。23年1~3月期までの2期連続のマイナスからは持ち直したものの、低迷が続いている。エネルギー価格高騰による物価高で個人消費が低迷したことなどが、直接の要因だ。エネルギー価格の上昇は他の主要国も同じだが、ドイツは際立っている。今年3月のドイツの産業用の電気料金はフランスや日本の約2倍、カナダの4倍以上となった。高い電気料金は商品やサービスのコストに跳ね返り、家計を圧迫している」
ドイツの産業用電気料金が、日仏の約2倍、カナダの4倍以上では、製造業の国際競争力は大きく低下して当然であろう。
(2)「なぜ、ドイツのエネルギー価格は他国に比べて高いのか。背景には、ドイツ政府のエネルギー政策がある。ドイツは脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めており、再エネ移行の過渡期のエネルギーとして天然ガスを柱に据えてきた。その調達先はロシアで、天然ガス輸入の55%を安価なロシアからのパイプラインに頼っていた。だが、ウクライナ戦争で状況が一変。ロシアからの輸入を停止し米や中東などからの液化天然ガス(LNG)に切り替えたが、世界的な争奪戦でLNGの価格は高騰し電気料金が跳ね上がった」
ドイツは、脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めている。「脱炭素」という理想に向けた行動だ。16世紀の宗教改革は、ドイツで始まったのはその「生真面目さ」が原動力である。現代の「脱炭素」一筋と繋がっているであろう。
(3)「高い電気料金に企業は音を上げ始めている。独商工会議所連合会が今年9月に発表したエネルギー転換に関する年次報告書によると、独企業の52%がエネルギー転換は競争力に逆風になると回答。生産拠点の海外移転などを検討していると回答した企業も32%と前年から倍増した。実際、独化学メーカーBASFは今年2月、コスト削減のため国内の複数の工場閉鎖を決定。その一方で、100億ユーロ(約1.6兆円)を投じて中国南部に生産拠点の建設を進めている。自動車大手フォルクスワーゲン(VW)も、電力コストの高さを理由に国内でのバッテリー工場建設計画を中止した。代わりにカナダにバッテリー工場を建設すると発表しており、工場の海外移転は現実のものとなっている」
独化学メーカーBASFは、中国南部に生産拠点の建設を進めている。「脱中国」をしないのは、中国市場で生きていくという意思表示である。普通であれば、地政学リスクを考量して「脱中国」を考えるであろうが、BASFは「中国企業」として生きていく覚悟をみせたものだ。
(4)「経済低迷を招いている構造的な要因は、他にもある。その一つが、中国メーカーの電気自動車(EV)攻勢だ。中国では政府のEV振興策を受けて市場のEVシフトが急速に進んでおり、地元メーカーが台頭。中国国内の今年1~3月の自動車販売台数では、新興EVメーカーの比亜迪(BYD)がVWを抜いて初めて首位に立った。中国でのEVシフトに出遅れているのは他の外国メーカーも同じだが、自動車王国・ドイツのメーカーは中国市場に注力してきただけに打撃が大きい。なかでも、販売台数の約4割を中国が占めるVWのダメージは大きく、今年1~6月の中国での販売台数は1.3%減少。その影響もあり、7月には今年の世界販売の見通しを950万台から900万台に引き下げた」
中国の自動車メーカーは、中国依存度が高い。VWは、販売台数の約4割を中国が占める。こうなると、中国市場から抜け出すことはできなくなる。ここまで、ドイツ企業が中国市場へのめり込んだのは、中国投資で政府の投資保証を得ていた結果だ。メルケル政権が、企業の中国進出を後押ししたのだ。
(5)「VWだけでなくドイツの自動車産業全体の対中輸出も減少しており、ドイツ経済研究所(IW)が9月に発表した報告書によると、1~6月の自動車・自動車部品の対中輸出は前年同期比で21%減少した。自動車産業はドイツ経済の屋台骨となっているだけに、その苦境は経済全体に波及しか
ねない。ウクライナ危機や中国発の急速なEVシフトという構造的な変化がもたらしたドイツ経済の苦境。いわば、これまでのロシア、中国への傾倒が裏目に出たともいえる。他にも、ベビーブーム世代の引退に伴う熟練労働者の不足や、IT産業への投資がGDPに占める割合が米国やフランスの半分にも満たず、産業の構造転換が進んでいないといった課題もある」
ドイツの対中輸出品目トップは、自動車と同部品である。中国の自動車不況が、ドイツの対中輸出を直撃している。日本の対中輸出品は特許で守られた製品ばかりだ。それほどの影響を受けない理由である。