世界2位の自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、EV(電気自動車)開発で高コスト体質の是正を迫られている。世界1位のトヨタ自動車は、EV開発で全固体電池開発に全力を挙げている。現在のリチウムイオン電池EVは、商品寿命が短命と読んでいるので、泥沼競争へ首を突っ込まぬ経営判断で、余裕ある経営を進めている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「フォルクスワーゲン、EV『大衆車』への道険しく」と題する記事を掲載した。
独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は10年近く前、コストのかかる探求の旅に乗り出した。ソフトウエア主導の自動車という新たな世界で支配的地位を占め、電動化された「大衆車」を作ることを目指したが、今なおその途上にある。
(1)「『大衆の車』を意味する社名に持つ同社にとって、万人向けのEV(電気自動車)の製造・販売が中核的使命であることは変わらない。大衆への訴求力を再び活性化するため、VWは収益性が高く、魅力的なEVを生産できるような大規模な事業再編を進めている。「非常に若い層にもVWというブランドにワクワクしてもらえるようにしたい」。VWグループの最高経営責任者(CEO)で、傘下のポルシェのCEOも兼務するオリバー・ブルーメ氏はメールでそう述べた。同グループはVW、ポルシェのほか、アウディ、ベントレー、ランボルギーニなどのブランドを擁する」
VWは、EVの大衆車を目指して苦闘している。性能も価格も大衆にとって魅力的でなければならないからだ。
(2)「同氏は、100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出したほか、本社があるウォルフスブルクに超近代的なEV新工場を建てる計画を取りやめ、欧州の電池工場を増設する計画を延期した。これらの目的は自動車製造コストを下げることにある。そうすれば利益が拡大し、EV初心者向けモデルを値下げする余裕がVWに生まれる。VWは今年、小型ハッチバックEV「ID.2all」を公開した。同社によると販売価格は2万5000ユーロ(約398万円)未満に抑えるという。VWが2026年までに発売を予定する10車種の新型EVの一つだ。ブルーメ氏によると、VWはもっと手頃なEVの開発に取り組んでおり、2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度で発売することを目指す。欧州市場に参入する中国企業などの安価なEVに対抗するためだという」
EVの価格を引下げるには、コスト引下げが前提になる。100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出した。このほか、EV新工場や電池工場の増設を見送るという荒療治も行う。こうして、EV価格を2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度まで下げる方針だ。
(3)「同社経営陣は厳しい1年が待っていると従業員に警告している。「状況は非常に危機的だ」。VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは昨年11月末にウォルフスブルクで開かれた会議で、労組代表にこう語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその記録を確認した。「現在の構造やプロセス、高コストなど多くの点で、当社はもはや競争力がない」。VWは12月19日、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意したと発表。早期退職制度の活用や退職割増金の拡大、引退した従業員の補充を行わないことがその手段となる」
コスト削減では、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意した。早期退職制度や退職した従業員の補充を行わないという厳しい内容だ。
(4)「人員削減に加え、同社は新規ビル建設計画も中止した。さらに車両の機能オプションのメニューを減らし、新モデル開発期間を現在の50カ月から36カ月に短縮することで、製品を市場投入するまでの時間をスピード化する予定だ。VWは今もエンジン車の巨人であることに変わりはない。同社の発表によると、2023年1~11月の世界販売台数は830万台で、前年同期比約12%増加した」
新規ビルの建設計画も中止した。新モデル開発期間は、現在の50カ月から36カ月に短縮する。こういう改革を実施するが、エンジン車で稼いでいることが合理化推進の裏付けになっている。
(5)「新世代の国産低価格EVにシェアを奪われた中国市場では、巻き返しを図るため、VWは新興EVメーカー、小鵬汽車(シャオペン)に出資した。新型EVに向けた技術を獲得し、今後数年で市場に投入する予定だ。また中国人ソフトウエア技術者を採用し、中国国内に巨大な研究開発(R&D)拠点を設立している。「自動車メーカーは、1年で立て直せるものではない。だが中長期的な方策で当社は正しい方向に進んでいる」。ブルーメ氏はこう語った」
中国市場での失地回復策では、現地企業の小鵬汽車と提携した。中国ユーザー向けのEV開発を推進する。