勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    a0960_008532_m
       


    ドイツの極右政党AfD(ドイツのための選択肢)は、世論調査で20%台を維持するほどの支持を受けている。この背景には、ドイツ経済の深刻な不況問題がある。第一次大戦後のドイツが味わった大不況下で、ヒトラーが政権を握ったと同じ状況が起こっているのだ。AfDは、移民排撃をしたことやエネルギー危機克服で原発再開を主張するなど、世論を引きつける発言をしている。 

    ドイツでは、ヒトラー再来という危機感から数十万人がデモに繰り出し、AfD反対への意思を示した。それにしても、ドイツの民主主義はどうなっているのか。景気が悪化すれば、ポピュリズム政党の発言になびくとは哀しい話だ。日本が、太平洋戦争を決断した東条英機を礼賛するようなものである。

    『フィナンシャル・タイム』(1月22日付)は、「ドイツ極右指導者、英国のEU離脱は『自国のモデル』」と題する記事を掲載した。 

    ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のアリス・ワイデル共同党首は、同党が政権に就いた場合、欧州連合(EU)加盟について、ブレグジット(英国のEU離脱)のような国民投票の実施を目指すと明言した。その上で英国の離脱は「大正解」だったと称賛した。同氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、「これはドイツにとってのモデルであり、国はあのような主権的判断を下せるということだ」と強調した。 

    (1)「主流政党が熱烈な親EU派のドイツでは、この考え(注:EU離脱)は大きなタブーを破ることになる。また、ドイツ憲法は国民投票に厳しい制限を設けており、仮に投票が実施されたとしても、世論調査ではドイツ国民の大多数がEU残留に投票することを示している。しかし、AfDに投票する有権者の間では、EUへの支持が最も弱い。ワイデル氏の発言は、AfDへの支持が急伸していることを背景にしている。世論調査での同党の支持率は22%で、ショルツ首相の不安定な連立政権に参加しているドイツ社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党すべてをリードしている」 

    ドイツでも、EU離脱論が出ている。この背景には、ドイツの主権が制限されていることへの不満があろう。かつての「ドイツ帝国」再来を夢見ている。だが、EUのお陰で通貨「ユーロ」の恩恵を最も受けてきたにはドイツだ。マルク時代より割安に設定されているユーロで、ドイツは輸出を伸してきたことを忘れている。もう一つ、第一次・第二次の世界大戦を始めた責任だ。ドイツは、EUの中で協調することにより過去の罪を許される。日本まで戦争に巻き込んだ歴史は消えないのだ。

     

    (2)「AfDは9月にザクセン、ブランデンブルク、チューリンゲンの旧東独地域3州での重要な州議選で勝利すると見られている。もっとも、その他すべての主要政党がAfDと連立協定を組むのを拒んでいるため、権力の座への道筋ははっきりしない。ドイツの国内情報機関はAfDの大部分をなす派閥を過激派に指定し、幹部数人を監視下に置いている。それでも、同党はショルツ氏および悪化する経済の運営方法への国民の怒りから恩恵を受けている」 

    AfDは、ポピュリズム政党である。不況下で失業者が増えていることを理由に、移民反対を叫んで人気を集めている。ただ、単独で州レベルでの政府を組織できない限界がある。他党が、連立を拒否しているからだ。 

    (3)「複数のAfD議員とオーストリアの極右活動派マルティン・ゼルナー氏が昨年11月に会合を開き、物議を醸したことが報じられると、AfDはここ数日、大騒動の渦中に置かれることになった。会合では、ドイツのパスポートを所有する市民を含め、外国から移住してきた過去がある数百万人の人をドイツから強制的に「再移住」させる計画が話し合われた。ドイツの多くの都市でAfDに反対する大規模デモが開かれ、政治家は同党がドイツの民主主義制度に及ぼす危険について警鐘を鳴らした」 

    複数のAfD議員は、オーストリアの極右活動派と会合を開いたことが大騒動になっている。移民禁止を話し合ったからだ。ヒトラーが、ユダヤ人追放で悲劇を生んだ歴史と直結する。

     

    (4)「他党は、AfDとの連立や協力を一切排除する「ファイアウオール」を築くことによってAfDの脅威に対応してきた。その結果、世論調査での高い支持率にもかかわらず、同党はドイツ連邦16州で州政府を一つたりとも支配していない。ドイツ国会議事堂を見渡せ、反政府デモの喧噪が遠くに聞こえるオフィスで、ワイデル氏自身が「2029年より前」にAfDがベルリンで政権の座に就くことはないと認めた。だが、AfDが将来、政府内で一定の役割を果たすことは「避けられない」と主張し、同党のボイコットを真っ先に放棄するのは中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)だと予想した」 

    AfDは、当面の政権担当の可能性を否定している。だが、CDUはいずれAfDと連立政権を組むだろうと予測している。CDUがその間、政権につく可能性がないと前提しているようだ。CDUも甘くみられている。 

    (5)「AfDが政権を握った場合の最優先課題は何かと問われると、ワイデル氏は「効果的な国境管理を導入し、外国人の犯罪者を直ちに強制送還することだ」と答えた。さらに、税制を改革し、国家をスリム化し、化石燃料から再生可能エネルギーへのドイツの転換を打ち切るという。「フランスは15カ所もの新規原子力発電所を計画しているのに、我々は自分たちで作ることさえできない風力タービンと太陽光パネルに命運を託している」と指摘した」 

    AfDが政権を取れば、原発再開を約束している。脱原発が、エネルギー危機を生んでいることを利用したものだ。現政権は、こういうAfDの動きを警戒して、原発問題で柔軟姿勢が求められる。「ヒトラー再現」阻止には、原則論だけで対応することが困難になろう。

    a0960_008527_m
       


    日本の2023年名目GDPが、ドイツに抜かれ世界4位に転落する公算が大きくなった。ドイツ連邦統計庁が15日、23年通年の名目GDPの暫定値を公表した。両国のGDPをドル換算で比べると日本は円安で目減りし、ドイツは物価高が押し上げた形だ。 

    日本は、異常な円安によってドイツに名目GDPで抜かれたが一時的とみられる。日銀のマイナス金利撤廃が近づいているからだ。1ドル=130円近辺まで円高が進めば、GDP世界3位に復帰できる可能性を持つ。ドイツの24年の経済成長率は、ゼロ成長予想である。 

    『フィナンシャル・タイム』(1月16日付)は、「低迷続くドイツ経済、23年は0.3%減 主要国中最悪に」と題する記事を掲載した。 

    ドイツ連邦統計庁は15日、2023年のGDPが暫定値で前年比0.%減だったと発表した。高インフレ、利上げ、エネルギーコストの上昇により、欧州最大の経済大国は世界で最も低迷している国の一つになった。

     

    (1)「23年の経済縮小は、勤務時間を巡る国内全域での鉄道ストライキ、燃料補助金の削減に反対する農家の激しいデモに見舞われたドイツの暗い年明けに追い打ちをかけている。ドイツ連邦統計庁のブラント長官は「23年のドイツ経済は複数の危機が続く環境で低迷した」と語った。連邦統計庁によると、GDPはなお新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準を上回っている。23年は縮小したものの21、22年は回復し、19年比では0.%増だった」 

    ドイツの23年経済は、不調の一語に尽きる。それでも、名目GDPで日本を抜くのは、異常円安によるもの。日銀のマイナス金利がもたらした「ハプニング」である。 

    (2)「国際通貨基金(IMF)によると、23年のドイツ経済は世界の主要国の中で最も低迷した。これは、輸出大国ドイツの主要産業である製造業が、安価なロシア産エネルギーの途絶と中国からの需要減速により大きな打撃を受けていることを示している。連邦統計庁によると、23年10〜12月期のGDPはマイナス成長だった前四半期から0.%減少した。ドイツの23年の小売売上高、輸出、鉱工業生産はいずれも前年比マイナスにとどまった」 

    ドイツ経済は、総崩れ状況にある。小売売上高、輸出、鉱工業生産はいずれも前年比マイナスに苦吟している。日本とは状況が異なる。

     

    (3)「家計は、数十年ぶりの生活費高騰に見舞われ、主力の製造部門はエネルギーコストの高騰、世界需要の低迷、借り入れコストの上昇に苦しんだ。連邦統計庁によると、23年の家計消費は前年比0.%減少し、コロナ前の水準を1.%下回った」 

    ドイツ家計は、ロシアのウクライナ侵攻によって割安なロシアエネルギー輸入を止めた影響が大きく襲っている。23年の家計消費は、前年比0.%もの減少になった。 

    (4)「経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツの24年の成長率は0.%に回復する見通しだが、それでもなお主要国で最も低迷する国の一つになる。ドイツの憲法裁判所が予算の転用に違憲判決を下したのを受け、政府は600億ユーロ(約9兆5400億円)の予算不足に対処するために財政支出計画の縮小を迫られた。このため、24年の成長率見通しを下方修正するアナリストが相次いだ」 

    ドイツは、予算の転用が違憲であるとの判決によって財政支出の削減を迫られた。不況下での財政削減は、「泣き面に蜂」という二重の衝撃になっている。これでは、経済停滞から脱せられるはずがない。ドイツは、第一次世界大戦後のハイパーインフレを教訓として、こういう財政規律を守っている。これは、これで立派なことだ。

     

    (5)「英調査会社キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、アンドリュー・カニンガム氏は「22年末から続いている景気低迷は今年も続くだろう」と述べ、24年のドイツのGDP伸び率をゼロと予測した。エコノミストは24年にはドイツの個人消費は持ち直すとみている。賃金の堅調な伸びとインフレ率の鈍化が続き、家計の購買力が回復するためだ」 

    24年のGDPは、ゼロ成長という見方が英国の有力調査機関から出ている。 

    (6)「ドイツのインフレ率は、22年末には11%を超えていたが、23年11月には2.%まで下がった。もっとも、消費者物価指数(CPI)はなおコロナ前よりも20%以上高く、政府によるエネルギー補助金の段階的廃止で12月のインフレ率は3.%に上昇した。連邦統計庁のブラント氏は「物価はこのところ下がっているとはいえ、経済プロセスのあらゆる段階でなお高止まりしており、経済成長の足を引っ張った」と説明した」 

    ドイツの消費者物価は、23年11月に2.%まで下がった。だが、コロナ前よりも20%以上高い状態である。これでは、賃金の大幅引上げがない限り消費は萎縮する。ドイツ経済の前途には未だ多くの難関が控えている。ドイツの名目GDPが、日本を抜くのは高インフレの結果である。ドイツ国民には、迷惑なGDP3位になった。

     

    a0960_008532_m
       

    世界2位の自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、EV(電気自動車)開発で高コスト体質の是正を迫られている。世界1位のトヨタ自動車は、EV開発で全固体電池開発に全力を挙げている。現在のリチウムイオン電池EVは、商品寿命が短命と読んでいるので、泥沼競争へ首を突っ込まぬ経営判断で、余裕ある経営を進めている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「フォルクスワーゲン、EV『大衆車』への道険しく」と題する記事を掲載した。

     

    独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は10年近く前、コストのかかる探求の旅に乗り出した。ソフトウエア主導の自動車という新たな世界で支配的地位を占め、電動化された「大衆車」を作ることを目指したが、今なおその途上にある。

     

    (1)「『大衆の車』を意味する社名に持つ同社にとって、万人向けのEV(電気自動車)の製造・販売が中核的使命であることは変わらない。大衆への訴求力を再び活性化するため、VWは収益性が高く、魅力的なEVを生産できるような大規模な事業再編を進めている。「非常に若い層にもVWというブランドにワクワクしてもらえるようにしたい」。VWグループの最高経営責任者(CEO)で、傘下のポルシェのCEOも兼務するオリバー・ブルーメ氏はメールでそう述べた。同グループはVW、ポルシェのほか、アウディ、ベントレー、ランボルギーニなどのブランドを擁する」

     

    VWは、EVの大衆車を目指して苦闘している。性能も価格も大衆にとって魅力的でなければならないからだ。

     

    (2)「同氏は、100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出したほか、本社があるウォルフスブルクに超近代的なEV新工場を建てる計画を取りやめ、欧州の電池工場を増設する計画を延期した。これらの目的は自動車製造コストを下げることにある。そうすれば利益が拡大し、EV初心者向けモデルを値下げする余裕がVWに生まれる。VWは今年、小型ハッチバックEV「ID.2all」を公開した。同社によると販売価格は2万5000ユーロ(約398万円)未満に抑えるという。VWが2026年までに発売を予定する10車種の新型EVの一つだ。ブルーメ氏によると、VWはもっと手頃なEVの開発に取り組んでおり、2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度で発売することを目指す。欧州市場に参入する中国企業などの安価なEVに対抗するためだという」

     

    EVの価格を引下げるには、コスト引下げが前提になる。100億ユーロ(約1兆5800億円)のコスト削減策を打ち出した。このほか、EV新工場や電池工場の増設を見送るという荒療治も行う。こうして、EV価格を2020年代後半に2万ユーロ(約318万円)程度まで下げる方針だ。

     

    (3)「同社経営陣は厳しい1年が待っていると従業員に警告している。「状況は非常に危機的だ」。VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは昨年11月末にウォルフスブルクで開かれた会議で、労組代表にこう語った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はその記録を確認した。「現在の構造やプロセス、高コストなど多くの点で、当社はもはや競争力がない」。VWは12月19日、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意したと発表。早期退職制度の活用や退職割増金の拡大、引退した従業員の補充を行わないことがその手段となる」

     

    コスト削減では、管理部門の人件費を20%削減することで労組側と合意した。早期退職制度や退職した従業員の補充を行わないという厳しい内容だ。

     

    (4)「人員削減に加え、同社は新規ビル建設計画も中止した。さらに車両の機能オプションのメニューを減らし、新モデル開発期間を現在の50カ月から36カ月に短縮することで、製品を市場投入するまでの時間をスピード化する予定だ。VWは今もエンジン車の巨人であることに変わりはない。同社の発表によると、2023年1~11月の世界販売台数は830万台で、前年同期比約12%増加した」

     

    新規ビルの建設計画も中止した。新モデル開発期間は、現在の50カ月から36カ月に短縮する。こういう改革を実施するが、エンジン車で稼いでいることが合理化推進の裏付けになっている。

     

    (5)「新世代の国産低価格EVにシェアを奪われた中国市場では、巻き返しを図るため、VWは新興EVメーカー、小鵬汽車(シャオペン)に出資した。新型EVに向けた技術を獲得し、今後数年で市場に投入する予定だ。また中国人ソフトウエア技術者を採用し、中国国内に巨大な研究開発(R&D)拠点を設立している。「自動車メーカーは、1年で立て直せるものではない。だが中長期的な方策で当社は正しい方向に進んでいる」。ブルーメ氏はこう語った」

     

    中国市場での失地回復策では、現地企業の小鵬汽車と提携した。中国ユーザー向けのEV開発を推進する。

    a0960_005041_m
       


    ドイツ経済は、EU(欧州連合)も盟主を持って任じているが、ロシアと中国への過大な経済依存が災いとなって、ことしの経済成長率はマイナス0.5%に落ち込む。ドイツ人は、正直で思い込みが強いという特性を持つが、ロシアと中国への経済的な依存度は半端でない。二度にわたる世界大戦以来の民族特性は「健在」のようだ。

     

    『毎日新聞』(10月27日付)は、「欧州の経済大国ドイツの憂鬱、マイナス成長の背後にある二つの理由」と題する記事を掲載した。

     

    今年、主要国の中で唯一、マイナス成長が見込まれている国がある。長期低迷にあえぐ日本でも、不動産不況に見舞われている中国でもない。それは、欧州の大国ドイツだ。ドイツといえば、世界4位の経済規模を誇り欧州経済のけん引役だったはず。そんなドイツの経済はなぜ、苦境に陥っているのか。

     

    (1)「ドイツの2023年4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前期比0.0%。23年1~3月期までの2期連続のマイナスからは持ち直したものの、低迷が続いている。エネルギー価格高騰による物価高で個人消費が低迷したことなどが、直接の要因だ。エネルギー価格の上昇は他の主要国も同じだが、ドイツは際立っている。今年3月のドイツの産業用の電気料金はフランスや日本の約2倍、カナダの4倍以上となった。高い電気料金は商品やサービスのコストに跳ね返り、家計を圧迫している」

     

    ドイツの産業用電気料金が、日仏の約2倍、カナダの4倍以上では、製造業の国際競争力は大きく低下して当然であろう。

     

    (2)「なぜ、ドイツのエネルギー価格は他国に比べて高いのか。背景には、ドイツ政府のエネルギー政策がある。ドイツは脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めており、再エネ移行の過渡期のエネルギーとして天然ガスを柱に据えてきた。その調達先はロシアで、天然ガス輸入の55%を安価なロシアからのパイプラインに頼っていた。だが、ウクライナ戦争で状況が一変。ロシアからの輸入を停止し米や中東などからの液化天然ガス(LNG)に切り替えたが、世界的な争奪戦でLNGの価格は高騰し電気料金が跳ね上がった」

     

    ドイツは、脱原発と再生可能エネルギーへの転換を進めている。「脱炭素」という理想に向けた行動だ。16世紀の宗教改革は、ドイツで始まったのはその「生真面目さ」が原動力である。現代の「脱炭素」一筋と繋がっているであろう。

     

    (3)「高い電気料金に企業は音を上げ始めている。独商工会議所連合会が今年9月に発表したエネルギー転換に関する年次報告書によると、独企業の52%がエネルギー転換は競争力に逆風になると回答。生産拠点の海外移転などを検討していると回答した企業も32%と前年から倍増した。実際、独化学メーカーBASFは今年2月、コスト削減のため国内の複数の工場閉鎖を決定。その一方で、100億ユーロ(約1.6兆円)を投じて中国南部に生産拠点の建設を進めている。自動車大手フォルクスワーゲン(VW)も、電力コストの高さを理由に国内でのバッテリー工場建設計画を中止した。代わりにカナダにバッテリー工場を建設すると発表しており、工場の海外移転は現実のものとなっている」

     

    独化学メーカーBASFは、中国南部に生産拠点の建設を進めている。「脱中国」をしないのは、中国市場で生きていくという意思表示である。普通であれば、地政学リスクを考量して「脱中国」を考えるであろうが、BASFは「中国企業」として生きていく覚悟をみせたものだ。

     

    (4)「経済低迷を招いている構造的な要因は、他にもある。その一つが、中国メーカーの電気自動車(EV)攻勢だ。中国では政府のEV振興策を受けて市場のEVシフトが急速に進んでおり、地元メーカーが台頭。中国国内の今年13月の自動車販売台数では、新興EVメーカーの比亜迪(BYD)がVWを抜いて初めて首位に立った。中国でのEVシフトに出遅れているのは他の外国メーカーも同じだが、自動車王国・ドイツのメーカーは中国市場に注力してきただけに打撃が大きい。なかでも、販売台数の約4割を中国が占めるVWのダメージは大きく、今年1~6月の中国での販売台数は1.3%減少。その影響もあり、7月には今年の世界販売の見通しを950万台から900万台に引き下げた」

     

    中国の自動車メーカーは、中国依存度が高い。VWは、販売台数の約4割を中国が占める。こうなると、中国市場から抜け出すことはできなくなる。ここまで、ドイツ企業が中国市場へのめり込んだのは、中国投資で政府の投資保証を得ていた結果だ。メルケル政権が、企業の中国進出を後押ししたのだ。

     

    (5)「VWだけでなくドイツの自動車産業全体の対中輸出も減少しており、ドイツ経済研究所(IW)が9月に発表した報告書によると、1~6月の自動車・自動車部品の対中輸出は前年同期比で21%減少した。自動車産業はドイツ経済の屋台骨となっているだけに、その苦境は経済全体に波及しか
    ねない。ウクライナ危機や中国発の急速なEVシフトという構造的な変化がもたらしたドイツ経済の苦境。いわば、これまでのロシア、中国への傾倒が裏目に出たともいえる。他にも、ベビーブーム世代の引退に伴う熟練労働者の不足や、IT産業への投資がGDPに占める割合が米国やフランスの半分にも満たず、産業の構造転換が進んでいないといった課題もある」

     

    ドイツの対中輸出品目トップは、自動車と同部品である。中国の自動車不況が、ドイツの対中輸出を直撃している。日本の対中輸出品は特許で守られた製品ばかりだ。それほどの影響を受けない理由である。

    a0960_008527_m
       


    ドイツ政府と欧州連合(EU)の政治家は、ドイツの大手企業に対中投資を削減するよう圧力をかけている。各社は、むしろ拡大しようとしている。現地生産を強化してドイツからの輸入依存度を抑えたり、中国企業と提携関係を構築したりしている。一方のドイツ中小企業は、大企業と異なる戦術を取っている。脱中国戦略によって、米国とベトナムを代替市場に仕立てようとしているのだ。このように、ドイツ企業の対中戦略は二分化されている。

     

    『ロイター』(10月22日付)は、「対中デリスクで先行するドイツ中小企業 生産シフト進む」と題する記事を掲載した。

     

    多くのドイツ中小企業が今、中国依存を減らすための対応に着手しつつある。ニュルンベルガー氏が経営するEbm-papst社は昨年、「デカップリング・チャイナ」と称するプログラムを立ち上げた。約1900人の従業員を抱える中国部門が、たとえ会社の他部門と切り離されたとしても事業を継続できるようにする準備を始めた。現在、インドに新工場の設置を計画しているのは、中国に依存せず、中国以外のアジア諸国の顧客に製品を供給するためだ。「1つのかごに全部のたまごを入れてはならない、という教訓を常に胸に刻んでいる」と同氏は言う。

     

    (1)「ロイターが、ドイツ中小企業の幹部ら十数人に取材したところ、中国依存を減らすさまざまな取り組みが始まっていることが分かった。「ミッテルシュタント」と呼ばれるこうした中小企業は、ドイツの企業売上高全体の約3分の1を占める。Ebm-papstのように比較的大きな企業の一部は、個々の事業地域が現地で資材調達と生産を賄えるようにするローカリゼーション戦略を採っている。実際のところ、同社は中国をまだ主要市場と見なしており、近く追加投資を決める可能性もあるという。ドイツ商工会議所の幹部、フォルカー・トレアー氏は、中小企業は、地政学的ショックが起こっても即時に対応できるだけの資源を持たないため、前もって慎重に準備する必要があると説明した」

     

    ドイツ人口は、8400万人である。1億人に満たない人口のドイツ大企業にとって、中国市場の魅力は大きいに違いない。ただ、中小企業は地政学リスクに弱いことから、脱中国を進めている。

     

    (2)「ドイツ経済省は、中国以外への市場分散を進める企業を支える意向を表明。「インド、ベトナム、韓国、インドネシアといった国々とドイツの二国間関係を強化するのが狙いだ」とする声明を出した。このような取り組みの狙いは、各社の市場シェアや利益を守り、米国をはじめとする西側諸国と中国との間の政治的緊張が悪化している状況を乗り切ることにある。そうした緊張の高まりを示すかのように、EUの執行機関である欧州委員会は先週、中国の自動車産業に対して不当な補助金が支給されていないか調査すると発表した。中国は世界最大の自動車輸出国となり、特に電気自動車(EV)分野ではドイツの自動車メーカーの競争相手になる可能性が現実味を帯びている。それでもドイツの自動車メーカーはEUの調査を批判しており、この調査によって各社が中国政府の報復対象になることを警戒している」

     

    ドイツ大企業は、完全に「中国化」している。中国経済と一体化しているのだ。ただ、ドイツ企業が、対中投資をする際にドイツ政府の「投資保証」を得ていることも事実である。地政学的リスクをドイツ政府に転嫁しているという「狡さ」を見落としてはいけない。甘えているのだ。100%の自己責任になったら「中国化」などと太平楽なことを言っていられるだろうか。

     

    (3)「中国は2016年にドイツにとって最大の貿易相手国となり、二国間貿易は3000億ユーロ近くに達している。自動車のフォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、化学のBASなど、ドイツ屈指の大企業にとって中国は主要な市場だ。ショルツ首相は2021年の就任以来、前任のメルケル氏と一線を画す対中強硬路線を採ってきた。他の西側諸国でも、中国の台湾に対する姿勢、南シナ海での動向が攻撃性を増したことや、国内での経済統制色の強まりに警戒感が高まっている」

     

    ドイツ企業が、中国に対して「ノホホン」としている理由は、ドイツ政府の投資保証にあると思う。ショルツ政権は、この対中投資保証を減らす方針を明示しているが、未だ現実感が湧かないに違いない。もうひとつ、ドイツと中国が地理的に離れていることで、台湾問題の緊急性を理解できないのであろう。ウクライナと台湾を同じ視点で見ていないのだ。

     

    (4)「ドイツ企業にとって、中国に代わる成長機会を与えてくれそうな国の一つが、グリーン産業への補助が導入された米国だ。同国の「ニアショアリング(事業拠点の近隣移転)」の流れによって恩恵を受けるメキシコも有望だと、ドイツ産業連盟(BDI)のウォルフガング・ニーダーマーク氏は言う。中国以外のアジア諸国も、同じ恩恵を受けそうだ。既にベトナムには、市場分散化の最初の波が押し寄せている、と財界関係者は語った」

     

    ドイツ企業は、米国と肌が合わない一面がある。メルケル首相とトランプ大統領は、互いに反目し合っていた。メルケル氏は、その延長で日本にも好感を持たなかったのだ。ドイツ企業は、メルケル的見方なのだろう。ドイツは、第一次・第二次の世界大戦で米国と戦って敗北している。これが、米国へのコンプレックスになっているのだろうか。同じ相手国に続けて二度もの敗北では、毛嫌いする存在になるのかも知れない。事態の本質は、こういう感情論にあるのではない。

     

     

    このページのトップヘ