勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    テイカカズラ
       


    ドイツ政界は、メルケル前首相時代にエネルギー政策でロシアへ深く依存したことの失敗で反省を強いられている。ドイツは、ロシアとの延長線で中国とも強いつながりを持っている。だが、中国の台湾侵攻が取り沙汰される現在、ドイツは「中国リスク」を認識せざるを得ない局面に遭遇している。

     

    そこで浮かび上がったのが日本である。メルケル時代は、日本を素通りして中国へ直行してきたことの迂闊さを今、いやと言うほど知らされているのだ。ドイツは、「中国リスク」を熟知している日本から、「対中戦略」の極意を授けてもらいたい、というのが本音といわれる。日本再評価である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月4日付)は、「ドイツ要人の訪日相次ぐ、保守重鎮『戦略的パートナー』」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ政界の要人の訪日が相次いでいる。今年に入ってショルツ首相やベーアボック外相らが訪れたのに続き、保守系重鎮のヴュスト州首相も4日から東京や大阪などを回る。中国偏重とされた外交・通商政策の是正に動くドイツで、対日政策の重要性が高まっていることを示す。

     

    (1)「ヴュスト氏は、ドイツの最大州ノルトライン・ウェストファーレン(NRW)の州首相で保守系政党・キリスト教民主同盟(CDU)の幹部。政治家の人気ランキングで首位争いを演じており、将来のドイツ首相の有力候補とされる。初の本格的な外遊であえて日本を訪問地に選んだ。理由についてヴュスト氏は、日本経済新聞の取材に「経済的にも価値観的にも日本はアジアで最も重要な戦略的パートナー」と語った。世界秩序が揺れる局面だからこそNRW州との「素晴らしい絆を長期的に強めていくことが、これまで以上に大切」と対日関係の重要性を訴えた」

     

    ヴュスト氏は、ドイツ政治家の人気ランキングで首位にあるという。当然、ドイツ首相ポストを目指しているはずだ。その有力政治家が、初外遊先に日本を選んだことは、今後の政治活動でプラスになるという評価をした結果であろう。

     

    自民党政治家は、かつて訪米して「外交通」を喧伝してきた。ドイツ政界が、日本訪問をそれなりのステータスとしているのは、日本の変わらぬ対中政策にある。欧州は、市場の狭隘化ゆえに中国をターゲットにしてきた。中国の民主化を信じてきた面もあろう。その点で、日本は「中国研究」の膨大な集積がある。

     

    太平洋戦争前の日本は、旧満鉄調査部が中国の社会構造を徹底的に実証分析した。いわゆる社会学の側面から研究したので、「中国社会」を立体的に捉える学問的データの蓄積がある。多くの若い社会学者が中国農村へ派遣され、家族制度などを個別調査したのだ。その集積は、中国研究者も及ばないところとされる。日本政府は、この80年以上も過去の研究成果を引き継いでいるのだ。

     

    日本が、中国主導の「一帯一路」や「AIIB」(アジア・インフラ投資銀行)にも参加しなかったのは、中国社会=中国共産党の内面を深く研究していた結果だ。日本の国公立大学が一校も「孔子学院」を開設していない理由も文科省の示唆があったことにあろう。つまり、中国を要注意先と見てきたのだ。

     

    ドイツは、日本のこういう戦前からの中国との関わりを知れば、日本へ「お知恵拝借」と言ってくることは自然の流れであろう。

     

    (2)「訪日では日本の政界だけでなく、企業や学者らとも幅広く議論する。脱炭素・脱原発・エネルギーの脱ロシアの三兎(と)を追うドイツだけに「再生可能エネルギーでの協力拡大」を期待する。政治家として「孤独と高齢化」という社会問題の解決に取り組んでおり、日本と「戦略や方策といった知見を交換し、交流を深めたい」という」

     

    ヴュスト氏は、政界だけでなく企業や学者らとも幅広く議論するという。その狙いは、日本の中国観を知りたいのであろう。多分、ドイツの中国観とはかけ離れているはずだ。ドイツはソロバンを弾いているが、日本はそれを超えた中国共産党の「真贋」に触れている。かつて、日本へペコペコした中国が、現在は威嚇するように変わってきた。国家として、信頼するに値しない振る舞いが多いのだ。こういう中国をどう扱うかだ。

     

    (3)「中央政界、地方政界を問わず、訪日が外交上の得点につながるというドイツ政治の空気は、アジア政策の転換を象徴する。CDUのライバル政党で中道左派・ドイツ社会民主党(SPD)出身のショルツ首相は今年3月、日本経済新聞の単独インタビューに日独関係は「新たなステージ」になったと強調した。日本にとって対独関係を深めるチャンスである」

     

    下線部は、ドイツ外交が常識路線へ引き戻された証拠だ。ロシア=中国を友好国として遇してきたドイツが、はたと壁にぶつかりもがいている。その点で、悠然と構えている日本へ、その「秘策」の伝授に預かりたいという気持ちであろう。ドイツは、東ドイツの経験もあり、「共産主義」へ一定の親和性があった。日本は、旧ソ連に「不可侵条約」で裏切られた思いがあり、親日の台湾への「贔屓」意識もある。共産主義に対して、身構える習性ができあがっている。なんと言っても、日本は世界最古の「天皇制」が存在する国だ。共産主義とは、相容れないのだろう。

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    ドイツが4月15日、国内最後の原子力発電所3基が稼働を終える。当初は2022年末の停止を目指していたが、ウクライナ危機に伴うエネルギー不安からショルツ政権は3カ月半の運転延長を認めた。これも期限切れを迎え、電力事業者は原発を電力網から切り離し、名実ともに「脱原発」へ踏み切る。 

    ロシアのウクライナ侵攻によって、ドイツのエネルギー政策は根本からひっくり返された。ロシアへの原油・天然ガス依存体制が不可能になったからだ。このため、一時的に脱原発政策を緩め原発を操業させたが、これも4月15日をもって終了した。原発による電力はゼロになる。 

    ドイツが、エネルギー危機の中で安定した電力源の原発依存をあえて断ち切った理由は、ロシアへのエネルギー依存はあり得ないという強烈なメッセージである。原発の運転には、ロシアからウランを輸入するほかない。これでは、ウクライナへ侵攻したロシアを助けることになる。こういう矛盾を避けて、侵略戦争へ対抗するドイツの意思を示したものだ。同時に、中国による台湾侵攻への厳しい姿勢にも現れている。

     

    ドイツ外相ベーアボック氏は4月14日、中国訪問中に「紛争は平和的に解決されなければならない」と述べ、台湾海峡の緊張を重大な懸念を持って注視していると警告した。中国によるいかなる台湾支配の試みも容認できず、欧州に深刻な影響を及ぼすと表明したのだ。「一方的で暴力的な現状変更は、われわれ欧州人にとって容認できない」と語った。中国外相との共同記者会見の席での発言だ。ドイツの気迫が伝わる。フランスのマクロン大統領発言とは、大きな違いを見せつけた。欧州の盟主は、ドイツという自負心であろう。 

    『日本経済新聞 電子版』(4月15日付)は、「脱原発を完遂、ドイツの意地と政治計算」と題する記事を掲載した。 

    ドイツで15日、すべての原発が稼働をやめる。エネルギー不足が懸念される逆風下で、あえて脱原発を完遂する。背景にあるのは欧州の盟主としての意地と、ロシアに屈しないという政治メッセージだ。エネルギー政策の枠を超え、社会運動という意味合いがあった脱原発の成否は欧州の行方を左右する。

     

    (1)「冷戦期からロシア産エネルギーに頼ってきたドイツ。ロシアのウクライナ侵略で脱ロシアを迫られ、少しでもエネルギーを確保したいはずなのに、なぜ脱原発なのか。代替エネルギーの調達が順調に進んだことや、放射性廃棄物の扱いが問題になったことだけが理由ではない。さまざまな政治計算が底流にある」 

    ドイツとロシアは、帝政時代まで遡ると深い関係だ。ロシア帝政時代、ドイツ人がロシア官僚として働いた経緯がある。それだけに、地政学的にドイツとロシアが組んだら世界を制覇するという分析もあったほどだ。こういう関係のドイツが、敢然としてロシアへ対抗する。強い決意であろう。 

    (2)「まずは外交・安保の観点。脱原発に踏み切らなければどうなるか。「エネルギー不安がある」とみなされる。欧州の盟主としてロシアに弱みは見せられない。燃料の調達も課題になる。開戦前、欧州はウランの4割をロシアおよびロシアに近いカザフスタンから輸入していた。「いまドイツがロシアからウランを買ったらどうなるか想像してみてください」。取材に応じたドイツ政府高官は、そう問いかけてきた。政権のイメージは地に落ちる。ウクライナに重火器を送り、ロシアに融和的という印象が薄れつつあるのに、すべてが台無しになる。逆に自らを律する形で脱ロシア・脱原発の二兎(にと)を追えば欧州連合(EU)諸国への無言の圧力になる。域内の駆け引きでドイツが有利になるとの思惑が透ける」 

    下線部は、重要な意味がある。過去2回、世界戦争を始めたドイツには、民主主義・人道主義の国家として侵略戦争に立ち向かって、信頼を得たいという固い信念がある。ドイツは当初、ロシアのウクライナ侵攻で「日和」った印象を与えたが、今や「歴史の転換期」という認識に変わっている。

     

    (3)「政権のレガシー(遺産)にもなる。連立与党のうち、中道左派・ドイツ社会民主党と環境政党・緑の党には、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。足元でドイツは軍拡に転じ、軍縮は遠のいた。脱原発ぐらい実現しないと支持層に見放されかねない。もともと脱原発は両党が与党だったシュレーダー政権(1998〜2005年)が決めた。ほぼ20年越しの悲願達成といえる」 

    ドイツの政権・与党では、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。脱原発と平和は、二枚看板である。中国に対しても厳しい姿勢である。 


    (4)「将来への不安は残る。工業力は保てるのか。ドイツが沈めば欧州景気のけん引役はいなくなる。だからこそ背水の陣で再生エネ普及に取り組むしかない。域内のエネルギーの相互供給を進め、統合をさらに深めるのも手だろう。「揺らがぬ経済大国」を示すしかない。ドグマ的であっても理想を掲げ、実現を目指すのがドイツ流。通貨ユーロも数十年の準備の末、結実させた。 欧州統合がそうであったように、脱原発も失敗は許されない壮大な実験である」 

    ドイツは第二次世界大戦後、2度の世界大戦を引き起こした「十字架」を背負っている。それだけに強い理想主義が支えだ。西ドイツ時代の1948年に行った通貨改革は、猛威を振るうインフレを封じ込めるための劇薬であったが成功させた。その点で、日本は失敗し、米国の招聘したドッジ氏による「緊縮財政」(ドッジ・ライン:1949年)で対処するほかなかった。ドイツ政策の裏に、理想主義が潜んでいることは疑いない。

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    日本とドイツは18日、両国の首相と外務、財務、防衛など双方の6閣僚による政府間協議を初めて開いた。経済安全保障を軸に意見を交わした。重要物資の脱中国依存といったサプライチェーン(供給網)の強化やサイバー攻撃からの防御などを巡り、協力を深める狙いがある。ショルツ首相は協議後の共同記者会見で、日独関係が「新たなステージに引き上げられた」と評価した。 

    今回の日独の政府間協議は、ドイツ与党の提案によるものという。GDP世界3位の日本と4位のドイツが、定期協議する会合を持たないのは不自然というのが発端であった。ドイツの強い意志が働いていた結果だ。
     

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「日本とドイツ、中国けん制で接近 初の首脳・閣僚協議」と題する記事を掲載した。 

    日独政府が18日、新しい定期協議の枠組み「日独政府間協議」を立ち上げたのは台頭する中国への危機感からだ。ドイツは中国偏重だったメルケル政権時代のアジア政策を転換し、日本重視にシフトする。欧州の盟主ドイツと日本の連携は、主要7カ国(G7)の結束を示すことにつながる。 

    (1)「ショルツ独首相は訪日前、日本経済新聞のインタビューで、「あらゆる分野における連携を深めるチャンス」と語った。18日午後、会場となった日本の首相官邸に集まったのは岸田文雄、ショルツ両首相のほか、外務や財務など両国の主要閣僚。さながら「合同閣議」のようだった。きっかけはドイツ与党の発案だ。2021年に発足したショルツ政権の公約に盛り込まれた。ドイツの外務官僚がお膳立てしたのではなく、日本が根回ししたのでもないという。ドイツ与党の外交担当議員らが2つの理由から強く希望した。まず中国偏重というイメージの払拭。これまでドイツは政府間協議をさまざまな国としてきた。アジアでは11年から中国およびインドと定期開催している。「日本がないのは不自然」との声が独与党内であがった」

     

    メルケル首相時代のドイツは、中ロと深く関わっていた。反面、日米とは溝ができていた。それが、一挙に逆転してドイツの外交姿勢は180度もの変化である。ロシアのウクライナ侵攻で虚を突かれて、「眼が醒めた」と言えよう。日本の米中への姿勢を学ぼうということであろう。 

    (2)「ロシアのウクライナ侵略で、実現に向けた動きが一気に加速し、わずか1年あまりで公約は実現した。ロシアにエネルギーを深く依存して失敗したドイツは、中国依存で同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。中国への経済依存を深めてきたドイツでは、「日本から学びたい」との声が漏れる。安全保障上の脅威といえる中国と対峙しながら経済では深くつながる――。そんな日本と「意見交換したい」とショルツ首相は訪日前の取材で語ったが、本音だろう。日本の外務省幹部も、「産業構造や中国依存で日独は似る。ドイツと認識を擦り合わせることは非常に意義がある」と話す」 

    米国は、ドイツに最も手を焼いていた。中ロへ深くのめり込んでいたからだ。ファーウェイの「5G」に隠された「バックドア」についても最近、ようやく気づいたほどだ。どっぷりと中国に浸かっていたのである。米国は、ファーウェイと手を切らなければ、ドイツに関わる極秘情報を伝えないとまで激怒していた。

     

    (3)「日本のメリットは大きい。サプライチェーン(供給網)や次世代エネルギーで本格的な協力に踏み込めるかもしれない。何より「日米」あるいは「欧米」という伝統的な太いパイプに「日欧」という新しい軸が加わることでG7の結束が強まる。これはG7議長国として民主主義への大きな貢献である。中国は危機感を持っているようだ」 

    EUの盟主ドイツが、中国へ警戒姿勢を取るようになったのは、「ツーレイト」と言うほかない。ドイツ自動車にとって、中国市場が最大のマーケットという事情があるにせよ、ビジネスで眼が眩んでいたことは事実だ。ドイツでは環境政党「緑の党」が、中国批判の急先鋒である。ドイツ政策が、反中国へ傾斜するのは緑の党の影響である。

     

    (4)「それでも、「中国から日本を含めたアジアの民主主義国家にシフト」という欧州のアジア外交の潮流は逆回転しないだろう。もはや欧中蜜月は終わった。「一帯一路」で欧州を切り崩すなど覇権主義がちらつく中国への不信感は強い。仮に中国がロシアに武器供給すれば経済制裁も辞さない覚悟だ。ショルツ首相も武器を供給しないよう、繰り返し中国をけん制している」 

    「一帯一路」で、先進国で参加しなかったのは日米だけだ。EU(欧州連合)は雪崩を打って参加した。中国の実情が分からなかったのだ。こういう経緯から見て、ドイツが今になって日本へ接近した最大の理由は、本当の中国情報が欲しいからだろう。ドイツの抱える中国の地政学的リスクを少しでも回避したい。それには、「日本接近」が正解と判断したのだ。

     

    (5)「もっとも、デカップリング(分断)を視野に中国と対峙する米国とは温度差もある。独経済研究所の調査では22年1〜6月の独企業による対中投資は100億ユーロ(約1兆4000億円)を超え、上半期で過去最高だった。独貿易・投資振興機関(GTAI)は「中小企業は地政学リスクから投資を控えたが、大企業の大型投資が全体を押し上げた」と分析する。BMWが22年6月に自動車組み立て工場を完成させたほか、化学大手BASFも100億ユーロを投じて総合生産拠点の建設を進める。自国企業の対外投資が中国に集中しないよう、独政府は昨年11月末までに計14件・40億ユーロの対中投資への政府保証を許可しなかった」 

    ドイツでは、従来すべての中国投資案件に政府保証をつけていた。「緑の党」がこれに反対しており、全廃方針を提案したほど。次第に、その方向へ向かうだろう。

     

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    EUの盟主であるドイツは、メルケル政権当時と異なって「脱中国路線」を歩みつつある。欧州は、ロシアのウクライナ侵攻を契機にして権威主義国家へ警戒を強めている。特に、中国がロシアを非難しないことから、台湾侵攻を企図しているものとみている。ショルツ首相は、「中国の台湾侵攻を認めない」と強い警戒観を見せた。この裏には、台湾半導体メーカーTSMCが、ドイツで工場建設することで交渉中という事情もあり、台湾擁護の姿勢を見せている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月16日付)は、「『台湾への武力行使認めず』ショルツ独首相インタビュー」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツのショルツ首相が日本経済新聞の単独インタビューに応じた。「特定の国への一方的な依存を避け、新しい販売市場を開拓する」と述べ、ドイツ経済の中国依存度を引き下げる考えを示した。台湾有事については「現状変更のために武力を用いてはならない」と中国をけん制した。ドイツはメルケル政権時代の中国偏重のアジア政策から大きく転換する。日独政府は18日、両国の首相らが出席する新しい定期協議の枠組み「政府間協議」の初会合を都内で開く。ショルツ氏は訪日前にベルリンの首相官邸で取材に応じた。

     

    (1)「ドイツはアジア政策で中国を最重視し、外交・通商とも中国一辺倒といえる状況が長く続いてきた。しかし、習近平(シー・ジンピン)体制の強権化で警戒感が高まり、距離を置きつつある。ロシアのウクライナ侵略で、ドイツはエネルギーの脱ロシアを強いられた。この教訓も特定の国に経済を依存することへの危うさを浮き彫りにした。ショルツ氏は、中国以外のアジア諸国に目配りすることで、中国偏重を是正していく考えだ。日本や韓国、インドなどを列挙し「ほかの国との関係を深め、供給網や販売市場で特定の国に依存しないようにする」と述べた」

     

    ドイツが、中国偏重政策の見直しに入る。エネルギー政策では、ロシアへ偏重したのでウクライナ侵攻に伴う「脱ロシア」で大きな痛手を被った。この教訓から、中国偏重の見直しを始める。日本、韓国、インドなどとの関係強化を図る意向を見せている。

     

    (2)「米国のように中国との分断を志向しているわけではない。インタビューでは、過度な中国批判を避け「デカップリング(分断)はしないし、(経済面での)協力も続ける」と語った。それでも以前との温度差は明らかだ。「全ての卵を1つのカゴに入れてはいけない」。ドイツのことわざをショルツ氏は口にし、ドイツ企業は「多様化を進め、リスクを削減」するのが望ましいと明言した。こうした政府指針を盛り込んだ「新しい中国政策」を近く取りまとめ、閣議決定する見通し。今後は中国に代わってインドや東南アジアで官民一体となって通商拡大を図るとみられる」

     

    ドイツは近々、「新しい中国政策」をまとめる。中国に代わって、インドや東南アジアで官民一体となって通商拡大を図る模様だ。ここでは、敢えて台湾の名前を挙げていないが、台湾TSMCによるドイツ進出に合わせて、アジア戦略を披露することになろう。

     

    (3)「現時点で、ドイツ経済と中国の結びつきは強い。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は世界で販売した乗用車のうち約4割を中国が占める。簡単には代替市場はみつからない。それでもアジア政策が大きく軌道修正されるのは間違いない。特に日本には追い風だ。ショルツ氏は昨年、アジアにおける初の外遊先に中国でなく、あえて日本を選んだ。対日関係を「新しいステージ」に引き上げるためだったという」

     

    日独政府は18日、両国の首相らが出席して、新しい定期協議の枠組み「政府間協議」の初会合を開く。ここで、新たな日独協力体制が明らかになろう。

     

    (4)「盟主ドイツの方針転換で、欧州全体のアジア政策が「中国離れ」にじわじわとシフトしそうだ。経済的な利益は引き続き追求するものの、先端技術の流出などは厳しい制限をかける。「中国における新しい大型投資はしにくい空気になってきた」との声が欧州の経済界からも漏れる。一方、ショルツ氏はウクライナ侵攻を続けるロシアについて「帝国主義的な道を選んだ」と強い調子で非難した。ウクライナを徹底的に支援する考えを明らかにした。焦点となっている脱原発政策については完遂する考えを表明した」

     

    ドイツが、「中国離れ」を始めれば、EU全体がその方向へ動き出していくであろう。中国は、ロシア支援の姿勢を見せていることが、どれだけ経済的にもマイナスになるかを深く考える段階に来ている。


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    ドイツはメルケル首相時代、親中ロ路線をひた走ってきた。メルケル氏は、訪日よりもはるかに多く訪中に勢を出してビジネスの後押しをしてきた。だが、このメルケル外交における親中ロ路線は、今になって見れば極めてリスクの高い外交路線であったことが判明している。中ロは枢軸を組んで西側の価値観に対抗する動きを見せている。ドイツは、こともあろうにこの中ロへどっぷりと浸って来たことに気づいたのである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月7日付)は、「対中政策、欧州の理念と現実」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツが対中政策の大幅な見直しを「政府方針」として宣言する見通しとなった。「親中」といわれたメルケル前政権の路線を放棄し「対中強硬」とも受け止められる新しい外交指針をつくる。「かなり強めの言葉を文書にちりばめる」。アジア政策にかかわる独政府高官は話す。独外務省が中心となって原案を策定中で、2023年夏にも閣議決定するという。

     

    (1)「経済の中国依存度を下げるため、「対中投資に上限」「対中依存の独企業は政府の監視対象」と劇薬ともいえる強烈な策が浮かぶ。民間技術の軍事転用を避ける狙いで、学術交流すら制限するかもしれない。連立与党内では、強硬派の緑の党とやや穏健なドイツ社会民主党の間で綱引きがあるため、着地点はもっと現実的になる可能性はある。それでも中国と距離を置くシグナルになるのは明らかだ」

     

    緑の党が連立政権に参加した時点で、対中強硬策に転じることは分っていた。しかも外務大臣ポストを握っている以上、中国けん制はますます強くなるはずだ。

     

    (2)「米中対立のなかで旗幟(きし)を鮮明にすれば、外交の幅が狭まる――。少し前までは、そんな考えがドイツ政界の主流だった。半面、全方位外交は強権国家につけ込まれる隙を生む。経済を特定国に頼るのも危うい。エネルギーを依存して対話偏重だった対ロシア政策の失敗でドイツは痛いほど思い知った」

     

    メルケル氏は、東ドイツ育ちである。共産主義への違和感がなく、「お友達意識」で中ロと関係を深めたと見られる。だが、ロシアのウクライナ侵攻で全てが泡と消えた。ご破算になったのだ。それにしても、メルケル氏は絶妙なタイミングで首相交代になった。集中砲火を浴びることはなかった。

     

    (3)「海洋国家のフランスは、安全保障上の観点から中国への警戒心を強める。「仏領を一寸たりとも中国に渡すわけにはいかない」と語るのはアジア政策通の与党議員のジャネテ氏だ。ニューカレドニアなどインド太平洋の仏領の多くは南半球にある。同海域の北半球の民主主義国家との連携を深めたいという。日本や米国が視線の先にある。取材で具体策を尋ねると、日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」との協力に強い意欲を示した」

     

    フランスが、親日姿勢を取って来た裏に、アジアに仏領があるからだ。自衛隊をパリ祭に招待して、シャンゼリゼを行進させるなど親日ぶりをアピールしている。その点では、ドイツの親中ぶりとは一線を画してきた。

     

    (4)「フランスは対米感情が複雑な国だ。18世紀のアメリカ独立を助け、歴史的には米国と深い関係を持ちながら、弱肉強食の資本主義は嫌う。英米などアングロサクソン諸国をライバル視し、米国への追従をよしとしない。21年に米英豪がフランスを除いて安保の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設すると仏米関係は冷え込んだ。それがロシアのウクライナ侵略で一変した。民主主義陣営と強権国家の対立が深まり、米国に寄り添わざるを得なくなった」

     

    第二次世界大戦後、米仏は何かと対立関係にあった。ドルの基軸通貨にも反対姿勢を取るなど、対立の火種に事欠かない。だが、ロシア問題で米国の力に依存せざるを得ない現実から、米国と歩調を合わせている。皮肉な見方をすれば、ロシアが西側諸国を結束させたのである。

     

    (5)「ロシアはこれまで以上に中国を頼るだろう。ロシアの天然資源と軍事力を手にする中国は世界秩序を大きく揺さぶる、との読みが欧州で広がる。仮に欧州と中国の貿易が制限されれば、ドイツの成長率は1ポイント近く下がり、他の欧州諸国も大きな影響を受けると独Ifo経済研究所は試算する。にもかかわらず台湾有事が起きれば、独仏が率いる欧州連合(EU)は対中経済制裁を発動する公算が大きい」

     

    ウクライナ問題で、西側は結束している。中国の台湾侵攻が起これば、そのお返しで欧州も結束して中国へ対抗する。これはもはや、既定路線と見るべきであろう。将来、NATO(北大西洋条約機構)の拡大も起こり得る情勢になっている。日本・豪州などは加入候補である。 

     

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