勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    日本からみた戦後ドイツは、冷静沈着な国というイメージだ。過去の戦争にまつわる失敗を深く反省してきた。それが、ロシアや中国に対して極度の開放政策になった理由だ。現在、これらがすべて裏目になっている。

     

    長期政権になったメルケル前首相は、東ドイツ出身である。それだけに共産主義国家への親和性が強かった。こうして、経済的な依存度を高めすぎ、今やのっぴきならない局面へと遭遇させた。異次元な政治体制である国家に対しては、それなりの「抑制」が必要であることを改めて教えている。

     

    『ブルームバーグ』(10月7日付)は、「ドイツ不動産市場がメルトダウン、開発業者に不況の波-大手も破綻」と題する記事を掲載した。

     

    戦後ドイツ復興の象徴だったニュルンベルクの「クエレ・ビル」再開発事業では今年7月、市長が出席して最後の梁(はり)を配置する式典が行われた。生まれ変わったクエレ・ビルはオフィスや店舗、住宅からなる巨大な複合施設となり、2024年に開所する予定だった。ところが、開発を請け負っていたゲルヒ・グループは、プロジェクト関連会社の1社とともに過去数週間で破産手続きの開始を申請した。これにより施設開所の時期はいまや不透明だ。

     

    (1)「ゲルヒはまた、総額40億ユーロ(約6300億円)の建設中プロジェクトを抱えている。不動産市場は、低金利で資金調達できた時代の終わりに新たな打撃が加わった格好だ。不動産市場の変化の影響を最も受けやすいのは、誰かを浮き彫りにしてもいる。現在の不動産危機を巡る投資家の不安は不動産保有者に集中していたが、ゲルヒなどの苦境は建設プロジェクトを抱える開発業者が差し迫った危機にさらされていることを示す」

     

    ニュルンベルクの「クエレ・ビル」再開発事業を担っているゲルヒ・グループが、破産申請した。ニュルンベルクは、人口50万人を超えるバイエルン州第2の都市だ。第二次世界大戦でのドイツの残虐行為を裁いた場所として、国際的に知れ渡っている都市である。その復興事業の最後のプロジェクト工事を行ってきた建設会社が破産したのだ。

     

    (2)「ドイツの法律事務所ノールの再建・破綻担当共同責任者を務めるマーリース・ラシュケ氏は、「プロジェクト開発業者は膨らむ建設コスト、上昇する金利、価格の下落に苦しんでいる」と説明。「過去数週間に開発業者数社の破産申請があった。さらに出てくると予想している」と述べた。ゲルヒのほか、デービッド・チッパーフィールド氏ら著名建築家との協力関係を武器に売り込んでいたミュンヘンのユーロボーデンも破綻の仮処分手続きの過程にある。8月には、プロジェクト・イモビリエン・グループも傘下のプロジェクト会社の多くとともに破産を申請。暫定管財人の広報担当者によると、プロジェクトの一部は新たな請負業者選定で入札にかけられるという」

     

    建設会社にとって、人件費上昇と金利急騰は大きな負担になった。破産はゲルヒだけでない。多くの建設企業がお手上げになっている。

     

    (3)「開発業者は、世界的に見ても憂き目に遭っている。オーストラリアでは今年に入り、コスト高騰と需要減を受けて、ポーター・デービスなど複数の住宅建設会社が清算に追い込まれた。スウェーデンでは、建設不況で倒産件数が増加。その隣国フィンランドの建設業界団体によると、同国の住宅着工件数は1940年台以来の水準に落ち込む恐れがある。超低金利が長期にわたって続き、利回りを求める投資家の資金が不動産に流入していた時期から状況は急速に変わった。安く資金を調達してプロジェクトを買い込み、価格が上昇を続ける市場で売りさばくことは、ゲルヒなどの開発業者にとって難しくはなかった」

     

    ドイツだけで建設企業が破産しているのではない。オーストラリア、スウェーデン、フィンランドでも同様の事態に陥っている。高金利と人件費高騰が破綻要因になっている。

     

    (4)「いまや様子は全く異なる。不動産仲介を手掛けるサビルズによると、12ヶ月連続ベースのドイツのオフィス用不動産取引は少なくとも2014年以来の低水準に落ち込んだ。同国の大手不動産保有会社ボノビアは、新規の建設開発が「ほぼ不可能」だと警告した。ドイツ最大級の不動産投資会社コメルツ・リアルのヘニング・コッホ最高経営責任者(CEO)は、「調整のスピードが著しい」と指摘。「ドイツ不動産市場のリセッションは1年半前に始まり、ここ2~3カ月は開発業者の破綻がいっそう増えている」と述べた」

     

    商業用ビルは、米国でも需要不振によって空室率が拡大し、不動産相場は低落の一途だ。パンデミックによる在宅勤務が定着して、オフィスの空室が広がっている結果だ。日本は、交通事情が良くて「通勤苦」が減っている事情も手伝い、在宅勤務比率は21カ国中で下から2番目である。日本の不動産事情とは状況が異なっている。

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    ドイツは、ヒトラーという破壊者を生んだ暗い過去を持つ。23年の経済成長率はマイナス予測で、極右勢力が支持率を高めている。ウクライナ戦争では、ロシアへ接近するという危険な要素を持っているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月24日付)は、「独ショルツ政権、支持率低迷 ウクライナ支援に影響も」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツでショルツ政権の支持率が低迷している。10月のバイエルン州議会選挙を前に政権浮揚を描けず、極右政党に台頭を許す。景気の悪化で国民の内向き志向が強まり、ウクライナ支援の先行きに影を落としている。

     

    (1)「欧州ではフランスやフィンランドでも極右政党が支持を伸ばしてきた。7月に総選挙を実施したスペインでは一定の議席を獲得。ドイツではロシアとの関係改善を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。独公共放送ARDの世論調査によると、政党別の支持率は国政最大野党で中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)などが首位の28%で、次いでAfDが22%と差を縮める。ショルツ首相が率いてきた中道左派のドイツ社会民主党(SPD)は16%どまりである」

     

    ドイツ国民の間に、「ウクライナ支援疲れ」が出ている。肝心の経済成長率は今年、EUで唯一のマイナス成長という苦境にある。こうした中で、極右勢力が国民の不満を吸収して支持率を高めてきた。ヒトラーの出現も、第一次世界大戦敗北と膨大な賠償金を課された不満が背景にあった。油断は禁物である。世論調査で、ショルツ首相のSPDは極右勢力AfDの支持率を下回っている。

     

    (2)「有権者の支持離れは鮮明だ。ショルツ政権に「満足」との回答は19%で、2021年の政権発足以降で最低を更新した。「不満足」は79%だった。ウクライナ侵攻直後は50%を超える高い支持を得ていた。新型コロナウイルス禍などに対処した第4次メルケル政権と比べても低迷する。支持率低迷の一因が「暖房法案」を巡る混乱だ。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付ける内容で、導入が拙速として議論が紛糾。設備投資の負担増を強いられるとして国民の反発を招いた」

     

    ショルツ政権の経済政策の不手際が、国民の不満を買っている。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付けることが、不評を買っている。割高になっているのであろう。ショルツ政権は、クリーンエネルギーに拘っている。

     

    (3)「さらに景気不安が国民の動揺を招く。欧州委員会が9月に公表した夏の経済見通しで、ドイツの23年の実質成長率はマイナス0.%と景気後退に転じる想定になった。従来の成長率はプラス0.%で、欧州主要国のフランス(1.%)やイタリア(0.%)を大幅に下回る。問題は世論の内向き志向が強まりつつある点だ。ARDの世論調査では、政治の優先課題として経済状況を挙げた回答が28%と最も多く、移民問題の26%を上回った。ウクライナ侵攻の9%を大幅に上回る水準だ」

     

    ドイツは、経済問題で混乱している。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は19日、ドイツ産業界の中国依存による経済的リスクに警鐘を鳴らした。重要な材料の調達先として中国に依存しているドイツ企業の40%余りは、自国での生産に不可欠な材料・部品への依存度低減策を何も講じていないため、供給が途絶えれば生産は停止するとしたのだ。これは、驚く事態だ。ドイツ企業は、すっかり敏捷性を失っている。中国リスクを真面目に考えないのは、企業として失格である。

     

    (4)「目先の焦点は、10月8日のバイエルン州議会選挙に向かう。ショルツ政権は21年に発足し、SPDと環境政党「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党連立だ。次の国政選挙は25年で、人口1300万人を抱える南部バイエルン州での大型地方選が事実上の中間選挙と位置付けられる。調査会社シベイが実施した政党別の支持率は、CDUと姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が38%と、第1党を維持する見込みだ。緑の党が14%で続き、AfDは13%とほぼ並ぶ。SPDは9%にとどまっている。SPDとCSUの両党は前回18年の州議会選から支持を伸ばせず、AfDに票が流れる可能性がある。AfDはロシアとの関係改善を訴えるだけでなく、支持者の間ではウクライナへの軍事支援に反対する声も上がる」

     

    バイエルン州議会選挙では、極右のAfDが連立政権を組む緑の党に次ぐ第3位の支持率を得ている。ショルツ首相のSPD(社会民主党)は第4位である。不人気が明らかである。

     

    (5)「かねてショルツ政権は主力戦車の供与などで他国より先行する事態を避けてきた。欧州の盟主であるドイツの決断が遅れると再び国際的な批判が高まる恐れもある。世論の支援機運が下がったままでは二の足を踏み、追加支援に動く米国や欧州各国との間で隙間風も吹きかねない」

     

    ドイツ政治の動向には、目が離せなくなってきた。ウクライナ支援疲れが背後にあるだけに、極右の進出が世界政治へ微妙な影響を与えかねない事態も予測される。

     

     

     

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    ドイツは、政府と民間で中国に対する姿勢が異なってきた。政府は警戒姿勢であり、民間はビジネス第一姿勢で臨んでいる。ドイツ政府の対中姿勢が変わったのは、メルケル首相時代にロシアへ無警戒で接したが、その信頼はウクライナ侵攻で破られて痛手を負ったことだ。中国が台湾侵攻に踏み切れば、また同じ傷跡を舐めさせられるので、「半身」姿勢で臨むことになった。

     

    ドイツのショルツ首相は22日、中国に対し台湾などに武力を行使しないよう警告したと述べた。中国の李強首相は今週、ドイツを訪問した。ショルツ首相は議会で「われわれは、東シナ海と南シナ海の現状を武力や強制力によって変えようとする一方的な試みを断固として拒否する。これは特に台湾について言えることだ」と発言。「われわれは中国での人権や法の支配の状況についても懸念している」と述べた。『ロイター』が報じた。

     

    企業は、中国へ大きく傾斜している。特に自動車は、中国がメイン市場になっている。それだけに対中投資に積極的である。ただ、対中投資では政府保証を受けているという「臆病さ」も見せている。ドイツ政府は、自らのリスクで対中投資を行えと冷たい姿勢だ。

     

    『ロイター』(6月23日付)は、「独政府、中国向け投資保証55億ドル削減ー独誌」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツのハーベック副首相兼経済・気候保護相は就任以降、独企業の中国投資に対する政府保証を約50億ユーロ(54億8000万ドル)削減した。独誌シュピーゲルが22日報じた。

     

    (1)「独政府は中国への投資に関連し、計1億0100万ユーロ分の新たな投資保証申請4件を却下。5億5400万ユーロに相当する延長申請4件を認めず、40億ユーロに上る新規申請を受理しなかった。加えて、申請企業が新疆ウイグル自治区での事業に関わる可能性があるとして、2億8200万ユーロ相当の延長申請を留保した。この結果、2022年の新規承認件数は9件と、13年の37件から減少した。今年の承認件数は5件にとどまっている」

     

    ドイツ政府は、メルケル政権と異なり中国へは厳しい姿勢を見せている。連立を組む緑の党は、中国へ厳しい姿勢で有名で、これを反映している。緑の党は、中国での投資保証はゼロにすべきが持論である。中国での投資禁止まで主張したことがあるほどだ。これに対して、民間は「中国市場との断絶は考えられない」としている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月1日付)は、「中国との関係断絶は『考えられない』 メルセデス社長」と題する記事を掲載した。

     

    中国との関係を断ち切ることは「ドイツのほぼすべての産業にとって考えられない」――。独高級車大手メルセデス・ベンツグループのオラ・ケレニウス社長は見解を明らかにした。

     

    (2)「欧州最大の経済国ドイツは、対中依存度の高まりに懸念を抱いている。しかし、ケレニウス氏は、中国との関係を断ち切ることは不可能であり「望ましくない」と語った。独紙ビルト日曜版の取材に応じた同氏は「世界経済の主要プレーヤーである欧州、米国、中国は非常に密接に関連し合っているため、中国から手を引くことは理にかなわない」と述べた。「対立するのではなく、成長や気候保護の面でウィンウィンの関係を築くことが大事だ」と指摘」

     

    EU(欧州連合)が、デカップリング(分断)から、デリスキング(リスク削減)へ舵を切った裏には、こういう事情があった。

     

    (3)「ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻の経済的な影響が広がるなか、欧州では対中依存度がさらに高まることへの不安が巻き起こっている。ドイツの政財界でも、中国との深い経済的つながりに対する最善のアプローチを巡って議論が熱を帯びる。中国は2022年まで7年連続でドイツの最も重要な貿易相手国となっている。ショルツ首相率いる3党連立政権は21年、連立合意書で中国に批判的な論調を打ち出した。だがその後、独中関係の抜本的な変革を求めることに慎重なショルツ氏と、かねて対中強硬路線を敷く連立パートナーの緑の党との間に深い溝が生じている」

     

    ドイツ経済にとって、中国市場は不可欠の関係にある。対中輸出が、第1位であるだけにデカップリングの影響は計り知れないのだろう。

     

    (4)「一方、ドイツ大手企業の多くを見ると、世界最大かつ最も重要な消費財の輸出先である中国市場に注力する姿勢は揺るいでいない。メルセデスにとって、22年は中国が世界で最も重要な市場となり、総販売台数に占める割合は37%に達した。これに対し、ドイツと他の欧州市場は31%、米国は15%だった。ケレニウス氏は、米中間の緊張の高まりや台湾侵攻リスクが事業にもたらす脅威について、自社の認識は「甘くない」と強調した。「中国との『デカップリング(分断)』などというのは幻想であり、望ましいことではない」と強調する」

     

    ドイツ企業が対中投資を行う場合、ドイツ政府へ投資保証を求めることは甘えている。自己リスクで行うべきだ。そうであれば、誰も反対すべき理由はない。

     

     

    テイカカズラ
       


    ドイツ政界は、メルケル前首相時代にエネルギー政策でロシアへ深く依存したことの失敗で反省を強いられている。ドイツは、ロシアとの延長線で中国とも強いつながりを持っている。だが、中国の台湾侵攻が取り沙汰される現在、ドイツは「中国リスク」を認識せざるを得ない局面に遭遇している。

     

    そこで浮かび上がったのが日本である。メルケル時代は、日本を素通りして中国へ直行してきたことの迂闊さを今、いやと言うほど知らされているのだ。ドイツは、「中国リスク」を熟知している日本から、「対中戦略」の極意を授けてもらいたい、というのが本音といわれる。日本再評価である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月4日付)は、「ドイツ要人の訪日相次ぐ、保守重鎮『戦略的パートナー』」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ政界の要人の訪日が相次いでいる。今年に入ってショルツ首相やベーアボック外相らが訪れたのに続き、保守系重鎮のヴュスト州首相も4日から東京や大阪などを回る。中国偏重とされた外交・通商政策の是正に動くドイツで、対日政策の重要性が高まっていることを示す。

     

    (1)「ヴュスト氏は、ドイツの最大州ノルトライン・ウェストファーレン(NRW)の州首相で保守系政党・キリスト教民主同盟(CDU)の幹部。政治家の人気ランキングで首位争いを演じており、将来のドイツ首相の有力候補とされる。初の本格的な外遊であえて日本を訪問地に選んだ。理由についてヴュスト氏は、日本経済新聞の取材に「経済的にも価値観的にも日本はアジアで最も重要な戦略的パートナー」と語った。世界秩序が揺れる局面だからこそNRW州との「素晴らしい絆を長期的に強めていくことが、これまで以上に大切」と対日関係の重要性を訴えた」

     

    ヴュスト氏は、ドイツ政治家の人気ランキングで首位にあるという。当然、ドイツ首相ポストを目指しているはずだ。その有力政治家が、初外遊先に日本を選んだことは、今後の政治活動でプラスになるという評価をした結果であろう。

     

    自民党政治家は、かつて訪米して「外交通」を喧伝してきた。ドイツ政界が、日本訪問をそれなりのステータスとしているのは、日本の変わらぬ対中政策にある。欧州は、市場の狭隘化ゆえに中国をターゲットにしてきた。中国の民主化を信じてきた面もあろう。その点で、日本は「中国研究」の膨大な集積がある。

     

    太平洋戦争前の日本は、旧満鉄調査部が中国の社会構造を徹底的に実証分析した。いわゆる社会学の側面から研究したので、「中国社会」を立体的に捉える学問的データの蓄積がある。多くの若い社会学者が中国農村へ派遣され、家族制度などを個別調査したのだ。その集積は、中国研究者も及ばないところとされる。日本政府は、この80年以上も過去の研究成果を引き継いでいるのだ。

     

    日本が、中国主導の「一帯一路」や「AIIB」(アジア・インフラ投資銀行)にも参加しなかったのは、中国社会=中国共産党の内面を深く研究していた結果だ。日本の国公立大学が一校も「孔子学院」を開設していない理由も文科省の示唆があったことにあろう。つまり、中国を要注意先と見てきたのだ。

     

    ドイツは、日本のこういう戦前からの中国との関わりを知れば、日本へ「お知恵拝借」と言ってくることは自然の流れであろう。

     

    (2)「訪日では日本の政界だけでなく、企業や学者らとも幅広く議論する。脱炭素・脱原発・エネルギーの脱ロシアの三兎(と)を追うドイツだけに「再生可能エネルギーでの協力拡大」を期待する。政治家として「孤独と高齢化」という社会問題の解決に取り組んでおり、日本と「戦略や方策といった知見を交換し、交流を深めたい」という」

     

    ヴュスト氏は、政界だけでなく企業や学者らとも幅広く議論するという。その狙いは、日本の中国観を知りたいのであろう。多分、ドイツの中国観とはかけ離れているはずだ。ドイツはソロバンを弾いているが、日本はそれを超えた中国共産党の「真贋」に触れている。かつて、日本へペコペコした中国が、現在は威嚇するように変わってきた。国家として、信頼するに値しない振る舞いが多いのだ。こういう中国をどう扱うかだ。

     

    (3)「中央政界、地方政界を問わず、訪日が外交上の得点につながるというドイツ政治の空気は、アジア政策の転換を象徴する。CDUのライバル政党で中道左派・ドイツ社会民主党(SPD)出身のショルツ首相は今年3月、日本経済新聞の単独インタビューに日独関係は「新たなステージ」になったと強調した。日本にとって対独関係を深めるチャンスである」

     

    下線部は、ドイツ外交が常識路線へ引き戻された証拠だ。ロシア=中国を友好国として遇してきたドイツが、はたと壁にぶつかりもがいている。その点で、悠然と構えている日本へ、その「秘策」の伝授に預かりたいという気持ちであろう。ドイツは、東ドイツの経験もあり、「共産主義」へ一定の親和性があった。日本は、旧ソ連に「不可侵条約」で裏切られた思いがあり、親日の台湾への「贔屓」意識もある。共産主義に対して、身構える習性ができあがっている。なんと言っても、日本は世界最古の「天皇制」が存在する国だ。共産主義とは、相容れないのだろう。

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    ドイツが4月15日、国内最後の原子力発電所3基が稼働を終える。当初は2022年末の停止を目指していたが、ウクライナ危機に伴うエネルギー不安からショルツ政権は3カ月半の運転延長を認めた。これも期限切れを迎え、電力事業者は原発を電力網から切り離し、名実ともに「脱原発」へ踏み切る。 

    ロシアのウクライナ侵攻によって、ドイツのエネルギー政策は根本からひっくり返された。ロシアへの原油・天然ガス依存体制が不可能になったからだ。このため、一時的に脱原発政策を緩め原発を操業させたが、これも4月15日をもって終了した。原発による電力はゼロになる。 

    ドイツが、エネルギー危機の中で安定した電力源の原発依存をあえて断ち切った理由は、ロシアへのエネルギー依存はあり得ないという強烈なメッセージである。原発の運転には、ロシアからウランを輸入するほかない。これでは、ウクライナへ侵攻したロシアを助けることになる。こういう矛盾を避けて、侵略戦争へ対抗するドイツの意思を示したものだ。同時に、中国による台湾侵攻への厳しい姿勢にも現れている。

     

    ドイツ外相ベーアボック氏は4月14日、中国訪問中に「紛争は平和的に解決されなければならない」と述べ、台湾海峡の緊張を重大な懸念を持って注視していると警告した。中国によるいかなる台湾支配の試みも容認できず、欧州に深刻な影響を及ぼすと表明したのだ。「一方的で暴力的な現状変更は、われわれ欧州人にとって容認できない」と語った。中国外相との共同記者会見の席での発言だ。ドイツの気迫が伝わる。フランスのマクロン大統領発言とは、大きな違いを見せつけた。欧州の盟主は、ドイツという自負心であろう。 

    『日本経済新聞 電子版』(4月15日付)は、「脱原発を完遂、ドイツの意地と政治計算」と題する記事を掲載した。 

    ドイツで15日、すべての原発が稼働をやめる。エネルギー不足が懸念される逆風下で、あえて脱原発を完遂する。背景にあるのは欧州の盟主としての意地と、ロシアに屈しないという政治メッセージだ。エネルギー政策の枠を超え、社会運動という意味合いがあった脱原発の成否は欧州の行方を左右する。

     

    (1)「冷戦期からロシア産エネルギーに頼ってきたドイツ。ロシアのウクライナ侵略で脱ロシアを迫られ、少しでもエネルギーを確保したいはずなのに、なぜ脱原発なのか。代替エネルギーの調達が順調に進んだことや、放射性廃棄物の扱いが問題になったことだけが理由ではない。さまざまな政治計算が底流にある」 

    ドイツとロシアは、帝政時代まで遡ると深い関係だ。ロシア帝政時代、ドイツ人がロシア官僚として働いた経緯がある。それだけに、地政学的にドイツとロシアが組んだら世界を制覇するという分析もあったほどだ。こういう関係のドイツが、敢然としてロシアへ対抗する。強い決意であろう。 

    (2)「まずは外交・安保の観点。脱原発に踏み切らなければどうなるか。「エネルギー不安がある」とみなされる。欧州の盟主としてロシアに弱みは見せられない。燃料の調達も課題になる。開戦前、欧州はウランの4割をロシアおよびロシアに近いカザフスタンから輸入していた。「いまドイツがロシアからウランを買ったらどうなるか想像してみてください」。取材に応じたドイツ政府高官は、そう問いかけてきた。政権のイメージは地に落ちる。ウクライナに重火器を送り、ロシアに融和的という印象が薄れつつあるのに、すべてが台無しになる。逆に自らを律する形で脱ロシア・脱原発の二兎(にと)を追えば欧州連合(EU)諸国への無言の圧力になる。域内の駆け引きでドイツが有利になるとの思惑が透ける」 

    下線部は、重要な意味がある。過去2回、世界戦争を始めたドイツには、民主主義・人道主義の国家として侵略戦争に立ち向かって、信頼を得たいという固い信念がある。ドイツは当初、ロシアのウクライナ侵攻で「日和」った印象を与えたが、今や「歴史の転換期」という認識に変わっている。

     

    (3)「政権のレガシー(遺産)にもなる。連立与党のうち、中道左派・ドイツ社会民主党と環境政党・緑の党には、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。足元でドイツは軍拡に転じ、軍縮は遠のいた。脱原発ぐらい実現しないと支持層に見放されかねない。もともと脱原発は両党が与党だったシュレーダー政権(1998〜2005年)が決めた。ほぼ20年越しの悲願達成といえる」 

    ドイツの政権・与党では、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。脱原発と平和は、二枚看板である。中国に対しても厳しい姿勢である。 


    (4)「将来への不安は残る。工業力は保てるのか。ドイツが沈めば欧州景気のけん引役はいなくなる。だからこそ背水の陣で再生エネ普及に取り組むしかない。域内のエネルギーの相互供給を進め、統合をさらに深めるのも手だろう。「揺らがぬ経済大国」を示すしかない。ドグマ的であっても理想を掲げ、実現を目指すのがドイツ流。通貨ユーロも数十年の準備の末、結実させた。 欧州統合がそうであったように、脱原発も失敗は許されない壮大な実験である」 

    ドイツは第二次世界大戦後、2度の世界大戦を引き起こした「十字架」を背負っている。それだけに強い理想主義が支えだ。西ドイツ時代の1948年に行った通貨改革は、猛威を振るうインフレを封じ込めるための劇薬であったが成功させた。その点で、日本は失敗し、米国の招聘したドッジ氏による「緊縮財政」(ドッジ・ライン:1949年)で対処するほかなかった。ドイツ政策の裏に、理想主義が潜んでいることは疑いない。

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