勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    ドイツ首相を4期16年務めたメルケル氏は、2021年12月に退任した。この間、プーチン・ロシア大統領との会談は、60回を上回ったという。しかも、プーチン氏とは1対1の会談であった。膝つき合わせた議論を交わした関係である。だが、メルケル氏が首相としてモスクワを最後に訪れたのは2021年8月、プーチン氏の対応は変わっていた。これまでの1対1の会談でなくラヴロフ外相を同席させたというのだ。

     

    メルケル氏は、この最後の会談でプーチン氏の真意を知ったという。もはや権力の座を離れるメルケル氏に深入りしないという信号であったのだ。メルケル氏は、それ以前にプーチン氏が欧州の分断を策していることを知っていたが、「ソフトパワー」でそれを防げると信じていたという。つまり、経済関係が平和を維持すると見ていたのである。ドイツは、ロシアから原油や天然ガスを輸入することで密接な関係を築いてきた。だから、ロシアはドイツを裏切ることはないと信じていたのだ。

     

    プーチン氏は、これを逆手に取って、ウクライナ侵攻によって欧州を分断できると見た。ドイツはロシア側について、ウクライナ侵攻を容認すると踏んでいたのである。ここに、プーチン氏は大きな誤算をしたが、ドイツもまた誤算をしたのだ。経済関係が蜜であれば、平和を維持できるという甘い期待である。侵略者には、こういう「合理的期待」が成立しないことを立証した。

     

    英『BBC』(12月3日付)は、「欧州はアメリカなしでは大変なことに、単独ではロシアに対抗できずーフィンランド首相」と題する記事を掲載した。

     

    オーストラリア訪問中のマリン首相は、「容赦なく正直に申し上げる必要がある。今の欧州は力が足りない」、「アメリカなしでは大変なことになっていた」と発言した。

     

    (1)「シンクタンクのロウイー研究所で講演したマリン首相は、「アメリカはウクライナにたくさんの武器と資金支援と人道支援を提供してきた。欧州にはまだ力が足りない」と述べた。さらに、欧州の防衛力について、確実に能力を増強し「欧州の防衛産業を強化し、さまざまな状況に対応できるようにしなくてはならない」と強調した」

     

    これまでの欧州は、何かにつけて米国と対立してきた。だが、今回のロシアのウクライナ侵攻で、両者は対立から協力へと大きく変わっている。プーチン氏が、最も見誤った点であろう。米国は覇権国家として、世界の秩序維持に責任を負う立場だ。ロシアを信じ切ってきた欧州には、ウクライナ侵攻が晴天の霹靂であった。

     

    (2)「マリン首相は加えて、一部の欧州諸国が近年、ロシアとの関係を強化しようとしてきたと批判。「欧州は長いこと対ロ戦略を築いていた(中略)ロシアからエネルギーを買って、経済関係を緊密にすれば、戦争が防げると思っていた」ものの、この考えは「まったく間違っていたと証明されてしまった」と述べた」

     

    このパラグラフは、ドイツのメルケル前首相を指している。メルケル氏は、筋金入りの「反米主義者」であった。米国が嫌いだったのだ。一方、帝政時代から独ロは密接な関係にあった。米国は、ドイツがエネルギー政策でロシアに大きく依存することの危険性を早くから警告していたが、馬耳東風で聞き流してきた。それが、今回の「エネルギー危機」に繋がった背景だ。ドイツが現在、米国へ最敬礼している理由である。

     

    (3)「マリン首相はこれについて、欧州諸国はポーランドやバルト諸国の警告に耳を傾けるべきだったと指摘。ロシアに近い各国は、ロシアがウクライナ侵攻となると「経済関係など気にしていない、制裁など気にしていない、そういう諸々は一切気にしていない」のだと、かねて警告していたと、マリン氏は強調した。さらに、欧州諸国の軍備がウクライナ支援によって縮小する中、マリン首相は欧州各国が手元の軍備を強化する必要があると強調した」

     

    ポーランドとバルト三国は、ロシアの残忍性を最も知っているだけに、ロシアへの警戒感はもっとも強かった。ポーランドは、ロシアのウクライナ侵攻を最も早くから警告してきた国である。今回のロシア産原油価格の上限制決定で、事実上の主導権を握っていたのはポーランドである。EUが、ポーランドに敬意を表したとも言えるだろう。

     

    (4)「最近では、ロシアと国境を接するエストニアなどから、それをGDP比3%に増やすよう求める声も出ている。ロシアと1300キロ以上にわたって国境を接するフィンランドは今年、スウェーデンと共に正式にNATO加盟を申請した。NATO加盟30カ国は7月にフィンランドとスウェーデンの加盟議定書に署名。全部30カ国が国内の批准手続きを終えれば、両国はNATO加盟国になる」。

     

    ロシアはこれまで、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を絶対許さないという姿勢であった。現在のロシアには、前記二ヶ国へ攻め込む軍事力すらないほど消耗している。ウクライナ侵攻で、ロシアの国力は大きく落込んでおり、回復のメドは立たないほどだ。

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    西側諸国にとって、ロシアのウクライナ侵攻が中国の台湾侵攻リスクを高めている。こうして、中国警戒論が強まると共に、ドイツでも中国との関係見直しが強まってきた。ドイツ・ショルツ政権では、連立を組む「緑の党」などが中国との関係見直しを主張している。時代は、大きく転換した。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月27日付)は、「ドイツ産業界と中国企業の蜜月関係に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    長年にわたって中国向けの売り上げを急増させてきたドイツの中小企業の多くが、中国でのビジネスの見直しを迫られている。「ミッテルシュタント」と呼ばれるドイツの中小企業が、かつてのように中国事業による利益に頼れなくなってきている、と在中国欧州連合(EU)商工会議所のイェルク・ヴットケ会頭は指摘する。「(中国との)蜜月関係は終わった」

     

    (1)「ドイツと中国は、世界で最も互恵的な貿易関係の一つを築いたが、今やそれが崩れ去ろうとしている。ドイツ企業は中国の輸出企業に機械を供給することで利益を上げ、中国メーカーはドイツ製の機械を使ってグローバル・サプライチェーンのなかで重要な地位を占めるようになった。21世紀初め以来の20年余りで、中国はドイツにとって主要な海外市場になった。この間、ドイツの輸出全体に占める中国のシェアは、1%強から7.%まで増えた。ドイツの対中国輸出は、2021年に1000億ユーロ(約14.7兆円)を超え、米国に次ぐ第2の輸出市場になった」

     

    ドイツの前首相メルケル氏は、中国と蜜月関係を結び、ドイツ企業の中国進出をバックアップした。中国企業は、ドイツ製機械を輸入して製品輸出を促進した。ドイツ・中国は、ウイン・ウインの関係であったのだ。

     

    (2)「ベルリンにあるグローバル公共政策研究所のトルステン・ベナー所長は、中国との互恵的な経済関係は、16年続いたメルケル前政権の後期にみられた「ドイツ経済モデルの黄金時代」を形成した重要な要素だったと分析する。ブリュッセルに本拠を置くシンクタンク、ブリューゲルのシニアエコノミスト、アリシア・ガルシア=ヘレロ氏は、ともに輸出大国であるドイツと中国の関係にあった高揚感は、ドイツの対中輸出が減少し始めたことで、落胆ムードに変わりつつある、という。「中国の製造業が、付加価値の高い事業へと急速にシフトしたことで、ドイツでは貿易黒字が縮小し、産業競争力の一部が失われつつある」のだ」

     

    中国は、輸入代替を進めて国内で機械の生産を始めている。これは、経済成長過程では通常、起こる現象である。日本も「一号機」を輸入して、後は国産化することで輸入を減らすことに成功してきた。ドイツにとっては、中国での輸入代替はデメリットになる。こうして、蜜月関係も終焉へ向かうのだ。

     

    (3)「現在、両国関係全般には、微妙な影が差し始めている。ロシアによるウクライナ侵攻は、ドイツ国内の対中批判派をさらに勢いづけている。彼らは、ドイツの対中経済関係が外交目標を圧倒しており、将来、地政学面で敵対すると予想される国を手助けするかたちになっている、と主張している」

     

    ドイツにとって、ウイン・ウインの関係終了と同時に、中国の地政学的なリスクが持ち上がってきた。中国の台湾侵攻は、既定事実化されており、ドイツの中国離れは決定的になってきた。

     

    (4)「ウクライナでの戦争は、中国が台湾に侵攻した場合に中国に科せられる国際的な経済制裁のリスクを浮き彫りにした。米中のデカップリング(分断)によって、多くの企業は中国企業に代わるサプライヤーを探し始めている。ドイツ機械工業連盟(VDMA)が21年に実施した調査では、3分の1強の加盟企業が、デカップリングが原因で取引関係を見直していると答えた。ヘッセンに本拠を置く電子部品メーカー、マグネテック社は中国で13年間工場を操業してきたが、制裁リスクを考慮して2つ目の工場を建設する計画を中止した」

     

    ドイツ機械工業連盟では、3分の1が中国との取引見直しに入っている。手早い対応である。この裏には、中国との取引で利益が出ないという事実もあろう。

     

    (5)「米調査会社ロジウム・グループのノア・バーキン編集長バーキン氏は、中国がドイツ企業にとって「確実な勝ち勝負」だった時代は終わったと語る。「まだ完全撤退しているわけではないが、企業は、地政学的な逆風から事業を守る方法を模索している」と同氏はいう。「なかには中国から去らなければならなくなる時に備えている企業もある」と指摘する」

     

    中国は、台湾侵攻の御旗を高く上げたがゆえに、これを嫌うドイツ企業が脱出の動きを始めている。習氏は、経済的デメリットを自ら生む「オウンゴール」をもたらしている。習氏の近眼が、招いた損失である。

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    EU(欧州連合)で最大の経済大国のドイツが、ウクライナへの武器供与で他国に比べて「ワンテンポ」遅れている。対ロシア関係への配慮が働いていると見られる。ショルツ首相は、「歴史的大転換」とロシアへの姿勢を180度切り変えると宣言したものの、やっぱり、拘りがあるようだ。ウクライナは、この点を鋭く批判している。

     

    ウクライナのドミトロ・クレバ外相は13日、ドイツが兵器の提供を止めていることを批判。「合理的な議論はひとつもなく、抽象的な恐怖と言い訳があるだけだ」とツイートした。また、ドイツは8月までに、ウクライナに12億ドル以上の軍事支援を行った。大きな額だが、イギリスやアメリカよりはるかに少なく、経済規模の小さいポーランドよりも少ないのだ。

     


    ショルツ氏は14日、ドイツがウクライナに提供した武器が「決定的」な効果を生み、ウクライナ東部で「状況を変えた」と大見得を切った。だが、前述のようにウクライナ支援実態は、ポーランドよりも少ないことから、ドイツ与党も戦車を供与すべきという議論が高まっている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(9月15付)は、「ドイツ与党、政府に『ウクライナへ戦車供与』求める」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナが反攻作戦を成功させたことを受けて、ウクライナへの戦車の供与を拒むドイツのショルツ首相に再考を求める圧力が高まっている。連立与党からも政策を疑問視する声が上がる。ウクライナへの武器供与について、ショルツ氏は慎重な姿勢を保ってきた。自走式の榴弾(りゅうだん)砲や対空砲を供与しているドイツ政府は15日、多連装ロケットシステム2基と装甲車50台を追加提供すると発表した。だが、ショルツ氏は戦車の供与には踏み込まなかった。

     


    (1)「12日にランブレヒト国防相が、西側製戦車をウクライナ軍に供与している国はなく、「我が国は連携する国々との間で、ドイツが単独でそうすることはないとの了解に至っている」と述べ、従来の方針を改めて示していた。だが、ウクライナ北東部でのロシア軍の敗走を受けて、政策の転換を求める声が広がった。ロシアにとっては、首都キーウ(キエフ)と北部からの撤退を余儀なくされた3月以来の大敗北だ。北大西洋条約機構(NATO)内では、ウクライナ軍の装備が充実すればさらに多くの領土を解放できるとして、当局者が武器供与の大幅な拡大を求める国が増えている。長射程の米国製高機動ロケット砲システム「ハイマース」など、西側の兵器がウクライナの作戦成功に大きな役割を果たしていることも指摘されている」

     

    ドイツ製戦車は、高性能で知られている。ウクライナ軍が、北東部でロシア軍を敗走させた実績を背景に、ドイツ製戦車を供与して占領地奪還を進めろという議論が起こっている。

     


    (2)「専門家からは、反転攻勢でウクライナ軍の展開範囲が広がりすぎ、延びる一方の補給路をロシア軍に狙われやすくなる恐れがあるとの指摘も出ており、米国の「M1A2エイブラムス」や英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト」といった西側製の戦車や装軌車両を提供すべきだとする論拠になっている。「ウクライナの領土奪還にはスピードと防御、火力が求められる。その方法は装甲車両と火砲、防空、戦車を一体化させること以外にない」と指摘するのはドイツ国際安全保障問題研究所(SWP)の防衛アナリスト、クラウディア・メージャー氏だ」

     

    下線のように、ウクライナの領土奪回には「装甲車両と火砲、防空、戦車の一体化」作戦が不可欠としている。ドイツ製戦車が、その重責の一端を担うとして注目されているものだ。

     


    (3)「米国も、ドイツはもっとできるはずだと示唆している。「私はドイツがしていることの全てに敬意を表し、たたえる。それを上回るのは、ただひとつ。私がドイツと米国に行動を期待しているものが前に動くということだ」。米国のガットマン駐独大使は11日、独公共放送ZDFの番組で語った。「私たちはこれまで以上のことをする。もっとしなければならない」と指摘する」

     

    米英は、ウクライナ軍へ積極的な支援をしている。EUの大国ドイツも、国格に相応しい武器支援を求められている。

     

    (4)「ドイツのベーアボック外相も14日、武器供与に関する政策転換の可能性を示唆した。「新鋭戦車に関しては、私たちは連立政権内で、そして国際的に協調して決断を下さなければならない」と同氏は独紙フランクフルター・アルゲマイネに語った。「とはいえ、ウクライナが決定的な局面に差しかかった今、長く先送りすべき決断ではないと思っている」。ドイツ連邦議会のツィマーマン国防委員長(自由民主党)はさらに踏み込み、12日に地元ラジオ局の番組で「このような戦況において、ウクライナの成功は現在必要とする武器を得ることによってのみ支えられるということを、いまだに理解していない」全ての人たちに訴えかけると語った」

     

    ウクライナ軍による北東部での奪回作戦成功は、当のウクライナだけでなく、西側諸国全体に勇気と希望を与えた。このチャンスを生かして、ウクライナ軍の勝利を不動のものにするには、それに相応しい武器が必要である。ドイツも、戦車供与の要請に応える時期に来た。

     


    (5)「ショルツ氏自身のドイツ社会民主党(SPD)も、戦車供与に関して柔軟性を示し始めている。連邦議会で外交委員長を務める同党所属のミヒャエル・ロート氏は、西側製の戦車や歩兵戦闘車を供与した国はまだないというのは事実だと述べた。「だが、そのような取り決めは不動のものではない」と同氏は地元ラジオ局の番組で語った。「したがって我々は米国と話し合い、ほかに何を提供できるか答えを見つけ出すべきだ」と指摘」

     

    ショルツ氏出身のドイツ社会民主党(SPD)も、戦車供与に柔軟姿勢になっている。ウクライナ軍の「勝ち戦」が、こういう環境を作っているのだ。

     

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    習近平氏は、取り返しの付かない外交的な失敗を重ねている。年齢的に1歳しか違わないロシアのプーチン氏と「二人三脚」で、世界秩序への挑戦を夢見てきた。だが、プーチン氏のウクライナ侵攻という時ならぬ暴走で、計画は水を浴びせられた形である。本人が、そのように自覚しているかどうかと関わりなく、西側諸国は「中ロ枢軸」と一本化して警戒感を強めている。習氏は、選ぶ相手を間違えたのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月13日付)は、「台湾が迫る欧州の覚悟」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ空軍が異例の訓練を始める。その名は「ラピッド・パシフィック2022」。遠く離れた太平洋に航空部隊を送る。主力戦闘機ユーロファイターと空中給油機、戦術輸送機がインドなどを経てシンガポールへ。オーストラリアや韓国、そして9月末には日本に立ち寄り、ドイツ空軍がアジアでも活動できることを証明する。

     


    (1)「戦闘能力のある航空機を戦後初めてインド太平洋に展開する狙いはなにか。「多様性や国際秩序を守る、という価値観を安全保障上のパートナーとともに示したい」と独国防省報道官は取材に答えた。中国へのけん制にほかならない。2021年にフリゲート艦を極東に派遣したのに続く政治メッセージとなる」

     

    中国と経済関係を強めているドイツが、中独の関係見直しに入っている。理由は、中ロの一体化だ。欧州は、ロシアのウクライナ侵攻で大揺れだが、そのロシアを支援する中国は、欧州の「敵」という認識である。「敵の味方は、敵である」とする理屈付だ。

     

    (2)「中国偏重とされたドイツは変わった。戦後ドイツで平和主義を唱え、共産圏融和策(東方政策)を掲げてきた与党・社会民主党(SPD)が方針を転換した。強権国家と深く付き合い過ぎるとどうなるか。1970年代から半世紀にわたってエネルギーをロシアに頼ってきたドイツは、いま脱ロシアで四苦八苦する。SPD重鎮のミュラー連邦議会議員(前ベルリン州首相)は取材に力説した。「(ドイツは)中国に依存してはいけない。それが今回のロシア・ウクライナ危機からの教訓だ」と指摘する」

     

    ロシアのウクライナ侵攻は、欧州がロシアへ科した経済制裁とからみ、欧州経済にも大きな動揺を来たしている。中国は、ロシアと同じ政治体質だけに、いつロシア同様の「台湾侵攻」を始めるかも知れないとする「危機連鎖」に身構えるようになった。火事の「延焼」を防ぐという認識に変わったのだ。

     


    (3)「ドイツですら中国離れが進むなか、ほかの欧州諸国は推して知るべし。「目先の心配はロシアだが、長期的には中国の脅威のほうが大きい」(フランスのガトレン上院議員)という見方は欧州政界に広がる。だからこそ、模様眺めをしていた欧州が、台湾問題でも米国に寄り添った。ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国が実弾を使った軍事演習で応じると欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が批判した。「正当化できない」。フランス外務省も「秩序の尊重」を中国に求めた」

     

    ペロシ米下院議長の訪台へ反発する中国は、台湾を封鎖する形での演習で世界を驚かせた。ウクライナと同じ侵攻が、台湾でも起ころうることを世界へ認識させたのである。

     


    (4)「ロシアの脅威に直面する欧州は、「大西洋同盟」と称する米国との絆の大切さを再認識した。対ロシアで後ろ盾になってもらう米国。その米国が、中国と対峙するなら支えざるを得ない――。そう覚悟しつつある。連携を深める米欧にくさびを打ち込もうと、中国は欧州各国に2国間協議を持ちかけているようだ。民主主義陣営の分断を誘うのが強権国家の常とう手段。欧州はのらりくらりとかわす」

     

    欧州は、ロシア脅威への対抗策として、米国の後ろ盾が必要である。その米国は、アジアで中国と対抗せざるを得ない事態だ。こういう世界の危機において、欧州は米国による支援を必要とする以上、米国をアジアで支援する「ギブ・アンド・テイク」が必要という認識に目覚めたのである。大きな前進である。

     


    (5)「台湾は、この状況を好機とみる。5月、経済部(経済省)の陳正祺・政務次官がリトアニアを訪れ、「産業協力ラウンドテーブル」を開いた。企業の連携を後押ししたい、と同次官は日本経済新聞に意欲を示した。もっとも、欧州経済にとって脱中国は脱ロシアよりはるかに難しい。今秋の共産党大会後に、中国が柔軟になるとの淡い期待を抱き、ひとまず中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」政策は堅持する。英国の次期首相に名乗りを上げたトラス外相は、自他共に認める対中強硬派。それでも「首相として台湾を訪問するつもりはない」と英テレビで宣言した」

     

    ドイツは経済面で、中国と距離を置くと言っても慎重に行なわなければならない。欧州と中国の相互依存関係が、すでに出来上がっているためだ。この関係を徐々に薄めていくというのである。ただ、中国が台湾へ侵攻すれば、有無を言わせずに希薄化される。そのショックが大きくならぬように、関係を薄めることになろう。

     


    (6)「ドイツでは、親台湾の国会議員が超党派で訪台を計画中だ。この議員団は、「ベルリン台北 議員の友達グループ」という妙な名称で活動する。「ドイツ台湾議員連盟」という公的色彩の濃いものに改称しようとしたが独議会に却下されたという。グループ代表のウィルシュ議員が取材に明かした。極東は、欧州にとって伝統的な関心領域ではない。蓄積が浅いから迷い、試行錯誤しながら対中政策を探る。日本を含めアジアの民主主義陣営には、チャンスといえる。将来の有事に備え、いまこそ欧州との絆を深めるべきだ」

     

    NATO(北大西洋条約機構)は、すでに中国を警戒すべき国家に上げている。具体的には、NATOと日本・豪州・韓国・NZ(ニュージーランド)との関係強化にある。いずれ、台湾もこの対象に加えられよう。事態は、ここまで進んでいるのだ。

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    11年前のドイツでは、17カ所の原発が国内の電力の約4分の1を供給していた。しかし2011年に福島の原発事故を受けて、アンゲラ・メルケル前首相は原発の段階的廃止を決めた。現在残っている原発は3カ所だが、年内に操業を停止する。経済、気候変動問題、地政学の観点から見て、原発ゼロは極めて難しい状況になった。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月8日付)は、「原発を支持し始めたドイツ人」と題する社説を掲載した。

     

    ドイツのエネルギー政策は欧州経済が直面する最大の脅威の一つだが、希望の兆しがあるとすれば、それはドイツの有権者がそれに気付き始めていることだ。最近の世論調査では、これまで原子力発電に懐疑的だった同国で、原子力を支持するコンセンサスが固まりつつあることが示唆されている。ベルリンの政治家たちも理解が追いついてくれるといいのだが。

     


    (1)「現在の主な論点は、残り3基の原子炉の運転期間を延長するかどうかだ。これらの原子炉は、ドイツ国内の電力需要の約6%をまかなっているが、年末に運転を停止する予定となっている。独誌シュピーゲルが週末に公表した調査によると、回答者の約78%が少なくとも2023年夏までの稼働延長を支持し、67%は5年間の延長を支持している。世論調査会社インフラテスト・ディマップがドイツ公共放送連盟(ARD)の委託で行い、先週発表された世論調査でも、同程度の支持があった。およそ82%の回答者は原子力発電所の稼働延長に賛成し、うち半数は「数カ月間」、残りの半数はより長期間の延長に賛成した。これは同社の6月の調査で原発の稼働延長に賛成した61%を上回った」

     

    ドイツが、「反原発政策」を貫いてきた裏には、ロシア産天然ガスへの依存があった。ドイツは、同盟諸国の反対にもかかわらず、ロシアからのガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」計画を断固として支持してきた。プーチン・ロシア大統領による欧米諸国への対抗姿勢を敢えて無視したのだ。今や、ロシアのウクライナ侵攻で、ドイツのロシア観は根本から修正を迫られ、原発政策へ回帰せざるを得なくさせている。ドイツ国民も、いち早く原発賛成に変わったのだ。

     


    (2)「反原発の緑の党の党員でさえ、態度を変えている。緑の党への支持を自認している有権者のうち68%は最新の調査で原発の稼働延長を支持した。これは6月時点の38%を上回った。ドイツ人の心変わりになぜこれほどの時間がかかったのかと尋ねる人がいるかもしれない。アンゲラ・メルケル前首相は、福島の原発事故を受けて、2011年に原発の段階的廃止に動き出した。ドイツの有権者は選挙で少しも不満の意を示すことなく、これが進むのを容認した。彼らは、再生可能エネルギーでは工業中心の経済に十分な電力を供給できないことや、天然ガスへの依存によってドイツがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して脆弱(ぜいじゃく)になることを気にかけなかった」

     

    原発に反対するドイツ「緑の党」の党員でさえ、態度を変えて原発を受入れるとしている。韓国の文政権(当時)も、今年2月に「反原発」の旗を引っ込めたほど。EU(欧州連合)では、クリーンエネルギーとして、自然エネルギーと一緒に原発を認めることになった。ウクライナ侵攻を受けて、原発は息を吹き返しているのだ。これは、ロシアにとって市場を失うことを意味するだけに、重大な変化である。

     

    (3)「ドイツ国民が、原子力への支持を新たに強めていることは、政治が主導しない中での傾向だけに一層注目に値する。現首相のオラフ・ショルツ氏は優柔不断な姿勢であり、緑の党から入閣したロベルト・ハーベック経済・気候保護相も、原発の運転期間延長が安全なのか、必要なのかについて、判断をちゅうちょしている。ドイツの有権者らは、プーチン氏が始めたウクライナ侵略戦争がもたらした打撃や、ドイツ政府が20年かけて進めてきたグリーンエネルギーへの移行計画の失敗によるコストが分かるようになり、現実に目覚めつつある。ドイツと欧州の経済の行方は、市民が示したこうした流れを政治指導者らも理解するかどうかにかかっている」

     

    ドイツはこれまで、EUの「環境的に持続可能な経済活動」のリストに原子力を入れないよう圧力を掛けてきた。だが、上述のようにドイツの主張は、EU全体の意思とはならず敗北した。ロシアのウクライナ侵攻が、原発を復活させた主因である。

     

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