勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: イタリア経済ニュース時評

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    G7(主要7カ国)の中で、中国の一帯一路へ加盟しているのはイタリアだけである。イタリアは2019年、恒常的な対中貿易赤字を解消させるべく一帯一路へ加盟したが、貿易赤字は逆に拡大する結果となった。堪り兼ねたイタリアは、一帯一路からの離脱を中国へ伝える方針だ。 

    イタリア政府は、これまで一帯一路から離脱する意思を固めていた。米国へも今年5月の時点で知らせていた。 

    イタリアは米国に対し、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から年内に離脱する意向を示唆した。イタリアのメローニ首相が5月初め、マッカーシー米下院議長とローマで会談した際、まだ最終決定はしていないとしつつ、一帯一路から離脱することを政府として支持していると述べたという。『ブルームバーグ』(5月9日付)が報じた。

     

    イタリアはコンテ政権時代の2019年、主要7カ国(G7)構成国として唯一、一帯一路に参画した。あえて離脱手続きをとらない限り、参加協定は2024年に自動更新される。それだけに、自動更新前に中国へ知らせて「円満離脱」を図っている。 

    イタリアは、欧州の大半の国と同様に米中の緊張悪化の板挟みに遭っている。中国が、ロシア支持を続けていることも問題を難しくしている。この結果、米国はイタリアに対し、一帯一路から離脱するよう積極的に働き掛けてきた事実がある。 

    『ブルームバーグ』(9月3日付)は、「イタリア外相が訪中波風立てずに『一帯一路』離脱する道を模索」と題する記事を掲載した。 

    イタリアのタヤーニ副首相兼外相は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱するための環境を整えながら、世界2位の経済大国と対立する事態を避けるというバランスの難しい任務を携えて中国を訪問している。

     

    (1)「9月2日から3日間の日程で予定されている訪中では、王毅外相ら中国高官らと会談し、一帯一路離脱の可能性を協議するという。2019年に締結した合意は、期待通りの結果を出せなかったと、タヤーニ副首相は中国に向けて出発する直前に述べた。「一帯一路は過去の決定だ」とタヤーニ氏は2日、国際経済フォーラムが開催されたイタリアのチェルノッビオでブルームバーグテレビジョンとのインタビューで発言した。これについてイタリアがどのような決断を下そうとも「反中国のメッセージにはならない」と述べた」 

    イタリアが、一帯一路からの離脱を決意したのは、米国からの働きかけだけではない。イタリアの対中貿易赤字が、一帯一路へ参加した2019年当時から現在(2022年)まで倍増していることが決め手になっている。 

    イタリアの対中貿易赤字は、次のような推移である。

    2022年 赤字329億ドル

      21年 赤字152億ドル

      20年 赤字146億ドル

      19年 赤字140億ドル

      18年 赤字153億ドル

      17年 赤字117億ドル

      16年 赤字135億ドル

      15年 赤字146億ドル

      14年 赤字140億ドル

    出所:IMF

     

    22年の対中貿易赤字は、一帯一路へ参加した19年比で2.35倍である。これでは、一帯一路へ参加した意味はないわけで、イタリア政府が「過去の決定」と言うはずだ。このような結果になったが、当時のイタリア政府はどういう計算をしていたのか。 

    『ブルームバーグ』(2019年3月24日付)は、「イタリアと中国が『一帯一路』で覚書-G7で初、米や欧州から懸念も」と題する記事を掲載した。 

    中国の習近平国家主席は23日、訪問先のイタリアでコンテ首相と会談し、広域経済圏構想「一帯一路」関連のプロジェクトに関する覚書に署名した。主要7カ国(G7)メンバーが同構想に加わるのはイタリアが初めてで、米国や欧州連合(EU)から中国の経済的優位に対する懸念が出ている。 

    (2)「イタリアのディマイオ副首相によると、同国と中国の企業は10項目に合意し、その規模は最大200憶ユーロ(約2兆4850億円)に上る。ローマのビラ・マダマで行われた署名式では、コンテ首相と習主席が両国国旗と欧州旗の前に座った。テレビで生中継された両首脳の会談でコンテ首相は、イタリアと中国は「より有効な関係を構築し、既に良好な関係をさらに向上させる」必要があると述べた」 

    中国は、一帯一路でイタリアと10項目の協定を結んだが、ほとんど空手形に終わっている。少なくも貿易赤字縮小の成果が現れれば良かったが、全く逆の結果になってイタリアの熱が冷めた。ただ、相手は中国である。いかなる報復があるか分らない。イタリアは、「反社組織」と手を切るように慎重である。

     

    (3)米国は、中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を第5世代(5G)移動通信網の構築から外すよう同盟国に働き掛けている。イタリアのポピュリスト政権が、中国とインフラプロジェクトで協力する姿勢に懸念を示している。また、フランスのマクロン大統領は21日のEU首脳会議の場で、「私は大統領に就任した時から欧州の主権の擁護を訴えている」と語っていた」 

    米国は、ファーウェイの「5G」導入に神経を使ってきた。「5G」には、「バックドア」が仕掛けられていることを豪州が発見し米国へ通報して大騒ぎになった経緯がある。中国がその後、豪州へ経済制裁を加えたが、明らかにこれの復讐である。中国の福島問題騒ぎは、日本が中国へ先端半導体製造装置の輸出禁止に踏み切ったことへの報復である。

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    ガラス細工のように、力を加えれば壊れる。NATO(北大西洋条約機構)は、このように見られてきた。1991年にソ連が崩壊して、「主敵」を失ったからである。ロシアのプーチン大統領も、NATOがバラバラであると読んでいた。ウクライナへ侵攻しても、NATOは反撃しないと見ていたのである。

     

    皮肉にも、プーチン氏がNATOを結束させた。軍事的安定を第一とする欧州で、ロシアが隣国ロシアへ侵攻する事態を迎え、一気に危機感が高まったのである。逆説的には、プーチン氏がNATOを結束させたのである。

     

    NATOの中でも、イタリアはドイツと並んでロシアと親しい関係にあった。天然ガスでロシアへ大きく依存していたからだ。そのイタリアが、反ロシアへ舵を切った。ドイツも同様に、「親ロシア」の夢が破れて、反ロシアへと足並みを揃えたのだ。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(5月2日付)は、「ロシアのクリミア併合称賛のイタリア たもと分かつ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが2014年にクリミア半島を一方的に併合した翌年、イタリアのベルルスコーニ元首相はこの半島を訪れ、ロシアのプーチン大統領と面談した。ベルルスコーニ氏はイタリアに戻ると、クリミア併合を支持し、ロシア政府に対する欧州連合(EU)の制裁措置を批判して、プーチン大統領の指導力を称賛した。

     

    (1)「ベルルスコーニ氏は、当時すでに首相ではなかった。同氏が、クリミアに赴いたことは、イタリアの政治家やビジネスエリートとロシアとの間の強い絆を示すものだった。イタリア政府は伝統的に、EUと緊張関係にあるロシア政府に共感を抱いてきた。しかし、2月24日のウクライナ侵攻以降、イタリアはロシア政府へのこのような気遣いを一切見せなくなった。ドラギ首相のもと、イタリアはロシアに対して強硬な姿勢を示している。イタリア企業も懲罰的な対ロ制裁について沈黙を保っている」

     


    イタリアの元首相ベルルスコーニ氏は、筋金入りの親ロシア派である。自らが経営するイタリア最大手の民間放送局51日の晩に、ロシアのラブロフ外相が生出演したほどである。こういう状況下であるが、イタリア政府はロシアに強硬姿勢を見せている。イタリア企業もロシア制裁に沈黙している。

     

    (2)「ロシアのウクライナへの侵攻と、ロシア軍による残虐行為に恐怖を覚えた国民の反感が、イタリアにこれまでとは違う厳しい対応を取らせている。これほど大きな外交方針の転換は、ドイツが防衛戦略の見直しを進めていることと並び、欧州の近年の歴史の中でも珍しいことだとアナリストは指摘する。イタリアはロシアと、西欧諸国の中で最も友好的な関係を最も古くから築いてきた。そのため過去には欧州の外交関係者から、ロシア政府の攻撃的姿勢に対してEUが厳しい対応をとることを妨げていると非難されてきた」

     

    ロシアのウクライナ侵攻は、親ロシアのイタリアでさえ庇いきれないほど、非人道的行為である。第二次世界大戦後続いてきた欧州の平和が、ロシアによって破られた衝撃は生やさしいものでない。

     


    (3)「今、ドラギ首相のもと、イタリアは長年の友好国と袂(たもと)を分かった。欧州中央銀行(ECB)総裁を務めていたドラギ首相は、ロシアのウクライナ侵攻を、第2次世界大戦後の多国間秩序に対する攻撃だと非難した。イタリアの元駐北大西洋条約機構(NATO)大使ステファノ・ステファニーニ氏は、「ロシアに対する融和的な姿勢で欧州の主流から外れ別の道を行くという、かつてのイタリアはもう見られない。イタリア外交におけるロシアへの見方は根本的に修正されつつある。断行したドラギ首相は称賛に値する。ドラギ政権後もこの方針は変わらないだろう」と語った」

     

    イタリアは、友好国ロシアと袂を分かった。平和を守るという一念からだ。中国は、逆に声援を送っている。このギャップが、欧州の中国不信となっている。

     


    (4)「ドラギ首相は、21年12月の時点では、ウクライナ侵攻の危険性は小さいとしてプーチン大統領と関係を保つことの重要性を強調していた。また、制裁を実施すればイタリアが被る打撃はほかのEU加盟国以上に大きくなると警告した。イタリアは天然ガスの輸入の40%をロシアに頼っている。しかし、2月24日以降、ドラギ首相はウクライナ侵攻を欧州の安全保障に対する深刻な攻撃であると非難している。ウクライナのゼレンスキー大統領の勇気と抵抗を称賛した。さらにドラギ首相は、6430億ドル(約84兆円)にのぼるロシア外貨準備の多くを凍結するというロシア中央銀行に対する厳しい制裁の立案にも協力した」

     

    イタリアの当局は、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)が保有する大型クルーザーや海岸沿いの別荘など総額10億ユーロ(約1380億円)を超える資産を差し押さえた。当局が差し押さえに動いても、イタリアの有力者たちとのコネで守ってもらえるだろうと思っていた人たちにとって衝撃的な出来事となった。

     


    (5)「ドラギ首相は、ウクライナ国民に対してふるわれる暴力に嫌悪感を隠さない。同時に、イタリア国民に対しても犠牲を覚悟するよう促す。4月には「私たちは平和を望むのか、それともエアコンをつけることを望むのか」と問いかけた。イタリア政府は、ほかのEU加盟国が同意するならロシア産エネルギーの禁輸に反対しないと明言している。また、ドラギ首相は最近、プーチン大統領との対話は「無益で時間の無駄だ」という意見に賛成するとイタリア紙に語った」

     

    下線部分は、切実な平和への希求である。第二次世界大戦で、イタリアはドイツ・日本と「枢軸国」を形成して米英仏露など連合国と戦って敗れた経緯がある。平和への思いと責任を痛感せざるを得ない立場にあるのだ。

     

    (6)「ミラノの国際政治研究所が最近実施した調査によると、イタリア国民の約61%が紛争の責任はプーチン大統領にあると考えている。NATOに責任があるとする人は17%、わからないが17%だった。かねてプーチン大統領を称賛しているイタリアの極右政党「同盟」のサルビーニ党首でさえ、プーチン大統領から距離を置いている。ローマのウクライナ大使館前で献花して、憂慮の念を示した」

     

    親ロシア国であったイタリア国民の約61%が、紛争の責任はプーチン大統領にあると考えているという。この過半を占めるロシア責任論は、理由の如何を問わず、戦争をしてはいけないという意思表示である。戦争で奪われた命は、再び戻らないのだ。

     

     

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