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最近の中国による政策は、すべてが空回りしている。習近平氏が鳴り物入りで始めた「一帯一路プロジェクト」は、パキスタンで反政府勢力によってテロ対象になっている。4月26日にカラチ大学で起きた残虐な自爆テロ攻撃が、中国への反抗姿勢を鮮明にした。

 

自爆テロ攻撃によって、中国政府の教育機関「孔子学院」の院長、中国人スタッフらが犠牲になった。バルチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出している。BLAは、南西部バルチスタン州の分離独立を求めており、中国を標的としている。中国が、同州で港湾都市グワダルを建設すべく多額の投資をしていること自体に反対してきた経緯がある。

 


グワダルは、人口10万人程度の街である。中国が、ここへ巨大港湾都市を建設して、いずれ中国が海軍基地へ変貌させるのでないかと観測されていた。インドや米国もその動向に注目してきた場所である。中国が、従来の一帯一路プロジェクトと全く異なる「熱意」を見せていたからだ。以下は,『ロイター』(2018年1月3日付)から引用した。

 

中国はこの港町に、学校を建設し、医師を派遣した。さらに約5億ドルの無償資金協力を通して、新たな空港や病院、大学、そして切実に必要な水道インフラを整備すると約束しているのだ。これは、どう見てもグワダルを中国の「居留地」にする意図を覗わせている。

 

アラビア海に突き出たグワダルの港は、石油や天然ガスを運搬するタンカーが往来する、世界で最も混雑した航路に面している。中国の無償資金協力には、新国際空港の建設費2億3000万ドルが含まれている。これは、中国が海外で行う支援の中でも、最大級のものだと研究者やパキスタン当局者は指摘する。

 

「これほど無償資金協力が集中していることに、本当に驚いている」と語るのはシンクタンクのジャーマン・マーシャル・ファンドに所属し、ワシントンで活動する研究者アンドリュー・スモール氏だ。「中国は、これまで援助や無償資金協力をほとんど行わず、それらを実行する場合でも小規模になりがちだった」と指摘する。

 


中国が、こうした至れり尽くせりの動きをすれば、「グワダルを乗っ取る積もりだろう」と疑われても仕方ない。バルチスタン解放軍(BLA)が、中国を標的にするテロを行なっている裏には、こういう憶測が働いたと見られる。

 

パキスタン政府は昨年10月、グワダルでの反乱活動が活発なため、一帯一路の中心地をカラチへと移動する計画を立てた。それによると、カラチ港で船舶の係留施設の増設、漁港や640ヘクタールにわたる貿易区域の新設というもの。カラチ港と近くの島を結ぶ橋を建設する構想もある。中国は、35億ドル(約4000億円)の投資見込むという。

 

一帯一路プロジェクトが、パキスタン南西部のグワダルから、東部のカラチへと変更された。それにも関わらず、バルチスタン解放軍がパキスタン大学で自爆テロを行なったのは、パキスタンにおける中国事業への反対を意味している。パキスタンと中国にとっては、大きな衝撃であろう。

 

『日本経済新聞』(5月14日付)は、「パキスタンで続く中国標的テロ」と題する記事を掲載した。筆者は、シンガポール S・ラジャラトナム国際研究院 シニアフェロー ラファエロを務めるパントゥッチ氏だ。

 

パキスタンの新首相に4月、シャバズ・シャリフ氏が就任した。シャリフ氏は就任直後、新政権が中国との協力関係を望んでいる趣旨の発言をした。しかし、4月26日にカラチ大学で起きた残虐な自爆テロ攻撃が友好ムードを打ち砕いた。中国政府の教育機関「孔子学院」の院長、中国人スタッフ2人、パキスタン人の運転手が犠牲になった。バルチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出した。

 

(1)「南西部バルチスタン州の分離独立を求めるBLAは現在、もっぱら中国を標的としている。中国は、港湾都市グワダルのある同州で多額の投資をしているためだ。バルチスタン州の分離主義者は中国人を標的に、カラチの中国総領事館や証券取引所などを攻撃してきた。2018年にはバルチスタンに向かう中国人技術者が乗ったバスを爆破した。今回の孔子学院への攻撃は一線を越えている。最大の衝撃は、女性による自爆攻撃だったことだ。実行犯の女性は、高学歴の中産階級出身者で、2人の幼い子供がいた。このことはバルチスタン分離の大義が幅広く受け入れられていることを示している」

 

カラチ大学での自爆テロの犯人は、高学歴の母親である。パキスタンで、中国への非難が高まっている証拠と言える事件だ。

 


(2)「外部勢力が自らの目的のためにバルチスタンの大義を利用し、テロを支援した可能性もある。より大きな問題は、バルチスタン分離主義へのパキスタン国内の支持が高まっていることだ。武装勢力はますます野心的になっているようにみえる。1月には、東部ラホールの市場の爆弾テロで3人が死亡した。2月には、大規模な武装勢力がバルチスタン州の民兵組織の2つの基地を攻撃した。戦闘で少なくとも20人の過激派と9人のパキスタン人兵士が死亡した」

 

パキスタンで、広く反中国ムードが広がれば、一帯一路プロジェクトは頓挫するほかない。陰謀論よりも、パキスタンと中国の関係が行き過ぎていることへの警戒信号と読めるのだ。

 

(3)「孔子学院を標的にすることで、バルチスタンの武装勢力は、パキスタンに居住する数千人の中国人に明確なシグナルを送った。中国人のすべてが標的となっており、パキスタン当局が警護する必要がある人数は大幅に拡大している。攻撃が続けば、中国が自国民をパキスタンへ送るのはますます難しくなるだろう。さらに中国人が繰り返し狙われることで、中国の対パキスタン投資が現地で歓迎されているという神話が崩れる。パキスタンにはより高い透明性と関与が求められる。そうでなければ紛争は飛び火し、最も重要なパートナーである中国との間に問題が生じるだろう」

 

中国が、周辺国へ見せてきた圧力は、民族主義集団を刺激するに十分なものであったのだろう。中国が仕掛けた「債務の罠」によって、発展途上国を食い物にした。こういう中国の無法な政策が、岐路に来ていると見るべきだ。一帯一路プロジェクトは、危機を迎えている。