中国EV(電気自動車)は、世界市場を席巻する勢いだが「メード・イン・チャイナ」は最も低い評価だという。粗製濫造で品質に問題があると指摘されている。中国製リチウムイオン電池の1%以上が、世界中で火災事故を起こしている背景には、こういう品質問題がある。中国製品は、海外の消費者から信頼を得ていないのだ。
『フィナンシャル・タイム』(3月2日付)は、「中国の致命傷は信頼感の低さ」と題する記事を掲載した。
先日、筆者の小型ボートが火事で燃えた。原因は中国製のリチウムイオン電池の過熱か爆発だった。米マーケティングプラットフォームのギトナックスの調べでは、中国製リチウムイオン電池の1%以上が世界中でこうした事故を起こしているという。幸い死亡は報告されていない。品質の評判がよくない国にとって、消費者の記憶に残るありがたくないことだろう。
(1)「筆者は、品質の問題と中国株式市場の不振について、この一件が起こる前からつらつら考えていた。調査会社GfKの欧州市民を対象にした最近の調査では、4割強が車を買う際、最も選びたくないのは中国製だと回答した。なぜか。およそ3割が品質の低さを挙げ、半分近くが「全般的に中国を信用していないから」と答えた。2割は中国製の車は安全ではないと思っていた。中国製品が疎まれるのは当然かどうか本題と関係ない。調査では、ほとんどの回答者が中国製の車を日本製や韓国製、はてはフランス製と混同していることがわかった。ブランド名を隠して運転してもらったところ、違いがわかった人はほとんどいなかった」
欧州市民は、中国を信用していないことも背景にあって、中国製品を忌避している。
(2)「すべてを決めるのは先入観だ。米作家ロバート・パーシグは著書『禅とオートバイ修理技術』の中でこう述べている。「品質とは精神でも物質でもなく、この2つから独立した第3の存在である。(中略)定義することはできないが、それが何であるかを我々は知っている」。知っているというより、知っていると思っているといった方がいいかもしれない。品質に関しては投資家も行動バイアス(非合理的な行動)から逃れられない。例えば、国際的な学術誌インターナショナル・ジャーナル・オブ・リサーチ・イン・マーケティングに掲載された論文には、企業の製品の品質が低下したときの株価の下落幅は、品質が上がったときの上昇幅よりも大きいと記されている」
品質イメージは、製品への信頼によってつくり挙げられていく。品質が、低下した場合の株価の下落は急激である。これは、信頼性低下のショック度が大きさを表している。イメージダウンを示している、
(3)「筆者は、携帯電話やリチウムイオン電池がどのような仕組みで機能するかを知らない。だが、アップルのロゴがついていれば、そんなことはどうでもよくなる。だからこそ、中国の自動車メーカーは相次ぎ、欧米の著名企業との合弁事業に乗り出した。では聞いたこともないメーカーから、すぐに電池が爆発するような小型ボートを買う理由はなんだろう。不安な消費者を引き寄せるもう一つの方法が、非常に安価に売ることだ。消費者が品質の悪さに目をつぶることができるほど安くする(筆者の場合は当てはまらないが)」
ブランドは、品質への信頼性によって培われた結晶であろう。中国EVは、欧米の著名企業と合弁を組み、相手企業のブランドを借用する戦略をとっている。こういう手法が使えない場合、破格の安値で販売して一定の消費者を確保することだ。中国EVは、前記二つの手段を使っている。
(4)「この戦略は、米経営学者の故クレイトン・クリステンセン氏が著書『イノベーションのジレンマ』で論じたように、長期的には多くの場合、成功する。既存企業にとって脅威となるのは、低価格で攻めてくる新規参入者だ。こうした企業は安い製品で市場に参入し、シェアを奪いながら製品の質を高めていく。中国政府のハイテク産業育成策「中国製造2025」は、まさにそうしたやり方を推奨している。とはいえ、「信頼できる」と思う人より「信頼できない」と思う人が多い状態を逆転させるには、残念ながら長い時間がかかる。GfKの調査からわかるように、信頼感の低さは工業製品から政治、金融へと波及もしていく」
価格破壊の手法は、多くの場合に成功している。中国EVは、この手法を使うとみられる。だが、輸入国が障壁を高くすれば防げるが、中国EVは欧州で現地生産して輸入障壁を乗り越えようとしている。ただ、中国を「信頼できない国」とみている人が多ければ、現地生産方式も成功が危ぶまれる。中国は、香港との「一国二制度」を破棄して信頼できない国のレッテルを貼られた。この不信感が、工業製品・政治・金融へと拡散するのだ。