日本、「号砲1発」トヨタ、欧州で本格的EV展開 26年までに15種発売「王座競う」
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中国EV(電気自動車)は、世界市場を席巻する勢いだが「メード・イン・チャイナ」は最も低い評価だという。粗製濫造で品質に問題があると指摘されている。中国製リチウムイオン電池の1%以上が、世界中で火災事故を起こしている背景には、こういう品質問題がある。中国製品は、海外の消費者から信頼を得ていないのだ。
『フィナンシャル・タイム』(3月2日付)は、「中国の致命傷は信頼感の低さ」と題する記事を掲載した。
先日、筆者の小型ボートが火事で燃えた。原因は中国製のリチウムイオン電池の過熱か爆発だった。米マーケティングプラットフォームのギトナックスの調べでは、中国製リチウムイオン電池の1%以上が世界中でこうした事故を起こしているという。幸い死亡は報告されていない。品質の評判がよくない国にとって、消費者の記憶に残るありがたくないことだろう。
(1)「筆者は、品質の問題と中国株式市場の不振について、この一件が起こる前からつらつら考えていた。調査会社GfKの欧州市民を対象にした最近の調査では、4割強が車を買う際、最も選びたくないのは中国製だと回答した。なぜか。およそ3割が品質の低さを挙げ、半分近くが「全般的に中国を信用していないから」と答えた。2割は中国製の車は安全ではないと思っていた。中国製品が疎まれるのは当然かどうか本題と関係ない。調査では、ほとんどの回答者が中国製の車を日本製や韓国製、はてはフランス製と混同していることがわかった。ブランド名を隠して運転してもらったところ、違いがわかった人はほとんどいなかった」
欧州市民は、中国を信用していないことも背景にあって、中国製品を忌避している。
(2)「すべてを決めるのは先入観だ。米作家ロバート・パーシグは著書『禅とオートバイ修理技術』の中でこう述べている。「品質とは精神でも物質でもなく、この2つから独立した第3の存在である。(中略)定義することはできないが、それが何であるかを我々は知っている」。知っているというより、知っていると思っているといった方がいいかもしれない。品質に関しては投資家も行動バイアス(非合理的な行動)から逃れられない。例えば、国際的な学術誌インターナショナル・ジャーナル・オブ・リサーチ・イン・マーケティングに掲載された論文には、企業の製品の品質が低下したときの株価の下落幅は、品質が上がったときの上昇幅よりも大きいと記されている」
品質イメージは、製品への信頼によってつくり挙げられていく。品質が、低下した場合の株価の下落は急激である。これは、信頼性低下のショック度が大きさを表している。イメージダウンを示している、
(3)「筆者は、携帯電話やリチウムイオン電池がどのような仕組みで機能するかを知らない。だが、アップルのロゴがついていれば、そんなことはどうでもよくなる。だからこそ、中国の自動車メーカーは相次ぎ、欧米の著名企業との合弁事業に乗り出した。では聞いたこともないメーカーから、すぐに電池が爆発するような小型ボートを買う理由はなんだろう。不安な消費者を引き寄せるもう一つの方法が、非常に安価に売ることだ。消費者が品質の悪さに目をつぶることができるほど安くする(筆者の場合は当てはまらないが)」
ブランドは、品質への信頼性によって培われた結晶であろう。中国EVは、欧米の著名企業と合弁を組み、相手企業のブランドを借用する戦略をとっている。こういう手法が使えない場合、破格の安値で販売して一定の消費者を確保することだ。中国EVは、前記二つの手段を使っている。
(4)「この戦略は、米経営学者の故クレイトン・クリステンセン氏が著書『イノベーションのジレンマ』で論じたように、長期的には多くの場合、成功する。既存企業にとって脅威となるのは、低価格で攻めてくる新規参入者だ。こうした企業は安い製品で市場に参入し、シェアを奪いながら製品の質を高めていく。中国政府のハイテク産業育成策「中国製造2025」は、まさにそうしたやり方を推奨している。とはいえ、「信頼できる」と思う人より「信頼できない」と思う人が多い状態を逆転させるには、残念ながら長い時間がかかる。GfKの調査からわかるように、信頼感の低さは工業製品から政治、金融へと波及もしていく」
価格破壊の手法は、多くの場合に成功している。中国EVは、この手法を使うとみられる。だが、輸入国が障壁を高くすれば防げるが、中国EVは欧州で現地生産して輸入障壁を乗り越えようとしている。ただ、中国を「信頼できない国」とみている人が多ければ、現地生産方式も成功が危ぶまれる。中国は、香港との「一国二制度」を破棄して信頼できない国のレッテルを貼られた。この不信感が、工業製品・政治・金融へと拡散するのだ。
日本では目下、春闘による賃上げが景気の本格回復の鍵を握るとして最大の関心事になっている。同時に、減少していく労働力をいかに効率的に活用するかも重大問題である。欧州では、離職者対策として「週休3日制」が真剣に検討され、実行に移されている。
日本では、22年10月に政府のワークライフバランス改善要請を受け、パナソニックが従業員6万人余りに対してより柔軟な働き方と週労働日数の削減を導入した。会社側が、提示した選択肢のうち一番人気を集めたのは、従来と同水準の給与をもらいながら、勤務時間をより長めにして週4日に詰め込むパターンであることが分かった。日本でも、週休3日制が定着する可能性を持っている。
『ロイター』(1月28日付)は、「『週休3日』の経済効果、燃え尽きず生産性向上」と題するコラムを掲載した。
労働日数の短縮は、生産性を向上させる鍵になるかもしれない。レイバンで有名なイタリアの眼鏡メーカー、エシロール・ルックスオティカや、英日用品大手ユニリーバなどは現在、週労働日数を減らす実験を続けている。売上高の増加につながり、バーンアウト(燃え尽き)率と離職率の急低下をもたらしている。
(1)「北欧のアイスランドが2015年、いち早く週4日労働制度を導入して4年間続け、国民の大半の働く時間を減らす道筋を示した際に、規模のより大きな国や大手企業はほとんど注目しなかった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な流行で働き方が変化し、一部の経営者や政治家は考えを改めるようになった。実際に打ち出された改革措置は多種多様で、労働日を減らす代わりに1日の勤務時間を増やすやり方もあれば、完全に労働時間を減らす手法も採用されている」
アイルランドが、2015年に始めた週休3日制は世界的な働き方改革の流れに乗って認知されてきた。
(2)「このような変化は、ホワイトカラー層を超えて広がりつつある。イタリアのスポーツカーメーカー、ランボルギーニは同国北部の工場で働く2000人に週労働時間の柔軟化を認める方針だ。欧州の自動車業界では初の試みで、労働者はシフトの割り振りによって週5日を週4日の勤務に転換できる。給与はそのままで、年間労働日数が22─31日減ることになる。ベルギーは22年から労働者が勤務時間を延ばして週労働日数を4日に圧縮することを認めているし、スペインと南アフリカは現在、政府が後押しする形で労働日数削減を試験的に取り入れているが、まだ世界の主流にはなっていない」
「週休3日制」は、ホワイトカラーから労働現場にも広がっている。ベルギーの労働者は、1日の勤務時間を延ばして、週労働日数を4日に圧縮する方法を選択できるようになった。
(3)「各種試験の良好な結果を踏まえ、事態は間もなく変わるのではないだろうか。労働日数削減が従業員に好まれる傾向にあるのは当然だ。イタリアの銀行最大手インテーザ・サンパオロは23年1月から1日9時間の週4日勤務を可能としており、対象従業員の7割に当たるおよそ4万人はこの働き方をずっと続けることを決めた。エシロール・ルックスオティカもイタリアの生産現場の従業員に4月から週4日勤務で年間労働日数を20日減らす制度を認め、圧倒的な数の従業員がこれに賛同している」
イタリアの銀行最大手では、23年1月から1日9時間の週4日勤務を可能とした。従業員の7割に当たるおよそ4万人は、この働き方を選択している。
(4)「経営者にとっても、この仕組みはありがたいはずだ。英国では22年、労働日数を短縮する試験プログラムが半年間実施され、参加した61社(大半は中小企業)の売上高は21年6~12月に比べて平均で35%増加した。コロナ禍後の業況改善も一因とはいえ、目に見える効果だ。同時にこれらの企業の従業員の71%からは、仕事による消耗度が減ったとの報告があり、離職率も前年同期比で57%低下した。こうした中で22年には、ユニリーバがニュージーランドで試験導入した労働日数削減で従業員のストレスが低下し、勤務時間中の活力が増したという結果を受け、オーストラリア工場にも週4日勤務を適用している」
英国では22年、労働日数短縮プログラムが半年間実施され、参加61社の売上高が35%も増えている。従業員の7割は、仕事のストレスが減ったとし離職率が57%も低下した。半世紀も前の大学授業で、いずれ「労働が、『楽働』になるだろう」と教室の黒板に書いた先生がいた。この「予言」が、こういう形で実現するとは予想もできなかった。
(5)「最大の恩恵を受けるのはマクロ経済だろう。週平均労働時間が既に32時間まで減少しているオランダは、生産性の尺度となる1時間当たり国内総生産(GDP)が80ドルで、週平均労働時間が約36時間の英国(59ドル)を大きく上回っていることが、国際労働機関(ILO)の分析で示された。週平均労働時間が34時間のドイツとデンマークの1時間当たりGDPはそれぞれ68ドルと78ドル。21年の日本における調査からは、長時間勤務と残業はチームの生産性に打撃を与えるが、勤務時間が減ると逆に生産性は上がることが分かる」
日本の労働生産性は、国際的にも低いことで有名である。賃金水準の低さが主因だ。ただ、働き方を変えることでこの「汚名」をそそぐことができる。長時間労働は、生産性向上の障害であることが明らかになってきたのだ。
欧州は、中国との経済的結びつきが強いことから、米国のように中国へ「一刀両断」的な行動を取りにくい。中国は、この米欧間の隙をついて離間策を練るのが基本戦略だ。米中対立が激化するほど、中国は欧州へ接近する構図になっている。だが、欧州は米国と価値観で一体である。それだけに、中国に対して本質的には、「異教徒」という立場だ。欧州は、この視点から中国へ二つの外交課題の解決を迫っている。台湾侵攻とロシアへの武器供与についてそれぞれ抑止することである
『ロイター』(6月22日付)は、「欧州の対中国・台湾政策、ウクライナ戦で一層複雑化」と題する記事を掲載した。
昨年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、フランスやドイツなど欧州の主要国はロシアと対峙するため軍事力を強化しようとしている一方、米国との対立を深める中国政府への向き合い方を巡っては意見が分かれている。今月は台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長(外相)も欧州を訪問し、チェコの演説では台湾が独立を維持するには「欧州の友人」が必要だと訴えた。欧州にはバチカン以外に台湾と正式な外交関係を結んでいる国はないが、非公式な接触は急増しており、特に東欧諸国でこうした動きが目立つ。
(1)「バルト三国、ポーランド、チェコを含む東欧諸国は近年、意図的に台湾との関係改善に取り組んでいる。これは欧州委員会のフォンデアライエン委員長、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長がともに進める対中強硬路線の一環だ。EUとNATOはいずれも水面下で、太平洋地域の米同盟国との関係を強化している。今年初めにはNATO国防大学の学長が密かに台湾を訪問したと報じられた。また韓国は東欧、特にポーランドにとってますます重要な兵器供給源に浮上しつつある」
東欧諸国は、中国が一帯一路で経済支援すると約束しながら履行しないことで「立腹」している。その反動で、台湾へ接近している。台湾は約束を守るからだ。欧州諸国の国会議員が相次いで訪台している背景でもある。
(2)「欧州の当局者が明かしたところによると、欧州諸国の政府は経済関係の維持以外に2つの点を最優先課題に据えている。ひとつは中国政府に失うものが大きすぎると分からせて台湾侵攻を断念させること、もうひとつは中国がその工業力を駆使して武器を供給し、ウクライナ戦争でロシアを支援するのを阻止することだ。この2つの目的は米政権も共有しており、今週ブリンケン国務長官を中国に派遣した。ブリンケン氏は習氏と会談し、気候変動などの課題で協力することに合意したが、実質的な事態打開には至らなかった」
欧州は、中国が「軍事国家」になって侵略しないことに外交政策の力点を置いている。台湾侵攻抑止とロシアへの武器供与抑止だ。これが、世界平和実現の必須になっている。
(3)「(欧州では、)中国と米国がアジアで、台湾を巡って大規模な戦争に突入するのではないかとの懸念は今も浮上し続けている。そうした中、ドイツと欧州の指導者は「経済的デカップリング」ではなく、中国への依存を減らす「デリスク」を語っている。ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデンなどは何年もかけて中国政府と緊密な関係を築き、中国企業にインフラやその他企業への出資を働き掛けてきた。例えば中国の国有海運最大手、中国遠洋海運集団(コスコ)がハンブルクの港湾ターミナルの持ち分24.99%を購入することも認めた。同港が扱うコンテナ輸送の3分の1は中国向けだ」
欧州は、旧ソ連崩壊による「平和の配当」に最も浴してきた。中国とも深い経済関係を樹立している。それだけに、ウクライナ侵攻と台湾侵攻予想は青天霹靂である。平和への希求は極めて強い。中国が、このタブーに触れることは「敗北」を意味する。
(4)「ドイツのショルツ首相は今週、中国の李首相と会談後、中国政府が核兵器による威嚇に反対し続けていることに「感謝する」と述べた上で、「この戦争において、ロシアに対してさらに強い影響力を行使すべきだ」と訴えた。中国がロシアに武器を供給しないことが「重要だ」とも付言した。ロシアからの脅威を死活的なものと考えている東欧諸国にとって、中国がロシアに接近し過ぎないようにすることは、それ自体が国家安全保障上の優先事項だ」
ドイツは、中国にロシアへの武器供与をせず、ウクライナ戦争の早期解決に尽力するように圧力を掛けている。
(5)「中国の産業力が味方に付いていなければ、ロシアは消えゆく帝国のようなものだ。一方で、西側諸国間の足並みが乱れるあまり、習氏とプーチン大統領、あるいはその後継者たちの同盟関係がさらに緊密化するようなことがあれば、脅威はずっと高まるかもしれない。中国政府との対話の道を開き続けるなど人が良過ぎる、という見方もあるだろう。しかし少なくとも現状では対話こそが、中国という大砲がウクライナ戦争の力関係を変えてしまうのを防いでいる」
中国が、孤立して疑心暗鬼状態にならぬよう、欧州を初めとする国々は中国と「対話」する必要がある。この単純なことが、抑止力を強くすることともに、平和を守る最低条件となる。