勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時評

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    中国当局は、自動車業界の乱売合戦抑制に苦悩している。今年6月から、手形支払手形サイトを60日に規制して、設備投資抑制に乗り出している。さらに、来年1月から、EV(電気自動車)輸出では、当局の許可を必要とする制度改革を行なう。このように、自動車業界は一挙に規制が増えることになった。狙いは、過剰生産の抑制にある。

     

    こうした事態を受けて、大手EVメーカーは海外での工場建設に向うほかなくなっているが、意外にも海外投資に慎重姿勢をみせている。手形支払手形サイトの60日規制が、フリーキャッシュフロー(FCF=純現金収支)を減らしており、海外投資の余裕を奪い始めたもの。フリーキャッシュフローは、企業が事業活動で得た現金(営業キャッシュフロー)のうち、事業の維持や成長に必要な投資(設備投資キャッシュフロー)を行った後に自由に使える現金だ。事業拡大において重要な指標である。これが、マイナスになる事態は警戒信号である。

     

    『ロイター』(10月3日付)は、「中国自動車メーカーの国外進出攻勢にリスク」と題するコラムを掲載した。

     

    中国自動車メーカーの国外への進出攻勢は既に失速しつつある。米調査会社ロジウム・グループが9月30日に発表した調査によると、中国メーカーの電気自動車(EV)のサプライチェーン(供給網)に対する2024年の国外での投資額は年間として国内投資額を初めて上回った。

     

    (1)「比亜迪(BYD)や競合他社の国外での投資ペースは鈍化している。中国の自動車メーカーと部品供給企業は24年、国内市場で約150億ドルを投じた。国外投資がわずかに上回ったものの、投資額は国内、国外ともに前年比で大幅に減少した。ロジウムの試算によると、14年から25年3月までに発表された総額1430億ドルの国外投資プロジェクトのうち、完了したのは約660億ドル相当のみ。約170億ドル相当は中止されている」

     

    BYDのフリーキャッシュフロー(純現金収支)は、2025年6月30日時点の分析では、マイナス2840億元(約5.9兆円)で資金繰り構造が大きく変化し始めている。これは、事業拡張にブレーキを踏む段階にきたサインだ。要するに、売上高を増やすか設備投資を抑制する以外に、フリーキャッシュフローが黒字化する見通しは立たなくなった。資金繰りで問題が起こる危険ゾーンに入っている。

     

    (2)「貿易障壁の高まりにより、中国製自動車の国外販売は困難を極めている。この状況が経営陣に焦りを生み、国外でのサプライチェーンと生産ラインの確立を急がせている。香港の英字紙『サウスチャイナ ・モーニングポスト』(SCMP)によると、25年の売上高のうち8割を中国本土で稼ぎ出す見込みのBYDは、25年第3・四半期に20年以来の減収となった。同社は現在、タイ、ブラジル、ハンガリー、トルコ、ウズベキスタンで生産能力を増強している。しかし、これは決して容易な解決策ではない」

     

    BYDは、7~9月期に2020年以来の減収になった。これは、営業キャッシュフローを減らしているので、資金繰りが苦しくなっている。

     

    (3)「中南米を例に取ろう。メキシコは150万台規模の自動車市場を持ち、米州に1500万台以上を輸出している成熟した自動車製造拠点だ。しかし、メキシコが輸入自動車部品に最大50%の関税を課したことで、中国企業がメキシコに工場を設立するのは困難になった。必須の自動車部品の輸入コストが高騰する一方、トランプ米大統領が課した輸入関税がメキシコの工場の潜在力を圧迫しているためだ」

     

    中国企業は、対米輸出の前進基地としてメキシコを利用してきた。メキシコは、輸入自動車部品に最大50%の関税を課したことで、中国のメキシコ利用価値が大きく減った。

     

    (4)「BYDは、昨年までメキシコでの工場建設を検討していたが、計画をその後棚上げした。企業は、国外投資計画をより慎重にするだろう。一例として、中国の吉利汽車(ジーリー)がフランスのルノーと今年結んだ提携が挙げられる。これにより、吉利はブラジルにあるルノーの工場の生産ラインの一部を利用できるようになった。中国・安徽省に本社を置く奇瑞汽車(チェリー)も、コロンビアとアルゼンチンで同じような提携を検討中だ。モロッコやトルコのように自国の自動車産業の保護対象が存在しない国々でも、より魅力的な選択肢となりつつある。中国自動車メーカーにとって世界展開は必要不可欠だが、同時に困難も伴う」

     

    中国自動車業界は、海外進出で発展を期しているが、それも関税等の障害が立ちはだかっている。難しい局面にさしかかった。

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    トヨタ自動車は12日、欧州で2025年に電気自動車(EV)を新たに3車種発売すると発表した。品ぞろえを拡充し、先行する米テスラや中国勢に対抗する。26年までに15種のラインナップを揃える。トヨタは現在、新車に占めるEV比率が約5%である。これを26年には、20%へ引上げる見通しだ。状況次第では、27年にずれ込む可能性もあるという。トヨタの本格的なEV参戦である。

    『日本経済新聞 電子版』(3月12日付)は、「トヨタ、26年までに欧州でEV15車種 低額車『含まず』」と題する記事を掲載した。

    トヨタ自動車は、2026年までに欧州で新型の電気自動車(EV)15車種を投入する。新車に占めるEV比率は5%から20%に高まる見通しだ。同社は、いったん世界のEV販売計画を引き下げたが、欧州については堅持する。ライバルが、開発に力を入れる低価格EVは、「性急にやる必要はない」としてラインアップに含まない。


    (1)「トヨタが2月上旬にブリュッセル市内で開いた欧州事業説明会で、欧州法人の中田佳宏社長は、「欧州でEVはますます生活の一部として受け入れられている。この3車種は脱炭素目標の強化と同時に、顧客のライフスタイルを強力に向上させる」と3車種の新型EVをアピールした。EV15車種のうちトヨタブランドの乗用車は6車種だ。このうち航続距離600キロメートルの小型多目的スポーツ車(SUV)「C-HR+(プラス)」、スズキからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける「アーバンクルーザー」、トヨタ初の量産EVの新型「bZ4X」の3車種を公開した。このほか高級車ブランドのレクサスはSUV「RZ」など新型EV3車種を発売する。RZにはステアリングシステムとタイヤを電気信号でつなぎ制御する技術を初めて搭載する」

    トヨタが、既存EVメーカーと対抗するだけに航続距離や充電時間で競争力を高めている。
    新型「C-HR+」 航続距離 約455km・約600km 急速充電40分~60分
    新型「bZ4X」  航続距離 約445km・約573km 急速充電40分~60分
    価格は、「bZ4X」が550万円~650万円


    (2)「トヨタは、車種のラインアップが偏らないマルチパスウェイ(全方位戦略)を掲げる一方、24年のEV販売台数は約13万9000台で、新車販売におけるEV比率は1.3%にとどまっている。足元では欧州のEV需要は軟化している。日本経済新聞などの取材に応じた中田氏は「欧州他社のようにEVに全部(開発資源を)振ることをやってこなかったのでドタバタすることなく、着実に(EV販売戦略を)進められている」と話した」

    ドイツのVW(フォルクスワーゲン)は、開発資源のすべてをEVへ賭けて失敗するという惨めな結果になった。トヨタは、悠々と技術を磨いた「自信作」で、挑戦を受けて立つ「横綱相撲」である。トヨタの金融的なゆとりが、販売戦略で無理を伴わない戦略展開が可能になる。

    (3)「26年に欧州市場でのEV販売25万台という計画は変えない一方、「今の実需から厳しく見た方がいいかもしれない。後ろにずれる可能性はある」とした。欧州車大手や中国新興EVメーカーは欧州市場で低価格EVの投入を急ぐ。販売価格2万ユーロ(約320万円)以下が目安で、独フォルクスワーゲン(VW)や仏ルノーのほか中国・比亜迪(BYD)などが販売を予定している」

    欧州市場でのEV販売は、26年に25万台目標である。欧州では、約320万円以下のEVが主流になっているが、トヨタはワンランク上のクラスで勝負する。トヨタブランドの高級イメージを守るためだ。


    (4)「トヨタは6日、販売価格11万元(約224万円)からの低価格EV「bZ3X」を中国市場だけで発売した。中田氏は「欧州では戦略上、性急に低価格のEVを販売する必要はないと思う」と当面は検討しないことを明らかにした。今回、発表したトヨタブランドのEV3車種は日本とインドから欧州に輸出する。トヨタは、ハイブリッド車(HV)を中心に欧州で販売する新車の77%を域内で生産しているが、EVについては「一定の販売台数が見込めば地産地消を検討するが、今すぐではない」と否定的に語った」

    トヨタは、中国で「販売台数」を稼ぐために、あえてEV低価格競争に合わせた低価格帯EVを発売した。EUで、このような低価格帯戦略を採用しないのは、ユーザーの高い購買力に合せたとみられる。「郷に入れば郷に従う」のだ。

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    超強気がトレードマークのテスラCEOマスク氏は、かつてない逆風を受けている。マスク氏は、トランプ政権で財政赤字削減を旗印にした「人員整理」を強行しているからだ。それだけでなく、他国の政治にまで口出しすることから欧州でも不評を買っている。こうした背景から、テスラ車の売れ行きが急減している。

    マスク氏は10日、株価急落後にFOXビジネスのインタビューを受け、企業経営と公職との両立に苦労していると心情を吐露した。超強気のマスク氏は、テスラ車の販売急減を受けた株価急落に音を上げている様子である。

    『ロイター』(3月7日付)は、「全米で広がる反マスク行動『#テスラたたきつぶせ』」と題する記事を掲載した。

    (1)「テスラ車のドライバーの中には、売却しようしているのに反マスク派の見知らぬ人たちから嫌がらせを受けることがある。ワシントン州ウォーリングフォードのライナー・エッカートさん(69)はテスラ車を6年前に購入したが、売却収入を慈善団体に寄付するつもりだ。エッカートさんは今、自分のテスラ車に「彼が嫌な奴だと皆が知る前に買った」と書いたステッカーを車に貼っている。それでも見知らぬ人が「ナチスの車」と書き殴った紙を1日に3回も貼り付けられてしまう」

    人々のマスク氏への反感は頂点に達している。テスラへ、「ナチスの車」とまで非難の紙を貼られる事態を迎えている。これでは、テスラ車の売行きが急減するのは当然であろう。


    『ニューズウィーク 日本語版』(3月11日付)は、「テスラ販売急減の衝撃、国別に見た『最も苦戦している市場』とは」と題する記事を掲載した。

    テスラ車は売上が急減している。その原因はさまざまだ。電気自動車(EV)業界における他メーカーとの競争激化に加え、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の言動も一因だ。マスク氏が政治に執着しているせいで、一部の顧客と、不安を抱く投資家の気持ちが離れつつあるのだ。

    (2)「アナリストたちの指摘によると、テスラの販売不振と株価下落には、マスク氏の行動が関係している。マスク氏は、トランプ大統領が率いる米政権に深く関与しており、「政府効率化省」(DOGE)で政府のコストや職員の削減にあたっているほか、欧州の政治にも口出ししている。こうしたことが、テスラを支える顧客基盤の一部を遠ざけ、各地のテスラ工場やテスラ販売店での抗議デモに火をつけた。しかし、テスラ車の需要が鈍化した根本的原因は、マスク氏だけではない。レガシーな自動車メーカーがEV業界に参入したことで競争が激化したほか、中国の比亜迪(BYD)をはじめとする海外EVメーカーが競争に油を注いでいる。では、テスラが大きな打撃を受けている国や地域を見ていこう」

    マスク氏は、米国官僚機構へ人員整理という大ナタを持ち込んでいる。これが、訴訟事件を相次いで引き起して不評を呼んでいる。「選挙で選ばれていない人間が好き勝手をしている」との非難に結びついているのだ。CMによって自動車を売る時代に、マスク氏の行動はわざわざ自社イメージを傷つけている。一度ついた悪評の挽回は困難であろう。


    (3)「欧州自動車工業会(ACEA)が発表した最新データによると、欧州連合(EU)、欧州自由貿易連合(EFTA)、ならびに英国におけるテスラの2025年1月販売台数は9945台で、2024年1月の1万8161台から45%減少した。テスラのシェアは、1.8%から1%に減少した。その一方で、同期間にバッテリー式EVの販売台数は34%伸びている。マスク氏はドイツで、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」支持を表明して大きく取り上げられたり、2024年1月の米大統領就任イベントでナチス・ドイツの敬礼に似たしぐさを見せて大きな批判にさらされたりした。そして、売上も落ち込んでいる。ドイツ連邦自動車交通局によると、2月のテスラ新規登録台数は1429台と、前年同月比で76%減となった」

    マスク氏は、英国やドイツを批判している。ビジネス上は、絶対に行ってはならぬ「タブー」を平気で破っているのだ。「トランプ魔術」に陶酔しているのであろう。

    (4)「EV専門誌『Electrek』によると、欧州大陸でテスラ車の販売が最も急減した国の1つがスペインだ。1月の販売台数は269台と、前年同月の1094台から75%減少した。中国の全国乗用車市場情報連合会(乗連会)の予備データを見ると、2月における中国製テスラの販売台数は3万0688台と、前年同月比で49%減だった。それに引き換え、中国のライバル企業BYDは、国内向けと輸出向けを合わせた卸売販売台数が31万8233台と、前年同月比で161%増だった」

    スペインの販売減は、75%である。凄い落込みである。これは、今後の販売回復に絶望的な減少である。

    (4)「ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、スティーブ・マン氏によれば、中国製テスラの販売台数が減少したのは、上海工場で生産が停止されたからのようだ。つまり、生産が停止されていなければ、出荷台数の減少幅ははるかに小さかったということになる」

    中国の落込みは、上海工場で生産が停止された影響という。これは在庫を減らすための生産調整である。生産が停止されていなければ、出荷台数の減少幅ははるかに小さかったという推測は間違いだ。


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    中国EV(電気自動車)は、世界市場を席巻する勢いだが「メード・イン・チャイナ」は最も低い評価だという。粗製濫造で品質に問題があると指摘されている。中国製リチウムイオン電池の1%以上が、世界中で火災事故を起こしている背景には、こういう品質問題がある。中国製品は、海外の消費者から信頼を得ていないのだ。

     

    『フィナンシャル・タイム』(3月2日付)は、「中国の致命傷は信頼感の低さ」と題する記事を掲載した。

     

    先日、筆者の小型ボートが火事で燃えた。原因は中国製のリチウムイオン電池の過熱か爆発だった。米マーケティングプラットフォームのギトナックスの調べでは、中国製リチウムイオン電池の1%以上が世界中でこうした事故を起こしているという。幸い死亡は報告されていない。品質の評判がよくない国にとって、消費者の記憶に残るありがたくないことだろう。

     

    (1)「筆者は、品質の問題と中国株式市場の不振について、この一件が起こる前からつらつら考えていた。調査会社GfKの欧州市民を対象にした最近の調査では、4割強が車を買う際、最も選びたくないのは中国製だと回答した。なぜか。およそ3割が品質の低さを挙げ、半分近くが「全般的に中国を信用していないから」と答えた。2割は中国製の車は安全ではないと思っていた。中国製品が疎まれるのは当然かどうか本題と関係ない。調査では、ほとんどの回答者が中国製の車を日本製や韓国製、はてはフランス製と混同していることがわかった。ブランド名を隠して運転してもらったところ、違いがわかった人はほとんどいなかった」

     

    欧州市民は、中国を信用していないことも背景にあって、中国製品を忌避している。

     

    (2)「すべてを決めるのは先入観だ。米作家ロバート・パーシグは著書『禅とオートバイ修理技術』の中でこう述べている。「品質とは精神でも物質でもなく、この2つから独立した第3の存在である。(中略)定義することはできないが、それが何であるかを我々は知っている」。知っているというより、知っていると思っているといった方がいいかもしれない。品質に関しては投資家も行動バイアス(非合理的な行動)から逃れられない。例えば、国際的な学術誌インターナショナル・ジャーナル・オブ・リサーチ・イン・マーケティングに掲載された論文には、企業の製品の品質が低下したときの株価の下落幅は、品質が上がったときの上昇幅よりも大きいと記されている

     

    品質イメージは、製品への信頼によってつくり挙げられていく。品質が、低下した場合の株価の下落は急激である。これは、信頼性低下のショック度が大きさを表している。イメージダウンを示している、

     

    (3)「筆者は、携帯電話やリチウムイオン電池がどのような仕組みで機能するかを知らない。だが、アップルのロゴがついていれば、そんなことはどうでもよくなる。だからこそ、中国の自動車メーカーは相次ぎ、欧米の著名企業との合弁事業に乗り出した。では聞いたこともないメーカーから、すぐに電池が爆発するような小型ボートを買う理由はなんだろう。不安な消費者を引き寄せるもう一つの方法が、非常に安価に売ることだ。消費者が品質の悪さに目をつぶることができるほど安くする(筆者の場合は当てはまらないが)」

     

    ブランドは、品質への信頼性によって培われた結晶であろう。中国EVは、欧米の著名企業と合弁を組み、相手企業のブランドを借用する戦略をとっている。こういう手法が使えない場合、破格の安値で販売して一定の消費者を確保することだ。中国EVは、前記二つの手段を使っている。

     

    (4)「この戦略は、米経営学者の故クレイトン・クリステンセン氏が著書『イノベーションのジレンマ』で論じたように、長期的には多くの場合、成功する。既存企業にとって脅威となるのは、低価格で攻めてくる新規参入者だ。こうした企業は安い製品で市場に参入し、シェアを奪いながら製品の質を高めていく。中国政府のハイテク産業育成策「中国製造2025」は、まさにそうしたやり方を推奨している。とはいえ、「信頼できる」と思う人より「信頼できない」と思う人が多い状態を逆転させるには、残念ながら長い時間がかかる。GfKの調査からわかるように、信頼感の低さは工業製品から政治、金融へと波及もしていく

     

    価格破壊の手法は、多くの場合に成功している。中国EVは、この手法を使うとみられる。だが、輸入国が障壁を高くすれば防げるが、中国EVは欧州で現地生産して輸入障壁を乗り越えようとしている。ただ、中国を「信頼できない国」とみている人が多ければ、現地生産方式も成功が危ぶまれる。中国は、香港との「一国二制度」を破棄して信頼できない国のレッテルを貼られた。この不信感が、工業製品・政治・金融へと拡散するのだ。

     

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    日本では目下、春闘による賃上げが景気の本格回復の鍵を握るとして最大の関心事になっている。同時に、減少していく労働力をいかに効率的に活用するかも重大問題である。欧州では、離職者対策として「週休3日制」が真剣に検討され、実行に移されている。 

    日本では、22年10月に政府のワークライフバランス改善要請を受け、パナソニックが従業員6万人余りに対してより柔軟な働き方と週労働日数の削減を導入した。会社側が、提示した選択肢のうち一番人気を集めたのは、従来と同水準の給与をもらいながら、勤務時間をより長めにして週4日に詰め込むパターンであることが分かった。日本でも、週休3日制が定着する可能性を持っている。 

    『ロイター』(1月28日付)は、「『週休3日』の経済効果、燃え尽きず生産性向上」と題するコラムを掲載した。 

    労働日数の短縮は、生産性を向上させる鍵になるかもしれない。レイバンで有名なイタリアの眼鏡メーカー、エシロール・ルックスオティカや、英日用品大手ユニリーバなどは現在、週労働日数を減らす実験を続けている。売上高の増加につながり、バーンアウト(燃え尽き)率と離職率の急低下をもたらしている。

     

    (1)「北欧のアイスランドが2015年、いち早く週4日労働制度を導入して4年間続け、国民の大半の働く時間を減らす道筋を示した際に、規模のより大きな国や大手企業はほとんど注目しなかった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な流行で働き方が変化し、一部の経営者や政治家は考えを改めるようになった。実際に打ち出された改革措置は多種多様で、労働日を減らす代わりに1日の勤務時間を増やすやり方もあれば、完全に労働時間を減らす手法も採用されている」 

    アイルランドが、2015年に始めた週休3日制は世界的な働き方改革の流れに乗って認知されてきた。 

    (2)「このような変化は、ホワイトカラー層を超えて広がりつつある。イタリアのスポーツカーメーカー、ランボルギーニは同国北部の工場で働く2000人に週労働時間の柔軟化を認める方針だ。欧州の自動車業界では初の試みで、労働者はシフトの割り振りによって週5日を週4日の勤務に転換できる。給与はそのままで、年間労働日数が2231日減ることになる。ベルギーは22年から労働者が勤務時間を延ばして週労働日数を4日に圧縮することを認めているし、スペインと南アフリカは現在、政府が後押しする形で労働日数削減を試験的に取り入れているが、まだ世界の主流にはなっていない」 

    「週休3日制」は、ホワイトカラーから労働現場にも広がっている。ベルギーの労働者は、1日の勤務時間を延ばして、週労働日数を4日に圧縮する方法を選択できるようになった。

     

    (3)「各種試験の良好な結果を踏まえ、事態は間もなく変わるのではないだろうか。労働日数削減が従業員に好まれる傾向にあるのは当然だ。イタリアの銀行最大手インテーザ・サンパオロは23年1月から1日9時間の週4日勤務を可能としており、対象従業員の7割に当たるおよそ4万人はこの働き方をずっと続けることを決めた。エシロール・ルックスオティカもイタリアの生産現場の従業員に4月から週4日勤務で年間労働日数を20日減らす制度を認め、圧倒的な数の従業員がこれに賛同している」 

    イタリアの銀行最大手では、23年1月から1日9時間の週4日勤務を可能とした。従業員の7割に当たるおよそ4万人は、この働き方を選択している。 

    (4)「経営者にとっても、この仕組みはありがたいはずだ。英国では22年、労働日数を短縮する試験プログラムが半年間実施され、参加した61社(大半は中小企業)の売上高は21年6~12月に比べて平均で35%増加した。コロナ禍後の業況改善も一因とはいえ、目に見える効果だ。同時にこれらの企業の従業員の71%からは、仕事による消耗度が減ったとの報告があり、離職率も前年同期比で57%低下した。こうした中で22年には、ユニリーバがニュージーランドで試験導入した労働日数削減で従業員のストレスが低下し、勤務時間中の活力が増したという結果を受け、オーストラリア工場にも週4日勤務を適用している」

     

    英国では22年、労働日数短縮プログラムが半年間実施され、参加61社の売上高が35%も増えている。従業員の7割は、仕事のストレスが減ったとし離職率が57%も低下した。半世紀も前の大学授業で、いずれ「労働が、『楽働』になるだろう」と教室の黒板に書いた先生がいた。この「予言」が、こういう形で実現するとは予想もできなかった。 

    (5)「最大の恩恵を受けるのはマクロ経済だろう。週平均労働時間が既に32時間まで減少しているオランダは、生産性の尺度となる1時間当たり国内総生産(GDP)が80ドルで、週平均労働時間が約36時間の英国(59ドル)を大きく上回っていることが、国際労働機関(ILO)の分析で示された。週平均労働時間が34時間のドイツとデンマークの1時間当たりGDPはそれぞれ68ドルと78ドル。21年の日本における調査からは、長時間勤務と残業はチームの生産性に打撃を与えるが、勤務時間が減ると逆に生産性は上がることが分かる」 

    日本の労働生産性は、国際的にも低いことで有名である。賃金水準の低さが主因だ。ただ、働き方を変えることでこの「汚名」をそそぐことができる。長時間労働は、生産性向上の障害であることが明らかになってきたのだ。

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