勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時評

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    欧州は、中国との経済的結びつきが強いことから、米国のように中国へ「一刀両断」的な行動を取りにくい。中国は、この米欧間の隙をついて離間策を練るのが基本戦略だ。米中対立が激化するほど、中国は欧州へ接近する構図になっている。だが、欧州は米国と価値観で一体である。それだけに、中国に対して本質的には、「異教徒」という立場だ。欧州は、この視点から中国へ二つの外交課題の解決を迫っている。台湾侵攻とロシアへの武器供与についてそれぞれ抑止することである

     

    『ロイター』(6月22日付)は、「欧州の対中国・台湾政策、ウクライナ戦で一層複雑化」と題する記事を掲載した。

     

    昨年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、フランスやドイツなど欧州の主要国はロシアと対峙するため軍事力を強化しようとしている一方、米国との対立を深める中国政府への向き合い方を巡っては意見が分かれている。今月は台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長(外相)も欧州を訪問し、チェコの演説では台湾が独立を維持するには「欧州の友人」が必要だと訴えた。欧州にはバチカン以外に台湾と正式な外交関係を結んでいる国はないが、非公式な接触は急増しており、特に東欧諸国でこうした動きが目立つ。

     

    (1)「バルト三国、ポーランド、チェコを含む東欧諸国は近年、意図的に台湾との関係改善に取り組んでいる。これは欧州委員会のフォンデアライエン委員長、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長がともに進める対中強硬路線の一環だ。EUとNATOはいずれも水面下で、太平洋地域の米同盟国との関係を強化している。今年初めにはNATO国防大学の学長が密かに台湾を訪問したと報じられた。また韓国は東欧、特にポーランドにとってますます重要な兵器供給源に浮上しつつある」

     

    東欧諸国は、中国が一帯一路で経済支援すると約束しながら履行しないことで「立腹」している。その反動で、台湾へ接近している。台湾は約束を守るからだ。欧州諸国の国会議員が相次いで訪台している背景でもある。

     

    (2)「欧州の当局者が明かしたところによると、欧州諸国の政府は経済関係の維持以外に2つの点を最優先課題に据えている。ひとつは中国政府に失うものが大きすぎると分からせて台湾侵攻を断念させること、もうひとつは中国がその工業力を駆使して武器を供給し、ウクライナ戦争でロシアを支援するのを阻止することだ。この2つの目的は米政権も共有しており、今週ブリンケン国務長官を中国に派遣した。ブリンケン氏は習氏と会談し、気候変動などの課題で協力することに合意したが、実質的な事態打開には至らなかった」

     

    欧州は、中国が「軍事国家」になって侵略しないことに外交政策の力点を置いている。台湾侵攻抑止とロシアへの武器供与抑止だ。これが、世界平和実現の必須になっている。

     

    (3)「(欧州では、)中国と米国がアジアで、台湾を巡って大規模な戦争に突入するのではないかとの懸念は今も浮上し続けている。そうした中、ドイツと欧州の指導者は「経済的デカップリング」ではなく、中国への依存を減らす「デリスク」を語っている。ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデンなどは何年もかけて中国政府と緊密な関係を築き、中国企業にインフラやその他企業への出資を働き掛けてきた。例えば中国の国有海運最大手、中国遠洋海運集団(コスコ)がハンブルクの港湾ターミナルの持ち分24.99%を購入することも認めた。同港が扱うコンテナ輸送の3分の1は中国向けだ」

     

    欧州は、旧ソ連崩壊による「平和の配当」に最も浴してきた。中国とも深い経済関係を樹立している。それだけに、ウクライナ侵攻と台湾侵攻予想は青天霹靂である。平和への希求は極めて強い。中国が、このタブーに触れることは「敗北」を意味する。

     

    (4)「ドイツのショルツ首相は今週、中国の李首相と会談後、中国政府が核兵器による威嚇に反対し続けていることに「感謝する」と述べた上で、「この戦争において、ロシアに対してさらに強い影響力を行使すべきだ」と訴えた。中国がロシアに武器を供給しないことが「重要だ」とも付言した。ロシアからの脅威を死活的なものと考えている東欧諸国にとって、中国がロシアに接近し過ぎないようにすることは、それ自体が国家安全保障上の優先事項だ」

     

    ドイツは、中国にロシアへの武器供与をせず、ウクライナ戦争の早期解決に尽力するように圧力を掛けている。

     

    (5)「中国の産業力が味方に付いていなければ、ロシアは消えゆく帝国のようなものだ。一方で、西側諸国間の足並みが乱れるあまり、習氏とプーチン大統領、あるいはその後継者たちの同盟関係がさらに緊密化するようなことがあれば、脅威はずっと高まるかもしれない。中国政府との対話の道を開き続けるなど人が良過ぎる、という見方もあるだろう。しかし少なくとも現状では対話こそが、中国という大砲がウクライナ戦争の力関係を変えてしまうのを防いでいる

     

    中国が、孤立して疑心暗鬼状態にならぬよう、欧州を初めとする国々は中国と「対話」する必要がある。この単純なことが、抑止力を強くすることともに、平和を守る最低条件となる。

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    インドは、インド太平洋戦略「クアッド」(日米豪印)のメンバー国である。だが、ウクライナ問題では西側諸国と協調した行動を取らず、「中立」の立場を維持している。最大の理由は、ロシアから武器を輸入していることにある。インドは、ロシアとの関係が悪化すれば、武器弾薬輸入がストップして、対中国戦略で著しく不利を被るという切実な背景があるのだ。

     

    西側諸国は、こうしたインド特有の事情を理解するようになってきた。インドにとっての最大の「敵国」は中国である。これは、期せずして西側諸国の利害関係と一致するところ。欧米では、むしろインドの立場を尊重しようという雰囲気が強くなっている。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(5月15日付)は、「『
    親ロシ』のインドを許す欧米、対中で役割期待」と題する記事を掲載した。

     

    4月下旬、ジョンソン氏と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長の訪印後、モディ氏はフランス、ドイツ、デンマークを歴訪した。モディ首相は一連の外交日程を通じ、欧州首脳から熱い視線を向けられる存在となった。西側首脳はモディ氏と親しく接し、2国間協定に署名してインドを少しでも自陣営に近づけようとした。インドが中国に対抗するうえで不可欠なアジアの大国と見られているためだ。

     

    (1)「当初はいくらか批判があったものの、西側首脳はインドの対ロ関係について激しい議論を慎重に避けている。インドが軍の装備をロシア製兵器に頼るなか、英仏両国は装備品調達の多様化に向けた防衛協力を発表。EUと英国は経済関係を深めるため、自由貿易協定(FTA)交渉も一気に加速させようとしている。首都コペンハーゲンでモディ氏と会談したデンマークのフレデリクセン首相など、一部の首脳はインドに対し、ウクライナ紛争に関する中立の立場を生かしてロシアに「影響力を及ぼす」ことができると考えているようだ」

     


    インドが、兵器輸入でロシアへ依存している現状について、欧米も理解を深めるようになっている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、インドは世界屈指の兵器輸入国で、輸入額は2018~21年の期間に124億ドルに上り、うちロシアが55億1000万ドルを占めた。実に、44%がロシア製武器である。インドは、同様の兵器などを使用している東欧諸国から予備の装備提供を受けられるか調査している。このように、インド側でも、ロシア依存度の高さに危機感を持ち、輸入分散化を目指している。

     

    (2)「インドは、今や経済関係で米欧の方がはるかに重要になったが、インド軍の兵器は依然、大部分がロシア製のため、保守整備をロシアに頼り続けている。ウクライナ侵攻後もインドはこの長年のパートナーから離れられず、ロシアを非難する国連決議案の採択では棄権した。西側諸国が広範な制裁措置でロシアを経済的に孤立させようとするなか、インドは2国間貿易の拡大にも動き、ロシアから割安な原油の輸入を増やしている。ただ、インドのロシア産燃料の輸入量は多くの欧州諸国に比べればかなり少ない」

     

    インドは、ロシア製武器に依存している現状を脱皮することで、米欧との関係強化の意欲が強い。今回のモディ首相の欧州歴訪は、そういう意思を伝えたかったのであろう。

     


    (3)「米国にとって、「ロシアの問題は中国問題と切り離せない」と米アジア・ソサエティー政策研究所のC・ラジャ・モハン上級研究員は話す。「中国問題でインドが中心的な位置を占めることは自明だ」。だがKC・シン元インド外務次官は、バイデン米大統領などの指導者がインドは危機発生時には信頼できないと見切るようになれば、インドがロシアのウクライナ侵攻について言葉を濁していることで西側との関係悪化につながる恐れがあると指摘する。「インドは西側に『パートナーとしてどこまで頼りになるとみているのか』とシグナルを送っている」とシン氏は言う。「中国に関し、我々は米国と利益が重なる。ウクライナに関しては、旗幟(きし)鮮明にはしたくはない。こんなインドと選択的パートナーになってくれますか、とね

     

    下線部分は、インドの苦しい胸の内を示している。インドにとっての中国問題は、米国と利益が重なるとしている。これが、本心であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月10日付)は、「インド、周辺国が外貨不足で混乱 支援通じ中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    インドの周辺国のスリランカ、ネパールが相次ぎ、外貨不足で混乱に陥っている。スリランカでは物価上昇に抗議する市民らのデモが続く。インドは同国を軸とする南アジアの安全保障、経済協力の仕組みを揺るがしかねないと警戒する一方、支援を通じ、関係を強める好機だともとらえる。背景には、この地域で影響力を競う中国への対抗意識がある。

     

    (4)「新型コロナウイルス対策による観光産業の低迷などでスリランカの外貨準備は大きく減り、輸入が停滞する。3月末時点で、1年前の5割ほどにすぎない。生活必需品の供給が不足して値段が大きく上がり、市民生活が逼迫している。ロシアのウクライナ侵攻は食料、燃料の国際価格の上昇に直結し、スリランカ国内にも影響が及ぶ。ネパールも同様な事情で自動車、酒類など「贅沢(ぜいたく)品」の輸入を一時停止した。輸入に頼る燃料の消費を抑えるため、毎週の休日を1日から2日に増やした」

     

    インドは、周辺国のスリランカとネパールが輸入資金手当で苦悩している現状に、支援する姿勢を見せている。インドが行なわなければ、中国が手を伸してくるからだ。

     


    (5)「インドは危機感を強める。スリランカは、インドを軸に近隣諸国が参加する地域安保の枠組み「コロンボ安全保障指導者会合」や域内での貿易や投資の促進を目指す「環インド洋連合(IORA)」のメンバーだ。ネパールも経済や安保でインドとの結びつきが強い。インド外務省は4月、スリランカを支援するため燃料や食料の購入などに使える融資枠を拡大したと発表した。同省高官は同月、ネパールも「外貨を巡る問題が起きている」との認識を示した。そのうえで「ネパール政府から要請があれば援助できる」と述べ、スリランカと同様な金融支援を実施する用意があると指摘した」

     

    インドは、スリランカ、ネパールへの支援を通じ、両国との関係を強化できると考えている。インドのモディ首相は近隣外交を優先する。国境を接し、係争地を抱える中国に対抗するためだ。スリランカ、ネパールはいずれも中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」に参加し、インフラ整備で融資を受けてきた。それだけに、インドが何もしなければ中国の支援によって、中国圏へ取り込まれる危険性が高まるのだ。

     

     

     

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