中国は、足元のASEAN(東南アジア諸国連合)から冷たい扱いを受けていることから、南太平洋諸国へ焦点を絞って支配権に組込もうとしてきた。これが失敗したのだ。この連休中、林外相はフィジーとパラオを訪問して、中国の「甘言」に乗らぬよう話合いを行なってきた。米国は、南太平洋諸国の中心であるフィジーをIPEF(インド太平洋経済枠組)へ迎え入れ、14ヶ国目の参加国にする努力を重ねてきたのである。
さらに、豪州とニュージーランドは足元の南太平洋諸国が、中国の影響下に組込まれれば将来、安全保障上において大きなリスクを抱えるため、島嶼諸国へ懸命な説得を行なった。こうした努力が奏功して、南太平洋諸国を訪問中の中国王毅外相は、南太平洋諸国との協定を断念させられた。
『日本経済新聞 電子版』(5月30日付)は、「中国、太平洋諸国との安保合意見送り 対米関係配慮か」と題する記事を掲載した。
南太平洋の島嶼国、フィジーを訪問中の中国の王毅国務委員兼外相は5月30日、地域10カ国の外相らとオンラインで「中国・太平洋島国外相会合」を開いた。中国が、目指していた10カ国全体との安全保障協力の強化に向けた協定案は、土壇場で合意が見送られた。秋の共産党大会を前に、米国を刺激して対米関係を悪化させるのを避けたとの観測も出ている。
(1)「中国の習近平国家主席は30日、同外相会合に書面でメッセージを寄せた。「国際情勢がどのように変わろうと中国はずっと太平洋の島国の良き友人だ」と強調。「中国と太平洋の島国の運命共同体を構築していきたい」と結んだ。外相会合には中国と国交を持つ太平洋島嶼国の外相らが参加した。今回は2021年10月に続き2回目だ。中国が目指した安保協力強化の合意に対しては、米国と安保上の関係が深いミクロネシア連邦が事前に書簡で「地域の安定を脅かす」と反対を表明していた。豪公共放送ABCは外相会合後、関係者の話をもとに「中国はいったん、提案について棚上げする」と伝えた。中国側は提案について今後も地域と交渉を続ける方針を示したとしている」
ミクロネシアのパニュエロ大統領は5月20日付の書簡で、合意案は「われわれのライフスパンの中で最も激しい形勢一変」につながる可能性があるとし、他の太平洋諸国に対し、署名を控えるよう警告した。ここまで、中国への批判を明らかにされると、中国は自らの意図を見透かされた形で,タジタジになったのだろう。中国は、「弱小国」と見て高圧的な提案をしたと思われる。南太平洋諸国における、日米豪などの影響力を軽く見ていたのだ。
(2)「外交上のメンツをことさら重視する中国が、自らの提案を棚上げするのは異例だ。緊張が高まる米中関係と共産党内の権力闘争が影響しているとの見方もでている。党内では米国との対決も辞さない強硬派と、融和を探る穏健派が混在している。とくに今年の秋は習氏が3期目を目指す5年に1度の党大会があり、対米外交は大きな争点になり得る。バイデン米政権は米中首脳協議の開催を探っているとの観測がでており、太平洋で米国をこれ以上刺激しないように、いったん提案を棚上げした可能性がある」
中国は、南太平洋諸国から拒否されることが分ったので、提案を撤回したのだ。王毅外相の大失点である。あの強い鼻っ柱が、へし折られた感じである。
(3)「実際に中国メディアは、ここのところ対米批判を抑制気味だ。中国共産党の機関紙、人民日報は28日付の重要コラム「鐘声」で「中国は米国と競争するつもりはなく、相互尊重を基礎に中米関係の発展に努めている」と主張した。首脳協議に向けて環境整備を進めているとみられる。会合後に王氏と共に記者会見したフィジーのバイニマラマ首相は、「中国は(外相会合に)参加した10カ国にとって重要なパートナーだ」と述べた。そのうえで「新たな地域協定に関する議論では、我々は常に(参加国の)意見の一致を優先する」との立場を説明した」
下線部は、重要な点を指摘している。南太平洋諸国は参加国の意見一致を優先するとしている。すでに、フィジーとミクロネシア連邦が反対していることから、中国の試みは今後も成功する可能性が小さいであろう。
(4)「王氏は、26日に訪問したソロモン諸島を皮切りに、キリバス、サモアを経てフィジー入りした。中国は4月に安保協定を結んだソロモンと病院建設に関する書面を交わし、キリバスではインフラ開発や医療品支援など10の文書に署名した。サモアとは外交関係強化に向け経済・技術面での協力で合意したほか、警察学校の建設に関する書面も交換した。太平洋島嶼国と歴史的に関係が深いオーストラリアと米国は、こうした中国の動きに警戒を強めている。23日に豪新首相に就任したアルバニージー氏は、外相のウォン氏を26日からフィジーに派遣。ウォン氏は27日にバイニマラマ氏と会談した」
中国社会は初めに、想像もできないほどの土産を持参し、後から利益を回収するタイプである。中国から「債務の罠」に落とし込まれた国は、ほとんどこのケースだ。きれいなバラにはトゲがあるのだ。