勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    蔣介石率いる国民党は1949年、毛沢東の共産党に敗れて台湾へ「蟄居」した。以来、台湾は国民党によって政治支配されてきたが、馬総統時代に中国へ接近して米国の信頼を完全に失った。

     

    台湾は、国民党と民進党の二大政党が力を持っている。伝統的に蔣介石による流れから、国民党が強い支持に支えられてきた。それも、2014年に潮流変化が起こった。国民党馬英九政権が、中国共産党との「国共連携」を深めたことによって、対中政策への不安・批判が高まった。3月に「ひまわり学生運動」が発生して、国民党の支持基盤があちらこちらで弱体化した。これに助けられ、2018年に独立指向の強い民進党が、支持を集めて政権を担うようになった。

     


    台湾の人々は、自らを「台湾人」と称し、決して「中国人」と言わない。これは、台湾人というアイデンティティを持っているからだ。ウクライナ人が、侵攻後にロシア語を使わない精神状況に良く似た面がある。こうして、台湾人のアイデンティが確立している結果、野党・国民党は存在感を高めるべく対米接近の動きを強めてきた。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月2日付)は、「米国の信頼回復目指す台湾・国民党 政権奪回目指す」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の最大野党である国民党が、米国のパートナーとして信頼たりうる存在であることを米政府に証明しようと躍起になっている。同党は与党・民主進歩党(民進党)が勢力を伸ばす中、苦戦している。国民党はかつて党首の蒋介石が中国本土を支配していたころは米国の同盟相手だった。

     


    (1)「国民党トップの朱立倫主席は2日から12日間に及ぶ米国訪問で、台湾にとって最も重要な安全保障上のパートナーとの関係修復を目指す。選挙で相次ぎ大敗を喫した後、党勢を回復しようと戦うなか、党が何年も無視してきた米国との関係改善を図りたい考えだ。米スタンフォード大学フーバー研究所で台湾政治を専門とするカリス・テンプルマン氏は、「国民党は『対米問題』を抱えている」と指摘する。「朱氏は、党がまだ重要な存在で、再び権力を握ったら米国にとって頼りになるパートナーになると説得するために懸命に努力しなければならない」と指摘」

     

    国民党が最近、米国と疎遠になっていたことは不思議である。蔣介石は、米国の「丸抱え」で共産党と内戦を続けた経緯がある。その「恩人」である米国と疎遠になるとは、恩を仇で返しているようなもの。米国が、国民党に不信の念を持つのは当然であろう。

     


    (2)「国民党の凋落(ちょうらく)は、馬英九総統(当時)が中国と合意したサービス分野での貿易協定に抗議する14年の「ひまわり学生運動」とともに始まった。学生運動は、中国に対する過度な経済的依存と中台貿易で受ける恩恵の分配が不平等であることへの不安を反映していた。この時期に成人した若い有権者の多くは、国民党を敬遠するようになった。国民党は過度に親中的だとみているからだ。16年に民進党の蔡英文氏に総統の座をうばわれ、20年には蔡氏がさらに大きな差をつけて再選を果たした」

     

    馬英九氏は、習近平氏と会談している。この頃の中台関係は良好であった。本土から訪台旅行者が押し寄せたものだ。ちょうどこのころ、私は台湾旅行した。台北の土産物店では、本土の観光客の行儀が悪い、と渋い顔をしていた。

     


    (3)「台湾の国立政治大学の選挙研究センターが実施した1月の世論調査によれば、国民党に共感する有権者は17%にとどまった。これは史上最低に近い水準で、民進党に12ポイントの差をつけられていた。台湾の有権者と同様、米国の観測筋も国民党が米国の味方として信頼できるかを疑問視している。国民党は中国本土で創設された政党で、同党の政治家は台湾が中国と同一でないと主張するものの、今でも台湾を中国の一部とみなしている」

     

    国民党は、本土で立党した性格上、台湾は中国の一部という認識である。これが,現在の国際情勢でははなはだ都合が悪くなっている。

     


    (4)「米国の態度が中国に対して強硬になり、中国政府が台湾に対する圧力と威圧を繰り広げると、国民党の立場は台湾、米国双方で一段と不人気になっていった。さらに、米政府高官らは、蔡氏が中国政府の脅しを前に自らの立場を固守した、慎重だが断固たるリーダーとしての力を評価している。テンプルマン氏によると、米政府の多くの関係者は今、国民党を「完全に脇に追いやっているか、下手をするともっと悪く、積極的に米国の利益を妨害している、信用できない相手だ」と考えている。ただし、国民党が今年の地方選挙で勝利を収めれば、そうした見方が変わる可能性があると話している」

     

    米中対立を背景に、国民党は台湾・米国の双方で不人気になる要因(国民党が本土で設立されたこと)を浮き彫りにしている。国民党は立党上、「台湾は中国の一部」と言わざるを得ない立場なのだ。こうして、米国からその存在を疎ましく見られている。

     


    (5)「国民党の国際部トップで、駐米代表に指名されている黄介正氏は、台湾海峡で緊張が高まっているなかで国民党を切実に求められている「信頼できる存在」として売り込みたいと考えている。
    「米国、台湾双方にとって、我々の最大の利益は、今後数年間に戦争が起きないようにすることだ」と語る。さらに、米国は「台湾が中国政府に気軽にあいさつできる与党を持つのを許す」べきだと話している。「それは中国をなだめ、攻撃性を和らげることになり、敵意のコントロールになる。双方にとって良いことだ。これが、我々が米国に行く時に訴えたいストーリーだ」と強調する」

     

    国民党は、米中の間に立って中国をなだめる役割を果たす「緩衝財」と位置づけている。だが、「台湾は、中国の一部」とする立党上の立場は、外交的には極めて面倒になってくる。仮に、国民党が政権を取っている期間に中国の台湾侵攻が起こったとき、「無抵抗」で台湾を明け渡すことになるのか。こういう疑問点が、次々と出てくるのだ。

     

     

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    台湾問題を巡って、米中が激しく対立している。中国は、台湾は中国の一部であり、他国の干渉を許さないと強硬姿勢である。米国は、台湾が成熟した民主主義を実践しているので、暴力から守らなければならないという抽象論で対応している。米国は「一つの中国論」を守るとしており、台湾防衛論に踏込まずにいる。

     

    こうした中で、バイデン大統領訪日の際、記者会見での質問に「(台湾防衛は)イエス」と答えて、中国の非難を浴びている。バイデン氏の「台湾イエス」は、三回目の発言だ。台湾は、無論こういう動きを大歓迎しているが、韓国に対して羨望の眼差しを向けている。当の韓国では、その有難みを弁えずに「二股外交」論を唱える向きが多いのだ。韓国も、台湾の立場になって米韓同盟による「利益」を考えてみることだろう。

     


    『朝鮮日報』(5月29日付)は、「中国傾斜外交時代の終末」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のワシントン特派員イ・ミンソク氏である。

     

    バイデン大統領は5月23日、米日首脳会談の記者会見で中国による台湾侵攻時の「米軍の軍事介入」に再び言及した。米国が維持してきた「戦略的あいまいさ」に反する発言にホワイトハウスは対応に追われた。バイデン大統領が台湾と関連して突発的な発言を行い、ブレーンがそれを収拾する事態が繰り返されるのは3回目だ。

     

    (1)「一部には、バイデン大統領がまたも失言したと見なす向きもある。しかし、バイデン大統領の発言は「本心」だと思う。米政府の本音をちらつかせる「意図されたミス」である可能性がある。約20年前にも同様の議論があった。2001年、ブッシュ元大統領は「(中国による台湾侵攻時)米国には軍事的に防衛する義務があるか」という質問に対し、「もちろんだ。米国は何でもする」と答えた。数時間後、ブッシュ大統領は「米国は『一つの中国』政策を維持し続ける」と発言を後退させた」

     

    一国大統領が、同じ問題で三回も「失言」する筈がない。バイデン氏の本心を言ったと解釈するのが正解であろう。

     


    (2)「ある民主党上院議員は数日後、ワシントン・ポストへの寄稿で、「外交で『言葉』は重要だ。ブッシュ大統領の発言ミスは米国の信頼を傷つけた」と批判した。当時の上院外交委員会の重鎮だったバイデン氏だった。31歳で上院議員に当選したバイデン氏は、ニクソン元大統領が毛沢東と会談した後の1979年、「一つの中国」という原則の下で米国が台湾と断交する過程を生々しく見守った。武力紛争時、米国が台湾に軍事的自衛手段を提供することを内容に盛り込んだ「台湾関係法」を制定する過程にも関与した。このためワシントンの政界では「台湾問題の敏感性を知らないはずがないバイデン大統領が米国の『あいまいさ』を捨てる方向に動いている」との見方が出ている」

     

    バイデン氏は、外交問題のエキスパートである。「台湾関係法」制定にも関与した。米国は超党派で、「台湾支援」へ動いていることが、バイデン氏を後押ししているのであろう。

     

    (3)「米中覇権争いがエスカレートし、ロシアのウクライナ侵攻まで重なると、米外交関係者の間でも「中国の軍事的野心を防げるのは米国の明確な立場だ」という主張が力を得ている。民主・共和両党もこの問題については「米大統領が同盟国である台湾を防御すると明確に宣言しなければならない」と声を一つにしている」

     

    中国は、米国が台湾防衛に参加するという前提で、南シナ海へ軍事進出しているとみるべきだろう。米国が曖昧にしていても本音を見抜いているはずだ。となれば、米国も「台湾防衛」意思を明らかにすべきというのも一つの見識と言える。「一つの中国論」を捨てて、「台湾は主権国家」であると宣言すれば、台湾防衛をし易いという議論も出ている。この場合、中国に台湾侵攻の大義を与えるというマイナスが生じる。

     


    (4)「こうした米国内の状況は、米中間で「綱渡り」外交をする韓国の過去の外交戦略がどれほど非現実的かを示している。トランプ政権最後の国防長官だったエスパー氏は最近、記者とのインタビューで、「韓国の『安美経中』(安全保障は米国寄り、経済は中国寄り)という路線は両立不可能だ。中国が経済依存度を利用し、韓米安保にまで影響を及ぼすようにさせてはならない」と述べた。韓国の過去の政権が中国を意識して放置した終末高高度防衛ミサイル(THAAD)基地、中国に約束した「3つのノー」などに対する批判だった」

     

    こういう台湾問題からみると、韓国は恵まれている。米韓同盟によって、韓国の安全を保障されているからだ。韓国は、それを良いことにして対中「二股外交」をしてきた。それが、国益実現になるという立場である。米国は内心、苦々しく思いながらも傍観してきた。だが、米中対立の激化と共に「二股外交」は利敵行為に映る。米国の秘密情報が、中国へ漏洩しているのでないか、と疑惑を招くのだ。

     

    (5)「台湾政府はバイデンの「軍事介入」発言からすぐに歓迎声明を出した。台湾外交筋は、「韓国は(米国の防衛を)当たり前に考えるだろう。しかし、台湾は韓国が米国から受けている水準の安全保障を受けたことがない。我々は米国による防衛公約が切実に求められる」と語った」

     

    韓国は、同じ半導体王国の台湾が、安全保障面で苦しんでいる現状を認識するべきだろう。韓国は、米韓同盟で守られていることに感謝せず、二股外交を愉しんできた。それも、米中対立激化で不可能になったのだ。

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