勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    中国は現在、台湾や日本列島南部の近海、東シナ海、南シナ海に海軍と海警局の船舶を90隻近く派遣している。うち、約3分の2が海軍艦船という。この大掛かりな演習は、台湾の頼氏が、太平洋島嶼国3カ国を歴訪し、経由地として米ハワイ州とグアムに立ち寄ったことへの反発だ。中国は、頼氏の外遊を口実に台湾周辺で軍事演習を実施する可能性が高いと指摘してきた。予想通り、船舶90隻近い大演習になる模様だ。

    『ロイター』(12月9日付)は、「台湾軍、警戒態勢を強化 中国が艦船90隻を訓練に投入か」と題する記事を掲載した。

    台湾の安全保障関係者がロイターに語ったところによると、中国は現在、台湾や日本列島南部の近海、東シナ海、南シナ海に海軍と海警局の船舶を90隻近く派遣している。うち約3分の2が海軍の艦船という。

    (1)「台湾の頼清徳総統は太平洋島嶼国3カ国を歴訪中に経由地として米ハワイ州とグアムに立ち寄った。安全保障関係者は、中国が頼氏の外遊を口実に台湾周辺で軍事演習を実施する可能性が高いと述べていた。台湾国防部(国防省)の声明によると、中国は福建省と浙江省の東に7つの臨時「空域保留区」を設定。今月9~11日に有効になると述べた。国際的なルールによると、こうした空域は管制官の許可があれば他の航空機も通過できるが、一定期間、特定の利用者のために一時的に留保され、割り当てられる」

    中国は今月9~11日にかけ、福建省と浙江省の東に7つの臨時「空域保留区」を設定した。この期間は、航空機通過が制限される。中国軍の演習目的である。

    (2)「台湾の安全保障関係者は、中国の海軍と沿岸警備隊の配備規模について、中国が台湾周辺で今年実施した「連合利剣―2024A」「連合利剣―2024B」と称する演習よりも大きいと指摘。日本から台湾、フィリピン、ボルネオ島を経て、中国の沿岸海域を囲む地域である「列島線全体を初めて標的にしている。列島線の内側を支配することで、軍事的な威嚇を実現しようとしている」と述べた。台湾軍は、戦略的な区域で「戦闘準備演習」を開始したと表明。海軍と沿岸警備隊の船舶が中国の軍事活動を注意深く監視していることを明らかにした」

    中国は今年、台湾周辺で実施した「連合利剣―2024A」「連合利剣―2024B」と称する演習を行った。9~11日の演習では、海軍と海警局の船舶を90隻近くが派遣されているので、前2回の演習規模より大きいとみられている。

    (3)「台湾国防部は、「一方的で不合理な挑発行為はインド太平洋の平和と安定を著しく損なう恐れがあり、国際社会に歓迎されないだろう」と表明した。与党・民進党所属の立法委員(国会議員)で、立法院の国防・外交委員会を率いる王定宇氏は、中国が空域保留区を設定したことについて「軍事活動を行っているのか、それとも政治的圧力をかけるための単なる方便なのか」理由はまだはっきりしないと述べた」

    与党・民進党所属の立法委員(国会議員)は、中国による空域保留区設定が、演習目的か単なる牽制かは不明としている。

    (4)「台湾の沿岸警備隊は別の声明で、中国海警局の船舶7隻が台湾に対して「グレーゾーン・ハラスメント」を行なっていると指摘。中国は台湾領海に侵入したり、台湾領海で法を執行する権利はないとし、台湾には必要な措置を講じる権利があると主張した。台湾によると、中国は台湾周辺での日々の空海軍任務や、沿岸警備隊による定期的なパトロールなど、実際の戦闘には至らない「グレーゾーン」戦術を展開して台湾軍を試し、圧力をかけようとしている」

    台湾の沿岸警備隊は、中国海警局の船舶7隻が台湾に対して「嫌がらせ」を行っていると言明した。中国得意の「グレーゾーン」戦術ともみられるが、油断していると「大事」になりかねないのだ。

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    世界最大の半導体の受託生産会社(ファウンドリー)、台湾積体電路製造(TSMC)の「独り勝ち」が鮮明だ。17日発表した2024年7〜9月期決算は売上高・純利益とも過去最高を更新し、業績見通しも上方修正した。人工知能(AI)向けの先端半導体の需要をほぼ総取りし、製造能力の高さで韓国サムスン電子や米インテルを圧倒する勢いだ

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月17日付)は、「TSMC、AI半導体総取りで最高益 インテル サムスン圧倒」と題する記事を掲載した。

     

    79月期決算は売上高が前年同期比39.%増の7596億台湾ドル(約3兆5000億円)、純利益は54.%増の3252億台湾ドルと市場予想を上回った。いずれも四半期ベースで過去最高を更新した。米AI半導体大手エヌビディアや米アップル向けなどに回路線幅3〜5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端品の供給が好調だった。

     

    (1)「TSMCが17日に開いたオンライン形式の決算説明会で魏哲家・董事長兼最高経営責任者(CEO)は、投資家の不安を払拭するかのように強気の発言を繰り返した。「AI関連の需要は極めて堅調」、「リアル(実需)だ」と述べ、AI需要が今後何年も続くとの見通しを示した。発言を裏打ちするように業績も上方修正した。10〜12月期の売上高予想は米ドルベースの中央値で前年同期比35%増と過去最高を見込む。24年12月期の売上高予想を「20%台半ばをわずかに上回る増収」から「30%近くの増収」に引き上げた。24年の設備投資計画は従来の300億〜320億米ドル(約4兆5000億〜4兆8000億円)から「300億米ドルをわずかに上回る」とした。市場に期待のあった上方修正は見送った。25年の設備投資は「24年比で増える可能性がとても高い」と説明した」

     

    TSMCは、AIブームの半導体需要を「総取り」している形だ。27年になれば、日本のラピダスが「2ナノ」AI半導体へ参入する。楽しみである。

     

    (2)「25年中に回路線幅2ナノメートルの次世代半導体の量産を予定し、海外での増産も続ける。24年末までに熊本第1工場、25年初めに米アリゾナ州の工場で量産開始を予定する。両工場は台湾並みの品質・信頼性を提供できるという。熊本第2工場は25年1〜3月期に建設を始める。TSMCの好業績を支えるのは、スマホやデータセンターなどに用いる単価の高い先端半導体で、売上高の約7割を占める。サーバー向けAI半導体の売上高は24年に前年比3倍以上に膨らみ、売上高全体の15%前後を占める見通しだ。魏氏の発言はデータセンター向けなどAIを中心とした先端需要の強さを改めて示唆した」

     

    TSMCの業績は、データセンター向けなどAIを中心とした先端需要に支えられている。事実上の独占状態だけに絶好調である。

     

    (3)「世界で先端半導体を製造できる能力のあるメーカーはTSMC、サムスン、インテルの3社に限られる。現状、TSMCがデータセンターで用いるAI半導体の生産をほぼ総取りし、他社との技術・業績格差が一段と鮮明になっている。台湾調査会社トレンドフォースによると、ファウンドリー市場におけるTSMCのシェアは23年の59%から24年に64%、25年は66%に高まる見通しだ。18年の50%から上昇傾向が続き、2位サムスン(25年に9%)と大差がつく。サムスンは赤字が拡大したとみられるファウンドリー事業が苦戦の一因だ。インテルはさらに厳しい。21年にファウンドリー参入を表明したが、先行投資が重く4〜6月期は同事業の営業損益が28億3000万米ドルの赤字だった。9月に外部資本受け入れによる立て直しを視野に同事業の子会社化を発表した」

     

    TSMCは、ファンドリー事業のシェアが24年に64%、25年に66%へ高まる見通しだ。一方、サムスンは今年4~6月期が13%である。サムスンは、25年に9%へ低下する見込みで、「兆円単位」の大赤字である。製品歩留まり率が低位にあるからだ。技術上の問題である。

     

    (4)「先端半導体の生産・開発には年数兆円規模の資金が必要だ。次世代技術をいち早く確立し、顧客の注文を集めて次の投資原資を確保する必要がある。製造装置を精緻に使いこなし、歩留まりを高めなければならない。TSMCは半導体の不況期でも投資を継続し、先端半導体を使うスマホやデータセンターなどのデジタル機器の用途を常に開拓し、市場占有率を高めてきた。調査会社テクノ・システム・リサーチの大森鉄男氏は、先端ファウンドリー市場が「完全にTSMCの独り勝ちとなった」と指摘する」

     

    ファンドリー事業では、TSMCの独占状態になっている。ラピダスが、これに挑戦する形になる。

     

     

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    台湾は、総統選と同時に実施された立法委員選挙で、与党・民主進歩党(民進党)が過半数を割り込む敗北を喫した。その一因は、不動産価格の高騰や格差拡大への若者たちの不満や反発だ。頼総統にとっては、差し迫った課題が経済問題である。解決が長引けば、中国共産党が民意へ「介入」してくるリスクも高まる。 

    『日本経済新聞』(6月1日付)は、「台湾、経済多角化が優先課題」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ジャーナリストのウィリアム・ペセック氏である。米経済誌『バロンズ』や『ブルームバーグ』でコラムニストを務め、日本に関する著書もある。 

    中台関係の緊張が高まる中、台湾の頼清徳(ライ・チンドォー)新総統は5月20日の就任演説で「(台湾への)威嚇を停止」し、台湾海峡と地域の平和と安定の維持に尽力するよう中国に求めた。中国はすぐ反論し、政府の報道官が頼氏の演説について「危険なシグナル」を送ったと指摘した。 


    (1)「頼氏は、まもなく主な懸念事項が中国ではないことに気づくかもしれない。差し迫った問題は台湾経済が誤った方向に進んでいることだ。賃金停滞と不動産価格の高騰によって格差が広がり、特に若者が意気消沈している。頼氏は蔡英文(ツァイ・インウェン)前総統の2期目の任期で副総統を務めた。台湾初の女性総統だった蔡氏は、任期の終わりまで高い人気を維持した。2016年に就任すると低迷していた経済を活性化させた。新型コロナウイルス禍を機敏に切り抜けて、台湾を米国の主要な仲間につくり変えて自主性を保った」 

    頼総統は、国内経済問題の解決に取組まなければならない。賃金停滞と不動産価格高騰の問題だ。これは、所得不平等がもたらした結果である。高所得者は、競って不動産を買い漁るが、若者の失業問題は深刻である。

    (2)「蔡氏は、前進し始めた経済サイクルを頼氏に引き渡した。人工知能(AI)技術のブームで輸出が増加し、第1四半期の成長率は約3年ぶりの高い水準を記録した。ただ問題は、AI技術に関連するハードウエアの世界的な需要が、長期的には持続可能な成長の源泉にはならない可能性があることだ。現在、半導体受託生産の台湾積体電路製造(TSMC)のような巨大企業はハイテク業界の頂点にあるようにみえる。しかし将来どうなるかは誰もわからない」 

    台湾経済にアキレス腱は、最先端半導体を製造できても他の有力な産業が育たないことだ。産業基盤が強固でないのは、所得再分配政策に失敗しているからだろう。台湾のGDPに占める個人消費比率は、45.69%(2022年)である。2018年は52.3%であったから、4年間で急激に下がっている。これが、不公平感を高めている背景であろう。 


    (3)「現時点で台湾は、世界的なハイテクの好況下にあり、米国と中国の堅調な成長の恩恵を受けている。ただ11月の米大統領選挙を前に米中が対立する中、台湾は不安定な立場に立たされるかもしれない。
    大統領選では、トランプ前大統領が返り咲く可能性もある。トランプ氏は中国と貿易戦争をやりたくてうずうずしている。計画している中国製品に対する60%の一律関税は地域の成長に大きな打撃を与えかねない。台湾の半導体メーカーにも影響を及ぼす恐れがある」 

    台湾は、中国との経済関係が深いだけに、トランプ氏の米大統領復帰は大きな変数である。これにどのように対応するのか。国内経済基盤の強化であろう。

    (4)「トランプ氏は、台湾に対する軍事支援についてあいまいな発言に終始している。台北を犠牲にして、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と包括的な取引をするのではないかという懸念もある。こうした不確実性は、台湾の経済構造に影を落としかねない。ひとつは輸出依存度の高さだ。台湾の輸出は3月に急増した。しかし中国経済が減速し、米金利が予想より高い水準にとどまる中で持続できるだろうか」。 

    台湾半導体を代表するTSMCは、AI(人工知能)半導体で高い利益を上げている。この状態は、これから本格化する。中国経済が減速しても十分カバーするだろう。問題は、この高い利益をいかに国民へ還元するかだ。その知恵が問われている。

    (5)「もうひとつの懸念は貧富の格差である。1991年から約4倍に拡大している。21年末時点で台湾の最も裕福な世帯上位20%の資産は、下位20%の資産の70倍近くに上る。所得が伸び悩む一方で、住宅費が上昇していることが最大の原因だ。若者の失業率は11%を超えている」 

    下線部は、「半導体長者」であろう。この高所得へ課税率を引上げ、再分配する知恵がないのではどうにもならない。まさに、「所得再分配政策」の出動時期である。それが、個人消費の引上げに寄与し、失業率を減らす契機になる。民進党は、庶民の味方になるべきだ。

     

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    日本半導体の素材・部品・装置企業では、国内新工場建設および増設が続いている。韓国メディアが9日、日本の半導体関連ニュースを取り上げるほど注目されている。日本政府が、半導体の生産に必要な材料を国内で調達するサプライチェーンづくりを本格化させているからだ。 

    『日本経済新聞』(4月9日付)は、「信越化学、半導体素材で56年ぶり国内新工場 供給網強化」と題する記事を掲載した。 

    信越化学が、群馬県に半導体素材の新工場をつくることが8日、わかった。国内での製造拠点新設は56年ぶり。三井化学も山口県の拠点で増産体制を整える。半導体の製造装置や素材は、日本企業のシェアが高い製品が多い。戦略物資として各国が半導体産業の集積を進めており、日本でも素材まで含めたサプライチェーン(供給網)づくりが本格化する。

     

    (1)「信越化学の新工場は2026年に完成し、フォトレジスト(感光材)や原版材料といった半導体ウエハーに回路を描く露光工程で使う材料を生産する。群馬県伊勢崎市に約15万平方メートルの事業用地を取得し、約830億円を投じる。国内での拠点新設は塩化ビニール樹脂などを手がける1970年の鹿島工場以来となる」 

    TSMCの熊本進出でも、地元での半導体関連投資が盛り上がっている。いよいよ半導体素材の増産投資という、「本丸」へ投資が波及してきた。信越化学の56年ぶりの工場建設が、象徴的な出来事になった。 

    (2)「フォトレジストは、露光材料の中でも日本企業が強みを持つ素材のひとつ。特に信越化学は世界シェアが約2割で、先端品に限ると4割以上とみられる。現在は、新潟県と台湾で生産しており、台湾は2021年、新潟県は22年に増設している。新拠点は半導体材料の戦略的な拠点として韓国や米国などへの輸出も担うほか、将来的には研究開発も手がける方針」 

    信越化学は、先端半導体材料では世界シェア4割に達している。国策半導体企業ラピダスは、27年からの本格操業を予定している。需要がますます増える情勢だけに、信越化学は投資に迷いがなかったであろう。

     

    (3)「三井化学は、半導体回路の原版を保護する薄い膜材料「ペリクル」を生産する山口県の工場を増設する。50億〜90億円を投じて、25〜26年に従来品より性能を高めた製品を量産する。ペリクルは露光装置で半導体ウエハーにレーザーを当てて回路を描く際、原版に傷やホコリが付着するのを防ぐ。露光装置を手がけるオランダのASMLは、より微細な回路を描ける次世代装置の投入を予定している。三井化学は、それに合わせて材料にカーボンナノチューブ(CNT)を採用し、従来品よりも強度と光の透過率を高めた次世代品を発売する」 

    三井化学は、「ペリクル」増産で山口工場を増設する。オランダのASMLが、日本へ研究所を設置するので、連絡を密にして開発を進めるのであろう。 

    (4)「日本は、経済安保の観点からも半導体の国内生産に取り組んでいる。台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本県に日本初の生産拠点を設け、稼働を始めた。ラピダスは北海道に工場を新設し、27年にも生産を始める計画。半導体生産に必要な材料も国内で調達できるようにすることは、供給網の強化につながる。日本酸素ホールディングスは、製造時に使うネオンを26年めどに国産化し、富士フイルムは研磨剤「CMPスラリー」の国内生産を始めた」 

    TSMCは、熊本工場新設で政府補助金を支給される。その条件として、素材の6割を日本国内で調達する義務が課されている。国内素材メーカには、自然と市場が拡大された形だ。

     

    (5)「半導体材料は、マニュアル化できないノウハウや知見を持つ現場の職人的な技術蓄積がモノをいう分野でもあり、日本が技術優位性を保っている。英調査会社オムディアによると、日本勢の半導体材料主要6品目のシェアは約5割と、台湾の17%、韓国の13%を大きく上回る。ただ、高性能化する半導体の生産に最適な素材や装置を開発するには、顧客との継続的な擦り合わせによる改善が欠かせない。そのため一部の素材や装置で、生産や研究開発の拠点を海外に設ける動きが広がっていた」 

    下線部は、日本企業の強みである。トヨタ自動車の全固体電池の開発でも、電解質の素材が出光興産による「マニュアル化できないノウハウ」という職人芸へ依存している。半導体も全固体電池も、素材の生産ではこういう微妙な「技」が生きている。 

    (6)「半導体の供給網強化は、各国が取り組んでいる。韓国は2030年までに、装置や材料の外国企業の誘致を拡大する目標を掲げ、半導体産業の企業を誘致する大規模な工場団地の建設を進めている。台湾は20年に材料の自主生産を目標に掲げ、総額56億台湾ドル(約264億円)の予算を確保した」 

    韓国や台湾は、国産化比率の引上げに努力している。半導体製造では、装置が長年使用している日本製素材特性にマッチしてしまうという不思議な現象が起こっているという。この結果、韓国や台湾が素材国産化を進めれば当面、製品歩留まり率に影響が出るという。半導体素材が「マニュアル化できないノウハウ」の結果であろう。

     

     

     

    テイカカズラ
       


    中国軍は「偽の戦闘力」

    元インド軍中将の分析

    中国も経済分断で大損

    習氏は人生賭けた勝負

     

    戦前の日本は、海洋権益を求めて太平洋戦争へ突入した。中国も同様に、海洋権益への強い執着をみせている。これは、極めて危険な兆候である。他国の領土・領海への軍事進出にほかならないからだ。21世紀の先進国は一様に、領土拡張を否定している。だが、中国は「中華再興」を旗印に領土・領海の拡張を目指している。こうした戦略のすれ違いが、中国へ最大の外交上の難題となって圧力になっている。 

    習氏が、「終身国家主席」を目指していることは言うまでもない。憲法を修正してまで、国家主席の任期を延長したことは、習氏が台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させようとするサインと読むべきだ。そうでなければ、軽々に憲法改正をするはずがない。 

    中国が、台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させるには、軍事力へ依存するほかない。その中国人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中国国家の軍隊でないという特異の存在である。政党が所有する軍隊であることは、世界でも希な存在である。中国人民解放軍兵士は、全員が共産党員であるはずがなく、軍務中4分の1を政治教育に費やさなければという脆弱性を抱えている。「国軍」であれば、このような無駄なエネルギーを使う必要はない。これこそ、「党軍」の抱える本質的欠陥の現れである。

     

    中国軍は「偽の戦闘力」

    香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、3月11日閉幕した中国全人代で、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏が、人民解放軍に対して「偽の戦闘力」を取り締まると表明した。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられる。これは、中国軍にとって不名誉この上ない話だ。軍務の25%を政治教育に費やすのは、共産党への忠誠心を教え込むことにほかならない。忠誠心欠如の軍隊ほど、脆弱な存在はない。中国軍は、こうしたリスクにさらされている。 

    中国全人代常務委員会は、昨年末の12月29日、中国軍の高官ら9人を常務委員代表職から解任した。うち5人は、戦略ミサイル部隊であるロケット軍の出身である。これには、ロケット軍の作戦指揮をとる責任者である司令員だった李玉超氏も含まれていた。ロケット軍は、台湾へ軍事圧力をかける威嚇や、軍事行動をとる際に、最も重要な役割を果す部隊である。そのロケット軍で起こった不祥事だ。それだけに、事態は深刻である。 

    習近平氏が、進める徹底的な軍粛清の背景には、こうした深刻な規律弛緩が起こっていた。米情報機関の分析によれば、腐敗の広がりによって習指導部による軍近代化の取り組みを損ない、戦闘能力に疑問が生じさせているという。『ブルームバーグ』(1月6日付)は、次のように報じた。

     

    人民解放軍ロケット軍内部および国防産業全体の腐敗は、非常に広範囲に及んでいる。習主席が向こう数年間に大規模な軍事行動を検討する可能性は、これによって著しく低下していると、米当局者は考えている。米国情報では、汚職の影響の例を幾つか挙げている。燃料ではなく水を詰めたミサイルや、効果的な発射を可能とするようには蓋が機能しない中国西部のミサイル倉庫などである。 

    米国は、人民解放軍、特にロケット軍内部の腐敗が、軍事能力全体に対する信頼を失墜させたとみているのだ。習氏が、掲げる軍近代化の最優先課題の一部を後退させたと分析している。昨年後半の6カ月間にわたる腐敗捜査で、軍高官十数人が対象となった。軍への取り締まりとしては、現代中国において史上最大とみられている。

     

    元インド軍中将の分析

    米国の情報分析だけでは偏りがある。そこで、中国と国境線の紛争で対峙してきたインド軍幹部の中国軍に対する見方を紹介したい。 

    元インド陸軍中将で中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル氏が3月11日、時事通信のオンラインインタビューに応えた。その内容を要約すると次のようになる。

     

    1)中国の武器は、管理が不十分で誤作動を起こしやすい。

    2)中国軍の昇任は、習氏への忠誠心が基準であり実力に基づかない。

    3)台湾上陸作戦は、地勢的に困難だ。資源の足りない中国に長期戦は不可能である。

    4)中国は、台湾、南シナ海、日本、朝鮮半島、インドなどへの戦線拡大を恐れている。 

    具体的な内容を紹介したい。

    1)中国軍の兵器は粗悪だ。不正や怠慢のせいで管理がずさんであるからだ。制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席は昨年8月、装備の管理を抜本的に改めるよう指示したほど。22年8月に台湾周辺で行われた大規模演習で発射したミサイルは誤作動があったもよう。パキスタンなどに輸出された中国製兵器も、うまく作動しないことがあった。 

    2)中国軍の昇任基準は、能力ではなく習氏に対する忠誠心が左右する。こうした人事も影響し、中国軍は見掛けよりもはるかに弱い。新しい兵器を使いこなすには知識と経験が必要だが、有能な人材が足りないのだ。1979年以来、中国軍は本格的な実戦を経験しておらず、人事も能力重視でない。2020年6月、インドとの国境地帯で起きた中印両軍の衝突で、中国側の死者はインド側よりもはるかに多かった。(つづく)

     

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