勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    台湾は、総統選と同時に実施された立法委員選挙で、与党・民主進歩党(民進党)が過半数を割り込む敗北を喫した。その一因は、不動産価格の高騰や格差拡大への若者たちの不満や反発だ。頼総統にとっては、差し迫った課題が経済問題である。解決が長引けば、中国共産党が民意へ「介入」してくるリスクも高まる。 

    『日本経済新聞』(6月1日付)は、「台湾、経済多角化が優先課題」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ジャーナリストのウィリアム・ペセック氏である。米経済誌『バロンズ』や『ブルームバーグ』でコラムニストを務め、日本に関する著書もある。 

    中台関係の緊張が高まる中、台湾の頼清徳(ライ・チンドォー)新総統は5月20日の就任演説で「(台湾への)威嚇を停止」し、台湾海峡と地域の平和と安定の維持に尽力するよう中国に求めた。中国はすぐ反論し、政府の報道官が頼氏の演説について「危険なシグナル」を送ったと指摘した。 


    (1)「頼氏は、まもなく主な懸念事項が中国ではないことに気づくかもしれない。差し迫った問題は台湾経済が誤った方向に進んでいることだ。賃金停滞と不動産価格の高騰によって格差が広がり、特に若者が意気消沈している。頼氏は蔡英文(ツァイ・インウェン)前総統の2期目の任期で副総統を務めた。台湾初の女性総統だった蔡氏は、任期の終わりまで高い人気を維持した。2016年に就任すると低迷していた経済を活性化させた。新型コロナウイルス禍を機敏に切り抜けて、台湾を米国の主要な仲間につくり変えて自主性を保った」 

    頼総統は、国内経済問題の解決に取組まなければならない。賃金停滞と不動産価格高騰の問題だ。これは、所得不平等がもたらした結果である。高所得者は、競って不動産を買い漁るが、若者の失業問題は深刻である。

    (2)「蔡氏は、前進し始めた経済サイクルを頼氏に引き渡した。人工知能(AI)技術のブームで輸出が増加し、第1四半期の成長率は約3年ぶりの高い水準を記録した。ただ問題は、AI技術に関連するハードウエアの世界的な需要が、長期的には持続可能な成長の源泉にはならない可能性があることだ。現在、半導体受託生産の台湾積体電路製造(TSMC)のような巨大企業はハイテク業界の頂点にあるようにみえる。しかし将来どうなるかは誰もわからない」 

    台湾経済にアキレス腱は、最先端半導体を製造できても他の有力な産業が育たないことだ。産業基盤が強固でないのは、所得再分配政策に失敗しているからだろう。台湾のGDPに占める個人消費比率は、45.69%(2022年)である。2018年は52.3%であったから、4年間で急激に下がっている。これが、不公平感を高めている背景であろう。 


    (3)「現時点で台湾は、世界的なハイテクの好況下にあり、米国と中国の堅調な成長の恩恵を受けている。ただ11月の米大統領選挙を前に米中が対立する中、台湾は不安定な立場に立たされるかもしれない。
    大統領選では、トランプ前大統領が返り咲く可能性もある。トランプ氏は中国と貿易戦争をやりたくてうずうずしている。計画している中国製品に対する60%の一律関税は地域の成長に大きな打撃を与えかねない。台湾の半導体メーカーにも影響を及ぼす恐れがある」 

    台湾は、中国との経済関係が深いだけに、トランプ氏の米大統領復帰は大きな変数である。これにどのように対応するのか。国内経済基盤の強化であろう。

    (4)「トランプ氏は、台湾に対する軍事支援についてあいまいな発言に終始している。台北を犠牲にして、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と包括的な取引をするのではないかという懸念もある。こうした不確実性は、台湾の経済構造に影を落としかねない。ひとつは輸出依存度の高さだ。台湾の輸出は3月に急増した。しかし中国経済が減速し、米金利が予想より高い水準にとどまる中で持続できるだろうか」。 

    台湾半導体を代表するTSMCは、AI(人工知能)半導体で高い利益を上げている。この状態は、これから本格化する。中国経済が減速しても十分カバーするだろう。問題は、この高い利益をいかに国民へ還元するかだ。その知恵が問われている。

    (5)「もうひとつの懸念は貧富の格差である。1991年から約4倍に拡大している。21年末時点で台湾の最も裕福な世帯上位20%の資産は、下位20%の資産の70倍近くに上る。所得が伸び悩む一方で、住宅費が上昇していることが最大の原因だ。若者の失業率は11%を超えている」 

    下線部は、「半導体長者」であろう。この高所得へ課税率を引上げ、再分配する知恵がないのではどうにもならない。まさに、「所得再分配政策」の出動時期である。それが、個人消費の引上げに寄与し、失業率を減らす契機になる。民進党は、庶民の味方になるべきだ。

     

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    日本半導体の素材・部品・装置企業では、国内新工場建設および増設が続いている。韓国メディアが9日、日本の半導体関連ニュースを取り上げるほど注目されている。日本政府が、半導体の生産に必要な材料を国内で調達するサプライチェーンづくりを本格化させているからだ。 

    『日本経済新聞』(4月9日付)は、「信越化学、半導体素材で56年ぶり国内新工場 供給網強化」と題する記事を掲載した。 

    信越化学が、群馬県に半導体素材の新工場をつくることが8日、わかった。国内での製造拠点新設は56年ぶり。三井化学も山口県の拠点で増産体制を整える。半導体の製造装置や素材は、日本企業のシェアが高い製品が多い。戦略物資として各国が半導体産業の集積を進めており、日本でも素材まで含めたサプライチェーン(供給網)づくりが本格化する。

     

    (1)「信越化学の新工場は2026年に完成し、フォトレジスト(感光材)や原版材料といった半導体ウエハーに回路を描く露光工程で使う材料を生産する。群馬県伊勢崎市に約15万平方メートルの事業用地を取得し、約830億円を投じる。国内での拠点新設は塩化ビニール樹脂などを手がける1970年の鹿島工場以来となる」 

    TSMCの熊本進出でも、地元での半導体関連投資が盛り上がっている。いよいよ半導体素材の増産投資という、「本丸」へ投資が波及してきた。信越化学の56年ぶりの工場建設が、象徴的な出来事になった。 

    (2)「フォトレジストは、露光材料の中でも日本企業が強みを持つ素材のひとつ。特に信越化学は世界シェアが約2割で、先端品に限ると4割以上とみられる。現在は、新潟県と台湾で生産しており、台湾は2021年、新潟県は22年に増設している。新拠点は半導体材料の戦略的な拠点として韓国や米国などへの輸出も担うほか、将来的には研究開発も手がける方針」 

    信越化学は、先端半導体材料では世界シェア4割に達している。国策半導体企業ラピダスは、27年からの本格操業を予定している。需要がますます増える情勢だけに、信越化学は投資に迷いがなかったであろう。

     

    (3)「三井化学は、半導体回路の原版を保護する薄い膜材料「ペリクル」を生産する山口県の工場を増設する。50億〜90億円を投じて、25〜26年に従来品より性能を高めた製品を量産する。ペリクルは露光装置で半導体ウエハーにレーザーを当てて回路を描く際、原版に傷やホコリが付着するのを防ぐ。露光装置を手がけるオランダのASMLは、より微細な回路を描ける次世代装置の投入を予定している。三井化学は、それに合わせて材料にカーボンナノチューブ(CNT)を採用し、従来品よりも強度と光の透過率を高めた次世代品を発売する」 

    三井化学は、「ペリクル」増産で山口工場を増設する。オランダのASMLが、日本へ研究所を設置するので、連絡を密にして開発を進めるのであろう。 

    (4)「日本は、経済安保の観点からも半導体の国内生産に取り組んでいる。台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本県に日本初の生産拠点を設け、稼働を始めた。ラピダスは北海道に工場を新設し、27年にも生産を始める計画。半導体生産に必要な材料も国内で調達できるようにすることは、供給網の強化につながる。日本酸素ホールディングスは、製造時に使うネオンを26年めどに国産化し、富士フイルムは研磨剤「CMPスラリー」の国内生産を始めた」 

    TSMCは、熊本工場新設で政府補助金を支給される。その条件として、素材の6割を日本国内で調達する義務が課されている。国内素材メーカには、自然と市場が拡大された形だ。

     

    (5)「半導体材料は、マニュアル化できないノウハウや知見を持つ現場の職人的な技術蓄積がモノをいう分野でもあり、日本が技術優位性を保っている。英調査会社オムディアによると、日本勢の半導体材料主要6品目のシェアは約5割と、台湾の17%、韓国の13%を大きく上回る。ただ、高性能化する半導体の生産に最適な素材や装置を開発するには、顧客との継続的な擦り合わせによる改善が欠かせない。そのため一部の素材や装置で、生産や研究開発の拠点を海外に設ける動きが広がっていた」 

    下線部は、日本企業の強みである。トヨタ自動車の全固体電池の開発でも、電解質の素材が出光興産による「マニュアル化できないノウハウ」という職人芸へ依存している。半導体も全固体電池も、素材の生産ではこういう微妙な「技」が生きている。 

    (6)「半導体の供給網強化は、各国が取り組んでいる。韓国は2030年までに、装置や材料の外国企業の誘致を拡大する目標を掲げ、半導体産業の企業を誘致する大規模な工場団地の建設を進めている。台湾は20年に材料の自主生産を目標に掲げ、総額56億台湾ドル(約264億円)の予算を確保した」 

    韓国や台湾は、国産化比率の引上げに努力している。半導体製造では、装置が長年使用している日本製素材特性にマッチしてしまうという不思議な現象が起こっているという。この結果、韓国や台湾が素材国産化を進めれば当面、製品歩留まり率に影響が出るという。半導体素材が「マニュアル化できないノウハウ」の結果であろう。

     

     

     

    テイカカズラ
       


    中国軍は「偽の戦闘力」

    元インド軍中将の分析

    中国も経済分断で大損

    習氏は人生賭けた勝負

     

    戦前の日本は、海洋権益を求めて太平洋戦争へ突入した。中国も同様に、海洋権益への強い執着をみせている。これは、極めて危険な兆候である。他国の領土・領海への軍事進出にほかならないからだ。21世紀の先進国は一様に、領土拡張を否定している。だが、中国は「中華再興」を旗印に領土・領海の拡張を目指している。こうした戦略のすれ違いが、中国へ最大の外交上の難題となって圧力になっている。 

    習氏が、「終身国家主席」を目指していることは言うまでもない。憲法を修正してまで、国家主席の任期を延長したことは、習氏が台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させようとするサインと読むべきだ。そうでなければ、軽々に憲法改正をするはずがない。 

    中国が、台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させるには、軍事力へ依存するほかない。その中国人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中国国家の軍隊でないという特異の存在である。政党が所有する軍隊であることは、世界でも希な存在である。中国人民解放軍兵士は、全員が共産党員であるはずがなく、軍務中4分の1を政治教育に費やさなければという脆弱性を抱えている。「国軍」であれば、このような無駄なエネルギーを使う必要はない。これこそ、「党軍」の抱える本質的欠陥の現れである。

     

    中国軍は「偽の戦闘力」

    香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、3月11日閉幕した中国全人代で、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏が、人民解放軍に対して「偽の戦闘力」を取り締まると表明した。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられる。これは、中国軍にとって不名誉この上ない話だ。軍務の25%を政治教育に費やすのは、共産党への忠誠心を教え込むことにほかならない。忠誠心欠如の軍隊ほど、脆弱な存在はない。中国軍は、こうしたリスクにさらされている。 

    中国全人代常務委員会は、昨年末の12月29日、中国軍の高官ら9人を常務委員代表職から解任した。うち5人は、戦略ミサイル部隊であるロケット軍の出身である。これには、ロケット軍の作戦指揮をとる責任者である司令員だった李玉超氏も含まれていた。ロケット軍は、台湾へ軍事圧力をかける威嚇や、軍事行動をとる際に、最も重要な役割を果す部隊である。そのロケット軍で起こった不祥事だ。それだけに、事態は深刻である。 

    習近平氏が、進める徹底的な軍粛清の背景には、こうした深刻な規律弛緩が起こっていた。米情報機関の分析によれば、腐敗の広がりによって習指導部による軍近代化の取り組みを損ない、戦闘能力に疑問が生じさせているという。『ブルームバーグ』(1月6日付)は、次のように報じた。

     

    人民解放軍ロケット軍内部および国防産業全体の腐敗は、非常に広範囲に及んでいる。習主席が向こう数年間に大規模な軍事行動を検討する可能性は、これによって著しく低下していると、米当局者は考えている。米国情報では、汚職の影響の例を幾つか挙げている。燃料ではなく水を詰めたミサイルや、効果的な発射を可能とするようには蓋が機能しない中国西部のミサイル倉庫などである。 

    米国は、人民解放軍、特にロケット軍内部の腐敗が、軍事能力全体に対する信頼を失墜させたとみているのだ。習氏が、掲げる軍近代化の最優先課題の一部を後退させたと分析している。昨年後半の6カ月間にわたる腐敗捜査で、軍高官十数人が対象となった。軍への取り締まりとしては、現代中国において史上最大とみられている。

     

    元インド軍中将の分析

    米国の情報分析だけでは偏りがある。そこで、中国と国境線の紛争で対峙してきたインド軍幹部の中国軍に対する見方を紹介したい。 

    元インド陸軍中将で中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル氏が3月11日、時事通信のオンラインインタビューに応えた。その内容を要約すると次のようになる。

     

    1)中国の武器は、管理が不十分で誤作動を起こしやすい。

    2)中国軍の昇任は、習氏への忠誠心が基準であり実力に基づかない。

    3)台湾上陸作戦は、地勢的に困難だ。資源の足りない中国に長期戦は不可能である。

    4)中国は、台湾、南シナ海、日本、朝鮮半島、インドなどへの戦線拡大を恐れている。 

    具体的な内容を紹介したい。

    1)中国軍の兵器は粗悪だ。不正や怠慢のせいで管理がずさんであるからだ。制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席は昨年8月、装備の管理を抜本的に改めるよう指示したほど。22年8月に台湾周辺で行われた大規模演習で発射したミサイルは誤作動があったもよう。パキスタンなどに輸出された中国製兵器も、うまく作動しないことがあった。 

    2)中国軍の昇任基準は、能力ではなく習氏に対する忠誠心が左右する。こうした人事も影響し、中国軍は見掛けよりもはるかに弱い。新しい兵器を使いこなすには知識と経験が必要だが、有能な人材が足りないのだ。1979年以来、中国軍は本格的な実戦を経験しておらず、人事も能力重視でない。2020年6月、インドとの国境地帯で起きた中印両軍の衝突で、中国側の死者はインド側よりもはるかに多かった。(つづく)

     

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    韓国と台湾は、半導体クラスター(集団)の造成計画を掲げているが、住民の反対(台湾)や、法案成立遅れ(韓国)とそれぞれ難題を抱えている。半導体クラスターとは、関連企業が特定地域に集まり集積効果を最大化した「半導体競争力強化」戦略である。だが、クラスター造成には、政府や地方自治体、住民など各種利害関係者間の対立を調停する「政治的な調整機能」が要求される。 

    韓国と台湾は、こういう調整機能が脆弱である。その点日本には、「一糸乱れぬ」利害関係の調整をして、早期実現を図る実績がある。産業行政が効率的に行われている。政治も地域も結束して半導体工場の受入れに動いているのだ。韓国や台湾が、半導体クラスター造成に手間取っていれば、日本が有利な地歩を固めるのは確実である。 

    『中央日報』(1月18日付)は、「韓国も台湾も『半導体クラスター作る』 これからは政治力勝負だ」と題する記事を掲載した。 

    「台湾に(半導体)総合クラスターが構築されるよう支援する」(頼清徳次期台湾総統、13日の当選演説)。「世界最大の半導体メガクラスターを作っている」(尹錫悦大統領、15日の民生討論会)。韓国と台湾の「半導体政治力競争」が始まった。両首脳は最近相次ぎ半導体クラスター造成を叫んだ。

    (1)「韓国大統領の発表に対する半導体産業界は、「カギは速度だ」と共通の反応を示した。大統領府発表は、クラスターに必要な電力・用水・交通のようなインフラを速やかに供給するという内容だった。業界では、「電力・用水許認可だけ早く出てもどうなのか」と話す。SKハイニックスの竜仁(ヨンイン)半導体クラスター建設が隣接する自治体の電力・用水許認可問題で2年近く遅れた」 

    韓国半導体業界は、大統領府の発表に対して「実現のスピードがカギ」と冷めた反応だ。行政の末端では、手続きを巡って縄張り争いが起こるからだ。

     

    (2)「現実に、「韓国半導体産業の最大の障害物は地方公務員」という話まで出ている。予算を握る企画財政部、規制官庁である環境部をどうにか乗り越えても、自治体の請願に阻まれれば答が出ないということだ。韓国政府も事態の深刻性を知っている。産業通商資源部エネルギー室関係者は中央日報に「エネルギー室で別途ガバナンスを構築し電力確保にスピードを出したい」と話した」 

    地方公務員が、最終的な承認権を握っているのでこれが手続き遅延の理由になっている。

    (3)「政府がかじ取りできる根拠法案は、国会に上がっている。昨年10月に「国民の力」の金成願(キム・ソンウォン)議員が発議した国家基本電力網拡充法で、首相傘下の委員会が特定事業に対し許認可手続きを大幅に改善して官庁・自治体・事業者間の対立を仲裁し、地域住民の補償もこれまでより多くできるという内容だ。類似法案が野党からも上がってきた。しかし、金成願議員は中央日報に「必要性に与野党が共感するというが、法案小委員会が開かれない」とため息をついた。政界がすでに総選挙モードに突入した以上、第21代国会の関心から遠ざかったという話だ。このままでは法案は廃棄される」 

    国会では、半導体工場設置を目的とした「国家基本電力網拡充法案」が、議員の賛同を得られずに廃案になった。


    (4)「サムスンとTSMCは1.4ナノメートル工程を適用した最先端半導体をどちらが先に出すかをめぐり競争中だ。両社とも2027年の量産が目標だ。TSMCの計画は、「政治の失敗」で遅延の危機だ。TSMCは、台湾最大半導体クラスターである新竹科学団地に近い竜潭に1.4ナノのファブ(工場)を作ることにしたが、用地確保を約束していた台湾政府は地域住民との協議に失敗した。TSMCは結局、昨年10月に予定地を台中に変更した。2023年末に設計に着手するとしていた計画は6カ月以上遅れる見通しだ」 

    台湾のTSMCも、政治の壁に悩んでいる。政府は、工場用地確保で支援してくれると約束したが、地域住民との協議に失敗して計画は半年以上も遅延した。日本では、地域との協議が円滑に進む。その背景には、「人口減」という共通認識があるので、話合いはスムーズに進むのであろう。 

    (5)「先月フィナンシャル・タイムズが、「台湾選挙に立ち込めるTSMCの影」という記事では、「TSMCに良いことが台湾に良いことなのか」「電力・環境問題があるのにこの狭い土地に必ず作らなければならないのか」と台湾の声を紹介した。TSMCは台湾の宝である。TSMCの時価総額が、台湾証券市場の27%を占める。半導体が、台湾の輸出の42%を占めるなど偏りが激しく「愛憎のTSMC」でもある」

     

    台湾では、TSMCが群れを抜いた存在になっている。それだけに、TSMCの高い給与が羨望の的になり、やっかみも手伝い反感も買っている。こういう感情論も絡んでくる。 

    (7)「TSMCをサムスンに置き換えれば、韓国にも当てはまる指摘だ。サムスン電子の時価総額は、有価証券市場の17.9%、半導体の輸出割合は15.6%だ。韓国と台湾、両国政府は半導体産業を集中育成するとしながらも、社会統合と均衡発展も成し遂げなければならない課題を抱えている。それこそ政治力の真剣勝負だ。 

    韓国では、左派がサムスンを目の敵にしている。韓国では左派勢力が強いので、自治体がサムスン電子やSKハイニックスの工場増設を妨害するという、日本では考えられない障害が出てくる。

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    習近平・中国国家主席は就任後、最大の難局に直面している。国内はバブル経済崩壊によって対GDP比で300%以上の過剰債務を抱えている。外交面では、習氏の台湾侵攻発言がきっかけに米中対立が先鋭化している。西側諸国のデリスキング(リスク削減)によって、中国の対米輸出が鈍化しているのだ。こうした中で、台湾総統選は、民進党が3期12年も政権を担当することになった。次期総統が2期担当すれば、民進党政権が連続16年も続く公算になる。習氏にとっては、絶望的な状況に追込まれるのだ。 

    『毎日新聞』(1月12日付)は、「2024年にのぞんで『曲がり角の中国』」と題して柯隆・東京財団政策研究所主席研究員へのインタビューを掲載した。柯隆氏は、中国南京市出身である。 

    (1)「中国は不動産バブルが崩壊し、既にデフレに突入したと私は見ています。株価も不動産価格も下落し、資産デフレは深刻です。給料も下がっており、日本の過去30年と同じ状況に陥りつつあります。国際通貨基金(IMF)は昨年11月、24年の中国の経済成長率の見通しを4.6%としましたが、若者の失業率は高く、実態はもっと厳しいでしょう。23年のうちに習近平政権が有効な経済政策を打てなかったことも今後、響きます。今、政権内の人は上から下まで習国家主席しか見ていません。誰もが指示待ちで、その意味でも中国経済は本当に厳しい」 

    23年に住宅不況へ有効な対策を打たなかったことが、国民の不安感を決定的に高めてしまった。これが、景気回復で大きな障害になる。

     

    (2)「大きな懸念は地方政府に飛び火することです。日本のバブル期は地上げ屋が暗躍しましたが、中国では地方政府が土地の「使用権」を売却し、不動産デベロッパーと連動して価格をつり上げてきました。地方政府はこうして得た巨額な収入を財源にして、社会保障ファンドの運用資金などに充て、年金の支払いを行ってきたのです。財源がなくなれば資金は枯渇し、高齢者らが年金を受け取れなくなります。北京や上海などの大都市は心配ないですが、問題は内陸部の都市です。経済成長が遅れ、急速に高齢化が進んでおり、深刻な社会不安に発展しかねません。中国には661の地方都市がありますが、その3分の2以上はこうした危機にあります」 

    中国の地方都市662のうち、3分の2以上が財政危機に陥っている。不動産バブル崩壊による土地売却益の落込みが理由だ。 

    (3)「日本のような民主主義国と中国のような独裁政権国家では、情報の伝わり方が異なる。これがポイントです。米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが08年に経営破綻した際、その情報は一瞬で世界に広がり、株価は大暴落して世界的な金融・経済危機になりました。しかし中国発の要因で、そうした事態は起きないでしょう。中国政府が情報をコントロールしているからです。幸か不幸か、これにより大規模な金融危機にならず、各国は時間的な余裕をもらっているのです。大きな危機は起きていなくても、一部の日本企業はすでに生産拠点を中国から日本やベトナムに移転しています。米アップルも組み立て工場の一部をインドに移しました。インドやベトナムの経済が好調なのはこれが一因です。ただ、一瞬で経済がクラッシュすれば、早く回復します。逆に中国は情報統制で時間稼ぎをしているうちに、痛みはじわじわと長引き、回復までに時間がかかることになります」 

    中国のような独裁政権国家は、情報管理されているので悪い情報の伝わり方が緩慢である。これが、すでに命取りになっている。海外の投資ファンドが、市場不透明を理由にして撤退していることだ。中国経済には外資が不可欠であるが、その命綱を中国自ら断ち切っている。

     

    (4)「東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出で、中国は日本産水産物の全面的な輸入停止を続けています。中国にとって日本企業は「技術の源」で、去ってほしくない。だから日中関係を悪化させたくない。これが本音です。中国は24年、日本との関係安定化に動くでしょう。だから焦る必要はありません。水産物の輸入停止が一気に撤廃されるのは難しいですが、撤廃を徐々に広げるなど、中国は解決の糸口を探っています」 

    中国は、日本が技術の宝庫であるだけに疎遠になりたくない相手である。それだけに、中国から日本へ接近してくるであろう。 

    (5)「台湾はかつて、中国大陸にルーツを持つ国民党の支持が多かったのですが、国民党支持者はどんどん高齢化しています。一方で若い世代はネット交流サービス(SNS)に親しむなど親米色が強い。今回も民進党候補が勝つ可能性が高いです。民進党には将来有望な総統候補もいます。米国と太いパイプを持つ副総統候補の蕭美琴(しょうびきん)氏です。もし頼氏が当選して2期8年務め、次に蕭氏が総統になり2期8年務めたら、少なくとも16年間は民進党政権が続きます。実際、その可能性は高いです。そう考えると、中国は早晩、民進党との対話を模索せざるを得なくなります。そして民進党も中国を刺激しないように、「中国からの独立」を宣言しないでしょう」 

    国民党支持者は、しだいに高齢化している。代わって、台湾出身者の民進党支持が増える構造ができつつある。民進党総統はこれから、さらに4期16年続く可能性もあるだけに、中国は民進党との対話を拒否できまい。

     

     

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