半導体受託製造の世界最大手TSMCから最先端技術に関する営業秘密が不正に取得された事件で、捜査当局である台湾高等検察署は8月27日、すでに摘発済みだった3人を起訴した。うち1人は、東京エレクトロン元社員(事件を受け懲戒解雇)、残る2人はTSMC元社員(同)で、いずれも国家安全法および営業秘密法に違反したとして懲役7~14年が求刑されている。事件の真相が明らかになってきた。
『東洋経済オンライン』(8月28日付)は、「台湾TSMCの『国宝級』2ナノ技術流出で3人をスピード起訴――東京エレクトロンを襲う"3つのショック"、主犯の元社員に懲役14年を求刑」と題する記事を掲載した。
台湾は、2022年に国家安全法を改正し、企業の営業秘密のうち国家安全保障に関わるものの海外流出を阻止する措置を新設している。具体的には第3条で「国家の核心的重要技術(国家核心関鍵技術)」についての規定を新設し、さらに別途、行政院(日本の内閣に相当)が対象となる技術をリストで指定している。このリストの中で半導体製造技術については、「14ナノメートル以下のプロセスノードの技術」と明示されている。
(1)「今回の事件は、国家安全法の法改正以降で初めて、核心的重要技術の営業秘密の海外流出を摘発したケースだった。しかも不正取得されたのは、世界的にも最先端レベルの2ナノ技術。いわば、台湾の国家安全保障戦略においては「国宝級」とも称すべき最重要技術だ。このため捜査当局とTSMCは事件の解明と犯人の厳正な処罰に全精力を傾注しており、それが超スピード起訴に繋がった」
台湾当局は、TSMCの最先端(2ナノ)技術が流出した事件だけにスピード対応している。「国宝級」技術だけに神経を尖らせている。当然であろう。
(2)「まず1つ目は、東京エレクトロンの元社員で陳姓の人物が「主犯」であり、しかもその犯行経緯は業務と深く密接していたことが明らかになった点だ。起訴された3人の中でも、最も長い14年が求刑されている。他の2人はそれぞれ、7年と9年の求刑だった。この差は事件の詳細に基づく捜査当局の判断であり、捜査当局の発表文で明解に示されている。発表に基づくと、事件は以下のようなものだった。東京エレクトロン元社員はもともとTSMCの社員で、ファブ12(第12工場)の歩留まり改善を担う部門で働いていた。補足すると、ファブ12は3~5ナノの先端技術まで手がける重要工場の1つである」
主犯は、元TSMC社員で東京エレクトロン営業部へ転職した人物である。この主犯は、TSMCで3~5ナノの先端技術を扱う部署に勤務していた。
(3)「この元社員は、TSMCを辞めて東京エレクトロンに転職し、営業部門に配属された。そして東京エレクトロンの装置が、「TSMCの先端ラインのより多くの工程で採用されること」を狙って、複数の元同僚に対して複数回にわたりTSMCの営業秘密の提供を求めた。そして元同僚の助力で営業秘密を撮影・複製するという犯行を主導した。実は捜査当局が、この事件について東京エレクトロンという企業名に公式に言及するのは、これが初めてだ。今回の起訴対象はあくまで元社員個人であり東京エレクトロンは含まれていないが、犯行の背景に業務が関係していることから、企業名にも言及したとみられる」
今回の起訴対象は、あくまで元社員個人である。東京エレクトロンは含まれていない。
(4)「2つ目は、事件が東京エレクトロンのビジネス上の「泣き所」と直結していたことだ。捜査当局の発表によると、主犯の元社員はTSMCから窃取した情報を使って、東京エレクトロンの「エッチング装置」の性能を改善し、TSMCの2ナノ量産ラインで自社のエッチング装置がより多くの認証を獲得できるよう活用したという。東京エレクトロンは半導体製造装置で世界4位、国内最大手の有力メーカーである。特にコーター/デベロッパと呼ばれる塗布現像装置は世界シェア9割を誇り、TSMCもこの装置については東京エレクトロン以外に選択肢がない」
主犯の元社員は、TSMCから窃取した情報を使って、東京エレクトロンの「エッチング装置」の性能を改善。TSMCの2ナノ量産ラインで、自社のエッチング装置がより多くの認証を獲得できるよう活用したという。この点では、皮肉にもTSMCへ貢献している形だ。
(5)「一方、チップに回路形成する工程で使われるエッチング装置については、世界シェア2位ではあるもののアメリカのラムリサーチに水をあけられ続けている。半導体業界のあるコンサルタントは、次のように指摘する。「エッチング装置において、ラムリサーチとの技術力の差が埋められない。エッチング装置が厳しく業績の重しになっているというのが、業界における共通認識だ」。エッチング装置は、東京エレクトロンの新規装置売上高の3割以上を占めるため、ここの動向は業績を大きく左右する」
東京エレクトロンは、チップに回路形成する工程で使われるエッチング装置で競業企業に水を開けられている。そこで、TSMCの盗用技術を知らずに利用し効率を上げた、とされる。
(6)「今回の事件で主犯の人物は、エッチング装置の性能を改善することにTSMCの営業秘密を利用したという。これが個人の犯行に留まるのか否かは、今後の捜査と公判の結果を待つしかない。現時点で指摘できることは、元社員の犯行は東京エレクトロンの経営において利益をもたらすものであったという点だ」
今後の裁判過程で、東京エレクトロンは盗用技術であることを全く知らずに採用したのかどうかが焦点になる。東京エレクトロンが起訴されていないことは、無関係としているのであろう。





