勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    韓国と台湾は、半導体クラスター(集団)の造成計画を掲げているが、住民の反対(台湾)や、法案成立遅れ(韓国)とそれぞれ難題を抱えている。半導体クラスターとは、関連企業が特定地域に集まり集積効果を最大化した「半導体競争力強化」戦略である。だが、クラスター造成には、政府や地方自治体、住民など各種利害関係者間の対立を調停する「政治的な調整機能」が要求される。 

    韓国と台湾は、こういう調整機能が脆弱である。その点日本には、「一糸乱れぬ」利害関係の調整をして、早期実現を図る実績がある。産業行政が効率的に行われている。政治も地域も結束して半導体工場の受入れに動いているのだ。韓国や台湾が、半導体クラスター造成に手間取っていれば、日本が有利な地歩を固めるのは確実である。 

    『中央日報』(1月18日付)は、「韓国も台湾も『半導体クラスター作る』 これからは政治力勝負だ」と題する記事を掲載した。 

    「台湾に(半導体)総合クラスターが構築されるよう支援する」(頼清徳次期台湾総統、13日の当選演説)。「世界最大の半導体メガクラスターを作っている」(尹錫悦大統領、15日の民生討論会)。韓国と台湾の「半導体政治力競争」が始まった。両首脳は最近相次ぎ半導体クラスター造成を叫んだ。

    (1)「韓国大統領の発表に対する半導体産業界は、「カギは速度だ」と共通の反応を示した。大統領府発表は、クラスターに必要な電力・用水・交通のようなインフラを速やかに供給するという内容だった。業界では、「電力・用水許認可だけ早く出てもどうなのか」と話す。SKハイニックスの竜仁(ヨンイン)半導体クラスター建設が隣接する自治体の電力・用水許認可問題で2年近く遅れた」 

    韓国半導体業界は、大統領府の発表に対して「実現のスピードがカギ」と冷めた反応だ。行政の末端では、手続きを巡って縄張り争いが起こるからだ。

     

    (2)「現実に、「韓国半導体産業の最大の障害物は地方公務員」という話まで出ている。予算を握る企画財政部、規制官庁である環境部をどうにか乗り越えても、自治体の請願に阻まれれば答が出ないということだ。韓国政府も事態の深刻性を知っている。産業通商資源部エネルギー室関係者は中央日報に「エネルギー室で別途ガバナンスを構築し電力確保にスピードを出したい」と話した」 

    地方公務員が、最終的な承認権を握っているのでこれが手続き遅延の理由になっている。

    (3)「政府がかじ取りできる根拠法案は、国会に上がっている。昨年10月に「国民の力」の金成願(キム・ソンウォン)議員が発議した国家基本電力網拡充法で、首相傘下の委員会が特定事業に対し許認可手続きを大幅に改善して官庁・自治体・事業者間の対立を仲裁し、地域住民の補償もこれまでより多くできるという内容だ。類似法案が野党からも上がってきた。しかし、金成願議員は中央日報に「必要性に与野党が共感するというが、法案小委員会が開かれない」とため息をついた。政界がすでに総選挙モードに突入した以上、第21代国会の関心から遠ざかったという話だ。このままでは法案は廃棄される」 

    国会では、半導体工場設置を目的とした「国家基本電力網拡充法案」が、議員の賛同を得られずに廃案になった。


    (4)「サムスンとTSMCは1.4ナノメートル工程を適用した最先端半導体をどちらが先に出すかをめぐり競争中だ。両社とも2027年の量産が目標だ。TSMCの計画は、「政治の失敗」で遅延の危機だ。TSMCは、台湾最大半導体クラスターである新竹科学団地に近い竜潭に1.4ナノのファブ(工場)を作ることにしたが、用地確保を約束していた台湾政府は地域住民との協議に失敗した。TSMCは結局、昨年10月に予定地を台中に変更した。2023年末に設計に着手するとしていた計画は6カ月以上遅れる見通しだ」 

    台湾のTSMCも、政治の壁に悩んでいる。政府は、工場用地確保で支援してくれると約束したが、地域住民との協議に失敗して計画は半年以上も遅延した。日本では、地域との協議が円滑に進む。その背景には、「人口減」という共通認識があるので、話合いはスムーズに進むのであろう。 

    (5)「先月フィナンシャル・タイムズが、「台湾選挙に立ち込めるTSMCの影」という記事では、「TSMCに良いことが台湾に良いことなのか」「電力・環境問題があるのにこの狭い土地に必ず作らなければならないのか」と台湾の声を紹介した。TSMCは台湾の宝である。TSMCの時価総額が、台湾証券市場の27%を占める。半導体が、台湾の輸出の42%を占めるなど偏りが激しく「愛憎のTSMC」でもある」

     

    台湾では、TSMCが群れを抜いた存在になっている。それだけに、TSMCの高い給与が羨望の的になり、やっかみも手伝い反感も買っている。こういう感情論も絡んでくる。 

    (7)「TSMCをサムスンに置き換えれば、韓国にも当てはまる指摘だ。サムスン電子の時価総額は、有価証券市場の17.9%、半導体の輸出割合は15.6%だ。韓国と台湾、両国政府は半導体産業を集中育成するとしながらも、社会統合と均衡発展も成し遂げなければならない課題を抱えている。それこそ政治力の真剣勝負だ。 

    韓国では、左派がサムスンを目の敵にしている。韓国では左派勢力が強いので、自治体がサムスン電子やSKハイニックスの工場増設を妨害するという、日本では考えられない障害が出てくる。

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    習近平・中国国家主席は就任後、最大の難局に直面している。国内はバブル経済崩壊によって対GDP比で300%以上の過剰債務を抱えている。外交面では、習氏の台湾侵攻発言がきっかけに米中対立が先鋭化している。西側諸国のデリスキング(リスク削減)によって、中国の対米輸出が鈍化しているのだ。こうした中で、台湾総統選は、民進党が3期12年も政権を担当することになった。次期総統が2期担当すれば、民進党政権が連続16年も続く公算になる。習氏にとっては、絶望的な状況に追込まれるのだ。 

    『毎日新聞』(1月12日付)は、「2024年にのぞんで『曲がり角の中国』」と題して柯隆・東京財団政策研究所主席研究員へのインタビューを掲載した。柯隆氏は、中国南京市出身である。 

    (1)「中国は不動産バブルが崩壊し、既にデフレに突入したと私は見ています。株価も不動産価格も下落し、資産デフレは深刻です。給料も下がっており、日本の過去30年と同じ状況に陥りつつあります。国際通貨基金(IMF)は昨年11月、24年の中国の経済成長率の見通しを4.6%としましたが、若者の失業率は高く、実態はもっと厳しいでしょう。23年のうちに習近平政権が有効な経済政策を打てなかったことも今後、響きます。今、政権内の人は上から下まで習国家主席しか見ていません。誰もが指示待ちで、その意味でも中国経済は本当に厳しい」 

    23年に住宅不況へ有効な対策を打たなかったことが、国民の不安感を決定的に高めてしまった。これが、景気回復で大きな障害になる。

     

    (2)「大きな懸念は地方政府に飛び火することです。日本のバブル期は地上げ屋が暗躍しましたが、中国では地方政府が土地の「使用権」を売却し、不動産デベロッパーと連動して価格をつり上げてきました。地方政府はこうして得た巨額な収入を財源にして、社会保障ファンドの運用資金などに充て、年金の支払いを行ってきたのです。財源がなくなれば資金は枯渇し、高齢者らが年金を受け取れなくなります。北京や上海などの大都市は心配ないですが、問題は内陸部の都市です。経済成長が遅れ、急速に高齢化が進んでおり、深刻な社会不安に発展しかねません。中国には661の地方都市がありますが、その3分の2以上はこうした危機にあります」 

    中国の地方都市662のうち、3分の2以上が財政危機に陥っている。不動産バブル崩壊による土地売却益の落込みが理由だ。 

    (3)「日本のような民主主義国と中国のような独裁政権国家では、情報の伝わり方が異なる。これがポイントです。米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが08年に経営破綻した際、その情報は一瞬で世界に広がり、株価は大暴落して世界的な金融・経済危機になりました。しかし中国発の要因で、そうした事態は起きないでしょう。中国政府が情報をコントロールしているからです。幸か不幸か、これにより大規模な金融危機にならず、各国は時間的な余裕をもらっているのです。大きな危機は起きていなくても、一部の日本企業はすでに生産拠点を中国から日本やベトナムに移転しています。米アップルも組み立て工場の一部をインドに移しました。インドやベトナムの経済が好調なのはこれが一因です。ただ、一瞬で経済がクラッシュすれば、早く回復します。逆に中国は情報統制で時間稼ぎをしているうちに、痛みはじわじわと長引き、回復までに時間がかかることになります」 

    中国のような独裁政権国家は、情報管理されているので悪い情報の伝わり方が緩慢である。これが、すでに命取りになっている。海外の投資ファンドが、市場不透明を理由にして撤退していることだ。中国経済には外資が不可欠であるが、その命綱を中国自ら断ち切っている。

     

    (4)「東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出で、中国は日本産水産物の全面的な輸入停止を続けています。中国にとって日本企業は「技術の源」で、去ってほしくない。だから日中関係を悪化させたくない。これが本音です。中国は24年、日本との関係安定化に動くでしょう。だから焦る必要はありません。水産物の輸入停止が一気に撤廃されるのは難しいですが、撤廃を徐々に広げるなど、中国は解決の糸口を探っています」 

    中国は、日本が技術の宝庫であるだけに疎遠になりたくない相手である。それだけに、中国から日本へ接近してくるであろう。 

    (5)「台湾はかつて、中国大陸にルーツを持つ国民党の支持が多かったのですが、国民党支持者はどんどん高齢化しています。一方で若い世代はネット交流サービス(SNS)に親しむなど親米色が強い。今回も民進党候補が勝つ可能性が高いです。民進党には将来有望な総統候補もいます。米国と太いパイプを持つ副総統候補の蕭美琴(しょうびきん)氏です。もし頼氏が当選して2期8年務め、次に蕭氏が総統になり2期8年務めたら、少なくとも16年間は民進党政権が続きます。実際、その可能性は高いです。そう考えると、中国は早晩、民進党との対話を模索せざるを得なくなります。そして民進党も中国を刺激しないように、「中国からの独立」を宣言しないでしょう」 

    国民党支持者は、しだいに高齢化している。代わって、台湾出身者の民進党支持が増える構造ができつつある。民進党総統はこれから、さらに4期16年続く可能性もあるだけに、中国は民進党との対話を拒否できまい。

     

     

    テイカカズラ
       

    台湾総統選挙の投開票が、1月13日に迫る。中国は、台湾への武力行使を依然として否定していないなかで、ロケット・ミサイル部隊の動きが注目を集めている。9日午後、中国内陸部から発射されたロケットが、台湾南部上空を通過したからだ。この中国による牽制は何を意味するのか。 

    『日本経済新聞 電子版』(1月10日付)は、「中国軍に粛清の嵐 台湾総統選後の軍事圧力で長期戦略」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。 

    9日、問題の衛星を発射した中国内陸部の西昌発射センターは、先に中国国防相から解任された李尚福が、責任者を意味する指令員を務めていた場所でもある。因縁を感じざるをえない。なぜなら、これに先立ち、別の角度から台湾で関心を集めたのが、李尚福も絡む米ブルームバーグ通信の報道だったからだ。

     

    (1)「習近平が今後数年のうちに(台湾への)大規模な軍事行動を検討する可能性は、この問題がなかった場合と比べると低い――」。これが報道で伝えられた米当局者の分析である。「この問題」とは中国軍内の深刻な汚職問題などだ。燃料の代わりに水を詰めたミサイルが実際に存在。発射に際し迅速に開くべきミサイル格納庫の蓋の部分が十分に機能しないなど、驚くべき指摘だった。そして今、中国軍内では、粛清の嵐が吹き荒れている。李尚福の国防相解任は象徴的だ。李尚福は、先に紹介した経歴からわかるように、人工衛星を打ち上げるロケット・戦略ミサイル、装備関連の部門での経験が長い」 

    中国軍ミサイル部隊が、ロケット燃料の代わりに水を詰めているという信じがたい話は、軍部の腐敗を端的に示している。 

    (2)「さらに、中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会は昨年末の12月29日、中国軍の高官ら9人を代表職から解任した。うち5人は戦略ミサイル部隊を意味するロケット軍の出身。そこには、ロケット軍の作戦指揮をとる責任者である司令員だった李玉超も含まれる。ロケット軍は中国の台湾への軍事圧力、そして万一、軍事行動をとる際、最も重要な部隊であるのは間違いない。だが、そのロケット軍の高官が昨年夏、汚職摘発機関の調査を受けた後に死亡。自殺だったとみられている」 

    ロケット軍の腐敗粛清が大規模に行われている。他の陸海空の軍隊にはないのか。ないとすれば、これも信じられないことになる。中国人社会で賄賂が存在しないことなどあり得ないからだ。

     

    (3)「一連の問題は、習主導でこの78年間、急ピッチで進められてきた軍に絡む様々な抜本改革が、当初の狙い通りに進んでいないことを示している。旧軍区の再編、組織改革などだ。とりわけ陸、海、空など軍種をまたぐかつてない人事異動に対する現場軍人の抵抗感は根強い。米メディア『ブルームバーグ』の報道内容を敷衍すれば、中国軍による台湾侵攻は極めて難しくなっている。しかし、本当にそうなのだろうか。少し違う中長期的な視点でこの問題を考えてみたい」 

    腐敗問題は、中国人共通の問題である。中国ロケット軍特有の現象でないことは明らかだ。政治将校が、全兵士の25%も配置されている理由を考えるべきだ。先進国軍隊には、ありえないことである。それだけ、軍紀が乱れていることの証明であろう。 

    (4)「3年後も「真のトップ」としての地位を維持したい習には、重い課題がのしかかっている。台湾統一という中国共産党が掲げる大目標だ。「習がトップに立ってからの315年で統一実現が遠のいた」という評価が党内で固まってしまえば、権威維持に大きな痛手だ。何としてもこれだけは避けなければならない。習としては今後、台湾向けにとれる軍事面のあらゆる選択肢を確保しておきたい。軍事圧力から軍事行動まである。そのためには当然、中国軍を自由自在に動かす「事前準備」が必要になる」 

    習氏が、自己の権力を守るために軍事圧力から軍事行動まで、台湾へ遠慮なく行うと指摘している。だが、それを支える中国の国力が次第になくなることも事実だ。習氏がいつまでも、そのような「遊び」を行えるか疑問が残る。

     

    (5)「その第1のステップは既に完了している。米下院議長だったペロシが22年夏、台湾を訪問した際、中国軍がとった行動だ。台湾をぐるりと囲むように6つの軍事演習区域を設定し、大陸側から演習名目でミサイルを撃ち込んだ。これは、いざという場合、台湾に通じる海路、空路を封じる「台湾封鎖」を意識した動きだった」 

    台湾封鎖演習は、実戦では二度と同じ手は使えないだろう。西側が、この手を先読みして防衛体制を組むからだ。現実の「台湾封鎖」は、開戦第一歩になる。中国はその時点で、経済封鎖を覚悟しなければならない。 

    (6)「習をピラミッドの頂点とする軍の指揮・命令系統が完全に機能することが「一丁目一番地」となる。「つまり、現在、中国軍内に吹き荒れる恐ろしい粛清の嵐は、中長期の軍事戦略を見据えた様々な準備の一環だ。その狙いは(いわゆる)『抵抗勢力』の一掃である」という解釈も可能なのだ。この中国内部から聞こえてくる声を信じるなら、今回、米国で報じられた「中国のミサイルに装塡された燃料は水だった」という目を引く問題だけにとらわれるのは危険だ。中国の動きを見くびってはならない」 

    中国人社会は恨みを抱えた場合、必ず報復する民族である。歴史的に同族になればなるほど、それが苛烈になっていた。中国軍が、一糸乱れずに直接の恨みもない台湾を攻撃するだろうか。それよりも、「反習近平一派」が団結する可能性が強いとみる。ロケット軍の腐敗は、台湾侵攻への無言の抵抗とも読めるのだ。中国の経済力低下は、軍備拡張速度を鈍らせ、やがて習氏への不満を溜める原因となろう。こちらの方が重大な影響力を持つ。

     

     

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    11月15日の米中首脳会談で、隠れた話題が台湾総統選であった。バイデン米大統領は、習中国国家主席に対して、「台湾総統選へ介入しないように」と釘を刺すほど、神経を使っている。親米路線の与党民進党が3期続けて総統を務めるか。あるいは、対中融和路線の野党候補が政権を担うのか、米中双方にとって大きな影響が出る。 

    『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「親米か対中融和か 路線選択を迫られる台湾有権者ー来年1月に総統選」と題する記事を掲載した。 

    2024年1月に実施される台湾総統選挙は三つどもえで争われる構図が固まった。総統選は有権者にとって、蔡英文政権の下で亀裂が深まった対中関係を修復し、有事リスクを後退させるチャンスとなる。しかし、対中融和を掲げる最大野党・国民党と野党第2党・民衆党が候補一本化の調整に失敗したことから、先行きは不透明となった。

     

    (1)「総統選は、与党・民進党の頼清徳副総統、国民党の侯友宜新北市長、民衆党の柯文哲前台北市長の争いとなった。頼氏は米国との連携を一段と強める姿勢を示している。一方、野党候補の2人は共に、中国との対話を再開する計画だと表明している。フォックスコン・テクノロジー・グループ創業者の郭台銘氏は立候補を断念した」 

    一時は、野党2候補の統一で合意されたが失敗した。形の上では、与党候補が有利にみえるが、支持率は接近している。 

    (2)「野党が候補一本化に失敗したとはいえ、民進党の3期連続の政権運営となるかどうかは予断を許さない状況だ。特に若い有権者の間では、8年近く政権を担ってきた同党への不満や、変化を求める声が高まっている。民間シンクタンクの台湾民意基金会が24日に公表した世論調査結果によると、頼氏の支持率は31.4%に低下し、侯氏(31.1%)が迫っている。柯氏は25.2%だった。 

    与党候補が、国民党候補をわずかにリードしている。ここで、何かアクシデントが起これば、支持率はがらりと代わる微妙なところである。

     

    (3)「ペンシルベニア州のフランクリン&マーシャル大学の顏維婷助教は「変化を望む有権者はかなり多く、民進党が立法院(国会)で過半数を失う可能性は高い」と指摘した。フーバー研究所の特別研究員、カリス・テンプルマン氏は「現在の情勢は台湾の多くの有権者にとって危険なように思われる」とし、「突然の禁輸措置や、外交的孤立の深まり、さらなる戦争の脅し」に関する懸念を理由に挙げた。その上で同氏は、侯氏が自分の政権は中国と協調できると説得力をもって主張できるし、侯氏が総統になれば、より抜本的な国防改革を行うための時間が稼げるだろうと述べた」 

    立法院は、国民党が過半数を握る可能性があるという。変化を望む民意が、背景にあると指摘する。 

    (4)「顏助教は、侯氏が趙氏を副総統候補に選んだことは、台湾の最終的な中国との統一を支持する有権者層を固めることを狙った明確なシグナルだと指摘。「国民党がこの戦略的な投票キャンペーンに成功すれば世論調査で同党候補の支持率が上がり、より接戦になることが予想される」と分析した」 

    国民党の侯候補は、テレビ司会者でメディア経営者の趙少康氏を副総統候補に選んだことで中国統一を明確にした。趙氏は、かつて国民党の立法委員だったが離党して、統一を強硬に主張する政党を共同創立した経緯がある。2021年に国民党へ復帰した。中国との統一を明確にした国民党は、国民の支持率をどこまで得られるか。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「微笑の習氏へ別れ際に拳、米中絡む台湾野合破局の大波」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙編集委員の中沢克二氏である。 

    (5)「北京と台北の政界の雰囲気を知る人物はこう見る。多くの台湾政局観察者が見落としている重要な事実があると指摘する。「重要なのは(2008〜16年の)馬英九(国民党)政権時代に重なる中国経済の最盛期が、終わろうとしていることだ。バイデンが米中会談の直後、あえて再び習を『独裁者』と呼んだように、(習への)権力集中が目立つ中国と、民主主義の台湾の距離も広がっている。仮に侯友宜、柯文哲が総統選で勝っても、(台湾の)世論を考えれば習政権に一気に近付くことなどありえない」。確かに中国経済の全盛期が終わり、なお停滞が続く深刻な状況下では、台湾経済がこれ以上、中国に依存する構造にはなりえない。むしろ、中国から他国に拠点を移す動きのほうが目立っている」 

    国民党出身の馬英九元総統は、中国経済全盛期に統一論を展開したが、現在の中国経済はバブル崩壊後遺症で大きなダメージを受けている。台湾経済自体が、「脱中国」の動きを強めているほどだ。こういう経済的に下降へ向う中国との統一論に台湾有権者は魅力を感じるか、という問題が指摘されている。

     

    (6)「バイデンが「独裁者」と呼んだ習の中国と、民主主義が成熟しつつある台湾の政治的な基盤には大きな溝もある。中台関係は、習が中国共産党トップに就いてからの11年で、中国の思惑とは別の方向へ構造的に変化してしまったのだ。それでも、もし、中国と距離をおく民進党政権が3期目に入るなら、習は安心して内政に専念できなくなる。常に台湾けん制に気をとられ、喫緊の課題である中国経済の立て直しも「うわの空」になりかねない」 

    台湾有権者は、独裁色を強める中国と台湾の成熟化する民主主義と比較して、どちらに軍配を上げるかだ。前回の総統選では、直前に香港の中国化が持ち上がって民進党が勝利を収めた。中国の政治状況は、当時と全く変わっていないのだ。台湾有権者の選択が興味深い。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-11-27

    台湾、「デリスキング」習氏の侵攻論が逆効果、脱中国依存を着実に推進「幻の中台経済圏」

     

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    ペロシ米下院議長の訪台に対して、中国は台湾を封鎖する形の大軍事演習を行ない抗議した。再び米議会の要人の訪台をさせないという意思表示であったのだろう。米国は、ヤンキー魂というのか。これに屈することなく14日には、米議会上下両院の超党派による議員団5人が訪台した。中国の横暴に鼻を明かした形である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月14日付)は、「米超党派議員団が台湾訪問、15日に蔡総統と会談」と題する記事を掲載した。

     

    米上下院の超党派議員団が14日、台湾に到着した。上院外交委員会東アジア太平洋小委員会のマーキー委員長(民主党)ら5人で、15日午前に蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談する予定だ。台湾にはペロシ米下院議長が訪問したばかり。相次ぐ米議員の訪台で、中国の反発は必至だ。

     


    (1)「米国の窓口機関である米国在台湾協会(AIT)と台湾の外交部が14日、議員団の訪問を発表した。滞在は15日まで。蔡氏や呉釗燮・外交部長(外相)と会談するほか、立法院(国会)に訪問する。安全保障や経済・貿易関係で意見交換する。台湾の総統府の報道官は14日、「訪問を心から歓迎する」と述べた。中国の軍事演習が地域の緊張を高めているとし「米議会の台湾への強い支持と、平和と安定の維持に協力する決意を改めて示すものだ」とした。中国はペロシ氏の訪台に強く反発し、訪問直後の4日から台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を実施した。14日も複数の中国軍機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を台湾側に越えるなど、圧力が続いている」

     

    米議員団は、中国の反発を織り込み済である。米議会の断固たる台湾支援姿勢を内外に示すことが目的であろう。米議会が、このように対中強硬姿勢を見せている理由は現在、審議中の「台湾政策法2022」成立へ強い意志を示したと見られる。台湾政策法2022とは、次のような内容である。

     


    「台湾政策法2022」は、米上院外交委員会のメネンデズ委員長(民主)と予算委員会のグラハム委員長(共和)が共同提出した法案である。注目される中身は、

    1)台湾に対する4年間で45億ドルの軍事支援する

    2)台湾をNATO非加盟の主要な同盟地域に指定する

    3)中国の台湾侵攻抑止のため強力な制裁体制の確立する

     

    成立を目指す理由は、ウクライナで起きた悲劇を台湾で起こさせないためとしている。この法案が成立すれば、2)の通り台湾を正式にNATO(北大西洋条約機構)同盟扱いすることになり、米国は台湾に対する防衛義務が生じ従来の方針である米軍が台湾へ介入するかどうか曖昧にする戦略を転換することになる。中国の「火遊び禁止法」になる。

     

    バイデン政権は、この法案が台湾を正式にNATO(北大西洋条約機構)同盟扱いすることに難点を示している。できれば、この法案の成立を忌避したい動きを見せている。今回の超党派議員団の訪台は、バイデン政権とは反対に法案成立への強い意志を示しているように見える。立法府と行政府の対立になってきた。

     


    『日本経済新聞 電子版』(8月14日付)は、「米政権、台湾と貿易促進へ工程表 中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    米国のバイデン政権は12日、台湾との貿易促進に向けた工程表を近く公表すると明らかにした。中国に依存する台湾の貿易構造の是正を後押しし、禁輸措置で台湾に圧力をかける中国に対抗する。

     

    (2)「米国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は12日、記者団に対して「一つの中国政策と整合させながら、経済や貿易関係の強化も通じて台湾との結びつきを深めていく」と言及した。「貿易交渉に関する野心的な工程表を作成しており、数日中に発表する方針だ」と話した。米国と台湾は6月、新たな貿易協議の枠組みを立ち上げたと発表した。デジタル貿易や環境・労働者の保護、貿易手続きの簡素化を主要テーマとした。工程表ではテーマごとの交渉期限を示す可能性がある」

     

    米台の貿易関係を密にする目的である。台湾は、米国産豚肉の自由化も決めており、米台で障害になる事項はすべて解決している。今度は米国が度量の大きいところを見せなければならない。

     


    (3)「米国のペロシ下院議長が8月上旬に台湾を訪問すると、中国は事実上の対抗措置として台湾からのかんきつ類や魚類の輸入停止を発表した。経済に打撃を与えて米国との関係強化を停止するよう台湾に迫る狙いがあったとみられる。バイデン政権は議会承認が必要な自由貿易協定(FTA)に慎重で、関税の引き下げは想定していない。貿易協議を通じ、米台の貿易がどれほど増えるかは不透明な面がある」

     バイデン政権は、関税引き下げ措置は米議会の審議を必要とするので、民主党から反対論が予想される。労働組合が雇用を奪われると神経しであるからだ。10月の中間選挙を控えて、議会で波風が立つことを回避したいからだ。どこの国でも、選挙前は慎重である。

    バイデン政権は、関税引き下げ措置は米議会の審議を必要とするので、民主党から反対論が予想される。労働組合が雇用を奪われると神経しであるからだ。10月の中間選挙を控えて、議会で波風が立つことを回避したいからだ。どこの国でも、選挙前は慎重である。

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