韓国と台湾は、半導体クラスター(集団)の造成計画を掲げているが、住民の反対(台湾)や、法案成立遅れ(韓国)とそれぞれ難題を抱えている。半導体クラスターとは、関連企業が特定地域に集まり集積効果を最大化した「半導体競争力強化」戦略である。だが、クラスター造成には、政府や地方自治体、住民など各種利害関係者間の対立を調停する「政治的な調整機能」が要求される。
韓国と台湾は、こういう調整機能が脆弱である。その点日本には、「一糸乱れぬ」利害関係の調整をして、早期実現を図る実績がある。産業行政が効率的に行われている。政治も地域も結束して半導体工場の受入れに動いているのだ。韓国や台湾が、半導体クラスター造成に手間取っていれば、日本が有利な地歩を固めるのは確実である。
『中央日報』(1月18日付)は、「韓国も台湾も『半導体クラスター作る』 これからは政治力勝負だ」と題する記事を掲載した。
「台湾に(半導体)総合クラスターが構築されるよう支援する」(頼清徳次期台湾総統、13日の当選演説)。「世界最大の半導体メガクラスターを作っている」(尹錫悦大統領、15日の民生討論会)。韓国と台湾の「半導体政治力競争」が始まった。両首脳は最近相次ぎ半導体クラスター造成を叫んだ。
(1)「韓国大統領の発表に対する半導体産業界は、「カギは速度だ」と共通の反応を示した。大統領府発表は、クラスターに必要な電力・用水・交通のようなインフラを速やかに供給するという内容だった。業界では、「電力・用水許認可だけ早く出てもどうなのか」と話す。SKハイニックスの竜仁(ヨンイン)半導体クラスター建設が隣接する自治体の電力・用水許認可問題で2年近く遅れた」
韓国半導体業界は、大統領府の発表に対して「実現のスピードがカギ」と冷めた反応だ。行政の末端では、手続きを巡って縄張り争いが起こるからだ。
(2)「現実に、「韓国半導体産業の最大の障害物は地方公務員」という話まで出ている。予算を握る企画財政部、規制官庁である環境部をどうにか乗り越えても、自治体の請願に阻まれれば答が出ないということだ。韓国政府も事態の深刻性を知っている。産業通商資源部エネルギー室関係者は中央日報に「エネルギー室で別途ガバナンスを構築し電力確保にスピードを出したい」と話した」
地方公務員が、最終的な承認権を握っているのでこれが手続き遅延の理由になっている。
(3)「政府がかじ取りできる根拠法案は、国会に上がっている。昨年10月に「国民の力」の金成願(キム・ソンウォン)議員が発議した国家基本電力網拡充法で、首相傘下の委員会が特定事業に対し許認可手続きを大幅に改善して官庁・自治体・事業者間の対立を仲裁し、地域住民の補償もこれまでより多くできるという内容だ。類似法案が野党からも上がってきた。しかし、金成願議員は中央日報に「必要性に与野党が共感するというが、法案小委員会が開かれない」とため息をついた。政界がすでに総選挙モードに突入した以上、第21代国会の関心から遠ざかったという話だ。このままでは法案は廃棄される」
国会では、半導体工場設置を目的とした「国家基本電力網拡充法案」が、議員の賛同を得られずに廃案になった。
(4)「サムスンとTSMCは1.4ナノメートル工程を適用した最先端半導体をどちらが先に出すかをめぐり競争中だ。両社とも2027年の量産が目標だ。TSMCの計画は、「政治の失敗」で遅延の危機だ。TSMCは、台湾最大半導体クラスターである新竹科学団地に近い竜潭に1.4ナノのファブ(工場)を作ることにしたが、用地確保を約束していた台湾政府は地域住民との協議に失敗した。TSMCは結局、昨年10月に予定地を台中に変更した。2023年末に設計に着手するとしていた計画は6カ月以上遅れる見通しだ」
台湾のTSMCも、政治の壁に悩んでいる。政府は、工場用地確保で支援してくれると約束したが、地域住民との協議に失敗して計画は半年以上も遅延した。日本では、地域との協議が円滑に進む。その背景には、「人口減」という共通認識があるので、話合いはスムーズに進むのであろう。
(5)「先月フィナンシャル・タイムズが、「台湾選挙に立ち込めるTSMCの影」という記事では、「TSMCに良いことが台湾に良いことなのか」「電力・環境問題があるのにこの狭い土地に必ず作らなければならないのか」と台湾の声を紹介した。TSMCは台湾の宝である。TSMCの時価総額が、台湾証券市場の27%を占める。半導体が、台湾の輸出の42%を占めるなど偏りが激しく「愛憎のTSMC」でもある」
台湾では、TSMCが群れを抜いた存在になっている。それだけに、TSMCの高い給与が羨望の的になり、やっかみも手伝い反感も買っている。こういう感情論も絡んでくる。
(7)「TSMCをサムスンに置き換えれば、韓国にも当てはまる指摘だ。サムスン電子の時価総額は、有価証券市場の17.9%、半導体の輸出割合は15.6%だ。韓国と台湾、両国政府は半導体産業を集中育成するとしながらも、社会統合と均衡発展も成し遂げなければならない課題を抱えている。それこそ政治力の真剣勝負だ。
韓国では、左派がサムスンを目の敵にしている。韓国では左派勢力が強いので、自治体がサムスン電子やSKハイニックスの工場増設を妨害するという、日本では考えられない障害が出てくる。