勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

    ムシトリナデシコ
       

    中国は、台湾での中国製通信機器と同ソフトを対象にハッカー操作しことを立証してしまった。米下院議長ペロシ氏の訪台に反対する中国は、台湾へ大掛かりなハッカー攻撃を仕掛けた結果だ。

     

    この被害に遭ったのは、ファーウェイ製通信機器とチャイナソフトへ集中。中国が、裏で操作していることを自ら認める結果になった。なんと、「おっちょこちょい」な振る舞いであることかと呆れるのだ。蛇足ながら、中国製のIT機器やソフトを使っているユーザーは、何時ハッカー攻撃の対象にされ、思わぬ被害を受けるかも知れないので要注意だ。

     


    『大紀元』(8月5日付)は、「中国ハッカー集団、台湾へ大規模な攻撃 『中国製設備の使用が原因』」と題する記事を掲載した。

     

    米国のナンシー・ペロシ下院議長が2日夜、台湾に到着して以降、台湾の公的機関を標的とするサイバー攻撃が多発している。中国の報復措置とみられる。いっぽう、この影響で通信障害が起きたシステムでは、中国製通信機器やソフトウェアが使われていることがわかった。

     

    (1)「台湾政府のウェブサイトや高速鉄道の駅、空港、一部のコンビニエンスストアのネットワークが標的にされた。高雄市新左営駅の電子掲示板には3日、大陸で使用している簡体字で、ペロシ氏の訪台を非難する文言が表示された。南投県竹山町役場やコンビニ大手のセブンイレブンでは、電光掲示板に「ペロシ、台湾から出ていけ」と表示された。中国通信機器大手ファーウェイ製の電子設備を使用している高速鉄道の南港駅(台北市)の駐車場システムも通信障害が発生した。台湾の通信当局、国家通訊伝播委員会(NCC)の陳耀祥・主任委員は3日の記者会見で、「現時点の調査では、広告媒体システムが中国製のソフトウェアを使ったことが原因だとわかった」と述べた」

     


    ファーウェイ製機器には、「バックドア」が付けられている。これは、下請け業者への生産委託過程で秘かに行なわれていることで突き止められている。EUは「5G」で、米国のファーウェイ製機器警戒論をなかなか受入れなかった。ファーウェイ製機器でサイバー攻撃が起こると、胸をなで下ろさなければならない。危機一髪であった。中国はスパイ天国であるのだ。

     

    (2)「外務省や台湾電力などのウェブサイトもシステム障害が起き、一時閲覧ができなくなった。外務省の欧江安報道官は4日、ペロシ氏が台湾に到着した2日以降、攻撃に使われているIPアドレスの大半は「中国とロシア」だと明らかにした。行政院(内閣に相当)によると、公的機関に対するサイバー攻撃は3日の一日だけで490万回に達し、過去2カ月間の総数を上回っている」

     

    台湾国防部(国防省)は4日、ウェブサイトがサイバー攻撃を受け、一時的にオフラインになったと発表した。IPアドレスの大半は「中国とロシア」であり、「中ロ枢軸」が「悪の枢軸」となった。

     


    (3)「中国のハッカーグループ「APT27」は3日、YouTube上で動画を投稿し、ペロシ下院議長の台湾訪問に抗議して「サイバー特別行動」を展開するとの声明を出した。独メディア「ドイチェベレ」によると、APT27はすでに台湾のインターネット接続設備6万個を閉じたと発表した。欧米では、APT27は中国政府が支援するハッカー集団だと認識されている。今年1月、同グループがドイツの製薬やIT企業を狙い大規模なサイバー攻撃を行った。台湾SNS上では、ファーウェイなど中国製通信設備のセキュリティ問題が再び話題となった。ネットユーザーは「ペロシ氏来訪のおかげで、この問題が裏付けられた」と使用の見直しを求めた

     

    台湾SNS上では、ファーウェイなど中国製通信設備のセキュリティ問題が話題になっている。こういう形で中国の信頼は失われてゆくのだ。台湾では、自らを「台湾人」と認識する人の数が、「中国人」を大きく上回っている。大陸からこういう攻撃を受けると、ますます「中国嫌い」が増えるであろう。

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    中国は、米下院議長ペロシ氏の訪台をきっかけにして大軍事演習を始めた。その目的について、新たな解釈が出てきた。中国は、台湾と戦火を交えずに台湾を降伏させる手段として、海上での全島封鎖作戦を意図しているというもの。だが、封鎖行為は明らかな戦闘行為であるから、台湾が応戦しないはずもない。同盟国も座視する筈がない。こういう身勝手な戦術を編み出す中国の狙いは、中国自身が深傷を負えない経済的事情を暴露しているようなものであろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月5日付)は、「台湾封鎖の中国軍演習、『戦火なき統一』予行か」と題する記事を掲載した。

     

    中国が台湾周辺で開始した実弾演習では、台湾を封鎖するシナリオに沿って作戦を実施しているもようだ。この演習からは、中台間で紛争が発生した際に中国指導部が展開し得る威圧的な戦術が透けて見える。中国は全面的な台湾侵攻に踏み出す能力はまだ持っておらず、向こう数年で実行する作戦としてはあまりに複雑でリスクが高すぎる、と指摘する専門家は多い

     

    (1)「中国は、台湾を武力で抑え込むのではなく、締め付けて降伏させる道を選ぶとの見立てだ。米ワシントンのシンクタンク、ハドソン研究所のブライアン・クラーク上級研究員は「中国は兵力を大量集結させて(台湾を)封鎖するような印象を与えることで、これを実行できると誇示する狙いがある」と話す。中国軍は4日、軍用機や艦船を投入して演習を開始し、複数の弾道ミサイルを台湾周辺の海域に向けて発射した。軍事専門家によると、向こう数日間に海・空区域で大規模な訓練が行われる見通しで、台湾周辺海域を掌握できることを見せつける狙いがあるとみられる」

     

    中国軍は、敵はいないから自由自在に振る舞い、あたかも巨大な軍事力を擁しているような行動を見せつけている。だが、日米はその動きを子細に分析しているはずだ。

     


    (2)「演習場所は港湾施設や海上輸送ルートに近いことから、一部で貨物や航空機の流れに遅延が生じており、中国が台湾や諸外国に与え得る痛みの一端がうかがえる。台湾は自動車や最新兵器などに欠かせない先端半導体の生産で世界トップだ。中国人民解放軍国防大学の孟祥青教授は演習開始前に出演した4日朝の国営放送で「これで台湾の包囲網が形成される」と述べた。「これは統一に資するように戦略的な情勢を再形成する上で極めて望ましい環境を整える」と指摘する。

     

    中国メディアによれば、今回の全島封鎖作戦は、侵攻に当っての予定通りの行動であることを示唆している。

     

    (3)「国防アナリストや中国専門家は、軍事演習が終了した後も中国軍が周辺にとどまるか、また台湾周辺での演習を定期的に行うかに注目している。もしそうなれば、中国にとっては台湾経済と諸外国との関係に断続的にマイナスの影響をもたらす手段になり得る。台湾当局への市民の支持を損ない、中国への抵抗を弱めることがその目的だという。ランド研究所の研究員で、元海軍幹部のブラッドリー・マーティン氏は、「おそらく中国は目的を達成するために戦争をしたいとは考えていない」と話す。「全面的な衝突には至らないレベルで強い圧力をかけるというのが、最もあり得るシナリオだ」。

     

    実際に戦火を交えるまでいかない紛争は、「グレーゾーン」戦争と呼ばれ、中国は台湾に加え、領土問題を抱える近隣諸国に対する戦術としても利用している。こういう中国の傾向から見れば、「準戦時体制」を取って台湾を屈服させる意図もあろう。

     


    (4)「仮に中国が船舶の航行を全面的に禁止して周辺海域を封じれば、戦争行為と解釈される。そのため中国は部分的な封鎖を行う可能性が高く、中国軍の出版物でもこの選択肢が議論されている、と前出のマーティン氏は話している。部分封鎖なら、一部の船舶の航行を禁止する一方で食料輸送などは認めるといった選択肢を、中国当局が確保できるという。マーティン氏がランド研究所で共同執筆した、中国による封鎖措置に関する論文によると、事態がエスカレートした場合の負担は、台湾に近づく船舶に重くのしかかる。協力するか抵抗するかを決めざるを得ないためだ」

     

    「自由で開かれたインド太平洋」という「クアッド」(日米豪印)の基本姿勢から言えば、中国による海上の台湾封鎖は、絶対に容認できない事態である。仮に部分封鎖しても、それは戦闘行為と見なされる。

     


    (5)「
    米国は、中国の封鎖措置に直面した場合、戦火を交えるリスクを冒すか封鎖を受け入れるかの厳しい判断を迫られかねない、とマーティン氏らの論文は指摘する。「何も行動しなければ、中国の行為を受け入れたのに等しい」と論文は述べている。アナリストによると、台湾を孤立させる戦術は、米国にとっては対処が難しい。

     

    米国は、戦火を交えても全島封鎖作戦を排除しなければ、同盟国の信頼を裏切ることになろう。

     

    (6)「米国には法律上、台湾が自力で防衛できるように支援する義務がある。一方、これまでは中台双方が武力行使に出ないよう、危機時の米国の関与を示唆しつつも明言はしない「戦略的な曖昧さ」と呼ばれる政策を維持してきた。ジョー・バイデン米大統領は、中国が攻撃すれば米国が台湾を守ると表明したが、他のシナリオでは曖昧さは残るとアナリストは話している。中国が海上を封鎖して台湾を孤立させるシナリオを巡っては、米国、台湾双方の軍に準備ができていないとして、米国の安全保障関係者や議員から懸念の声が上がっている」 

    米国は、中国に対して部分封鎖でも認めないとはっきり意思表示すべきだろう。こういう、悪例を残したら、どの国も中国の餌食になる。中国は、戦わずして勝利を収める「孫氏の兵法」を実戦しようとしている。戦国時代の兵糧攻めと瓜二つの戦術だ。

     

     

     

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    米下院議長ペロシ氏は3日夕刻、無事に訪台を済ませて次の訪問国である韓国へ向かった。習近平中国国家主席は、バイデン米大統領との電話会談で「ペロシ氏の訪台は火遊びで身を滅ぼす」と露骨な言い方をしてけん制した。この効果もなくペロシ訪台は実行された。

     

    中国は、この怒りを四方からの台湾包囲による軍事演習で爆発させる。米台側から見れば、中国の台湾侵攻の作戦の手の内を見せているようなものだ。艦船による台湾砲撃は、潜水艦の餌食になることを意味する。そういうリスクを忘れて、鬱憤晴らしをしているのだ。「夏の花火」演習に見えるのだ。

     

    米議会上院は、近く審議を始める「台湾政策法案」は、台湾の武器購入や軍事演習へ4年間で45億ドル規模を支援すると定める。また、台湾関係法の修正も盛る。現在は、台湾の防衛に必要な武器供与を認めるが、新たに「中国人民解放軍による侵略行為を抑止するのに役立つ武器」の提供も可能にするとの文言を加えるのだ。中国は、「飛んで火に入る夏の虫」になってきた。

     


    中国軍は、2日午後から台湾周辺で一連の合同軍事行動を展開すると発表した。それによると、中国軍は台湾北部、南西部、東南部の海域と空域で連合海上・空中訓練、台湾海峡で長距離火力実弾射撃をそれぞれ実施し、台湾東部海域で常用ミサイル火力試験射撃を実施する予定だと説明した。事実上、台湾を四方で包囲する形の全方向的「武力示威」となる。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月4日付)は、「中国の実弾演習、高い戦闘能力が送るメッセージ」と題する記事を掲載した。

     

    中国が台湾周辺で47日に実施する実弾演習は、これまでの危機でみせた対応に比べ、軍事圧力を著しく強めており、中国軍による急速な戦闘能力の増強を浮き彫りにするものとなりそうだ。中国が軍事演習を発表したのは、ナンシー・ペロシ米下院議長が2日夜、台湾に到着した直後だった。台湾を包囲するかのように海空域6カ所で演習を行うという。

     

    (1)「中国人民解放軍(PLA)は3日、実弾演習を控え、台湾の北、南西、南東で海軍、空軍、戦略ミサイル軍などの組織が合同演習を行ったと明らかにした。実弾演習では長距離兵器や通常ミサイルが投入される可能性がある。演習予定区域の大半は公海上だが、一部は台湾の主要港湾に近く、台湾が「領海」と主張する海域と重なる。そのため、民間の海上輸送にも支障が生じかねない。ミサイルの種類や発射場所にもよるが、PLAのミサイルが台湾の東部沖に向かう中で上空を通過することもあり得る、と専門家は話している。そうなれば、事態を相当エスカレートさせていると解釈される行為だ」

     

    中国は過激な軍事演習を行なえば、米国の反発を招いてより一層の強力な支援体制をつくる反作用を忘れている。実際の戦争は、演習通りには進まないものだ。敵方が、その裏をかく戦術によって対抗するからだ。中国軍が、ここで全力を出し切れば、米軍は次の戦術を編み出すに違いない。

     


    (2)「中国は今のところ、ペロシ氏の訪台を前に一部で懸念されていたような直接的な武力行使、あるいは危険な軍事的対峙(たいじ)を招く行為には至っていない。それでも、1995~96年の台湾海峡危機をはるかにしのぐ威嚇行為だと、西側の国防専門家は話している。中国は当時、台湾総統による訪米に反発してミサイル発射や上陸訓練を実施し、米中間で軍事的な緊張が近年で最も高まった。マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラム責任者、M.テイラー・フレイベル教授は、「発表された軍事演習は、範囲のみならず、規模でも異例なものになる可能性が高い」と述べる」

     

    中国軍が、1995~96年の戦力のままでないことは当たり前だ。厖大な軍事費を投入していているから「進化」は当然だ。驚くには当らない。

     

    (3)「台湾海峡危機時の演習は、水陸両用攻撃に主眼を置いていたが、今回はPLAがいかに台湾周辺を封鎖し、空・海・陸からくまなく攻撃を仕掛けることができるかを誇示する狙いがあるという。フレイベル氏はとりわけ、中国が数十年にわたり軍の近代化を進める中で技術や演習を改善してきた点を挙げ、「1995~96年にはまだ備えていなかった能力を映し出す」と述べる。 

    中国軍は、一対一で台湾軍と戦う想定の演習をしている。実際は、米国を中心とする同盟国が参戦する。そうなると、ここでいくら演習をしても無意味になる。まず、台湾を取り囲んで砲撃を開始する前に、肝心の中国艦船が同盟国の潜水艦部隊に攻撃されるのだ。中国海軍は、多国籍海軍と戦闘した経験がゼロである。指揮命令系統が追いつけないのだ。

     


    (4)「ワシントンの非営利組織、共和党国際研究所(IRI)の上級顧問(在台北)、マイケル・コール氏は、PLAが演習に投入する兵器にはメッセージが込められていると話す。最大の狙いは台湾への威圧と思われるが、中国は米軍空母の破壊を念頭に設計された弾道ミサイルを発射することで、将来紛争が起きた時に米軍に介入しないよう「明確な抑止のメッセージ」を送ることもあり得るという」
     

    空母が出動する前に、潜水艦部隊が攻撃を開始する。中国の潜水艦は、騒音の問題を抱えている。直ぐに発見されやすいのだ。こういう弱体な潜水艦部隊では、とても中国軍が想定する軍事行動は取れまい。西側諸国では、中国軍の軍備の数に注目するよりも、その稚拙な部隊運用に目を向けているのだ。兵站(へいたん)=後方支援の弱点も見抜いている。海上戦で戦った経験ゼロの中国海軍が、近代海軍として世界でもっとも歴史と経験を持つ米海軍とまともに戦えるとは信じがたい話である。

     


    (5)「
    コール氏は、「中国はペロシ氏訪問による利点を打ち消すとともに、米国や台湾のみならず、他の国・地域についてもこのようなハイレベル交流を将来繰り返さないようけん制することで、台湾に心理的な代償をもたらしたいと考えている」と指摘する。中国は近年、専門家が「グレーゾーン戦争」と呼ぶ作戦を展開している。台湾への圧力を強め、実際に衝突を招くことなく相手の軍事力を弱体化させることが狙いだ。具体的には、水陸両用攻撃演習や海上哨戒、軍用機の周辺飛行などに加え、サイバー攻撃や偽情報工作、外交的な圧力といった非軍事的な手法も含まれる」


    中国軍の今回の総合的な実弾演習は、台湾を威圧することと、他国指導層が台湾を訪問すれば、こういう事態になるという見せしめ演習である。ロシア軍は、パレード用軍隊と揶揄されているが、中国軍も今のところはその趣を否定できない弱みを抱えているのだ。 

     

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    蔣介石率いる国民党は1949年、毛沢東の共産党に敗れて台湾へ「蟄居」した。以来、台湾は国民党によって政治支配されてきたが、馬総統時代に中国へ接近して米国の信頼を完全に失った。

     

    台湾は、国民党と民進党の二大政党が力を持っている。伝統的に蔣介石による流れから、国民党が強い支持に支えられてきた。それも、2014年に潮流変化が起こった。国民党馬英九政権が、中国共産党との「国共連携」を深めたことによって、対中政策への不安・批判が高まった。3月に「ひまわり学生運動」が発生して、国民党の支持基盤があちらこちらで弱体化した。これに助けられ、2018年に独立指向の強い民進党が、支持を集めて政権を担うようになった。

     


    台湾の人々は、自らを「台湾人」と称し、決して「中国人」と言わない。これは、台湾人というアイデンティティを持っているからだ。ウクライナ人が、侵攻後にロシア語を使わない精神状況に良く似た面がある。こうして、台湾人のアイデンティが確立している結果、野党・国民党は存在感を高めるべく対米接近の動きを強めてきた。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月2日付)は、「米国の信頼回復目指す台湾・国民党 政権奪回目指す」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の最大野党である国民党が、米国のパートナーとして信頼たりうる存在であることを米政府に証明しようと躍起になっている。同党は与党・民主進歩党(民進党)が勢力を伸ばす中、苦戦している。国民党はかつて党首の蒋介石が中国本土を支配していたころは米国の同盟相手だった。

     


    (1)「国民党トップの朱立倫主席は2日から12日間に及ぶ米国訪問で、台湾にとって最も重要な安全保障上のパートナーとの関係修復を目指す。選挙で相次ぎ大敗を喫した後、党勢を回復しようと戦うなか、党が何年も無視してきた米国との関係改善を図りたい考えだ。米スタンフォード大学フーバー研究所で台湾政治を専門とするカリス・テンプルマン氏は、「国民党は『対米問題』を抱えている」と指摘する。「朱氏は、党がまだ重要な存在で、再び権力を握ったら米国にとって頼りになるパートナーになると説得するために懸命に努力しなければならない」と指摘」

     

    国民党が最近、米国と疎遠になっていたことは不思議である。蔣介石は、米国の「丸抱え」で共産党と内戦を続けた経緯がある。その「恩人」である米国と疎遠になるとは、恩を仇で返しているようなもの。米国が、国民党に不信の念を持つのは当然であろう。

     


    (2)「国民党の凋落(ちょうらく)は、馬英九総統(当時)が中国と合意したサービス分野での貿易協定に抗議する14年の「ひまわり学生運動」とともに始まった。学生運動は、中国に対する過度な経済的依存と中台貿易で受ける恩恵の分配が不平等であることへの不安を反映していた。この時期に成人した若い有権者の多くは、国民党を敬遠するようになった。国民党は過度に親中的だとみているからだ。16年に民進党の蔡英文氏に総統の座をうばわれ、20年には蔡氏がさらに大きな差をつけて再選を果たした」

     

    馬英九氏は、習近平氏と会談している。この頃の中台関係は良好であった。本土から訪台旅行者が押し寄せたものだ。ちょうどこのころ、私は台湾旅行した。台北の土産物店では、本土の観光客の行儀が悪い、と渋い顔をしていた。

     


    (3)「台湾の国立政治大学の選挙研究センターが実施した1月の世論調査によれば、国民党に共感する有権者は17%にとどまった。これは史上最低に近い水準で、民進党に12ポイントの差をつけられていた。台湾の有権者と同様、米国の観測筋も国民党が米国の味方として信頼できるかを疑問視している。国民党は中国本土で創設された政党で、同党の政治家は台湾が中国と同一でないと主張するものの、今でも台湾を中国の一部とみなしている」

     

    国民党は、本土で立党した性格上、台湾は中国の一部という認識である。これが,現在の国際情勢でははなはだ都合が悪くなっている。

     


    (4)「米国の態度が中国に対して強硬になり、中国政府が台湾に対する圧力と威圧を繰り広げると、国民党の立場は台湾、米国双方で一段と不人気になっていった。さらに、米政府高官らは、蔡氏が中国政府の脅しを前に自らの立場を固守した、慎重だが断固たるリーダーとしての力を評価している。テンプルマン氏によると、米政府の多くの関係者は今、国民党を「完全に脇に追いやっているか、下手をするともっと悪く、積極的に米国の利益を妨害している、信用できない相手だ」と考えている。ただし、国民党が今年の地方選挙で勝利を収めれば、そうした見方が変わる可能性があると話している」

     

    米中対立を背景に、国民党は台湾・米国の双方で不人気になる要因(国民党が本土で設立されたこと)を浮き彫りにしている。国民党は立党上、「台湾は中国の一部」と言わざるを得ない立場なのだ。こうして、米国からその存在を疎ましく見られている。

     


    (5)「国民党の国際部トップで、駐米代表に指名されている黄介正氏は、台湾海峡で緊張が高まっているなかで国民党を切実に求められている「信頼できる存在」として売り込みたいと考えている。
    「米国、台湾双方にとって、我々の最大の利益は、今後数年間に戦争が起きないようにすることだ」と語る。さらに、米国は「台湾が中国政府に気軽にあいさつできる与党を持つのを許す」べきだと話している。「それは中国をなだめ、攻撃性を和らげることになり、敵意のコントロールになる。双方にとって良いことだ。これが、我々が米国に行く時に訴えたいストーリーだ」と強調する」

     

    国民党は、米中の間に立って中国をなだめる役割を果たす「緩衝財」と位置づけている。だが、「台湾は、中国の一部」とする立党上の立場は、外交的には極めて面倒になってくる。仮に、国民党が政権を取っている期間に中国の台湾侵攻が起こったとき、「無抵抗」で台湾を明け渡すことになるのか。こういう疑問点が、次々と出てくるのだ。

     

     

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    台湾問題を巡って、米中が激しく対立している。中国は、台湾は中国の一部であり、他国の干渉を許さないと強硬姿勢である。米国は、台湾が成熟した民主主義を実践しているので、暴力から守らなければならないという抽象論で対応している。米国は「一つの中国論」を守るとしており、台湾防衛論に踏込まずにいる。

     

    こうした中で、バイデン大統領訪日の際、記者会見での質問に「(台湾防衛は)イエス」と答えて、中国の非難を浴びている。バイデン氏の「台湾イエス」は、三回目の発言だ。台湾は、無論こういう動きを大歓迎しているが、韓国に対して羨望の眼差しを向けている。当の韓国では、その有難みを弁えずに「二股外交」論を唱える向きが多いのだ。韓国も、台湾の立場になって米韓同盟による「利益」を考えてみることだろう。

     


    『朝鮮日報』(5月29日付)は、「中国傾斜外交時代の終末」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のワシントン特派員イ・ミンソク氏である。

     

    バイデン大統領は5月23日、米日首脳会談の記者会見で中国による台湾侵攻時の「米軍の軍事介入」に再び言及した。米国が維持してきた「戦略的あいまいさ」に反する発言にホワイトハウスは対応に追われた。バイデン大統領が台湾と関連して突発的な発言を行い、ブレーンがそれを収拾する事態が繰り返されるのは3回目だ。

     

    (1)「一部には、バイデン大統領がまたも失言したと見なす向きもある。しかし、バイデン大統領の発言は「本心」だと思う。米政府の本音をちらつかせる「意図されたミス」である可能性がある。約20年前にも同様の議論があった。2001年、ブッシュ元大統領は「(中国による台湾侵攻時)米国には軍事的に防衛する義務があるか」という質問に対し、「もちろんだ。米国は何でもする」と答えた。数時間後、ブッシュ大統領は「米国は『一つの中国』政策を維持し続ける」と発言を後退させた」

     

    一国大統領が、同じ問題で三回も「失言」する筈がない。バイデン氏の本心を言ったと解釈するのが正解であろう。

     


    (2)「ある民主党上院議員は数日後、ワシントン・ポストへの寄稿で、「外交で『言葉』は重要だ。ブッシュ大統領の発言ミスは米国の信頼を傷つけた」と批判した。当時の上院外交委員会の重鎮だったバイデン氏だった。31歳で上院議員に当選したバイデン氏は、ニクソン元大統領が毛沢東と会談した後の1979年、「一つの中国」という原則の下で米国が台湾と断交する過程を生々しく見守った。武力紛争時、米国が台湾に軍事的自衛手段を提供することを内容に盛り込んだ「台湾関係法」を制定する過程にも関与した。このためワシントンの政界では「台湾問題の敏感性を知らないはずがないバイデン大統領が米国の『あいまいさ』を捨てる方向に動いている」との見方が出ている」

     

    バイデン氏は、外交問題のエキスパートである。「台湾関係法」制定にも関与した。米国は超党派で、「台湾支援」へ動いていることが、バイデン氏を後押ししているのであろう。

     

    (3)「米中覇権争いがエスカレートし、ロシアのウクライナ侵攻まで重なると、米外交関係者の間でも「中国の軍事的野心を防げるのは米国の明確な立場だ」という主張が力を得ている。民主・共和両党もこの問題については「米大統領が同盟国である台湾を防御すると明確に宣言しなければならない」と声を一つにしている」

     

    中国は、米国が台湾防衛に参加するという前提で、南シナ海へ軍事進出しているとみるべきだろう。米国が曖昧にしていても本音を見抜いているはずだ。となれば、米国も「台湾防衛」意思を明らかにすべきというのも一つの見識と言える。「一つの中国論」を捨てて、「台湾は主権国家」であると宣言すれば、台湾防衛をし易いという議論も出ている。この場合、中国に台湾侵攻の大義を与えるというマイナスが生じる。

     


    (4)「こうした米国内の状況は、米中間で「綱渡り」外交をする韓国の過去の外交戦略がどれほど非現実的かを示している。トランプ政権最後の国防長官だったエスパー氏は最近、記者とのインタビューで、「韓国の『安美経中』(安全保障は米国寄り、経済は中国寄り)という路線は両立不可能だ。中国が経済依存度を利用し、韓米安保にまで影響を及ぼすようにさせてはならない」と述べた。韓国の過去の政権が中国を意識して放置した終末高高度防衛ミサイル(THAAD)基地、中国に約束した「3つのノー」などに対する批判だった」

     

    こういう台湾問題からみると、韓国は恵まれている。米韓同盟によって、韓国の安全を保障されているからだ。韓国は、それを良いことにして対中「二股外交」をしてきた。それが、国益実現になるという立場である。米国は内心、苦々しく思いながらも傍観してきた。だが、米中対立の激化と共に「二股外交」は利敵行為に映る。米国の秘密情報が、中国へ漏洩しているのでないか、と疑惑を招くのだ。

     

    (5)「台湾政府はバイデンの「軍事介入」発言からすぐに歓迎声明を出した。台湾外交筋は、「韓国は(米国の防衛を)当たり前に考えるだろう。しかし、台湾は韓国が米国から受けている水準の安全保障を受けたことがない。我々は米国による防衛公約が切実に求められる」と語った」

     

    韓国は、同じ半導体王国の台湾が、安全保障面で苦しんでいる現状を認識するべきだろう。韓国は、米韓同盟で守られていることに感謝せず、二股外交を愉しんできた。それも、米中対立激化で不可能になったのだ。

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