勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    11月15日の米中首脳会談で、隠れた話題が台湾総統選であった。バイデン米大統領は、習中国国家主席に対して、「台湾総統選へ介入しないように」と釘を刺すほど、神経を使っている。親米路線の与党民進党が3期続けて総統を務めるか。あるいは、対中融和路線の野党候補が政権を担うのか、米中双方にとって大きな影響が出る。 

    『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「親米か対中融和か 路線選択を迫られる台湾有権者ー来年1月に総統選」と題する記事を掲載した。 

    2024年1月に実施される台湾総統選挙は三つどもえで争われる構図が固まった。総統選は有権者にとって、蔡英文政権の下で亀裂が深まった対中関係を修復し、有事リスクを後退させるチャンスとなる。しかし、対中融和を掲げる最大野党・国民党と野党第2党・民衆党が候補一本化の調整に失敗したことから、先行きは不透明となった。

     

    (1)「総統選は、与党・民進党の頼清徳副総統、国民党の侯友宜新北市長、民衆党の柯文哲前台北市長の争いとなった。頼氏は米国との連携を一段と強める姿勢を示している。一方、野党候補の2人は共に、中国との対話を再開する計画だと表明している。フォックスコン・テクノロジー・グループ創業者の郭台銘氏は立候補を断念した」 

    一時は、野党2候補の統一で合意されたが失敗した。形の上では、与党候補が有利にみえるが、支持率は接近している。 

    (2)「野党が候補一本化に失敗したとはいえ、民進党の3期連続の政権運営となるかどうかは予断を許さない状況だ。特に若い有権者の間では、8年近く政権を担ってきた同党への不満や、変化を求める声が高まっている。民間シンクタンクの台湾民意基金会が24日に公表した世論調査結果によると、頼氏の支持率は31.4%に低下し、侯氏(31.1%)が迫っている。柯氏は25.2%だった。 

    与党候補が、国民党候補をわずかにリードしている。ここで、何かアクシデントが起これば、支持率はがらりと代わる微妙なところである。

     

    (3)「ペンシルベニア州のフランクリン&マーシャル大学の顏維婷助教は「変化を望む有権者はかなり多く、民進党が立法院(国会)で過半数を失う可能性は高い」と指摘した。フーバー研究所の特別研究員、カリス・テンプルマン氏は「現在の情勢は台湾の多くの有権者にとって危険なように思われる」とし、「突然の禁輸措置や、外交的孤立の深まり、さらなる戦争の脅し」に関する懸念を理由に挙げた。その上で同氏は、侯氏が自分の政権は中国と協調できると説得力をもって主張できるし、侯氏が総統になれば、より抜本的な国防改革を行うための時間が稼げるだろうと述べた」 

    立法院は、国民党が過半数を握る可能性があるという。変化を望む民意が、背景にあると指摘する。 

    (4)「顏助教は、侯氏が趙氏を副総統候補に選んだことは、台湾の最終的な中国との統一を支持する有権者層を固めることを狙った明確なシグナルだと指摘。「国民党がこの戦略的な投票キャンペーンに成功すれば世論調査で同党候補の支持率が上がり、より接戦になることが予想される」と分析した」 

    国民党の侯候補は、テレビ司会者でメディア経営者の趙少康氏を副総統候補に選んだことで中国統一を明確にした。趙氏は、かつて国民党の立法委員だったが離党して、統一を強硬に主張する政党を共同創立した経緯がある。2021年に国民党へ復帰した。中国との統一を明確にした国民党は、国民の支持率をどこまで得られるか。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「微笑の習氏へ別れ際に拳、米中絡む台湾野合破局の大波」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙編集委員の中沢克二氏である。 

    (5)「北京と台北の政界の雰囲気を知る人物はこう見る。多くの台湾政局観察者が見落としている重要な事実があると指摘する。「重要なのは(2008〜16年の)馬英九(国民党)政権時代に重なる中国経済の最盛期が、終わろうとしていることだ。バイデンが米中会談の直後、あえて再び習を『独裁者』と呼んだように、(習への)権力集中が目立つ中国と、民主主義の台湾の距離も広がっている。仮に侯友宜、柯文哲が総統選で勝っても、(台湾の)世論を考えれば習政権に一気に近付くことなどありえない」。確かに中国経済の全盛期が終わり、なお停滞が続く深刻な状況下では、台湾経済がこれ以上、中国に依存する構造にはなりえない。むしろ、中国から他国に拠点を移す動きのほうが目立っている」 

    国民党出身の馬英九元総統は、中国経済全盛期に統一論を展開したが、現在の中国経済はバブル崩壊後遺症で大きなダメージを受けている。台湾経済自体が、「脱中国」の動きを強めているほどだ。こういう経済的に下降へ向う中国との統一論に台湾有権者は魅力を感じるか、という問題が指摘されている。

     

    (6)「バイデンが「独裁者」と呼んだ習の中国と、民主主義が成熟しつつある台湾の政治的な基盤には大きな溝もある。中台関係は、習が中国共産党トップに就いてからの11年で、中国の思惑とは別の方向へ構造的に変化してしまったのだ。それでも、もし、中国と距離をおく民進党政権が3期目に入るなら、習は安心して内政に専念できなくなる。常に台湾けん制に気をとられ、喫緊の課題である中国経済の立て直しも「うわの空」になりかねない」 

    台湾有権者は、独裁色を強める中国と台湾の成熟化する民主主義と比較して、どちらに軍配を上げるかだ。前回の総統選では、直前に香港の中国化が持ち上がって民進党が勝利を収めた。中国の政治状況は、当時と全く変わっていないのだ。台湾有権者の選択が興味深い。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-11-27

    台湾、「デリスキング」習氏の侵攻論が逆効果、脱中国依存を着実に推進「幻の中台経済圏」

     

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    ペロシ米下院議長の訪台に対して、中国は台湾を封鎖する形の大軍事演習を行ない抗議した。再び米議会の要人の訪台をさせないという意思表示であったのだろう。米国は、ヤンキー魂というのか。これに屈することなく14日には、米議会上下両院の超党派による議員団5人が訪台した。中国の横暴に鼻を明かした形である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月14日付)は、「米超党派議員団が台湾訪問、15日に蔡総統と会談」と題する記事を掲載した。

     

    米上下院の超党派議員団が14日、台湾に到着した。上院外交委員会東アジア太平洋小委員会のマーキー委員長(民主党)ら5人で、15日午前に蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談する予定だ。台湾にはペロシ米下院議長が訪問したばかり。相次ぐ米議員の訪台で、中国の反発は必至だ。

     


    (1)「米国の窓口機関である米国在台湾協会(AIT)と台湾の外交部が14日、議員団の訪問を発表した。滞在は15日まで。蔡氏や呉釗燮・外交部長(外相)と会談するほか、立法院(国会)に訪問する。安全保障や経済・貿易関係で意見交換する。台湾の総統府の報道官は14日、「訪問を心から歓迎する」と述べた。中国の軍事演習が地域の緊張を高めているとし「米議会の台湾への強い支持と、平和と安定の維持に協力する決意を改めて示すものだ」とした。中国はペロシ氏の訪台に強く反発し、訪問直後の4日から台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を実施した。14日も複数の中国軍機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を台湾側に越えるなど、圧力が続いている」

     

    米議員団は、中国の反発を織り込み済である。米議会の断固たる台湾支援姿勢を内外に示すことが目的であろう。米議会が、このように対中強硬姿勢を見せている理由は現在、審議中の「台湾政策法2022」成立へ強い意志を示したと見られる。台湾政策法2022とは、次のような内容である。

     


    「台湾政策法2022」は、米上院外交委員会のメネンデズ委員長(民主)と予算委員会のグラハム委員長(共和)が共同提出した法案である。注目される中身は、

    1)台湾に対する4年間で45億ドルの軍事支援する

    2)台湾をNATO非加盟の主要な同盟地域に指定する

    3)中国の台湾侵攻抑止のため強力な制裁体制の確立する

     

    成立を目指す理由は、ウクライナで起きた悲劇を台湾で起こさせないためとしている。この法案が成立すれば、2)の通り台湾を正式にNATO(北大西洋条約機構)同盟扱いすることになり、米国は台湾に対する防衛義務が生じ従来の方針である米軍が台湾へ介入するかどうか曖昧にする戦略を転換することになる。中国の「火遊び禁止法」になる。

     

    バイデン政権は、この法案が台湾を正式にNATO(北大西洋条約機構)同盟扱いすることに難点を示している。できれば、この法案の成立を忌避したい動きを見せている。今回の超党派議員団の訪台は、バイデン政権とは反対に法案成立への強い意志を示しているように見える。立法府と行政府の対立になってきた。

     


    『日本経済新聞 電子版』(8月14日付)は、「米政権、台湾と貿易促進へ工程表 中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    米国のバイデン政権は12日、台湾との貿易促進に向けた工程表を近く公表すると明らかにした。中国に依存する台湾の貿易構造の是正を後押しし、禁輸措置で台湾に圧力をかける中国に対抗する。

     

    (2)「米国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は12日、記者団に対して「一つの中国政策と整合させながら、経済や貿易関係の強化も通じて台湾との結びつきを深めていく」と言及した。「貿易交渉に関する野心的な工程表を作成しており、数日中に発表する方針だ」と話した。米国と台湾は6月、新たな貿易協議の枠組みを立ち上げたと発表した。デジタル貿易や環境・労働者の保護、貿易手続きの簡素化を主要テーマとした。工程表ではテーマごとの交渉期限を示す可能性がある」

     

    米台の貿易関係を密にする目的である。台湾は、米国産豚肉の自由化も決めており、米台で障害になる事項はすべて解決している。今度は米国が度量の大きいところを見せなければならない。

     


    (3)「米国のペロシ下院議長が8月上旬に台湾を訪問すると、中国は事実上の対抗措置として台湾からのかんきつ類や魚類の輸入停止を発表した。経済に打撃を与えて米国との関係強化を停止するよう台湾に迫る狙いがあったとみられる。バイデン政権は議会承認が必要な自由貿易協定(FTA)に慎重で、関税の引き下げは想定していない。貿易協議を通じ、米台の貿易がどれほど増えるかは不透明な面がある」

     バイデン政権は、関税引き下げ措置は米議会の審議を必要とするので、民主党から反対論が予想される。労働組合が雇用を奪われると神経しであるからだ。10月の中間選挙を控えて、議会で波風が立つことを回避したいからだ。どこの国でも、選挙前は慎重である。

    バイデン政権は、関税引き下げ措置は米議会の審議を必要とするので、民主党から反対論が予想される。労働組合が雇用を奪われると神経しであるからだ。10月の中間選挙を控えて、議会で波風が立つことを回避したいからだ。どこの国でも、選挙前は慎重である。

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    中国は、台湾での中国製通信機器と同ソフトを対象にハッカー操作しことを立証してしまった。米下院議長ペロシ氏の訪台に反対する中国は、台湾へ大掛かりなハッカー攻撃を仕掛けた結果だ。

     

    この被害に遭ったのは、ファーウェイ製通信機器とチャイナソフトへ集中。中国が、裏で操作していることを自ら認める結果になった。なんと、「おっちょこちょい」な振る舞いであることかと呆れるのだ。蛇足ながら、中国製のIT機器やソフトを使っているユーザーは、何時ハッカー攻撃の対象にされ、思わぬ被害を受けるかも知れないので要注意だ。

     


    『大紀元』(8月5日付)は、「中国ハッカー集団、台湾へ大規模な攻撃 『中国製設備の使用が原因』」と題する記事を掲載した。

     

    米国のナンシー・ペロシ下院議長が2日夜、台湾に到着して以降、台湾の公的機関を標的とするサイバー攻撃が多発している。中国の報復措置とみられる。いっぽう、この影響で通信障害が起きたシステムでは、中国製通信機器やソフトウェアが使われていることがわかった。

     

    (1)「台湾政府のウェブサイトや高速鉄道の駅、空港、一部のコンビニエンスストアのネットワークが標的にされた。高雄市新左営駅の電子掲示板には3日、大陸で使用している簡体字で、ペロシ氏の訪台を非難する文言が表示された。南投県竹山町役場やコンビニ大手のセブンイレブンでは、電光掲示板に「ペロシ、台湾から出ていけ」と表示された。中国通信機器大手ファーウェイ製の電子設備を使用している高速鉄道の南港駅(台北市)の駐車場システムも通信障害が発生した。台湾の通信当局、国家通訊伝播委員会(NCC)の陳耀祥・主任委員は3日の記者会見で、「現時点の調査では、広告媒体システムが中国製のソフトウェアを使ったことが原因だとわかった」と述べた」

     


    ファーウェイ製機器には、「バックドア」が付けられている。これは、下請け業者への生産委託過程で秘かに行なわれていることで突き止められている。EUは「5G」で、米国のファーウェイ製機器警戒論をなかなか受入れなかった。ファーウェイ製機器でサイバー攻撃が起こると、胸をなで下ろさなければならない。危機一髪であった。中国はスパイ天国であるのだ。

     

    (2)「外務省や台湾電力などのウェブサイトもシステム障害が起き、一時閲覧ができなくなった。外務省の欧江安報道官は4日、ペロシ氏が台湾に到着した2日以降、攻撃に使われているIPアドレスの大半は「中国とロシア」だと明らかにした。行政院(内閣に相当)によると、公的機関に対するサイバー攻撃は3日の一日だけで490万回に達し、過去2カ月間の総数を上回っている」

     

    台湾国防部(国防省)は4日、ウェブサイトがサイバー攻撃を受け、一時的にオフラインになったと発表した。IPアドレスの大半は「中国とロシア」であり、「中ロ枢軸」が「悪の枢軸」となった。

     


    (3)「中国のハッカーグループ「APT27」は3日、YouTube上で動画を投稿し、ペロシ下院議長の台湾訪問に抗議して「サイバー特別行動」を展開するとの声明を出した。独メディア「ドイチェベレ」によると、APT27はすでに台湾のインターネット接続設備6万個を閉じたと発表した。欧米では、APT27は中国政府が支援するハッカー集団だと認識されている。今年1月、同グループがドイツの製薬やIT企業を狙い大規模なサイバー攻撃を行った。台湾SNS上では、ファーウェイなど中国製通信設備のセキュリティ問題が再び話題となった。ネットユーザーは「ペロシ氏来訪のおかげで、この問題が裏付けられた」と使用の見直しを求めた

     

    台湾SNS上では、ファーウェイなど中国製通信設備のセキュリティ問題が話題になっている。こういう形で中国の信頼は失われてゆくのだ。台湾では、自らを「台湾人」と認識する人の数が、「中国人」を大きく上回っている。大陸からこういう攻撃を受けると、ますます「中国嫌い」が増えるであろう。

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    中国は、米下院議長ペロシ氏の訪台をきっかけにして大軍事演習を始めた。その目的について、新たな解釈が出てきた。中国は、台湾と戦火を交えずに台湾を降伏させる手段として、海上での全島封鎖作戦を意図しているというもの。だが、封鎖行為は明らかな戦闘行為であるから、台湾が応戦しないはずもない。同盟国も座視する筈がない。こういう身勝手な戦術を編み出す中国の狙いは、中国自身が深傷を負えない経済的事情を暴露しているようなものであろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月5日付)は、「台湾封鎖の中国軍演習、『戦火なき統一』予行か」と題する記事を掲載した。

     

    中国が台湾周辺で開始した実弾演習では、台湾を封鎖するシナリオに沿って作戦を実施しているもようだ。この演習からは、中台間で紛争が発生した際に中国指導部が展開し得る威圧的な戦術が透けて見える。中国は全面的な台湾侵攻に踏み出す能力はまだ持っておらず、向こう数年で実行する作戦としてはあまりに複雑でリスクが高すぎる、と指摘する専門家は多い

     

    (1)「中国は、台湾を武力で抑え込むのではなく、締め付けて降伏させる道を選ぶとの見立てだ。米ワシントンのシンクタンク、ハドソン研究所のブライアン・クラーク上級研究員は「中国は兵力を大量集結させて(台湾を)封鎖するような印象を与えることで、これを実行できると誇示する狙いがある」と話す。中国軍は4日、軍用機や艦船を投入して演習を開始し、複数の弾道ミサイルを台湾周辺の海域に向けて発射した。軍事専門家によると、向こう数日間に海・空区域で大規模な訓練が行われる見通しで、台湾周辺海域を掌握できることを見せつける狙いがあるとみられる」

     

    中国軍は、敵はいないから自由自在に振る舞い、あたかも巨大な軍事力を擁しているような行動を見せつけている。だが、日米はその動きを子細に分析しているはずだ。

     


    (2)「演習場所は港湾施設や海上輸送ルートに近いことから、一部で貨物や航空機の流れに遅延が生じており、中国が台湾や諸外国に与え得る痛みの一端がうかがえる。台湾は自動車や最新兵器などに欠かせない先端半導体の生産で世界トップだ。中国人民解放軍国防大学の孟祥青教授は演習開始前に出演した4日朝の国営放送で「これで台湾の包囲網が形成される」と述べた。「これは統一に資するように戦略的な情勢を再形成する上で極めて望ましい環境を整える」と指摘する。

     

    中国メディアによれば、今回の全島封鎖作戦は、侵攻に当っての予定通りの行動であることを示唆している。

     

    (3)「国防アナリストや中国専門家は、軍事演習が終了した後も中国軍が周辺にとどまるか、また台湾周辺での演習を定期的に行うかに注目している。もしそうなれば、中国にとっては台湾経済と諸外国との関係に断続的にマイナスの影響をもたらす手段になり得る。台湾当局への市民の支持を損ない、中国への抵抗を弱めることがその目的だという。ランド研究所の研究員で、元海軍幹部のブラッドリー・マーティン氏は、「おそらく中国は目的を達成するために戦争をしたいとは考えていない」と話す。「全面的な衝突には至らないレベルで強い圧力をかけるというのが、最もあり得るシナリオだ」。

     

    実際に戦火を交えるまでいかない紛争は、「グレーゾーン」戦争と呼ばれ、中国は台湾に加え、領土問題を抱える近隣諸国に対する戦術としても利用している。こういう中国の傾向から見れば、「準戦時体制」を取って台湾を屈服させる意図もあろう。

     


    (4)「仮に中国が船舶の航行を全面的に禁止して周辺海域を封じれば、戦争行為と解釈される。そのため中国は部分的な封鎖を行う可能性が高く、中国軍の出版物でもこの選択肢が議論されている、と前出のマーティン氏は話している。部分封鎖なら、一部の船舶の航行を禁止する一方で食料輸送などは認めるといった選択肢を、中国当局が確保できるという。マーティン氏がランド研究所で共同執筆した、中国による封鎖措置に関する論文によると、事態がエスカレートした場合の負担は、台湾に近づく船舶に重くのしかかる。協力するか抵抗するかを決めざるを得ないためだ」

     

    「自由で開かれたインド太平洋」という「クアッド」(日米豪印)の基本姿勢から言えば、中国による海上の台湾封鎖は、絶対に容認できない事態である。仮に部分封鎖しても、それは戦闘行為と見なされる。

     


    (5)「
    米国は、中国の封鎖措置に直面した場合、戦火を交えるリスクを冒すか封鎖を受け入れるかの厳しい判断を迫られかねない、とマーティン氏らの論文は指摘する。「何も行動しなければ、中国の行為を受け入れたのに等しい」と論文は述べている。アナリストによると、台湾を孤立させる戦術は、米国にとっては対処が難しい。

     

    米国は、戦火を交えても全島封鎖作戦を排除しなければ、同盟国の信頼を裏切ることになろう。

     

    (6)「米国には法律上、台湾が自力で防衛できるように支援する義務がある。一方、これまでは中台双方が武力行使に出ないよう、危機時の米国の関与を示唆しつつも明言はしない「戦略的な曖昧さ」と呼ばれる政策を維持してきた。ジョー・バイデン米大統領は、中国が攻撃すれば米国が台湾を守ると表明したが、他のシナリオでは曖昧さは残るとアナリストは話している。中国が海上を封鎖して台湾を孤立させるシナリオを巡っては、米国、台湾双方の軍に準備ができていないとして、米国の安全保障関係者や議員から懸念の声が上がっている」 

    米国は、中国に対して部分封鎖でも認めないとはっきり意思表示すべきだろう。こういう、悪例を残したら、どの国も中国の餌食になる。中国は、戦わずして勝利を収める「孫氏の兵法」を実戦しようとしている。戦国時代の兵糧攻めと瓜二つの戦術だ。

     

     

     

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    米下院議長ペロシ氏は3日夕刻、無事に訪台を済ませて次の訪問国である韓国へ向かった。習近平中国国家主席は、バイデン米大統領との電話会談で「ペロシ氏の訪台は火遊びで身を滅ぼす」と露骨な言い方をしてけん制した。この効果もなくペロシ訪台は実行された。

     

    中国は、この怒りを四方からの台湾包囲による軍事演習で爆発させる。米台側から見れば、中国の台湾侵攻の作戦の手の内を見せているようなものだ。艦船による台湾砲撃は、潜水艦の餌食になることを意味する。そういうリスクを忘れて、鬱憤晴らしをしているのだ。「夏の花火」演習に見えるのだ。

     

    米議会上院は、近く審議を始める「台湾政策法案」は、台湾の武器購入や軍事演習へ4年間で45億ドル規模を支援すると定める。また、台湾関係法の修正も盛る。現在は、台湾の防衛に必要な武器供与を認めるが、新たに「中国人民解放軍による侵略行為を抑止するのに役立つ武器」の提供も可能にするとの文言を加えるのだ。中国は、「飛んで火に入る夏の虫」になってきた。

     


    中国軍は、2日午後から台湾周辺で一連の合同軍事行動を展開すると発表した。それによると、中国軍は台湾北部、南西部、東南部の海域と空域で連合海上・空中訓練、台湾海峡で長距離火力実弾射撃をそれぞれ実施し、台湾東部海域で常用ミサイル火力試験射撃を実施する予定だと説明した。事実上、台湾を四方で包囲する形の全方向的「武力示威」となる。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月4日付)は、「中国の実弾演習、高い戦闘能力が送るメッセージ」と題する記事を掲載した。

     

    中国が台湾周辺で47日に実施する実弾演習は、これまでの危機でみせた対応に比べ、軍事圧力を著しく強めており、中国軍による急速な戦闘能力の増強を浮き彫りにするものとなりそうだ。中国が軍事演習を発表したのは、ナンシー・ペロシ米下院議長が2日夜、台湾に到着した直後だった。台湾を包囲するかのように海空域6カ所で演習を行うという。

     

    (1)「中国人民解放軍(PLA)は3日、実弾演習を控え、台湾の北、南西、南東で海軍、空軍、戦略ミサイル軍などの組織が合同演習を行ったと明らかにした。実弾演習では長距離兵器や通常ミサイルが投入される可能性がある。演習予定区域の大半は公海上だが、一部は台湾の主要港湾に近く、台湾が「領海」と主張する海域と重なる。そのため、民間の海上輸送にも支障が生じかねない。ミサイルの種類や発射場所にもよるが、PLAのミサイルが台湾の東部沖に向かう中で上空を通過することもあり得る、と専門家は話している。そうなれば、事態を相当エスカレートさせていると解釈される行為だ」

     

    中国は過激な軍事演習を行なえば、米国の反発を招いてより一層の強力な支援体制をつくる反作用を忘れている。実際の戦争は、演習通りには進まないものだ。敵方が、その裏をかく戦術によって対抗するからだ。中国軍が、ここで全力を出し切れば、米軍は次の戦術を編み出すに違いない。

     


    (2)「中国は今のところ、ペロシ氏の訪台を前に一部で懸念されていたような直接的な武力行使、あるいは危険な軍事的対峙(たいじ)を招く行為には至っていない。それでも、1995~96年の台湾海峡危機をはるかにしのぐ威嚇行為だと、西側の国防専門家は話している。中国は当時、台湾総統による訪米に反発してミサイル発射や上陸訓練を実施し、米中間で軍事的な緊張が近年で最も高まった。マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラム責任者、M.テイラー・フレイベル教授は、「発表された軍事演習は、範囲のみならず、規模でも異例なものになる可能性が高い」と述べる」

     

    中国軍が、1995~96年の戦力のままでないことは当たり前だ。厖大な軍事費を投入していているから「進化」は当然だ。驚くには当らない。

     

    (3)「台湾海峡危機時の演習は、水陸両用攻撃に主眼を置いていたが、今回はPLAがいかに台湾周辺を封鎖し、空・海・陸からくまなく攻撃を仕掛けることができるかを誇示する狙いがあるという。フレイベル氏はとりわけ、中国が数十年にわたり軍の近代化を進める中で技術や演習を改善してきた点を挙げ、「1995~96年にはまだ備えていなかった能力を映し出す」と述べる。 

    中国軍は、一対一で台湾軍と戦う想定の演習をしている。実際は、米国を中心とする同盟国が参戦する。そうなると、ここでいくら演習をしても無意味になる。まず、台湾を取り囲んで砲撃を開始する前に、肝心の中国艦船が同盟国の潜水艦部隊に攻撃されるのだ。中国海軍は、多国籍海軍と戦闘した経験がゼロである。指揮命令系統が追いつけないのだ。

     


    (4)「ワシントンの非営利組織、共和党国際研究所(IRI)の上級顧問(在台北)、マイケル・コール氏は、PLAが演習に投入する兵器にはメッセージが込められていると話す。最大の狙いは台湾への威圧と思われるが、中国は米軍空母の破壊を念頭に設計された弾道ミサイルを発射することで、将来紛争が起きた時に米軍に介入しないよう「明確な抑止のメッセージ」を送ることもあり得るという」
     

    空母が出動する前に、潜水艦部隊が攻撃を開始する。中国の潜水艦は、騒音の問題を抱えている。直ぐに発見されやすいのだ。こういう弱体な潜水艦部隊では、とても中国軍が想定する軍事行動は取れまい。西側諸国では、中国軍の軍備の数に注目するよりも、その稚拙な部隊運用に目を向けているのだ。兵站(へいたん)=後方支援の弱点も見抜いている。海上戦で戦った経験ゼロの中国海軍が、近代海軍として世界でもっとも歴史と経験を持つ米海軍とまともに戦えるとは信じがたい話である。

     


    (5)「
    コール氏は、「中国はペロシ氏訪問による利点を打ち消すとともに、米国や台湾のみならず、他の国・地域についてもこのようなハイレベル交流を将来繰り返さないようけん制することで、台湾に心理的な代償をもたらしたいと考えている」と指摘する。中国は近年、専門家が「グレーゾーン戦争」と呼ぶ作戦を展開している。台湾への圧力を強め、実際に衝突を招くことなく相手の軍事力を弱体化させることが狙いだ。具体的には、水陸両用攻撃演習や海上哨戒、軍用機の周辺飛行などに加え、サイバー攻撃や偽情報工作、外交的な圧力といった非軍事的な手法も含まれる」


    中国軍の今回の総合的な実弾演習は、台湾を威圧することと、他国指導層が台湾を訪問すれば、こういう事態になるという見せしめ演習である。ロシア軍は、パレード用軍隊と揶揄されているが、中国軍も今のところはその趣を否定できない弱みを抱えているのだ。 

     

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