原油価格の高騰で、世界中の経済活動が大きな影響を受けている。OPEC(石油輸出国機構)が、大幅な増産に踏み切らないことが背景にある。ロシアが、自国の需要減を理由にしているからだ。そこで、OPECはロシアの参加停止を検討している。実現すれば、原油増産が可能になって、世界中の消費国が価格低下の恩恵に浴せることになろう。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月1日付)は、「OPEC、生産協定へのロシア参加停止を検討」と題する記事を掲載した。
ロシアの産油量が西側諸国の制裁や欧州の部分禁輸措置の影響を受ける中、石油輸出国機構(OPEC)加盟国の一部は生産協定へのロシアの参加を停止させることを検討している。複数のOPEC代表が明らかにした。
(1)「ロシアを協定から排除すれば、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など他のOPEC加盟国が大幅に増産できる可能性がある。ウクライナ侵攻で原油が1バレル=100ドル超に高騰する中、米欧はOPECに増産を要請してきた。OPECとロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は昨年、産油量を毎月段階的に増やすことで合意した。だが原油生産で世界トップ3に入るロシアは、今年の産油量が約8%減少する見通しとなっている。同国が協定からの除外を受け入れるかどうかは不明だ」
ウクライナ侵攻で,原油価格は高騰している。原油を大幅増産しない限り、価格沈静化は困難である。もっとも、ウクライナの戦乱が終息すれば、状況は大きく変わることはたしかだ。ロシアは、今年の産油量が経済制裁で約8%の減少見込みだ。その分をOPEC他国が増産しなければ、さらなる価格高騰へと拍車がかかる。そこで、ロシアをOPEC協定から除外する案が検討されている。
(2)「今のところ見込まれるロシアの不足分を補うためにOPECに正式に増産を働きかける動きは見られない。だが複数のOPEC代表者によると、ペルシャ湾岸の加盟国の一部は向こう数カ月中の増産を計画し始めている。OPECプラスは6月2日の会合で、産油量を新型コロナウイルス流行前の水準に戻す計画の一環として、予定通り日量43万2000バレルの増産を承認する見通しだ。ロシアのウクライナ侵攻を受け、それだけでは原油市場を安定させるのに十分ではないと米欧は主張してきたが、OPECプラスは従来通りの計画を維持している」
ペルシャ湾岸の加盟国の一部は、向こう数カ月中の増産を計画し始めている。OPECは最低限、ロシアの減産分をカバーする増産をしない限り、OPEC全体の生産量の責任を果たせないことは明らか。他国の「肩代わり増産」は当然である。
(3)「ロシア・エネルギー省の報道官は2日の会合までコメントしないとしている。あるOPEC代表者は、「生産協定へのロシアの実効性をもった参加を厳密に除外することで、われわれは目下、合意した」と述べた。複数のOPEC代表者によると、ロシア除外を巡っては、欧州連合(EU)がロシア産原油購入の一部禁止で合意する前から検討を始めていた。ただ、EUが合意したことで、ロシアの生産の遅れにどう対処するかについて議論が加速したという」
OPECは、生産協定へのロシア参加を除外しなければ、原油増産は不可能である。現在、この岐路に立たされている。
(4)「ロシアは数カ月間、OPECで生産目標に基づいて割り当てられた量を達成できていなかった。「割り当て量に縛り付けるのは意味がない」。あるOPEC代表者はこう話した。産油量の回復を見据えてOPECがロシアを仲間として維持しようとする可能性は大きい。減っているとはいえ、ロシアは米国とサウジアラビアを除く全ての産油国よりも産油量が多い。ペルシャ湾岸諸国のあるOPEC関係者は、「ロシアはわれわれに圧力団体としての相当な力をもたらしている」と語った」
ロシアは、米国とサウジアラビアに次ぐ世界3位の原油生産国である。それだけに、OPECが圧力団体として機能する上で、大きな力になっている。
(5)「一方、ロシアを除外することでOPECプラスの結束力が弱まることを懸念する向きもある。ロシアを抜きにして「OPECプラスのコンセプトとは何なのか」と、あるOPEC代表者は言う。今後、OPECが減産を決める場合、ロシアは一段と「ノー」と言いやすくなる。「ロシアを割り当てから外すリスクは、われわれが今後、減産を強いられる場合、ロシアがそれに抵抗することだ」。前出のペルシャ湾岸諸国のOPEC関係者はこう話す」
OPECが、ロシアを「OPECプラス」から除外すると、「プラス」が消えてしまうことになり、「OPECプラス」という原油生産者団体が空中分解する悩みを抱える。原油が減産時代に入った場合、ロシアは減産に抵抗するだろう。ただ、価格立直しにはロシアが減産に協力しなければならないのも事実だ。「原油生産カルテル」であるOPECは、需要減退時に機能しない。それが経済の原則だ。
(6)「OPEC代表者らによると、ここ数週間に行われた原油市場のテクニカル面に関するOPECプラスの内部会議で、ロシアの代表は、価格が上昇する中で需要の見通しを下方修正するよう求めた。需要の減退を予測する一方で、増産するのは難しいと、代表者らは指摘した」
ロシアの言分は身勝手である。価格上昇している中で、需要見通しを下げろと言っているからだ。ロシアは、自国の8%減産分を価格上昇でカバーしようとしている。戦費調達の目的がかかっている結果だ。