「お大尽様」感覚で対応
逆回転する「土地本位制」
地方の暮し危機へ揺らぐ
掛け声だけの「台湾侵攻」
中国は最近、日本へ「融和シグナル」を送っている。日本人が、中国へ渡航する際に必要な短期ビザ(査証)は、11月30日から免除された。従来は、期間15日間が30日間へ延長する「厚遇」だ。中国人は、日本へ入国に必要なビザを免除されていない。一方的に、対日「ビザなし」へ踏み切ったのだ。
これだけでない。自衛隊と中国人民解放軍の中堅幹部らは、11月27~28日まで、北京などで交流事業を始めた。自衛隊は、1等海佐ら13人が参加し、中国の陸軍や空軍の施設を視察した。また、米国のトランプ次期政権発足後の防衛政策などについて意見交換までした。
中国はこれまで、日本に対してことごとく対決姿勢を取ってきた。昨年夏の福島原発処理水放出では、世界中へ「汚染水放出」と非難して回ったほどだ。この中国が、「ニーハオ」と急変し拳に変えて握手を求めている。日本への「戦狼外交」が突然、「微笑外交」へ変わった理由はなにか。それは、中国が経済的な苦境にあるゆえ当面、「敵の数を減らす」べく、戦術を転換したのであろう。
中国が、対日姿勢を融和にする局面は、必ず米中関係が悪化したときである。「二正面戦争はできない」という理由で、米中対立の緩衝材として日本へ接近するパターン外交を取っている。米国次期政権は、トランプ氏復帰である。すでに、60%超の関税引き上げを宣言している。これとは別途に、米議会は中国への貿易で認めている「最恵国待遇」廃止に向けて動き出している。これが実現すると、北朝鮮やキューバといった敵対国と同様に扱かわれることになり、関税が大幅に上がる。中国にとって、死活的な問題になる。
中国には、こういう差し迫った問題が起こっている。日本との関係が悪化したままでは、経済的にもさらに不安定状態となる。そこで、本心は別としても「ニーハオ日本」と言わざるを得ない局面へ落込んでいる。
「お大尽様」感覚で対応
中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、「国家主義」が全面化している。国家に絶対的な優位性を認め、覇権主義をギラギラさせるようになった。周辺国へ軍事的な圧力を加えることに、「愉悦」を感じるかのごとき意図的な振舞を行っているのだ。この背景には、不動産バブルによるGDP成長率「10%平均」の高速成長が突き上げていた。「お大尽様」になったと錯覚したのであろう
このバブル経済がひっくり返って、事態は180度の大転換だ。中国経済の基盤が崩壊したのである。習近平氏は、この思わざる成長経済の脱線で苦汁をなめさせられている。「ニーハオ外交」の裏にあるものは、背に腹を変えられない経済苦境なのだ。いま、「驕れるもの久しからず」の中国版に見舞われている。
中国経済の「蹉跌」は、地方財政の主要財源に土地売却益を組み入れたことが原因である。いはば、「土地本位制」(学術用語でない)によって、地方政府の財源の2~3割を賄ってきたという異常性が、取り返しのつかない事態を招いたのである。
中国3000年の歴史で、土地問題は最大の経済問題になってきた。土地公有制と土地私有制が交互に繰返されてきたのだ。公有制は、田畑が荒れ果てる弊害を生んだ。私有制は、土地集中性を招いて不平等の原因になった。こういう経緯から、辛亥革命(1911年)を指導した孫文は、土地の私有制を基本とし、値上がり分は100%課税する折衷案を提案した。毛沢東は、ありきたりの「国有制」を踏襲して、今日の結果を招く原因を作った。始皇帝以来の農本主義による「土地執着」性をあらわにした結果だ。
今回の不動産バブル崩壊は、長い中国史において失敗した「土地公有制」の一環と位置づけられる。「歴史的失敗」へさらなる1ページを加えたのだ。この視点に立つと、今後の中国経済が致命的な打撃を受けることは不可避で、再び「私有制」が議論されるだろう。
土地が、地方財政の主要財源になったことは、余りにも前近代的財政制度の欠陥を示している。土地を切り売りするという安易な財源調達方法が破綻した以上、この影響が長期にわたることは不可避である。本来であれば、安定した財源として固定資産税(不動産税)や相続税が代替すべきものである。中国は、共産党の古参幹部の子弟(紅二代・三代ら)の反対で、実施できない政治的弱点を抱えている。
銀行でも不動産担保貸出は、時価の6割見当が限度になっている。不動産価格が不安定であるからだ。こういう不動産特有の「不安定さ」を無視し、中国は不動産のバブル化を前提にしたような財源対策を行ってきた。必然的に増える財政需要を、地価上昇分でカバーするという「バブル思考」は、不健全そのものである。中国財政が、地価下落を想定していなかったとすれば、なんとも奇妙な政府であると言うほかない。それだけに、正常化するまでの打撃は大きいのだ。(つづく)
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