勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    韓国のハ韓悳洙(ハン・ドクス)首相は4月20日、6か月にわたり落ち込んでいる輸出について「産業の体質が変われば、多くの困難を克服することができる」と語った。漠然とした発言であり、その場限りの無責任なものだ。「産業の体質を変える」とは、何を指すのか不明である。世界経済の風向きが好転するのを待つほかないのだ。

     

    半導体市況は、2008年当時をに接近するほど悪化している。パンデミック下の「特需」(在宅勤務)が消えて、パソコン需要が大幅な落ち込みになっているのだ。最近のパソコンは、性能が一段と良くなっていることから、買い換え期間は延びる方向である。まずは、パソコン市況の回復が何時からになるのか。それを掴むことが第一予測になる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月20日付)は、「世界の半導体総崩れ 台湾TSMC 23年12月期は減収予想」と題する記事を掲載した。


    世界で半導体需要が急減し、各社は総崩れの様相だ。業界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は20日、2023年1〜3月期の純利益が前年同期比で2%増にとどまったと発表した。通期は減収となる見込み。韓国サムスン電子も大幅に利益を落としている。半導体は景気の先行指標とされ、足元の需要は今後半年間の景気を映す。世界経済の先行きにも不安材料を与える結果となった。

     

    (1)「TSMCの1〜3月期の売上高は3.%増の5086億台湾ドル(約2兆2400億円)で、純利益は2.%増の2069億台湾ドルにとどまった。売上高は1月に公表した予想を下回った。TSMCは同日、記者会見を開き、経営トップの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は1〜3月期について「世界経済の低迷で需要が予想以上に落ち込んだ。特に中国が厳しかった」と述べた。魏氏は通期予想についても厳しい認識を示し、23年12月期は米ドルベースで「1ケタ台前半(1〜5%)の減収になる」と述べた。22年まで3年連続で過去最高の売上高と純利益が続き、急成長を遂げた状況から一変する。TSMCは、年間の設備投資について1月に公表した最大360億米ドル(約4兆8000億円)を据え置いた」

     

    TSMCは、1~3月期の業績落ち込みの理由として中国需要の予想外の不振を上げた。中国が業績不振の理由であれば、今後のカギは中国の動向次第ということだ。

     

    (2)「世界の半導体市場は20年から22年まで好調が続いた。約3年間は新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークなどが普及。パソコンを中心に未曽有の「デジタル特需」が生まれた。だが、コロナが終息に向かうなか、22年後半から次第に特需が消滅し、市況は一転、下り坂となった」

     

    20~22年は、パンデミック下の「デジタル特需」で異常な盛り上がりを見せた。その反動が、これから起こるのだ。

     

    (3)「TSMCのライバルの韓国サムスン電子は、1〜3月期の全社営業利益(速報値)が96%減の6000億ウォン(約600億円)にまで落ち込んだ。米最大手のインテルや韓国大手のSKハイニックスも22年10〜12月期に最終赤字に転落し、1〜3月期はさらに悪化した可能性もある。米マイクロンテクノロジーも23年2月まで、2四半期連続の最終赤字だ。サンジェイ・メロートラCEOは3月、「業界は過去13年間で最悪の不況に直面する」と説明した

     

    「デジタル特需」の反動で、過去13年間で最悪の不況に直面する、としている。「山高ければ谷深し」である。定石通の動きである。

     

    (4)「半導体は好不調の波(シリコンサイクル)が激しいのが特徴で、今回も現状では需要の底が見えない。世界半導体市場統計(WSTS)によると、世界全体の半導体売上高は2月、前年同月比で24%減となり、リーマン危機直後の08年末〜09年初に次ぐ下落幅となった」

     

    現在の半導体市況は、リーマンショック時と僅差まで接近するほど急落している。いかに、急落幅が大きいかを物語るのだ。サムスンも、ここまで落ち込むとは予想もできなかったのであろう。

     

    (5)「設備投資にも急ブレーキがかかる。国際団体SEMIは、半導体各社による製造装置(前工程)への投資額が23年に前年比で22%減の760億ドル(約10兆円)と、4年ぶりに前年割れとなると予測した。業界では年初、今回の半導体不況は年前半には収束し、次の成長サイクルに入るとの期待もあった。だが、最終製品の販売回復は予想以上に遅れており、パソコンの13月期の世界出荷台数(米調査会社IDC調べ)は前年同期比で約3割減だった。主要4社はそろって2〜4割の大幅減の状況にある」

     

    パソコンの需要が振るわない。この状況では、半導体市況が反応するはずがない。

     

    (6)「新たな需要のけん引役も見えず、TSMCの今回の予想以上の業績落ち込みで、ある有力サプライヤー幹部は「6月浮上論はこれでなくなった。本格回復は24年に持ち越しだ」と肩を落とした。台湾経済研究院の劉佩真アナリストも「世界経済がこの状況で弱いままなら、半導体市況の反転は年末までずれ込む。成長軌道に戻るのは24年以降になる」と予想した」


    TSMCの1~3月期の業績悪化が予想以上であったのは、半導体市況に回復要因のないことを示している。半導体市況が成長軌道へ復帰するのは24年へずれ込む。韓国経済には深刻な影響を与えよう。

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    米台は、中国による台湾侵攻へ対抗する準備を急ピッチで行なっている。これまで伏せられていた、台湾による射程2000キロのミサイルが、量産中であることが台湾国会議長によって明らかにされた。北京を射程内に入れており、中国が台湾侵攻すれば、北京が反撃の対象になるとしている。

     

    韓国紙『WOWKOREA』(6月13日付)は、「『台湾ミサイルは北京に到達可能、攻撃は熟考すべき』 台湾国会議長が『警告』」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の游錫堃(ゆうしゃくこん)立法院長(国会議長)は、「台湾のミサイルは、中国・北京に到達することができる」とし、「中国は、台湾攻撃を熟考しなければならない」と語った。

     


    (1)「游立法院長は12日、台湾海外網のオンライン演説で、北京を射程圏に置いた射程距離200キロメートル(注:2000キロが正確)の “雲峰”ミサイルについて言及し先のように語ったと、『自由時報』や『連合報』などの台湾メディアが13日報道した。游立法院長は、「陳水扁(ちんすいへん)総統の在任当時(2002年2月~2005年1月末)、雲峰ミサイルが北京に到達できるという事実を知っていた」とし「現在量産している」と説明した」

     

    射程2000キロメートルのミサイル「雲峰」は、北京を反撃可能としている。「雲峰」は、2000年初期から開発されており、現在は量産過程にある。この事実は、これまで伏せられてきた。台湾が、自らの防衛に自信を見せている証拠と言える。

     

    (2)「ただ、「台湾は、中国共産党に追いやられて台湾に退却した蒋介石のように、中国本土回復のための侵攻や、北京と三峡ダムを攻撃したりはしない」と明確にした。游立法院長は、「『全世界の民主主義国家たちは台湾を助け防衛に乗り出すだろう』という戦略的明確性をとり、中国に『台湾との戦争により、大きな代価を支払うことになる』ということをわからせなければならない」と語った。つづけて、「台湾には台湾海峡という ”天然の防壁”があるという点が、ロシアとウクライナの戦争とは異なる点だ」と強調した」

     

    台湾は、妄りに中国へミサイル攻撃をしない、とも明らかにしている。三峡ダムを攻撃すれば、長江(揚子江)一帯が洪水で大惨事になるので、億単位の人命が損なわれる危険性がある。それゆえ、攻撃を控えると余裕ある態度だ。あくまでも、最小限の反撃に止める意向である。侵攻してくる中国軍は、水際で撃退できる準備をしているためだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月13日付)は、「
    米、台湾への武器売却でミサイル防衛優先 中国念頭に」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米政権は台湾への武器売却で、中国軍の上陸作戦の阻止に向けて効果的な兵器を最優先する。対艦ミサイルやミサイル防衛システムを優先対象に挙げた。月内に開く方向で最終調整に入った米台の戦略対話で議論を詰める見通しだ。

     

    (3)「米国務省や国防総省が今年春、多くの米防衛大手が加盟する米国・台湾ビジネス評議会と会議を開き、台湾向けの武器売却の指針について説明した。日本経済新聞は会議記録の概要を入手した。概要によると、国務省高官らは会議で「非対称兵器」の売却を一段と優先していく方針を強調した。非対称兵器とは軍事力が大幅に異なる相手に対抗するための兵器で、俊敏に移動できる安価侵攻作戦への対処に有効――などの条件を満たすとみられている」

     

    ウクライナ軍が、ロシアのウクライナ侵攻で予想を覆して敗退させたのが、非対称兵器である。運搬自由で、攻撃後に直ぐ移動できる兵器である。中国の武器体系は、ロシア軍と同じであるので、台湾軍が非対称兵器を装備すれば十分に反撃可能と踏んでいるのだろう。

     


    (4)「中国は、台湾上陸作戦の序盤で大量の精密ミサイルを使って攻撃する可能性が高いとされる。台湾軍はミサイル攻撃を避けないと上陸作戦に対抗できず、回避に必要な俊敏性がとくに重要になる。米政権は非対称兵器として対艦ミサイルや防空システムに加え、敵の動きを把握する情報収集システムや早期警戒システムを挙げた。台湾に購入を推奨する兵器やシステムのリストを作成し、20程度の具体的な兵器などを売却の優先対象として選定したようだ。戦闘機は非対称兵器には該当しないとみられている。滑走路が破壊されると使えなくなるからだ。米国はすでに戦闘機F16の売却を決めたが、新規の戦闘機売却のハードルは高くなるとみられる」

     

    中国軍が、大量の精密ミサイルを使って攻撃する場合、台湾軍も北京を射程にしたミサイル「雲峰」で反撃するのだろう。攻撃を止めさせるには、敢えて行なう「三峡ダム攻撃予告」も中国を冷静にさせる有力材料であろう。

     


    (5)「国務省高官は、「(非対称兵器に当てはまらない)他の兵器を拒否するわけではないが、台湾に対してこれまでよりも強くそれらの重点分野(の兵器購入)を促していく」と述べた。米国と台湾は安全保障担当高官が参加する「モントレー対話」を月内に米国で開く方向で最終調整している。関係者3人が日本経済新聞の取材で明らかにした。米国から台湾への武器支援が主要テーマになる。台湾が調達する兵器やシステムについて具体的な議論を重ねるとみられる」

     

    米台間では、これから本格的な防衛システムが検討される環境になってきた。ウクライナ侵攻と中国の曖昧な態度が、これに拍車をかけている。

     

    (6)「米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、中国が2027年までに台湾侵攻に必要な能力の取得を目指していると警鐘を鳴らす。バイデン政権内で台湾の自衛力強化に向けた時間は多くないとの懸念は根強い。オースティン米国防長官は11日、シンガポールで開いたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で演説し、台湾の自衛力向上への支援強化を打ち出した。その直後にモントレー対話を調整し、中国の抑止を目指す」

     

    中国は、図らずも米台に防衛強化のきっかけを与えた。西側諸国がこぞって、台湾防衛に協力する体制を整えれば、逆に不利な状況へ追い込まれる。

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    台湾は、世界の半導体生産を大きくリードしている。この「アドバンテージ」をさらに拡大して、中国の台湾侵攻に際し、西側が台湾防衛に加わらざるを得ないようにする戦術である。台湾侵攻する中国を、世界の「悪者」にする構図なのだ。

     

    EU(欧州連合)では今年2月、「欧州半導体法」を公表し、半導体分野における協力相手として台湾を挙げた。EUにとって台湾は、なくてはならない存在に位置づけられている。中国が、こういう台湾を侵攻する事態になれば、台湾は欧州も台湾防衛に加わるであろうという「読み」だ。なかなかの戦略である。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「
    半導体投資、台湾全土が沸騰 全20工場16兆円の衝撃」と題する記事を掲載した。

     

    中国からの統一圧力に揺れる台湾。軍事侵攻リスクも懸念されるなかで、未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。総額16兆円に及ぶ世界でも例を見ない巨額投資だ。昨年来、世界から台湾の地政学的リスクが何度も指摘されてきたが、それでも台湾は域内で巨額投資に突き進んでいる。なぜか。全土を縦断し、各地で建設が進む全20工場を検証した。

     

    (1)「台湾南部の中核都市・台南市。5月後半、台湾最大の半導体生産拠点がある「南部サイエンスパーク」を訪れると、町は少し異様な雰囲気に包まれていた。工事用の大型トラックが頻繁に行き交い、至る所で建設用のクレーンがつり荷作業を繰り返すなど、複数の半導体工場の建設が同時に急ピッチで進んでいた。ここはもともと、世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が一大生産拠点を構えた場所。米アップルのスマートフォン「iPhone」向けの半導体を中心に、世界で最も先端の工場が集まる場所として知られ、最近でもTSMCが4つの新工場を完成させたばかりだった」

     

    TSMCは、世界最大の半導体メーカーである。そのTSMCは最近、4つの新工場を竣工したばかりである。次のパラグラフで説明するように、さらに工場増設に動いている。

     

    (2)「それでも十分ではなかったようだ。TSMCはさらに最先端品(3ナノメートル=ナノは10億分の1)の新工場建設を周辺4カ所で同時に進め、拠点の集中を加速させていた。TSMCが手掛ける半導体の新工場は少なくとも1工場当たり、投資額が1兆円程度と巨額になる。それをTSMCは現在、この周辺だけで4工場も同時に進めていることが、通常と異なる雰囲気につながっていた。「ほら、見ろよ。このTSMCの建設現場も、完成をかなり急いでいる。皆、夜遅くまで残業もするし、休日出勤も当たり前さ」と現場では指摘する」

     

    TSMCは、さらに最先端半導体工場を4カ所で増設工事に入っている。1工場当たりの投資額は、少なくとも1兆円規模とされる。つごう4兆円規模の投資を並行して行なっている。過剰投資の懸念はないのか。自己資金で賄っているとすれば、持ち堪えられる計算であろう。

     


    (3)「この慌ただしさは、TSMCだけではない。こんな光景が今、台湾全土で広がっている。日本経済新聞が台湾の半導体各社の投資状況を調べたところ、少なくとも現在、台湾域内で20もの新工場が建設中か、あるいは建設されたばかりの状況であることが分かった。立地も北部の新北から、新竹、苗栗、さらには台南、最南部の高雄にまで全土に及び、その投資額の合計は実に約16兆円にのぼる。これほどの投資が一挙に行われることは業界でも過去に例がない。TSMCが米アリゾナ州に建設中の新工場や日本の熊本県に進出を決めた工場はいずれも1兆円規模であることからも、いかに台湾の16兆円の投資が巨額であるかが分かる」

     

    現在、台湾域内で20もの新工場が建設中か、あるいは建設されたばかりの状況という。TSMCは、米国や日本での半導体工場の建設を予定している。日米では、補助金が支給される。

     


    (4)「台湾の半導体生産は既に世界で群を抜く。特に先端の半導体では9割以上が台湾で生産される。今後、20の新工場が全て量産を始めれば、世界の台湾への依存度はさらに引き上がるのは確実だ。米国はこうした過度に台湾に依存する状況を恐れ「いずれ世界の危機になる」と指摘した。米当局は、TSMCを中心に何度も台湾メーカーや当局に呼び掛け、米国への工場誘致や新たなサプライチェーンをつくろうと協議を持ったが、交渉は1年以上、遅々として進まなかった。台湾が譲らなかったためだ」

     

    TSMCは、米国と補助金の件で折り合わず、交渉が遅れている。TSMCは、強気の交渉姿勢を崩さない。半導体が売り手市場であるからだ。

     


    (5)「背景には、台湾の強い危機感がある。中国からの統一圧力が強まるなか、台湾の外交は今、ほぼ米国頼みの状況にある。
    その状況下で唯一、台湾が米国と対等に話ができるカードが「半導体」となる。その半導体まで米国に早々と譲歩し、手渡してしまえば、台湾にはもはや外交カードは残らない。この先、米国の思うがままに進み、台湾が台湾ではなくなることを、台湾は最も危惧する。そんな危機感が台湾メーカーを台湾に踏みとどまらせ、域内での巨額投資に駆り立てた。世界からどんなに地政学的リスクを指摘されようとも今の台湾には、そこに配慮する余裕はない」

     

    米国による台湾の安全保障は、微妙な形になっている。中国を刺激しないために、米国が台湾を防衛するかしないか「曖昧」にして、中国をけん制しているからだ。台湾にとっては、極めて「宙ぶらりん」である。それゆえ、台湾の半導体集積度を高めて、中国が侵攻できない体制にする方針であろう。一種の半導体集積による自衛策である。

     

    (6)「中国からの統一圧力は、喫緊の課題だ。むしろ「これだけ半導体の生産の集積化が進んでしまった台湾を、もう世界は見捨てることなどできない」(台湾の半導体業界関係者)とにらむ。台湾にとって最大の対中防御策は、もはや米国から供与される武器などではなく、自前による最先端の半導体工場なのかもしれない。生き残りをかけた勝負の巨額投資が、台湾全土で今、静かに、そして急ぎ足で進む」

     

    台湾が、世界の半導体サプライセンターになれば、「台湾防衛」は民主主義国共通の課題になる。中国が、この半導体「聖地」を侵攻することは、民主主義国からの反撃を受けるところまで、その地位を押し上げる積もりなのだろう。

     

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