台湾半導体メーカーTSMCは、AI(人工知能)半導体が業績を押し上げており、さらなる好循環過程に入った形だ。これからの本格的なAI半導体需要増を見込んで、24年中に台湾で10カ所の工場建設に着手する方針を明らかにした。成熟半導体は、主として日本で生産する「分業体制」が浮き彫りになっている。
『中央日報』(3月7日付)は、「『今年台湾に工場10カ所作る』、恐ろしい勢いで規模拡大するTSMC」と題する記事を掲載した。
世界最大のファウンドリー(半導体委託生産)企業である台湾TSMCが積極的に規模を拡大している。TSMCは今年先端パッケージング工場を台湾西部の嘉義に建設するなど台湾に工場10カ所を追加で建設する計画を明らかにした。
(1)「聯合報と自由時報など台湾メディアが7日に伝えたところによると、国家発展委員会(NDC)の龔明鑫主任委員(閣僚級)は、前日の立法院(国会)経済委員会業務報告でこうした内容を明らかにした。龔氏は業務報告で、先端パッケージング工場の嘉義科学団地建設に対し肯定的に認め「TSMCが人工知能(AI)半導体需要増加に足並みをそろえ北部・中部・南部地域などに建設する2ナノメートル工場、先端パッケージング工場など10カ所に達する」と明らかにした」
TSMCは、AI半導体増産に全力を挙げる。台湾の北部・中部・南部地域などに10カ所の工場建設を行う。
(2)「龔氏は、先月24日にTSMC熊本第1工場開所式と関連し一部で台湾の「シリコンシールド」(半導体の盾)が弱まるとの懸念が提起されるのと関連し「外部に移すのではなく内外で同時に工場を拡張するもの」と説明した。続けて台湾の土地の状況からすべての生産施設を台湾に残しておくことができず、14ナノ以上の成熟工程は海外に建設し最先端工程は台湾に残ると強調した。また、聯合報はTSMCが嘉義にチップオンウエハーオンサブストレート(CoWos)という先端製造工程を利用した先端パッケージング工場を建設する予定だと報道した」
TSMCは、AI半導体を台湾で生産し、14ナノ以上の成熟工程は、海外に建設する工場で行う方針を明確にした。成熟半導体は、主として日本が担うものとみられる。TSMCは、日本で熊本第1工場に次いで、第2工場建設計画を発表した。将来、第4工場まで九州に建設すると報じられている。日台が、成熟半導体の世界的な供給基地になることは、確実な情勢である。
(3)「この工場が今後異種半導体を垂直に積層して連結する3次元(3D)パッケージング工程に変貌する可能性もあると説明した。また、供給網関係者の話としてTSMCに1ナノ世代の製品生産に向けた工場が8~10カ所ほどさらに必要だと付け加えた。ナノは半導体回路線間幅を意味する単位だ。線幅が狭いほど消費電力が減り処理速度が速くなる。現在世界で最も先を行く量産技術は3ナノだ。2ナノ部門ではTSMCが概ね優勢なものと専門家らは評価している」
TSMCが、「異種半導体を垂直に積層して連結する3次元(3D)パッケージング工程」を想定している。これは、いわゆる「チップレット」と呼ばれる分野である。これが、今後の半導体主流になるとされている。日本の国策半導体ラピダスが、この最先端分野の「チップレット」でTSMCと競争する体制を取っている。TSMCとラピダスは、潜在的なライバル関係になって来た。
(4)「TSMCは、2月24日に日本で熊本第1工場開所式を行った。日本はTSMC第1工場設備投資額の半分近い最大4760億円の補助金を提供することにした。熊本県菊陽町に建設されたTSMC第1工場では12~28ナノ工程製品を1カ月に約5万5000枚(300ミリメートルウエハー基準)生産する予定だ。TSMCは年内に熊本県に第2工場建設も始める予定という。また、米アリゾナでも2つの工場を建設し積極的に規模を育てている。TSMCの株価はニューヨーク証券市場で143ドルを記録し、昨年10月末の84ドルと比較して約70%上昇した」
TSMCは、最先端半導体は台湾で行い、成熟半導体を日本で増産するという「分業体制」を取る気配である。これは、日本にとって大きなメリットである。TSMCとは、協業しながら競争するという「使い分け」が求められる。