勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 中東欧諸国経済ニュース時報

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    中国が突然「イスラエルバッシング」に出た理由は何か。これを巡り西側メディアは「中国の中東に対する野望と関連がある」という分析を次々と出している。親パレスチナ路線でアラブ諸国とさらに密着し、中東での影響力拡大を狙っているというのだ。また、パレスチナの武装組織ハマスのイスラエル奇襲攻撃の背後といわれるイランを、対米国交渉カードとして利用する腹積もりもあるという観測も出ているのだ。 

    戦争勃発以降、中国は表向き中立的な立場を堅持してきた。だが、10月15日王外交部長は、「中国はサウジなどアラブ諸国と共に、パレスチナが民族の権利を回復する正義あふれる事業を引き続き支持する」とあからさまにパレスチナの肩を持った。王氏は同日、イランのアブドラヒアン外交長官と行った電話会談でも、「(独立したパレスチナ建国を通じて)歴史的不公正は早期に終結させなくてはならない」とし、同じ論旨を展開した。

    中国は、アラブ諸国がパレスチナ支持に向うという前提に立っている。周辺諸国は、中国が想像するように「反イスラエル」一本にまとまっている訳でない。率直に言えば、今回のハマスの行動を「迷惑がっている」という受け取り方が多いのだ。となれば、中国のパレスチナ支持が今後の中国外交を縛りかねないであろう。

     

    『中央日報』(10月22日付)は、「イスラエルに腹が立つが、ハマスも嫌『緊張した野次馬』アラブ諸国」と題する記事を掲載した。 

    17日にハマスの本拠地であるガザ地区内のアル・アハリ病院の爆発によりこれら地域でイスラエルに対する憤怒が大きくなっているが、アラブ諸国はハマスの支援要請には沈黙している。これと関連し英誌『エコノミスト』は、最近の報道で「アラブ諸国がイスラエルに劣らずハマスに対しても根深い不信を持っているため」とその背景を指摘した。
    (1)「アル・アハリ病院爆発が伝えられた直後から、アラブ圏全域では憤怒が拡散中だ。イスラエルによる武装組織「イスラム聖戦」のロケット弾誤射というイスラエルの説明を信じず猛非難中だ。こうした動きにも、アラブ諸国はハマスに対する支援に難色を示している。むしろハマスを批判する気流まで強く表れている。サウジアラビアとUAEの国営放送局は、イスラエルの封鎖により厳しい状況に置かれたガザ地区市民の惨状を取材し報道している。この過程で、ハマス関係者にインタビューしたり彼らの立場を伝えなかった。これに対しアラビア語を話せるイスラエル人にはインタビューした。過去の報道ではイスラエル軍を指し示す時「占領軍」という批判的意味が込められた用語を使ったが、今回の戦争局面では「イスラエル軍」と呼んでいる」 

    アラブ圏全域では、アル・アハリ病院爆発事件を大きく取り上げ非難を集中させている。だが、報道ではハマス関係者でなく、イスラエル人をインタビューしている。過去の報道ではイスラエル軍を指し示す時に「占領軍」と呼んできた。今回は、「イスラエル軍」と呼んでいるのだ。このように、ハマスvsイスラエル紛争に対して、中立的立場をみせている。

     

    (2)「こうした態度は、最近中東地域に起こった地政学的変化と関連があるという解釈が出ている。英『エコノミスト』誌は、「たった2つのアラブ諸国(エジプト、ヨルダン)と外交関係を結んだイスラエルが、2020年からUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンの4つのアラブ諸国と修交し、サウジアラビアもイスラエルと国交交渉を広げた。(サウジとUAEの報道姿勢には)イスラエルとの関係改善を進めてきたアラブ諸国の立場が反映されている」と伝えた」 

    イスラエルは、従来のエジプト、ヨルダンの2国に加えて現在、UAE、バーレーン、モロッコ、スーダンの4つのアラブ諸国と修交し、合計6カ国と外交ネットワークを持っている。最近は、サウジとの修交への動きもある。こうして、イスラエルが中東地域で孤立から脱していることも「イスラエル敵視」という雰囲気を変えている。 

    (3)「パレスチナ地域と隣接したアラブ諸国は、ハマスに対しさらに強い拒否感を持っている。エジプト政府はガザ地区とエジプトのシナイ半島をつなぐ陸路であるラファ検問所の開放を徹底して防いでいる。パレスチナ難民の大規模流入だけでなくハマス戦闘員が難民にまぎれてエジプトに入ってくることを強く懸念するためだ。別のパレスチナ地域であるヨルダン川西岸地区と隣接したヨルダンも、やはりハマスに対する拒否感が大きい。ヨルダンのアブドラ2世国王とエジプトのシシ大統領は19日にカイロで会談し、「パレスチナ住民をヨルダンやエジプトに強制移住させることに反対する」という内容の共同声明を出した」 

    パレスチナ地域と隣接したエジプトなどアラブ諸国やヨルダン川西岸地区と隣接したヨルダンも、ハマスに拒否感をみせている。ハマスが、イスラエルへ残酷な奇襲攻撃をかけたことで警戒されているのだろう。

     

    (4)「今回の紛争で、カタールの同盟である米国が積極的にイスラエルに肩入れして状況が変わっている。英王立国際問題研究所のサナム・バキル中東・北アフリカ本部長は、「カタールがハマスとの関係を見直し、時間が過ぎるほど距離を置くことになるだろう」と予想する。英エコノミスト誌は、「アラブ諸国は『緊張した野次馬』。表向きはパレスチナを支持するが、中ではガザ地区という火の粉が自分たちに降りかからないよう神経を尖らせている」と評価した」 

    米同盟国のカタールは、ハマスとの関係を見直すとの予想も出ている。アラブ諸国では、ハマスと距離を置く動きを見せているのだ。こういう中で、中国は「ハマス支援」決定をした。アラブ諸国の動きと、乖離したことになりそうである。

     

     

     

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    中・東欧諸国が、EU(欧州連合)のリーダー国の独仏に対して、不信感を強めている。独仏が、ロシアとの対話を重ねているからだ。独仏首脳は、外交的な解決の可能性を保つため対話の窓口を維持する必要性を訴える。だが、ウクライナに譲歩を強いる形で、和平を実現しようとしているとの疑念を生んでいる。

     

    独仏は、ウクライナへの支援を声高に叫ぶが、実際に支援した金額はわずかである。こういう現実が知れ渡るとともに、独仏は漁夫の益を求めているのでないかと中東欧諸国から疑いの眼差しを向けられている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月19日付)は、「中・東欧、ドイツ・フランスに不信感 ロシア対話に反発」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナに侵攻するロシアへの対応を巡って、中・東欧諸国が欧州連合(EU)の中核国であるドイツとフランスへの不信感を強めている。EU加盟国間の対立はよくあるが、独仏を表立って批判するのは珍しい。亀裂が深まれば、独仏が域内の意思決定の重しになってきた従来のモデルが揺らぐ。

     


    (1)「マクロン仏大統領は、ショルツ独首相、ドラギ・イタリア首相と共にウクライナの首都キーウ(キエフ)をロシアの侵攻開始後初めて訪れた。「ウクライナの主権、領土の一体性、自由を守るため、長期にわたってそばに居続ける」と発言。16日、ゼレンスキー大統領と会談し、支援姿勢を改めて強調した。マクロン氏やショルツ氏が意識したとみられるのが、ウクライナ国内や中・東欧諸国の間で広がっていた批判の声だ。「第2次世界大戦中、ヒトラーとこのように話した者がいただろうか」。ポーランドのドゥダ大統領は9日付の独紙インタビューで、ロシアのプーチン大統領をヒトラーになぞらえ、対話を続ける独仏首脳を非難していた」

     

    中東欧諸国は、これまでロシアの脅威を直に感じてきた国々である。ロシアと話合っても、約束を守らない国という強い信念を持っている。だから、ロシアとの対話が、ウクライナへ妥協を強いることになると危惧しているのだ。

     


    (2)「独仏への不信感は今になって生まれたわけではない。ロシアは2014年、ウクライナのクリミア半島を一方的に併合した。だがその後もドイツはロシア産エネルギーの輸入拡大計画を推し進め、17年から現職のマクロン氏は対ロ関係改善を繰り返し説いた。そして21年6月、当時のメルケル独首相とマクロン氏はEU加盟国とプーチン氏の首脳会談を提案した。旧ソ連に領土や主権を侵され、いまなおロシアの脅威をじかに受けるバルト諸国やポーランドの反対で実現しなかったが、独仏の親ロ姿勢への警戒が高まった」

     

    ドイツは長年、ロシアとの協調主義を取ってきた。経済的な利益が大きいからだ。その点で、中東欧諸国は、経済的利益よりも軍事的脅威のほうがはるかに多い関係だ。ロシアを巡る利害関係が、180度異なっているので、独仏とは対ロシア関係が異なる。ただ、ウクライナ侵攻という事態になれば、経済的利益よりも安全保障が優位になるはずである。中東欧諸国は、独仏に対して安保の立場でロシアに対応せよと迫っているのだ。

     


    (3)「風当たりがとりわけ強いのがドイツだ。ショルツ氏は、ロシアとの新しいガスパイプライン(ノルドストリーム2)の停止と国防費の大幅増額を表明した一方で、ウクライナへの兵器供与には慎重で、ロシア制裁にも消極的な姿勢を見せた。ショルツ氏は、「ロシアが勝ってはならない」と語るものの、「ウクライナが勝つ」とは決して言わないと、欧州メディアは批判的に書き立てる」

     

    ドイツは、これまでの親ロ姿勢が災いしている。つい「色眼鏡」で見られがちである。ただ、武器支援の約束分を送っていないことは事実である。これが、信頼を落としている背景にある。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)は、「
    ウクライナ軍事支援、どの国が多いか」と題する社説を掲載した。

     

    欧州の首脳4人が16日にウクライナのキーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談するとともに、適切な公式発言を行った。しかし、気分が明るくなる瞬間はあっても、戦場におけるロシアの攻勢が反転することはない。そもそも欧州によるウクライナへの軍事支援は不十分だ。

     

    (4)「ドイツの経済研究所「キール世界経済研究所(IfW)」の新たな報告書は、この問題に光を当てている。開戦以降、多くの国がウクライナに大規模な支援を提供している一方で、口先だけの国もあることが明らかになった。報告書は「われわれは2022年1月24日から6月7日までに行われた計850億ユーロ(約11兆9000億円)相当の政府間コミットメントを追跡した」と述べている。これは金銭的・人道的・軍事的支援を合わせた金額だ。米国は引き続き最大の支援国で、支援表明額は全体の約半分に当たる427億ユーロに上る。一方、EUの支援表明額は加盟諸国とEU機関を含めて272億ユーロだった。同報告書は「米国だけで、隣接する地域で戦争が起きているEU諸国全体の額を大きく上回っているのは注目すべきことである」と指摘している」

     


    2022年1月24日から6月7日までに行われた計850億ユーロのウクライナ支援のうち、50.2%は米国支援である。EUは全体で32.0%だ。米国が、EU全体を上回っているのは、EUとして恥ずべきことだ。民主主義を守るには、気迫が足りないようである。

     

    (5)「支援表明額は実際の供与額とは異なる。米政府は公表した「軍事現物援助」のうちの48%しか供与していない。僅差で第2位となったポーランドは約束した援助をすべて送り届けた。次いで英国、カナダ、ノルウェー、エストニア、ラトビアの順となっている。これは欧州の経済大国にとって恥ずべき状況だ。人口180万人で、国内総生産(GDP)が米バーモント州と同程度のラトビアが、独、仏、伊より援助額が大きいようだ。報告書は、「これら諸国による軍事支援の大部分の額が最終的に明らかになっている」としている」

     

    独、仏、伊の援助額が、人口180万人のラトビアよりも少ない現実は、考えさせられる問題だ。中・東欧諸国が、独仏に疑念を持っている背景には、ウクライナへの支援不足があるからだろう。言行一致が求められるのだ。

     

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