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中・東欧諸国が、EU(欧州連合)のリーダー国の独仏に対して、不信感を強めている。独仏が、ロシアとの対話を重ねているからだ。独仏首脳は、外交的な解決の可能性を保つため対話の窓口を維持する必要性を訴える。だが、ウクライナに譲歩を強いる形で、和平を実現しようとしているとの疑念を生んでいる。

 

独仏は、ウクライナへの支援を声高に叫ぶが、実際に支援した金額はわずかである。こういう現実が知れ渡るとともに、独仏は漁夫の益を求めているのでないかと中東欧諸国から疑いの眼差しを向けられている。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月19日付)は、「中・東欧、ドイツ・フランスに不信感 ロシア対話に反発」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナに侵攻するロシアへの対応を巡って、中・東欧諸国が欧州連合(EU)の中核国であるドイツとフランスへの不信感を強めている。EU加盟国間の対立はよくあるが、独仏を表立って批判するのは珍しい。亀裂が深まれば、独仏が域内の意思決定の重しになってきた従来のモデルが揺らぐ。

 


(1)「マクロン仏大統領は、ショルツ独首相、ドラギ・イタリア首相と共にウクライナの首都キーウ(キエフ)をロシアの侵攻開始後初めて訪れた。「ウクライナの主権、領土の一体性、自由を守るため、長期にわたってそばに居続ける」と発言。16日、ゼレンスキー大統領と会談し、支援姿勢を改めて強調した。マクロン氏やショルツ氏が意識したとみられるのが、ウクライナ国内や中・東欧諸国の間で広がっていた批判の声だ。「第2次世界大戦中、ヒトラーとこのように話した者がいただろうか」。ポーランドのドゥダ大統領は9日付の独紙インタビューで、ロシアのプーチン大統領をヒトラーになぞらえ、対話を続ける独仏首脳を非難していた」

 

中東欧諸国は、これまでロシアの脅威を直に感じてきた国々である。ロシアと話合っても、約束を守らない国という強い信念を持っている。だから、ロシアとの対話が、ウクライナへ妥協を強いることになると危惧しているのだ。

 


(2)「独仏への不信感は今になって生まれたわけではない。ロシアは2014年、ウクライナのクリミア半島を一方的に併合した。だがその後もドイツはロシア産エネルギーの輸入拡大計画を推し進め、17年から現職のマクロン氏は対ロ関係改善を繰り返し説いた。そして21年6月、当時のメルケル独首相とマクロン氏はEU加盟国とプーチン氏の首脳会談を提案した。旧ソ連に領土や主権を侵され、いまなおロシアの脅威をじかに受けるバルト諸国やポーランドの反対で実現しなかったが、独仏の親ロ姿勢への警戒が高まった」

 

ドイツは長年、ロシアとの協調主義を取ってきた。経済的な利益が大きいからだ。その点で、中東欧諸国は、経済的利益よりも軍事的脅威のほうがはるかに多い関係だ。ロシアを巡る利害関係が、180度異なっているので、独仏とは対ロシア関係が異なる。ただ、ウクライナ侵攻という事態になれば、経済的利益よりも安全保障が優位になるはずである。中東欧諸国は、独仏に対して安保の立場でロシアに対応せよと迫っているのだ。

 


(3)「風当たりがとりわけ強いのがドイツだ。ショルツ氏は、ロシアとの新しいガスパイプライン(ノルドストリーム2)の停止と国防費の大幅増額を表明した一方で、ウクライナへの兵器供与には慎重で、ロシア制裁にも消極的な姿勢を見せた。ショルツ氏は、「ロシアが勝ってはならない」と語るものの、「ウクライナが勝つ」とは決して言わないと、欧州メディアは批判的に書き立てる」

 

ドイツは、これまでの親ロ姿勢が災いしている。つい「色眼鏡」で見られがちである。ただ、武器支援の約束分を送っていないことは事実である。これが、信頼を落としている背景にある。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)は、「
ウクライナ軍事支援、どの国が多いか」と題する社説を掲載した。

 

欧州の首脳4人が16日にウクライナのキーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談するとともに、適切な公式発言を行った。しかし、気分が明るくなる瞬間はあっても、戦場におけるロシアの攻勢が反転することはない。そもそも欧州によるウクライナへの軍事支援は不十分だ。

 

(4)「ドイツの経済研究所「キール世界経済研究所(IfW)」の新たな報告書は、この問題に光を当てている。開戦以降、多くの国がウクライナに大規模な支援を提供している一方で、口先だけの国もあることが明らかになった。報告書は「われわれは2022年1月24日から6月7日までに行われた計850億ユーロ(約11兆9000億円)相当の政府間コミットメントを追跡した」と述べている。これは金銭的・人道的・軍事的支援を合わせた金額だ。米国は引き続き最大の支援国で、支援表明額は全体の約半分に当たる427億ユーロに上る。一方、EUの支援表明額は加盟諸国とEU機関を含めて272億ユーロだった。同報告書は「米国だけで、隣接する地域で戦争が起きているEU諸国全体の額を大きく上回っているのは注目すべきことである」と指摘している」

 


2022年1月24日から6月7日までに行われた計850億ユーロのウクライナ支援のうち、50.2%は米国支援である。EUは全体で32.0%だ。米国が、EU全体を上回っているのは、EUとして恥ずべきことだ。民主主義を守るには、気迫が足りないようである。

 

(5)「支援表明額は実際の供与額とは異なる。米政府は公表した「軍事現物援助」のうちの48%しか供与していない。僅差で第2位となったポーランドは約束した援助をすべて送り届けた。次いで英国、カナダ、ノルウェー、エストニア、ラトビアの順となっている。これは欧州の経済大国にとって恥ずべき状況だ。人口180万人で、国内総生産(GDP)が米バーモント州と同程度のラトビアが、独、仏、伊より援助額が大きいようだ。報告書は、「これら諸国による軍事支援の大部分の額が最終的に明らかになっている」としている」

 

独、仏、伊の援助額が、人口180万人のラトビアよりも少ない現実は、考えさせられる問題だ。中・東欧諸国が、独仏に疑念を持っている背景には、ウクライナへの支援不足があるからだろう。言行一致が求められるのだ。