勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: BRICS経済ニュース時報

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    中国は、相変わらず「一帯一路」に外交の活路を求めている。米国覇権へ対抗すべくグローバルサウスの「頭目」を目指しているからだ。中国が「外交大国」になるには、経済支援が不可欠である。 

    中国は、デフレ基調でもはや他国を支援する経済力を失いつつある。口先だけの「大国」演出は、かえって他国に離脱を招く結果になろう。すでに、イタリアが一帯一路から脱退した。アルゼンチンはいったん、参加を決めた「BRICS」加入を取り止める。金の切れ目が縁の切れ目になるのだ。国際社会とは、利益を求めて厳しい生存競争の場である。 

    中国は、大きな誤算をしている。西側諸国(米国・EU・英国・カナダ・オーストラリア・日本・韓国・台湾)のGDPが、中国シンパ国(中国・ロシアおよびベラルーシ・イラン・パキスタンなどのパートナー国)」の約3倍の規模であることだ。こうした経済的に不利な条件の中で、中国は米国と外交的に対抗できるか、である。

     

    『日本経済新聞』(1月23日付)は、「中国、大国外交を加速 王毅氏がアフリカと中南米歴訪」と題する記事を掲載した。 

    中国が南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」との外交を加速している。王毅共産党政治局員兼外相を13日からアフリカや中南米へ派遣した。習近平国家主席の掲げる「大国外交」の一環で米国への対抗勢力を増やす思惑だ。台湾統一を見据えた支持づくりにも動く。 

    (1)「王氏はまずエジプト、チュニジア、トーゴ、コートジボワールのアフリカ4カ国を訪問した。そのまま18日にブラジルへ飛び、20日にはジャマイカを訪れた。中国外交の旗振り役である王氏にとって2024年最初の外国訪問だ。ブラジルの首都ブラジリアで18日、同国のビエイラ外相と会談した。中国外務省によると、王氏は「東西両半球の最大の発展途上国として、新興市場経済の代表として連帯し、世界の課題に取り組もう」と提起した。両外相は19日も戦略対話を開いた」 

    王外相は、新年早々にグローバルサウスの「頭目」を目指して、各国を訪問している。グローバルサウスには、ライバルのインドが控えている。インドの存在を無視して、中国の勝手な振舞がいつまで続くか。中国の弱点である。

     

    (2)「ブラジルは、グローバルサウスの代表格で24年の20カ国・地域(G20)の議長国を務める。中国と共に、ロシアとインド、南アフリカを交えたBRICSのメンバーでもある。BRICSは23年8月に南アで開いた首脳会議でイランやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など6カ国の新規加盟を決めた。王氏はその一つでアフリカの大国であるエジプトを14日に訪れ、同国のシシ大統領にBRICS加入への祝意を伝えた。同国のシュクリ外相とはイスラエルとイスラム組織ハマスの交戦が続くパレスチナ自治区ガザの情勢を協議した。即時停戦や、将来の独立したパレスチナ国家とイスラエルの「2国家共存」の必要性を盛り込んだ共同声明をまとめた」 

    中国は、経済力の弱体化によってアフリカへの投資を大幅に削減している。アフリカが、これまで中国へなびいていたのは「資金力」目当てである。その資金が減れば、関係は希薄になる。BRICSも一枚岩ではない。インドが、中国の動きを監視しているのだ。

     

    (3)「中国の広域経済圏構想「一帯一路」をグローバルサウスとの協力の拡大にも活用した。チュニジアのサイード大統領は15日、王氏に「一帯一路」建設に積極的に参加すると表明。ジャマイカのホルネス首相とも同構想を巡り話し合った。王毅氏の歴訪にはもう一つの狙いがある。13日の台湾総統選で勝利した与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳・副総統をけん制するための外交攻勢だ。台湾統一を掲げる習指導部は頼氏を独立志向が強いとみて敵視してきた。王氏は訪問先の全6カ国から、台湾が自国の一部という「一つの中国原則」への支持を取りつけた。19日には中国メディアの取材に「中国と国交のあるアフリカの53カ国は全て中国による平和統一の大義を支持している」と語った」 

    中国の影響力は、台湾ですら及ぼすことができなかった。軍事的圧力をちらつかせても、台湾市民の心を掴むことができなかったのだ。台湾との平和統一を真に望むのならば、威嚇や経済制裁は「悪手」である。中国には、言行不一致が多すぎる。

     

    (4)「こうした取り組みはいずれも習氏の唱える「大国外交」に基づく。中国が新興国や途上国に経済・社会発展の機会を提供し、共同の成長を通じて友好国を広げる戦略だ。対立する米国に依存しない国際秩序づくりにつなげる意図がある。習氏は23年12月、北京で開いた中央外事工作会議に出席した。会議は「一国主義と保護主義への断固反対」を共有し、米国以外も国際秩序に関わる「多極主義」の実現を確かめた。 

    中国は、アジアでは対立抗争を続けている。南シナ海の不法占拠が原因である。こういう事態をもたらしながら、アフリカや南米で中国支援国を増やそうという意図は何かだ。「遠交近攻」という中国古来の外交方針の反映にほからなない。「遠くの国と親しくして、近くの国を攻める策略」である。これは、中国が国連の場で遠くの国の支持で、近隣国の紛争を覆い隠そうとしているに違いない。だが、遠くの国から支持を受けるには資金援助が不可欠だ。その経済力が減っている。肝心の「弾」が切れては、目的完遂は不可能になろう。

     

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    習近平氏は焦っているようだ。23日からのBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ)首脳会議で、BRICSを米欧との対抗軸に押し上げる「策略」を練っていると伝えられる。

     

    習氏は22日、中国やロシアなど新興5カ国(BRICS)の関連会合で演説した。ロシアの侵攻によるウクライナ危機を巡り、「実力に基づく地位を妄信して軍事同盟を拡張し、他国の安全を犠牲にすれば必然的に(自国の)安全も苦しい立場に陥る」と主張した。米国が、主導し対ロで結束を強める北大西洋条約機構(NATO)を批判したものだ。習氏は、「制裁はブーメランであり、もろ刃の剣だ」とも語り、米国がロシアに科している制裁に改めて反対した。

     


    この習氏の演説は、今後の米欧との関係をさらに悪化させることは確実である。ウクライナ侵攻では、一貫してロシアを支持する立場を見せているからだ。これによって、西側諸国の怒りを一層買うことは確実である。中国にとっては、経済的にはロシアよりも欧州の関係が重要である。その関係性を自ら絶つような演説である。外交的には失敗である。

     

    中国が、今年の新興5カ国(BRICS)首脳会議を利用しようとするのに対し、インドは抵抗する構えだ。事情に詳しい複数のインド政府当局者が明らかにした。『ブルームバーグ』(6月22日付)が報じた。この報道通りになれば、習氏の思惑は外れることになろう。インドは、これまでロシアへ依存してきた武器供給を、米英仏イスラエルなどと共同開発する方向へ舵を切っている。それだけにBRICSが一本化して、米欧への対抗に与することにはなるまい。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月23日付)は、「米欧と対抗、BRICS軸に 中国が模索」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は23日、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカと構成するBRICSのオンライン形式による首脳協議を主宰する。中ロへの非難を強める米欧に対抗するため、BRICSの連携を強めようとしている。

     

    (1)「習氏は22日の関連会合で演説し「痛ましい歴史が示すように覇権主義、集団政治、陣営間の対立は戦争と衝突をもたらす」と強調した。ロシアの侵攻によるウクライナ危機をめぐって「実力に基づく地位を妄信して軍事同盟を拡張し、他国の安全を犠牲にすれば必然的に(自国の)安全も苦しい立場に陥る」とも主張した。米国が主導してロシアに圧力をかける北大西洋条約機構(NATO)を批判した発言だ」

     

    中国は、伝統的に「同盟」を毛嫌いする性癖がある。相手が団結して中国へ圧力をかけることに恐怖を感じているからだ。「合従連衡」が中国外交の基本だ。秦の始皇帝は、合従(同盟)を壊して連衡(一対一の関係)へ持ち込み、中国を統一した経緯がある。習氏も、この手を使おうと考えているのだ。古い手である。

     

    (2)「BRICSの枠組みによる連携で、大きなカギをにぎるのはインドだ。インドは日米やオーストラリアとともに構成する4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」に入る一方で、ウクライナに侵攻したロシアへの非難は見送っている。インドは兵器輸入の約5割をロシアに頼る。インドと中国には国境係争地での対立がある。中国は経済での結びつきを強めて取り込む戦略を描いているとみられる。中国国営の新華社は6月9日に中印の貿易額が2021年に初めて1000億ドル(約13億5000万円)を超えたと伝えた」

     

    インド最大の敵は、中国である。国境線で繰返される武力紛争がそれを示している。インドが、好き好んで中国の片棒を担ぐはずがない。中国が、インドへ接近しているとすれば、外交的に米欧と対立して苦しい立場に立たされていることを示すものだ。

     


    (3)「インド市場には、中国の小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)などのスマホメーカーが進出。中国もインド産の唐辛子やクミン、フェンネルなどの香辛料を大量に買い入れている。新華社は「中印の市場や人口に比べ両国の貿易額はまだ不十分」との見方を伝え、今後さらに貿易額が膨らむ可能性があると指摘した。中国が主導して設立したBRICS諸国が運営する新開発銀行(NDB)は5月にインドに地域事務所を設立したと発表した。NDBは上海に本部を構える。インフラ整備や農村振興などを支援し、インドを引き寄せる狙いがありそうだ」

     

    BRICS諸国が運営する新開発銀行(NDB)は、中国の主宰するAIB(アジア投資銀行)と同じで、屋上屋を架すことで無駄な存在だ。中国は、NDBへ資金を供給する余力がなくなっている。AIBも開店休業状態だ。

     


    (4)「習氏は、24日には加盟国以外の新興国や途上国もオンライン協議に招く。中国は5月のBRICS外相協議で、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が加盟国の拡大を検討する考えを明らかにした。インドネシアやサウジアラビア、アルゼンチンなどを想定しているとみられる。ただ、中ロとの接近を強く印象づけるBRICS加盟には慎重な国が多いとみられる。インドも当初は先進国への対抗軸として新興国の枠組みに強い関心を示していたが、現在は中国に対抗するクアッドに軸足を移している」

     

    中国は、BRICS加盟国を増やす意向という。参加するメリットがなければ、加盟国は増えないだろう。中国が本気で、米欧との対抗を策しているとすれば墓穴を掘るようなものだ。いくら弱小国を集めても、強国集団にはならないのだ。中国は、悪あがきしている。これによって、ますます米欧との溝が深まる。 

     

     

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