勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: G7経済ニュース時評

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    中国は、これまで傍若無人に振る舞い、気に入らない国には遠慮会釈なく経済制裁を行ってきた。19日から開催されるG7サミットでは、この無軌道な振る舞いを許すことなく、中国へ共同で「逆制裁を加える」という強硬策を決める。もはや、泣き寝入りしないという「自衛策」を発表するのだ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付)は、「G7サミット、中国いじめ対策が最優先」と題する社説を掲載した。 

    日本で今月開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、経済的威圧への対処が最優先の議題となる。われわれが、欧州におけるロシアの行動や世界での中国の振る舞いから身をもって学んだように、これは協力して対応する価値がありながら、対応が遅れている課題だ。

     

    (1)「豪キャンベラにあるシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所は、ボイコットや投資・貿易・観光の制限など、中国による威圧行為を調査している。同研究所によると、2019年から2022年の間に確認された中国政府による経済的威圧行為は53件で、2014~18年の13件から増加した。中国の行為は、対象国にマクロ経済的なコストを強いることはない。だが、経済的威圧の標的となった産業は、深刻な被害を受ける可能性がある」 

    中国政府は、2019年から2022年の間に虐め(経済的威圧)行為が53件。2014~18年の13件から急増した。相手国を虐めて目的を果たすという陰湿なやり方だ。これを、G7で共同して逆制裁することになった。G7が、正義の味方になる。

     

    (2)「米国と韓国が2016年、朝鮮半島に地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(サード)」を配備すると発表したことを受け、中国政府は韓国の複合企業ロッテの中国本土事業を追い詰める措置を講じた。これを受けて、ロッテは約17億ドル(約2300億円)の損失を被った。カナダ・バンクーバーの当局が米国の要請で中国の通信機器大手華為技術(ファーウェイ)の幹部を逮捕したところ、カナダの菜種生産者は中国への輸出減で、2019年3月から2020年7月までに17億2000万ドルを失った」 

    中国に経済制裁は、弱いところを虐める点で極めてアンフェアである。逃げ場のないところを叩く意味で、極めて悪質だ。G7が率先して、義侠心を発揮しなければ、中国の弱い者虐めは終わらない。

     

    (3)「中国は、経済的圧力をかけられる側の国で、政府への支持が損なわれる可能性があることを知っている。スカボロー礁の領有権を巡ってフィリピンと中国が対立していた2012年、フィリピンから中国に輸出されるバナナの検疫を中国が強化した。中国の港でバナナが腐ったため農家の損失は膨らみ、影響力を持つバナナ生産者のロビー団体は、中国に譲歩するようフィリピン政府に圧力をかけた」 

    フィリピンでは、バナナ生産者が制裁を受けた。彼らは、苦しさのあまりフィリピン政府に中国の圧政を認めるように運動する主客転倒な事態が起こっている。これが、中国の狙いだ。 

    (4)「これらは全て、西側諸国が結束し、経済的な威圧行為がもたらすコストを高めることで、中国によるそうした行為を阻止することが可能なことを示している。CSISの報告書は、威圧行為に脆弱な恐れのある産業を特定し、打撃緩和策を促進する取り組みを米国が主導できることを示している。威圧行為に対して脆弱な企業は、重要な部品を備蓄しておくことで、中国に狙われた場合でも混乱を限定的なものにとどめることができるとみられる」 

    中国の虐めには、事前に部品などを備蓄する方法も検討される。こういう体制が作られることは、中国の対外的な信用がゼロになることを意味する。

     

    (5)「CSIS報告書の執筆者は、影響を受けた産業が新たな市場やサプライヤーを探す間、米国と同盟・友好国が一定の金融支援を行うことが可能だと指摘している。そうした支援が企業助成策につながることがリスクとなるが、この問題への成功例がリトアニアだった。リトアニア政府が、自国内での台湾の代表機関「台湾代表処」の開設を認めたことを受け、中国政府は、リトアニアとの輸出入を禁止した。これにより、リトアニアの科学分野用レーザー業界が特に大きな痛手を受けた。リトアニア産業界がこの禁輸に持ちこたえる上で、台湾と欧州連合(EU)からの投資や、信用供与、資金支援が役立った。これによってリトアニア政府は、中国からの圧力に屈しない強い姿勢を示すことができた」 

    中国の制裁によって受ける被害は、西側諸国が金融支援で乗切ることも可能だ。中国は、世界の「鬼門」になって信用喪失の対象になる。こうして、「チャイナ=無慈悲」というレッテルが貼られる。 

    (6)「もう一つの選択肢として、中国から経済的圧力を受けている国々の対米輸出品に関し、米議会が大統領に関税削減の権限を付与することも可能だ。友好諸国との間での自由貿易協定の拡大も、有力な手段になる。それによって、同盟・友好諸国が米市場に一段とアクセスしやすくなるほか、米国に対する中国市場の影響力を弱めることができる」 

    米国が支援して、中国から圧力を受けている国々の対米輸出品の関税引き下げ措置も検討する。こなると、「悪玉」中国に対して、「善玉」米国という構図だ。これでは、中国もやりにくくなろう。

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    先進7ヶ国首脳会議(G7サミット)は、6月28日に終了した。ロシアへの新たな経済制裁は見送られた。G7各国への経済的負担が大きくなることが理由である。一方では、ウクライナへの支援継続を決めた。和平問題は、ウクライナが決めることとし、G7側からの働きかけをしないことを明らかにした。欧州国内での「和平論」は封印された形だ。

     

    ロシアへの新たな経済制裁を見送り、ウクライナへの支援継続となれば、軍事面でウクライナをさらに支援するほかなくなった。ウクライナの要望する大型火器を供給して、ウクライナに有利な和平条件をつくり出す段階へ移っているようだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「即効薬なきロシア制裁策、G7会合では手詰まり感も」と題する記事を掲載した。

     

    先進7カ国(G7)はドイツで3日間にわたり開催した首脳会議(サミット)で、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの追加制裁措置の検討を続けることで合意したものの、侵攻から4カ月が経過し、経済的手段で制裁を加えることの限界も浮き彫りになった。

     

    (1)「これまでは武器供与によって戦況がすぐに変化しており、ウクライナはロシア軍を押し戻すために支援拡大を求めている。ただ、制裁措置は効果が表れるまでに時間がかかり、一部は西側諸国への打撃となって跳ね返っている。最新の制裁措置は複雑になりすぎ、迅速な発動が困難になっている。今回のサミットでは、G7首脳はある程度の結束を示した。ウクライナへの支援を継続することに表立った反対意見はなかった。だが、ウクライナや西側の一部専門家の間では、重火器の増強以外に、ロシアの侵攻を短期的に食い止める方法はないとの見方がある」

     

    戦線で直ぐに効果の出るのは、ウクライナへの大型武器供与である。米国は、重火器供与に舵を切っている。不幸なことだが、これ以外に、侵攻解決の手段はなくなった。

     


    (2)「G7を含む各国が実施した前例のない対ロシア制裁は世界の市場に変動を引き起こし、エネルギー価格の上昇を招いた。ここにきて、高インフレや成長鈍化、さらに欧州における今冬のエネルギー不足への懸念を背景に、西側諸国ではロシアへの制裁を強化する意欲がそがれている。G7各国の間には対ロシア制裁を巡り温度差があり、具体的な追加措置で合意することができなかった。合意したのは、ロシア産石油の価格上限設定や、ロシアからの金の輸入禁止などについて検討していくことにとどまった。ロシアをすぐに罰することができる選択肢はほぼ使い果たされ、検討対象となっているのは複雑で議論の余地のある選択肢しか残されていない」

     

    これまでの経済制裁は、西側諸国の物価高騰という形ではね返っている。経済制裁の限界を示したものだ。ただ、ロシア経済は今年下半期から制裁効果が出てくるという経済予測もあるので、西側は一呼吸おいて状況を見守ることも必要だ。ここは、戦線立直しが優先されるのだろう。ウクライナは、年内の終結を目指している。これに合わせた武器供与が課題に挙がるに違いない。

     


    (3)「G7は声明で、ロシアを制裁する「さまざまなアプローチを検討する」とし、ロシアの原油や石油製品の世界的な海上輸送を可能にするサービスの全面的な禁止などを検討する方針を示した。政府関係者や専門家は、G7が声明で言及した対策はどれも、実施までに長い時間がかかると指摘する。G7議長国ドイツのオラフ・ショルツ首相は、米国が提案したロシア産石油の価格上限設定について「非常に野心的な取り組みであり、もっと時間と作業が必要になる」と述べた。ショルツ氏はその一方で、ロシアへの対応では他に選択肢がないとの見方を示し、「ウクライナ侵攻前の時代に戻ることはできない。なぜなら、状況が変われば、われわれも変わらなければならないからだ」と語った」

     

    下線部分は重要ある。一定の時期に「休戦」を示唆した言葉だ。西側が、十分な武器を供与して、その結果を見て最終判断するという含みに取れるのである。

     


    (4)「英国のシンクタンク「チャタムハウス」のジョン・ロック氏は、G7首脳が具体的な追加制裁で合意できなかったことは、既存の制裁措置が西側の政策立案者が許容できる痛みを超えたことを示していると指摘。その上で「ロシア経済に圧力をかけるための最初の選択肢を使い果たし、追加制裁には代償が伴うことを西側の指導者らは今になって身に染みて感じている」と述べた」

     

    経済制裁の限界は、和平交渉への精神的な準備をさせるであろう。

     

    (5)「ショルツ氏はロシアに対抗するための連携拡大を目指し、インド、インドネシア、南アフリカ、セネガル、アルゼンチンなど新興国の首脳をG7サミットに招いた。ところが、こうした国々は対ロシア制裁に加わる意向をほとんど示さなかったと西側当局者は語る。インドのナレンドラ・モディ首相はショルツ氏に対し、ウクライナでの戦争は途上国の経済に打撃を与えており、インドはロシアへのいかなる対抗策にも参加できないと告げた。両氏は27日午後に会談した。インド政府はロシア産石油の購入を正当化している」

     

    G7にオブザーバーとして出席した新興国は、経済制裁に加わる意思のないことを明らかにした。それは、各国がロシアの反撃に耐えられない経済体質であることの結果だ。

     


    (6)「シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR)のグスタフ・グレッセル氏は現在議論されている制裁について、軍事ではなく経済でロシアに対応しようとする西側の意向を反映していると指摘する。ただ、ロシアは軍事的に敗北しない限りは侵攻を継続する公算が大きいという

     

    下線のように、ロシアは軍事的な敗北のない限り侵攻を続けるという。ならば、西側諸国も腹を括って大型火器の供与に踏み切らざるを得まい。ロシアの「核脅迫」に怯えていれば、ウクライナ侵攻を長引かせるだけだ。これが、結論のようである。 

     

     

     

     

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    ウクライナは、年1回開催されるG7首脳会議と、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に合わせて、自国への支援を求めて積極的な動きをしている。G7では、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。また、NATOが2030年を目標とする文書の「戦略概念」では、欧州安保の基盤がウクライナにあることを明記するように働きかけている。これによって、NATO非加盟のウクライナの安全保障への間接的寄与を求めているものだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月27日付)は、「米欧、ウクライナ支援強化 ロシア関税収入を充当」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国首脳会議(G7サミット)は26~27日にかけてウクライナ情勢を議論し、追加軍事支援や復興に向けた財政支援の強化で一致した。東部ルガンスク州の制圧が迫るなか、ウクライナ側に必要な支援を提供できるかどうかが戦況を左右する。

     


    (1)「G7は27日、ウクライナ支援に関する声明を発表し、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。日米などは貿易上の優遇措置を保証する「最恵国待遇」の対象からロシアを外しており、これで引き上げた関税を有効活用する。軍事支援では米政府がサミット直前の23日、高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基を含む4億5000万ドル(約600億円)相当の武器の追加供与を承認した。侵攻開始以来、米国のウクライナ向け武器支援は総額61億ドルにのぼる。英国とドイツも多連装ロケット発射システム(MLRS)の供与を決め、支援兵器は大型化している」

     

    G7各国は、対ロシア貿易の関税収入をウクライナ支援に充当することを決めた。これにより、一定の資金がウクライナ側で確保できる。米国は、支援兵器の大型化に乗出している。

     


    (2)「ウクライナ政府は兵器支援拡大を求めるが、足元で到着したのは要請の1割程度だと訴える。G7は29~30日にある北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の議論も踏まえ追加軍事支援を急ぐ。ゼレンスキー大統領は侵攻による打撃で毎月50億ドルの財政支援が必要だと訴える。破壊されたインフラの被害額は1000億ドルに達するとの試算もある。G7は通常の財政支出だけでなく、様々な手段でウクライナへの資金支援を検討する。対ロシア貿易の関税収入の活用はその一つだ」

     

    ウクライナが受けたインフラ被害は、すでに1000億ドルに達している。このほか、ウクライナは毎月50億ドルの財政支出が必要としている。この資金調達の一環として、ウクライナは人口流出と工場の操業ストップで電力供給が過剰になっているので、欧州へ販売する件も検討されている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)によれば、年間16億ドル程度の利益が得られるという。それでも、約10日分の財政支出を賄えるだけだ。

     

    (3)「米国や欧州連合(EU)では、制裁で凍結したロシア政府やオリガルヒ(新興財閥)の資産を、ウクライナ復興に充当する案が浮上する。ただ国際法に合致した枠組み作りのハードルは高い。今回のG7サミットでも「打開策は簡単には見つからない」(EU関係者)との見方が強い。英王立防衛安全保障研究所のマリア・ニツェーロ氏は、「私たちは法の支配の原則に沿って凍結資産の没収や支援への充当を考える必要がある。特に(各国中銀にある)ロシアの外貨準備を没収するのは難しい」と指摘する」

     

    ウクライナ復興でロシアの凍結資産を流用する問題は、法的にもかなり難しい面がある。とりわけ、ロシアの外貨準備を没収することは困難であるとしている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月25日付)は、「NATO戦略概念で『ウクライナ評価を』同国高官」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に対し、同国が欧州の安全保障で中心的な役割を果たしていると29~30日にマドリードで開かれるNATO首脳会議で評価するよう求めている。取材に応じたウクライナ政府高官が明らかにした。NATOは首脳会議で、戦略概念の改定を議論する。

     

    (4)「ウクライナのジョウクヴァ大統領府副長官兼大統領顧問(外交担当)は、ウクライナが侵攻してきたロシアと戦っている事実を考慮し、NATOの戦略目標の文書「戦略概念」にウクライナが欧州安保の「基盤」だと明記すべきだという考えを示した。ジョウクヴァ氏は、ウクライナは戦略概念を改定する議論に直接参加するわけではないが、NATOに加盟する各国に同国の提案を伝えている」

     

    ウクライナは、自国の運命をNATOに託している以上、ウクライナの立場をNATOの「戦略概念」に明記してくれるように求めている。大国ロシアを前に、ウクライナが国家主権を守るべく必死である。

     


    (5)「ジョウクヴァ氏は、「NATO各国が欧州やウクライナの現状を明記しなければ、この文書の内容は実態からかけ離れてしまう」と主張した。現行の戦略概念は2010年に改定された。欧州の安保体制の整備に向けた多くの目標の一つとして、ウクライナとの協力態勢を強化していくと明記した。背景にあるのは08年にルーマニアの首都ブカレストで開いたNATO首脳会議がウクライナの加盟を歓迎すると判断した事実だ。ウクライナは近い将来のNATO加盟が現実的でないと認識しているが、NATOにウクライナとの協力姿勢を再確認するよう要求している」

     

    現行の「戦略概念」では、ウクライナとの協力態勢を強化すると明記していた。次の「戦略概念」でも、引き続きウクライナとの関係強化を訴えているもの。このウクライナの要請によって、国運の保護をNATOに要請せざるを得ない土壇場の苦衷が伝わる。

     

    (6)「ジョウクヴァ氏は、NATOが改定する戦略概念で、ロシアを「パートナー」と言及している部分をすべて削除するようにも求めている。現行の戦略概念で、NATOはロシアとの「真の戦略的パートナーシップ」を目指し、NATOとロシアの協調は戦略上重要だと指摘している。ジョウクヴァ氏は「(新たな)戦略概念では侵略者ロシアへの警告をもっと強めてほしい。加盟国はひるむことなく、ロシアに対抗する規定をまとめてほしい」と注文をつけた」

     

    このパラグラフから言えば、NATOはロシアを敵対視せずに話し相手として位置づけていたことが分る。NATOは、ロシアを刺激しない文言であったのだ。それにも関わらず、ロシアは敢えて曲解した形で、ウクライナ侵攻に走ったことが浮き彫りになっている。それだけに、裏切られた形のウクライナは、ロシアへ厳しい言葉で対抗するように求めているのだろう。

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