中国の習近平国家主席は10月18日、一帯一路事業10年記念のフォーラムを北京で開催した。習氏はこの席で、「中国が追求するのは独善的な現代化でなく、多くの新興国とともに現代化を実現していく」と理解を求めた。これまでの10年間は、国際高利貸し的な振舞で担保の差し押さえなど強引に行ってきた。それだけでなく、9カ国をデフォルトに追込むという爪痕を残している。
中国は、一帯一路事業で反省を余儀なくされたが、次なる手法は自国の経済安全保障重視に切り替える。具体的には、中東とアフリカの地域に焦点を絞り原油確保に動き出すとみられることだ。すでに、次に述べるような「先手」を打っていることからも明かであろう。
中国はこの8月、アフリカ諸国の首脳対話を南アフリカのヨハネスブルクで開いた。中国は、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国をまとめて発言力を高め、米欧への対抗姿勢を示す思惑を表面化させた。「一帯一路」の活路を、アフリカに見いだしたいという思惑であったのだ。
『日本経済新聞 電子版』(10月18日付)は、「習氏、『一帯一』質への転換強調 判断軸に経済安保も」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席は18日、広域経済圏構想「一帯一路」をめぐり、質の高い投資を推進する方針を示した。かつて規模を優先し焦げ付きが急増したことなどを背景に、路線を修正した格好だ。習氏が重視する経済安全保障も判断の軸に据え、投資効率を高める戦略とみられる。
(1)「習氏は、4年ぶり3回目の開催となる一帯一路の首脳会議で基調演説した。同構想を主導する中国として取り組むべき8項目を挙げた。参加国への投資で量から質への転換をめざす。小規模で優れた民生プロジェクトなど「現実的で、実りある協業を進めていく」と訴えた。インフラやエネルギー、交通などの案件で、環境に配慮したグリーン投資を促進する、などだ」
中国の新たな「一帯一路事業」8本の柱は、すっかり小規模になっている。この裏には、中国経済の急減速が大きな影を落としている。もはや、資金が続かないのだ。
(2)「習氏は2013年に、一帯一路の構想を表明した。当初は、豊富な資金力で参加国への投資規模を膨らませた。誤算は、新型コロナウイルス禍で新興国経済が疲弊したことだ。中国からの融資は、焦げ付きが急増した。米調査会社ロジウム・グループによると、20〜22年に融資条件の再交渉などに応じた事実上の不良債権は17〜19年の4.5倍に膨らんだ。問題債権の累増に伴い、外貨の融通など資金援助せざるを得ない例も少なくない。こうした中国にとっての負担が、質への重視に軌道修正する一因とみられる」
中国は、過去10年間の一帯一路事業で、約1兆ドルを投入した。多くの焦付け債権を出している。自己資金だけでなく借入金の又貸しという危ない橋も渡っている。こういう事情で、戦線は大幅に縮小せざるを得なくなったのだ。事実上の「敗北」である。
(3)「習氏は演説で、参加国との連携を深めていく方針も強調した。「中国が追求するのは独善的な現代化でなく、多くの新興国とともに現代化を実現していくということだ」と理解を求めた。中国は参加国との貿易を拡大させてきたが、貿易で稼ぐ恩恵は中国側に偏っていた。参加国との貿易に限った中国の黒字は、23年1〜8月に2000億ドル(約30兆円)を突破した。貿易黒字全体の4割を稼ぐまでになった。参加国からみれば、中国市場へのアクセス拡大といった期待は薄れている。習氏は演説で、製造業の外資規制を緩和する地域を国内に設けると打ち出した。参加国を中国市場に引き込み、求心力を保ちたいとの思惑が見え隠れする」
下線部は、完全な「敗北宣言」である。自己反省の弁であるのだ。国際高利貸しまがいの振舞を反省したようにもみえる。中国は、一帯一路相手国との貿易で一方的な貿易黒字を出している。最初の触れ込みでは、中国が大いに輸入すると宣伝した。現実には、輸入で難癖をつけて市場開放しなかったのだ。
(4)「中国は、米国との対立が先鋭化するなか、一帯一路の投資基準としてより重視されそうなのが経済安保だ。エネルギーの安定調達に欠かせない中東への投資は、戦略的な重要性が高い。原油の海外依存率が、10年前の6割弱から7割強に高まるなか、中東が輸入全体に占める比率は約半分。中国が環境対応から輸入を拡大する液化天然ガス(LNG)の調達も増える。米アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)によると、中国の一帯一路投資のうち中東・北アフリカ向けは22年、26%を占めた。サハラ砂漠以南や西アジア向けを逆転した。中国石油大学の孫仁金教授は、中国メディアに「一帯一路で中国と中東のエネルギー協力は活発になっている」と述べた」
中国は、一帯一路事業も焦点を中東とアフリカへ絞っている。原油の確保が目的である。この事実からも、一帯一路事業は大幅に縮小されたというほかない。大言壮語に資金が続かなくなって来たのだ。