勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: NATO経済ニュース時評

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    トランプ氏が、今秋の米大統領選で復帰するかどうか。当の米国よりも米同盟国が警戒姿勢を滲ませている。これまでは、「もしトラ」であったが、「ほぼとら」というほどの警戒音を高めている。だが、トランプ氏が大統領へ当選するには大きな壁が立ちはだかっている。これまで集めた選挙運動資金は、裁判費用に大方使い果したという報道も出ている。米共和党の本流が、どこまでこの破天荒なトランプ氏を支持するのか。投票箱を開けてみるまでは分らないのだ。

     

    『毎日新聞』(2月17日付)は、「ウクライナ、独仏と安保協定締結 10年間軍事支援 戦局好転狙う」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は2月16日、ドイツとフランスを訪問し、長期的な軍事支援を確保するための2国間の安全保障協定をそれぞれと結んだ。昨年7月に主要7カ国(G7)が提示した国際的な枠組みに基づく協定となる。ウクライナ軍はロシアの侵攻に対し、東部の要衝アブデーフカから撤退するなど苦戦を強いられており、支援を戦局の好転につなげたい考えだ。

     

    (1)「ゼレンスキー氏はこの日、ベルリンでショルツ独首相と会談し、同国との安全保障協定を締結した。協定の期間は10年。ドイツはウクライナに現在進行中の軍事支援を続けるとともに、将来的な攻撃への抑止力を強化するための装備近代化に協力する。ショルツ氏はゼレンスキー氏との共同記者会見で、約11億ユーロ(約1780億円)の追加軍事支援を提供することも発表した」

     

    ゼレンスキー氏は、ドイツ首相と10年間の安全保障協定を締結した。トランプ氏が、米大統領に復帰すれば、どのような事態が起こるか分らない以上、最悪に事態に備える。

     

    (2)「この後、ゼレンスキー氏はパリを訪問。マクロン仏大統領と会談し、フランスとの2国間の安全保障協定にも署名した。仏大統領府によると、協定でフランスはウクライナに武器や訓練を提供するほか、2024年に最大30億ユーロの追加軍事支援を行うことを約束した。協定の効力はドイツと同じ10年間となる。ゼレンスキー氏はマクロン氏との共同記者会見で「野心的かつ極めて実質的な安全保障協定だ」と語った」

     

    ゼレンスキー氏は、フランスへマクロン氏を訪問して10年間の安全保障協定を結んだ。ドイツと同じ内容である。欧州の安全保障は、NATO未加入のウクライナに対しても行うという強い決意である。

     

    (3)「G7は昨年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、長期安全保障の国際的な枠組みを提案する共同宣言を発表した。NATOは原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため枠組みでは、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図る。すでに英国も同様の協定に署名しており、これで英独仏の欧州主要3カ国が締結した」

     

    NATOは、原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図るものだ。すでに、英国もウクライナと2国間協定を結んだ。これで、仮に「ほぼトラ」でトランプ氏が復帰して、かき回してもウクライナ支援が空洞化しないように手を打ったところだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「EUがウクライナ支援を強化」と題する社説を掲げた。

     

    欧州連合(EU)の加盟国首脳は1日、ウクライナに540億ドル(約7兆9000億円)相当の金融支援を提供することで合意した。この支援パッケージは、欧州が応分の貢献をしていないと常日頃主張している、米共和党内の対ウクライナ追加支援反対派への非難ともいうべきものだ。

     

    (4)「支援の詳細確定には欧州議会の承認が必要だが、現在の案によれば540億ドルの支援は融資と無償資金援助で構成され、今後2027年までの期間に分割で実施する。ハンガリーのビクトル・オルバン首相が支援策に反対していたが、EU加盟国はこの問題を克服し、結局は全会一致で支援策を支持した」

     

    EUが、トランプ氏の過激な発言に刺激され、ウクライナを自力で守らなければならないという結束力を強めている面もあろう。米国が支援しなければ、「ウクライナ敗北」となり、ロシアに新たな口実を与えるようなものになる。

     

    (5)「支援のうち420億ドル余りは、ウクライナ政府が年金や教員給与といった基本的なものへの歳出によって機能を維持するのに役立てる。また、重点産業のリスクをカバーする特別投資措置の87億ドルも盛り込まれている。こうした支援はウクライナが生き残りをかけたロシアとの戦いを継続できるようにする点で、EUの戦略上の目的にかなう。ウクライナは今年、400億ドル超の予算不足に直面しており、同国の経済全般が破綻すれば防衛を続けることは一段と難しくなる」

     

    ウクライナ財政を支援する形だ。ウクライナ経済が、侵攻によって破綻に瀕している以上、これを支えなければ、新たな国が同様な憂き目に遭いかねないからだ。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍への総反攻作戦開始前に、G7広島サミットへ対面出席して引き続き「強力支援」を得ることになった。だが、今回の作戦ですべてが終わる訳でなく、永続的な安全保障政策が必要になっている。ロシア軍と今後、「停戦」する場合でも、いつロシアの侵攻が始まるか分らないという不安定な状態が続く。

     

    そこで、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)へ加盟するまで時間がかかることから、「イスラエル型安全保障政策」が浮上している。イスラエル型は、特別の条約は存在しないものの、米国が軍事支援するスタイルである。ウクライナへも、NATOがこれと同じ形の軍事支援を行うというものだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月22日付)は、「ウクライナに『イスラエル型安全保障』西側が検討」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ情勢が重大な局面を迎える中、米国と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の指導者らはウクライナの防衛力を強化し、主権を保証するためのビジョンをまとめている。イスラエルをモデルとした安全保障の提供だ。

     

    (1)「ウクライナではここ数カ月、激戦地の東部バフムトに関心が集まっていた。しかし、ロシアの民間軍事会社ワグネルが週末にバフムトの掌握を宣言し、より広範な課題に注意が向けられるようになっている。どうすればウクライナをロシアの武力行使に対する防波堤に変えることができるか、という問題だ。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに対し、イスラエル型の安全保障協定では、ウクライナへの武器移転や先端技術の提供を優先することになると述べた。事情に詳しい西側諸国の当局者によると、協定はウクライナの将来的なNATO加盟に向けたプロセスと連動するが、NATOをロシアとの紛争の当事者にするものではないという」

     

    ウクライナが、NATOへ加盟するまでには手続きでかなりの時間を必要とする。そこで、その空白期を埋めるべく、NATOが軍事支援する。これには先例がある。イスラエルが、条約はないものの米国から軍事支援を受けているからだ。

     

    (2)「ポーランドは、ウクライナに侵攻したロシアに対して最も強硬な姿勢を示している国の一つ。ドゥダ氏は「この件に関する議論は今まさに行われている」と語った。安全保障協定に基づいてウクライナに移転される武器や技術について具体的には言及しなかった。ただポーランドはすでに同国へ旧ソビエト製のミグ29戦闘機やその他の防衛装備品を提供している。また、先週開催された先進7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)では、ジョー・バイデン米大統領が各国首脳に対し、米国がウクライナ軍にF16戦闘機の操縦訓練を提供する考えを伝えた」

     

    米国は、欧州各国がウクライナへ米国製戦闘機F16の供与を認めた。これは、長期的なウクライナ防衛を目的にしたものだ。ウクライナが、自国の制空権を守るために、F16が不可欠という認識である。

     

    (3)「ドゥダ氏によると、バイデン大統領が2月にポーランドを訪問した際、イスラエルをモデルとした安全保障について協議した。7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議の議題の一つとして、構想は西側同盟国の支持を集めつつあるという。事情に詳しい関係者によれば、安全保障協定はこれまでに提案されている「キーウ安全保障協定」を下敷きとしたもので、NATO首脳会議後に署名される見通しだ。ある米政府関係者によると、イスラエルモデルの安全保障協定を巡る議論は、ウクライナがすぐにNATOへ加盟できないことを認識した上で、同国の安全保障問題の核心に対処する方策として浮上した」

     

    ウクライナとの「安全保障協定」は、近く開かれるNATO首脳会議後に結ばれるという。すでに、議論は煮詰まっているのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は、7月に首脳級の和平サミットの開催を呼びかけたが、この「安全保障協定」の調印を意味するのかも知れない。

     

    (4)「イスラエルはNATOに加盟しておらず、米国とは条約に基づく法的な同盟関係にない。しかし、長年にわたり米国との特別な関係を享受しており、第二次世界大戦以降、米国の海外援助の最大の受益国となっている。米国の対イスラエル援助は10カ年計画に基づき実施しており、直近では2019年から28年までに380億ドル(約5兆2600億円)の軍事支援を約束している」

     

    ウクライナは当面、イスラエル型の安全保障政策で軍事支援の長期安定化を目指すことになる。これで、ウクライナも安定して軍事作戦が可能になろう。

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    ドイツは、自国製戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与する問題で逡巡してきたが、米国も主力戦車「エイブラムス」を提供するとの合意を得て最終決定した。改めて、米国の存在がいかに大きいかを世界に見せつけることになった。ドイツは、ロシアとの関係がさらに悪化することを恐れ、米国が戦車を供与すればドイツも行なうと、米国の影に隠れたのである。

     

    もっとも、ドイツには第二次世界大戦中、欧州を戦乱に巻き込んだ負い目がある。その古傷が、ドイツ戦車が戦場に再び登場することでうずく、という心理的負担を抱える。このトラウマが、米国の戦車提供で薄められるというのである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月25日付)は、「対ウクライナの戦車供与、米国の影に隠れた欧州」と題する記事を掲載した。この記事は、ドイツがウクライナへ戦車供与を正式決定する直前に執筆され、その舞台裏が明らかにされている。

     

    ドイツが自国製戦車の供与になかなか同意しないことに対し、多くの欧州諸国が不満を募らせているのは、ドイツ製戦車が戦場において有用なだけでなく、ドイツの姿勢により、ウクライナ戦争への欧州の対応が米国に左右される度合いが高まっていることも理由だ。

     

    (1)「オラフ・ショルツ独首相は何週間もの間、米国がまず米軍の主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与すれば、ドイツは自国製戦車「レオパルト2」を引き渡すと主張してきた。米国が供与を行えば、ロシアが反発しても、ドイツへの怒りはより抑制されることになると独政府は説明していた。あるドイツ高官によると、独政府は米国との合意が発表され次第、約14台の「レオパルト2」をウクライナに供与すると約束するほか、ポーランドなどの国々が申請しているウクライナへのドイツ製戦車の引き渡しを製造国として承認する意向だ」

     

    ドイツとロシアは、皇帝時代から密接な関係にあった。ロシア官僚として、多くのドイツ人が勤務した歴史がある。ショルツ・ドイツ首相が、ウクライナへ戦車を提供するにはそれなりの戸惑いがあったのであろう。ロシアから恨みを買いたくなかったのだ。

     

    (2)「こうしたエピソードは、西側同盟国の間で不満を引き起こした。英国・ポーランド・エストニアなど他の欧州諸国は、欧州には米国の後ろに隠れる余裕はないとの立場を示している。米国はウクライナに対する軍事援助を拡大しているが、エイブラムスはウクライナが必要とするものではないと述べている。エストニアの首都タリンにあるシンクタンク、国際防衛安全保障センター(ICDS)のクリスティー・ライク副所長は「欧州諸国の米国依存は懸念すべき状態だ」と指摘。「幾つかの国はこれに気付き始めている」と述べた」

     

    ポーランドやエストニア三国は、歴史的にロシアに苦杯を舐めさせられてきた関係にある。ロシアへは、独仏と違った被害者意識を持っているのだ。それだけに、ドイツの逡巡する姿勢に強い違和感を示してきた。欧州が防衛面でまとまるには、ドイツのように米国の影に隠れる事態が水を差す、と批判的である。

     

    (3)「英当局者によると、同国政府は今月に入り、他の欧州同盟国にウクライナ支援の強化を促すため、ウクライナに戦車「チャレンジャー2」の一群と追加の大砲を供与することを決めた。西側諸国が軍事支援を加速しない限り、流血を伴う長いこう着状態が続く恐れがあることを理由に挙げた。英当局者は、バイデン大統領が十分な超党派の支持を得られず、今年の秋以降に米国の軍事支援が滞る恐れがあることを心配している。共和党議員の一部はウクライナ支援に何十億ドルもの資金を費やすことに批判的だ」

     

    英国は、米国の国内政治情勢の変化に懸念を持っている。共和党議員の一部に、ウクライナ支援に批判的意見の集団が存在することである。それだけに、いつまでも米国の傘に入っていることは、ウクライナ支援で結束を弱める結果になるとしている。戦争を長引かせないためには、欧州のさらなる結束が必要という立場だ。

     

    (4)「こうした背景の下、北欧と東欧の多くの国々は、ドイツがより積極的なウクライナ支援をためらう態度を繰り返し示していることに憤っている。こうしたドイツの姿勢は、欧州の軍事防衛と対ロシアの政治的指導力という点で、欧州が米国依存を深めるという意図せぬ結果を招いている。ウクライナへの兵器や弾薬の供給量では、米国が欧州諸国を優に上回るものの、ドイツは自国が英国と並ぶ最大の供給国の一つだと指摘している」

     

    ドイツは、欧州最大の経済大国である。そのドイツが、米国の影に隠れてロシアの風当たりを防ごうというやり方をしている。北欧と東欧の多くの国々は、こういったドイツに批判的である。

     

    (5)国際舞台で欧州が一層の自立をはかるという面で、仏独両国が主導的役割を果たし得るとの認識も、ウクライナ戦争によって脇に追いやられてしまった。仏独の対ウクライナ兵器供与に関する慎重な対応や、和平合意に向けたロシアのウラジーミル・プーチン大統領への外交的働き掛けといった行動を受けて、NATO諸国内で地理的にロシアと近接するポーランド、バルト諸国などは仏独に対する長年の不信感をさらに強めている」

     

    ドイツは、ウクライナ侵攻後の対ロシア外交を頭に描いているのであろう。経済的利益の復活である。これは、早急に復活するとは思えない。NATO全体が、ロシア戦略をどのように描くかという構図に関わるからだ。北欧や東欧が、ドイツと対立しそうである。

     

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    ロシアは、明日の展望が全く見えない中でウクライナ軍と戦う羽目に陥っている。ロシア中央銀行のザボトキン副総裁は11日、9月末時点で国内の経済活動が大幅に鈍化したと発表。わずかに、動員された兵士への支払いで個人消費への悪影響が和らぐとの見方を示したほど。ロシア経済の実態が深刻な事態になってきた。

     

    『ロイター』(10月12日付)は、「ロシア、精密誘導弾薬の大部分枯渇 制裁が圧迫ーNATO高官」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナ侵攻で使用している精密誘導弾薬のかなりの量を使い果たしていると、北大西洋条約機構(NATO)高官が12日、明らかにした。

     


    (1)「西側諸国の制裁によって、ロシア軍需産業はあらゆる種類の弾薬や兵器システムを生産できない状況に追い込まれているという。また、ロシア政府が30万人の兵士を動員するのにどの程度の時間を要するかは不明としつつも、数カ月かかる可能性があるという見方を示した」

     

    ロシア中央銀行のザボトキン副総裁は、ロシア経済が9月末に急速な悪化を見せ始めていると発表したが、軍需産業であらゆる種類の弾薬や兵器システムを生産できない状況に追い込まれていることも大きな要因だ。精密誘導弾薬のかなりの量を使い果たしているにも関わらず、補充できない局面に遭遇している。これでは、ロシアは戦争継続が困難になったことを意味する。

     

    こうしたロシアの苦境を救うべく、ロシアの同盟国であるベラルーシは今週に入り、ロシア軍と共にウクライナとの国境沿いに部隊を配備すると発表した。これについてウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナにはベラルーシを攻撃する計画はないとした上で、ベラルーシからの脅威がないことを確認したいとし、G7に対し、ベラルーシとの国境沿いに治安状況を監視するための国際監視団を派遣する計画を支持するよう要請した。

     


    『日本経済新聞 電子版』(10月12日付)は、「米欧、ウクライナ防空能力増強を支援 ロシアの攻撃激化」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアによるウクライナへの攻撃激化を受け、米欧はウクライナへの兵器供与を拡充する。12日に北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心にした会合を開き、防空システムの追加配備などウクライナの自衛力強化を討議した。

     

    (2)「NATOは12~13日にベルギーの首都ブリュッセルで国防相理事会を開催する。合わせて米政府が主催するウクライナ支援国会合には50カ国ほどが参加する予定だ。NATOに加盟申請しているフィンランドやスウェーデンも加わる。ロシアがウクライナ各地にミサイル攻撃をしかけたことを踏まえ、両会合の優先議題はウクライナへの防空システムの提供になる。ロシアは10、11日、ウクライナに100発超のミサイルを発射したもようだ。ウクライナ側は半数以上を撃墜したとしているが、電力施設や住宅などが被害を受けた」

     

    NATOは、未加盟のウクライナへ全面支援体制を組む。米国が中心となり50ヶ国が一団となってウクライナへの防空システム提供問題をとり上げる。

     


    (3)「オースティン米国防長官は12日、「安全保障支援や訓練の取り組みは不可欠だ。我々は最も差し迫った自衛力の向上にリアルタイムで応え続け、今後数カ月、数年にわたり、有効な能力を提供していく」と表明した。オランダ国防省は12日、ウクライナの防空支援のため、1500万ユーロ(約21億円)相当のミサイルを援助すると発表した。会合には、ウクライナのレズニコフ国防相が参加し、防空システムや精密誘導弾などの支援に加え、訓練手法についても話し合った」

     

    米国防長官はウクライナへ今後、数ヶ月、数年にわたり有効な自衛能力を提供すると約束した。

     

    (4)「ウクライナのゼレンスキー大統領は11日の主要7カ国(G7)首脳とのオンライン協議で「ウクライナが十分なだけの、近代的で効果的な防空システムを受け取れば、ロシアのロケット攻撃は機能しないだろう」と訴えた。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11日、7月に譲渡を決めた中距離の地対空ミサイルシステム「NASAMS」2基が近くウクライナに届くメドが立ったと明かした。米国はさらに6基のNASAMSを送る計画だ」

     

    「NASAMS」は、米国のホワイトハウスや米議事堂の防空システムとして設置されている最新防空システムである。当面は2基を、さらに6基をウクライナへ送る計画だ。

     


    (5)「ウクライナへの兵器供与を続けるNATOは、加盟国が在庫を積み増したり、補充したりする必要に迫られている。戦争が長引くほど、在庫の補充が重要になるとして、産業界と生産拡大に向けた議論に入っている。12日からの国防相理事会ではどういった兵器がどのくらい必要かを話し合い、産業界が投資しやすくなるように一定の目安を示すことを視野に入れる。共同購入にも踏み込む見通しだ。共同で調達すれば、価格交渉力が増す一方、加盟国間の運用性も高まる」

     

    NATO各国も、在庫補充が問題になってきた。共同購入してコスト切下げも検討するという。長期にわたるウクライナ支援体制を組む。

     

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    30年までに空母5隻体制も

    経済は軍拡に耐えられるのか

    近海防衛から海外攻撃を狙う

    同盟なしは始皇帝以来の外交

     

    中国は6月、3隻目の空母「福建」(総排水8万トン)を進水させた。これで、「遼寧」、「山東」(共に総排水6万トン)と比べて、一回り大型の空母となった。

     

    「福建」は、艦載機を発射させる上に必要なカタパルト(発射機)で電磁式を採用した。米空母に次ぐ新機軸である。これまでの先行2空母は、いずれもスキー・ジャンプ台のような傾斜を利用したものだ。この変形から脱して、艦載機は平面甲板から飛び立てるようになる。

     

    空母は、移動する基地と称せられている。中国空母は、「福建」を含めて通常動力(エンジン採用)である。定期的に燃料補給を受けなければならない。戦闘中に、そういう事態になれば、海上で補給を受けるしかない。それを敵機に妨害されれば、「海上の浮遊物」になる恐れが生まれる。空母は、見る姿は威風堂々としているが、戦場においては潜水艦やミサイルの攻撃対象になって、厄介な存在になるのだ。

     


    「福建」は、前記の通り電磁波カタパルトを採用しているが、大量の電力を消費する点でマイナス要因である。それだけに、通常動力の空母での使用時間に限りがある。こういうリスクを抱えるカタパルトを採用する目的はなにか。軍事専門家は一様に首を捻るのだ。最近、浮かび上がったのは、電磁波カタパルトを使って、ドローンを一時に大量に飛ばすのでないかというのだ。

     

    2019年7月、暗闇に包まれた米カリフォルニアの海岸線から100マイル(約160キロメートル)も離れていない場所で、4つから6つほどのドローン集団が、米海軍の艦船を追跡する事件が起こった。ドローン集団が、船首の上を旋回しながら帰投したのだ。その後の米海軍の調査で、付近を航行した船舶は、香港を旗艦とするパシフィック・ベイスンが所有・運航していたものと判明。つまり、中国軍と密接な関係を持つ船会社所有の船舶であった。

     

    中国が、空母を使って複数の無人航空機(UAV)を大量に飛び立たせ、敵を攻撃するのが「コスパ」から見て得策なのか。極めて疑問である。空母は、一隻で行動するものでない。潜水艦・巡洋艦・駆逐艦など「打撃群」を擁する空母部隊の編成が必要になる。こういう点から考えると、中国がどういう軍事戦略なのか、謎が深まるばかりである。

     


    30年までに空母5隻体制も

    米インド太平洋軍は、中国が2025年までには4空母を建艦すると見る。英防衛関連の情報筋は2030年までに空母5隻を抱えると予測するという。最終的には6~10隻に増強するというのが専門家の一致した見方で、保有空母11隻と世界最多を誇る米国を追い上げると見ている。

     

    米国の空母は、すべて原子力空母である。23年に一度、核燃料を交換すれば済む。中国は、通常動力であって頻繁に燃料補給を必要とする。この米中における空母の動力源を比較しただけで、中国が米国とまともに戦えないことは明白だ。

     

    米国空母には100年の歴史がある。中国は、「遼寧」の就役が2012年、「山東」が同19年である。「福建」の就役は2028年以降と見られる。「遼寧」と「山東」はテスト用空母だ。まだ、両空母の経験を「福建」に生かすという段階である。ヨチヨチ歩きが始まった段階である。

     


    中国は、空母を持ったと言っても形ばかりだ。実戦経験ゼロの状態である。米海軍は、太平洋戦争で日本海軍と死闘を繰り広げた経験を持つ。しかも今回は、その死闘を演じた旧日本海軍の経験を、100%受け継ぐ海上自衛隊と連携するのだ。日米海軍が、実戦経験ゼロの中国海軍と対峙すればどうなるか。おおよその見当がつく。中国海軍は、手足がすくんでしまうであろう。

     

    実は、無敵と見られている空母にも「死角」が指摘されている。対艦ミサイル攻撃や潜水艦攻撃を受けやすいのだ。武器技術が日進月歩の現在、空母を敵の攻撃からどう守るかという課題が深刻になっている。空母での防空ミサイル開発は、攻撃してくる対艦ミサイル開発よりも技術的に遙かに困難であると指摘されている。空母という限られた空間で、四方八方から飛来するミサイルを瞬時に迎撃するのは神業である。

     

    空母を護衛する中国の潜水艦技術には、いくつかの弱点がある。騒音を海中にまき散らしていることだ。敵艦が、容易にその存在位置を探索できるとされている。日本の潜水艦は静謐そのもので、敵の探索から逃れている。中国潜水艦の真下に、海上自衛隊の潜水艦が潜っているケースもある。

     

    空母が、護衛部隊である「打撃群」を随行させることは、すでに指摘した通りである。その建艦費にどのくらいの資金が必要かである。次の試算例は、ほぼ10年前にされたものだ。その後、年数も経っている現在、コストはさらに高まっているだろう。

     

    米海軍が、空母1隻と艦載機、護衛・補給艦船からなる空母部隊を新たに整備するには約300億ドル(現在の為替相場で換算、約4兆円)かかる。加えて人件費や燃料代などに年10億ドル(同、約1300億円)が必要と見積もられていた。艦船の機能高度化などに伴い、現在のコストは一段と上昇している筈だ。

     

    空母一隻と打撃群の初期投資に300億ドル。それにランニングコストで年間10億ドルを必要とすれば、中国が、2025年までに4空母を、2030年までに5空母を抱えると予測すれば、大変な財政負担は間違いない。5空母体制になれば、あと2隻分で600億ドル(約8兆円)以上、ランニングコストで年間50億ドル以上がかかる計算だ。(続く)

     

    次の記事もご参考に。

     

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