ドイツは、自国製戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与する問題で逡巡してきたが、米国も主力戦車「エイブラムス」を提供するとの合意を得て最終決定した。改めて、米国の存在がいかに大きいかを世界に見せつけることになった。ドイツは、ロシアとの関係がさらに悪化することを恐れ、米国が戦車を供与すればドイツも行なうと、米国の影に隠れたのである。
もっとも、ドイツには第二次世界大戦中、欧州を戦乱に巻き込んだ負い目がある。その古傷が、ドイツ戦車が戦場に再び登場することでうずく、という心理的負担を抱える。このトラウマが、米国の戦車提供で薄められるというのである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月25日付)は、「対ウクライナの戦車供与、米国の影に隠れた欧州」と題する記事を掲載した。この記事は、ドイツがウクライナへ戦車供与を正式決定する直前に執筆され、その舞台裏が明らかにされている。
ドイツが自国製戦車の供与になかなか同意しないことに対し、多くの欧州諸国が不満を募らせているのは、ドイツ製戦車が戦場において有用なだけでなく、ドイツの姿勢により、ウクライナ戦争への欧州の対応が米国に左右される度合いが高まっていることも理由だ。
(1)「オラフ・ショルツ独首相は何週間もの間、米国がまず米軍の主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与すれば、ドイツは自国製戦車「レオパルト2」を引き渡すと主張してきた。米国が供与を行えば、ロシアが反発しても、ドイツへの怒りはより抑制されることになると独政府は説明していた。あるドイツ高官によると、独政府は米国との合意が発表され次第、約14台の「レオパルト2」をウクライナに供与すると約束するほか、ポーランドなどの国々が申請しているウクライナへのドイツ製戦車の引き渡しを製造国として承認する意向だ」
ドイツとロシアは、皇帝時代から密接な関係にあった。ロシア官僚として、多くのドイツ人が勤務した歴史がある。ショルツ・ドイツ首相が、ウクライナへ戦車を提供するにはそれなりの戸惑いがあったのであろう。ロシアから恨みを買いたくなかったのだ。
(2)「こうしたエピソードは、西側同盟国の間で不満を引き起こした。英国・ポーランド・エストニアなど他の欧州諸国は、欧州には米国の後ろに隠れる余裕はないとの立場を示している。米国はウクライナに対する軍事援助を拡大しているが、エイブラムスはウクライナが必要とするものではないと述べている。エストニアの首都タリンにあるシンクタンク、国際防衛安全保障センター(ICDS)のクリスティー・ライク副所長は「欧州諸国の米国依存は懸念すべき状態だ」と指摘。「幾つかの国はこれに気付き始めている」と述べた」
ポーランドやエストニア三国は、歴史的にロシアに苦杯を舐めさせられてきた関係にある。ロシアへは、独仏と違った被害者意識を持っているのだ。それだけに、ドイツの逡巡する姿勢に強い違和感を示してきた。欧州が防衛面でまとまるには、ドイツのように米国の影に隠れる事態が水を差す、と批判的である。
(3)「英当局者によると、同国政府は今月に入り、他の欧州同盟国にウクライナ支援の強化を促すため、ウクライナに戦車「チャレンジャー2」の一群と追加の大砲を供与することを決めた。西側諸国が軍事支援を加速しない限り、流血を伴う長いこう着状態が続く恐れがあることを理由に挙げた。英当局者は、バイデン大統領が十分な超党派の支持を得られず、今年の秋以降に米国の軍事支援が滞る恐れがあることを心配している。共和党議員の一部はウクライナ支援に何十億ドルもの資金を費やすことに批判的だ」
英国は、米国の国内政治情勢の変化に懸念を持っている。共和党議員の一部に、ウクライナ支援に批判的意見の集団が存在することである。それだけに、いつまでも米国の傘に入っていることは、ウクライナ支援で結束を弱める結果になるとしている。戦争を長引かせないためには、欧州のさらなる結束が必要という立場だ。
(4)「こうした背景の下、北欧と東欧の多くの国々は、ドイツがより積極的なウクライナ支援をためらう態度を繰り返し示していることに憤っている。こうしたドイツの姿勢は、欧州の軍事防衛と対ロシアの政治的指導力という点で、欧州が米国依存を深めるという意図せぬ結果を招いている。ウクライナへの兵器や弾薬の供給量では、米国が欧州諸国を優に上回るものの、ドイツは自国が英国と並ぶ最大の供給国の一つだと指摘している」
ドイツは、欧州最大の経済大国である。そのドイツが、米国の影に隠れてロシアの風当たりを防ごうというやり方をしている。北欧と東欧の多くの国々は、こういったドイツに批判的である。
(5)「国際舞台で欧州が一層の自立をはかるという面で、仏独両国が主導的役割を果たし得るとの認識も、ウクライナ戦争によって脇に追いやられてしまった。仏独の対ウクライナ兵器供与に関する慎重な対応や、和平合意に向けたロシアのウラジーミル・プーチン大統領への外交的働き掛けといった行動を受けて、NATO諸国内で地理的にロシアと近接するポーランド、バルト諸国などは仏独に対する長年の不信感をさらに強めている」
ドイツは、ウクライナ侵攻後の対ロシア外交を頭に描いているのであろう。経済的利益の復活である。これは、早急に復活するとは思えない。NATO全体が、ロシア戦略をどのように描くかという構図に関わるからだ。北欧や東欧が、ドイツと対立しそうである。