勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: NATO経済ニュース時評

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    米欧の政治家や識者の間では、第2次世界大戦の直前の状況に、現状が似てきたという指摘が広がっているという。ウクライナでは、ロシアによる侵略が続き、欧州にも準戦時ムードが漂っている。アジアでも朝鮮半島や台湾海峡、南シナ海の緊張が高まっている。中ロが手を結んで西側諸国へ戦いを挑むという説に現実性はあるのか。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月2日付)は、「2026年に世界は同時戦争を防げるか 第2次世界大戦の直前に類似」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙のコメンテーター秋田浩之氏である

     

    約80年続いた戦後が終わり、世界は「戦間期」に入った。ウクライナではロシアによる侵略が続き、欧州にも準戦時ムードが漂う。アジアでも朝鮮半島や台湾海峡、南シナ海の緊張が高まる。こうしたなか、米欧の政治家や識者の間では、第2次世界大戦の直前の状況に、現状が似てきたという指摘が広がっている。

     

    (1)「最も懸念されるのがロシアのウクライナ侵略が続き、欧州に戦火が飛び火していくことだ。ウクライナ停戦を実現しようと、トランプ米大統領は8月15日、ロシアのプーチン大統領と米国・アラスカで会談した。詳しいやり取りは一切、公表されていないが、失敗に終わったことは明白だ。会談後の共同記者会見で、プーチン氏はこう力説した。「ウクライナ問題の解決を持続的で長期的なものにするには、危機の根本的な原因をすべて取り除かなければならない」。ウクライナ領土の一部割譲をはじめとする要求を事実上、繰り返したに等しい」

     

    ロシアが、戦線を拡大させるか否かは継戦能力にかかっている。軍事専門家は、戦争だけを取り上げているが、肝心なのは「兵站線」である。安易な戦争拡大論は意味がない。ロシア経済は、「下り坂」である。今後は、大都市での徴兵もしなければならない。反戦論が一挙に高まる。こういう総合論で考察すべき問題である。台湾侵攻も、中国経済の「下り坂」で危機論は収まってきたのだ。

     

    (2)「ロシアは8月下旬以降、停戦実現に水を差すような言動を繰り返している。ウクライナのゼレンスキー大統領とプーチン氏の早期会談について、準備に時間がかかると指摘。停戦後のウクライナへの「安全の保証」に関しても、ロシア抜きの解決に反対する意向を示した。ウクライナの領土をさらに奪い、有利な条件を得るまで侵略をやめない姿勢とみられる。このままウクライナでの戦争が続けば、やがて欧州にも紛争が広がる恐れがある。北大西洋条約機構(NATO)の結束を崩そうと、ロシアが欧州にも攻撃する危険があるからだ。実際、欧州の情報機関の間では、ロシアによるNATO攻撃を警告する分析が相次いでいる」

     

    プーチン氏は、自分の仕掛けた戦争だから止められないだけだ。良い条件が出れば、明日にでも停戦するだろう。ウクライナが停戦しないから、戦線を拡大すればNATOも折れるだろうという駆け引きだ。本当に戦線拡大する経済能力はなくなっている。

     

    (3)「デンマーク国防情報局(DDIS)は25年2月、ロシアが今後5年以内に欧州で「大規模戦争」を起こす可能性を警告した。ドイツの対外情報機関、連邦情報局(BND)のブルーノ・カール長官も同年6月、独メディアに対し、ロシアがエストニアなどに攻撃を仕掛ける危険性を指摘した。考えられるのは全面侵攻ではなく、特殊作戦だ」

     

    ロシアが、エストニアなどに攻撃を仕掛けるのは、全面侵攻ではなく特殊作戦だ。それは、脅しである。この脅しに乗ってはいけない。

     

    (4)「エストニアなどをロシアが攻撃しても、NATOが直ちに集団防衛を発動し、ロシアに反撃することはない。核戦争の危険を冒してまで、ロシアと戦争すべきかどうか、NATO内で意見が割れる。結局、NATOは動けず、結束は失墜する……。仮にロシアがエストニアを攻撃し、NATOが反撃を見送ったとしても、ロシアと欧州が「戦争状態」に突入する可能性がある。対ロ強硬派であるバルト3国や英国、北欧諸国などが有志連合を組み、ロシアに軍事報復することが考えられる」

     

    肝心の米国は、黙ってみているのか。トランプ氏は、「自分が大統領であったなら,ウクライナ戦争を始めさせなかった」と豪語している。今度こそ、ロシアを鎮める番である。

     

    (5)「中朝からみれば、ウクライナでロシア軍が敗北することは受け入れがたい。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は7月、外国要人との会談で「(ウクライナで)ロシアの敗北を見たくない」と漏らした。仮にウクライナで敗北し、ロシアが崩壊したら、中朝は国際社会で深く孤立してしまう。逆にいえば、ウクライナでロシア軍が勝てば、支援国である中朝も勝利することになる。中朝ロの枢軸はさらに深まり、軍事的な結束も強まるに違いない。そうなれば、中朝ロはより強気になり、欧州とアジアの緊張が同時に高まってしまう」

     

    目下、ロシアへの経済制裁が強化されつつある。ロシア経済は、急速に悪化している。冷静に事態をみるべきだ。これまでの日経は、米中が台湾問題で取引する、としてきた。今度は、ロシアの戦線拡大論へすり替わっている。経済問題を抜きにした「戦争論」は、説得力を持てないであろう。

     

     

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    ドイツ自動車業界が、10月29日に発表したレポートによれば、2035年までに自動車業界で14万人が失職する可能性があると指摘した。このレポートは、プログノスがドイツ自動車工業界から依頼を受けて調査したもの。ドイツの自動車業界は、2019年~2023年にかけすでに4万6000人が解雇されている。このペースが続けば、2035年までにさらに14万人の雇用が失われ、合計で19万人近くが失職するとしている。

    このようにドイツ自動車業界は、斜陽化の色彩を強めているが、ドイツ防衛産業が「好機到来」とばかりに自動車業界の解雇者の受入先になっている。NATO(北大西洋条約機構)は、ロシアの脅威に対抗すべく防衛費の対GDP費3%引上げ説が出始めている。こういう流れの中で、防衛産業の拡充気運が強まっている。

    『ブルームバーグ』(12月14日付)は、「ドイツ自動車業界の労働者、防衛企業が受け入れ-チーム丸ごと雇用も」と題する記事を掲載した。

    ドイツ自動車業界の労働者に、救いの手が差し伸べられている。同業界が苦境に立たされ、人員削減をまさに進めようとしている時、防衛産業は雇用を増強している。

    (1)「ミュンヘンに拠点を置くレーダーメーカーのヘンゾルトは、軍事関連の受注急増に対応するため自動車部品会社の2社からチームを丸ごと雇い入れる交渉を進めていると、同社のオリバー・デーレ最高経営責任者(CEO)が明らかにした。雇用するチームの人数は100人に上るケースもあるという。13日にブルームバーグテレビジョンのインタビューに応じたデーレ氏は、「自動車業界の現在の苦境は、われわれにとってはまさにチャンスでしかない」と語った」

    ドイツの防衛産業は、ロシアのウクライナ侵攻後に設備投資に積極的に対応している。

    (2)「デーレ氏によると、今年に入りヘンゾルトは既に約1000人を採用し、ソフトウエアエンジニアから成るチームを加入させることになるという。採用交渉を行っている相手の自動車部品メーカーを明かすことは控えた。ヘンゾルトは来年も同程度の人員増加を見込んでおり、新たな提携やM&A(企業の合併・買収)の可能性に対しても積極的になる計画だと、同氏は述べた。他の防衛企業も労働者を受け入れている。戦車や弾薬を生産するラインメタルは6月、タイヤメーカーのコンチネンタルから最大100人の労働者を雇用する計画だと発表した」

    ヘンゾルトは、25年も1000人規模の採用を予定している。自動車業界の苦境を救う役割を担っている。

    (3)「ウクライナや中東での戦争が続き、トランプ米次期大統領が安全保障への強力なコミットメントを求める中で、欧州各国で国防支出は増加。防衛産業には強い追い風が吹いている。トランプ氏は欧州の同盟国に軍事費の負担増を迫っているが、各国の政治指導者らは資金を使って国内の企業や雇用を支援しようとしている」

    欧州防衛産業は、米国の次期大統領のトランプ氏がいかなる要求を出すか分らないので、先手を打って拡充策に出ている。

    (4)「欧州の自動車業界は、電気自動車(EV)の需要低迷と中国との競争激化で苦戦を強いられている。コンチネンタルやボッシュ、シェフラーなどの部品メーカーは、低迷の深刻化に伴い人員を削減した。コンサルティング会社のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、デジタル化とオートメーションで、現在の仕事上の役割が時代遅れになるため、ドイツの自動車業界では現時点で雇用されている77万人の人員は2030年までに12%減少する見通しだ。人員削減を模索するフォルクスワーゲンは、労働組合との緊迫した協議を続けている」

    EVへの転換は、自動車部品点数が大幅に減少するので人員整理が不可避とされている。それだけに、部品メーカーは早手回しに動いているのであろう。防衛産業は、これを「好機」とみて採用を積極化させている。







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    トランプ氏が、今秋の米大統領選で復帰するかどうか。当の米国よりも米同盟国が警戒姿勢を滲ませている。これまでは、「もしトラ」であったが、「ほぼとら」というほどの警戒音を高めている。だが、トランプ氏が大統領へ当選するには大きな壁が立ちはだかっている。これまで集めた選挙運動資金は、裁判費用に大方使い果したという報道も出ている。米共和党の本流が、どこまでこの破天荒なトランプ氏を支持するのか。投票箱を開けてみるまでは分らないのだ。

     

    『毎日新聞』(2月17日付)は、「ウクライナ、独仏と安保協定締結 10年間軍事支援 戦局好転狙う」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は2月16日、ドイツとフランスを訪問し、長期的な軍事支援を確保するための2国間の安全保障協定をそれぞれと結んだ。昨年7月に主要7カ国(G7)が提示した国際的な枠組みに基づく協定となる。ウクライナ軍はロシアの侵攻に対し、東部の要衝アブデーフカから撤退するなど苦戦を強いられており、支援を戦局の好転につなげたい考えだ。

     

    (1)「ゼレンスキー氏はこの日、ベルリンでショルツ独首相と会談し、同国との安全保障協定を締結した。協定の期間は10年。ドイツはウクライナに現在進行中の軍事支援を続けるとともに、将来的な攻撃への抑止力を強化するための装備近代化に協力する。ショルツ氏はゼレンスキー氏との共同記者会見で、約11億ユーロ(約1780億円)の追加軍事支援を提供することも発表した」

     

    ゼレンスキー氏は、ドイツ首相と10年間の安全保障協定を締結した。トランプ氏が、米大統領に復帰すれば、どのような事態が起こるか分らない以上、最悪に事態に備える。

     

    (2)「この後、ゼレンスキー氏はパリを訪問。マクロン仏大統領と会談し、フランスとの2国間の安全保障協定にも署名した。仏大統領府によると、協定でフランスはウクライナに武器や訓練を提供するほか、2024年に最大30億ユーロの追加軍事支援を行うことを約束した。協定の効力はドイツと同じ10年間となる。ゼレンスキー氏はマクロン氏との共同記者会見で「野心的かつ極めて実質的な安全保障協定だ」と語った」

     

    ゼレンスキー氏は、フランスへマクロン氏を訪問して10年間の安全保障協定を結んだ。ドイツと同じ内容である。欧州の安全保障は、NATO未加入のウクライナに対しても行うという強い決意である。

     

    (3)「G7は昨年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、長期安全保障の国際的な枠組みを提案する共同宣言を発表した。NATOは原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため枠組みでは、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図る。すでに英国も同様の協定に署名しており、これで英独仏の欧州主要3カ国が締結した」

     

    NATOは、原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図るものだ。すでに、英国もウクライナと2国間協定を結んだ。これで、仮に「ほぼトラ」でトランプ氏が復帰して、かき回してもウクライナ支援が空洞化しないように手を打ったところだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「EUがウクライナ支援を強化」と題する社説を掲げた。

     

    欧州連合(EU)の加盟国首脳は1日、ウクライナに540億ドル(約7兆9000億円)相当の金融支援を提供することで合意した。この支援パッケージは、欧州が応分の貢献をしていないと常日頃主張している、米共和党内の対ウクライナ追加支援反対派への非難ともいうべきものだ。

     

    (4)「支援の詳細確定には欧州議会の承認が必要だが、現在の案によれば540億ドルの支援は融資と無償資金援助で構成され、今後2027年までの期間に分割で実施する。ハンガリーのビクトル・オルバン首相が支援策に反対していたが、EU加盟国はこの問題を克服し、結局は全会一致で支援策を支持した」

     

    EUが、トランプ氏の過激な発言に刺激され、ウクライナを自力で守らなければならないという結束力を強めている面もあろう。米国が支援しなければ、「ウクライナ敗北」となり、ロシアに新たな口実を与えるようなものになる。

     

    (5)「支援のうち420億ドル余りは、ウクライナ政府が年金や教員給与といった基本的なものへの歳出によって機能を維持するのに役立てる。また、重点産業のリスクをカバーする特別投資措置の87億ドルも盛り込まれている。こうした支援はウクライナが生き残りをかけたロシアとの戦いを継続できるようにする点で、EUの戦略上の目的にかなう。ウクライナは今年、400億ドル超の予算不足に直面しており、同国の経済全般が破綻すれば防衛を続けることは一段と難しくなる」

     

    ウクライナ財政を支援する形だ。ウクライナ経済が、侵攻によって破綻に瀕している以上、これを支えなければ、新たな国が同様な憂き目に遭いかねないからだ。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍への総反攻作戦開始前に、G7広島サミットへ対面出席して引き続き「強力支援」を得ることになった。だが、今回の作戦ですべてが終わる訳でなく、永続的な安全保障政策が必要になっている。ロシア軍と今後、「停戦」する場合でも、いつロシアの侵攻が始まるか分らないという不安定な状態が続く。

     

    そこで、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)へ加盟するまで時間がかかることから、「イスラエル型安全保障政策」が浮上している。イスラエル型は、特別の条約は存在しないものの、米国が軍事支援するスタイルである。ウクライナへも、NATOがこれと同じ形の軍事支援を行うというものだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月22日付)は、「ウクライナに『イスラエル型安全保障』西側が検討」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ情勢が重大な局面を迎える中、米国と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の指導者らはウクライナの防衛力を強化し、主権を保証するためのビジョンをまとめている。イスラエルをモデルとした安全保障の提供だ。

     

    (1)「ウクライナではここ数カ月、激戦地の東部バフムトに関心が集まっていた。しかし、ロシアの民間軍事会社ワグネルが週末にバフムトの掌握を宣言し、より広範な課題に注意が向けられるようになっている。どうすればウクライナをロシアの武力行使に対する防波堤に変えることができるか、という問題だ。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに対し、イスラエル型の安全保障協定では、ウクライナへの武器移転や先端技術の提供を優先することになると述べた。事情に詳しい西側諸国の当局者によると、協定はウクライナの将来的なNATO加盟に向けたプロセスと連動するが、NATOをロシアとの紛争の当事者にするものではないという」

     

    ウクライナが、NATOへ加盟するまでには手続きでかなりの時間を必要とする。そこで、その空白期を埋めるべく、NATOが軍事支援する。これには先例がある。イスラエルが、条約はないものの米国から軍事支援を受けているからだ。

     

    (2)「ポーランドは、ウクライナに侵攻したロシアに対して最も強硬な姿勢を示している国の一つ。ドゥダ氏は「この件に関する議論は今まさに行われている」と語った。安全保障協定に基づいてウクライナに移転される武器や技術について具体的には言及しなかった。ただポーランドはすでに同国へ旧ソビエト製のミグ29戦闘機やその他の防衛装備品を提供している。また、先週開催された先進7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)では、ジョー・バイデン米大統領が各国首脳に対し、米国がウクライナ軍にF16戦闘機の操縦訓練を提供する考えを伝えた」

     

    米国は、欧州各国がウクライナへ米国製戦闘機F16の供与を認めた。これは、長期的なウクライナ防衛を目的にしたものだ。ウクライナが、自国の制空権を守るために、F16が不可欠という認識である。

     

    (3)「ドゥダ氏によると、バイデン大統領が2月にポーランドを訪問した際、イスラエルをモデルとした安全保障について協議した。7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議の議題の一つとして、構想は西側同盟国の支持を集めつつあるという。事情に詳しい関係者によれば、安全保障協定はこれまでに提案されている「キーウ安全保障協定」を下敷きとしたもので、NATO首脳会議後に署名される見通しだ。ある米政府関係者によると、イスラエルモデルの安全保障協定を巡る議論は、ウクライナがすぐにNATOへ加盟できないことを認識した上で、同国の安全保障問題の核心に対処する方策として浮上した」

     

    ウクライナとの「安全保障協定」は、近く開かれるNATO首脳会議後に結ばれるという。すでに、議論は煮詰まっているのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は、7月に首脳級の和平サミットの開催を呼びかけたが、この「安全保障協定」の調印を意味するのかも知れない。

     

    (4)「イスラエルはNATOに加盟しておらず、米国とは条約に基づく法的な同盟関係にない。しかし、長年にわたり米国との特別な関係を享受しており、第二次世界大戦以降、米国の海外援助の最大の受益国となっている。米国の対イスラエル援助は10カ年計画に基づき実施しており、直近では2019年から28年までに380億ドル(約5兆2600億円)の軍事支援を約束している」

     

    ウクライナは当面、イスラエル型の安全保障政策で軍事支援の長期安定化を目指すことになる。これで、ウクライナも安定して軍事作戦が可能になろう。

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    ドイツは、自国製戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与する問題で逡巡してきたが、米国も主力戦車「エイブラムス」を提供するとの合意を得て最終決定した。改めて、米国の存在がいかに大きいかを世界に見せつけることになった。ドイツは、ロシアとの関係がさらに悪化することを恐れ、米国が戦車を供与すればドイツも行なうと、米国の影に隠れたのである。

     

    もっとも、ドイツには第二次世界大戦中、欧州を戦乱に巻き込んだ負い目がある。その古傷が、ドイツ戦車が戦場に再び登場することでうずく、という心理的負担を抱える。このトラウマが、米国の戦車提供で薄められるというのである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月25日付)は、「対ウクライナの戦車供与、米国の影に隠れた欧州」と題する記事を掲載した。この記事は、ドイツがウクライナへ戦車供与を正式決定する直前に執筆され、その舞台裏が明らかにされている。

     

    ドイツが自国製戦車の供与になかなか同意しないことに対し、多くの欧州諸国が不満を募らせているのは、ドイツ製戦車が戦場において有用なだけでなく、ドイツの姿勢により、ウクライナ戦争への欧州の対応が米国に左右される度合いが高まっていることも理由だ。

     

    (1)「オラフ・ショルツ独首相は何週間もの間、米国がまず米軍の主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与すれば、ドイツは自国製戦車「レオパルト2」を引き渡すと主張してきた。米国が供与を行えば、ロシアが反発しても、ドイツへの怒りはより抑制されることになると独政府は説明していた。あるドイツ高官によると、独政府は米国との合意が発表され次第、約14台の「レオパルト2」をウクライナに供与すると約束するほか、ポーランドなどの国々が申請しているウクライナへのドイツ製戦車の引き渡しを製造国として承認する意向だ」

     

    ドイツとロシアは、皇帝時代から密接な関係にあった。ロシア官僚として、多くのドイツ人が勤務した歴史がある。ショルツ・ドイツ首相が、ウクライナへ戦車を提供するにはそれなりの戸惑いがあったのであろう。ロシアから恨みを買いたくなかったのだ。

     

    (2)「こうしたエピソードは、西側同盟国の間で不満を引き起こした。英国・ポーランド・エストニアなど他の欧州諸国は、欧州には米国の後ろに隠れる余裕はないとの立場を示している。米国はウクライナに対する軍事援助を拡大しているが、エイブラムスはウクライナが必要とするものではないと述べている。エストニアの首都タリンにあるシンクタンク、国際防衛安全保障センター(ICDS)のクリスティー・ライク副所長は「欧州諸国の米国依存は懸念すべき状態だ」と指摘。「幾つかの国はこれに気付き始めている」と述べた」

     

    ポーランドやエストニア三国は、歴史的にロシアに苦杯を舐めさせられてきた関係にある。ロシアへは、独仏と違った被害者意識を持っているのだ。それだけに、ドイツの逡巡する姿勢に強い違和感を示してきた。欧州が防衛面でまとまるには、ドイツのように米国の影に隠れる事態が水を差す、と批判的である。

     

    (3)「英当局者によると、同国政府は今月に入り、他の欧州同盟国にウクライナ支援の強化を促すため、ウクライナに戦車「チャレンジャー2」の一群と追加の大砲を供与することを決めた。西側諸国が軍事支援を加速しない限り、流血を伴う長いこう着状態が続く恐れがあることを理由に挙げた。英当局者は、バイデン大統領が十分な超党派の支持を得られず、今年の秋以降に米国の軍事支援が滞る恐れがあることを心配している。共和党議員の一部はウクライナ支援に何十億ドルもの資金を費やすことに批判的だ」

     

    英国は、米国の国内政治情勢の変化に懸念を持っている。共和党議員の一部に、ウクライナ支援に批判的意見の集団が存在することである。それだけに、いつまでも米国の傘に入っていることは、ウクライナ支援で結束を弱める結果になるとしている。戦争を長引かせないためには、欧州のさらなる結束が必要という立場だ。

     

    (4)「こうした背景の下、北欧と東欧の多くの国々は、ドイツがより積極的なウクライナ支援をためらう態度を繰り返し示していることに憤っている。こうしたドイツの姿勢は、欧州の軍事防衛と対ロシアの政治的指導力という点で、欧州が米国依存を深めるという意図せぬ結果を招いている。ウクライナへの兵器や弾薬の供給量では、米国が欧州諸国を優に上回るものの、ドイツは自国が英国と並ぶ最大の供給国の一つだと指摘している」

     

    ドイツは、欧州最大の経済大国である。そのドイツが、米国の影に隠れてロシアの風当たりを防ごうというやり方をしている。北欧と東欧の多くの国々は、こういったドイツに批判的である。

     

    (5)国際舞台で欧州が一層の自立をはかるという面で、仏独両国が主導的役割を果たし得るとの認識も、ウクライナ戦争によって脇に追いやられてしまった。仏独の対ウクライナ兵器供与に関する慎重な対応や、和平合意に向けたロシアのウラジーミル・プーチン大統領への外交的働き掛けといった行動を受けて、NATO諸国内で地理的にロシアと近接するポーランド、バルト諸国などは仏独に対する長年の不信感をさらに強めている」

     

    ドイツは、ウクライナ侵攻後の対ロシア外交を頭に描いているのであろう。経済的利益の復活である。これは、早急に復活するとは思えない。NATO全体が、ロシア戦略をどのように描くかという構図に関わるからだ。北欧や東欧が、ドイツと対立しそうである。

     

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