ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍への総反攻作戦開始前に、G7広島サミットへ対面出席して引き続き「強力支援」を得ることになった。だが、今回の作戦ですべてが終わる訳でなく、永続的な安全保障政策が必要になっている。ロシア軍と今後、「停戦」する場合でも、いつロシアの侵攻が始まるか分らないという不安定な状態が続く。
そこで、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)へ加盟するまで時間がかかることから、「イスラエル型安全保障政策」が浮上している。イスラエル型は、特別の条約は存在しないものの、米国が軍事支援するスタイルである。ウクライナへも、NATOがこれと同じ形の軍事支援を行うというものだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月22日付)は、「ウクライナに『イスラエル型安全保障』西側が検討」と題する記事を掲載した。
ウクライナ情勢が重大な局面を迎える中、米国と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の指導者らはウクライナの防衛力を強化し、主権を保証するためのビジョンをまとめている。イスラエルをモデルとした安全保障の提供だ。
(1)「ウクライナではここ数カ月、激戦地の東部バフムトに関心が集まっていた。しかし、ロシアの民間軍事会社ワグネルが週末にバフムトの掌握を宣言し、より広範な課題に注意が向けられるようになっている。どうすればウクライナをロシアの武力行使に対する防波堤に変えることができるか、という問題だ。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに対し、イスラエル型の安全保障協定では、ウクライナへの武器移転や先端技術の提供を優先することになると述べた。事情に詳しい西側諸国の当局者によると、協定はウクライナの将来的なNATO加盟に向けたプロセスと連動するが、NATOをロシアとの紛争の当事者にするものではないという」
ウクライナが、NATOへ加盟するまでには手続きでかなりの時間を必要とする。そこで、その空白期を埋めるべく、NATOが軍事支援する。これには先例がある。イスラエルが、条約はないものの米国から軍事支援を受けているからだ。
(2)「ポーランドは、ウクライナに侵攻したロシアに対して最も強硬な姿勢を示している国の一つ。ドゥダ氏は「この件に関する議論は今まさに行われている」と語った。安全保障協定に基づいてウクライナに移転される武器や技術について具体的には言及しなかった。ただポーランドはすでに同国へ旧ソビエト製のミグ29戦闘機やその他の防衛装備品を提供している。また、先週開催された先進7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)では、ジョー・バイデン米大統領が各国首脳に対し、米国がウクライナ軍にF16戦闘機の操縦訓練を提供する考えを伝えた」
米国は、欧州各国がウクライナへ米国製戦闘機F16の供与を認めた。これは、長期的なウクライナ防衛を目的にしたものだ。ウクライナが、自国の制空権を守るために、F16が不可欠という認識である。
(3)「ドゥダ氏によると、バイデン大統領が2月にポーランドを訪問した際、イスラエルをモデルとした安全保障について協議した。7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議の議題の一つとして、構想は西側同盟国の支持を集めつつあるという。事情に詳しい関係者によれば、安全保障協定はこれまでに提案されている「キーウ安全保障協定」を下敷きとしたもので、NATO首脳会議後に署名される見通しだ。ある米政府関係者によると、イスラエルモデルの安全保障協定を巡る議論は、ウクライナがすぐにNATOへ加盟できないことを認識した上で、同国の安全保障問題の核心に対処する方策として浮上した」
ウクライナとの「安全保障協定」は、近く開かれるNATO首脳会議後に結ばれるという。すでに、議論は煮詰まっているのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は、7月に首脳級の和平サミットの開催を呼びかけたが、この「安全保障協定」の調印を意味するのかも知れない。
(4)「イスラエルはNATOに加盟しておらず、米国とは条約に基づく法的な同盟関係にない。しかし、長年にわたり米国との特別な関係を享受しており、第二次世界大戦以降、米国の海外援助の最大の受益国となっている。米国の対イスラエル援助は10カ年計画に基づき実施しており、直近では2019年から28年までに380億ドル(約5兆2600億円)の軍事支援を約束している」
ウクライナは当面、イスラエル型の安全保障政策で軍事支援の長期安定化を目指すことになる。これで、ウクライナも安定して軍事作戦が可能になろう。