勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    中南米や中東、アフリカの権威主義国を離れて国外に脱出した難民・亡命希望者が2023年末時点で過去最多の2400万人にも上った。その背景には、政治的な締め付けや貧困・格差があり、自由を求めて欧米へ逃れる動きが目立つ。世界GDP2位の中国からは、習体制を逃れて米国へ向う。世界最大の民主主義国であるインドからも、米国の自由を求めて殺到している。 

    『日本経済新聞』(6月8日付)は、「強権国脱出、最多の2400万人 圧政・貧困逃れ欧米へ」と題する記事を掲載した。 

    国外に脱出した難民・亡命希望者が2023年末時点で過去最多の2400万人にのぼることがわかった。政治的な締め付けや貧困・格差が背景にあり、自由を求め欧米へ逃れる動きが目立つ。世界規模でかつてない人口の大流動が広がっている。 

    (1)「中国やロシアからの脱出者も相次ぐ。中国からは23年末時点で12万人、インドから11万8000人、ロシアも9万人の亡命流出者がいる。中国は不動産バブルが崩壊し、当局が体制批判を厳しく取り締まる。ロシアは、ウクライナ侵略を始めた22年以降に徴兵を逃れて西側に避難する人が急増した。インドは、失業問題が背景にある」 

    インドは、自ら世界最大の民主主義国と称している。だが、ヒンズー教を核とする締め付けが強くなっている。これになじめない人たちは、高学歴を武器にして母国を捨てている。中国は、就職難と体制締付けへの反発だ。自由を求めた母国脱出である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月1日付)は、「中国・インドから逃げ出す国民」と題する記事を掲載した。 

    地政学の専門家たちは今世紀を「アジアの世紀」と評することが多い。中国とインドの経済発展が、500年にわたる欧米優位にそろそろ終止符を打つとされている。しかし、こうした考えの信奉者たちは、しばしば興味深い事実を見落としている。それは中印両国が引き続き世界の国外移住者の大部分を出しているということだ。両国の繁栄と安定が確実なのであれば、なぜ高学歴の人や富裕層を含むそれほど多くの人が両国から出たくてたまらないのだろうか。 

    (2)「米国に不法入国するために生命の危険を冒すことをいとわないインド人と中国人が毎年何万人もいる。米国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)の職員は2023年度に、インド人9万7000人、中国人5万3000人の「許可されない外国人」、すなわち米国への入国許可を得ていない人々に出くわした。この数は21年度と比べると、インド人が3倍強、中国人は2倍強に当たる。CBPの統計に基づけば、こうした中国人の数は今年、大幅に増加する見通しだ」 

    23年の不法移民として、インド人は21年比3倍強、中国人が同2倍強の増加である。

     

    (3)「米移民研究センターのエグゼクティブ・ディレクター、マーク・クリコリアン氏は「10年前、国境を越えて米国に入ったのはメキシコ人や中米諸国の出身者が圧倒的に多かった」と語る。「もし、インド人や中国人数人がアリゾナ州で国境を越えようとして捕まったなら、ニュースになっていただろう。今では、そうした事例はますます日常的になっている」 

    不法移民として、中国人とインド人が増えている。かつてみられなかった現象である。それが今、日常化しているのだ。 

    (4)「米国への無許可の入国者に占める、中国人とインド人の割合はいまだに小さく、昨年は320万人のうち15万人にすぎなかった。しかしこれは、両国からの合法的な移民が大きな流れになっていることと合わせると、注目に値する。中国とインドは長い間、米国の学生ビザ取得数で圧倒的多数を占めてきた。もっとも、中国人はインド人に比べて留学後に帰国する可能性が高い。昨年は、約5万5000人の中国人と6万9000人のインド人が選択制の実習を受けた。これは卒業後の1年間か2年間、実際に働くというプログラムで、米国内での就職につながるケースが多い」 

    中国人やインド人にとって、米国は「夢の国」であろう。自国にいても叶えられない夢を、現実化できる場所が米国なのだろう。

     

    (5)「顕著な兆候の一つは、「個人富裕層」の国外流出だ。繁栄している国々は普通、資本と人材を引き付ける。それらを国外に追いやることはない。しかし、富裕層の外国居住権取得を支援する企業ヘンリー・アンド・パートナーズによれば、2022年に国外に移住した億万長者が世界で最も多かったのが中国で、その数は1万800人だった。インドは7500人で、ロシアの8500人を若干下回って3位だった。香港を中国に含めると、22年に国外移住した世界の個人富裕層8万4000人の25%近くを中国人とインド人が占めた」 

    不法移民だけでない。インド人と中国人は、富裕層までも米国移住を望んでいる。22年に国外移住した富裕層の25%は、中国人とインド人である。 

    (6)「習氏の強硬な政策は、富裕層を一層おびえさせているようだ。西側諸国のパスポートは、中国が再び政治的混乱に陥る場合に備える保険になっている。インド人が抱く懸念は、中国人とは異なる。インドの富裕層や最も教育水準が高い人々はしばしば、同国政府の統治面の不備が多いことを理由に国を離れている。彼らは、都市部の環境汚染、税務当局による嫌がらせ、標準以下の公衆衛生政策、劣悪な都市インフラから逃れたがっている。しかし、これほど多くの中国人とインド人が、超大国の一角を占めるとされる母国からの脱出を選択しているという事実は、両国の台頭が実際どれほど確実なのかという疑念を生じさせるはずだ」 

    インドや中国では、庶民も富裕層も米国移民を目指している。この2国は将来、世界の歴史を動かそうとしている国だ。果たして、それが実現するのか。移民希望がこれだけ多いことは、それぞれ根本的な欠陥を擁しているのであろう。

     

     

     

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    今回のインド総選挙では、モディ氏のインド人民党(BJP)が単独過半数を割り込む結果となり、予想以上に議席を減らした。2019年に行われた前回総選挙では、BJPが単独で過半数となる303議席を獲得。今回の選挙では、前回を上回る370議席を目標に掲げていた。

     

    ふたを開けてみれば、前回より60議席以上も減らし、2014年の政権発足以来、初めて単独過半数を割り込むことになった。モディ氏の権力の源泉は、国民からの人気と選挙が強いという点だった。選挙が終わった今、権力基盤は根本的に揺らいでおり、求心力も弱まるとみられる。

     

    『ブルームバーグ』(6月6日付)は、「インドの8%成長計画が危機にー総選挙で与党が単独過半数割れ」と題する記事を掲載した。

     

    インドのモディ首相の野心的な経済成長目標が危機にひんしている。4日に開票が始まった総選挙で、同氏率いる与党・インド人民党(BJP)は議会で単独過半数を失った。モディ氏は厳しい経済改革の推進を連立政権に委ねなければならなくなった。

     

    (1)「開票結果によれば、モディ氏率いるBJPは、単独での政権樹立に必要な過半数の272議席を獲得できなかった。BJPが今後政権の座を維持するには、連立パートナーと協力することを余儀なくされる。BJP主導の政権は、政策面では依然として広く企業に友好的なアプローチを追求できる公算が大きいが、求心力が弱まるということは、特にエコノミストが成長維持のために必要だと指摘する労働・土地に関する規則など、難しい改革を実施するための政治資本が失われる可能性を意味する」

     

    インドのGDP算出方法には、成長率が実際より大きくなる懸念を抱えている。公式統計に含まれない、巨大な経済の弱さを十分に反映してないことが一因とされている。民間消費や投資などの指標も軟調で、企業は法人税が引き下げられたにもかかわらず、事業拡張に資金を投じてしようとしないのだ。これが、高い失業率の理由の一つに挙げられている。ともかく、製造業が弱いのだ。名目GDPに占める製造業の比率は12%である。韓国の25%や日本の20%からみて極めて脆弱である。雇用吸収力に限界があるのだ。

     

    (2)「モディ首相は、インド独立100周年に当たる2047年までに同国を先進国入りさせると約束していた。このビジョンは、具体的な目標によって明確に定義されているわけではない。一部エコノミストは、インドが高所得国になるには今後四半世紀にわたり8%以上の成長が必要だと見込んでいる」

     

    インドが今後、8%以上の成長率を維持するには、製造業を強化して雇用を増やすことから始めなければならない。古い慣習が絡んでおり、ここから先ず改革しなければならない。

     

    (3)「モディ氏は4日に勝利宣言し、47年までに先進国入りする目標をあらためて示した。同氏はニューデリーのBJP本部で支持者に対し「次の任期で先進国入りの目標に向けて前進していく。この国は今後、大きな決断を伴う新たな局面を迎えるだろう」と語った。インドの23年4月-24年3月の経済成長率は8.2%だった。今年度については中央銀行が7%を予測している。成長を後押ししたモディ首相のインフラ支出は、ペースは落ちる可能性があるものの、継続するとエコノミストらは予想している」

     

    インドが、47年までに先進国入りするには、一人当たり名目GDPが3万ドル以上に達しなければならない。現在は、2500ドル(23年)と絶望的な低さである。不可能であろう。

     

    (4)「インドが、持続可能なベースで8%以上の成長率を達成するためには、労働・土地政策を巡る難しい経済改革を断行する必要があると、エコノミストらは指摘する。例えば、労働者の雇用と解雇を容易にする労働法は19年と20年に議会で可決されたが、州政府による実施には至っていない。企業からも、土地取得が複雑なため、投資の妨げになっているとの不満の声が聞かれる。BJPの支持低下は、こうした厳しい改革を推し進めるための政治資本が損なわれる可能性を意味する」

     

    下線部の改革ができなければ、47年に先進国入りする願望実現は困難であろう。今回の総選挙では、国民がモディ氏へ改革を実行するパワーを与えなかった。理由は、高い失業率がモディ氏への信任を失わせたとみられる。失業率は、25歳未満の大卒者で40%を超えている。この結果、都市部で雇用が悪化し、ここ数年で数百万人が農業の仕事に戻ったほどである。

     

    (5)「エムケイ・グローバル・ファイナンシャル・サービシズのエコノミスト、マダヴィ・アローラ氏は「土地、農業、労働などに関連する市場の改革は、検討の対象にならなくなる」とし、民営化や資産売却もリスクにさらされるとの見方を示した」

     

    モディ氏の政治力が弱まれば、土地、農業、労働などの改革が進まなくなる。根強い官僚主義が、改革を阻害しているとも指摘される。インドの近代化は、多くの困難を伴っているのだ。

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    インドと中国は、3000キロメートルも国境を接している。このため、これまで国境紛争を続けており「緊張」した関係にある。中国の習近平国家主席が、9月9~10日にかけてインド・ニューデリーで開催されるG20サミットを欠席することは、ホスト国インドのメンツを潰される形になる。インドが、「静かな怒り」を見せている理由だ。

     

    『ロイター』(9月6日付)は、「習氏のG20欠席で中印関係さらに悪化か 深まるアジア2大国の亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が20カ国・地域(G20)首脳会議の欠席を決めたことについて、ホスト国インドは、中国のインドに対する冷ややかな態度を示しており、既に凍り付いているアジアの核保有2大国の関係がさらに悪化すると受け止めている。

     

    (1)「中国とインドは、いずれも習氏の欠席についてコメントを出していないが、アナリストによると習氏の決断で刺々しさが増した。両国はヒマラヤ山脈地帯の国境を巡り軍事的に対立しており、インドは国境問題が解決しなければそれ以外の面で両国の関係を前進させることはできないと主張している。モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)の幹部からは、習氏の決断は経済面でのインドの台頭に対する中国の不快感を示しているとの見方も出ている。BJPの副党首は習氏の欠席について、「中国に関する限り、彼らは不機嫌さを垣間見せることが少なくない。40年間にわたり最も成長著しい経済大国であった中国が、今やインドに取って代わられたことを認めるのは難しいのかもしれない」と述べた」

     

    習氏のG20欠席は、国内事情の結果とみられている。習氏が、G20で厳しい質問に遭遇すれば、「権威に傷つく」という側近の計らいで李首相が代理出席するというのだ。だが、インドは中国から「軽んじられた」という受け取り方である。

     

    (2)「インドと中国の関係は、2020年6月にヒマラヤ西部で双方の兵士が衝突し、インド側で20人、中国側で4人の兵士が死亡したことで一気に悪化。以来、数度にわたり軍事・外交面の話し合いが行われ、約3000キロに及ぶ国境線はいくらか平静さを取り戻したが、依然として部分的な衝突が続いている。インドはさらに2地点での紛争終結と、20年夏までインドが保有していた領土の復帰を望んでいる。その一方で、両軍は山間部に数万の兵士、武器、装備を集結させている」

     

    2020年6月20日は、習氏の誕生日である。この日、ヒマラヤ山中で中印両軍の衝突事件が起った。中国が、急襲したとされている。それだけに、インドの怒りはすさまじい。

     

    (3)「モディ氏と習氏は先月、ヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議の傍ら会談を行ったが、国境問題への取り組みについて両国が発表した談話には食い違いがあり、見解のずれが浮き彫りになった。インド側の発表によると、両首脳はヒマラヤ西部の国境紛争の早期解決に向けて努力するよう当局者に指示することで合意した。これに対して、中国側の発表はいかなる合意にも触れず、習氏は関係改善が両国と世界の平和と安定に役立つことを強調したと記している。一方でインド政府は米国に接近し、20年以降、重要なハイテク・通信事業から中国を締め出し、中国政府を激怒させた」

     

    インドの中国への不信感は根強い。インドは、米国と合同で武器生産する取り決めをして、中国牽制へ乗り出している。

     

    (4)「中国人民大学のシ・インホン教授(国際関係論)は、中国とインドの主要な課題として、ヒマラヤでの両国の軍事的対立と、インドがオーストラリア、日米との戦略的な4カ国安全保障協力(クアッド)に加わったことを挙げた。中国政府は、クアッドを中国に敵対するものと見なしている。シ氏は「(インドは)南シナ海における中国の主張への反発を強めており、中国に対抗するため、より広い範囲で軍艦を増強。中国のインドへのハイテク製品輸出や直接投資について、禁止や制限強化など対応をエスカレートさせている」と述べた。こうした問題は両国間で何年も前からくすぶっており、今後さらに長引くことが予想されるという」

     

    中国は、インドと対立関係にあるパキスタンを積極支援している。こういう関係もあり、インドの中国不信は根深い。

     

    (5)「インドの元上級外交官であるシャーム・サランは、習氏のG20首脳会議欠席は異例だと指摘。「インドからすれば習近平が出席していた方が良かった」としながらも、欠席が首脳会議の成功に水を差すことはないと述べた。ニューデリーのジャワハルラール・ネルー大学で国際関係を教えるハピモン・ジェイコブ氏は、習氏の欠席がインドと中国の関係にとって「良い兆しではない」と見ている。「印中関係にとって悪いニュースだ。両国の首脳会談はおろか、偶発的な会談さえも見られなくなるだろう。このことは今後、長期間にわたりインドに対して友好的、融和的な態度をとるつもりはないという、中国側のある種の認識を示している」と話した

    インドは、今年G20の議長国である。こういうインドの立場に配慮せず、中国が無遠慮な態度を示したことは、中印関係改善でマイナス要因になろう。

     

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    バイデン米大統領は22日、インドのモディ首相を国賓としてホワイトハウスに迎え、米印首脳会談に臨んだ。歓迎式典ではハリス副大統領をはじめ約7000人のインド系住民をホワイトハウス南庭に集めるなど厚遇した。

     

    インドは、今や世界一の人口国になった。中国の「人口減」とは対象的である。現在の合計特殊出生率は2.0である。人口置換率の2.1を割っていることから、いつまでも増え続ける訳でない。2040年代前半に15億人弱がピークと推計されている。人口世界一の座は揺るがない。インドが、外交面で存在感を強めることは間違いない。

     

    今回の米印首脳会談は、インド太平洋における中国牽制において大きな役割を果たすことになろう。中国は、インドと国境紛争を抱えている。そのインドが、米国と強いつながりを持ち、21世紀の方向を決めるとしている。中国の領土拡大を阻止するという意味だ。

     

    『日本経済新聞』(6月23日付)は、「モディ首相、米印連携 21世紀決める 米議会で演説」と題する記事を掲載した。

     

    インドのモディ首相は22日、米議会の上下両院合同会議で演説した。2国間関係について「今世紀を決定づけるパートナーシップだというバイデン大統領の考えに同意する」と言明した。「米国は最も重要な防衛協力相手の一つだ」と話し、協力強化に意欲を示した。

    モディ氏が米議会で演説するのは2016年に続いて2回目。厚遇ぶりは中国やロシアへの対抗に向けてインドと関係を深めたい米議会の意向を映す。

     

    (1)「モディ氏は、「私が16年にこの場で演説したとき、我々の関係は画期的な未来に向かっていると話した」と振り返った。「その未来とは今だ」と強調し米国とインドの関係が深まったと力説した。安全保障問題をめぐり「威圧や対立という暗い雲がインド太平洋に影を落としている」と指摘した。中国の軍拡や威圧行為を念頭に置いた発言とみられる。「地域の安定が我々のパートナーシップの中心的な関心事の一つになった」と語った。「自由で開かれた包括的なインド太平洋というビジョンを共有している」と断言し、米国と安全保障や経済分野で関係をいっそう強化すると訴えた」

     

    モディ首相の演説は、これから長く記憶され引用されるほど重要な演説であった。

    1)今世紀を決定づけるパートナーシップだというバイデン大統領の考えに同意する。

    2)威圧や対立という暗い雲がインド太平洋に影を落としている。

    3)自由で開かれた包括的なインド太平洋というビジョンを共有している。

     

    これら3点は、中国への牽制で米国と同じスタンスを取るという意味である。ただ、中国の台湾侵攻の際に、インドも武器を取るという意味ではない。グローバル・サウスの代表であるインドが、国際世論への影響力を発揮するということであろう。

     

    中ロも、グローバル・サウスを自陣に引き寄せるべく、いろいろと外交戦略を練っている。だが、インドが、民主主義国としての価値観に立脚して行動することになれば、その影響力は大きい。米印は、戦闘機エンジンの共同生産を始めることで合意した。これを皮切りに、兵器生産に共同で当たり、グローバル・サウスへ廉価で輸出すれば、インドと米国の影響力が浸透する。そういう意味で、米国がインドと強力なパートナーシップを結んだ影響は極めて大きい。

     

    (2)「モディ氏は米国とインドの協力に関し「(2国間を超える)もっと大きな目的に貢献する」とも唱えた。米国と連携し、国際社会で関与を拡大する意向を表明した。「我々のパートナーシップは民主主義の将来にとって良い予兆だ」と述べ、民主主義を重視する立場を示した。米国で広がる人権侵害への懸念を払拭する思惑が透ける。与党・民主党に所属するリベラル派の代表格であるアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員らは人権侵害を問題視し、モディ氏の議会演説を欠席した」

     

    モディ政権は、人権問題を抱えている。与党インド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げ、イスラム教徒をはじめ他の宗教信者に厳しい政策をとってきた。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は「政府に批判的なインドのジャーナリストは、モディ信者による全面的な嫌がらせや攻撃キャンペーンにさらされている」と指摘する。22日もホワイトハウス近くの公園で抗議するインド系グループの姿があったという。

     

    理想主義を掲げるバイデン氏だが、中国ロシアという枢軸を前にして、こういう人権問題に触れないというリアリストになっていると指摘されている。

     

    ムシトリナデシコ
       

    インドの人口は今年、中国を超えて世界1位になる。豊富な労働力を背景に、インドは次の世界におけるサプライチェーンの核になると期待がかかる。米中対立という背景もあって、「第二の中国」との見方が強まっているのだ。だが、インドの製造業の発達は遅れており、インフラ投資も不十分である。中国と比較すると、大きな格差がある。それでも、「次はインド」という声が大きい。モディ政権は、強権体質をのぞかせているものの「3期目」が確実視されている。

     

    『ロイター』(5月12日付)は、「インドのリスクプレミアム、米中対立背景に低下の一途・インド」と題する記事を掲載した。

     

    今年に入って、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)やマイクロソフトのサティア・ナデラCEO、ブラックストーンのジョン・グレイ社長といった欧米経済界の大物が相次いでインドを訪れている。インドは事業を展開していく上でさまざまな課題を抱えている。だが彼らの目には、中国に代わる投資先としての有望性の方がどんどん大きく映ってきているようだ。

     

    (1)「外国の企業や投資家に見えているインドの魅力は数多い。3兆ドル規模の経済は今年度6.5%と、他の世界よりも高い成長率が見込まれる。ロシア産の原油を安価で大量に輸入しているおかげで物価は落ち着いたままだ。世界最大の人口の下で、低コストの労働力や多くの技術者と英語スピーカーも供給してくれる。企業寄りの政策を掲げている現在のモディ政権が向こう5年間は継続する公算が大きい点もプラスだ。各種世論調査では、来年の総選挙でモディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)が勝利し、政権3期目に入ると予想されている」

     

    インドは、経済的に見れば大きな発展余力を持っている。ただ、細部ではいくつかの弱点を抱えている。それが、大きなチャイナ・リスクによって隠れているのが現状だ。

     

    (2)「インドは悪化する一方の米中関係で恩恵を受けている面も否定できない。企業はサプライチェーン(供給網)を中国から別の地域に移そうとしており、運用担当者は金融制裁リスクがより少ない場所に長期的な資金を配分する必要がある。幾つかのケースで、その動きは鮮明だ。例えばアップルのサプライヤー、鴻海精密工業とペガトロン(和碩聯合科技)は、それぞれインドのカルナタカ州とタミル・ナドゥ州に工場を建設している。JPモルガンのアナリストチームは、2年以内に世界のiPhone(アイフォーン)生産の4分の1をインドが担うことになるとみている」

     

    中国の労働人口が急減する以上、賃金上昇は不可避である。これを織り込めば、米中対立によるチャイナ・リスクを早期に回避するのは、ビジネスとして当然の選択であろう。アップル系のサプライヤーは、この動きを早めている。

    (3)「インドの魅力はそうした製造業部門だけにとどまらない。経済全体として、中国型の成長が約束されているからだ。昨年の1人当たり国内総生産(GDP)は2379ドル。中国の5分の1弱と「伸びしろ」は大きい。携帯通信機器の所有者は12億人を超え、その半数をスマートフォンが占める。モルガン・スタンレーのアナリストチームとストラテジストチームは、2030年までにはインドの経済と株式市場の規模が世界第3位になると予想している

     

    世界の投資銀行は、下線部のようにインドを高く評価しており、「第二の中国」と囃し立てている。日本は、GDPでインドに抜かれるという意味だ。

     

    (4)「インドは依然として、外国企業・投資家にとって一筋縄でいかない場所ではある。英語が普及し、世界時価総額トップ4企業のうち、マイクロソフトのナデラCEOとグーグル親会社アルファベットのサンダー・ピチャイCEOが同国出身である。だが、国内のビジネス環境に対する外国人の理解度はなお低い。それが明らかになったのは、富豪ゴータム・アダニ氏が率いるアダニ・グループの上場企業の株価が、不正会計疑惑などを記した空売り投資家のリポートをきっかけに今年急落した事態だ」。

     

    インド経済の国際化意識は、非常に遅れている。「アダニ・グループ」の不正会計疑惑は、インドの信頼を落とすほどの騒ぎになった。モディ首相との癒着問題も持ち出されて、国内の不明朗さを暴き出した。

     

    (5)「それでも中国を巡る懸念が増大していることで、投資家はインドのリスクを軽視しているのかもしれない。外国企業幹部や運用担当者の間では、インド政府は世界が2つの陣営に分かれる中でどちらにも一方的に肩入れせず、最大の貿易相手である米国から制裁を受けずにロシアから武器やエネルギーを輸入し続けられるとの見方が出ているのがその一例だ」

     

    インドが抱える国内問題は大きい。それでも、米中対立の余波でインドへ関心が集まっている。漁夫の利を得ているのだ。

     

     

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