インドと中国は、3000キロメートルも国境を接している。このため、これまで国境紛争を続けており「緊張」した関係にある。中国の習近平国家主席が、9月9~10日にかけてインド・ニューデリーで開催されるG20サミットを欠席することは、ホスト国インドのメンツを潰される形になる。インドが、「静かな怒り」を見せている理由だ。
『ロイター』(9月6日付)は、「習氏のG20欠席で中印関係さらに悪化か 深まるアジア2大国の亀裂」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席が20カ国・地域(G20)首脳会議の欠席を決めたことについて、ホスト国インドは、中国のインドに対する冷ややかな態度を示しており、既に凍り付いているアジアの核保有2大国の関係がさらに悪化すると受け止めている。
(1)「中国とインドは、いずれも習氏の欠席についてコメントを出していないが、アナリストによると習氏の決断で刺々しさが増した。両国はヒマラヤ山脈地帯の国境を巡り軍事的に対立しており、インドは国境問題が解決しなければそれ以外の面で両国の関係を前進させることはできないと主張している。モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)の幹部からは、習氏の決断は経済面でのインドの台頭に対する中国の不快感を示しているとの見方も出ている。BJPの副党首は習氏の欠席について、「中国に関する限り、彼らは不機嫌さを垣間見せることが少なくない。40年間にわたり最も成長著しい経済大国であった中国が、今やインドに取って代わられたことを認めるのは難しいのかもしれない」と述べた」
習氏のG20欠席は、国内事情の結果とみられている。習氏が、G20で厳しい質問に遭遇すれば、「権威に傷つく」という側近の計らいで李首相が代理出席するというのだ。だが、インドは中国から「軽んじられた」という受け取り方である。
(2)「インドと中国の関係は、2020年6月にヒマラヤ西部で双方の兵士が衝突し、インド側で20人、中国側で4人の兵士が死亡したことで一気に悪化。以来、数度にわたり軍事・外交面の話し合いが行われ、約3000キロに及ぶ国境線はいくらか平静さを取り戻したが、依然として部分的な衝突が続いている。インドはさらに2地点での紛争終結と、20年夏までインドが保有していた領土の復帰を望んでいる。その一方で、両軍は山間部に数万の兵士、武器、装備を集結させている」
2020年6月20日は、習氏の誕生日である。この日、ヒマラヤ山中で中印両軍の衝突事件が起った。中国が、急襲したとされている。それだけに、インドの怒りはすさまじい。
(3)「モディ氏と習氏は先月、ヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議の傍ら会談を行ったが、国境問題への取り組みについて両国が発表した談話には食い違いがあり、見解のずれが浮き彫りになった。インド側の発表によると、両首脳はヒマラヤ西部の国境紛争の早期解決に向けて努力するよう当局者に指示することで合意した。これに対して、中国側の発表はいかなる合意にも触れず、習氏は関係改善が両国と世界の平和と安定に役立つことを強調したと記している。一方でインド政府は米国に接近し、20年以降、重要なハイテク・通信事業から中国を締め出し、中国政府を激怒させた」
インドの中国への不信感は根強い。インドは、米国と合同で武器生産する取り決めをして、中国牽制へ乗り出している。
(4)「中国人民大学のシ・インホン教授(国際関係論)は、中国とインドの主要な課題として、ヒマラヤでの両国の軍事的対立と、インドがオーストラリア、日米との戦略的な4カ国安全保障協力(クアッド)に加わったことを挙げた。中国政府は、クアッドを中国に敵対するものと見なしている。シ氏は「(インドは)南シナ海における中国の主張への反発を強めており、中国に対抗するため、より広い範囲で軍艦を増強。中国のインドへのハイテク製品輸出や直接投資について、禁止や制限強化など対応をエスカレートさせている」と述べた。こうした問題は両国間で何年も前からくすぶっており、今後さらに長引くことが予想されるという」
中国は、インドと対立関係にあるパキスタンを積極支援している。こういう関係もあり、インドの中国不信は根深い。
(5)「インドの元上級外交官であるシャーム・サランは、習氏のG20首脳会議欠席は異例だと指摘。「インドからすれば習近平が出席していた方が良かった」としながらも、欠席が首脳会議の成功に水を差すことはないと述べた。ニューデリーのジャワハルラール・ネルー大学で国際関係を教えるハピモン・ジェイコブ氏は、習氏の欠席がインドと中国の関係にとって「良い兆しではない」と見ている。「印中関係にとって悪いニュースだ。両国の首脳会談はおろか、偶発的な会談さえも見られなくなるだろう。このことは今後、長期間にわたりインドに対して友好的、融和的な態度をとるつもりはないという、中国側のある種の認識を示している」と話した」
インドは、今年G20の議長国である。こういうインドの立場に配慮せず、中国が無遠慮な態度を示したことは、中印関係改善でマイナス要因になろう。