勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

    ムシトリナデシコ
       

    インドの人口は今年、中国を超えて世界1位になる。豊富な労働力を背景に、インドは次の世界におけるサプライチェーンの核になると期待がかかる。米中対立という背景もあって、「第二の中国」との見方が強まっているのだ。だが、インドの製造業の発達は遅れており、インフラ投資も不十分である。中国と比較すると、大きな格差がある。それでも、「次はインド」という声が大きい。モディ政権は、強権体質をのぞかせているものの「3期目」が確実視されている。

     

    『ロイター』(5月12日付)は、「インドのリスクプレミアム、米中対立背景に低下の一途・インド」と題する記事を掲載した。

     

    今年に入って、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)やマイクロソフトのサティア・ナデラCEO、ブラックストーンのジョン・グレイ社長といった欧米経済界の大物が相次いでインドを訪れている。インドは事業を展開していく上でさまざまな課題を抱えている。だが彼らの目には、中国に代わる投資先としての有望性の方がどんどん大きく映ってきているようだ。

     

    (1)「外国の企業や投資家に見えているインドの魅力は数多い。3兆ドル規模の経済は今年度6.5%と、他の世界よりも高い成長率が見込まれる。ロシア産の原油を安価で大量に輸入しているおかげで物価は落ち着いたままだ。世界最大の人口の下で、低コストの労働力や多くの技術者と英語スピーカーも供給してくれる。企業寄りの政策を掲げている現在のモディ政権が向こう5年間は継続する公算が大きい点もプラスだ。各種世論調査では、来年の総選挙でモディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)が勝利し、政権3期目に入ると予想されている」

     

    インドは、経済的に見れば大きな発展余力を持っている。ただ、細部ではいくつかの弱点を抱えている。それが、大きなチャイナ・リスクによって隠れているのが現状だ。

     

    (2)「インドは悪化する一方の米中関係で恩恵を受けている面も否定できない。企業はサプライチェーン(供給網)を中国から別の地域に移そうとしており、運用担当者は金融制裁リスクがより少ない場所に長期的な資金を配分する必要がある。幾つかのケースで、その動きは鮮明だ。例えばアップルのサプライヤー、鴻海精密工業とペガトロン(和碩聯合科技)は、それぞれインドのカルナタカ州とタミル・ナドゥ州に工場を建設している。JPモルガンのアナリストチームは、2年以内に世界のiPhone(アイフォーン)生産の4分の1をインドが担うことになるとみている」

     

    中国の労働人口が急減する以上、賃金上昇は不可避である。これを織り込めば、米中対立によるチャイナ・リスクを早期に回避するのは、ビジネスとして当然の選択であろう。アップル系のサプライヤーは、この動きを早めている。

    (3)「インドの魅力はそうした製造業部門だけにとどまらない。経済全体として、中国型の成長が約束されているからだ。昨年の1人当たり国内総生産(GDP)は2379ドル。中国の5分の1弱と「伸びしろ」は大きい。携帯通信機器の所有者は12億人を超え、その半数をスマートフォンが占める。モルガン・スタンレーのアナリストチームとストラテジストチームは、2030年までにはインドの経済と株式市場の規模が世界第3位になると予想している

     

    世界の投資銀行は、下線部のようにインドを高く評価しており、「第二の中国」と囃し立てている。日本は、GDPでインドに抜かれるという意味だ。

     

    (4)「インドは依然として、外国企業・投資家にとって一筋縄でいかない場所ではある。英語が普及し、世界時価総額トップ4企業のうち、マイクロソフトのナデラCEOとグーグル親会社アルファベットのサンダー・ピチャイCEOが同国出身である。だが、国内のビジネス環境に対する外国人の理解度はなお低い。それが明らかになったのは、富豪ゴータム・アダニ氏が率いるアダニ・グループの上場企業の株価が、不正会計疑惑などを記した空売り投資家のリポートをきっかけに今年急落した事態だ」。

     

    インド経済の国際化意識は、非常に遅れている。「アダニ・グループ」の不正会計疑惑は、インドの信頼を落とすほどの騒ぎになった。モディ首相との癒着問題も持ち出されて、国内の不明朗さを暴き出した。

     

    (5)「それでも中国を巡る懸念が増大していることで、投資家はインドのリスクを軽視しているのかもしれない。外国企業幹部や運用担当者の間では、インド政府は世界が2つの陣営に分かれる中でどちらにも一方的に肩入れせず、最大の貿易相手である米国から制裁を受けずにロシアから武器やエネルギーを輸入し続けられるとの見方が出ているのがその一例だ」

     

    インドが抱える国内問題は大きい。それでも、米中対立の余波でインドへ関心が集まっている。漁夫の利を得ているのだ。

     

     

    ムシトリナデシコ
       


    国連の人口推計によれば、インドが中国を抜いて世界1の人口大国に踊り出る。人口増が、潜在的経済成長率のカギを握るので、インドが経済発展の可能性を秘めることは疑いない。だが、増える労働力を吸収するには、製造業の発展が不可欠である。インドでは、まだ製造業が発展途上にあり「未完」状態だ。インドが、経済大国へ発展するには製造業を育てなければならない。 

    インドの人口ピークは、2047年とされている。これから24年の時間がある。長いようでも短い期間だ。この間に有効な手を打てなければ、人口増=失業者増という悪循環へ陥りかねない。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月25日付)は、「インド人口急増のもろ刃 好機と脅威」と題する記事を掲載した。 

    インドの人口は年内に世界最多となる見通しで、大きな節目を迎えようとしている。中国に匹敵する製造大国として、そして将来的には世界最大の市場として台頭する可能性がある。インドにはその可能性を実現する責務があり、失敗すればその責任を負うことになる。

     

    (1)「国連が新たに公表した推計によると、インドの人口は2023年半ばまでに約14億2900万人に達し、中国の14億2600万人をわずかに上回る見通しだ。米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、米国と中国で急速に高齢化が進む一方、インドでは25歳未満が人口の4割以上を占めている」 

    インドは、25歳未満が人口の4割以上を占める「若い国」だ。この国が、経済大国になるかどうかは、経済政策しだいである。 

    (2)「だが、バラ色に映る他国との比較もここまでだ。インドは22年に世界五大経済大国の中で最も急速な成長を遂げたが、実質的に消費力を握るのは依然として一部の富裕層に限られる。世界銀行によると、21年のインドの1人当たり国内総生産(GDP)はわずか2257ドル(約30万3200円)で、中国の1万2556ドルを大きく下回った。HSBCによると、インドの裁量的支出は中国よりもはるかに少額で、インドネシアさえ下回る。さらに、インドでは女性の労働参加率が低い上、大家族が主流であるため、賃金労働者が扶養する家族の人数が多い。とはいえ、経済成長への寄与度が突出して大きいのは投資よりも消費だ」 

    インドの一人あたり平均GDPは、2257ドル(2021年)である。この低いレベルでは個人消費が伸びない。高額商品需要も生まれず、製造業の発展に足かせにある。悪循環に陥っている。

     

    (3)「失業率が高止まりしていることが大きな課題となっているが、これは民間企業がフォーマル(公式)経済への投資に慎重姿勢を崩さないことが主な理由だ。独立系のシンクタンク、インド経済監視センター(CMIE)によると、23年3月の失業率は7.8%だった。過去4年間の大半にわたり失業率は8%前後で推移している。労働参加率が非常に低く、公式統計では約4割に過ぎないことを踏まえると、これは特に懸念すべきことだ」 

    製造業の未発達が、失業率を高めている。3月の失業率は7.8%だ。労働参加率」は、生産年齢人口(15歳~64歳の人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合である。インドは、この労働参加率が40%だ。大家族制のために、家にこもっており外で働こうという意欲が低いことだ。単純に言えば、残り60%は「扶養家族」になり、未稼働労力である。 

    (4)「教育も課題だ。インドでは一流大学の工学部や経営学部の卒業生を除き、大卒でも就職に苦労することが多い。同国でスキル評価サービスを提供するウィーボックス(Wheebox)によると、昨年実施した全国雇用適性試験(WNET)を受験した男性卒業生のうち、合格者はわずか47%だった。女性卒業生の合格率は53%だった。製造業部門の雇用を増やし、女性の労働力参加を促すことが問題解決にやくだつはずだ。CMIEの責任者を務めるマヘシュ・ビアス氏は、インドは大規模な民間投資を促進する環境を築く必要があり、ここ数年はそうした環境が欠如していると指摘する」 

    大学卒でもスキルを持っていない人が半分もいる。これでは、高学歴=高い生産性に結びつかないのだ。



    (5)「
    対照的に中国は、膨大な人口を世界中の製造業の労働資源として活用することで大きな成功を収めてきた。世銀によると、21年に製造業がGDPに占めた割合は中国が27%だったのに対し、インドはわずか14%だった。インドでは最近、製造業の活性化に焦点を当てた政策が一部で顕著な成功を収めているが、インフラ投資強化や労働市場改革など、さらに多くの政策実行が必要とされている」 

    インドは、GDPに占める製造業比率は14%である。中国の27%の半分程度である。これでは、生産性が低くGDPも伸びようがない。 

    (6)「時宜を捉えることが何よりも重要だ。今でこそインドでは若年層が目立つが、国連によると、早ければ2047年に人口はピークを迎える。西側諸国が中国への警戒心を強め、中国の人口が減少に転じる中、インドは岐路に立たされている。その未来は、膨大な人的資源を生かして超大国となり、莫大な投資を呼び込むか、あるいは時宜を捉えられず可能性を無駄にしてしまうかのどちらかだろう」

     

    インドは、今後24年間に「構造改革」できるかどうかだ。経済政策によって、国民の労働意欲をかき立てられるかが、すべてのカギとなろう。

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    中国は、NATO(北大西洋条約機構)から「要注意国」として名指しの警戒を受けているだけでない。アジア諸国からも同様に「侵略危険国」としてマークされ始めた。よほど国家としての「品格」に欠ける点が嫌気されているのだろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ベトナム、インドと防衛協定 基地を相互利用 対中警戒」と題する記事を掲載した。

     

    南シナ海の領有権を中国と争うベトナムが、インドとの防衛協力を強化する。両国は6月、兵器を含む軍の装備品の補修や補給で軍事基地を相互に利用する協定を結んだ。インド国防省によると、ベトナムが外国とこうした協定を結ぶのは初めて。インドも中国とは係争地を巡り対立する。対中国で利害が一致するベトナムとインドの接近が目立つ。

     


    (1)「ベトナムとインドは、包括的戦略パートナーシップを締結済み。2030年までに防衛協力を拡大する共同声明にも署名した。インドが提唱する「インド太平洋海洋イニシアチブ」とベトナムが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)が採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック」に沿った関係拡大にも取り組んでいく。ベトナムとインドは共通の安全保障上の「脅威」だとみなす中国を警戒する。ベトナムは南シナ海を巡り、同国と対中国で共通の利害を持つ国々が集まる必要があると考えているようだ」

     

    ベトナムとインドが、反中国の立場で「共闘関係」を強化している。この両国は、日本とも密接な関係を築いている。

     


    (2)「インドは、ヒマラヤの山岳地帯で中国との係争地を抱える。南シナ海ではインド国営の石油天然ガス公社(ONGC)が関連会社を通じて資源採掘を進め、中国の抗議をしばしば受けてきた。中国は南シナ海のほぼ全域で、事実上の主権である「管轄権」の保有を主張している。インドのシン国防相は6月上旬、ベトナムを訪問した。その際、インドの融資で製造された12隻の高速巡視船を引き渡した。インドはベトナムの防衛力強化のため新たに5億ドル(約680億円)の融資枠を提供すると発表した。シン氏は、ベトナムのファン・バン・ザン国防相と会談後、「両国の防衛・安保に関する密接な協力はインド太平洋地域の安定に欠かせない」とツイートした」

     

     

    中国とインドは、国境線で長いこと紛争を続けている。2020年6月には両軍の紛争によりインド兵20名が死亡した。これを契機に、インドの中国へ対抗意識が一段と燃え上がっている。ベトナムは、中国に南シナ海の島嶼を占領されている。インドとベトナムは、中国が共通の敵である。

     


    (3)「ベトナム国防省の声明によると、同国とインドはシン氏の訪問中、南シナ海における海上や上空飛行の安全確保などが重要だとの認識で一致した。さらに国連海洋法条約を含む国際法に基づく紛争の解決を支持した。インドとベトナムが6月に結んだ後方支援の協定が発効すれば、双方の軍事基地への艦船、航空機、人員の手配が容易になる。食料、燃料、兵器の補給やメンテナンスも可能になる。インドは同様の協定を日本、米国などとも締結済みだ

     

    インドとベトナムは、軍事の後方支援の協定を結んだ。インドはすでに、日米と同様の協定を結んでいる。こうして、インド・ベトナム・日本・米国は一つの輪でつながり始めた。

     


    (4)「実際に、インドが南シナ海の領有権問題に介入するかどうかは不透明だ。シンガポールのシンクタンクの専門家は「インドが南シナ海の安保の一端を担うことになるのか、この海域をどれほど重視しているのかはわからない」と説明した。インドはモディ首相が就任した14年から、東南アジア諸国への関与に力を入れてきた。インドの大学の専門家によれば、ASEANに加盟するシンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンと軍事演習を実施してきた。この事実はASEAN諸国にとっても、中国に対抗するうえで重要だが「それだけでは十分でない」と、この専門家は話す」

     

    インドは、中国への対抗軸を作るべく、ASEANへ接近している。ASEANは、中国との貿易関係が強まっているが、軍事的な脅威を強く受けている。インドが、そこで「反中」のテコ入れに動いている。

     

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