中華思想では、中国が世界の中心である。他国は、中国を敬わなければならないことになっている。今、これを地で行く問題が起こっている。中国海軍の測量艦が、8月31日に鹿児島県口永良部島南西の日本領海「トカラ海峡」に侵入する事件が発生した。中国外務省は、「完全に正当で合法的な権利を行使している」と述べ、謝罪することも再発防止発言もしなかった。まさに、「中華思想」そのものだ。中国企業は、海外で中国外務省のような高飛車な調子で臨んだら大変なことになる。海外では、中華思想は通用しないのだ。
『日本経済新聞 電子版』(9月2日付)は、「中国企業、海外で待つ『踏み絵』 政治問題で板挟み」と題する記事を掲載した。
中国企業が海外進出を急いでいる。2023年12月期の海外売上高は約8兆元(約166兆円)と過去最高を更新した。比亜迪(BYD)など中国企業が自社ブランドで海外に打って出る流れが広がるなかで、思わぬ問題が表面化した。
(1)「中国の調査会社Windによると、23年12月期の中国本土上場企業(除く金融)の海外売上高(香港など域外含む)は前の期比5%増の約8兆1000億元だった。中国の「過剰生産」を警戒する欧米の制裁関税などの対抗措置にもかかわらず、主な売上高に占める海外比率は13.1%に高まった。アフリカのスマートフォン市場で4割のシェアを握る伝音控股(トランシオン)は売上高の99%、建設機械大手の三一重工は同61%、BYDは同27%が海外向けとなった」
中国企業の海外売上高が、しだいに増え始めている。中には、99%が海外という企業も現れてきた。
(2)「改革開放政策を受けた中国企業は、まず先進国企業からのOEM(相手先ブランドによる生産)、次はODM(相手先ブランドによる設計・製造)で成長してきた。中国市場での競争に勝ち抜いた中国企業は、最終ゴールとしてグローバル市場での自社ブランド確立を目指す。ただ、こうした中国企業にとって欧米の制裁関税に匹敵する障害となりかねない事件が起きた。「過失について心より謝罪します」。中国の電動二輪車最大手、雅迪集団控股(ヤディア・グループ・ホールディングス)のベトナム現地法人、ヤディア・ベトナムの代表者は5月、ベトナム紙を通じて謝罪した」
これまで、中国へ進出した海外企業は、中国の主権を侵すようなことになると大変な騒ぎになった。謝罪はもちろんである。こういう事例が、今度は中国企業の海外進出先で起こっている。ベトナムで、中国企業が平謝りすることになった。中国外交部のような高飛車な態度を取れないのだ。
(3)「問題となったのは、ベトナムが領有権を主張する南シナ海の南沙(英名スプラトリー、ベトナム名チュオンサ)諸島、西沙(同パラセル、同ホアンサ)諸島だ。ベトナム紙によると、ヤディア・ベトナムは、海外ユーザー向け同社ホームページの店舗地図に両諸島の中国名しか表記しなかったという。このニュースに読者から「購入した製品を破棄する」「即時かつ永久にボイコットを」などの批判が殺到した。ヤディアは、ベトナムの二輪車市場を寡占する日本勢からシェアを奪うべく、24年にベトナムに23万2200平方メートルの二輪車工場を着工したばかり。戦略市場での批判を無視できず、異例の謝罪を迫られた」
ベトナムは、歴史的に「反中国感情」が極めて強い國である。中国企業のミスを絶対に見逃ない雰囲気があるのだ。中華思想は通じないことを思い知らされている。
(4)「中国政府は、中国市場で収益を上げる外資系企業が、領土や人権問題など政治問題で中国を批判することを許してこなかった。例えば、米デルタ航空は18年に自社サイトでチベット自治区や台湾を独立国家のように扱っていたことが判明。中国民用航空局がデルタに扱いの変更と公開謝罪を要求し、同社は「重大な誤りで、心からおわびする」との声明を発表した。ヤディア・ベトナムはこの逆のパターンだ。中国企業が海外で存在感を増すにつれて、どの中国企業もいずれ同様の政治の「踏み絵」を踏まされる可能性がある。その時の決断の難しさは、在中国の外資系企業の比ではない」
中国政府は、「戦狼外交」によって周辺国を痛めつけてきた。それだけに、中国企業のミスは、その何倍かのリアクションになって現れる危険性がある。