中国は、米中対立余波が確実に起こっている。中国企業が、「脱中国」の動きを強めており、隣国ベトナムへの投資を増やしているのだ。今年に入ってから、この動きが早まっており、すでに前年比3倍という急増ぶりである。
受入れ側のベトナムは、歴史的に中国と対立してきた経緯があるので、中国企業の投資には慎重に構えており、一件一件チェックして許可している。中国企業による迂回投資の流れは、さらに強まるであろう。
『ロイター』(3月18日付)は、「中国企業のベトナム投資活発化 米中摩擦の回避狙う」と題する記事を掲載した。
中国が昨年12月以来、ベトナムへの企業投資が急増している。中国のサプライヤーが、米中貿易摩擦の影響を回避するためにベトナムに拠点を設けるという構図だ。
(1)「ベトナム政府のデータからは、同国において年初からの50日間で中国企業が45件の新規プロジェクトに投資し、国別でどこよりも多いことが分かる。専門家に話を聞くと、そうした案件の大半はやはり中国系の中小サプライヤーだった。背景には、米政府がハイテク関連製品の中国向け輸出規制をじわじわと強化していることや、米中双方が互いに報復関税を発動する展開の中で、中国にいては商売がしにくいという事情がある。さらに中国の人件費高騰も背中を押す要因だ」
ベトナムは、米中対立から最大の「反射利益」を得ている。中国に工場を持つサプライヤーが、相次いでベトナムへ進出しているからだ。これに合わせて、部品供給企業がベトナムへ移転しているのだ。ベトナムは、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟国であるので、進出企業は輸出メリットも受けられる。
(2)「工業不動産を専門に扱うBWインダストリアル・デベロップメントでリース事業のシニアディレクターを務めるマイケル・チャン氏は、「ベトナムでの製造施設建設投資に関し、中国企業からの問い合わせが昨年10―12月になって飛躍的に増加した。実際の中国勢の投資も目を見張るほど増えている」と明かした。サムスン電子やキヤノン、アップル製品の受託生産を行っている鴻海精密工業と立訊精密工業といった大手メーカーは、いち早くベトナムに進出し、同国ではスマートフォンやプリンターなどさまざまな製品の工場団地が多くの地域に広がっている」
アップルのサプライヤーも、相次いでベトナムやインドへ工場を建設している。この流れは、もはや止められない勢いになった。台湾有事が、現実問題として立ちはだかってきているからだ。
(3)「これらのメーカーのサプライヤーは依然として中国が主体。2021年時点でベトナムの輸出品の原材料輸入先の2割強を中国が占め、比率は17年の2倍近くに上昇した。そして、複数の業界幹部は、大手メーカーのベトナム工場に製品やサービスを提供する中国の中小企業が、特に中国国境に近いベトナム北部への投資の主役になっていると説明する。外国からベトナムへの投資額は全体的には減少しているが、中国企業による製造施設建設投資だけは、今年これまでに2億5000万ドルと前年同期比で3倍に膨らんだ。この投資額は国別でシンガポールに次ぐ大きさで、従来は投資規模が中国を上回っていた韓国や日本などもしのいでいる」
外国からベトナムへの投資額は、全体的に減少している。その中で、中国企業の投資が突出している。その分、中国での投資が減らされるので、GDP成長率にマイナス要因だ。
(4)「ベトナム北部の工業団地「ディープC」のセールスディレクター、クン・スーネンス氏はロイターに対し、昨年の中国企業との契約調印件数は年末にかけて急増し、10―12月期は他のどの国の企業も上回ったと説明。「中国からの問い合わせ状況を踏まえると、この流れは今年も続くと見込まれる」と付け加えた。スーネンス氏によると、新たに自動車部品の厦門日上集団や、太陽光パネル部品の杭州福斯特応用材料、電気自動車(EV)充電施設の星星充電などが進出してきたという」
昨年10月以降、中国企業がベトナムへ投資を増やしているのは、習近平氏による台湾強硬発言が影響している。武力を持っても台湾統一を実現するとの発言が、中国の地政学的リスクを高めたからだ。
(5)「中国企業のベトナム進出にはリスクもある。両国は血で血を洗う戦いを繰り返してきた歴史があり、今も南シナ海の領有権を巡る対立は消えていない。そうした中でベトナム国民の反中感情の高まりから、2014年には中国への大規模な抗議デモの一部参加者が暴徒化し、中国企業を襲う事件もあった。ベトナムでは中国企業からの投資申請は特に注意深く審査される傾向があり、あるコンサルタントによると、従業員の労働ビザや労働許可の取得にもより長い時間がかかる。それでも中国のサプライヤーがベトナムにやってくる流れは止められない。BWインダストリアル・デベロップメントのチャン氏は「中国企業の大半は、先にベトナムに移動した顧客のために進出してきている」と指摘した」
歴史的に言えば、中国とベトナムは紛争の歴史に彩られている。中越戦争(1979年)は、短期間であったが中国の敗北に終わった。それだけに、ベトナムの対中意識には強い警戒姿勢が見られる。