中国商務省報道官は3日の記者会見で、米国とベトナムによる関税交渉での合意に関し「中国の利益を犠牲にした取引に断固反対する」と述べた。中国に不利益が生じた際には「断固として対抗する」と語った。
トランプ米大統領によると、米国とベトナムは中国を念頭にした迂回輸出対策として、ベトナムで積み替えて米国に輸出する製品に40%の関税をかけると合意した。中国は東南アジアなどを経由した米国向け輸出を増やしているとみられる。中国は、米国の相互関税について「典型的ないじめ行為であり、中国は断固として反対する」と強調した。
『日本経済新聞 電子版』(7月3日付)は、「トランプ氏、ベトナムと関税交渉で合意表明 税率20%に半減」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領は2日、「ベトナムと貿易交渉で合意した」とSNSで発表した。米国が、相互関税率を原則20%と当初計画の半分以下に下げるかわりに、ベトナムは米国からの輸入品を無関税にするという。トランプ氏は「ベトナムが米国に完全な市場へのアクセスを与える」と主張した。
(1)「ベトナム側も発表した。ベトナム政府によると、トランプ氏とベトナム最高指導者のトー・ラム共産党書記長が電話協議し、貿易協定に関する「共同声明」をまとめた。正確な関税率などの詳細は明らかになっていない。米政治サイトのポリティコによると、両国は共同声明で今後数週間で最終的な合意に向けた詰めの作業を進めると記した。第2次トランプ政権下で英国に続き2例目の貿易協定の合意となる。アジアでは初めて」
習近平中国国家主席は今年4月、ベトナムを訪問し中国へ引き寄せる「工作」を行ったが、その効果もなかった。ベトナムが、あっさりと中国の対米輸出を別枠扱いし、中国製品の40%関税を認めたからだ。中国は、ベトナムを隠れ蓑にしてカムフラージュしてきただけにショックを受け怒り心頭だ。
(2)「トランプ氏の投稿によると、米国はベトナムからの全輸入品に原則20%の関税をかける。トランプ政権は4月に相互関税を発表した時点では46%を課すとしていた。ベトナムは相互関税率を20%に下げてもらう代わりに、米国からの輸入品への関税をゼロにする。トランプ氏は「米国の大型エンジン車がベトナムの製品ラインアップに並ぶ」などと強調した。両国は協定とは別に、ベトナム側による80億ドル(約1兆1000億円)相当の米ボーイング機の購入や、29億ドル相当の米国産農産品の購入に関する文書も交わす見通しという」
ベトナムにとって、米国は大切な輸出市場だ。米国の要求をすべて飲んで関税率を20%に下げさせた。
(3)「トランプ氏によると、中国を念頭にした迂回輸出対策としてベトナムで積み替えて米国に輸出する製品には40%の関税をかけることでも合意した。ラトニック米商務長官はX(旧ツイッター)で、「米国企業や農家にとって大きな勝利だ。第三国がベトナムを通して製品を売った場合は40%の関税がかかる」と述べた。米国は昨年、対ベトナムのモノの貿易赤字額が約1235億ドルだった。ベトナムは閣僚が複数回にわたり訪米してラトニック氏らと協議をしていた」
ベトナムは、輸入の4割が中国、輸出の3割が米国である。中国から輸入した素材・部品などの「中間財」を、最終製品に組み立てて米国へ輸出する貿易構造である。ただ、これまでは、ベトナムを中継地点に中国製品をベトナム製品へラベルの張り替えが行われてきた。ベトナム政府は、ラベル張り替えの対米輸出を監視することになった。中国は、こういう「手助け行為」を批判しているもの。中国の言い分が間違っているのだ。
(4)「ベトナム政府にとって米国との関税交渉をまとめることは最優先事項だった。ベトナムの輸出全体のうち米国向けは30%を占める。当初計画の46%もの関税負担が続けば、海外からの直接投資の誘致にも支障が出かねない。昨年、最高指導者に就いたラム書記長ら新指導部は高成長路線を表明していた。ラム氏は4月4日にトランプ大統領と電話協議し、米国産品への関税をゼロにすることを提案。ベトナム企業も米国産の液化天然ガス(LNG)購入や米ボーイング機の大量購入に動いた。ベトナム統計総局によると、米国からベトナムへの輸入額は年151億ドルで、輸出額の8分の1程度にとどまる。輸入関税をゼロにしても国内産業への影響は少ないとの見方が多い」
ベトナムは、米国のご機嫌を損じないように最大限の努力をしている。中国の批判など「馬耳東風」である。
(5)「ベトナムは米中対立のはざまで、脱中国依存を進める企業の生産拠点の「受け皿」として利益を得る一方で、米国からは迂回輸出などの温床とも見なされていた。トランプ関税の打撃はひとまず和らいだが、対中関係の見直しは今後もベトナムの課題だ。ベトナムに生産拠点を持つ企業は、インドやタイなど周辺国に米国がかける関税が変化するかも注視している。ベトナムは46%の税率を回避できたが、20%はなお高い水準だ。ベトナムが総力を挙げた交渉結果の評価は、米国と周辺国の交渉内容にも左右される」
ベトナムは、まだ20%の高い関税がかかる。労働集約型製品の輸出だけに、この関税率を乗り越えるのは大変だ。ただ、中国に代って米国市場を開拓できるチャンスを得たことはプラスだ。コストダウンによって、高関税を乗切るほかない。