勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ベトナム経済ニュース時評

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    中国の日本産水産物の輸入停止による影響で、日本産ホタテの米国輸出で大きな障害を受けている。日本貿易振興機構(ジェトロ)は、中国に代わるホタテの殻むき作業をベトナムで行う意向をみせており、このほど現地調査が行われた。一方で、東南アジアでは和食ブームが起こっており、日本産の鮮魚店が急増し回転寿司も人気を高めている。中国の日本産海産物輸入禁止が、逆に東南アジアでの日本海産物消費増加へとむかせるテコになっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月22日付)は、「中国禁輸のホタテ、ベトナムルート開拓へ 初の現地視察」と題する記事を掲載した。

     

    ジェトロなどは22日、日本の水産事業者をベトナムに派遣し、現地企業の水産加工場を視察した。日本産ホタテの加工先を探すためで、視察団の派遣は初めて。主要な輸出先だった中国の禁輸措置を受け、新たな販路を開拓する。

     

    (1)「北海道や東京の12社が、ベトナム政府の出資するシープロデックスハノイの加工場を訪れた。首都ハノイから車で約3時間の北部ナムディン省に立地する。エビの殻むきや背わたを処理する作業を見学し、工場の衛生基準や作業効率を確認した。26日までベトナム各地にある9カ所の工場訪問と、加工業者との商談会を予定する。加工業者のレンガー・シーフード・ベトナムのグエン・ホー・グエン社長は「日本企業と長期契約できるなら、工場拡張も検討したい」と意気込む。加工業者の選定では、ホタテの輸入国である米国大使館から情報提供を受けたほか、ジェトロも候補先を発掘した。ジェトロ海外展開支援部の土屋貴司次長は、「中国以外の加工先を探すのにあたり、ベトナムは最も有力な候補になる」と期待する」

     

    ベトナムは、「親日国」である。留学生も日本派遣がトップである。こういう日越友好を背景にして、ベトナム政府が協力している。ベトナムが、中国の代わりに殻剥き作業を引き受ければ、中国は米国輸出市場をベトナムに奪われることになる。

     

    (2)「中国は東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出に反発し、2023年8月に日本産水産物の輸入を止めた。中国向けの水産物輸出は同年11月に前年同月比で9割程度落ち込んだ。ホタテ産地の北海道などで倉庫在庫が急増している。中国向けの水産物輸出のうち、およそ半分を占めていたホタテは特に影響が大きい。ホタテは中国での消費に加え、同国で殻むきといった加工を施したうえで、米国に輸出されていた。今春には消費地の米国に近いメキシコでも同様の企業派遣を検討している」

     

    米国は、日本産のホタテが大粒であることに最大の評価をしているという。他国産のホタテでは、日本産の代替が不可能という。ベトナムやメキシコでも殻剥き作業が始まれば、日本産ホタテの輸出は拡大する。皮肉にも、「習近平さん、禁輸にしてくれて有り難う」であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月20日付)は、「日本の鮮魚、東南アで出世 中国禁輸で最重要市場に スシローは回転ずし倍増めざす」と題する記事を掲載した。

     

    日本の鮮魚ビジネスが東南アジアで広がる。タイ最大財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループは魚力と組み、5年内にタイで鮮魚店を100店出す。「スシロー」は2026年までに東南アジアの回転ずし店を2倍の約50店にする。中国が日本の鮮魚を禁輸するなか、最重要の市場になる。

     

    (3)「CPグループは23年4月、鮮魚小売り大手の魚力と合弁会社を設立した。CPの出資比率は6割。同10月に鮮魚店を初出店し、現在はバンコクや北部チェンマイに6店を運営している。今後はCPグループが展開するロータスに加え、食品量販店「マクロ」にも鮮魚店を設ける方針だ。タイ小売り財閥セントラル・グループの店にも展開を検討する。魚力は、日本での鮮魚の仕入れや鮮度管理などノウハウ提供する。同社は、首都圏や中京圏の百貨店や駅ビルを中心に約70の鮮魚店を運営している。山田雅之社長は「全社を挙げてプロジェクトに取り組む」と意気込む」

     

    日本海産物は、海流の関係で豊富な魚介類に恵まれている。それだけに、輸出方法を工夫すれば東南アジア市場は開拓可能だ。

     

    (4)「1月上旬夕方、バンコクの高級百貨店「エンポリアム」にあるスシローの店舗は顧客でにぎわっていた。マグロは一皿2個入りで40バーツ(約165円)、生サーモンは同40バーツ(約165円)など。同僚と来た女性会社員ヒールさん(27)は「手軽においしいすしが食べられた」と喜んでいた。スシローを運営する会社は26年めどに東南アジアの店舗を現在の約2倍の約50店に増やす。業績好調なタイは都市部を中心に積極出店を続けており、26年に店舗数を約2倍の35店にする方針だ。シンガポールは8割増の16店にする。23年11月にインドネシアの首都ジャカルタに初出店した。イスラム教の戒律に従った「ハラル」に対応。イスラム圏へ店を増やすきっかけにする」。

     

    回転寿司が、東南アジアで市場を固めてきた。日本海産物に付加価値を付けるだけに、今後の展開が期待される。和食ブームが広がれば、これがさらなる市場を開拓する。

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    中国は、米中対立余波が確実に起こっている。中国企業が、「脱中国」の動きを強めており、隣国ベトナムへの投資を増やしているのだ。今年に入ってから、この動きが早まっており、すでに前年比3倍という急増ぶりである。

     

    受入れ側のベトナムは、歴史的に中国と対立してきた経緯があるので、中国企業の投資には慎重に構えており、一件一件チェックして許可している。中国企業による迂回投資の流れは、さらに強まるであろう。

     

    『ロイター』(3月18日付)は、「中国企業のベトナム投資活発化 米中摩擦の回避狙う」と題する記事を掲載した。

     

    中国が昨年12月以来、ベトナムへの企業投資が急増している。中国のサプライヤーが、米中貿易摩擦の影響を回避するためにベトナムに拠点を設けるという構図だ。

     

    (1)「ベトナム政府のデータからは、同国において年初からの50日間で中国企業が45件の新規プロジェクトに投資し、国別でどこよりも多いことが分かる。専門家に話を聞くと、そうした案件の大半はやはり中国系の中小サプライヤーだった。背景には、米政府がハイテク関連製品の中国向け輸出規制をじわじわと強化していることや、米中双方が互いに報復関税を発動する展開の中で、中国にいては商売がしにくいという事情がある。さらに中国の人件費高騰も背中を押す要因だ」

     

    ベトナムは、米中対立から最大の「反射利益」を得ている。中国に工場を持つサプライヤーが、相次いでベトナムへ進出しているからだ。これに合わせて、部品供給企業がベトナムへ移転しているのだ。ベトナムは、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟国であるので、進出企業は輸出メリットも受けられる。

     

    (2)「工業不動産を専門に扱うBWインダストリアル・デベロップメントでリース事業のシニアディレクターを務めるマイケル・チャン氏は、「ベトナムでの製造施設建設投資に関し、中国企業からの問い合わせが昨年1012月になって飛躍的に増加した。実際の中国勢の投資も目を見張るほど増えている」と明かした。サムスン電子やキヤノン、アップル製品の受託生産を行っている鴻海精密工業と立訊精密工業といった大手メーカーは、いち早くベトナムに進出し、同国ではスマートフォンやプリンターなどさまざまな製品の工場団地が多くの地域に広がっている」

     

    アップルのサプライヤーも、相次いでベトナムやインドへ工場を建設している。この流れは、もはや止められない勢いになった。台湾有事が、現実問題として立ちはだかってきているからだ。

     

    (3)「これらのメーカーのサプライヤーは依然として中国が主体。2021年時点でベトナムの輸出品の原材料輸入先の2割強を中国が占め、比率は17年の2倍近くに上昇した。そして、複数の業界幹部は、大手メーカーのベトナム工場に製品やサービスを提供する中国の中小企業が、特に中国国境に近いベトナム北部への投資の主役になっていると説明する。外国からベトナムへの投資額は全体的には減少しているが、中国企業による製造施設建設投資だけは、今年これまでに2億5000万ドルと前年同期比で3倍に膨らんだ。この投資額は国別でシンガポールに次ぐ大きさで、従来は投資規模が中国を上回っていた韓国や日本などもしのいでいる」

     

    外国からベトナムへの投資額は、全体的に減少している。その中で、中国企業の投資が突出している。その分、中国での投資が減らされるので、GDP成長率にマイナス要因だ。

     

    (4)「ベトナム北部の工業団地「ディープC」のセールスディレクター、クン・スーネンス氏はロイターに対し、昨年の中国企業との契約調印件数は年末にかけて急増し、1012月期は他のどの国の企業も上回ったと説明。「中国からの問い合わせ状況を踏まえると、この流れは今年も続くと見込まれる」と付け加えた。スーネンス氏によると、新たに自動車部品の厦門日上集団や、太陽光パネル部品の杭州福斯特応用材料、電気自動車(EV)充電施設の星星充電などが進出してきたという」

     

    昨年10月以降、中国企業がベトナムへ投資を増やしているのは、習近平氏による台湾強硬発言が影響している。武力を持っても台湾統一を実現するとの発言が、中国の地政学的リスクを高めたからだ。

     

    (5)「中国企業のベトナム進出にはリスクもある。両国は血で血を洗う戦いを繰り返してきた歴史があり、今も南シナ海の領有権を巡る対立は消えていない。そうした中でベトナム国民の反中感情の高まりから、2014年には中国への大規模な抗議デモの一部参加者が暴徒化し、中国企業を襲う事件もあった。ベトナムでは中国企業からの投資申請は特に注意深く審査される傾向があり、あるコンサルタントによると、従業員の労働ビザや労働許可の取得にもより長い時間がかかる。それでも中国のサプライヤーがベトナムにやってくる流れは止められない。BWインダストリアル・デベロップメントのチャン氏は「中国企業の大半は、先にベトナムに移動した顧客のために進出してきている」と指摘した」

     

    歴史的に言えば、中国とベトナムは紛争の歴史に彩られている。中越戦争(1979年)は、短期間であったが中国の敗北に終わった。それだけに、ベトナムの対中意識には強い警戒姿勢が見られる。 

     

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    中国は、NATO(北大西洋条約機構)から「要注意国」として名指しの警戒を受けているだけでない。アジア諸国からも同様に「侵略危険国」としてマークされ始めた。よほど国家としての「品格」に欠ける点が嫌気されているのだろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ベトナム、インドと防衛協定 基地を相互利用 対中警戒」と題する記事を掲載した。

     

    南シナ海の領有権を中国と争うベトナムが、インドとの防衛協力を強化する。両国は6月、兵器を含む軍の装備品の補修や補給で軍事基地を相互に利用する協定を結んだ。インド国防省によると、ベトナムが外国とこうした協定を結ぶのは初めて。インドも中国とは係争地を巡り対立する。対中国で利害が一致するベトナムとインドの接近が目立つ。

     


    (1)「ベトナムとインドは、包括的戦略パートナーシップを締結済み。2030年までに防衛協力を拡大する共同声明にも署名した。インドが提唱する「インド太平洋海洋イニシアチブ」とベトナムが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)が採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック」に沿った関係拡大にも取り組んでいく。ベトナムとインドは共通の安全保障上の「脅威」だとみなす中国を警戒する。ベトナムは南シナ海を巡り、同国と対中国で共通の利害を持つ国々が集まる必要があると考えているようだ」

     

    ベトナムとインドが、反中国の立場で「共闘関係」を強化している。この両国は、日本とも密接な関係を築いている。

     


    (2)「インドは、ヒマラヤの山岳地帯で中国との係争地を抱える。南シナ海ではインド国営の石油天然ガス公社(ONGC)が関連会社を通じて資源採掘を進め、中国の抗議をしばしば受けてきた。中国は南シナ海のほぼ全域で、事実上の主権である「管轄権」の保有を主張している。インドのシン国防相は6月上旬、ベトナムを訪問した。その際、インドの融資で製造された12隻の高速巡視船を引き渡した。インドはベトナムの防衛力強化のため新たに5億ドル(約680億円)の融資枠を提供すると発表した。シン氏は、ベトナムのファン・バン・ザン国防相と会談後、「両国の防衛・安保に関する密接な協力はインド太平洋地域の安定に欠かせない」とツイートした」

     

     

    中国とインドは、国境線で長いこと紛争を続けている。2020年6月には両軍の紛争によりインド兵20名が死亡した。これを契機に、インドの中国へ対抗意識が一段と燃え上がっている。ベトナムは、中国に南シナ海の島嶼を占領されている。インドとベトナムは、中国が共通の敵である。

     


    (3)「ベトナム国防省の声明によると、同国とインドはシン氏の訪問中、南シナ海における海上や上空飛行の安全確保などが重要だとの認識で一致した。さらに国連海洋法条約を含む国際法に基づく紛争の解決を支持した。インドとベトナムが6月に結んだ後方支援の協定が発効すれば、双方の軍事基地への艦船、航空機、人員の手配が容易になる。食料、燃料、兵器の補給やメンテナンスも可能になる。インドは同様の協定を日本、米国などとも締結済みだ

     

    インドとベトナムは、軍事の後方支援の協定を結んだ。インドはすでに、日米と同様の協定を結んでいる。こうして、インド・ベトナム・日本・米国は一つの輪でつながり始めた。

     


    (4)「実際に、インドが南シナ海の領有権問題に介入するかどうかは不透明だ。シンガポールのシンクタンクの専門家は「インドが南シナ海の安保の一端を担うことになるのか、この海域をどれほど重視しているのかはわからない」と説明した。インドはモディ首相が就任した14年から、東南アジア諸国への関与に力を入れてきた。インドの大学の専門家によれば、ASEANに加盟するシンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンと軍事演習を実施してきた。この事実はASEAN諸国にとっても、中国に対抗するうえで重要だが「それだけでは十分でない」と、この専門家は話す」

     

    インドは、中国への対抗軸を作るべく、ASEANへ接近している。ASEANは、中国との貿易関係が強まっているが、軍事的な脅威を強く受けている。インドが、そこで「反中」のテコ入れに動いている。

     

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