勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: スリランカ経済ニュース時評

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    中国が、いかに自国本位で他国を食い物にするか。その典型例は、スリランカを見れば明らかだ。中国は、「一帯一路」で盛んに発展途上国へ融資してきたが、多くが財政破綻に追込まれている。

     

    日本のODA(政府開発援助)では、超低利で長期の返済を旨とする。事前に、入念な調査をして採算が採れるかどうかを検討する。中国は、こういう事前調査は形ばかり。しかも、高利(商業銀行並の金利)である。スリランカが、中国のおだてに乗って始めた港湾開発と国際空港は現在、閑古鳥が鳴いている。港湾は雑草がはえ、サルの棲息地だ。空港売店では、多くて一日の客が30人程度という。これが、中国の「一帯一路」事業の実態である。「一帯一路」は、中国の利益追求を最大の目的で始めた事業であり、破綻の危機を迎えている。

     


    『日本経済新聞』(9月18日付)は、「一帯一路『問題債権』3倍、20~21年7.4兆円」と題する記事を掲載した。

    中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」で、新興国向け融資の焦げつきが増えてきた。米シンクタンクによると、金利を減免するなどした債権は2020~21年に計520億ドル(約7.4兆円)と18~19年の3倍を超した。中国は新規貸し出しに慎重になり、20年の貸出額は18年の約4割に急減した。各国のインフラや資源開発に向かった中国マネーに当時の勢いはない。

     

    (1)「スリランカ南部のハンバントタ。中国が債務免除と引き換えに99年間の運営権を得た港を訪れると、荒れた茂みにクジャクや猿がたむろしていた。道路は舗装されているが、看板は野生の象の横断を警告していた。道路拡張は進まず、完成した国際会議場の利用は乏しい。北に約20キロメートル行くとマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。13年に開港も定期旅客便がなく「世界一ガラガラの空港」と呼ばれる。「多くても客は1日30人」(売店の販売員)だ。スリランカは今後、中国や日本などと債務再編の交渉を始める。金利の減免、返済期日の繰り延べ、元本削減が柱だ」。

     

    中国は、スリランカ指導者に賄賂を贈り、利用されない港湾や空港をつくらせたのである。この手法は、世界中で行なわれたので、今や一斉に返済不能に陥っている。身から出た錆だが、よくこういう不条理なことができたと呆れかえる。

     


    (2)「世界銀行エコノミストのセバスチャン・ホーン氏らは4月のリポートで、「中国の対外融資のうち、債務危機にある借入国が占める比率は10年の5%から現在60%に高まった」と分析した。中国の王毅外相は8月のアフリカ諸国との会合で、21年末までに満期が到来した無利子融資23件の元本返済を免除すると表明した。野村総合研究所の木内登英氏は8月のリポートで「ナイジェリアやエジプト、トルコ、ガーナなどは外貨不足」と通貨危機に陥るリスクを指摘した。いずれも中国の融資先であり、問題債権が増加した可能性がある」

     

    下線部は、中国のデタラメな「一帯一路」融資の実態を曝け出している。中国が融資した国の6割が債務危機であるとは驚きである。これで、中国の信用はガタ落ちだ。国際高利貸し中国が、とんだ「大穴」に飛び込んだ形である。

     


    (3)「対外融資の元手となる中国の外貨準備は8月末で約3.1兆ドル(注:正確には3兆549億ドル)もあり、一見すると潤沢だ。ただ、実情は途上国向け融資などすぐには動かせないお金が多く、今後も焦げつきが進めば外貨不足に陥りかねない。政府系シンクタンクの中国社会科学院は4月、国ごとに投資のリスクを詳細に分析した書籍を出版。国有企業などに警戒をよびかけた。中国は融資の蛇口を絞り始めた」

     

    下線部は深刻である。8月の外貨準備高は、前月比で予想外の減少(492億ドル)になった。中国当局の説明では、「ドル高」によるものとしている。外貨準備高のうち、約1兆ドルは海外からの借入金とされる。薄氷を踏む状況になった。

     


    (4)「世界銀行によると、中国による中低所得国向け新規融資額(各国借入額から推計)は20年が139億ドルと過去最高だった18年比で58%減った。20年末の融資残高も1704億ドルと19年比の伸び率はわずか2%と事実上の横ばいだった。英調査会社ジェーンズは、中国による10億ドルを超える融資は22年1~7月は2件、21年通年は8件にとどまったと分析する。三井物産戦略研究所の鈴木雄介主任研究員は「中国は経済成長が鈍り、内需重視の経済運営に移行した。今後も融資額が大幅に増える可能性は低い」とみる」

     

    下線部は、「一帯一路」事業の店仕舞いを予告したものだ。一時的に世界中を騒がせた「一帯一路」は、資金繰りが続かないのである。背伸びしてきた中国が、「竹馬」から降りるのだ。

     

    (5)「今後の焦点は融資残高が233億ドルと最多のパキスタンの動向だ。中国はインドに対抗する地政学上の狙いもあってインフラ投資を拡大したが、通貨下落と経常収支悪化で、債務不履行の瀬戸際にある。主要7カ国(G7)は6月の声明で、中国を名指しし、債務問題を抱えている低所得国を支援するよう訴えた。梶谷懐・神戸大学教授は、「中国は低所得国への新規融資停止や債権回収で埋め合わせを図る可能性がある」との見方を示す。金融市場が「次のスリランカ」を探すなか、中国が新興国の債務不履行ドミノの引き金を引く――。そんなシナリオも現実味を帯びてきた

     

    次の「スリランカ」として、パキスタンの動向に関心が集まっている。債務危機国の6割は、中国が融資している国である。こういう現実を見ると、中国はいかに発展途上国を食い物にしてきたかが分る。「悪い国」である。

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    中国は、一帯一路の名前で新興国へ融資をしてきたが、相手国の発展を目指したものでなかった。中国の利益確保が第一目的である。その犠牲にされた第一号が、インド洋に浮かぶスリランカである。

     

    中国は、スリランカ指導者を籠絡し返済不能を知りながら、無駄な4車線高速道路や1500人収容の大会議場を建設させた。総事業費31億ドルをかけた港湾建設も、借金の担保に中国へ99年間貸与という形で取り上げたほど。中国が、途上国を食い荒らす典型例として、世界中へ報道されている。

     

    スリランカでは、外貨不足からエネルギーや食糧の輸入ができず、中国に籠絡された大統領は、国民の怒りで国外逃亡するという前代未聞の事態に陥っている。原因は、中国の私利私欲のためだ。温厚なスリランカ国民は、ついに中国へ怒りを向けるようになった。

     


    『日本経済新聞 電子版』(8月8日付)は、「
    スリランカ、中国『調査船』入港に延期要請 現地報道」と題する記事を掲載した。

     

    スリランカが中国の調査船を巡り、南部ハンバントタ港への入港延期を求めていることがわかった。スリランカやインドのメディアが報じた。調査船『遠望5号』は11日から17日までの停泊を予定している。中国船のスリランカ入りを巡っては、隣国のインド側から懸念の声が上がっていた。

     

    (1)「地元メディアによると、スリランカ外務省は5日に「本件についてさらなる協議が実施されるまで」入港しないよう中国に求めたという。それまでスリランカ政府は入港について補給目的と説明し、停泊を認める方針を示していた。スリランカは中国に対する債務の返済に行き詰まり、2017年にハンバントタ港の99年間の運営権を引き渡している。中国から借金をした結果、権益を奪われる「債務のワナ」の典型例と指摘されてきた」

     

    中国が、スリランカを債務漬けにし、担保としてハンバントタ港の99年間租借権を取り上げた。だが、皮肉なものでスリランカ政府の管轄下にある。ここへスパイ船と疑われている調査船を7日間停泊させるべく入港申請した。だが、隣接国インドの情勢を探る目的であると騒がれている。中国のやりそうなスパイ行為だ。

     

    中国は、インドと国境を巡って長いこと紛争が続いている。一昨年は、ヒマラヤ山中でインド兵20名が中国兵に殺害された事件が起こっている。インドが、中国に警戒感を強めるのは当然である。

     

    (2)「『遠望5号』は衛星などの観測任務を担ってきたというが、隣国インドのメディアは同船が中国人民解放軍の管理下にある「スパイ船」だと報じている。インド外務省の報道官は7月28日、『遠望5号』のスリランカ入りの情報について「インドの安全保障や経済的利益に関する全ての動きを政府は注視している」と述べていた」

     

    インド政府は、中国調査船を「スパイ船」と決め付けている。それなりの根拠があるのだろう。中国は、インドのスパイをするため、スリランカを「債務漬け」にしたとも考えられる。インドは、必死になってスリランカへ中国調査船の入港を阻止するように訴えているのだ。

     


    (3)「スリランカでは、大統領や首相を歴任したマヒンダ・ラジャパクサ氏のもとで、中国資本による開発が進んだ。最近までマヒンダ氏の弟であるゴタバヤ氏が大統領を務めていたが、22年に入って物価上昇などの経済危機に端を発した政権への抗議活動が激化。ゴタバヤ氏は7月に国外に脱出して大統領を辞任した。その後、首相や大統領代行を務めてきたウィクラマシンハ氏が大統領に就いた。ラジャパクサ兄弟が、「親中派」と指摘されてきたのに対し、ウィクラマシンハ氏は欧米やインド寄りとみられている。スリランカは中東・アフリカと東アジアを結ぶシーレーン(海上交通路)上の要衝にあたる」

     

    スリランカ経済は、中国の邪な考えで大混乱に陥っている。その恨みもあって、中国調査船の入港を阻止しようとしているのだろう。中国は、スリランカへ「極めつき」の悪いことをしてきたのだ。

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    返済不可能な事態が、来ることを知りつつ貸し付ける。これが、中国式の国際高利貸し手法である。その犠牲になった国が、インド洋に浮かぶスリランカである。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は13日に国外逃亡し、まだ正式辞任していない。

     

    豪奢な大統領官邸は、デモ隊に占拠され荒らされ放題になっている。ラジャパクサ一族は、20年弱にわたり中国の支援を受け、スリランカを支配してきたが、悲劇的な結末を迎えた。ウィクラマシンハ首相は同日、大統領代行として全土に非常事態を宣言した。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月14日付)は、「スリランカ債務危機、問われる中国の貧困国融資」と題する記事を掲載した。

     

    スリランカが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)初期に多額の債務を抱え、同国の外貨準備が減少し始めた際、一部の当局者は、国際通貨基金(IMF)に救済を求めるべき時が来たと主張した。これは通常、痛みを伴う緊縮政策を含む政治的に厄介な措置だ。

     

    (1)「スリランカの現旧当局者によると、同国にとって最大の債権国である中国は、当面はIMFの苦い薬を使わず、債務返済のために新たな借り入れを増やし続けるという魅力的な選択肢を提示したという。スリランカ政府はこれを受け入れ、2020年と2021年に中国の銀行から30億ドル(約4110億円)の新たな融資を獲得した。この計画は今や破綻し、スリランカを混乱に陥れた。巨額の負債とインフレ高進により、同国は生活必需品の輸入に必要な米ドルを使い果たし、国民は燃料購入のために何時間も待たされ、主要都市は電力供給の維持に必死になっている」

     

    中国の責任は重い。スリランカは2年前、IMFへ救済融資を求めようとしたが、それを止めさらに資金を貸し続けたのだ。IMFから緊急融資を受ける事態になると、中国の法外な貸付実態が明るみに出る。それを恐れたのだ。

     


    (2)「スリランカ政府が、4月にようやくIMFへの支援要請を決定するまでに、同国経済は急速に悪化し、1948年の独立以来最大規模のリセッション(景気後退)が迫っていた。4月から5月まで暫定的にスリランカの財務相を務めたアリ・サブリ氏は「保有する限られた外貨準備金を活用して事前に債務を再編することはせず、準備金がすべてなくなるまで債務返済を続けた」と振り返った。同氏はまた、「現実的に考え、少なくとも実際より12カ月早く(IMFに)支援を求めるべきだった」と語った」

     

    スリランカは、残りわずかな外貨準備高を使って、債務返済の整理をすべきであった。それをしないで、最後まで債務返済し続けていた。返済相手は、中国であろう。中国は、追加融資して返済させる「高利貸し手法」を使っていた。スリランカは、中国の甘言に乗らず、1年前にIMFへ支援を求めるべきであった。中国は、国際高利貸しである。

     

    (3)「スリランカは約350億ドルの対外債務を抱え、アジア太平洋地域では1999年のパキスタン以来初となる国際的債務のデフォルト(債務不履行)に陥った。IMFとの交渉は、中国の融資政策が一因となったと批判される発展途上国の公的債務危機の解決に向け、中国政府が積極的に協力するかどうかの試金石となるだろう」

     

    中国は、多くの発展途上国を過剰債務へ落とし込んできた。中国の意向を無条件で受入れさせる目的であったのだろう。貸付資金が、確実に返済される見通しに立つ、堅実手法をとらなかったのだ。貸付け担保を最終的に抑える目的であろう。

     

    (4)「中国は(2000年代半)以降、戦略的な「一帯一路」構想を下支えするための巨額の貸し付けを続けている。世界銀行のデータによると、現在では、中国一国の低所得国に対する融資残高が、パリクラブ(注:西側諸国と一部のアジア諸国から成る主要債権国22カ国の非公式の集まり)の全参加国の低所得国に対する債務残高の合計を上回る中国は通常、西側諸国の常識を無視し、債務再編に対して型破りなアプローチを取る。西側諸国は、返済に困っている借り手の債務をこれまでと将来の歳入を基に、持続可能な水準にまで(債務を)減額すべきだと考える。中国政府は、借り手が当初約束した額の全額返済を求め、返済期限は延長するが、元本には手を付けないことが多い

     

    中国は現在、主要債権国22ヶ国を上回る債権残高を抱えている。中国の経済規模から言っても異常な貸付け状態である。これは、中国の貸付け目的が「担保目当て」にあったことを覗わせるに十分な証拠である。現に、返済不能国に対して債務減額措置を取らず、元本を必ず取り立てている。まさに、シェイクスピアの「ベニスの商人」顔負けの行為だ。

     

    (5)「スリランカのほか、中国から多額の融資を受けているアフリカのザンビアとエチオピアも、現在債務再編を行っている。ケニア、カンボジアやラオスを含む他の途上国も、中国からの融資で返済期限が近づいている債務比率が高く、エコノミストはそれらの国々が返済できるのかを不安視している。中国は、途上国の財政難の問題が拡大する中、これらの諸国にとって最も重要な債権国としての役割にどう取り組むのかについて、ほとんど何も述べていない一方、ときに債務再編の取り組みを妨げる動きに出ている」

     

    中国は、一帯一路で勢力圏を広げる手段で、発展途上国を狙い撃ちにした。だが今、これら諸国は経済危機に立たされている。中国にとっても貸倒れの危機になっている。 

     

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