勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    世界第2位の自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)は、EV(電気自動車)で大きな経営蹉跌に陥っている。ドイツ政府のEV補助金打ち切りと、中国市場におけるEV不振が原因である。EV依存経営が、VW経営の屋台骨を揺るがしている。これに比べて、トヨタ自動車の「全方位経営」は見事と言うほかない。EVやHV(ハイブリッド車)水素自動車(水素燃料エンジン・燃料電池車)と可能な限りの動力源開発を行っている。VWには、こういう技術的な広がりがなかった。

    『時事通信』(12月27日付)は、「ドイツ自動車産業に冬の時代、米中に憂いの種 相次ぐ事業再編」と題する記事を掲載した。

    ドイツ自動車産業に冬の時代が訪れている。中国勢の台頭や電気自動車(EV)の普及の遅れに加え、トランプ次期米大統領が掲げる高関税政策が追い打ちとなりそうだ。業界全体に事業再編の波が押し寄せている。

    (1)「最大手フォルクスワーゲン(VW)の労使は12月20日、年間73万4000台分の生産縮小と3万5000人の人員削減を含むリストラを2030年までに独国内で実施することで合意した。VWグループは、世界販売の3分の1を占める中国市場で、EV大手比亜迪(BYD)をはじめとする地元勢にシェアを奪われた。この結果、割高な人件費やエネルギーコストのために利益率が低い独工場にメスを入れざるを得なくなった。世界的なハイブリッド車(HV)回帰の流れにも乗り遅れた」

    VWは、EVへ100%賭ける経営へ走ってしまった。耐久消費財では、普及途上で技術的理由による「キャズム」(溝)が生じるという経営鉄則を無視すると大きな取りこぼしをした。トヨタは、このキャズムの存在によって、EVの販売において「挫折」が起こることを認識していた。それは、電池の開発である。完璧な電池は現在、使われているリチウム電池でなく、全固体電池であることを見抜いて、この開発に全力をあげている。VWは、電池の開発も行っていなかった。二重三重の「取りこぼし」があったのだ。

    (2)「IFO経済研究所のフュースト所長は、「VWは氷山の一角にすぎない」と指摘する。高級車大手メルセデス・ベンツとBMWも業績が振るわず、サプライチェーン(部品供給網)全体の地盤沈下につながっている。24年に入り、部品大手のZFやボッシュ、重工大手ティッセンクルップが大規模な人員削減を明らかにした。ドイツは、主要国の中でも輸出依存度が高く、とりわけ自動車や関連部品は輸出の柱として独経済をけん引してきた。しかし、最大の輸出相手国である米国のトランプ次期政権が保護主義的な貿易政策を打ち出しており、「輸出企業に大打撃になる」(ケルンのドイツ経済研究所)と警戒の声が上がる」

    VWの年次報告書によると、23年にVWが世界で売った936万台の内、32.7%にあたる307万台が中国市場である。VWは、中国の消費者が好むEVの開発に遅れており、これが将来の見通しを暗くさせている。今後の経営戦略は、中国市場と欧州市場の建直しだが、その戦略が立たないのだ。

    (3)「高い電気代や難解な役所手続きが、ドイツの産業立地としての競争力を低下させているとの指摘も絶えない。ただ、安定した新政権が発足する来春以降まで、政府による打開策は望めない。EVで先行する米テスラやBYDは欧州市場にも浸透し始めており、独企業は地力を試される厳しい局面を迎えている」

    EV市場は、消費者の要望で自然発生的に生まれた市場ではない。二酸化炭素削減という政策によって生まれた人工的市場という指摘がある。その通りであって、EVがユーザーに溶け込むには、価格と機能がエンジン車とくらべ遜色ないレベルマで「進化」することが求められる。トヨタはその時期が、2030年頃にくると設定している。全固体電池搭載のEV発売時期をここに合せている理由だ。

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    世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)は、かつてない経営危機に追込まれている。「第2のGM」同様の窮地に喘いでいるのだ。EV(電気自動車)戦略の誤りと、中国市場の不振が重なり合っている。PER(株価収益率)は、こともあろうに3.3倍という捨値同様の扱いだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(10月31日付)は、「窮地のフォルクスワーゲン、中国対策示せず」と題する記事を掲載した。

     

    独フォルクスワーゲン(VW)は、コスト削減で危機を乗り切れるだろうか。同社はドイツ国内のいくつかの工場を閉鎖し、数万人の人員削減を計画している。だが現時点の問題は、VWがリストラする必要があるかどうかではなく、それだけで窮地を脱することができるかどうかだ。

     

    (1)「相次ぐ業績見通しの下方修正や、直近では79月期決算が64%減益となったように、VWは問題が山積している。最大の問題は、より低価格で優れた車を生産している中国だ。VWの中国での納車台数は2024年19月に10%減少した。同社は、中国における合弁事業からの24年の寄与を「出資比率に応じた営業利益」である約16億ユーロ(約2600億円)と見込んでいるが、これは22年の約半分にとどまる」

     

    VWは、中国で急速に競争力を失っている。加えて、ドイツ国内のEV不振でダプルパンチを食った形だ。

     

    (2)「中国メーカーとの競争は、中国国内でも海外でも構造的なものであり、容易に反転させられるものではない。欧州連合(EU)による中国製電気自動車(EV)への追加関税は、中国車の躍進を止めることにはならず、遅らせるだけだろう。そのうえ、欧州の自動車販売は循環的な減速傾向にあるとみられる。24年は市場全体で1400万台と、新型コロナウイルス禍以前の1600万台を下回ると予想されている。こうした状況によって、VWは持続不可能なほど高い原価率に苦しんでいる」

     

    VWは、持続不可能なほど高い原価率に苦しんでいる。24年通期の売上高営業利益率は、従来予想の「6.5〜7%」から5.%に下方修正した。売上高営業利益率は、自動車メーカーにとって5%台維持がレッドラインとされている。これを割込むと、新車開発などで支障を来すとされる、VWは、経営的にギリギリの線へ追込まれている。

     

    (3)「問題の多くは、同社の中核であるVWブランドにある。同ブランドは好況時でも利益率が低い。79月期には1.%に低下した。これは同社の通期目標である5.%を大きく下回る。金融情報サービスS&PキャピタルIQによると、ライバルの仏ルノーは通期で8%近いEBITマージン(利払い・税引き前利益が売上高に占める比率)を達成する見込みだ。VWは26年までにVWブランドの利益率を6.%に引き上げることを目指している。同社は23年、26年までにコストを年間で100億ユーロ削減する計画を発表した」

     

    VWブランドは、もともと「大衆車」で、ビートル(カブトムシ)などのモデルがその象徴である。こうして、低い利益率であることが経営的に響いている。

     

    (4)「米投資銀行スタイフェルのダニエル・シュワーツ氏は、最近報道された工場の閉鎖と人員削減によってさらに40億ユーロのコスト削減が可能になるかもしれないと指摘する。合計すると、VWブランドの売上高の約15%に相当し、これは利益率の目標達成に必要な額を大きく上回る。このように必要以上にコストカットできることが、自動車販売の大幅な減速を緩和できるVWの大きな可能性を示している、と投資家は期待するかもしれない。ただ懸念されるのは、これが国内外における中国メーカーのシェア拡大や、EV販売による利益率の低下、内燃機関車の価格下落など環境の悪化を反映しているのではないかということだ」

     

    工場の閉鎖と人員削減によって、さらに40億ユーロ(約6600億円)のコスト削減が可能とみられる。一見、これは余裕がありそうである。実際は、経済環境の悪化を反映してさらなるコストカットを余儀なくされているに過ぎない。

     

    (5)「これらが、人員削減や工場の閉鎖が激しい反対を受けることと相まって、VWの予想PER(株価収益率)が3.3倍にとどまっている理由だ。投資家は明らかに、VWが再び軌道に乗れると信じていないのだ」

     

    予想PERは、3.3倍まで低落した。投資家は、半ばVWを見放している結果だ。

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    ドイツのショルツ政権は不人気である。6月の欧州議会選、今秋の大型地方選、2025年秋の国政選挙と「3連戦」である。来年は、保守党に政権を奪われかねない状況だけに、親中派の経済界を安心させる必要性に迫られている。こうして、ショルツ政権は中国へ接近していると言うのである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月21日付)は、「再び中国接近、ドイツの政治計算」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツが再び中国に接近している。主要7カ国(G7)も欧州連合(EU)も中国への経済依存を減らすデリスキング(リスク軽減)を公約しているなか、なぜ「中国詣で」なのか。

     

    (1)「このほどショルツ独首相が訪中し、経済交流を深める姿勢を見せた。宿泊を伴う長期滞在だったことや、経済使節団が同行したことで「(親中とされた)メルケル時代に戻ったようだ」(独紙ツァイト)という印象を残した。実は、独政府の「中国詣で」はこれで終わりではない。取材に応じた複数のドイツ高官によると、重量級閣僚も近く訪中する。「ドイツは親中」と誤解されても仕方のない訪中ラッシュだ」

     

    ドイツ経済は実質、ゼロ成長の状態にある。苦しむ経済界を安心させるためには、中国市場が魅力である。

     

    (2)「侵略者ロシアを支える中国をドイツ要人が頻繁に訪れるのは時節柄、好ましくない。それでも訪中する背景には連立与党の政治計算がある。まず経済界への配慮。ドイツは歴史や文化を共有するロシアと決別し、経済の脱ロシアを進めた。いま「脱中国」なら企業は悲鳴をあげる。それゆえ「対中貿易は現状維持」という現実路線をアピールし、中国に進出したドイツ企業の歓心を買おうというわけだ」

     

    ドイツは、ロシア市場を失っただけに中国市場まで失うわけに行かない事情にある。シュルツ政権は、経済界へ寄り添わなければならないのだ。

     

    (3)「つぎに景気の下支え。今年の成長率はわずか0.%の見込み。輸出立国のドイツが頼みの綱とする米国は今秋に「トランプ復活」となり、米欧対立が再燃するかもしれない。そうなれば残るは中国しかない。経済界を味方につけ、景気失速も防ぎたいドイツ与党。3つの選挙が念頭にある。すなわち6月の欧州議会選、今秋の大型地方選、2025年秋の国政選挙だ。決断力に欠けるとの批判を浴び、世論調査で低空飛行が続くショルツ首相には政治生命をかけた選挙戦となる」

     

    ショルツ首相は、国民から優柔不断と批判される身だ。来年の総選挙では政権を失う危険性も取り沙汰されている。こうなると、経済界の支持を受けるためにも中国へ接近するほかない。

     

    (4)「内向きの論理で中国に再接近するドイツが、このまま「親中・中国依存」に逆戻りするとみるのは誤りだ。ショルツ首相を筆頭に複数のドイツ要人がインド訪問を探り、中印の双方に目配りしようとしている。日本がG7議長国だった昨年は多くのドイツ要人が訪日した。アジアでは中期的にみて日中印でうまくバランスとるのがショルツ政権の戦略だとわかる」

     

    ドイツ政府は一方で、インドへの接近もしている。ドイツの「中国寄り」批判を避けるには、インドとの関係強化が必要である。

     

    (5)「深謀遠慮だが、優柔不断にもみえる策が人気浮揚につながるとは思えない。次のターニングポイント(転機)は来秋だろう。このままいけば、ショルツ首相は選挙で負け、対中強硬派の議員が多い保守系の最大野党が首相ポストを握る。仮にそうなら来年以降はじわじわ中国離れが進む。ドイツの対中政策は欧州全体の方向性を決定づける。デリスキングのスピード感はどの程度か。対中政策で「ほぼトラ」の米国と組めるのか。選挙モードに突入した際、この野党がアジア政策でどんな政治シグナルを発するのかが注目点になる」

     

    現状では、来年の総選挙で保守系野党が政権へ復活する可能性が高い、とされている。そうなると、中国離れが進むとみられる。ドイツ政界も中国をめぐって思惑が錯綜している。

     

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    EV(電気自動車)は、世界的な値下げによる販売合戦が激化している。この新車EVの値下げが、中古EV相場の急落を招いている。レンタカーや社有車は、大幅値下がりするEV新車の購入を取り止める動きが広がっている。思わざる波紋で、EVメーカーに新たな障害が現れた。

     

    『日本経済新聞』(3月30日付)は、「EVシフトに中古の壁、未成熟な市場に『成長痛』再販価格下落で企業・消費者が敬遠」と題する記事を掲載した。

     

    脱炭素対応に伴う電気自動車(EV)シフトにブレーキがかかっている。原因は中古車・リース車市場にある。リセールバリュー(再販価値)が急落し、世界的に企業や消費者にEVを避ける動きが広がる。欧州では消費者が買い替えをためらい、ガソリン車の保有年数が延びている。

     

    (1)「ドイツのソフトウエア大手SAPは、今年に入り世界の従業員へ「今後、社有車としてテスラを購入してはいけません」と通知した。営業回りなどに使う社有車は計29千台で、テスラ車の割合は2%程度だ。環境負荷の低いEVへの切り替えは企業イメージを高められるが、SAPは保有リストからテスラを除外すると決めた。独レンタカー大手シクストも2023年12月、テスラ社のレンタカーを利用できなくなると、自社の会員に通知した」

     

    テスラのEVは、中国での競争で相次ぐ値下げへ踏み切っている。これが、中古EVの相場を下げており、社有車では買い換え時期に損害が増えるとして購入禁止策に出ている。

     

    (2)「企業によるテスラ離れの理由は、再販価値の下落にある。社有車やレンタカーは数年後に中古車市場に売却されるのが一般的だ。だが、テスラは欧米・中国で新車の値引きを繰り返したことで中古車の価値が下落。企業の資産管理を難しくした。主力セダンの「モデル3」は、中古市場で新車価格の半分近い2万~3万ドルで取引されている。価値の低下はEV全体で広くみられる。中古車検索サービスの米アイシーカーズが230万台超を調査した結果、23年10月の中古EVの平均価格は3万4994ドル(約520万円)と22年10月と比べ34%下がった。中古車全体は5%減の3万972ドルでEVの下落率の大きさは顕著だ」

     

    米国では、23年10月の中古EVの平均価格が、1年前に比べて34%もの下落である。中古車全体では、5%の値下がりである。中古EVの値下がりが目立っている。

     

    (3)「米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスは1月、24年末までに保有車の4分の1をEVとする目標を取り下げ、保有EVの3分の1にあたる2万台を売却すると発表。ガソリン車回帰による再販価値の向上や整備コストの低減で25年にかけて2億5000万~3億ドルのキャッシュフロー改善を見込む」

     

    米レンタカー大手は、EVからガソリン車へ回帰している。これにより、大幅な利益増を見込んでいる。

     

    (4)「EVの中古市場は未成熟なままだ。電気モーターで駆動するEVはエンジン車と比べて車体の整備や修理が難しい。EVを扱える独立系の整備工場は少なく、現状は割高な車大手系列のディーラーに頼らざるを得ない。EVのコストの3割前後を占める車載電池の問題も大きい。電池は利用環境や充放電の頻度などで劣化の度合いが異なるため、走行距離だけで評価しづらい。中古車販売企業はEVを買い取る場合に実態よりリスクを大きくとる傾向がある」

     

    中古EVは、評価が難しいという。電池は、利用環境や充放電の頻度などで劣化の度合いが異なるからだ。こうなると、安全をみて安く評価するほかないというのだ。

     

    (5)「そもそもEVの技術革新のスピードが速く、数年前のモデルでも航続距離や充電時間など機能面で新型車に大きく劣っている。こうした状況から短期間でEVを手放す例が後を絶たず、価値の低いEVが中古市場に氾濫する事態が生じている。欧州は新車販売全体におけるリース車の割合が半分を占め、日本(15%程度)より高い。フランスのALDオートモーティブなどリース上位7社で、欧州の新車販売の3割に達する」

     

    短期間でEVを手放す例が後を絶たず、安値のEVが中古市場で氾濫している。欧州では、新車のリースが需要の半分も占めている。期待したEVが、期待外れに終っている証拠だ。

     

    (6)「リース形式で自動車を利用する消費者も多く、再販価値への意識はもともと高い。リース会社はリース期間終了時点の残存価値を算定し、それを除いた金額をリース料として顧客に請求する。このため中古価格の下落はリース料の上昇を招き、新車需要も冷やしかねない。独自動車研究センターのヘレーナ・ビスバート所長は、「中古価格の不透明さから、欧州ではEVに切り替えたくても様子見を続ける消費者が増えており、エンジン車の保有年数が逆に延びている」と指摘する」

     

    中古価格の下落は、リース料上昇を招く。EVの中古価格の値下がりは、それだけリース料を引上げるので、ますますEV需要が落込むという悪循環に陥っている。

     

     

     

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    ドイツは、日本を軸としたアジア外交へ急速にシフトしている。先に、外務・防衛「2プラス2会議」を開催して、ドイツ軍と自衛隊の装備共用問題まで踏込んだ議論を始めている。日独「準同盟」への準備である。

     

    こういう中で4日、ショルツ首相が訪中したのだ。内外の強い反対を押し切ったもので、日帰り強行日程で、内外の批判へ配慮した形だ。近く、インドネシアでG20が開催される。その際、中独首脳が初会見では拙いという儀礼目的での訪問のようだ。中国側の強い要請での訪中であったという。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月4日付)は、「中国・ドイツ、政経両面で距離測る 北京で首脳会談」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席とドイツのショルツ首相の会談は、米欧がドイツの中国接近に懸念を深める中で、政治・経済両面で距離感を探り合う展開となった。エネルギー価格の高騰で経済が厳しくなるドイツは中国市場を重視するが、台湾や人権問題への懸念からバランスに苦慮している。

     

    (1)「中国側の狙いは明確だった。習氏は会談の冒頭で「あなたは(10月の)共産党大会後に初めて訪問した欧州の指導者だ」と語りかけ、手放しで喜んでみせた。中国はドイツの中国離れをくい止め、米国主導の対中包囲網の足並みを崩したい考えだ。ドイツが米国の対中ハイテク封鎖に加わらないうちにくさびを打ち込む思惑もある。中国と欧州連合(EU)が大筋合意したまま審議が止まっている投資協定の発効に向けてドイツの協力を取り付けたい事情もある。投資協定には相手国に進出した企業を保護する規定が含まれる」

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻を支持したことで、EU(欧州連合)の信頼を大きく損ねることになった。特にドイツは、ナチスの古傷を抱える国だけに、中国のロシア支持は絶対に受入れられない行動である。20年末、ドイツが努力してまとめた中国・EU投資協定は、中国の新疆ウイグル族弾圧で宙に浮いている。人権問題は、EUが最も敏感な問題である。この件で、中国はEU関係者に制裁を加えた。投資協定は、いずれ批准されず立ち消えの運命である。

     

    (2)「訪中は、ショルツ氏にとって現実的なタイミングだった。11月中旬にインドネシアで20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を控え、習氏との会談で他国に出遅れないために党大会後の訪中要請にあえて応じた。ドイツにとって中国は最も重要な市場だ。中国は6年連続で独最大の貿易相手国。ショルツ氏の訪中には中国で人気の自動車大手フォルクスワーゲン(VW)やBMW、アディダスなどの名だたる独企業の幹部がそろって同行した。VWはグループ全体の自動車販売に占める中国の規模が4割程度に達する」

     

    ドイツは、メルケル前首相時代まで中国と蜜月関係を結んでいた。それが、中国の新疆ウイグル族弾圧ですっかり冷え切っている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻への中国の姿勢も関係を複雑にした。ドイツ外交では、明らかに日米への一体感を示している。もはや、「覆水盆に返らず」というのが、中独関係を示している。

     

    (3)「両国の思惑は複雑だ。中国は経済的な結びつきを武器に取り込みを強める一方、ドイツでは台湾問題や人権侵害をめぐり対中強硬論が勢いを増しつつある。肝心の貿易構造もじわり変化し、ドイツにとっては中国からの輸入が輸出を上回る貿易赤字が拡大するなど外貨を稼ぎにくくなっている。中国政府に定期的に提言する北京市の大学教授は、「ドイツと関係を強めればEUは後からついてくる」と指摘する。香港紙の明報は4日付で、中独首脳会談は悪化がとまらない中国と欧州の関係の「止血作用」があると指摘した」

     

    中国は、ドイツにすがりついている感じである。「中国を捨てないで」というイメージになっているのだ。ドイツは、中国に対する過度の経済依存を清算する意思を固めている。それは、ロシアへとエネルギー問題で過度の依存をして今、大変な事態を迎えている経験に立っている。こういう反省が、ドイツ外交に生まれている。中国の認識は、気の毒なほど遅れているのだ。

     

    (4)「ショルツ氏は経済果実を狙いつつ、西側の批判を意識したバランス外交に腐心している。21年12月の首相就任以降、アジアで初めて訪問したのは日本だ。国家元首のシュタインマイヤー大統領も1日から日本を訪問し、韓国にも寄る。ショルツ氏の訪中もわずか11時間にとどめ、あえて宿泊しない日程を組んだ。来年には「対中政策の基本指針」も取りまとめる方向だ。「今こそ直談判が重要だ」。ショルツ氏は訪中前の独紙への寄稿で、人権侵害や台湾問題、公正な貿易取引を実現するため論争も避けないと強調してみせた」

     

    ドイツは、経済よりも人権・安保という「大国外交」の矜恃を見せている。この裏には、対中貿易黒字が赤字に転落している面もある。貿易面でのドイツ優位が崩れたのだ。「中国より日本へ」、これがドイツ外交の基軸になっている。メルケル時代とは、真逆になった。

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