勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    「あちらを立てれば、こちらが立たず」の喩え通り、欧州には新たな問題が起こっている。「超堅実財政」のドイツが、憲法で禁じられている財政赤字のGDP比0.35%規制を撤廃することに決めたことだ。国防費とインフラ投資については、前記規制から除外する。これによって、財政規律の甘い弱小国へ波及するリスクが浮上している。これが、欧州債券市場を混乱させるという危惧を呼び起こしているのだ。

    『ブルームバーグ』(3月21日付)は、「ドイツの歳出計画、周辺国債務への不安再燃させるー債券自警団始動も」と題する記事を掲載した。

    ドイツの新たな大型支出時代が欧州全域の借り入れコストを押し上げ、欧州周辺国の財政安定性に対する懸念を再燃させている。


    (1)「イタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガルの10年物国債利回りは、今月初めと比較して0.3ポイント以上上昇している。欧州ソブリン債(国債)危機に苦しんだ4カ国は、今でも高い負債を抱えており金利上昇の影響を受けやすい。ドイツは長年にわたり、欧州連合(EU)における財政規律の代弁者であり、イタリアやスペインなどの国々に対して緊縮財政を迫り、共同債務の発行に反対してきた」

    ドイツは、超堅実な財政政策を取ってきたので経済成長率で、イタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどに抜かれ「欧州の病人」と揶揄されてきた。そのドイツが、財政緩和政策へ転じることから、前記諸国の財政緩和姿勢が問題化する事態になりそうだ。

    (2)「支出に対するより寛容なアプローチへの転換は、欧州で多くの債務を抱える諸国に負の影響を及ぼす可能性がある。M&Gインベストメンツのポートフォリオマネジャー、ロバート・バロウズ氏は、「ドイツが赤字支出を受け入れれば、他の国々も追随し、欧州全体で債務に対するより緩やかな姿勢につながる可能性がある。これは欧州諸国の国債に対する信頼を弱め、多額の債務を抱える国々の借り入れコストを上昇させる恐れがある」と指摘した。同氏は周辺国国債の保有を減らしたという」

    ドイツが、赤字支出を受け入れれば、他の国々も追随しかねない。こうなると、欧州全体で債務に対するより緩やかな姿勢になりやすいというリスクが持ち上がっている。

     
    (3)「ドイツ債の利回りも急上昇しているが、市場では欧州最大の経済であるドイツは防衛とインフラに巨額の資金を費やす余裕があるとみられている。リスクは、この動きがドイツ国外にも広がることだ。欧州の指導者たちが、他の国々にも防衛費を増やすことを認めるために予算規則を緩和する計画を支持しているためその可能性は高い。エーゴン・アセット・マネジメントのファンドマネジャー、コリン・フィンレイソン氏は、「ドイツは世界で最高級の信用力を持つ国の一つであり、財政的な余裕も十分にある」が、「他の欧州諸国がドイツのやり方をまねようとした場合、広く受け入れられるとは思えない」と話した」

    ドイツは、過剰貯蓄を抱えているほどだから、財政赤字を増やして経済のバランスが取れる。他国が、不用意にドイツの真似をすると、財政赤字を増やすというジレンマを抱えている。

    (4)「リスクにさらされているのは、周辺国だけではない。フランスとベルギーの債務水準は近年急上昇しており、両国の債務残高の対国内総生産(GDP)比はスペインやポルトガルを上回っている。昨年、フランス国債が急落したことは、多額の債務を抱える国が支出を増やそうとすれば、債券市場の「自警団」が素早く復活することを示した」

    債券自警団とは、財政政策が過度に浪費的とみなされると、国債を売却して警告を発する債券投資家を意味する。具体的には、債券利回りの上昇である。これは、新規発行の際に高い金利を付けざるを得ず、資金調達コストを引上げる。


    (5)「ユリゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)最高経営責任者(CEO)の最近の分析によると、EU加盟国のうち財政支出を大幅に増やす余地があるのはドイツ、オランダ、スウェーデン、アイルランドのみ。フランス、スペイン、ギリシャが最も脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれる可能性があるという。「ドイツがアクセルを踏み込めば、欧州全体の金利水準が上昇するだろう。債券自警団に何ができるかをわれわれは既に目撃している」と同氏はインタビューで語った。

    EU加盟国のうちドイツ、オランダ、スウェーデン、アイルランドの4ヶ国は、財政支出を大幅に増やす余地がある。だが他の国は、そういうゆとりがないのだ。これは、EUにとって見逃せない重大事である。


    テイカカズラ
       

    ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)は11日、2024年12月期の純利益が前の期比33%減の107億2100万ユーロ(約1兆7000億円)と発表した。

    主要市場の中国で販売が減ったほか、ドイツ国内で生産コスト高が解消できなかった。営業利益率は前の期の7%から5.9%に下がった。5%割れは、自動車メーカーとして危険ラインとされる。フォルクスワーゲンは、危うくこのラインを回避できた。トヨタ自動車の24年3月期の営業利益率は11.9%であり、VWと大差である。


    『時事通信』(3月11日付)は、「独VW、純利益3割減 中国不振で苦境浮き彫りー24年」と題する記事を掲載した。

    (1)「ドイツ自動車最大手フォルクスワーゲン(VW)グループが11日発表した2024年通期決算は、売上高は0.7%増の3246億ユーロ(約52兆2600億円)だったものの、営業利益は15.4%減の190億6000万ユーロ(約3兆690億円)と落ち込んだ。純利益が前年比32.8%減の107億2100万ユーロ(約1兆7200億円)だった。営業利益率は、5.9%だ」

    営業利益率がギリギリで5%台を維持した。5%割れは、新車開発余力がなくなるとして、自動車業界は「5%」に拘っている。


    (2)「主力の中国市場で販売が低迷。コスト削減のため欧州で大規模リストラや生産縮小を迫られるなど、独自動産産業の苦境ぶりを示した。傘下の高級車アウディのブリュッセル工場閉鎖に伴うリストラ費用もかさんだ。世界販売台数は2.3%減の902万7424台。中国市場では現地の電気自動車(EV)メーカーにシェアを奪われ、9.5%減と振るわなかった」 

    VWの業績不振は、EV不振の一語につきる。経営戦略の間違いでEVへ特化したことの反動に見舞われた形だ。トヨタのように、HV(ハイブリッド車)を持たないことが、業績不振に拍車をかけた。


    『時事通信』(1月6日付)は、「ドイツ自動車産業に冬の時代 米中に憂いの種、相次ぐ事業再編」と題する記事を掲載した。

    ドイツ自動車産業に冬の時代が訪れている。中国勢の台頭や電気自動車(EV)の普及の遅れに加え、トランプ次期米大統領が掲げる高関税政策が追い打ちとなりそうだ。業界全体に事業再編の波が押し寄せている。

    (3)「最大手フォルクスワーゲン(VW)の労使は12月20日、年間73万4000台分の生産縮小と3万5000人の人員削減を含むリストラを2030年までに独国内で実施することで合意した。VWグループは世界販売の3分の1を占める中国市場で、EV大手比亜迪(BYD)をはじめとする地元勢にシェアを奪われた。この結果、割高な人件費やエネルギーコストのために利益率が低い独工場にメスを入れざるを得なくなった。世界的なハイブリッド車(HV)回帰の流れにも乗り遅れた」

    2030年まで続けるリストラ計画を発表している。この間は、業績低迷が続く。EVで中国自動車に劣っており、具体的な挽回策もない。


    (4)「IFO経済研究所のフュースト所長は、「VWは氷山の一角にすぎない」と指摘する。高級車大手メルセデス・ベンツとBMWも業績が振るわず、サプライチェーン(部品供給網)全体の地盤沈下につながっている。24年に入り、部品大手のZFやボッシュ、重工大手ティッセンクルップが大規模な人員削減を明らかにした」

    ドイツ自動車業界は、EVに社運を賭けたことが失敗の原因である。トヨタのように、全方位指向という経営のゆとりがなかったのだ。

    (5)「ドイツは、主要国の中でも輸出依存度が高く、とりわけ自動車や関連部品は輸出の柱として独経済をけん引してきた。しかし、最大の輸出相手国である米国のトランプ次期政権が保護主義的な貿易政策を打ち出しており、「輸出企業に大打撃になる」(ケルンのドイツ経済研究所)と警戒の声が上がる。高い電気代や難解な役所手続きがドイツの産業立地としての競争力を低下させているとの指摘も絶えない。ただ、安定した新政権が発足するまで、政府による打開策は望めない。EVで先行する米テスラやBYDは欧州市場にも浸透し始めており、独企業は地力を試される厳しい局面を迎えている」

    春先には新政権が誕生する。基本法(憲法)の規定している財政赤字比率は、国防費に限定して規定外にする交渉が行われている。これが実現すれば、財政面でゆとりが増そう。




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    ドイツ総選挙が23日投開票された。最大野党の保守陣営「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第一党で、2021年以来の政権復帰を確実にした。反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に躍進し、ショルツ首相が率いる中道左派の与党「ドイツ社会民主党(SPD)」は大敗した。

    16年間も政権を率いたメルケル元首相は、CDU出身である。次期首相候補となるメルツCDU党首は、移民問題でメルケル氏と異なる姿勢をみせたことから、選挙運動中にメルケル氏から批判を浴びるなど亀裂を生じていた。メルツ氏は、こういう批判にも関わらず政権復帰のためには,移民問題に消極姿勢を取るほかなかった。ドイツ国内の複雑な政治情勢を反映している。


    SPDが第三党に転落した。第二次世界大戦後、初めての歴史的な選挙結果となった。連立は、CDU・CSUとSPDの組み合わせとみられている。極右政党AfDは排除するというのが一般的見方だ。ただ、第二党へ躍進して24%もの議席を占めている。ちなみに、第一党CDU・CSUは33%、第三党SPDが19%、第四党緑の党は13%だ。これら3党を加えると65%と過半数を超える。だが、政策協定で時間がかかる。新政権発足は4月中旬説が出ている。

    だが、ウクライナ和平問題を抱えており、EU最大の経済大国ドイツの新政権が発足しないことには「空白期」が生じる。これが、EUにとっては痛手になろう。

    『毎日新聞 電子版』(2月24日付)は、「『メルケル路線』の転換奏功 保守化のCDU 連立は難航か 独総選挙」と題する記事を掲載した。

    23日に投開票されたドイツ総選挙で、移民・難民政策の厳格化を主張する中道右派の野党統一会派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第1会派となり、「極右」政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も大きく躍進した。背景を探った。


    (1)「CDU・CSUの勝利が確実と伝えられた23日夜、次期首相となる可能性が高いCDUのメルツ党首は、「内政を立て直し、欧州で再び存在感を発揮しなければならない」と支持者を前に勝利宣言した。CDUは、2015年の「欧州難民危機」で内戦下のシリアなどから難民を積極的に受け入れたメルケル前首相が率いた政党だ。だがメルツ氏は、持続的な国境管理による移民・難民対策の厳格化を主張するなど、党の保守化を強めた。そうした政策変更が勝因の一つとみられる」

    CDUの政権復帰は、ドイツ政治情勢の安定化になるかどうかだ。首相候補のメルツ氏は、メルケル元首相と移民問題をめぐって対立している。

    (2)「「メルケル路線」からの転換の素地は、難民危機の直後にさかのぼる。当時、急激な難民流入に対して党内には反発もあり、特に南部バイエルン州を基盤とするCSUの党首だったゼーホーファー氏は強硬な対策を主張した。18年3月、第4次メルケル政権でゼーホーファー氏が内相に就くと政権内でも対立が深まり、政権崩壊の危機にまで発展。内輪もめが与党不信を招き、地方選挙で相次いで大敗した。その責任を取る形で、メルケル氏は18年10月、21年で政界から引退すると宣言。メルケル氏個人の人気に支えられた面も大きかった長期政権は、終わりを迎えた」

    ウクライナ戦争を機に、メルケル氏への高評価が低下した。エネルギーでのロシア依存度を高めたほかに、輸出での中国市場依存が現在、裏目に出ているからだ。メルツ氏は、こうした状況判断で、「脱メルケル」を打ち出したのであろう。移民問題も厳しい路線へ転換した。


    (3)「党勢が弱くなったことの一因には、13年に結党したAfDの存在もある。当初は欧州連合(EU)の共通通貨ユーロの導入反対を掲げたAfDだったが、反移民・難民を主張し始めたのだ。その結果、難民受け入れに懐疑的なCDU・CSU支持層の票が奪われることになった。その後、メルケル路線を引き継いでCDU党首に就いたラシェット氏は、21年の総選挙でショルツ現首相の社会民主党に敗北し辞任。22年、党勢の挽回を期待され、次の党首に選出されたのがメルツ氏だ」

    CDU・CSUは、反移民・難民を主張するAfDに選挙地盤を蚕食されている。メルツ氏は、この危機感からあえてAfDの主張に近い公約を打ち出したともみられる。


    (4)「メルツ氏は「闘士」だと、長く取材してきた独ジャーナリストのダニエル・ゴファート氏は表現する。対峙する相手を攻撃して「緊迫を生むのにたけている」という。今回の選挙では国内で高まる移民・難民への反感を意識し、与党の対策への批判を強めて支持率トップを維持した。それだけでなく、今年1月には厳格な移民・難民対策を政府に求める決議案を連邦議会に提出し、AfDの賛成を得て可決に持ち込んだ。過去にナチスを生んだドイツ政界では極右勢力との協力は「禁じ手」だ。こうした手法にはAfDの支持層を取り込む狙いもあったとみられるが、メルケル氏からも「間違っている」と批判され、決別をさらに印象付けた。与党からは「信頼できない」(ショルツ氏)などと非難を浴びる」

    メルツ氏は、機を見るに敏なタイプのようだ。目先の変化にすぐに対応するので、厳しい批判もあびている。

    (5)「単独過半数には届かなかったCDU・CSUは今後、他党との連立交渉に入る。メルツ氏はAfDとの連立を否定しており、与党・社民党との大連立が有力とされるが、連立協議は難航しそうだ」

    首相候補のメルツ氏が、人間的に信頼度が低いとすれば、連立政権樹立まで時間がかかりそうだ。


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    世界第2位の自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)は、EV(電気自動車)で大きな経営蹉跌に陥っている。ドイツ政府のEV補助金打ち切りと、中国市場におけるEV不振が原因である。EV依存経営が、VW経営の屋台骨を揺るがしている。これに比べて、トヨタ自動車の「全方位経営」は見事と言うほかない。EVやHV(ハイブリッド車)水素自動車(水素燃料エンジン・燃料電池車)と可能な限りの動力源開発を行っている。VWには、こういう技術的な広がりがなかった。

    『時事通信』(12月27日付)は、「ドイツ自動車産業に冬の時代、米中に憂いの種 相次ぐ事業再編」と題する記事を掲載した。

    ドイツ自動車産業に冬の時代が訪れている。中国勢の台頭や電気自動車(EV)の普及の遅れに加え、トランプ次期米大統領が掲げる高関税政策が追い打ちとなりそうだ。業界全体に事業再編の波が押し寄せている。

    (1)「最大手フォルクスワーゲン(VW)の労使は12月20日、年間73万4000台分の生産縮小と3万5000人の人員削減を含むリストラを2030年までに独国内で実施することで合意した。VWグループは、世界販売の3分の1を占める中国市場で、EV大手比亜迪(BYD)をはじめとする地元勢にシェアを奪われた。この結果、割高な人件費やエネルギーコストのために利益率が低い独工場にメスを入れざるを得なくなった。世界的なハイブリッド車(HV)回帰の流れにも乗り遅れた」

    VWは、EVへ100%賭ける経営へ走ってしまった。耐久消費財では、普及途上で技術的理由による「キャズム」(溝)が生じるという経営鉄則を無視すると大きな取りこぼしをした。トヨタは、このキャズムの存在によって、EVの販売において「挫折」が起こることを認識していた。それは、電池の開発である。完璧な電池は現在、使われているリチウム電池でなく、全固体電池であることを見抜いて、この開発に全力をあげている。VWは、電池の開発も行っていなかった。二重三重の「取りこぼし」があったのだ。

    (2)「IFO経済研究所のフュースト所長は、「VWは氷山の一角にすぎない」と指摘する。高級車大手メルセデス・ベンツとBMWも業績が振るわず、サプライチェーン(部品供給網)全体の地盤沈下につながっている。24年に入り、部品大手のZFやボッシュ、重工大手ティッセンクルップが大規模な人員削減を明らかにした。ドイツは、主要国の中でも輸出依存度が高く、とりわけ自動車や関連部品は輸出の柱として独経済をけん引してきた。しかし、最大の輸出相手国である米国のトランプ次期政権が保護主義的な貿易政策を打ち出しており、「輸出企業に大打撃になる」(ケルンのドイツ経済研究所)と警戒の声が上がる」

    VWの年次報告書によると、23年にVWが世界で売った936万台の内、32.7%にあたる307万台が中国市場である。VWは、中国の消費者が好むEVの開発に遅れており、これが将来の見通しを暗くさせている。今後の経営戦略は、中国市場と欧州市場の建直しだが、その戦略が立たないのだ。

    (3)「高い電気代や難解な役所手続きが、ドイツの産業立地としての競争力を低下させているとの指摘も絶えない。ただ、安定した新政権が発足する来春以降まで、政府による打開策は望めない。EVで先行する米テスラやBYDは欧州市場にも浸透し始めており、独企業は地力を試される厳しい局面を迎えている」

    EV市場は、消費者の要望で自然発生的に生まれた市場ではない。二酸化炭素削減という政策によって生まれた人工的市場という指摘がある。その通りであって、EVがユーザーに溶け込むには、価格と機能がエンジン車とくらべ遜色ないレベルマで「進化」することが求められる。トヨタはその時期が、2030年頃にくると設定している。全固体電池搭載のEV発売時期をここに合せている理由だ。

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    世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)は、かつてない経営危機に追込まれている。「第2のGM」同様の窮地に喘いでいるのだ。EV(電気自動車)戦略の誤りと、中国市場の不振が重なり合っている。PER(株価収益率)は、こともあろうに3.3倍という捨値同様の扱いだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(10月31日付)は、「窮地のフォルクスワーゲン、中国対策示せず」と題する記事を掲載した。

     

    独フォルクスワーゲン(VW)は、コスト削減で危機を乗り切れるだろうか。同社はドイツ国内のいくつかの工場を閉鎖し、数万人の人員削減を計画している。だが現時点の問題は、VWがリストラする必要があるかどうかではなく、それだけで窮地を脱することができるかどうかだ。

     

    (1)「相次ぐ業績見通しの下方修正や、直近では79月期決算が64%減益となったように、VWは問題が山積している。最大の問題は、より低価格で優れた車を生産している中国だ。VWの中国での納車台数は2024年19月に10%減少した。同社は、中国における合弁事業からの24年の寄与を「出資比率に応じた営業利益」である約16億ユーロ(約2600億円)と見込んでいるが、これは22年の約半分にとどまる」

     

    VWは、中国で急速に競争力を失っている。加えて、ドイツ国内のEV不振でダプルパンチを食った形だ。

     

    (2)「中国メーカーとの競争は、中国国内でも海外でも構造的なものであり、容易に反転させられるものではない。欧州連合(EU)による中国製電気自動車(EV)への追加関税は、中国車の躍進を止めることにはならず、遅らせるだけだろう。そのうえ、欧州の自動車販売は循環的な減速傾向にあるとみられる。24年は市場全体で1400万台と、新型コロナウイルス禍以前の1600万台を下回ると予想されている。こうした状況によって、VWは持続不可能なほど高い原価率に苦しんでいる」

     

    VWは、持続不可能なほど高い原価率に苦しんでいる。24年通期の売上高営業利益率は、従来予想の「6.5〜7%」から5.%に下方修正した。売上高営業利益率は、自動車メーカーにとって5%台維持がレッドラインとされている。これを割込むと、新車開発などで支障を来すとされる、VWは、経営的にギリギリの線へ追込まれている。

     

    (3)「問題の多くは、同社の中核であるVWブランドにある。同ブランドは好況時でも利益率が低い。79月期には1.%に低下した。これは同社の通期目標である5.%を大きく下回る。金融情報サービスS&PキャピタルIQによると、ライバルの仏ルノーは通期で8%近いEBITマージン(利払い・税引き前利益が売上高に占める比率)を達成する見込みだ。VWは26年までにVWブランドの利益率を6.%に引き上げることを目指している。同社は23年、26年までにコストを年間で100億ユーロ削減する計画を発表した」

     

    VWブランドは、もともと「大衆車」で、ビートル(カブトムシ)などのモデルがその象徴である。こうして、低い利益率であることが経営的に響いている。

     

    (4)「米投資銀行スタイフェルのダニエル・シュワーツ氏は、最近報道された工場の閉鎖と人員削減によってさらに40億ユーロのコスト削減が可能になるかもしれないと指摘する。合計すると、VWブランドの売上高の約15%に相当し、これは利益率の目標達成に必要な額を大きく上回る。このように必要以上にコストカットできることが、自動車販売の大幅な減速を緩和できるVWの大きな可能性を示している、と投資家は期待するかもしれない。ただ懸念されるのは、これが国内外における中国メーカーのシェア拡大や、EV販売による利益率の低下、内燃機関車の価格下落など環境の悪化を反映しているのではないかということだ」

     

    工場の閉鎖と人員削減によって、さらに40億ユーロ(約6600億円)のコスト削減が可能とみられる。一見、これは余裕がありそうである。実際は、経済環境の悪化を反映してさらなるコストカットを余儀なくされているに過ぎない。

     

    (5)「これらが、人員削減や工場の閉鎖が激しい反対を受けることと相まって、VWの予想PER(株価収益率)が3.3倍にとどまっている理由だ。投資家は明らかに、VWが再び軌道に乗れると信じていないのだ」

     

    予想PERは、3.3倍まで低落した。投資家は、半ばVWを見放している結果だ。

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