ドイツは、日本を軸としたアジア外交へ急速にシフトしている。先に、外務・防衛「2プラス2会議」を開催して、ドイツ軍と自衛隊の装備共用問題まで踏込んだ議論を始めている。日独「準同盟」への準備である。
こういう中で4日、ショルツ首相が訪中したのだ。内外の強い反対を押し切ったもので、日帰り強行日程で、内外の批判へ配慮した形だ。近く、インドネシアでG20が開催される。その際、中独首脳が初会見では拙いという儀礼目的での訪問のようだ。中国側の強い要請での訪中であったという。
『日本経済新聞 電子版』(11月4日付)は、「中国・ドイツ、政経両面で距離測る 北京で首脳会談」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席とドイツのショルツ首相の会談は、米欧がドイツの中国接近に懸念を深める中で、政治・経済両面で距離感を探り合う展開となった。エネルギー価格の高騰で経済が厳しくなるドイツは中国市場を重視するが、台湾や人権問題への懸念からバランスに苦慮している。
(1)「中国側の狙いは明確だった。習氏は会談の冒頭で「あなたは(10月の)共産党大会後に初めて訪問した欧州の指導者だ」と語りかけ、手放しで喜んでみせた。中国はドイツの中国離れをくい止め、米国主導の対中包囲網の足並みを崩したい考えだ。ドイツが米国の対中ハイテク封鎖に加わらないうちにくさびを打ち込む思惑もある。中国と欧州連合(EU)が大筋合意したまま審議が止まっている投資協定の発効に向けてドイツの協力を取り付けたい事情もある。投資協定には相手国に進出した企業を保護する規定が含まれる」
中国は、ロシアのウクライナ侵攻を支持したことで、EU(欧州連合)の信頼を大きく損ねることになった。特にドイツは、ナチスの古傷を抱える国だけに、中国のロシア支持は絶対に受入れられない行動である。20年末、ドイツが努力してまとめた中国・EU投資協定は、中国の新疆ウイグル族弾圧で宙に浮いている。人権問題は、EUが最も敏感な問題である。この件で、中国はEU関係者に制裁を加えた。投資協定は、いずれ批准されず立ち消えの運命である。
(2)「訪中は、ショルツ氏にとって現実的なタイミングだった。11月中旬にインドネシアで20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を控え、習氏との会談で他国に出遅れないために党大会後の訪中要請にあえて応じた。ドイツにとって中国は最も重要な市場だ。中国は6年連続で独最大の貿易相手国。ショルツ氏の訪中には中国で人気の自動車大手フォルクスワーゲン(VW)やBMW、アディダスなどの名だたる独企業の幹部がそろって同行した。VWはグループ全体の自動車販売に占める中国の規模が4割程度に達する」
ドイツは、メルケル前首相時代まで中国と蜜月関係を結んでいた。それが、中国の新疆ウイグル族弾圧ですっかり冷え切っている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻への中国の姿勢も関係を複雑にした。ドイツ外交では、明らかに日米への一体感を示している。もはや、「覆水盆に返らず」というのが、中独関係を示している。
(3)「両国の思惑は複雑だ。中国は経済的な結びつきを武器に取り込みを強める一方、ドイツでは台湾問題や人権侵害をめぐり対中強硬論が勢いを増しつつある。肝心の貿易構造もじわり変化し、ドイツにとっては中国からの輸入が輸出を上回る貿易赤字が拡大するなど外貨を稼ぎにくくなっている。中国政府に定期的に提言する北京市の大学教授は、「ドイツと関係を強めればEUは後からついてくる」と指摘する。香港紙の明報は4日付で、中独首脳会談は悪化がとまらない中国と欧州の関係の「止血作用」があると指摘した」
中国は、ドイツにすがりついている感じである。「中国を捨てないで」というイメージになっているのだ。ドイツは、中国に対する過度の経済依存を清算する意思を固めている。それは、ロシアへとエネルギー問題で過度の依存をして今、大変な事態を迎えている経験に立っている。こういう反省が、ドイツ外交に生まれている。中国の認識は、気の毒なほど遅れているのだ。
(4)「ショルツ氏は経済果実を狙いつつ、西側の批判を意識したバランス外交に腐心している。21年12月の首相就任以降、アジアで初めて訪問したのは日本だ。国家元首のシュタインマイヤー大統領も1日から日本を訪問し、韓国にも寄る。ショルツ氏の訪中もわずか11時間にとどめ、あえて宿泊しない日程を組んだ。来年には「対中政策の基本指針」も取りまとめる方向だ。「今こそ直談判が重要だ」。ショルツ氏は訪中前の独紙への寄稿で、人権侵害や台湾問題、公正な貿易取引を実現するため論争も避けないと強調してみせた」
ドイツは、経済よりも人権・安保という「大国外交」の矜恃を見せている。この裏には、対中貿易黒字が赤字に転落している面もある。貿易面でのドイツ優位が崩れたのだ。「中国より日本へ」、これがドイツ外交の基軸になっている。メルケル時代とは、真逆になった。