日本とドイツの製造業が、物理空間を認識・制御できる「フィジカルAI(人工知能)」の導入を急ぐ。ファナックは、米エヌビディアと提携し、産業用ロボットにAIを実装する。現場データを生かしたAIで、ものづくりの精度とスピードを上げる動きが活発化している。だが、時間のズレがなく現場AIの判断で動作を決める、文字通りのフィジカルAIは、ラピダスのAI半導体が製品化しなければ実現困難である。それまでの繋ぎとして、クラウド型AIを仲介とするフィジカルAIが、幕間繋ぎとして登場しようとしている。ただ、こういう認識は一般化していない。
『日本経済新聞』(4月25日付)は、「日独勢『フィジカルAI』急ぐ 製造現場の知見、取り込み ファナックはエヌビディアと連携」と題する記事を掲載した
(1)「ファナックは米エヌビディアと提携し、産業用ロボットにAIを実装する。現場データを生かしたAIでものづくりの精度とスピードを上げる。中国が、低価格なハードウエア技術を進化させ、米国がAIで競争力を高める中、日独製造業の競争優位が薄れている。今なお強みが残る製造現場の知見をいかに早くAIに取り込めるかが再浮上のカギを握る」
産業用ロボットにAIを実装して「フィジカルAI」機能を持たせようとしている。ただ、クラウドAIから指令を受ける点では、真の意味での「現場AI」(フィジカルAI)とは言いがたい。米エヌビディアと提携することは、高価な「GPU」半導体を組込むので割高なフィジカルAIになる。ラピダスが開発中の現場AIは、安価なCPU半導体で機能するので低コストである。しかも、クラウドAIからの指令も不要で、現場で単独で即決で機能する。
(2)「ファナックは25年12月、AIに対応する産業用ロボットの提案を始めた。社外には閉ざしてきた産業ロボットを制御できるソフトを公開する「オープンソース化」と呼ぶ取り組みだ。200種以上ある同社全ての産業用ロボットに対応する。ファナックがオープン化にかじを切った背景に中国企業の急成長がある。世界の産業用ロボット市場で1990年代に日本製はシェア8割を握っていた。だが、24年には約4割まで低下した。躍進するのが、南京埃斯頓自動化(エステン)などの中国新興勢だ」
日本の産業用ロボットメーカーが、人型ロボット進出で落ち着いているのは、フィジカルAIの「本番」がラピダス半導体であることを熟知しているからだ。エヌビディアのGPU半導体は、本番でないことを見抜いている結果であろう。
(3)「稼働時に得られるデータは基本的に顧客企業に所有権があるため、ロボットメーカーはデータを活用したビジネスを展開しにくい。ハードの単品売りが主体になると価格競争にさらされやすく、品質を高めた安価な中国製品が比較優位に立つという構図となる。ハードにこだわり続けてきた日本の製造業はAIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)でも後れを取った。米テック大手のソフトへの依存が高まり、DXを進めるほど海外に資金が流れる「デジタル赤字」が生じた」
稼働時に得られるデータは、基本的に顧客企業に所有権がある。これは、「企業秘密」に当たる部分である。それだけに、クラウドAIには乗せたくないはずだ。この点、ラビダス半導体による現場AIは、顧客企業データをそのまま生かして稼働するシステムである。外部に貴重なデータは漏れないのだ。
(4)「ドイツは、11年に「インダストリー4.0」のコンセプトを提唱し、製造業の自動化の先駆者だったが、独工作機械受注額は23年から3年連続で前年比マイナスに沈む。「まだ決着はついていない。問われているのは、AIをいかに現実世界に導入するかだ」。20日からハノーバーで開催された産業機器見本市「ハノーバーメッセ2026」で独シーメンスのローランド・ブッシュ社長は挽回のチャンスはあると強調した。フィジカルAIで作業を実行するには大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)の知識だけでは不十分だ。熟練者が積み上げてきた設備の運用・保守の知識など暗黙知を体系的に組み合わせる必要がある。その技術領域に日独製造業にとっての「ラストリゾート(頼みの綱)」が隠されている。
ラピダスのAI半導体が、27年以降に量産化見通である。エヌビディア半導体利用のクラウドAIから指令される現場AIは、決して本来の現場AIではない。ラピダスのAI半導体が登場すれば、流れは一挙に変わるであろう。急がば回れである。




