現在、欧州と中東で起こっている2つの戦争は、伝染病のような形で戦争拡大を示している。戦争抑止力が鈍るのであろう。こういう不幸な連鎖の続きで、台湾と朝鮮半島が戦争に見舞われたらどうなるか。そういう、認識が韓国で出始めた。戦争は絶対に避けなければならない。ただ、戦争危機を唱えて軍備増強を図るという「便乗論」にも注意が必要だ。次に紹介するものは、そういう便乗の匂いがするので要注意である。
『中央日報』(11月3日付)は、「4つの戦争が同時勃発時、米国には韓国を助ける余力ない」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔潤喜(チェ・ユンヒ)元合同参謀議長・韓国海洋連盟総裁である。
8月に開かれた米国キャンプデービッド会談は歴史的成果をあげた。3国間の安全保障協力基盤を准同盟水準に格上げして実戦的行動指針を用意した。北朝鮮の核・ミサイル脅威に備えた情報共有はもちろん、対応訓練も可能にした。訓練領域も地上・海上・空中を越えてサイバーを含む全領域に拡大した。訓練期間もまた、3~5年の多年計画で実効性を高めた。一言でいうと安全保障協力のビジョンと履行方案に対する持続力ある指針を作ったのだ。
(1)「世の中あらゆることがそうであるように、キャンプデービッド会談にも明暗が共存する。会談は一見、3国が共同で当面の北朝鮮の核・ミサイル脅威に備えているかのように見える。韓日米間で公告した協力体系は朝中露をさらに結束させて我々に甚大な影響を及ぼすだろう。その中心には、いつ勃発するか分からない台湾事態が席を占めている。台湾事態が我々の安全保障に及ぼす影響を深層的に分析して備えなければならない」
日米韓3カ国が、安全保障問題で協力することが、8月の米キャンプデービッド会談で合意された。その核心的な問題は、台湾有事である。
(2)「筆者は今年8月、台湾外交部と米国シンクタンク大西洋評議会が主管した討論会に参加した。中国が台湾に侵攻する場合の対応を議論する席だった。その中で、最も関心を引いたのは中国が台湾を侵攻する際、韓半島でも同時に戦線を張るだろうという米国シンクタンク「スコウクロフト戦略・安全保障センター」の主張だった。これは米国の力を分散させるための中国の策略で、過去韓国戦争(朝鮮戦争)の事例を考慮すれば十分可能な主張だ。最近活発になった朝中露の活動を見るとさらに説得力がある」
下線部のように、中国が台湾を侵攻する場合、米軍兵力を二分するために朝鮮半島で紛争を起こさせるという見方が有力されている。文政権時代は、こういう危機感はゼロであった。ユン政権になって、その現実性が議論されるようになっている。
(3)「中国は、これに備えて軍指揮構造を北部管区(北朝鮮)と東部管区(台湾)に再編成した。2つの戦争(紛争)状況が発生すれば米国の軍事力は半減するだろう。台湾の邱国正国防部長にその可能性と対策を尋ねると即答を避けた。すべてを米国に依存しなければならない台湾はそのような談論自体が負担なのであろう。これとは違って米国はその可能性を高く考え、機会があるたびに強調する」
中国は、すでに軍指揮構造を北部管区(北朝鮮)と東部管区(台湾)に再編成した。中国は、台湾と朝鮮半島で二正面作戦を行う準備をしている。
(4)「最近、ウクライナ戦争とあわせてイスラエル・ハマス戦争が勃発して米国があれほど避けようとしていた2つの同時戦争が起きた。弱り目にたたり目でキャンプデービッド会談の余波で台湾と北朝鮮事態まで発生すれば、最悪の場合4つの戦争が同時に起きる状況になりかねない。米国としては最悪の状況であり、我々にとっても致命的だ。そのような場合、米国は我々を助ける余力がないため、なんとかしてこのような事態を防がなければならない」
世界では、すでにウクライナ戦争と、イスラエル・ハマス戦争が勃発している。これに、台湾と朝鮮有事が加われば4つの戦争が同時に起きるという「世界大戦」並みの危機になる。
(5)「万一、北朝鮮が挑発するとすればその舞台は海になるだろう。これまでいつもそうだったように、海上での適当な程度の挑発で米国と韓国を困惑させる可能性が高い。韓半島(朝鮮半島)での全面戦争は北朝鮮体制を倒す契機になりかねないためだ。最近、金正恩(キム・ジョンウン)が海軍力増強の必要性を強調した意味を再確認しなければならない。ロシアと協力して原子力推進潜水艦を開発すれば領域内の海洋安全保障環境は新たな局面を迎えることになる。韓半島でなくてもどこでも挑発が可能だ。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を利用した戦略的打撃はもちろん、通常路での魚雷攻撃など選択肢が無尽蔵だ」
北朝鮮は、韓国を挑発する場合、海上がその舞台になるという。陸上では、本格戦争に発展して、北朝鮮に勝ち目がないという判断かも知れない。最近、北朝鮮が原子力潜水艦開発を言い出しているのが、その理由としている。
(6)「一日も早く現事態を安定させて北朝鮮挑発を抑制する対策を用意しなければならない。特に北朝鮮の原子力推進潜水艦に対する対応能力を迅速に確保しなければならない。核燃料の確保と濃縮に制約がない北朝鮮は近く原子力推進潜水艦を確保する公算が大きい。さまざまな制約が多い我々は先が長い。キャンプデービッド精神を生かして大乗的な解決策を見出さなければならない」
韓国が、原子力潜水艦を建艦しなければならないという理由は、世界4箇所の同時戦争になれば、米軍支援を期待できないとする前提がある。だが、今から韓国が原子力潜水艦を建艦しても実戦に間に合うはずがない。どうも、韓国軍出身者が世界4箇所の同時戦争説を利用して、原子力潜水艦を建艦しようと意図していることに注意すべきだろう。