スマホ組み立ての台湾・鴻海(ホンハイ)が、「EV(電気自動車)の委託生産」という電機産業での成功体験を、EV業界へ移植する挑戦を始めた。特に、車台の共通化やモジュール化を進めることで、コスト削減と生産効率の向上を図っている。ただ、現状は世界的なEV不振に見舞われており、苦しい船出となる。多額の先行投資を必要とするだけに、成功するかどうかは未知数である。25年までに世界EVシェア5%目標を掲げている。
『日本経済新聞 電子版』(11月18日付)は、「鴻海、次の一手はEV受託生産 強みは『車台共通化』」と題する記事を掲載した。
台湾の鴻海精密工業は、米アップルのスマートフォン「iPhone」最大の製造委託先という従来のイメージから脱しつつある。今年は人工知能(AI)搭載サーバーでスポットライトを浴びた。さらに「次の一手」として電気自動車受託生産事業にも力を入れている。
(1)「EV参入表明からわずか5年で鴻海は、合計8車種を開発・試作した。そのうち新型2モデルが10月上旬、台湾・台北市で開かれた年次の技術発表会「鴻海科技日(鴻海テックデー)」で発表された。鴻海経営トップの劉揚偉・董事長は開幕式の後、記者団に「我々のEVは大体同じプラットホーム(車台)で作られている」と説明。新モデルを続々と登場させられるのは、自動車の骨格となる車台を共通化できているためだという」
自動車コスト切下げでは、車台共通化が切り札になっている。定石通り、これを実現する。
(2)「鴻海のEV事業は、「CDMS(設計・製造受託サービス)」と呼ぶビジネスモデルで展開している。鴻海のデザインに顧客がカスタマイズを加え、製造を鴻海が請け負う。EV事業の関潤・最高戦略責任者(CSO)は、鴻海子会社シャープのコンセプトカー「LDK+」が、鴻海の「モデルA」を土台として開発されたEVだと明らかにした」
鴻海は、EVを極めて気軽に製造するイメージである。一方、ソニーとホンダは、2022年に戦略的提携を発表し2025年に新型EVの初期モデルを発売する予定だ。この新型EVは、2025年1月ラスベガスで開催される「CES2025」で初公開される。鴻海は、こういう本格的EVと対抗できるだろうか。
(3)「鴻海テックデーで、日本向けにカスタマイズしたコンセプトカー「モデルA」が初展示された。当初は、ファミリーカーを想定して開発を進めたが、タクシーや物流用途での活用も可能という。関氏は、台湾や東南アジア市場も視野に入れていると意気込む。「鴻海は伝統的な自動車工場ではなく、リファレンスデザイン(参照設計)を提供する会社だ」。劉董事長はこう強調した。EVで競争が激化するなか、市場投入までの時間を短縮し、コストを抑えることが各自動車メーカーの課題だ。PC(パソコン)やスマホ分野で広く採用されている製造プロセスのように、EV事業でも垂直統合型の事業モデルの確立が欠かせない」
日本には、トヨタや日産、ホンダがEVで技術をみがいている。この日本市場で、鴻海EVがお目見えする可能性は小さいであろう。安全性が最大のポイントになろう。
(4)「EV参入の初期目標として2025年までに世界EV市場で5%のシェアを握ることと、1兆台湾ドル(約4兆7500億円)の売上高達成を掲げている。14日に開いた決算説明会で、鴻海経営陣は進捗が想定通りだと語った。ただ、新しい技術やビジネスモデルの採用に関して慎重な見方もあわせて示し、目標達成の時期が後ずれする可能性を示唆した」
MIHコンソーシアムは、鴻海が主導するEV開発の企業連合である。営利団体ではなく、EVの車体から車周りのサービスをパッケージとして提案することを目指している。10月末時点で74カ国の2714社以上が参画している。日本企業では、ニデックや村田製作所も名前を連ねている。このMIHが、EV製造で協力する。問題は、EV発注者が順調に増えるかだ。
(5)「鴻海が取り組む「3+3」戦略は、「AI、半導体、次世代通信」の3つのコア技術と、「EV、デジタル医療、ロボット」の3つの新興産業で構成されている。AI搭載サーバーへの期待を追い風に7月に付けた上場来高値に比べ、足元の株価は1割程度安い。EV事業が新たな一手として育ち始めれば、見直し買いによって再び上値を追えるかもしれない」
鴻海は、「AI、半導体、次世代通信」と「EV、デジタル医療、ロボット」の「3+3」戦略を基本にしている。これら戦略は、日本のラピダスやNTTの「IOWN」次世代通信網計画とレベルは異なるが、同一方向を目指している。その意味で、鴻海の戦略に間違いはなさそうだ。ラピダスやNTTは、個別技術の開発である。