勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    世界1位となった台湾半導体企業TSMCは、AI(人工知能)半導体需要の急増に合わせ、台湾で10工場の増設を検討していると伝えられた。その後、「後工程」について日本が技術的に進んでいることから、日本での生産を新たに検討している模様だ。これは、従来の日本における半導体工場建設と別プランみられる。

     

    米インテルも、日本での開発拠点設置を検討しているという。サムスンは、すでに開発拠点設置にむけて動いている。こうして、日本の持つ半導体総合力(製造設備・素材・後工程)に注目して、世界の半導体企業が日本へ集結し始めている。

     

    『ロイター』(3月18日付)は、「日本に先端半導体『後工程』の生産能力、TSMCが検討ー関係者」と題する記事を掲載した。

     

    半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、人工知能(AI)向け半導体の生産に不可欠な先端パッケージング工程を日本に設置する検討をしていることが分かった。AI半導体の需要急増でTSMCは同工程の処理能力が不足しており、製造装置や材料メーカーが集積する日本を候補として考えている。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。検討は初期段階で、規模や時期など詳細は決まっていない。

     

    (1)「同関係者らによると、TSMCは「CoWoS」(チップ・オン・ウェーハ・オン・サブストレート)という同社独自のパッケージング工程を日本に導入することを選択肢の1つに入れている。回路を微細化する前工程の技術による性能向上が限界に近づく中、複数のチップを1パッケージに実装するチップレットや立体的に重ね3次元実装して性能を向上させる先端パッケージング技術の重要性が後工程の中で高まっている。TSMCは2022年、パッケージング工程の研究開発拠点を茨城県つくば市に設立したが、CoWoSの本格的な生産設備は、台湾だけにとどまる」

     

    TSMCは22年、筑波に研究開発拠点を設けた。これには、日本の大学や半導体製造設備メーカーや素材メーカーなどが参加する大掛かりなものだ。TSMCはすでに、日本技術を利用している形である。この延長で、日本においてAI半導体の後工程を生産するのはごく自然な流れであろう。日本企業も、ここで「技」を磨いているので遅れを取ることもない。

     

    (2)「同社は1月の会見で、CoWoSの生産能力を24年に前年比で約2倍にする計画を公表し、25年以降も増強する方針を示した。先端パッケージングは半導体各社が注力しており、別の複数の関係者によると、米インテルも日本での開発拠点の開設を検討している。インテルはコメントを控えた。韓国サムスン電子は、すでに横浜市に先端工程の試作ラインを新設することを決めた」

     

    インテルは、非メモリー半導体でサムスンへ挑戦している。TSMCに次いで世界2位になることを宣言し、米国政府も後押しする。こうなると、インテルはTSMCが日本で展開する戦術を傍観している訳にいかず、日本で研究開発拠点を設けるほかないと判断したのかも知れない。サムスンも横浜で先端工程の試作ラインを新設する。

     

    (3)「各社とも、半導体の素材や製造装置に強みを持つ日本企業と連携し、開発力を強化したい考え。とりわけTSMCは、年内に稼働する熊本県の前工程の工場建設が順調に進んだことから、労働文化が似た日本を有望視していると、前出の関係者2人は言う。 半導体産業の復興へ多額の補助金を投入してきた経済産業省の幹部は、日本で先端パッケージングの生産能力が確保される場合、「支援したい意向がある」と話す。AIの普及により、急速に高まる先端パッケージングの需要に対して「タイムリーに対応していく」とも述べた」

     

    AI半導体は、世界的な供給不足に陥っている。生産の主力は台湾である。日本が、その製造工程の半分を担うとなれば、これまで予想もしていなかった「半導体展開」が始まる。1980年代後半、世界半導体の頂点に立った日本が、再び脚光を浴びる環境が整い始めた。

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    中国では、習近平国家主席の3期目が確実視されている中で、台湾企業の「脱中国」が鮮明になっている。台湾政府の東南アジア重視政策と軌を一にするものだ。中国での台湾企業のウエイトは大きい。それだけに、台湾企業が東南アジア重視で動き出すことは痛手となろう。

     

    『日本経済新聞』(10月16日付)は、「台湾企業、中国から南方へ 『新南向政策』 アジア諸国と関係強化」と題する記事を掲載した。

     

    中国本土に進出した台湾企業が、東南アジアへの移転を加速させていることが判明した。これは、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の重要な外交政策転換と軌を一にするものだ。

     


    (1)「調査は、シンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)が500人以上の台湾企業幹部を対象に実施、10月上旬に結果が発表された。ペロシ米下院議長が台北を訪問する直前の、7月下旬に調査された。中国で事業を行っている台湾企業の4分の1以上が、生産または部品調達の一部を中国から移転済みで、3分の1は移転を検討中だという。また、移転したうちの6割超は東南アジアに向かったほか、半数強の企業は事業の一部を台湾に戻している」

     

    中国へ進出している台湾企業は、中国での事業継続にリスクを感じている。ペロシ米下院議長が訪台する前の調査では、3分の1は移転を検討中だ。4分の1以上が、生産または部品調達の一部を中国から移転済みである。移転先の6割超は、東南アジアである。

     

    ペロシ氏の訪台後、中国軍が台湾を取り囲む軍事演習を行なったので、台湾企業の「脱中国」に一層の拍車が掛かっているであろう。

     


    (2)「台北のシンクタンク、台湾世代教育基金会の陳冠廷(チェン・クァンティン)最高経営責任者(CEO)は、「中国でビジネスを行う際に遭遇する費用や信頼性の問題が目立ってきたことを考慮すると、新政策はタイミングがいいのは間違いない」と評価する。2016年に蔡総統は、「新南向政策(NSP)」と呼ばれる外交戦略を開始した。これは台湾が南方に位置する近隣諸国との関係を強化し、中国本土の市場から離れて多様化を図るというものだ。新政策には台湾と東南アジアや南アジア諸国との人脈、貿易、投資を強化する狙いがある。NSPは、台湾の投資家が東南アジア諸国の経済発展を支援しようという「台湾にとってより大きな戦略的転換の一部だ」と陳氏は解説する」

     

    2016年に蔡総統は、「新南向政策(NSP)」と呼ばれる外交戦略を始めた。台湾企業の「脱中国」に羅針盤的な役割を果たしている。台湾政府は、積極的に企業支援を行なっている。

     


    (3)「10月7日に台北で開かれた国際フォーラム「玉山論壇」に蔡総統が登壇し、新型コロナウイルス感染症流行後の台湾とアジアとの関わりにおいて、NSPが重要な役割を果たすと語った。「台湾企業は東南アジアへの投資を驚異的な速度で増やしてきた」と述べ、17月にNSPが対象とする18カ国への台湾からの投資額が22億ドル(約3200億円)を超え、対外投資総額の4割超を占めたことを強調した

     

    台湾は、安全保障上からも東南アジアとの関係強化が急務である。現状の東南アジアは、中国資本によって大きな影響力が及んでいる。それだけに、台湾企業も確たる地位を占めなければ、台湾の存在感自体が問われることになる。対外投資額の4割超が、今年1~7月で東南アジアが占めるようになった。

     


    (4)「CSISの調査でも、台湾企業が中国経済への過度な依存と軍事衝突の危険性について、不安に思っていることが明らかだ。そして4分の3以上が中国への経済的依存を減らす必要があると回答している。報告書は「地域協定(を結ぶ各国)や米国と貿易・投資関係を強化したり、研究開発投資の拡大や対中技術移転の制限強化を通じて台湾の技術的優位を維持したりすることには、大きな支援がある」と指摘する」

     

    中国進出の台湾企業の4分の3以上は、中国への経済的依存のリスクを感じている。習近平氏は、国家主席3期目となって「台湾統一問題」を前面に据えてくるであろう。台湾企業の「脱中国」は焦眉の急となってくるであろう。

     


    (5)「台湾企業は中国から移転しつつあるだけではなく、台湾からも移転しつつある。調査対象の1割強が一部の事業を既に台湾から移し、約2割が移転を検討中とのことだ。移転先は7割弱が東南アジアだった。「台湾企業が地域的に広がり、他の多国籍企業と同じように生産や調達を行うにつれ、中国との関係は弱まり、10年前には予見できなかった形に変わりつつある」と報告書にはある」

     

    台湾企業の多国籍化が進む勢いである。これは、台湾経済にとって大きな力になろう。

     

    (6)「CSISは、中国は(台湾企業からの)信頼の危機を食い止める必要があり、台湾は自分たちに有利な経済関係を維持しながら、中国から離れて多様化を図る必要がある、と結論づけている。また米国は、中国が半導体をはじめとする台湾の産業に依存させ続けるという課題に直面しているとしている。CSISはまた、台湾企業が研究開発、教育、エネルギーなどの分野で国際的な競争力を維持できるよう、当局がさらなる支援を提供する必要があるとしている。台湾が安全保障法などを改正することが、中国への高度な技術の移転を食い止めるのに役立つ、という分析だ」

     

    台湾企業は、中国経済において大きな役割を占めている。特に、輸出面でそれが顕著だ。それにも関わらず、中国政府は、台湾企業へ不安を与えるような言動を繰返している。余りにも、政治的意図が露骨に出ているのだ。

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    韓国半導体の実力を診断

    半導体工場が台湾“占領”

    欧州にない産業が台湾に

     

    韓国経済の屋台骨は、半導体輸出である。韓国は、5月以降貿易赤字に落込んだ。半導体輸出の不振が影響している。最近のウォン相場急落の裏には、半導体輸出不振による貿易赤字という問題があるのだ。

     

    韓国経済は、製造業における一種の「モノカルチャー」的な現象を呈している。モノカルチャーとは、一国の産業構造が1つまたは2~3品目の農産物や鉱物資源の生産 (輸出向け)に特化した経済のことだ。韓国は、工業製品で半導体が圧倒的なシェアを占めている。その意味では、半導体が転けたらコリア経済も転ける構造だ。

     


    韓国は、底の浅い経済である。こういう脆弱な構造にあるという認識が、ゼロというのも珍しいことだ。それどころか、GDP10位となって先進国意識に燃えている。文前大統領のように、「日本に二度と負けない」と強烈発言もある。産業構造からみて、これは不可能というほかない。韓国には、バランスの取れた産業構造へ転換することが、最も必要になっている。

     

    韓国半導体の実力を診断

    韓国は、メモリー型半導体で世界一のシェアを誇るが、非メモリー型半導体(システム半導体)では台湾の後塵を拝している。一口で言えば半導体技術力の差である。メモリー型半導体は、パソコンやスマホ、ゲーム機などに大量に使われる汎用品である。非メモリー型半導体は、自動車など一段上の品質を要求される「オーダーメイド」になる。汎用品半導体の市況は大きく変動するが、オーダーメイド半導体はその性格上、価格は比較的に安定している。注文生産ゆえに、過剰生産にならないからだ。

     

    一口に半導体と言っても、メモリー型と非メモリー型ではこういう大きな差がある。韓国は、メモリー型半導体に依存するゆえに、すでに輸出面で市況下落の影響を受けているのだ。

     


    韓国は、中国への輸出全体の依存度が25%と4分の1も占めている。韓国半導体輸出額に占める中国の割合は40%。香港を含めると60%にも達している。だが、中国のメモリー型半導体需要そのものが、大きく落込んでいるのだ。これを受けて、韓国からの半導体輸出も落込む結果となった。

     

    中国国家統計局によれば、中国の8月の半導体生産は、前年同期比で24.7%も減少した。1997年に統計を始めて以来最大の減少だ。7月も前年比16.6%減である。今年1~8月までの半導体生産量は前年比10%減少である。この減少は、パソコンなどの需要減を反映したもの。ゼロコロナで生産が落ちたわけでない。半導体生産は、全自動化であるのでコロナ感染とは無縁である。ただ、停電の影響は受けている。

     

    台湾は、半導体の中国輸出で、韓国と全く異なる様相を呈している。台湾の半導体輸出には、何の変調も出ていないのだ。中国の半導体生産は、需要減で大きく落込んでいるのに、台湾半導体にはその影が全くないのはなぜか。それは、台湾半導体が非メモリー型であることだ。自動車などに使われる「オーダーメイド半導体」であるので、需要先に変調が出ないかぎり、台湾半導体輸出に陰りは出ないであろう。

     


    台湾半導体の対中国輸出状況を見ておこう。

     

    今年1~8月の中国向け半導体輸出が430億ドル。輸出全体の51.8%を占めた。18月の半導体貿易黒字は223億ドル。貿易黒字全体の92.7%を占めた。昨年1~8月の半導体貿易黒字は303億ドル、貿易黒字全体の69.8%だった。

     

    込み入った数字だが、言いたいことは次の点にある。今年は世界的なインフレで輸入物価が上昇している中で、台湾は半導体の貿易黒字で貿易収支全体を支えていることだ。台湾トップの半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)は、設備投資資金も自己資金で賄うという「スーパー優良企業」になっている。「オーダーメイド半導体」の採算が、いかに良いかを端的に物語っているのだ。

     

    TSMCは、半導体の進化を支える微細化技術で、世界一の実力を持つとされる。20年春には半導体の性能を左右する回路線幅が5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を世界で初めて量産。製造分野に集中投資し、「技術力と生産キャパシティーの両面で、各社はTSMCに頼るほかない状況だ」とまで言わせる存在だ。

     


    半導体工場が台湾“占領”

    このTSMCに刺激された形で、台湾全島で半導体設備投資が進められている。台湾は、未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。総額16兆円に及ぶ世界でも例を見ない巨額投資だ。世界から台湾の地政学的リスクが何度も指摘されてきた。それでも、台湾は巨額投資に突き進んでいる。

     

    それは、世界一の「半導体生産基地」になれば、いくら中国でもこれら設備を破壊する侵攻作戦を始めないだろう。また、西側諸国が「半導体」台湾を簡単に見捨てることはあるまい、という思惑に突き動かされているように見える。

     

    台湾南部の中核都市・台南市は、TSMCが一大生産拠点を構えた場所である。世界で最も先端の工場が集まる場所として知られ、今年、TSMCが4つの新工場を完成させたばかりである。さらに、2つの工場が建設されている。(つづく)

     

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