中国では、習近平国家主席の3期目が確実視されている中で、台湾企業の「脱中国」が鮮明になっている。台湾政府の東南アジア重視政策と軌を一にするものだ。中国での台湾企業のウエイトは大きい。それだけに、台湾企業が東南アジア重視で動き出すことは痛手となろう。
『日本経済新聞』(10月16日付)は、「台湾企業、中国から南方へ 『新南向政策』 アジア諸国と関係強化」と題する記事を掲載した。
中国本土に進出した台湾企業が、東南アジアへの移転を加速させていることが判明した。これは、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の重要な外交政策転換と軌を一にするものだ。
(1)「調査は、シンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)が500人以上の台湾企業幹部を対象に実施、10月上旬に結果が発表された。ペロシ米下院議長が台北を訪問する直前の、7月下旬に調査された。中国で事業を行っている台湾企業の4分の1以上が、生産または部品調達の一部を中国から移転済みで、3分の1は移転を検討中だという。また、移転したうちの6割超は東南アジアに向かったほか、半数強の企業は事業の一部を台湾に戻している」
中国へ進出している台湾企業は、中国での事業継続にリスクを感じている。ペロシ米下院議長が訪台する前の調査では、3分の1は移転を検討中だ。4分の1以上が、生産または部品調達の一部を中国から移転済みである。移転先の6割超は、東南アジアである。
ペロシ氏の訪台後、中国軍が台湾を取り囲む軍事演習を行なったので、台湾企業の「脱中国」に一層の拍車が掛かっているであろう。
(2)「台北のシンクタンク、台湾世代教育基金会の陳冠廷(チェン・クァンティン)最高経営責任者(CEO)は、「中国でビジネスを行う際に遭遇する費用や信頼性の問題が目立ってきたことを考慮すると、新政策はタイミングがいいのは間違いない」と評価する。2016年に蔡総統は、「新南向政策(NSP)」と呼ばれる外交戦略を開始した。これは台湾が南方に位置する近隣諸国との関係を強化し、中国本土の市場から離れて多様化を図るというものだ。新政策には台湾と東南アジアや南アジア諸国との人脈、貿易、投資を強化する狙いがある。NSPは、台湾の投資家が東南アジア諸国の経済発展を支援しようという「台湾にとってより大きな戦略的転換の一部だ」と陳氏は解説する」
2016年に蔡総統は、「新南向政策(NSP)」と呼ばれる外交戦略を始めた。台湾企業の「脱中国」に羅針盤的な役割を果たしている。台湾政府は、積極的に企業支援を行なっている。
(3)「10月7日に台北で開かれた国際フォーラム「玉山論壇」に蔡総統が登壇し、新型コロナウイルス感染症流行後の台湾とアジアとの関わりにおいて、NSPが重要な役割を果たすと語った。「台湾企業は東南アジアへの投資を驚異的な速度で増やしてきた」と述べ、1~7月にNSPが対象とする18カ国への台湾からの投資額が22億ドル(約3200億円)を超え、対外投資総額の4割超を占めたことを強調した」
台湾は、安全保障上からも東南アジアとの関係強化が急務である。現状の東南アジアは、中国資本によって大きな影響力が及んでいる。それだけに、台湾企業も確たる地位を占めなければ、台湾の存在感自体が問われることになる。対外投資額の4割超が、今年1~7月で東南アジアが占めるようになった。
(4)「CSISの調査でも、台湾企業が中国経済への過度な依存と軍事衝突の危険性について、不安に思っていることが明らかだ。そして4分の3以上が中国への経済的依存を減らす必要があると回答している。報告書は「地域協定(を結ぶ各国)や米国と貿易・投資関係を強化したり、研究開発投資の拡大や対中技術移転の制限強化を通じて台湾の技術的優位を維持したりすることには、大きな支援がある」と指摘する」
中国進出の台湾企業の4分の3以上は、中国への経済的依存のリスクを感じている。習近平氏は、国家主席3期目となって「台湾統一問題」を前面に据えてくるであろう。台湾企業の「脱中国」は焦眉の急となってくるであろう。
(5)「台湾企業は中国から移転しつつあるだけではなく、台湾からも移転しつつある。調査対象の1割強が一部の事業を既に台湾から移し、約2割が移転を検討中とのことだ。移転先は7割弱が東南アジアだった。「台湾企業が地域的に広がり、他の多国籍企業と同じように生産や調達を行うにつれ、中国との関係は弱まり、10年前には予見できなかった形に変わりつつある」と報告書にはある」
台湾企業の多国籍化が進む勢いである。これは、台湾経済にとって大きな力になろう。
(6)「CSISは、中国は(台湾企業からの)信頼の危機を食い止める必要があり、台湾は自分たちに有利な経済関係を維持しながら、中国から離れて多様化を図る必要がある、と結論づけている。また米国は、中国が半導体をはじめとする台湾の産業に依存させ続けるという課題に直面しているとしている。CSISはまた、台湾企業が研究開発、教育、エネルギーなどの分野で国際的な競争力を維持できるよう、当局がさらなる支援を提供する必要があるとしている。台湾が安全保障法などを改正することが、中国への高度な技術の移転を食い止めるのに役立つ、という分析だ」
台湾企業は、中国経済において大きな役割を占めている。特に、輸出面でそれが顕著だ。それにも関わらず、中国政府は、台湾企業へ不安を与えるような言動を繰返している。余りにも、政治的意図が露骨に出ているのだ。