台湾半導体企業TSMCは2月24日、熊本第一工場の開所式を行った。これは、日本半導体再建の「ゴング」であるだけでなく、世界の半導体「安定供給基地」への名乗り上げでもある。
半導体を巡っても地政学リスクが存在する。中国は、先端半導体で実力発揮を諦めて「成熟半導体」で支配力を目指している。近年は、世界生産能力の2〜3割を握るとされるほどに成長した。台湾調査会社トレンドフォースによると、自動車向けなどの需要が多い28ナノ以前の成熟品で、中国は23年に世界生産能力の29%を占めた。トップの台湾(49%)に次ぐ位置で、増産を経て27年に33%まで高まる見込みという。
これは、西側諸国にとって経済安全保障上、大いに危険なことである。そこで、日本が台湾との協力で成熟半導体の安定供給基地になれば、こうしたリスクを回避できることから、日台の半導体協力が現実問題として浮上している。日本にとってはまたとないチャンスの到来である。
『日本経済新聞 電子版』(2月24日付)は、「半導体供給網、東アジアで再編 中国台頭を日台でけん制」と題する記事を掲載した。
台湾積体電路製造(TSMC)熊本工場の開所は、東アジアをまたぐ半導体サプライチェーン(供給網)再編の足がかりとなる。2024年中に量産を予定する成熟世代の半導体は中国が世界生産能力の3割ほどを握る。日台の連携で中国の影響力拡大をけん制し、供給網の安定性を高める。
(1)「熊本でまず量産する成熟品は最新スマートフォンなどに搭載される先端品に比べ世代は古いものの、自動車や産業機器などに幅広く搭載され、経済安全保障上の戦略物資といえる。東アジア各国・地域は世界の半導体供給網の要を担ってきた。台湾は先端半導体の生産、韓国はメモリー、日本は材料・製造装置に強い。近年は中国が成熟品の生産で台頭し、世界生産能力の2〜3割を握るとされる」
自動車や産業機器などに幅広く搭載される半導体は、先端半導体ではなく成熟半導体とされる。中国は、この分野のシェア拡大を求めて大攻勢を掛けている。これは、西側諸国にとって危険なことであり、供給を止められるリスクが高まるのだ。
(2)「米国は半導体強国を志向する中国の台頭を懸念し、20年に中芯国際集成電路製造(SMIC)などの中国の半導体企業に輸出規制をかけた。規制そのものは先端品が対象だったが、米欧などの顧客企業は成熟品を含めた供給途絶リスクを意識し、台湾企業などに一斉に注文を振り替えた。その結果、半導体の生産ラインは逼迫し、半導体調達に苦戦した日米欧の自動車メーカーをはじめ、家電や産業機器などの生産が滞った。米国は中国に先端半導体の輸出規制を課す一方、成熟品については日米欧の製造装置メーカーなどが中国企業と取引するのを容認してきた」
すでに、米欧などの顧客企業は成熟品を含めた供給途絶リスクを意識し、台湾企業などに一斉に注文を振り替えている。TSMCの熊本進出には、こうした地政学リスク回避という大きな狙いが込められている。TSMCは今後、九州で第4工場まで建設すると報じられている。日台連携によって、中国半導体進出リスクへ共同対処する目的である。
(3)「中国勢はその成熟品に的を絞って装置を大量に調達し、集中投資を進める。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)によると、中国への半導体製造装置の出荷額は、23年に過去最高の300億ドルを超え、台湾や韓国を抑えて首位だ。このまま中国が成熟品の生産で存在感を高めれば、半導体が経済安保上の「カード」にされるリスクも想定される。熊本工場を端緒に日本が台湾や中国に続く成熟品の供給拠点となれば、中国をけん制する形で供給網の安定性を高められる」
中国の成熟半導体の生産額は、既に過去最高の300億ドルを超えている。これは、中国へ切り札を与えることにもなるので、日本での増産体制確立が急務になっている。
(4)「台湾・工業技術研究院(ITRI)傘下のシンクタンク、産業科技国際策略発展所の楊瑞臨・研究総監は熊本工場について「(日米欧などの)顧客が求める供給網の強化に対応するうえで重要な拠点となる」と指摘する。5月に就任する台湾の頼清徳・次期総統は現任の蔡英文氏の路線を引き継ぎ、半導体分野でも日米欧との連携を重視するとみられる。TSMCが進出する日米欧拠点の中で最も早く量産を始める熊本は、その戦略の試金石ともなる。東アジアの供給網を巡り、メモリー技術で先行する韓国もAI向けの開発強化や装置・材料の国産化に動く。経済安保を左右する戦略物資を巡る新たな競争が幕を開ける」
TSMCが、日米欧へ生産拠点をつくる決断をして、最初に稼働するのが熊本である。TSMCは、日本側が全面協力したことから、工事開始20ヶ月という最短期間で工場竣工へ漕ぎつけたことを高く評価している。これは、日台半導体の協業へ向けて大きな「号砲」となった。日本半導体は、確実に再建過程へ入った。