中国政府が、「三種の神器」(EV・電池・太陽光発電パネル)として力をいれている太陽光パネルが、欧州市場を大混乱に陥れている。価格が急落しており、オランダやドイツでは太陽光発電パネルが生け垣の代わりに使われている。パネルを(縦に並べて)設置した場合、屋根の上に置くよりは日光を捉えにくいが、人件費や足場を組む費用は節約できるというのだ。こうした価格暴落によって、欧州の太陽光発電パネルのメーカーは暴落の危機に立たされている。
『フィナンシャル・タイム』(4月2日付)は、「太陽光パネルが供給過剰、欧州では生け垣の代用も」と題する記事を掲載した。
米調査会社ブルームバーグNEFの太陽光発電の主任アナリスト、ジェニー・チェース氏は「太陽光パネルが非常に安価になったので、どこにでも設置している」と言い、「屋根に太陽光発電システムを設置する費用の大半は人件費や足場代なので(生け垣の代用にするのは)理にかなっている」とみる。
(1)「仏BNPパリバ・エグザーヌで気候変動調査部門を率いるマーティン・ブロー氏も「大量の太陽光パネルが手元にあるなら、正確に太陽の方角に向かなくても、わざわざフェンスを設置するだろうか」と指摘する。「パネルは信じられないほど安くて設置費用と設置場所だけが問題だとすれば、日曜大工をする気になるだろう」と指摘する」
欧州の太陽光パネルが突如、中国からの安値の大量輸入によって信じられないほどの安値になっているという。
(2)「国際エネルギー機関(IEA)の推計で、2024年末までに世界の太陽光パネルの供給は、発電容量で1100ギガ(ギガは10億)ワットと現在の需要予想の3倍に達する。IEAは中国での生産過剰が主な理由だとしている。同時に人件費の高騰でパネルの設置費用は上昇している。また太陽光発電システムを送電網に接続するまでに時間がかかり、業界と設置した家庭は忍耐を強いられている。大半の国が抱えている送電網の能力の問題は、早期かつ容易には解決できない」
24年末までに太陽光発電容量は、IEA予測によると需要の3倍に達する。中国の生産過剰が理由とされる。
(3)「中国の太陽光パネルメーカーは、供給過剰で事業縮小を迫られている。大手の隆基緑能科技(ロンジソーラー)は最近、数千人の工場従業員を解雇したと発表した。欧州ではこの数カ月、太陽光パネルメーカーで解雇や倒産、工場の閉鎖が相次いでおり、業界幹部は危機が目前に迫っていると警告している。フィナンシャル・タイムズ(FT)は、欧州連合(EU)加盟各国のエネルギー相と業界団体が、15日に署名する予定の文書の草案を入手した。その中で、欧州委員会は「不公正な取引が疑われる事案のあらゆる証拠を調査」し、太陽光パネルメーカーがEUの財政支援を受けやすくするとしている。だが業界は満足しないとみられる」。
当の中国では、太陽光パネルの供給過剰で人員整理が始まっている。欧州でもここ数カ月、解雇、倒産、工場の閉鎖などの事態に直面している。
(4)「中国で太陽光パネルを生産し欧州で販売するイタリアのフトゥラサンのアレッサンドロ・バリン最高経営責任者(CEO)は、中国で旧正月の休暇を例年の1週間から3週間に延長したが、それでも売れ残りのパネルが港湾や倉庫にあふれていると明かす。ブルームバーグNEFによると、3月末時点で太陽光パネル1枚の価格は、発電容量1ワットあたり11セント(約16円)と前年同時期の半分まで下落した。メーカーが在庫処分を急ぎ「底値競争」をしているため、価格はさらに下がるとみられる。バリン氏は1ワットあたり15セントの「限界」を下回った場合、欧州での生産への投資を真剣に検討することはできないと述べた。「費用を回収できないほど小さい利幅で事業はしない」
太陽光パネル1枚の価格は、3月末時点で発電容量1ワットあたり11セント(約16円)。前年同時期の半分まで下落している。異常事態である。メーカーでは、15セント割れでは採算に乗らないとしている。
(5)「欧州太陽光発電製造業協議会は2月、緊急支援を受けられなければ欧州のメーカーは近いうちに廃業を迫られると警告した。仏太陽光パネルメーカーのシストビは「中国のダンピング(不当廉売)が突然加速した」として自社を買収してくれる相手を探している。また仏電力公社(EDF)は傘下の太陽光パネルメーカーのフォトワットが「経済的均衡の達成に苦労している」とFTに表明した。23年11月にノルウェーのRECグループは太陽光パネルの主要原料であるポリシリコンの生産工場を閉鎖した。スイスのマイヤー・バーガー・テクノロジーは欧州有数の規模を誇るドイツの太陽光パネル工場を閉鎖し、米国事業に注力すると発表した」
欧州の太陽光発電パネルの業界は、政府の緊急支援を受けられなければ、近いうちに廃業を迫られると警告している。中国の「三種の神器」戦略が、欧州の太陽光発電パネル業界を淘汰に追込んでいるのだ。