モディ氏続投に赤信号
二つの改革不発の背景
工業国になれない限界
身分制が経済発展阻む
インド総選挙は6月4日開票したが、事前予想の与党「人民党」(BJP)大勝説を覆す結果となった。与党は、前回総選挙時の議席数303が、今回総選挙で240へと激減した。過半数は、272であるから過半数割れである。与党は、連合を組まない限り政権維持が不可能な事態へ陥った。BJPを中心とする与党連合・国民民主同盟(NDA)が過半数の293議席を得た。
モディ第3期政権は、極めて不安定な中でスタートした。野党が出自の与党が離脱すれば、モディ政権はたちまち瓦解する危険性を抱えている。モディ首相は、こうした不安定な状況にあるので、農業や労働の改革は一段と困難になると予想される。
モディ首相は、これまで野党との話合いを十分にしないまま政策を強行してきたので、その咎めがこれから一段と強く出ると危惧されている。モディ氏が、一転して野党との話合い重視に舵を切替えれば別だが、従来路線の踏襲であれば前記の改革は不可能とみられる。
その改革とは、農業と労働の問題である。インド経済発展のカギを握る二大要素だ。この問題が解決されない限り、インド経済のさらなる発展は覚束ない。それほど重要なテーマである。詳細はあとで取り上げる。
インドの行政システムでは当然、外交や防衛が政府の専管である。だが、内政は政府と地方政府における協議の成立が前提だ。地方政府が反対すれば、いかなる改革案も進まない憲法上の制約がある。前記の農業と労働の改革問題は、地方政府との関わりが重要である。こうなると、中央政府は常に地方政府とコンタクトを強めておくことが不可欠になる。モディ首相は、その面での配慮が足りないと指摘されている。これこそ、内政改革が進まない理由だ。
モディ氏続投に赤信号
インドは、総選挙前の予想で与党が議席数400を獲得するだろうとの楽観論がとびかっていた。これは、モディ政権が反対派を圧迫しているので、メディアが忖度して「与党有利」の情報を流したとみられている。このように、モディ政権は世論操作に長けているとみられてきた。だが、国民はこういうメディア情報に踊らされずに、日々の生活不満を投票行動で表した。
モディ政権は、今回を含めた過去3回の総選挙において、次のような結果を得てきた。
第1回 282議席(過半数は272議席)
第2回 303議席
第3回 240議席
この3回の与党議席数の推移から分ることは、今回の240議席数が過半数割れである以外に、第1回で政権を組織したときの議席数を大幅に下回っていることだ。これは、モディ政権への期待が急速に薄れていることを意味している。ハッキリ言えば、「賞味期限切れ」という危機的な状態へ入っているのだ。第1回の選挙結果は期待値、第2回はその継続。そして、第3回において「絶望」という変化になった。
今回は、連立与党と国民民主同盟に助けられて過半数を得たものの、野党が出自の連立与党を抱えるだけに、いつ分裂行動を取るか分らない不安要因を抱えている。モディ政権が、5年間の任期を全うできるどうか、分らない事態へ追込まれている。これは、モディ首相にとって大きな重石になる。農業や労働の両改革を実現する「政治パワー」をすでに失ったとみるべきだろう。モディ首相の威光に陰りが出たとされる理由である。
モディ首相が政権に就いた2014年、インド名目GDPは世界10位。それが、2023年には5位へ躍進した。IMF(国際通貨基金)は、2025年に4位、27年は3位へのし上がると予測している。インド国民の立場では、「経済大国」の一角に名を連ねるまでになったのだ。「喜ばしい」ことに違いない。モディ首相は、建国2047に先進国レベルの所得を目指すと、さらに国民を鼓舞する。だが国民は、これらのマクロ指標の躍進に反応しなかった。ミクロの実生活が、悪すぎるのだ。モディ政権の限界はここにある。
インドの国民一人当たりの平均名目GDPは、決して芳しいものでない。
2014年 1560ドル(一日4.27ドル) 世界156位
2019年 2050ドル( 5.61ドル) 150位
2023年 2500ドル( 6.85ドル) 144位
資料 IMF
国民一人当たり名目GDPをみると、桁を間違えたのでないかと思われるほどの「低いGDP」に沈んでいる。世界銀行が、中低所得国の公式な貧困ラインとする1日3.65ドル以下(年間1332ドルで)で生活するインド人は、6億人以上もいると計算されている。経済成長の恩恵が届いていないのだ。
この低レベルの状態で、インドがGDP3位になるのは、まさに「人海戦術経済」そのものに外ならない。インド国民が、総選挙でモディ氏の甘いささやきに乗らなかった理由は、この厳しい生活レベルにある。人海戦術経済から、高生産性経済へ転換する経済政策を模索するには、強権政治を止めて国民が納得する政治が不可欠である。(つづく)
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