習近平氏の国家主席3期目入りをきっかけに、中国では富裕層が海外移住を模索している。これには資金流出を伴うので、政府の監視も厳しくなっている。失敗すれば、財産没収という危険性を伴う。それだけでない。移住先で、中国出先機関の監視網が目を光らせている。違法な中国の「海外警察」が暗躍しており、強制帰国への嫌がらせを受けることもある。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月14日付)は、「中国富裕層、国外脱出を加速 習氏続投に警戒強く」と題する記事を掲載した。
国外に脱出する中国人富裕層を顧客に抱える弁護士や移住専門家、コンサルタントへのインタビューによると、10月の共産党大会を機に中国のエリート層の国の将来に対する見方が変わった。
(1)「中国政府は、出入国と資本流出を厳しく規制しており、国外脱出には個人的にも金銭的にも非常に大きなリスクがある。海外暮らしにこぎ着けても、習政権が違法に設けた警察の出先機関の監視にさらされる。欧州に拠点を置く弁護士で、中国を脱出する富裕層を支援するデービッド・レスペランス氏は「中国では、海外移住はいちかばちかの勝負だ。実行に移して失敗すれば、一巻の終わりとなる。出国を禁止され、財産を没収され、資金は消えうせる」と話す」
監視国家の中国が、富裕層が中国で溜め込んだ資金を安易に海外へ持出させるはずがない。あの手この手で探索してくるのだ。運が悪ければ、出国を禁止された上に、財産没収という悲運が待っている。
(2)「多くの富裕層は共産党大会の前からすでに、習氏による独裁体制の強化と中国のビジネス環境を一変させる広範な取り締まりに備えていた。弁護士や移住専門家は、脱出計画をすでに実行に移している富裕層もいると話す。自らや家族のために新たな市民権を手配したり、資金や資産を他の国・地域に移したりしているという。最富裕層は一部の国で提供されている超富裕層向けの投資移民制度も利用できる。ただし、このプロセスには数年かかる。習政権下での環境変化の速さを見誤った者にとって、今や何より重要なのはスピードだ」
習氏が、これほど露骨に国民を弾圧すると思っていなかった富裕層は、スピード感を以て出国しないと、手遅れになるという。今後ますます、監視が厳しくなると見られるのだ。
(3)「シンガポールの移住コンサルティング会社ECホールディングスのフィリップ・メイ最高経営責任者(CEO)は、中国からの要望で最も多いのは「2つ目のパスポートを早急に手配して欲しい」というものだと話す。メイ氏は「早急といっても2~3カ月かかる。心理的な問題だ」と説明する。こうした顧客にはセントクリストファー・ネビスやドミニカ、アンティグア・バーブーダなどカリブ海諸国でのパスポート取得を紹介することが多い」
富裕層は、二つ目のパスポートを欲しがっている。カリブ海諸国のパスポート取得を紹介しているという。中国パスポートを無効にされても、「控えのパスポート」で出国しようという算段だ。
(4)「中国国外への資金持ち出しも政府の資本逃避規制に直面している。9月に米国に移住したある中国人テック起業家は「今は中国からなかなか資金を持ち出せないとみんな言っている。銀行が多額の海外送金に慎重だからだ」と話す。「私も中国の銀行口座に資金があるが、送金の審査に時間がかかっている」とも述べた。この人物も安全上の懸念から身元を明らかにしないよう求めた」
運良く出国できても、肝心の海外送金に時間かかかるという。中国は、外貨準備高が3兆ドル台を割込まないように、資本逃避へ厳しい制限をかけている。
(5)「海外脱出は在外中国人の法的保護という暗部もあぶり出している。習政権下で中国の監視機関や治安機関は海外にも手を伸ばすようになり、米国など各国はこうした出先機関が異国の地で中国人を抑圧、強制送還、拉致していると主張する」
この問題は、次のように人権侵害と絡んで深刻な事態となっている。
『大紀元』(11月10日付)は、「中国の海外警察署、14カ国が調査開始 人権団体『日本は公式対応まだ発表していない』」と題する記事を掲載した。
スペインの人権団体『セーフガード・ディフェンダーズ』は11月7日、中国当局が海外に設置した「警察署」をめぐり、14カ国が調査に乗り出していると発表した。新たに16の警察署の存在が判明したとし、詳細を後日発表するという。東京で確認された中国の警察署について、日本政府は態度を明らかにしていない。
(6)「セーフガード・ディフェンダーズは9月に発表した「海外110」と題する報告書で、中国が他国に非公式に設置した警察署についてまとめた。報告書によれば、世界各地に54の警察署を設置している。中国は、非公式警察署は国外在住の中国人に運転免許の更新やパスポート更新といった行政手続きを提供していると主張。これに対し、オランダは中国の警察署の設置は違法であると非難している。オランダは1日、2カ所の違法な警察署の閉鎖を命じ、中国大使館に明確な説明を求めた。その他、オーストリア、カナダ、チリ、チェコ、ドイツ、イタリア、ナイジェリア、ポルトガル、スペイン、スウエーデン、英国、米国が調査に乗り出している」
セーフガード・ディフェンダーズによると、中国の非公式警察署の主な目的は、国境を越えた弾圧に従事し、中国共産党に異議を唱える者に帰国するよう圧力をかけることだという。