勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: オランダ経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    中国は、3中全会の声明で「新たな質の生産力」の追求を強調した。これは、習近平国家主席が昨年提唱したスローガンで、科学的な研究と進歩革新を通じて製造業を現代化し、新たな高成長時代を促進することを意味する。だが、米中対立によって「デリスキング」(リスク削減)が進んでいる。この制約を突破すべく、中国は「技術窃取」に力を入れている。その一環として、オランダへの留学生が急増している。

     

    中国の狙いは、最先端半導体製造設備メーカーのASMLが、技術面で支援するアイントホーフェン工科大へ留学生を増やすことだ。留学生を装って、最先端半導体製造設備のノウハウを窃取できれば、これほど容易な方法はない。これに気付いた米国が、オランダへ圧力をかけ中国人留学生増加にストップを掛けている。

     

    『朝鮮日報』(7月22日付)は、「半導体技術の流出恐れる米国、オランダに中国留学生受け入れ削減を要求」と題する記事を掲載した。

     

    オランダの半導体製造設備大手ASMLが、支援する同国のアイントホーフェン工科大への中国人学生の入学にブレーキがかかった。先端半導体製造に必須の重要装備を供給するASMLの技術が中国に流出することを懸念した米国のけん制があったためだ。

     

    (1)「16日のブルームバーグ電によると、最近米国の駐オランダ大使は昨年、アイントホーフェン工科大のロバート・ヤン・スミッツ学長に中国人の入学が多い理由を尋ねたという。ASMLの本社から約8キロの地点にあるアイントホーフェン工科大はASMLが人材育成のために肩入れした大学だ。研究用設備を寄付し、半導体研究に欠かせない防塵設備の設置に8000万ユーロ(約137億円)を投資した」

     

    ASMLが、支援してつくった工科大となれば,中国がめざとく留学生を送ってくるのは当然であろう。

     

    (2)「スミッツ学長はブルームバーグに対し、「中国の学生に門戸を開放しなければならないということではない」とし、今後中国の学生を減らす意向を伝えた。アイントホーフェン工科大は、中国人学生の数を明らかにしていないが、学生の4分の1は外国人だ。そのうち相当数が中国人学生と推定される。米国がオランダの中国人留学生に対し圧力をかけるのは、先端半導体の製造にASMLの設備が欠かせないためだ。極端紫外線(EUV)リソグラフィー(露光)装置はASMLが事実上独占しているが、米国の制裁で対中輸出が禁止されている。最近はEUVの下位の装置である深紫外線(DUV)露光装置の対中輸出も制限した。ASMLの支援を受けて半導体研究を行う大学に中国人留学生が多いことに米国側が不満を示したのはそうした背景があるためだ」

     

    ASMLの製造する半導体製造装置は、米国が所有する特許を利用するために中国への輸出が抑制されている。中国にとっては、喉から手が出るほど必要な装置である。米国は、既存製品で中国へ輸出した装置のアフターサービスや部品の供給までストップさせる要求を出している。

     

    (3)「オランダ政府も、中国を経済安全保障のリスク要因とみている。昨年、華為(ファーウェイ)の新型スマートフォンに採用された7ナノメートル製造プロセスの半導体がASMLの技術で製造されたことが明らかになり、警戒がさらに厳しくなった。オランダ政府は昨年、半導体、国防分野の中国人留学生に対する審査制を導入することを予告したのに続き、中国の国家留学基金管理委員会(CSC)の管理を受けている奨学生が何人で、どの分野で活動しているかについて調査を始めた。CSCの奨学金は、中国共産党に忠誠を誓わなければ受給することができず、この奨学金で留学した中国人学生は、学業を修了後2年以内に中国に帰国しなければならない」

     

    中国は、人民解放軍と関係の深い大学や研究所に在籍した学生を留学させている。明らかに、技術窃取が目的である。米国は、オランダ政府に対して米国並みの規制をするように求めているのであろう。

     

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    習近平氏の国家主席3期目入りをきっかけに、中国では富裕層が海外移住を模索している。これには資金流出を伴うので、政府の監視も厳しくなっている。失敗すれば、財産没収という危険性を伴う。それだけでない。移住先で、中国出先機関の監視網が目を光らせている。違法な中国の「海外警察」が暗躍しており、強制帰国への嫌がらせを受けることもある。 

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月14日付)は、「中国富裕層、国外脱出を加速 習氏続投に警戒強く」と題する記事を掲載した。 

    国外に脱出する中国人富裕層を顧客に抱える弁護士や移住専門家、コンサルタントへのインタビューによると、10月の共産党大会を機に中国のエリート層の国の将来に対する見方が変わった。

     

    (1)「中国政府は、出入国と資本流出を厳しく規制しており、国外脱出には個人的にも金銭的にも非常に大きなリスクがある。海外暮らしにこぎ着けても、習政権が違法に設けた警察の出先機関の監視にさらされる。欧州に拠点を置く弁護士で、中国を脱出する富裕層を支援するデービッド・レスペランス氏は「中国では、海外移住はいちかばちかの勝負だ。実行に移して失敗すれば、一巻の終わりとなる。出国を禁止され、財産を没収され、資金は消えうせる」と話す」 

    監視国家の中国が、富裕層が中国で溜め込んだ資金を安易に海外へ持出させるはずがない。あの手この手で探索してくるのだ。運が悪ければ、出国を禁止された上に、財産没収という悲運が待っている。 

    (2)「多くの富裕層は共産党大会の前からすでに、習氏による独裁体制の強化と中国のビジネス環境を一変させる広範な取り締まりに備えていた。弁護士や移住専門家は、脱出計画をすでに実行に移している富裕層もいると話す。自らや家族のために新たな市民権を手配したり、資金や資産を他の国・地域に移したりしているという。最富裕層は一部の国で提供されている超富裕層向けの投資移民制度も利用できる。ただし、このプロセスには数年かかる。習政権下での環境変化の速さを見誤った者にとって、今や何より重要なのはスピードだ」 

    習氏が、これほど露骨に国民を弾圧すると思っていなかった富裕層は、スピード感を以て出国しないと、手遅れになるという。今後ますます、監視が厳しくなると見られるのだ。

     



    (3)「シンガポールの移住コンサルティング会社ECホールディングスのフィリップ・メイ最高経営責任者(CEO)は、中国からの要望で最も多いのは「2つ目のパスポートを早急に手配して欲しい」というものだと話す。メイ氏は「早急といっても23カ月かかる。心理的な問題だ」と説明する。こうした顧客にはセントクリストファー・ネビスやドミニカ、アンティグア・バーブーダなどカリブ海諸国でのパスポート取得を紹介することが多い」 

    富裕層は、二つ目のパスポートを欲しがっている。カリブ海諸国のパスポート取得を紹介しているという。中国パスポートを無効にされても、「控えのパスポート」で出国しようという算段だ。 

    (4)「中国国外への資金持ち出しも政府の資本逃避規制に直面している。9月に米国に移住したある中国人テック起業家は「今は中国からなかなか資金を持ち出せないとみんな言っている。銀行が多額の海外送金に慎重だからだ」と話す。「私も中国の銀行口座に資金があるが、送金の審査に時間がかかっている」とも述べた。この人物も安全上の懸念から身元を明らかにしないよう求めた」 

    運良く出国できても、肝心の海外送金に時間かかかるという。中国は、外貨準備高が3兆ドル台を割込まないように、資本逃避へ厳しい制限をかけている。

     

    (5)「海外脱出は在外中国人の法的保護という暗部もあぶり出している。習政権下で中国の監視機関や治安機関は海外にも手を伸ばすようになり、米国など各国はこうした出先機関が異国の地で中国人を抑圧、強制送還、拉致していると主張する」 

    この問題は、次のように人権侵害と絡んで深刻な事態となっている。 

    『大紀元』(11月10日付)は、「中国の海外警察署、14カ国が調査開始 人権団体『日本は公式対応まだ発表していない』」と題する記事を掲載した。 

    スペインの人権団体『セーフガード・ディフェンダーズ』は11月7日、中国当局が海外に設置した「警察署」をめぐり、14カ国が調査に乗り出していると発表した。新たに16の警察署の存在が判明したとし、詳細を後日発表するという。東京で確認された中国の警察署について、日本政府は態度を明らかにしていない。

     

    (6)「セーフガード・ディフェンダーズは9月に発表した「海外110」と題する報告書で、中国が他国に非公式に設置した警察署についてまとめた。報告書によれば、世界各地に54の警察署を設置している。中国は、非公式警察署は国外在住の中国人に運転免許の更新やパスポート更新といった行政手続きを提供していると主張。これに対し、オランダは中国の警察署の設置は違法であると非難している。オランダは1日、2カ所の違法な警察署の閉鎖を命じ、中国大使館に明確な説明を求めた。その他、オーストリア、カナダ、チリ、チェコ、ドイツ、イタリア、ナイジェリア、ポルトガル、スペイン、スウエーデン、英国、米国が調査に乗り出している」 

    セーフガード・ディフェンダーズによると、中国の非公式警察署の主な目的は、国境を越えた弾圧に従事し、中国共産党に異議を唱える者に帰国するよう圧力をかけることだという。

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