勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インドネシア経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    今年10月で、インドネシア高速鉄道は開通2年を迎えたが、乗客数が計画の半分以下という惨状に陥っている。中国が請負って建設したものの、路線計画で大きなミスを犯し、一般鉄道との接続が悪いなど「使い勝手」の悪さが障害となっている。この結果、金利もまともに支払えない状況に追い込まれており、早くもインドネシア政府が中国政府と債務返済繰り延べ交渉をする羽目に追い込まれている。

     

    1日当たりの乗客数は現在、平日で1万6000〜1万8000人、週末は1万8000〜2万1000人だ。現地メディアによれば、1日当たり5万〜7万6000人という当初目標の半数にも届かない状態だ。これでは、赤字に陥って当然であろう。

     

    『レコードチャイナ』(10月20日付)は、「中国はインドネシアと同国高速鉄道の高い質の運営継続を希望中国外交部」と題する記事を掲載した。

     

    報道によると、インドネシア政府はジャカルタ・バンドン高速鉄道プロジェクトの債務再編問題について中国側と交渉中です。また、一部のメディアでは「ジャカルタ・バンドン高速鉄道は資金不足で運営困難」と評する意見も出るほど。

     

    (1)「中国外交部の郭嘉昆報道官は、10月20日の定例記者会見でこの件について、「高速鉄道プロジェクトを評価する際には財務データや経済指標だけでなく、公共効果や総合的利益も考慮すべきだ」と述べました。郭報道官はまた、「中国は、ジャカルタ・バンドン高速鉄道の高い質の運営をインドネシアと共に継続し、プロジェクトがインドネシアの経済社会の発展と地域の相互接続に果たす役割をさらに発揮させることを望む」と表明しました」

     

    中国外交部報道官は、「財務データや経済指標だけでなく、公共効果や総合的利益も考慮すべきだ」と発言した。事業体である以上、経済指標が重要だ。高速鉄道が、国民の交通需要に沿った建設であれば、乗客が増えて収益も改善するはず。この報道官は、事業経営の本質を全く弁えない「官僚頭」になっている。

     

    (2)「郭報道官はさらに、「ジャカルタ・バンドン高速鉄道は正式開通から2周年を迎えた。この間、安全で円滑かつ秩序ある運行を維持し、累計乗客数は延べ1171万人以上に達し、旅客量は安定成長を続けてきた。経済社会における効果が発揮され続け、現地に多数の雇用を創出し、沿線地域の経済発展を強力に推進したことで、インドネシア各界から評価され、歓迎されている。両国政府はプロジェクトの発展を極めて重視し、双方の関連部門及び企業が緊密に連携することで、高速鉄道の安全かつ安定した運営をしっかりと保障している」と述べました」

     

    中国は、日本の建設案を横取りした弱みがあるので、弁明これ務めている。ここで語られている発言は、公共事業といえども効率的でなければならないという視点が全く欠如していることに驚く。中国も、こういう安易な視点からインフラ投資が行なわれていることを窺わせている。

     

    当初の日本案は、ジャカルタからブカシ、チカラン、カラワンを通ってバンドンへ至るルートであった。駅位置の工夫されていた。既存の都市圏(BekasiCikarangなど)を通過し、需要が見込める地域に駅を設置するというもの。他交通との結節性も配慮されていた。高速道路ICや空港との接続を重視し、乗り換え利便性を確保した。しかも、事業費も最も安く、施工上の問題も少ないと評価されていたものだ。

     

    ところが、日本建設案がほぼ決まって段階で、中国が建設案に乗り込んで、インドネシア政府の財政負担はゼロという「甘言」で建設を横取りする形となった。中国は、時間を掛けた設計案でなかったことから、杜撰は路線計画になった。次のようなものだ。

     

    先ず、駅の位置が郊外に偏在した。ジャカルタの中心部から離れたハリム駅、バンドン側も市街地から遠いパダララン駅などがそれだ。乗客利便性が低くいので、都市間移動の利点が薄れ、通勤・通学・観光などの需要を取り込めないという、決定的な誤りを冒した。路線構造も高架・トンネルが多く、建設コスト増加と工期遅延を招くという、何重もの失敗をすることになった。

     

    インドネシアは、結果として中国に「騙された」のか、という思いを否定できない。インドネシアは、表面的には「好条件」に見えた中国案(早期着工・高速技術・資金即時提供)に飛びついた結果、長期的な財務負担と運営困難に直面して現在、債務返済交渉に追い込まれている。日本案では、需要予測・駅位置・都市結節性・財務健全性を重視した。それにもかかわらず、インドネシア政府に政治的判断で退けられたことは、何とも惜しい結果になった。

     

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    中国は、インドネシアで日本が進めていた高速鉄道建設計画を落札寸前に横取りした。今度は逆のケースで、カリマンタン島で建設計画を立てていた水力発電所建設(総事業費2.5兆円)で住友商事が主導権を握った。インドネシア政府は、インフラ投資で中国の影響力の強まることを警戒してきたので、住商参加を歓迎している。

     

    『日本経済新聞』(11月23日付)は、「住商、インドネシアで水力発電『東南ア最大級』2.5兆円計画に参加 中国依存見直しで日本に秋波」と題する記事を掲載した。

     

    東南アジア最大級となる水力発電所の計画がインドネシアのカリマンタン島で進んでいる。中国が重要視する一大プロジェクトに住友商事が参加することが10月に決まった。日本企業が入り込めた背景には、インフラ開発の中国依存を引き下げたいインドネシア政府の思惑がある。日本は中国がインドネシアで先行する状況に危機感を募らせており、住商の参画が追撃のきっかけになる可能性がある。

     

    (1)「水力発電所を建設する北カリマンタン州はマレーシアと国境を接する。うっそうと樹木が生い茂る山の間を縫うように流れるカヤン川の上流に、今回の予定地がある。住商は10月6日、エネルギーの地場企業、カヤン・ハイドロ・エナジー(KHE)が事業主体を務める北カリマンタン州のカヤン水力発電所の建設に向け、同社と提携する覚書を交わした。インドネシア政府も喜びをにじませる。ジョコ大統領は今月14日、バリ島で開いた岸田文雄首相との首脳会談で、住商のカヤン水力発電所への投資を歓迎する意向を示した」

     

    計画ではカリマンタン島北部を流れるカヤン川に5つのダムを設けて発電所を建設する。KHEによると、2026年に最初のダム、35年に5つすべての完成を想定し、総事業費は178億ドル(約2兆5000億円)に上る大規模プロジェクトだ。総出力は9000メガワットと東南アジア最大級の水力発電所になる見通しだ。インドネシア側は、日本の参加を喜んでいる。最後まで頼りになるのは日本であるからだ。インドネシアは、高速鉄道建設で中国の甘言に乗せられて、日本を裏切った。今度は、逆のケースである。

     

    (2)「水力発電所の計画は08年からスタートした。中国国有企業である中国電力建設と現地のパートナーであるKHEがカヤン川の水力発電の事業化調査に着手。険しい地形や規制などにより、プロジェクトは難航した。規制当局の州政府の分割も重なり、自然への影響調査やダム建設の許可をクリアするのに10年かかったという。中国の広域経済圏構想「一帯一路」にも組み込まれる重要事業だ。大幅に遅れながらも環境がようやく整い、これからという時に住商が参加した。KHEのスルヤリ社長は、10月の調印式で「住商が入ることで、当初計画のスケジュールで確定したい」と述べた」

     

    中国が、最も重視していたこのプロジェクトが、土壇場で日本に取られた形だ。高速鉄道建設では、日本が建設予定地の測量まで済ませていた。中国は、この測量図を使って応札したのだ。モラルゼロの行為をした。今回の一件で、中国へ「天罰」が下った形である。

     

    (3)「日本の大手商社の参加で、推進力が高まることは間違いない。狙いはそれだけではない。底流にはインフラ開発での中国傾斜を見直そうとするジョコ政権の思惑もあるからだ。南シナ海の自国領ナトゥナ諸島の周辺では、中国と権益をめぐる対立を抱えている。中国に過度に依存すれば、痛手を被った高速鉄道の二の舞いになったり、対立して報復を受けたりしたとき、甚大な影響を被りかねない。リスクを分散する一手として、日本企業の参画を模索したもようだ」

     

    中国の過去の振る舞いで、インドネシア政府の信頼を裏切ってきた。それが今回、日本の逆転受注に結びついた要因である。日本の誠実な姿勢が買われたのであろう。

     

    (4)「カリマンタン島で進むのはこの水力発電だけではない。インドネシア政府は脱炭素化に関連する産業の育成を成長のテコと位置づける。温暖化ガスの排出量を60年までに実質ゼロにする目標も掲げた。同じ北カリマンタン州に建設を進めている環境に配慮した「グリーン工業団地」は、この発電所に密接に関連するプロジェクトだ。工業団地は電気自動車(EV)向けの電池の工場やアルミニウムの製錬所などの集積を目指すものだ。中国の習近平国家主席は7月下旬のジョコ氏との首脳会談で工業団地への協力を明言。いわば国策に近く、中国とインドネシアの合弁会社がテナントとして多く入居する」

     

    この発電所に密接に関連するプロジェクトとして、「グリーン工業団地」計画がある。発電所建設で、住商が登場したので工業団地の勢力図が変わる可能性が出てきたという。インドネシア側幹部は、「水力発電事業に他の日本企業を誘致し、潜在的にはグリーン工業団地にも参加してもらいたい」と語る。インドネシアも日本企業誘致に「色気」を見せているのだ。 

     

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