中国は、インドネシアで日本が進めていた高速鉄道建設計画を落札寸前に横取りした。今度は逆のケースで、カリマンタン島で建設計画を立てていた水力発電所建設(総事業費2.5兆円)で住友商事が主導権を握った。インドネシア政府は、インフラ投資で中国の影響力の強まることを警戒してきたので、住商参加を歓迎している。
『日本経済新聞』(11月23日付)は、「住商、インドネシアで水力発電『東南ア最大級』2.5兆円計画に参加 中国依存見直しで日本に秋波」と題する記事を掲載した。
東南アジア最大級となる水力発電所の計画がインドネシアのカリマンタン島で進んでいる。中国が重要視する一大プロジェクトに住友商事が参加することが10月に決まった。日本企業が入り込めた背景には、インフラ開発の中国依存を引き下げたいインドネシア政府の思惑がある。日本は中国がインドネシアで先行する状況に危機感を募らせており、住商の参画が追撃のきっかけになる可能性がある。
(1)「水力発電所を建設する北カリマンタン州はマレーシアと国境を接する。うっそうと樹木が生い茂る山の間を縫うように流れるカヤン川の上流に、今回の予定地がある。住商は10月6日、エネルギーの地場企業、カヤン・ハイドロ・エナジー(KHE)が事業主体を務める北カリマンタン州のカヤン水力発電所の建設に向け、同社と提携する覚書を交わした。インドネシア政府も喜びをにじませる。ジョコ大統領は今月14日、バリ島で開いた岸田文雄首相との首脳会談で、住商のカヤン水力発電所への投資を歓迎する意向を示した」
計画ではカリマンタン島北部を流れるカヤン川に5つのダムを設けて発電所を建設する。KHEによると、2026年に最初のダム、35年に5つすべての完成を想定し、総事業費は178億ドル(約2兆5000億円)に上る大規模プロジェクトだ。総出力は9000メガワットと東南アジア最大級の水力発電所になる見通しだ。インドネシア側は、日本の参加を喜んでいる。最後まで頼りになるのは日本であるからだ。インドネシアは、高速鉄道建設で中国の甘言に乗せられて、日本を裏切った。今度は、逆のケースである。
(2)「水力発電所の計画は08年からスタートした。中国国有企業である中国電力建設と現地のパートナーであるKHEがカヤン川の水力発電の事業化調査に着手。険しい地形や規制などにより、プロジェクトは難航した。規制当局の州政府の分割も重なり、自然への影響調査やダム建設の許可をクリアするのに10年かかったという。中国の広域経済圏構想「一帯一路」にも組み込まれる重要事業だ。大幅に遅れながらも環境がようやく整い、これからという時に住商が参加した。KHEのスルヤリ社長は、10月の調印式で「住商が入ることで、当初計画のスケジュールで確定したい」と述べた」
中国が、最も重視していたこのプロジェクトが、土壇場で日本に取られた形だ。高速鉄道建設では、日本が建設予定地の測量まで済ませていた。中国は、この測量図を使って応札したのだ。モラルゼロの行為をした。今回の一件で、中国へ「天罰」が下った形である。
(3)「日本の大手商社の参加で、推進力が高まることは間違いない。狙いはそれだけではない。底流にはインフラ開発での中国傾斜を見直そうとするジョコ政権の思惑もあるからだ。南シナ海の自国領ナトゥナ諸島の周辺では、中国と権益をめぐる対立を抱えている。中国に過度に依存すれば、痛手を被った高速鉄道の二の舞いになったり、対立して報復を受けたりしたとき、甚大な影響を被りかねない。リスクを分散する一手として、日本企業の参画を模索したもようだ」
中国の過去の振る舞いで、インドネシア政府の信頼を裏切ってきた。それが今回、日本の逆転受注に結びついた要因である。日本の誠実な姿勢が買われたのであろう。
(4)「カリマンタン島で進むのはこの水力発電だけではない。インドネシア政府は脱炭素化に関連する産業の育成を成長のテコと位置づける。温暖化ガスの排出量を60年までに実質ゼロにする目標も掲げた。同じ北カリマンタン州に建設を進めている環境に配慮した「グリーン工業団地」は、この発電所に密接に関連するプロジェクトだ。工業団地は電気自動車(EV)向けの電池の工場やアルミニウムの製錬所などの集積を目指すものだ。中国の習近平国家主席は7月下旬のジョコ氏との首脳会談で工業団地への協力を明言。いわば国策に近く、中国とインドネシアの合弁会社がテナントとして多く入居する」
この発電所に密接に関連するプロジェクトとして、「グリーン工業団地」計画がある。発電所建設で、住商が登場したので工業団地の勢力図が変わる可能性が出てきたという。インドネシア側幹部は、「水力発電事業に他の日本企業を誘致し、潜在的にはグリーン工業団地にも参加してもらいたい」と語る。インドネシアも日本企業誘致に「色気」を見せているのだ。