勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース時評

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    インド南部では、190万平米もの拡張計画を持つ工業団地への引き合いが殺到している。これは、中国からの脱出企業とインドの成長を見込んだ投資が急増しているからだ。中国は、外資企業の引き留め策として、データの海外移転を促進する規定を施行する。グローバルな生産や販売活動、貿易などで収集したデータに限り、移転の安全審査を免除するもの。この緩和策が、どれだけの効果を持つか。大きな「脱中国」の流れには対抗できまい。

     

    『ロイター』(3月23日付)は、「インドで倉庫建設ラッシュ、成長期待と『中国回避』で国際企業が注目」と題する記事を掲載した。

     

    インド南部に広がる工業団地グリーンベース・インダストリアル・パークでは、インドの経済成長や中国からのサプライチェーン(供給網)分散化の動きを見越して新たな倉庫や工場が次々に建てられ、用地の取得は難しさが増す一方となっている。

     

    (1)「アップルのサプライヤー、鴻海精密工業やドイツ自動車大手ダイムラーの工場に隣接し、米大手投資会社ブラックストーンとインドの不動産王ニランジャン・ヒラナンダニ氏が運営するこのグリーンベースの幹部S・ラグラマン氏は、「ここは欧州や米国の企業にとってインドで最も手に入れたい場所の一つだ」と胸を張る。ラグラマン氏によると、グリーンベース内の区画リースには、問い合わせが殺到している。「われわれは中国から拠点を移すことを検討している顧客少なくとも3件と商談中だ」という」

     

    インド南部の工業団地は、引き合い殺到という。脱中国企業の需要である。中国には痛手だ。

     

    (2)「グリーンベースは増大する需要に対応するため、8億ドル(約1193億円)を投じて敷地面積を今の4倍の190万平方メートルに拡大することを目指している。これはインドの経済成長率が8%強と先進各国を上回る中で、2023年1012月に倉庫用賃貸用地の面積が過去2年で最高に達したという流れの一端に過ぎない、というのが不動産サービス大手コリアーズの分析だ」

     

    工業団地は、さらに4倍へと強気の拡張計画を持っている。それだけ、需要が大きいという意味だ。中国にとってはマイナス材料である。

     

    (3)「彼らが主な顧客として狙っているのは、米国などとの対立で地政学リスクが高まっている中国とは別の場所に製造拠点を広げたいと考えている製造業だ。電子商取引拡大の波に乗る企業なども、輸出拠点として、また人口14億人の巨大消費地としてインドに熱い視線を送る。世界最大級の不動産開発会社パナトニのインド担当マネジングディレクター、サンディープ・チャンダ氏は「インドに進出する上で適切な局面だと考えた。向こう1520年で非常に大きな成長余地があるからだ」と語った」

     

    工業団地は、中国の地政学リスクを嫌った製造業の需要が目立っている。

     

    (4)「不動産サービス大手コリアーズの分析に基づくと、インドの上位5都市で23年1012月にリースされた倉庫は71万5000平方メートルと、過去2年で最大を記録。この間、グリーンベースに近いタミルナド州の州都チェンナイの「グレードA」倉庫供給量は336%も増加し、この5都市では最も高い伸びとなった。5都市平均伸び率の55%もはるかにしのいでいる。自動車やエンジニアリング、小売り、電子商取引などの企業がさらなる成長をけん引する、とコリアーズは予想している」

     

    倉庫用土地の需要も盛んである。自動車やエンジニアリング、小売り、電子商取引などの企業がさらなる成長をけん引している。

     

    (5)「用地取得には複雑な権利関係を解決しなければならない上、賃貸料が追い着かないほど地価が高騰していることが不動産開発会社の収益に響いている。不動産コンサルティング会社CBREの調べでは、グリーンベース付近の23年の地価は、バッキンガム宮殿の半分ほどの広さに当たる4ヘクタールで360万ドルと、20%も増加。ニューデリー近くの土地は上昇率が50%を超えたケースもある」

     

    地価が急騰している。裏返せば、これまでが「二束三文」と安かったことだろう。これだけ急騰しても採算にあうのだから、いかに安値であったかを示している。

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    インドの有力財閥タタが、半導体への進出を決断した。グループ内の電気自動車製造が軌道に乗っていることから、自前で半導体を製造するという遠大な計画である。インドには、半導体事業は存在しないだけに、一からのスタートになる。

     

    タタ財閥は、年間売上9兆6000億ルピー(約16兆3200億円)。93万5000人を雇用し、インドを代表する財閥企業に発展した。現在は傘下のタタ自動車、タタ製鉄、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)が、それぞれ主導する「自動車」「製鉄」「IT」が中核事業となっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月9日付)は、「タタ、半導体の国内供給網強じん化 米中分断で集積狙う」と題する記事を掲載した。

     

    インド大手財閥タタ・グループが半導体の自国サプライチェーン(供給網)構築に乗り出す。タタにとって半導体は自動車やIT(情報技術)など既存の中核事業の成長に欠かせないが、現在は多くを輸入に頼る。官民挙げた産業育成で安定調達につなげるとともに、米中の技術デカップリング(分断)の間隙を突き、中国に代わる集積地づくりも狙う。

     

    (1)「タタは、数年以内に回路作製が終わった基板(ウエハー)を最終製品の半導体チップに仕上げる「後工程」の生産にまず参入。将来は回路をつくる「前工程」を手掛けることを検討する。半導体を含めた事業強化に向け、今後5年で900億ドル(約12兆円)を投資する計画も明らかにした。こうした事業と半導体は現時点でも密接に関わる。製造業の高度化に伴い、世界大手との競争を勝ち抜くには、その重要性はさらに高まる」

     

    半導体の「後工程」から参入する計画だ。事業資金は豊富であり、他の事業を含めて今後5年間に12兆円を投資する。

     

    (2)「タタの統括会社タタ・サンズのナタラジャン・チャンドラセカラン会長は、成長には「デジタル社会への対応とエネルギーの持続可能性、供給網のレジリエンス(強じん性)確立」が必要との認識を示した。なかでも、グループで最大の事業売上高である自動車分野は、半導体の安定調達が経営課題に浮上する。実際にインドの自動車産業は21年に世界的な半導体不足を受け、生産・販売の低迷に見舞われた。ガソリン車からの需要シフトへの対応では、その課題は一層大きくなる。チャンドラセカラン氏は、「グループの乗用車販売に占める電気自動車(EV)台数は、27年までに(ガソリン車などの)内燃機関(ICE)車を超える」とみる。EVでは1台あたりの半導体使用量が多いとされ、将来の主戦場となる自動運転分野でも、通信や遠隔操作に高性能な半導体が求められる」

     

    グループ内では、自動車産業(EV)に力を入れるので、その関連で半導体事業への参入が不可欠としている。

     

    (3)「インドの自動車市場では長らく、首位であるマルチ・スズキの独走状態が続いていた。21年度の乗用車販売のシェアはマルチ・スズキが4割以上に対し、タタ自は1割強にとどまる。タタ自はEV市場に狙いを定めて商品を投入し、EV販売では足元で9割近いシェアを握るようになった。EV化を加速してマルチ・スズキを追い抜くうえでも、半導体の供給網確立は急務といえる」

     

    インドでは、マルチ・スズキの独走状態が続いているが、タタはEV化でマルチ・スズキを追い抜く戦略である。

     

    (4)「インドの半導体産業はなお発展途上にある。業界団体のインド電子半導体協会(IESA)などによると、同国の2026年の半導体市場規模は640億ドルと21年の2倍以上になる見通し。多くは設計などの一部工程にとどまり、自国で半導体の完成品を供給する体制にはほど遠い。そこで、グループとして大型投資に踏み切り、半導体事業を自ら立ち上げることを決めた。チャンドラセカラン氏は、「複数のプレーヤーと協議することになる」とし、外国企業を念頭に連携していく姿勢を示した。既に6月にはルネッサンスエレクトロニクスと半導体の設計や開発などで協業すると発表している」

     

    インドの半導体産業は揺籃期にある。多くは半導体設計などの一部工程に止まっている。タタは、平原にビルを建てるような事業に取り組む。

     

    (5)「インド政府も、中国などに後れをとってきた半導体産業の誘致や育成に本腰を入れている。21年12月には半導体や液晶生産で7600億ルピーの支援策を打ち出した。米中の覇権争いという地政学リスクも、インドは追い風とみる。米アップルは中国に集中するiPhone生産の一部を、インドなどに移し始めている。チャンドラセカラン氏は、「すべて(のメーカー)が最もコストの低い場所に集まるわけではなくなっている」とし、地政学リスクの高まりが企業の経営判断に影響を与えていると指摘した。インド政府やタタは、中国に代わる半導体産業の集積地としての地位確立を狙う。モディ首相は4月、半導体産業振興イベントで「新たな世界秩序がつくられようとしている。この機会をわれわれはつかまねばならない」とメッセージを寄せた」

     

    アップルは今後、インドで4~5割の製品を生産する意向を見せている。これまでの中国中心から脱却する計画だ。そうなると、インドでの半導体需要が高まるのは必至である。タタの狙い通りに、インドが中国に代わる半導体産業の集積地としての地位を確立できる可能性が生まれる。中国は、みすみす大きな成長チャンスを手放している感じだ。もったいないことである。

     

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