日本の財務省は、先端半導体企業ラピダスの将来性に懐疑的姿勢をみせてきたが、ラピダスの技術開発は予定以上のスピードで進んでいる。すでに、世界初となる「後工程」全自動化のテストプラント建設に着手しているほどだ。こうした技術的優位性を背景に、先端半導体の設計手法を共通化するという世界初の試みにも着手した。
ラピダスは、受注から納品までの期間を最短化することを営業方針にしている。それには、事前の設計手法の共通化が必要になる。すでに、ドイツのシーメンス・グループなど8社がラピダスの方針に賛同している。これは、ラピダス製品のユーザーなることを意味しているのだろう。
『日本経済新聞 電子版』(10月13日付)は、「半導体、設計手法共通に ラピダスなど協議 開発速度を向上」と題する記事を掲載した。
ラピダスやデンソーは、先端半導体の設計手法を共通にする方針だ。半導体の性能を高めるには多数の製品を組み合わせる必要がある。回路の配置などが同じ半導体を使うと工程が容易になり、開発スピードが速くなる。人工知能(AI)や自動運転の開発は半導体の性能が左右する。参加企業を増やして標準化し、日本の産業競争力の底上げにつなげる。
(1)「半導体の国際団体であるSEMIが協議会を立ち上げた。両社や設計ソフトウエア大手の図研、独シーメンス・グループなど8社が加わる。半導体メーカーだけでなく、設計に関わる複数の企業が連携することになる。国内企業が中心になって先端半導体の設計手法を共通化する動きは初めてとみられる。他社にも参加を呼びかける」
SEMIは、半導体製造等に関して国際的な産業の発展を目指す団体である。半導体関連のイベントやセミナーを世界各地で開催し、独自のコミュニティを築くなど、多様な活動行っている。世界の専門家130万人以上が在籍をし、企業も2000社以上が所属する自主団体である。このSEMIで、先端半導体の設計手法の共通化が具体化してきたことは、今後に大きな広がりが期待される。
(2)「半導体は同じ性能でも企業や製品ごとに設計が異なる。設計の基本的な考え方をそろえ、回路の配置や設計ソフトなどを共通化することを目指す。参加企業が増えれば設計手法が事実上、標準化されることになる。国内の素材や製造装置メーカーとも連携して最先端品にも対応できるようにしていく。半導体の性能を上げる技術は回路線幅を小さくして集積度を高める「微細化」が主流だった。AIなどの開発に使う最先端品の線幅は数ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで小さくなっており、限界が近づいているとされる。この結果、多数の半導体を組み合わせて性能を上げる技術の重要性が増しており、工程を簡単にするには回路の配置などが同じ製品を使う必要がある。設計手法を共通化すれば多種類の半導体を組み合わせることが容易になり、性能向上に向けた開発速度を速めることができる」
現在、世界で半導体の後工程技術が最も進んでいるとされ日本が、音頭をとって設計の共通化を進めることは、世界標準になることを意味している。新興ラピダスが、この面でリーダーシップをとることは、技術的裏付けがあるからこそ実現するものであろう。極めて興味深い動きである。
ラピダスが、SEMIで旗振りをはじめたことは、日本国内で半導体勃興へのシグナルになっている。10月8日、「全国半導体地域連携協議会」の第1回会合が都内で開催された。58の自治体や団体が参加した。同協議会は、半導体産業による地域経済の活性化を目的として前記のSEMIが2024年9月に設立したものだ。
『EE TIMES JAPAN』(10月8日付)は、「半導体産業で全国を連携、SEMI設立の協議会が初会合 58の自治体/団体が出席」と題する記事を掲載した。
同協議会は、半導体産業による地域経済の活性化を支援するためにSEMIが設立したもの。「半導体産業への投資による経済効果を、九州や北海道など一部の地域だけでなく全国に波及させるためには、地域を越えた連携と情報共有が有効になる」との考えから、設立に至った。
(3)「10月8日の第1回会合では、国内から58の自治体/団体がオンラインとオフラインで参加する中、経済産業省が半導体戦略や東北での半導体エコシステム形成について講演した他、SEMIジャパンが半導体市場予測などを紹介した。SEMIジャパンで代表取締役を務める浜島雅彦氏は、「生成AI(人工知能)の普及などにより半導体需要は増加の一途をたどっている。半導体工場への投資も活発で、2023年から2027年までの4年間で、世界で108の工場が新設、拡張される見込みだ。長年、半導体業界に従事しているが、こんな数は見たことがない」と述べ、半導体産業への投資が加速していることを強調。SEMIジャパンとして、全国の自治体と連携しながら業界を盛り上げていくと語った」
ラピダスに刺激されて、全国の自治体などが自主的に半導体を次世代の主要産業にする意図で参加していることは、大きな意味を持っている。まさに、日本列島が「半導体列島」になる前兆であろう。