勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

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    ドイツは、欧州経済安定の象徴として、多くの投資家が不動産を購入してきた。個人住宅相場は、2000年から2022年までに2倍へ跳ね上がるほどの人気を集めてきた。商業用不動産も1.5倍へと値上がりしたほど。だが今、ドイツ経済のエンジンは失速状態である。高金利・高エネルギー価格に阻まれての結果だ。

     

    『ロイター』(5月24日付)は、「ドイツ不動産市場、外国人が敬遠 経済の傷深まる恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    過去数十年で、ドイツの不動産市場は、最悪の状態に見舞われている。外国人が不動産取引を手控えており、ドイツ国経済の傷はさらに深まりそうだ。第1・四半期の商業用不動産購入に占める外国人の比率は35%と、2013年以降で最低へ落込んだ。販売額は20~21年の新型コロナウイルス流行時から70%も急減している。こうした中、ドイツは再び「欧州の病人」になったのかとの議論が巻き起こっている。

     

    (1)「ドイツが、欧州の病人と呼ばれたのは景気停滞と高失業率に悩まされていた1990年代後半。その後、ドイツは汚名返上に努めてきたが、ここにきてロシア産エネルギーとの決別、官僚主義の呪縛、極右の躍進などを背景に、再びこの呼び名が浮上してきた。国内有数の大手デベロッパーを経営するクルト・ツェヒ氏は、ロイターとのインタビューで、外国人投資家が市場に戻るまで厳しい状況が続くと予想」

     

    ドイツは、EU統合による共通通貨「ユーロ」がドイツ・マルクよりも割安に設定され、その恩恵を輸出増という形で享受してきた。その「魔法」が解けてしまったのだ。ロシアのウクライナ侵攻後の高金利と高エネルギー価格の結果である。これが、大きな圧力になった。

     

    (2)「ドイツの長年の不動産ブームを支えていたのは低金利、安価なエネルギー、好調な経済だった。不動産部門は国内経済におおむね年間7300億ユーロ(7935億1000万ドル)の貢献をしている。国内総生産(GDP)の約2割だ。だが、インフレの高進で欧州中央銀行(ECB)が急ピッチな利上げを迫られると、不動産ブームは終焉を迎えた。不動産融資は枯渇し、不動産取引が失速。プロジェクトが行き詰まり、大手デベロッパーが倒産し、一部の銀行も痛手を負った。業界団体は政府に介入を要請している。独ファンドブリーフ銀行協会(VDP)によると、第1・四半期の商業用不動産価格は前年同期比9.6%下落。23年通年では10.2%値下がりした」

     

    ドイツ経済へ吹いていた春風は、一挙に突風へと変わった。ドイツの不動産相場は、急激な冷え込みとなった。GDPの20%を占める不動産の沈滞は、ドイツ経済をゼロ成長へ追込んでいる。形の上では、中国不況と似通っている。

     

    (3)「INGのチーフエコノミスト、カールステン・ブルゼスキー氏は「ドイツはかつて欧州の安定の象徴で、多くの投資家が群れをなして不動産を購入していた」と指摘。だが「今、ドイツの経済エンジンは失速しており、メンテナンスが必要だ。もう投資家が望むような真新しい投資先ではない」と語った。BNPパリバによると、23年の商業用不動産購入に占める外国人の比率は37%で、10年ぶりの低水準。かつては外国人の取引が半分を占めていた。ドイツの不動産取引は、大半が商業用不動産で住宅販売の比率は低い

     

    外国人は、ドイツの商業用不動産投資で利益を上げてきた。個人住宅投機ではない。商業用不動産運用では、利回りが重視される。ドイツ経済のゼロ成長では、不動産利回りは低くて投資対象にはならない。これは、ドイツ経済にとって痛手だ。 

    (4)「高金利は世界的に不動産市場の重石になっているが、3月にフランスのカンヌで開催された業界の国際会議では、特に打撃を受けているのがドイツだとの声が相次いだ。カンヌでインタビューに応じたハインズのマネジングディレクター兼ファンドマネージャー、シモーネ・ポッツァート氏は「本当にムードが最悪なのはドイツだ」と発言。欧州系デベロッパーの別の幹部は匿名を条件に、人員をドイツから英国など、投資家の関心が高く早期回復が見込まれる市場に再配置する計画を明らかにした」

     

    欧州は、ドイツ不動産ではビジネスにならないとして、英国へ関心を向けているという。

     

    (5)「ドイツの経済モデルには疑問の声が投げかけられている。エネルギーコストの高騰、世界的な需要低迷、破壊的なネットゼロ経済へのシフト、中国との競争激化などが背景だ。ドイツ政府の経済諮問委員会(5賢人委員会)は先週、今年のGDP成長率予想を昨秋時点の0.7%から0.2%に下方修正。ショルツ首相は国内経済が「前例のない困難に直面している」と述べた」

     

    ドイツ社会は、強い保守的一面を持っている。「破壊的なネットゼロ経済へのシフト」と指摘されるなど、過去の生活スタイルに固執している。極右の躍進で、「ヒトラー礼賛」発言が飛び出すほどだ。日本の「右傾化」とは質が異なる。ドイツ極右は、前記の発言で欧州極右から除名されたほどだ。ドイツ経済の将来に不安を残す背景である。

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    ドイツの最大輸出国は中国である。米中対立によるデリスキング(リスク削減)は、ドイツ企業にとって「はた迷惑」なことに映っている様子である。ドイツと中国は、人権問題を除けば対立する要因はない。ただ、ロシアのウクライナ侵攻で、中国が煮え切らない姿勢をみせている点が不満の種という状態だ。こうして、西側諸国の対中直接投資(FDI)は、軒並み急減しているなかで、ドイツだけは別格の動きをしている。

     

    『フィナンシャルタイム』(4月14日付)は、「ドイツ、中国依存は『数十年』続く、シーメンス幹部強調」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツの製造業が中国依存度を低減するには「数十年」かかる――。機器・システム世界大手、独シーメンスのラルフ・トーマス最高財務責任者(CFO)はそう語り、欧米企業が直面する苦境と、市場・供給網の両面で中国に依存する実態を強調した。

     

    (1)「トーマス氏は、フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで「世界のバリューチェーンは過去50年の間に構築されたものだ。どれほどおめでたい見方をすれば、半年や1年以内に変えられると思うのか」と語った。「変えるには数十年を要する」とも述べた。トーマス氏の発言に先立ち、ドイツ経済研究所は報告書を公表した。同報告書は、独企業の中国リスクを縮小する「デリスキング」と、重要品目の輸入依存を減らす取り組みが2022年以降、遅々として進んでいないと論じた

     

    ドイツ経済研究所は、ドイツ企業の対中デリスキングが進んでいないと指摘している。中国企業が、中国撤退の意思がないことが理由である。

     

    (2)「中国は、ドイツ最大の貿易相手国だ。ドイツ統計局によると、両国間で輸出入された物品は23年、2540億ユーロ(約41兆6000億円)相当にのぼった。両国の関係はフォルクスワーゲンや化学大手BASFなどの大企業から「ミッテルシュタント」と呼ばれる中小企業に至るまで広がり、長きにわたってドイツ経済を支える柱であり、グローバル化の模範とみなされてきた」

     

    ドイツ企業が、中国へ深く根を下ろした背景には、ドイツのメルケル首相(当時)が、4期16年も在任したことも影響している。ドイツは、東西ドイツの統一経験があり、メルケル氏が旧東ドイツ出身でロシアや中国へ親近感を持っていたことは確かだ。こういう政治的な土壌によって、ドイツと中国は「肝胆相照らす」仲になったのだろう。

     

    (3)「その関係は今や、多くの投資家と政治家に弱点ととらえられている。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は23年、中国への過度な依存のため、ドイツの「ビジネスモデルは危険にさらされている」と警告した。ドイツのベーアボック外相は23年7月、同国企業に中国への依存度引き下げを求めた」

     

    ドイツ連邦銀行は、ドイツ企業の親中ビジネスへ警告を出しているほど。ただ、過去のドイツ企業の対中投資では、ドイツ政府の保証がついている。これを考えれば、ドイツ企業の将来リスクはかなり軽減される。これが、ドイツ企業を「大胆」にさせている理由でもあろう。

     

    (4)「シーメンスは、かつて自社の中国事業を擁護し、中国市場でシェア拡大を目指す意向を表明していた。同社の経営幹部から冒頭の発言が飛び出したタイミングは、ちょうど独ショルツ首相が中国に到着した14日だった。ショルツ氏の訪中には、シーメンスの最高経営責任者(CEO)やBASFの取締役会新会長といった企業トップが同行している。あるドイツ政府関係者は、「政府が(中国との貿易縮小を求めていると)考えるのは大きな間違いだ。我々はデリスキング(リスク低減)と分散化の必要性を認識したうえで、中国との貿易をいっそう拡大したいと考えている」と述べた。「危険なほどの中国依存に関しては(改善の)取り組みが必要だ。我々は関係を断ちたいわけではないが、バランスの取れたパートナーシップを望んでいる」と言う」

     

    ドイツは、連合政権である。「緑の党」は、反中の色彩が濃いので対中警戒論である。他の政党は必ずしもそうではないので、ドイツ政府が一枚岩になって対中警戒姿勢を取らない理由だろう。

    (5)「ドイツのキール世界経済研究所は10日公表したリポートの中で、電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)などの国内企業に中国政府が支給している補助金が経済協力開発機構(OECD)加盟国の3〜9倍にのぼると試算しているシーメンスのトーマス氏は「(中国市場に)参加しないわけにはいかない」というのが同社の結論だと述べた。同氏はさらに、中国で台頭してきた挑戦的な地元企業との競争は「難しい課題」だと述べ「中国のキッチンの暑さに耐えられれば、他の場所でも成功できる」と説明した」

     

    ドイツ企業は、中国政府が支給する手厚い補助金に魅力を感じている。中国が、OECD加盟国の3~9倍もの補助金を支給しているからだ。ドイツ企業は、中国を信頼しきっている様子である。

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    今年の新車販売台数でトヨタは連続3年、世界一になる公算が強くなった。トヨタも依然、半導体不足が続いているので、全ての需要を満たせない状況という。余裕を残しての世界一と言えそうだ。

     

    『日本経済新聞』(12月27日付)は、「トヨタ、3年連続世界一へ 22年新車販売台数 中国でVWと明暗」と題する記事を掲載した。

     

    トヨタ自動車の2022年の世界新車販売が3年連続で世界首位になる見通しとなった。トヨタが26日に発表した1~11月の世界販売台数は前年同期比横ばいの956万台だった。独フォルクスワーゲン(VW、9%減の742万台)を214万台上回った。主力市場の中国や東南アジアでの販売増が全体を押し上げた。一方、半導体不足などに端を発する世界的な生産停滞は続いており、需要をすべてまかなえない状態が依然リスクとなっている。

     

    (1)「ダイハツ工業と日野自動車を含む、トヨタグループ全体の11月単月の世界販売は88万台と前年同月比で4%伸びた。一方、VWは9%増の67万台だった。トヨタを逆転して首位に立つには22年の月間平均販売の3倍を超える台数が12月だけで必要になる計算だ。トヨタ単体(トヨタ・レクサスブランド)だけでもVWを上回りそうだ。1~11月でけん引したのは中国や東南アジアだ。トヨタ単体の中国での販売は2%増だった。「カローラ」や「カムリ」といった車種が好調だったほか、夏に工場の生産能力を増強し、新型コロナウイルス禍の落ち込みから回復し始めた旺盛な需要を取り込んだ。東南アジアでは多目的スポーツ車(SUV)などが好調で、インドネシア(1割増)やタイ(2割増)などで販売を伸ばした」

     

    1~11月までの実績で、トヨタがVWを引離して世界一位になることは確実な情勢である。トヨタは、半導体手当でよりスムースに行っていることもプラスになっている。もちろん、車の質が評価されている。米国では、耐久性で断トツの強みを発揮している。

     

    (2)「VWは中国で6%減と苦戦し、その他のアジア太平洋地域でも6%増にとどまった。中国でのロックダウン(都市封鎖)により、部品供給や海上輸送の混乱が響いた。独北部ウォルフスブルクの本社工場の稼働にも影響し、販売台数が大きく落ち込んだ。VWの新車販売の4割、トヨタでも2割を占める中国市場が明暗を分けた。中国市場への進出でトヨタは後発だ。このため、トヨタの中国での1~11月の販売台数はVWと比べて4割少ない。事業規模が小さい分、半導体不足やロックダウンの影響を相対的に抑えられたとみられる」

     

    中国でも、トヨタはホンダと並んで下取り価格で高いことが注目されている。このことが、ユーザーを繋ぎ止めているのであろう。

     

    (3)「22年の中国新車市場については、中国汽車工業協会が21年を上回ると予測。一方で、新型コロナウイルスの封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策緩和前は、自動車各社は販売店の営業が一部でできず、生産調整も実施した。12月の生産・販売ではトヨタとVWの双方に影響がでるとみられ、1月以降も新型コロナ感染拡大が需要に影響する可能性が懸念されている」

     

    中国は、「ゼロコロナ」から一足飛びに「ウイズコロナ」になって、生産・流通で大混乱に陥っている。この影響は、少なくも来年1~3月まで続く見通しである。これが、トヨタとVWにどのような結果をもたらすか、である。

     

    (4)「トヨタも中国以外の主力市場では苦戦した。北米と日本ともに1割減だった。半導体を多く使う高性能車種の供給が滞ったことが原因だ。VWもお膝元の西欧地域で7%減だった。9月に就任したVWのオリバー・ブルーメ社長は「供給不足は例外ではなく、もはや自動車産業のルールとなりつつある」と語る。成長領域とされる電気自動車(EV)ではVWが先を行く。1~9月に前年同期比25%増の約36万台を販売した。トヨタは11月までで2万台弱にすぎない。トヨタは本格量産EVの「BZ4X」が不具合によりリコール(回収・無償修理)に追い込まれるなど、思うような成果が出せていない」

     

    トヨタは、EVで苦戦している。「BZ4X」がリコールに追込まれたからだ。トヨタにしては珍しい失敗である。ただ、トヨタのことだ。これを教訓にして再出発するであろう。

     

    (5)「トヨタは23年3月期に世界で970万台を生産する計画を掲げていたが、11月に50万台下方修正した。前期実績(857万台)や過去最高だった17年3月期(907万台)を上回る高水準だが、半導体不足によって計画通りに造れない混乱がなお続いている。

    足元では改善の兆しもある。トヨタの11月の世界生産は1%増の83万台と11月として過去最高だった。ある部品会社幹部は「半導体不足は最悪期を脱した」と語る。生産が正常化すれば、世界で積み上がっている受注残が解消され、長引く納期問題の改善にもつながる」

     

    下線部のように、半導体不足で納車遅れが続いている。半導体供給が増えれば、受注残は販売増となる。

     

    (6)「調査会社の米S&Pグローバルによると、23年の世界新車(乗用車系)販売台数は前年比6%増の約8360万台の見通しだ。半導体不足は緩和されるものの、早くても24年までは影響が残るという。供給網全体で部品を安定調達できるかが問われる局面は続きそうだ」

     

    23年は、世界新車が前年比で6%増が見込めるという。ただ、中国のコロナに伴う大混乱を折り込んでいないであろうから、割引しておうべきだ。

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