EU、「衝撃」相互関税、4年間で120兆円の損失見込み ドイツGDP「同1.5%押し下げ」
-
- カテゴリ:
- EU経済ニュース時評
- ドイツ経済ニュース
昨年のドイツ名目GDPは、日本を抜いて世界3位になったものの実態はふらついている。円の異常安が生んだGDP3位交代であったことが、ますます明確になっている。
ドイツの欧州経済研究センター(ZEW)が、17日発表した9月の先行指数は3.6と、8月の19.2から急低下した。エコノミスト予想では、17への小幅な低下が見込まれていた。これほどの大幅悪化を予想したエコノミストは1人もいなかった。一致指数もマイナス84.5へ低下した。
『ブルームバーグ』(9月17日付)は、「ドイツの景気見通しは『著しく悪化』、ZEW先行指数が急低下」と題する記事を掲載した。
(1)「ZEWのバンバッハ所長は発表文で、「景気の早期改善への期待は目に見えて薄れつつある」と述べ、「ユーロ圏景気見通しの後退は悲観的な見方が総じて強まっていることを示唆するが、ドイツの見通しは著しく悪化している」と指摘した。ドイツの4ー6月(第2四半期)国内総生産(GDP)はマイナス。工業界の不振が影響した。ここ最近は、自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)が国内工場の閉鎖検討や雇用保障協定の破棄を明らかにしたほか、BMWは業績予想の下方修正を強いられるなど、厳しいニュースが相次いでいる」
ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇で製造業が窮地に立たされている。景気の半年から1年先を示す先行指数が、たったのプラス3.6では、10月はマイナス転落が不可避だろう。一致指数は、すでにマイナスである。ドイツ経済は正直正銘の危機状態にある。
『ブルームバーグ』(9月6日付)は、「ドイツ激震、VW工場閉鎖は『氷山の一角』 工業力衰退の象徴に」と題する記事を掲載した。
ドイツ最大のメーカー(VW)が工場閉鎖という引き返せない「ルビコン川」を渡ろうとしていることで、ドイツは工業力衰退という物語の中で最も象徴的な瞬間に直面している。VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。
(2)「VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東西ドイツの統一が急がれたが、文化や経済面での格差は残った。9月1日に投開票された独東部2州の州議会選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。東西の分断を浮き彫りにしているAfDや左派ポピュリストの勢いを止める力は、主流派の政党にはない」
旧東ドイツの2州は、景気が停滞しており極右政党が州議会選で躍進している。不況期の極右政党の進出は、旧ナチスを連想させるだけに不気味である。
(3)「AfDの台頭は、ショルツ首相の連立政権にとって痛手となるだけではない。2025年の総選挙が迫る中で有権者が抱く不満の根本原因に向き合うよう迫っている。そうした中で多くを左右するのが、輸出主導の自動車製造大国から、半導体やEVバッテリーといった先端を行くクリーンエネルギー大国への速やかな移行という新たな経済の奇跡をドイツが成し遂げられるかどうかだ」
かつての自動車大国ドイツが、VWの工場閉鎖問題が象徴するように、行き詰まっている。日本は、トヨタが世界一の座を堅守してくれている。ありがたいことだ。
(4)「VWの失速は、時代に乗り遅れた企業を巡る警告であり、ドイツの成功モデルに潜んでいた陥穽(かんせい)だ。欧州経済の原動力となってきたドイツが、今後も欧州をリードし続けることができるのか疑問に疑問が投げかけられている。INGのマクロ部門責任者カルステン・ブルゼスキ氏は「VWの問題は誤った経営判断による自業自得という側面もあるが、VWはビジネス拠点としてのドイツが直面している難題の一例を突き付けている」と指摘。ドイツは長年にわたり競争力を失い続けており、これがかつての独経済の至宝、VWにも影響を及ぼしている」と述べた」
VWの失速は、EV(電気自動車)へ賭けすぎたことだ。EVが、未だ技術的に完成していないことに気付かず勝負した結果である。トヨタの判断とは、全く異なっていた。経営判断の失敗である。
(5)「VWは昨年、東部の中規模都市ツウィッカウでフルEV247000台と、「ランボルギーニ」と「ベントレー」向けに1万2000の車体を生産したが、工場閉鎖の可能性が浮上する前から、コスト削減がすでに進んでいた。EVが依然として高価でEV購入を促す奨励策が縮小されつつあり、欧州でのEVの普及がなかなか進まないという状況にツウィッカウ工場は全面的にさらされている。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミスト、マーティン・アデマー氏は、「ドイツ経済における自動車産業の重要性は近年低下しているが、引き続き非常に重要なセクターであることに変わりはない」と語った」
自動車産業は、雇用の受け皿である。工場閉鎖は、大変な失業者を生む。
リチウム電池の設備抑制
EU高関税がEVへ壁に
企業へ補助金を出す理由
過剰投資が生産性引下げ
中国国家主席の習近平氏にとって、まことに都合の悪い事態が起こってきた。不動産バブル崩壊の後遺症を処理する財政支出拡大を行わない一方で、「三種の神器」であるEV(電気自動車)・電池・ソーラーパネルの三製品の輸出急増構想が行き詰まったからだ。これで、習氏の描いた「中国式経済成長」は崩れた訳で、収拾策をどうするのか最終段階を迎えた。
習近平氏は、一貫して財政赤字拡大を忌避してきた。財政には、経済全体を調整する機能が備わっている。政治と密接な関係を深めているのだ。財政運営が成功することは、政治も成功したというシグナルになるので、習氏は不動産バブル崩壊に伴う財政赤字拡大を忌避したかったに違いない。政治の「良いところ取り」を狙って、失敗部分を切り捨てたかったのだ。
習氏は、インフラ投資や企業への補助金を湯水のごとく支出させてきた。いわゆる「過剰投資」である。これによって、毎年のGDPを押上げる効果を期待できたので、迷うことはなかった。この「補助金漬け」が、中国経済に「過剰投資」をもたらした。過剰投資は、必然的に「過剰能力」を生むので企業は低い操業度になる。これによって、中国経済は生産性を引上げられない宿命的な欠陥を抱えることになった。
長い目で見ると、低い生産性が低いGDP成長率になる。習氏は、これをかさ上げさせるべく、さらにインフラ投資と企業補助金を給付してきた。こうして繰返される過剰投資が、中国経済を蝕んでおり、慢性的な低生産性の事態へ追込んでいる。IMF(国際通貨基金)は、2026年から3%台成長へ落込むと危惧している。29年には3.31%まで低下するとみている。これは、24年4月時点の予測である。中国は、あがいてもどうにもならない局面へ向っている。経済は、思惑を離れてセオリー通りに動くのである。
リチウム電池の設備抑制
中国工業情報化省は6月19日、リチウムイオン電池産業に関する新たなガイドライン(指針)を発表した。生産能力の拡大を抑制し、技術革新、製品の品質向上、生産コスト低減を促す、とした。しかも、実施は20日からである。慌ただしい決定だ。
発表によると、農地や環境保護地区でのリチウムイオン電池製造は、停止または大幅に縮小される。これは、リチウムの精製過程で多量の二酸化炭素を排出して環境を破壊するからだ。先進国が、リチウム精錬を取り止めた理由は環境負荷問題にあった。中国は、こういうマイナスに目をつぶって、「経済成長」目的で突進した。今、ようやくその負担の大きさに気付かされたのだろう。
工業情報化省はまた、リチウム電池のサプライチェーンにおける生産能力の急速な拡大と低操業度が、電池や原材料などの価格を急落させると指摘している。中国電池業界は、CATL(寧徳時代新能源科技)とBYD(比亜迪)2社の寡占体制ができあがり、飽くなき価格引下げ競争を行っている。23年の世界シェアは、CATLが36.8%、BYDは15.8%である。こういう状況下での値下げ競争は、国内弱小電池メーカーの生存自体を脅かしている。中国政府が、設備投資競争を止めたのは当然であろう。
同省は、「リチウム電池産業の計画や新規プロジェクトの立ち上げは、資源分野の発展、生態系保護、省エネルギーに沿ったものでなければならないと」指摘している。中国が、リチウム電池の増設にストップを掛けたのは、自然破壊と密接な関係を持っている。だが、これだけが設備抑制の理由ではない。電池を搭載するEV輸出に陰りが出たことだ。もはや、従来通りの輸出が不可能と判断した証拠であろう。
EU高関税がEVへ壁に
EU(欧州連合)は、7月から中国製EVへ最大48.1%の関税率を課すことになった。これでは、中国製電池が他国よりも2割程度、割安とされるメリットが吹飛ぶのだ。到底、5割近い高関税率を乗り越える見通しが立たなくなったのであろう。このほか、EUのEV需要が落ちている。24年のEV需要は、昨年よりも10%減が確実となった。中国EV輸出の壁が、それだけ高くなるのだ。
米国は、中国製EVへ100%の超高関税率を課すとしている。米国は、EUの2倍もの高関税率である。EUへのEV輸出が抑制されれば、米国は「ゼロ」同然となろう。
中国のソーラーパネルは、世界市場を「食い尽くした」感じである。それでも、EU市場への進出意欲を見せている。最近、ルーマニア政府が、実施した太陽光発電所の建設プロジェクトの競争入札から、応札していた中国企業2社が撤退した。EUの政策執行機関であるEU委員会が、これらの中国企業に対して不公正な補助金の有無に関する調査を進めていたことが影響したとみられる。(つづく)
この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。
https://www.mag2.com/m/0001684526
北海道が世界先端地域へ
太陽光コスト原発へ接近
水素へ価格差調整を実施
EUが水素技術で相乗り
政府は6月4日、「金融・資産運用特区」として東京・大阪・福岡・札幌の4都市を指定した。規制緩和によって、個人の金融資産を投資に向かわせ、「成長と分配の好循環」の実現を図るという主旨だ。この中で、札幌市が、北海道とともに指定されたのは、異色という感じである。狙いは、日本経済の将来を左右するグリーンエネルギー産業振興である。北海道・札幌が、選ばれたのはそれだけ大きな意味を持っている。
北海道は、太陽光発電と風力発電で日本最大の適地である。陸上風力では日本全体の約半分の適地があるのだ。すでに、米国のインベナジーは、今後10年間で、北海道における再生可能エネルギー(再エネ)関連開発に2000億円以上の投資計画を明らかにしている。北海道が、内外資本から再エネ産業の有望地域として脚光を浴びているのだ。
北海道は、苫小牧や室蘭を中心として工業地帯が形成されている。道内でつくられる再エネは今年2月、これら地域での工業用水素発電に使われる企業間協定が発表された。出光興産・ENEOS・北海道電力3社による事業計画で、国産グリーン水素サプライチェーンを立ち上げる。
具体的には、2030年頃までに苫小牧西部エリアにおいて、国内最大となる年間1万トン以上のグリーン水素を製造できる水電解プラントを建設する。製造したグリーン水素は、出光興産および地域の工場などにパイプラインで供給する計画だ。こうした、事業計画の発表は、日本グリーン水素に「水素時代」が到来しつつあることを告げている。
北海道が世界先端地域へ
グリーン水素は、二酸化炭素を排出しないのでクリーンエネルギーである。水素を製造するには、こうした再エネによって水電解プラントを稼働させる方法と、もう一つ小型原子力の「高温ガス炉」を使う方法がある。高温ガス炉による水素製造実証試験は、日本が今年2月世界で初めて成功した。30年以降の実用化に向けて、三菱重工業が高温ガス炉の製造を行うことに決まった。
日本は、このように「地産地消型」の再エネを使う水素製造と、高温ガス炉による水素製造の二つが、ワンセットになってグリーンエネルギー時代を牽引する。グリーンエネルギーが普及するためには、先ず水素需要をつくり出すことが大前提になる。
そこで、大きな意味を持つのは、今回の北海道GX(グリーントランスフォーメーション)特区によって、普及への地ならしが必要性であることだ。北海道は、明治維新の開拓に次ぐ「第二の開拓」と言われるほど期待が高まっている。札幌市は、GX投資を最大40兆円呼び込む戦略を展開する。7月から、関連企業の申請を受け付ける準備も始めた。担当する局を新たに設けるなど全力投球の構えだ。
北海道の工業は、苫小牧や室蘭の北海道西部地域に偏っている。製造業の北海道経済に占めるウエイトは、全国水準に比べ2分の1と低く、主力は食品工業である。高度成長時代とは一変した。こうした事情から、再エネ消費は限定されている。そこで、有り余る電力を貯蔵する蓄電池設備が不可欠になる。ここに先ず、ビジネスチャンスが生まれるのだ。
蓄電池設備では、道内でエネルギー企業や総合商社が太陽光や風力による発電量の変動を吸収する、系統用蓄電池事業に相次いで参入している。蓄電池設備が完備していれば、大量の再エネは、余剰が出ても蓄電設備で溜められるので安定的な操業が可能だ。再エネは、天候や夜間によって発電が中断する。平均的な稼働率は、20%とされている。これだけ変動の大きい電源を使いこなすには、蓄電池設備が不可欠である。
中国や韓国では、再エネの電力が余剰を来して捨てている事例も出ている。「もったいない」話であり、蓄電池設備が整っていれば、こうした電力ロスを防げるのだ。日本では、絶対に引き起してはならないケースである。
系統用蓄電池とは、送電線と蓄電池を直接つないで充放電する蓄電池を指す。北海道では再エネの豊富さを背景に、系統用蓄電池を送電線に接続したいと検討するケースが急増している。北海道電力の送配電会社、北海道電力ネットワーク(札幌市)への申し込みは、検討中も含めて2024年3月末時点で827万キロワットと全国の約2割を占め、23年5月末時点と比べて3倍弱に増えた。『日本経済新聞』(6月7日付)が報じた。蓄電池設備は、再エネのインフラなのだ。
北海道では、約560万キロワット分の再エネが送電網に接続済みである。北海道の最大需要電力は、約500万キロワットだ。供給が、すでに需要を上回っている。接続の申し込み済みや検討中の計画は、1600万キロワットを超すとされる。すべて実現すれば、合計2200万キロワットに達する。道内需要の4倍を超える再エネが生まれるのだ。こうして、蓄電池設備のほかに電力調整市場が不可欠になっている。(つづく)
この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。
https://www.mag2.com/m/0001684526