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ロシアの主要輸出品である原油は、G7の上限設定価格60ドル(1バレル)を大幅に下回る42~45ドルというディスカウント価格で取引されている。国際指標の北海ブレント原油は現在1バレル82ドルだ。実に45%もの値引きである。ロシア財政は、これによって圧迫されることは不可避である。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(12月28日付)は、「ロシア産原油インドへ G7価格上限内・西側保険で」と題する記事を掲載した。

 

ロシア産原油が西側諸国の保険会社と契約しているタンカーにより、インドに向けて運ばれている。ロシア政府は主要7カ国(G7)が定めた価格上限の下での原油取引は遮断するとしたが、それに反する最初の動きだ。

 

(1)「ロシアのプーチン大統領はG7の価格上限に従う国には原油を輸出しないとしているが、フィナンシャル・タイムズ(FT)が出荷・保険記録を調べたところ、価格上限が導入された5日以降、西側と保険契約している少なくとも7隻のタンカーにロシア産原油が積み込まれたことがわかった。この7隻が、西側の保険会社と契約していることも確認できた。価格上限措置により、ロシア産原油の買い手は1バレル60ドル以下の価格であることを証明しないと、海上輸送による国際原油取引を支える西側の保険や仲介などのサービスを利用できない」

 

プーチン大統領は27日、ロシア産原油の輸入価格に上限を設けた国に対し、2023年2月~7月まで原油輸出を禁止する大統領令に署名した。主要7カ国(G7)などが、長期化するロシアによるウクライナ侵攻への打撃を目指す措置への対抗措置である。

 

(2)「タンカー7隻は合計約500万バレルの原油を積み、ロシアのバルト海沿岸の港から出航した。行き先はインドの精製施設と記載されている。ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月以降、インドはロシア産原油の最大級の買い手となっている。出荷記録によると、原油の一部はインドで製油事業を手掛けるリライアンスとバーラト・ペトロリアムが買い手とみられるが、両社ともコメントの要請に返答しなかった。G7による価格上限の設定は、供給不足を回避するためにロシア産原油の市場への流入を保ちつつ、1バレル60ドル以下とすることでロシアの歳入を細らせることが狙いだ

 

価格上限制の狙いは、ロシアのウクライナ侵攻の財源を絶つことが目的である。できるだけ、ロシア産原油価格を引下げて、歳入を減らさせることにある。

 

(3)「プーチン氏は、すでにロシア産原油の大部分が1バレル60ドルかそれ以下で取引されていることを認めており、「西側諸国が示した上限は現在の売値の範囲内だ」と語っている。ある西側当局者は、開始直後から「有望な」兆候が表れており、価格上限はおおむね期待していた効果を生んでいると語る。別の西側当局者は12月5日以降、価格上限の範囲内でFTが突き止めたのとほぼ同じ件数の取引を確認できていると話し、買い手側が上限の枠組みに慣れるにつれて量は増すとの見方を示した」

 

上限価格は、1バレル=60ドルである。EU(欧州連合)は、これ以下の取引価格でなければ海上保険契約を結ばせないという「規定」をつくっている。海上保険契約のつかない貨物輸送は、危険極まりないことで事実上は不可能だ。これを避けるべく、ロシアは闇タンカーを用意している。

 

(4)「現時点で価格上限の対象は原油のみだが、2023年2月からガソリンや軽油などの石油製品にも同様の枠組みが適用される。ロシアは、西側の制限をすり抜けるためにタンカー約100隻の「影の船団」を組織した。貿易業者や海運仲立業者の間では、それでも輸出量を維持するには足りないとみられている。ウクライナ侵攻を受けて西側の多くの買い手が敬遠するようになって以降、ロシア産原油は大きく割り引いた価格で取引されている。価格上限措置の開始に加え、海上輸送されるロシア産原油を欧州の大半の精製業者が購入することを禁じられた12月5日以降は、さらに値引きされている」

 

ロシアは、原油を輸出しなければ外貨収入が減るだけに、抜け穴探しに必死である。そこで「闇タンカー」が登場する。海上保険契約をかけないタンカーである。国際航路では、無保険輸送は御法度であるだけに、「闇タンカー」が活動できる余地はあるのか疑問視されている。

 

(5)「調査会社アーガス・メディアによると、欧州向けの代表的な油種「ウラル」は現在、1バレル42~45ドルほどで取引されている。国際指標の北海ブレント原油は1バレル82ドルだ。ケプラー、アーガス両社のデータによると、価格上限導入後11日間の時点で海上輸送によるロシアの原油輸出は減少している。ケプラーのアナリスト、マシュー・ライト氏は「価格上限導入後の1週目でやや下向き、2週目に入ってかなり弱まったようだ。とはいえ、中期的な影響についてはっきり結論を下すには時期尚早だ」と話す。世界最大の独立系石油商社ビトルは11月、十分な数のタンカーを確保できなければ、ロシアの海上輸送による原油輸出は日量100万バレル減少するとの見通しを示した。約2割の減少に相当する

 

ロシア産原油のカギは、チャーターできるタンカーの数による。輸出で、日量で約2割の減少(100万バレル)が見込めるという。しかも、価格は1バレル42~45ドルと大幅ディスカウントである。ロシアにとっては、踏んだり蹴ったりの状況だ。