中国の習近平国家主席は、22年12月にサウジアラビアを訪問して「習近平外交」を行なったが、肝心の点で大きな見誤りを冒した。中国が、サウジアラビアからの原油決済で人民元建を提案し断られたのである。さらに、サウジアラビアとの共同声明で、イランの核開発に対する反対を具体的に明記するなど、イランを刺激したことだ。「習外交」が、アラブで成果を上げなかったことは確実。中国の国際感覚の鈍さを示したのである。
『朝鮮日報』(12月31日付)は、「空振りに終わった『人民元建て原油決済』と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)朝鮮日報東北アジア研究所長である。
2022年12月上旬、サウジアラビアで開かれた中国・アラブ諸国首脳会議の基調演説で、中東産原油・天然ガスの輸入を大幅に増やす計画を表明し、「人民元建ての原油決済を推進する」と述べました。米ドル覇権の基盤であるドル建ての石油売買代金に挑戦状を突きつけた格好です。世界中のメディアがこの発言を大きく取り上げました。会議が終わってみると、中国の公式メディアはこの問題への言及をあえて避けるムードです。習主席のサウジアラビア訪問についてまとめた新華社の報道は異例の簡潔さで、人民元決済問題には一切言及しませんでした。
(1)「中国外務省のウェブサイトに掲載された中国・アラブ諸国首脳会議の共同声明からその理由が分かりました。共同声明には18項目の合意事項を盛り込みましたが、人民元建ての原油決済に関する内容はありませんでした。力強く人民元建ての原油決済を提案したものの、見事に断られた格好です。習主席は今回のサウジ訪問にかなり力を入れました。米国とサウジ間の関係がぎくしゃくするすきを狙い、中東地域に影響力を拡大するためでした。中国は今回の訪問中にサウジと総額500億ドル規模に達する投資協定を結びました」
中国は世界第2位の経済大国だが、国際決済通貨として使われる人民元の割合は2.37%で、世界5位(2022年11月現在)に過ぎない。日本は4位だ。サウジアラビアが、世界の基軸通貨の米ドルを捨てて、ローカルカレンシーの人民元に乗り換えるはずがない。ここら当たりに、中国の外交的な錯覚が見られる。
(2)「中国はさらに、伝統的な友好国であるイランまで犠牲にしました。共同声明はイランの核開発に対する反対を具体的に明記し、イランとアラブ首長国連邦による3つの島をめぐる領土紛争の平和的解決も強調しましたが、いずれもイランにとって敏感な内容でした。立腹したイランが中国の駐イラン大使を召喚して抗議する事態に発展しました」
イランは、ロシアへウクライナ侵攻で支援している国だ。イランは、中ロ枢軸に連なる「身内」になる。中国は、サウジに人民元取引で背を向けられ、身内のイランまで怒らせた。習近平外交は、さんざんな結果に終わったのだ。
(3)「中国がここまで人民元建て原油決済にこだわるのは、国際決済通貨として人民元が一段階飛躍するきっかけになるからです。サウジアラビアは中国の最大の原油輸入先です。サウジアラビアの石油輸出の27%、化学製品の輸出の25%を中国が占めています。中国はウクライナ戦争以降、ロシアから輸入する原油は人民元で決済しています。国際社会の対ロシア制裁に乗じて人民元の活用範囲を広げたのです。ロシアは、中国にとってサウジアラビアに次ぐ2位の原油輸入先です。これに1位のサウジアラビアが加われば、人民元の国際化に弾みがつくことになるでしょう」
米中デカップリングが進む中で、世界は中ロ枢軸と一線が引かれ始めている。中立的立場の発展途上国は、米中対立が西側諸国vs中ロ枢軸となって置き換わって来たことに注目している。このように地政学の世界地図は、塗り変わっていることに気づくべきだろう。発展途上国は、本能的に戦争を忌避している。戦争によって、食糧などの基礎物資が不足し高騰するからだ。この痛ましいまでの現実を忘れて、「戦争」に明け暮れていたのでは世界で孤立する運命だろう。
(4)「サウジアラビアが中国の提案を断ったのは、当然に思えます。中東の地政学的状況を見れば、サウジが米国に背を向けることは不可能です。イスラム教スンニ派の王政国家サウジは、シーア派の盟主であるイランとは犬猿の仲です。石油の人民元建て決済が持つ国際政治上の意味をサウジが知らないはずはないでしょう。中国との経済協力も重要ですが、ともすれば中東地域の安保体制を揺るがしかねない冒険をする理由はないでしょう。米国はサウジアラビアをはじめ、今回の首脳会議に出席した湾岸協力会議(GCC)6カ国(サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、オマーン)にとって心強い安全保障の後ろ盾です」
米国は現在、人権問題でサウジとギクシャクしている関係にある。だが、そのサウジに米軍が駐留していることを忘れてはならない。安全保障を米国に依存しながら、米国の対立国と手を結べる筈がないのだ。韓国文政権が、中国へなびいていても最後は米韓同盟の原点へ引き戻されることと事情は同じだ。