かつて西側諸国は、草木もなびく勢いで中国へ工場進出した。現在は、いかに中国から脱出するかが焦点になっている。地政学リスクが大きくなった結果だ。この点で、韓国のサムスンはその模範例という報道が出てきた。中国のスマホ工場は、すでにベトナムとインドへ移転済み。現地のスマホ需要の盛り上がりで、「供給=需要」が完結しているというのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月8日付)は、「『脱中国』はサムスンに学べ、メーカーの成功例」と題する記事を掲載した。
「デリスキング(リスクの低減)」は、西側政府の対中戦略を表す最新の流行語だ。「デカップリング(切り離し)」ほど大げさな表現ではないが、基本的な考え方に大きな違いはなく、主要テクノロジー製品を中心に製造において中国への依存度を下げることを指す。地政学と商業上のニーズに押され、製造の中国離れはさらに勢いを増しそうだ。
(1)「テクノロジー業界で「メード・イン・チャイナ」現象の恩恵を最も享受しているように見える米アップルでさえ、サプライヤーに対して、インドなどへの移転をこれまで以上に積極的に働き掛け始めている。ただ中国内の製造拠点を一部でも移転させるには、現実には気が遠くなるようなさまざまな問題がある。幸運なことに、大手ハイテク企業が中国から製造部門の大半を首尾よく移転させた顕著な例が少なくとも一つある。スマートフォン分野でアップルと競い合う韓国の世界的な電子機器メーカー、サムスン電子だ」
アップルは、サプライヤーに対して脱中国を猛烈に働きかけている。ほとんどのサプライヤーは、インド・ベトナムへの進出を余儀なくされているほどだ。
(2)「サムスンは、今もメモリー半導体事業向けを含め中国でかなりの事業を行っているが、従業員数で見ると、何年も前から中国と徐々に距離を取っている。サムスンの2014年のサステナビリティー報告書によると、13年には中国に6万人を超える従業員がいたが、21年には1万8000人以下に減少した。サムスンは19年に同社にとって中国最後のスマホ工場を閉鎖した。他のアジアの国の人件費の安さは大きな魅力だ」
サムスンは、19年に同社最後の中国でのスマホ工場を閉鎖した。中国で、猛烈なスピードでスマホ企業が増えた結果だ。サムスンは、過当競争を避けてインドやベトナムへ移転した。これが、大成功であった。
(3)「サムスンの場合は、おそらく地政学的な要因も重要だったはずだ。16年から17年にかけて、米国のミサイル防衛レーダーシステムの韓国配備計画を巡り中韓間で外交上の大論争が起きた。中国は近年、ますます多くの国に対して強制的な経済戦術を用いているが、このときも韓国の複合企業体ロッテグループが所有する中国スーパーマーケット事業の売却を事実上強制し、韓国への観光客数を抑制した。その結果、アップルなどの大手メーカーが現在、ベトナムとインドを調査しているのに対し、サムスンは既に両国に進出している」
韓国は、「THAAD」(超高高度ミサイル網)設置をめぐる中国政府の韓国制裁を見て、中国の「戦狼外交」の本質を見抜いたのであろう。躊躇なく、中国からの脱出を決断した。サムスンは、その決断の良さを褒められるべきだ。
(4)「中国の規模を他国で再現することの難しさを考えると、既に両国に進出しているサムスンは競争上、大きな優位を握る可能性がある。サムスンは現在、ベトナムにとって最大の外国投資家だ。昨年のベトナムの総輸出のうちサムスンは5分の1近くを占めた。同社はインドにも多額の投資を行っている。モルガン・スタンレーによると、サムスンのスマホ生産に占めるインドの割合は約2割から3割に上る」
サムスンは、ベトナムへ集中的に投資している。インドへも投資を増やしている。
(5)「サムスンは、インドや東南アジアで最も売れているブランドだ。つまり製造した場所で多くの製品を売ることができるということだ。高級スマホが中心で製品の価格が高いアップルは、特に価格に敏感なインドではなかなかそのような成果を挙げることはできないかもしれない。スマホ事業の移転を成功させたサムスンの例は示唆に富む。サムスンの場合は先行者利益も大きく、製品構成もアジアの低所得国に適している。他のメーカーは少なくとも部分的にはサムスンの例に倣おうとするだろう。ただ、アップルなど多くの大手メーカーにとって、中国はしばらくの間、世界的なサプライチェーン(供給網)において大きな位置を占めるだろう」
サムスンにとって、ベトナムやインドは供給基地であると同時に重要なマーケットでもある。これが、うまくかみ合っていることで、業績を伸ばす要因になっている。ただ、アップルもインドへ生産基地を移す努力を行っている。いずれ、インドを舞台にしてサムスンとアップルが火花を散らすことになろう。