中国は、隣国パキスタンに「一帯一路」工事をさせたが、当のパキスタンが過剰債務を背負いデフォルト危機に直面している。万策つきたパキスタンは、ムニール陸軍参謀長が1月上旬、1週間かけてサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問するほど窮迫している。ムニール氏は、債務不履行(デフォルト)に陥る事態を回避しようと、湾岸諸国に資金支援を求めることが目的だったと専門家らはみている。軍トップの「経済外交」はパキスタン政府が直面する危機を示唆していると関心を集めている。
『朝鮮日報』(1月22日付)は、「パキスタンのグワダル港で行き詰まる中国の巨大経済圏構想」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。
習近平国家主席の最大の業績に挙げられる一帯一路が、パキスタンでもめ事を引き起こしています。友邦パキスタンに数百億ドル(100億ドル=約1兆2800億円)を投資して確保した、インド洋北部のグワダル港。ここで昨年10月から大規模な住民デモが続き、工事は事実上中断された状態だといいます。
(1)「中国は2015年、パキスタングワダル港に162億ドル(約2兆800億円)を投じて南アジアを代表する国際港湾として開発し、43年間直接運用することでパキスタンと合意しました。ここから出発して、北東へ3000キロ離れた中国・新疆ウイグル自治区のウルムチまで、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を構築するという大規模プロジェクトの一環でした。中国はこのプロジェクトの成功のためパキスタンに巨額の借款を提供し、習近平主席や李克強首相が直接訪問するなど、ことのほか力を入れていました。
中国は、明らかにパキスタンを利用してCPECを建設させている。そのために、パキスタンが莫大な債務を抱えてデフォルト危機に直面しているのだ。本来ならば、受益者の中国が資金負担すべき工事である。
(2)「CPECは事実上、一帯一路を代表するプロジェクトだと言えます。中国の立場からすると、米中衝突で南シナ海が封鎖されても中東産の原油や天然ガスを引き続き持ってくることができる、戦略的ルートだと言えます。中国の空母機動部隊がこの港に入れば、インドを軍事的にけん制することも可能になるでしょう。中国はグワダル港の建設と、中国につながる道路、鉄道、送油およびガスパイプラインの構築のため、2030年までに総額620億ドル(約7兆9500億円)を投じる計画を立てています」
中国は、2030年までに総額7兆9500億円もの投資をする計画である。中国自身が多額の資金を投下するので資金的余裕がなく、パキスタンの面倒まで見られないのであろう。だからと言って、パキスタンを巻き添えにするのは無慈悲なことだ。
(3)「中国が2016年、正式に港湾の運営に入った後から、この地域では分離主義勢力のテロや住民のデモが絶えません。彼らにとって、中国のパキスタン政府支援とCPECプロジェクトはありがたいことではありません。ここでは2017年から、中国企業が建設したホテルに対する武装攻撃、駐パキスタン中国大使を狙った爆弾テロ、カラチ大学孔子学院バス自爆テロ事件などが相次いで起きています。パキスタン政府は3000人の軍兵力を投入して中国人保護に乗り出しましたが、テロは絶えません。パキスタン当局は2020年、グワダル港地域の中国人保護のため周囲に総延長20キロのフェンスを設置しましたが、これにより現地住民まで立ち上がりました」
グワダル港地域は、パキスタンからの分離主義勢力が強く、「反中国」で抵抗しテロ事件まで起こっている。中国としては、最悪の地域へ手を出してしまったことになる。こうなると、投下した資金は稼働せず、中国も大きな損害を被っている。資金回収できない点では、パキスタンも中国もおなじ被害だ。
『日本経済新聞 電子版』(1月17日付)は、「財政危機のパキスタン、軍トップが湾岸行脚し支援要請」と題する記事を掲載した。
パキスタンのムニール陸軍参謀長は1月上旬、1週間かけてサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。表向きの訪問理由は軍事関係の強化だが、実際には資金支援についても協議したとされている。ある治安当局の高官は匿名を条件に「他の差し迫る問題と同様に、サウジのパキスタンへの融資見込みに関しても議論された」と語った。
(4)「パキスタン中央銀行が保有する外貨準備高が45億ドル(約5800億円)にまで縮小するなか、パキスタンは今後3カ月間で約83億ドルの融資返済に直面している。サウジの現地メディアは10日、同国がパキスタン中央銀行への預金を30億ドルから50億ドルに増やすほか、最大100億ドルの対パキスタン投資も検討していると伝えた。これらの取引におけるムニール氏の役割は明らかにされていないが、専門家によるとパキスタン政府は同国で最も強力な政治的地位にあるムニール氏を派遣することで事態の緊急性を強調する狙いがあるとしている」
パキスタンは、手薄になった外貨準備高を緊急に補強しなければならない。中国へ支援要請しても「無駄」と見られている。中国に経済的余裕がないからだ。